千冬さんはラスボスか   作:もけ

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最初は仕方ないんです……という言い訳。
大筋は変わりませんが、ちょっとずつ改編されて行くと思うので、しばらくお待ちください。



やっぱり、ありきたりな学園初日

「これは想像以上にキツイ」

 

 IS学園に入学した僕は今教室にいるわけなんだけど、ISは基本女性にしか動かせない。

 

 そして僕は唯一の男性操縦者。

 

 つまり女子高に一人だけ放り込まれた状態なのだ。

 

「(なのだって、我ながらやけくそだな)」

 

 悪友は「ハーレムじゃねえか。それなんてエロゲだよ」と羨ましがっていたけど、これじゃあ針のむしろだよ。

 

 代われるものなら喜んで席を譲らせていただきたい。

 

 と言うか、誰か代わってください。

 

 お願いします。

 

 リアルに背中に刺さる視線が痛いんだよ。

 

 僕は救いを求めるように窓際の生徒に何度目かの視線を送る。

 

 見間違いじゃないと思うんだけど、窓際の席に座っている黒髪ポニーテールのキリっとした女の子は彼女が引っ越してしまう小学四年生まで付き合いのあった篠ノ之箒ちゃん……のはず。

 

 でも視線が合う度、そっぽを向かれてしまう。

 

 六年も経ってるから忘れちゃったのかな?

 

 嫌われる様な事はしていないと思うんだけど……。

 

 そんな生き地獄に耐えているとようやく教師が入ってきた。

 

「皆さん、入学おめでとう。私は副担任の山田真耶です」

 

 ちょっと低めな身長、十代にしか見えない童顔に眼鏡がよく似合う優しい感じのする先生……なんだけど、えっと、それよりもですね、これは男の性(さが)というか、どうしても目が行ってしまうんだけど、胸がですね、大変大きいです。

 

 こういう時は何て言うんだっけ……ありがとうございます? ご馳走様? いや、僕だって思春期真っ只中の男子高校生、見るなって方が無理ですよ。

 

「……くん……斑く……」

 

 姉さんはプロポーション良くて胸も大きいけど、確実にそれ以上だよね。

 

 目のやり場に困るな。

 

「織斑一夏くんっ!!」

「は、はいっ!?」

 

 思いのほか夢中になっていたみたいで呼ばれていたことに全然気づかなかった。

 

「あの~~大声出しちゃってごめんなさい。でも『あ』から始まって今『お』なんだよね。自己紹介してくれるかな? ダメかな?」

 

 胸を寄せるように強調しながら困った感じの可愛らしい笑顔を向けてくる。

 

 狙ってやってます?

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても……」

 

 動揺を顔に出さないように気を落ち着かせてから立ち上がる。

 

「え、え~~と、織斑一夏です。男性唯一の操縦者ということで珍しいかもしれませんが、稼働時間はやっとこそさ十時間といった所で、勉強もまだ始めたばかりで分からないことだらけなので色々教えてくれると嬉しいです」

 

 うわぁ~~、なんかみんなの見る目が獲物を見る目に見える。

 

 まさに蛇に睨まれた蛙状態。

 

 しかも「もっと続けろ」という無言の圧力を感じる。

 

 何か話題、話題……やっぱりIS関連が良いのかな。

 

「えっと、名字から分かるかと思いますが姉は織斑千冬です。ブリュンヒルデの呼び名はみんなの方がよく知ってると思いますが、そんなのは関係なしにしても僕にとって自慢の姉さんで――――――」

 

 ポコン、ふいに頭を何か固いもので軽く叩かれた。

 

 驚いて振り返ると、

 

「何を恥ずかしことを言っている」

 

「えっ!? 姉さん?」

 

 そこにはスーツを隙なく着こなし出来る女という印象をしたカッコイイ姉さんがいた。

 

「ここでは織斑先生と呼べ」

 

 予想外の事態に混乱する。

 

 え? 姉さんが教師?

 

 確かに職業不詳で、何度聞いてもはぐらかされていたけど……。

 

 でも、そういえば納得する部分もある。

 

 入学前の話、だからあんなに事情に詳しかったのか。

 

「諸君、私が担任の織斑千冬だ。君たち新人を――――――」

 

 姉さんの軍隊の鬼教官みたいな挨拶に対して教室が黄色い歓声で埋め尽くされるのを見ながら、これから三年間は一緒の時間が増えるかななんて考えていた。

 

 HRが終わった休み時間、

 

「ちょっといいか」

 

 さっきまで僕を無視し続けていた箒ちゃんが話しかけてきた。

 

 やっぱり箒ちゃんは箒ちゃんだったんだね。

 

 ん? でもこれって素直に喜んでいいのか、無視されたことを悲しめばいいのか……。

 

 まぁ、とりあえず、

 

「そうだね、外で話そうか」

 

 人目を避けて屋上に出る。

 

 誘ってくれたんだから何か話があると思うんだけど、黙り込んだまま視線も向けてくれない箒ちゃん。

 

 次の授業まで時間もあまりないし、こっちから切り出そうかな。

 

「久しぶり、箒ちゃん。六年振りだね」

「う、うむ」

 

 固い表情で言葉少なに応じる箒ちゃん。

 

 緊張してるのか、不機嫌なのか、その辺の見分けはちょっと難しい。

 

「ポニーテールとリボン、昔と変わってないからすぐに箒ちゃんだって分かったよ」

「そ、そうか、よくも覚えているものだな」

 

 良かった。

 

 やっと笑ってくれた。

 

 うん、この調子でちょっと冗談でも混ぜてみよう。

 

「でも箒ちゃんは覚えていてくれなかったみたいだね」

「なっ!? そ、そんなことないぞっ!!」

「でも教室で目が合っても無視されたよ?」

「うっ……それは……」

「いじめ?」

「そんなことはしないっ!!」

「じゃあ、なんで?」

「うぅぅぅぅ……」

 

 箒ちゃんが顔を赤くしながら言いにくそうにモジモジしていると、助けるかのようにチャイムが鳴り教室に戻ることになった。

 

 久しぶりに会った幼馴染はコミュニケーションを取るのが苦手みたいだけど、素直な反応が可愛くて好印象でした、マルっと。

 

「では、ここまでで質問のある人?」

 

 一時間目の授業、入学前に渡された電話帳みたいな参考書を一通り読んできたおかげで何とか付いて行けそうだ。

 

 でもIS学園に入るような女の子たちは小学校からISについて勉強しているので付け焼刃の僕とは知識面で雲泥の差がある。

 

「織斑くん、何かありますか?」

 

 真耶先生が優しく聞いてきてくれる。

 

 ここは見栄を張らずに甘えることにしよう。

 

「今の範囲はまだ何とか大丈夫ですけど、みんなの足を引っ張らないためにも後で質問や補講をお願いしてもいいですか?」

「大丈夫ですよ。任せてください。なにせ私は先生ですから」

 

 授業以外にも色々仕事があって忙しいだろうに何の躊躇も見せずに快く引き受けてくれる真耶先生の優しさに自然と口元がほころぶ。

 

 決して、胸を張った事でさらに強調された胸が、ドンと叩かれた事で揺れている事にニヤけたわけではない。

 

「ありがとうございます。”真耶”先生」

「はうあっ!?」

 

 突然真耶先生が奇声を上げて顔を赤くしている。

 

 姉さんが額に手を当てて「またか」みたいな顔してるけど、僕なにか変な事言ったかな?

 

 それにしても真耶先生と教室で二人っきりとか緊張しちゃうだろうなぁ。

 

 同年代みたいな可愛い顔してるのに巨乳でしかも先生だなんて……。

 

 弾(中学時代の悪友)に話したら何て言われることやら。

 

 弾たちとこっそり開いたビデオ鑑賞会のネタ、そのまんまだもんね。

 

 でも姉さんと二人っきりも良いなぁ。

 

 キリっとして教師してる姉さんはひたすらにカッコイイ。

 

 うちにいる時の優しい姉さんも好きだけど、カッコイイ姉さんもいい。

 

 今度写真撮らせてもらおう。

 

「なんだ? 織斑。だらしない顔して」

 

 おっと、無意識に姉さんを見つめていたみたいだ。

 

「姉さ、織斑先生に見惚れてました」

 

 ポコン、出席簿で軽く叩かれる。

 

「ふん、おだてても何も出んぞ」

 

 そう言った姉さんは満更でもないみたいな顔をしていた。

 

「ちょっと、よろしくて」

 

 休み時間に入ってすぐ声をかけられた。

 

 見上げるとそこには

 

「…………お姫様だ」

 

 気品を感じさせる雰囲気、縦ロールの綺麗な金髪ロングヘア、吸い込まれるような碧眼、陶器のような白い肌、均整のとれたプロポーション、おとぎ話の世界から飛び出てきたようなお姫様がいた。

 

「はぁ? 何を言ってますの?」

 

 思わず口から出てしまったみたいだ。

 

「え、えっと、ごめん。お姫様みたいに綺麗だったからつい……。セシリア・オルコットさんだよね? イギリス代表候補生の。何か用かな」

 

「あら、ふふふ、なかなか気の利いたことを言うのですね。それにイギリスの代表候補生であり、主席で入学したわたくしの名前をちゃんと押さえている。まぁ当然と言えば当然ですけど、なかなか殊勝な心掛けですわ。世界初の男性IS操縦者がどんな方かと思いましたが、とりあえず最低ラインはクリアしているようですわね」

 

 ISについて調べた時、代表候補生についても載ってた人はチェックしといたんだよね。

 

 それにしても尊大な口調が似合う人だな。

 

 確か、同い年なのに貴族の当主様なんだよね。

 

 必要に迫られてな部分もあるのかな?

 

 僕も『世界で唯一』なんて周りからプレッシャーをかけられてるけど、ある意味僕なんかよりずっと重たくて現実的なものを背負ってるんだろうな。

 

 そういう目で見ると、あの態度は自分を守るための鎧なのかもしれない。

 

 想像もできないくらい頑張ってる人なんだろうな。

 

「先ほどISの実技と座学に自信がないようなことを自己紹介で仰っていましたが、貴方が頭を下げて頼むというのでしたらエリートであるわたくしが個人的に教えてあげてもよろしくってよ」

 

 胸を張ったり手を広げたりとオーバーリアクションが目立つ彼女だけど、言い終わる瞬間、ドキッとするような魅力的な流し目で見られてしまった。

 

 凄い威力だ。

 

 顔赤くなってないよね?

 

「ほ、本当? 代表候補生の人に教えてもらえるなんて凄く助か――――――」

 

 バンッ!! 突然机を叩く大きな音がして、驚いて音のした方に顔を向けると

 

「一夏っ!! おまえはっ」

 

 犯人は窓際最前列の箒ちゃんでした。

 

 「どうしたの」と聞こうとしたけど、その前にチャイムが鳴ってしまい、その場はうやむやになってしまった。

 

 箒ちゃん、怒ってたみたいだけどどうしたんだろう?




千冬さんの叩き方が優しい件についてw
今話はそのくらいですね。
箒の活躍は次話、セシリアは……もうちょっと先ですね。
移転はさせませんが、にじファンに書いてた『宇宙への夢』というISのもう一つのSSでは、セシリアとの試合で『どっちが奴隷になるか』なんて賭けをしましたが(もちろん一夏圧勝)本作では普通です。
ちなみに『宇宙への夢』ではヒロインが束さんと助手のくーちゃんで、入学前に一夏と恋人になり、肉体関係を結びます。
反省も後悔もしていないw
と言うか、それが出だしであり、根幹だったので。
あぁ、そういえば今作の一夏のISはあっちの作品とのミックスにしようと思っています。
ではでは。

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