千冬さんはラスボスか 作:もけ
レゾナンスのイメージは、お台場のヴィーナスフォートとディズニーリゾートのイクスピアリを足して割ったような感じです。
まぁ、そんな描写はないわけですが……。
時刻は12時30分。
改札を出て周りを見回す。
予定通りまだ鈴は来ていない。
約束の時間までまだ30分あるが、初めてのデートで女の子を待たせると言う失敗は無事回避できたようだ。
ここは駅に隣接している大型ショッピングモール『レゾナンス』。
映画、カラオケ、ボーリング、ビリヤード、ダーツ、ゲームセンターまである総合アミューズメント施設も併設されていて、定番のデートスポットだ。
今日は鈴の計画したデートプランで1日遊ぶ予定になっている。
ちなみに僕の服装は下から皮製の茶色のショートブーツにカーキ色の細身のパンツ、ベルトは真鍮製のボタンで装飾された白で、インナーはVネックの黒、上着に胸上で白に切り替わっている赤のライダースジャケットを羽織っている。
一応、変装の意味も込めて下半フレームの伊達眼鏡も着用。
自意識過剰かもしれないが、顔が売れているのは事実なので用心に越したことはない。
ちなみにキュクロープスの待機状態は艶消しされた黒い金属製のアンクレットで、日の目を見ることはない。
ISの待機状態は常に身に着けていられる物と言う事で装飾品である事が多いが、古武術の技を出すのに邪魔にならない物はなんだろうと束さんと話し合った結果、足輪なら問題ないだろうと言う事でこの形に決まった。
指輪は殴った際にこちらの指が心配だし、手首の自由は重要なのでブレスレット等は不可。
首回りは敵の攻撃を回避した際に引っかけられる危険があり、男の耳にイヤーカフスなど目立ちすぎるため「これが待機状態のISですよ」と宣伝している様なもので防犯上大変よろしくない。
二の腕に腕輪でも良かったのだが、服を着る際の利便性と、より違和感のない方という事でこうなった。
男のアンクレット、しかも金属と言うのも十分違和感があると思うが、まぁ単に見えないから気にならないのだ。
海にでも行けば違うのだろうが、それはそれでシチュエーション的にオシャレで通るだろう。
さておき、鈴と今日回るコースや、次のデートで鈴にどんな服を着てもらい、自分はどう合わせるかなんて桃色な思考に浸かっていると、
「あなた、可愛い顔してるわね。ちょっと付き合いなさいよ」
突然目の前に来た女性に声をかけられた。
相手は20代後半で細身、髪は明るめの茶色に染めてウェーブの効いたロングヘア、服装や装飾品から少々ブランド志向に偏った「私、オシャレに気を使ってます」と全身でアピールしているかの様な女性だった。
目鼻立ちは化粧のせいかハッキリしていて美人の部類に入るが、何と言うか「ご時世ですね」と言うか、男を見下している雰囲気がにじみ出ている。
騒がれるのも困るが、そうか、変装しているとこういう弊害があったか。
正直、普通だったらため息の一つでは済まない程にこの状況はマズイ。
「せっかくのお誘いですが、連れの女の子を待ってますので」
女の子の所を強調して、何とかやり過ごそうとするが、
「はぁ? なに口答えしてんのよ。男だったら素直に「はいはい」従ってりゃいいのよ」
こちらの人権すら無視した態度が返って来る。
だが、これは今の日本では別段珍しい光景と言う事でもない。
女尊男卑の価値観に首どころか頭の先まで浸かり、男性を家畜か何かのように扱う女性。
「ISは女性にしか操縦できないのだから女性の方が偉い」という弱肉強食そのままの価値観自体に疑問はあるが、自然の摂理だと言われればまだ納得もできる。
しかし、それはISを操縦できる女性に限って適応されることであって、それ以外の女性まで優遇されるのは明らかに道理に反する。
そして、この手の手合いは後者の可能性がなぜか高い。
ちなみにこういう輩は同性の女性からも嫌われている。
イジメを実際に行う人間より、それを周りで見ている人間の方が圧倒的に多い様に、他人を積極的に害するという行動は心理的抵抗が強いのだ。
しかも自分の家族までその標的にされる危険があるなら尚更だろう。
「なに、ぼっとしてんのよ。さっさと行くわよ」
問答無用でこちらの腕を取り、強引に引っ張って行こうとする女性。
「離してください」
せっかく鈴を待たせないために早く来た言うのに連れて行かれては堪らない。
腕を捻って弾く。
「ちょっと、いい度胸じゃない。いいのかしら? 警察呼んじゃうわよ」
携帯を取り出し嫌らしく唇を歪ませて笑うその態度に、自分の思考が冷えて行くのを感じた。
と同時に、こういう状況になった場合に使う様言われていた手段を思い出す。
せっかくの初デートだと言うのに、このままでは鈴にまで嫌な気分を味わせてしまう。
それは鈴のためにも自分のためにも絶対に避けたい。
自分の中の優先順位が目の前の女性に対する罪悪感を抑え込む。
「この手段は正直取りたくないんですが、僕にも譲れないモノがあります。貴女には自業自得と言う事で後で死ぬほど後悔してもらいましょう。そこの警備の人、来てください」
遠くからこちらの様子を窺っていた警備員を呼びつける。
改札前と言う事もあって、そこそこ注目を浴びていたのだが、僕の対応に周囲から「こいつ正気かっ!?」と言う目が向けられる。
まぁ普通の反応だと思う。
なぜなら今の日本は、女性が訴えたというだけで有罪になってしまう冤罪事件が横行している世界なのだから。
周囲の視線が集まる中、警備員が来る。
「ふふん、後悔するのはどっちかしらね。謝ってももう遅いわよ」
と件の女性が勝ち誇っているが気にしない。
「何かありましたか?」
と警備員が呼んだ僕ではなく女性の方に声をかけたのも重ねて気にしない。
さて、気は進まないけど、やるならさっさと終わらそう。
眼鏡を外し、ポケットから取り出した生徒手帳を開いて、見せつけるように突き出す。
「僕はIS学園一年織斑一夏です。その女性を恐喝と傷害の現行犯で拘束してください」
今まであったざわめきが一瞬にして凍りつく。
「早くしてください。僕に手を出した時点で国家反逆罪レベルの重罪に相当するんですよ」
「は、はいっ!!」
警備員が慌てて女性を拘束する。
「警察に引き渡す際も必ず僕の名前を出してください。後で確認して手抜きがあった場合、責任問題にしますから気を付けてください」
女性はまだ状況が呑み込めず、されるがままになっている。
その間抜け面に顔を近付け、耳元で囁く。
「これから貴方がどうなるか分かりますか? 僕が口を利かない限り一生牢屋暮らしですよ。しかも普通の懲役刑ではなく危険人物として陽の全く当たらない地下の一室で、面会もなく、差し入れもなく、ただ出された食事を食べるだけの日々を送るんです」
教えられていた脅し文句を思い出しながら、つっかえない様にゆっくりと言葉にする。
それが逆に効果的だったのか、女性の顔色が理解が追い付くに従って青から白へと変わっていく。
「でも仕方がないですよね? だってこれは貴女が今までしてきた事なんですから。自業自得、因果応報です。まぁ、考えようによっては働かないで三食食べれる生活が保障されてるわけですから、むしろ喜ぶべきかもしれませんよ? じゃあ二度と会う事もないと思いますが、この後の人生せいぜい楽しんでください」
恐怖と絶望から頬を涙で濡らし、許しを請おうにも歯の根が合わない女性を一瞥だけして、
「連れて行ってください」
無慈悲にも連行させる。
途中で何やら泣きわめく声が聞こえた気がするが、気にしない。
携帯電話を取り出し、学園と、入学する前に警備を担当してくれていた公安の担当者の人に一報を入れておく。
さっきのやり取りは、その公安の人に教えてもらった非常手段だ。
ちなみに、多分だけど今もどこかからこちらを監視していると思う。
IS学園に在籍しているとは言っても、僕はれっきとした日本人でここは日本だ。
取り扱いは難しいし微妙な所だけど、動かないわけにはいかないらしい。
世界で唯一と言う肩書は僕の予想以上に重い意味を持つのだとか。
さておき、これで心置きなくデートに臨める――――――
とは、いかない。
一部始終を見ていた周囲の視線だ。
さすがにこのままってわけにもいかないだろう。
変な噂を立てられても困るし。
ただ聞かれてもいない事を不特定多数に対してベラベラと話し始めると言うのも難しいものがある。
と言うわけで自分の中の折衷案として、逆に質問してみることにした。
聞く体勢を作らせるために、手をパンパンと叩いて気を引き、
「さっきのやり取りで、聞きたい事がある人は集まってもらえれば時間の許す範囲で質問に応じますよ?」
と周囲に呼びかけてみる。
最初は「どうする」「でも」と言ったざわめきが広がるだけだったが、一人が足を踏み出すと釣られて数人が動き、結局はその場にいた全員、中学生くらいから大学生、新社会人くらいまでの男女で構成された不思議な集まりが完成した。
「じゃあ、何から聞きたいですか?」
「はい」
「どうぞ」
なぜか律儀に挙手をした中学生くらいの女の子。
「あの、本当に織斑一夏さんなんですか?」
「うん、さすがにここでISを展開させるわけにもいかないけど、生徒手帳でいいなら、ほら」
再度、生徒手帳を取り出して見せてあげる。
「ホントだ……あ、あの、握手してもらってもいいですか」
「え、あ、うん、はい」
学園で好奇な視線で見られる事はあっても、さすがにこんなアイドル紛いの扱いは初めてで気恥ずかしいものがある。
「ありがとうございます。後で友達に自慢します」
「そ、そう。ありがとう、でいいのかな? あ、他にありますか」
「はい」
「どうぞ」
だからなんで挙手制なんでしょう?
しかも相手が年上だとこっちがやりにくいです。
「さっき国家反逆罪って言ってたけど、マジで?」
「あくまでそれに相当する扱いを受けるって話ですけど、警備に当たってくれた警察の方からはそう聞いてます」
「じゃあ、さっきの女」
「あ、でも大丈夫ですよ。実際に殺されそうになったり怪我したわけでもないので、こういうケースが起きた場合は二、三日反省させるくらいだって言ってましたから。事情は監視カメラか何かで見てると思いますし」
そう言って視線を駅の監視カメラに向けると、みんなも釣られてそちらに顔を向ける。
事情を知らない人が見たら異様な光景なんだろうな。
「おまえ、監視されてんの?」
「身の安全には変えられないですからね」
見られる事には、さすがに慣れた。
それに直接黒服の集団に囲まれてるよりずっと楽だし。
「ネットとかで『ハーレム野郎』とか『どこのエロゲだよ』とか言われてるけど、何て言うか大変なんだな」
「『自由? 何それ美味しいの?』って感じですね」
何だか大学生風のお兄さんに酷く同情されてしまった。
場に微妙な空気が流れた所で、待ち人来る。
「一夏?」
「あ、鈴」
「この状況は何?」
「あ~~、不可抗力?」
みんなの視線が僕と鈴の間で行ったり来たりする中、鈴も周りに訝しむ視線を送る。
「知り合いって訳じゃないわよね?」
「そうだね」
「あ、あの」
「……あんたは?」
最初に握手を求めてきた子が、みんなの代表者の様な形で鈴に声をかける。
「あ、私は田辺幸子って言います。中学二年、14歳です。それで、あの、もし良かったらなんですが、織斑さんとどういったご関係なのか教えてもらいたいなって」
田辺さんが周りに視線を送るとみんなも「うんうん」と頷く。
何か妙な連帯感が出来てるな。
「状況がイマイチ分からないし、何であんた達にそんな事教えてやらなきゃいけないのか分からないけど、まぁいいわ。アタシは一夏の幼馴染よ」
「彼女さんではないんですか?」
「違うわ」
と即答してから、獰猛とも挑戦的とも言える笑みを浮かべて、
「まだ、ね」
と爆弾発言を付け加えた。
その強気な態度に「おぉ~~」とか「キャーー」とか歓声が上がる。
「ちょっと、鈴」
「いいじゃない、一夏。これからデートするんだし」
「そうだけど」
「ほら、映画の時間もあるし行くわよ」
そう言うと鈴は見せつける様に僕の腕を取り、周囲を置き去りにして引っ張って行った。
後日、週刊誌に『世界唯一の男性IS操縦者、中国の代表候補生とラブラブデート。意中の相手は幼馴染』と言う記事が載ることになるが、それはまた別の話。
最初こそ引きずられる様にして歩いていた僕だけど、さすがに人混みをそれでは歩きにくいので、すぐに歩幅を合わせて鈴の横に付く。
そうすると、その、何と言うか、普通に腕を組んで歩いているカップルみたいで……。
そこでふと店頭にある姿見に映る自分たちが目に入る。
自然と立ち止まる二人。
そして鏡の中で目が合う。
いつもならここで照れて離れるシチュエーションのはずだけど、今回は違った。
僕の腕にかかっている鈴の手に力が入り、よりいっそう体が密着される。
一緒なのはその行為でさらに顔が赤くなってるって事か……。
「鈴」
「な、なに?」
「その服、ちょっと大人っぽいけどよく似合ってるね。モデルみたい」
今日の鈴のコーディネートは、焦げ茶のショートブーツとショートパンツの間を黒のニーハイソックスで引き締め、上は白のタンクトップに透かし編みをミックスしたフード付きのゆったりしたベージュのニットを着ている。
主張の激しい絶対領域と、ニットの網目から覗く肌が眩しい。
大人の、とは言わないけど魅力たっぷりな感じだ。
「そ、そういう事は最初に言いなさいよ」
「ご、ごめん」
「でも…………ありがと」
照れた鈴の笑顔を見ると「あぁ、デートに来たんだな」と言う実感が湧いてくる。
「一夏もいつもと雰囲気違っててカッコイイわよ? 眼鏡も似合ってるし」
「そう? 良かった」
比較的大人しめな服装を選びがちな僕に弾と数馬(中学時代のもう一人の悪友)が冒険させようと一緒に選んでくれたコーディネートで、割と気に入っている。
「じゃあ、行こうか」
映画館は、ショップやレストランを抜けた先にあるので少し距離があるけど、事前にダウンロードしてある前売り券の時間まではまだ30分あるので余裕がある。
後でお茶するカフェやショップの目星をつけながら奥へ進む。
今日見る映画は『その先に』というタイトルの恋愛映画だ。
普通に暮らしていた女の子に高いIS適正が見つかり、幼馴染の男の子に支えられながら国家代表を目指すというもの。
普段はアクションやSFを見る事の多い僕達だけど、今日はデートを意識してこれをチョイスした。
休日という事もあって映画館はほぼ満員だったけど、座席指定券なので問題なし。
しかも割増料金の中央のいい席なので、文句もなしだ。
定番のポップコーンは雰囲気的に憚られたのでジュースだけ買ってシートに座る。
さぁ、楽しもう。
場所は変わって、カフェテリア。
目の前には季節のフルーツタルトとティラミス、紅茶がポットで2つ並んでいる。
その上で交わされるのは、もちろんさっき見た映画の話。
「なかなか見ごたえあったわね」
「うん、あのISバトルは凄かった」
「あれ、マジバトルだったわよ」
「映画でも実弾使うんだね」
「あれには少し驚いたわ。しかも主役の子、本物の代表候補生の子だし、国家代表まで出てたし」
「専用機出しちゃって良かったのかね?」
「あれだけのクオリティなら、うっかり教材に使えそうじゃない?」
「分かる」
こんな感じで、ティータイムは映画の感想で盛り上がった。
しかし、二人の心の中では同じ疑問が。
映画は確かに面白かった。
面白かったけど――――――
僕達が見たのってアクション映画だったっけ?
そう、確かに感動のラストシーンで気持ちの通じ合った二人がキスをしてエンドロールだったのだけど、その前にあったラストバトルの無駄に高いクオリティに興奮してしまい、その辺をサラっとスルーしてしまったのだ。
これもIS乗りの悲しい性。
まぁでも会話は弾んでるしOK……なのかな?
カフェを出たら、次の予定はショッピング。
なんだけど、でもその前に確認しておかないといけない事が。
「ねぇ、鈴」
「なに?」
「中学の時にみんなでディ○○ーランドに行ったの覚えてる?」
「もちろんよっ!! あの時の悔しさは忘れないわ。後ちょっとで全アトラクション制覇できたのにっ」
あ~~、確かにあの時の帰りもそんな風にワナワナしてたよね。
「ということは、今回も?」
「と~~ぜん、全アトラクション制覇を目指して行くわよっ!!」
予想通りの反応に思わずため息が出る。
「ちゃんと回る順番も考えてあるんだから。まずは」
「鈴」
「ん、なによ」
「ガッツリ遊ぶのもいいけど、デートって趣旨忘れてない?」
「うっ」
ディ○○ーで朝から晩まで遊び続けるのは予想よりずっと過酷だ。
人気アトラクションの待ち時間は一時間を優に越え、園内も広く、基本的に立ちっぱなしで歩きっぱなし。
しかも屋外にいる時間がほとんどになるので、天気と気温によっては倒れる人もいるくらいだ。
人混みのストレスも相当だろう。
そんなわけで、遊びに方に合った服装選びは欠かせない。
「エネルギー全開の鈴も鈴らしくていいんだけど、ワンピースとか着て落ち着いた感じの鈴も見てみたいな~~なんて思ってるんだけど」
「ワ、ワンピースでハシャいじゃ……ダメ?」
反則の上目使いで抵抗を試みる鈴。
「いいけど、ワンピースにスニーカー合わせるの?」
サンダルで一日歩き回るのは大変でしょ?
「うぅぅぅぅ」
鈴はこういうイベントは全力で遊ぶ性質だ。
でも今回は遊びに行くにしてもデート。
鈴の中でもカップルっぽい事がしたいという気持ちがあるのか、そのまま悩み続ける。
このまま待ってるのもなんだし、そろそろ助け舟でも出そうかな。
「鈴」
「ちょ、ちょっと待って。もう少し」
「何もこれが最初で最後ってわけじゃないからね?」
「えっ?」
余程びっくりしたのか目と口が真ん丸だ。
「鈴さえ良ければ、また行こうよ」
「い、いいの?」
「うん、だから最初はどうしたい?」
言われた言葉が染み込むにつれ、鈴の顔に笑顔が広がっていく。
そして、
「一夏ーーーー♪」
抱きつかれた。
というか、飛びつかれた。
後ろに倒れそうになるが、体を回転させて勢いを逃がすと小柄な鈴が一緒に振り回される。
そのままクルクルっと2回転して、元の場所にストンと着地。
「じゃあ、最初は下調べも兼ねてのんびり回るわ」
そして向けられる向日葵の様な笑顔。
「うん、そうしよ」
これさえ見られれば僕は満足だ。
方針が決まったところで、コーディネートを話し合いながら店を見て回った。
19時半。
買い物も終わり、本日最後の予定となるディナー。
夕飯時という事もあってどこの店にも列ができているけど、予約を入れておいたので問題なし。
事前準備って大切だよね。
お店は変に背伸びせずに、オムライスの専門店にした。
種類が30種類くらいある。
僕はオーソドックスにデミグラスソースでハンバーグが乗ってるヤツにしたけど、鈴は中華と聞いたら食べなければいけない縛りでもあるのか中華風あんかけオムライスを注文。
「どう、鈴?」
「うん、悪くないわ」
美味しいとは言わないんだね。
「こっちのは美味しいよ」
定番は万人に高評価だからこそ定番なのだ。
創作料理とか、無理に頑張る必要を僕はあまり感じない。
「一夏、こっちの味見したい?」
「え、うん」
「じゃあ、あ~~ん」
スプーンが差し出される。
鈴さん、ここでですかっ!?
「ほら、早く」
顔は笑顔だけど、目の奥に獲物を狙う光が感じられる。
店内は満席で、みんな自分たちの世界に入っているとは思うけど、だからって全く見られないというわけではない。
「は・や・く」
固くなった笑顔から圧力が増す。
「う、うん。あ、あ~~ん」
ここで拒否れる程、僕は強くないのです。
「どう?」
「恥ずかしくて、よく分からなかったです」
羞恥で周りが見れません。
「そう? じゃあもう1度ね。はい、あ~~ん」
おぅ、自爆った。
し、仕方ない。
「あ、あ~~ん」
今度は努めて味を確認する。
「今度はどう?」
「うん、何か、かに玉みたいだね」
美味しいけど、オムライスである必要は感じないかな。
「同感だわ」
「次は鈴だよね? はい、あ~~ん」
自分だけ羞恥プレイと言うのは悔しいので反撃する。
「あ~~ん」
な、なにっ!? そんな、ためらいなくだって……。
「ど、どう?」
鈴の対応に僕の方が動揺を隠せない。
「定番だけに普通に美味しいわね」
あ、でも顔が若干赤い所を見ると恥ずかしくないわけではないらしい。
なら、やめておけばいいのにと思わなくもないけど、鈴の中でこういうのがカップルっぽい事なんだろう。
僕だって、まぁ嬉しいし。
付き合うのもやぶさかではない感じと言いますか……。
とりあえず、こんな感じで僕と鈴の初デートは終了した。
バッチリ事前準備してたから、割かし上手くいったと思う。
やってる事は普通に遊びに来た時と変わらないけど、意識してるだけで気持ち的には全然違うものだった。
友達と遊ぶ気楽さはなく、むしろ緊張で疲れるけど、その分ドキドキして、これがデートなんだなってしみじみ思う。
さぁ、次はディ○○ーシーだ。
今度もしっかり準備して、楽しいデートにしよう。
デート、あんまり甘く書けなかった気がします。
でも初心な二人の初デートですからこのくらいでご勘弁をって事でひとつ……。
それとも会話文主体でショッピングしてる所を中心に書いた方がデートっぽかったですかね?
ディ○○ーの回はデートは描写されず後日談的と言いましょうか、そんな感じになるので、デート自体の描写はストック分ではこれだけですので、物足りなかったという感想が多ければ書き直しや追加も考えます。