千冬さんはラスボスか 作:もけ
それに併せてストップさせていた他の作品も再開させますので、更新は遅くなると思います。
3作同時進行とは自分でも無茶だなとは思うんですが、本当はもう1作品やりたいんですよね。
にじファンに投稿していたゼロ魔のやつなんですけど。
でも昔の作品って、読み返してみると本当に黒歴史っぽいですよね。
ゼロ魔のは特にあえてテンプレに挑戦したので余計に。
おっと、話が逸れてしまいましたね。
まぁそんな感じなので、気長にお付き合いしていただけると有り難いです。
「姉さん、来たよ」
「一夏か、入れ」
夕飯後、姉さんに呼ばれていたので寮長室に来た。
姉さんは見慣れた白いジャージを着て、椅子に座り書類に目を落としている。
「姉さん、何か飲む?」
「ん? あぁ、珈琲を頼む」
「了解」
暇を見つけては掃除に来ているので、何処に何があるかは姉さん以上に把握している。
珈琲と自分の分の緑茶を入れて戻るが、まだ少しかかりそうなので簡単な掃除と片づけをしておく。
姉さんは散らかす才能が人より秀でているので、出来る時に少しずつでもやっておかないと後で大変なことになってしまう。
まぁでも姉さんは他が完璧なのだから家事が苦手なくらいはチャームポイントの内だろうと僕は思っている。
というか、そうじゃないと僕が姉さんにしてあげれることがなくなっちゃうからね。
姉さんは結婚しても家庭に入るタイプじゃないだろうし、そういう面をカバーできる人じゃないとそもそも姉さんが好きになったりはしないんじゃないかな。
それも僕とずっと一緒にいれば問題ないわけなんだけど……ずっと、ずっとか~えへへ♪ うん、この前の事から何か自分の頭ん中がお花畑になってるみたいだけど気にしたら負けだな。
何に負けるかは分からないけど。
あっ、でもこの妄想は告白してくれた三人に悪い気がする。
特にのほほんさんはファーストキスまで捧げてくれてるんだし。
そう言えば、のほほんさんにも僕にとっての姉さんのような存在がいる(ある?)って言ってたけど、まだ聞けてないな。
なぜかって? それは告白してキスまでしてくれた相手と平気な顔で添い寝できるほど僕は図太くできていないからです。
って、誰に言ってるんだ僕は? とお茶を飲みながら考え事に浸っていると、部屋の扉がノックされた。
「姉様、ラウラです」
「入れ」
書類から顔を上げた姉さんがそう言うと、制服姿のラウラが入ってきた。
未だに軍服みたいな裾の窄まったズボンにリボンではなくネクタイの改造制服なんだけど、せっかく可愛い私服や着ぐるみパジャマも買ったんだから制服も違うタイプを勧めてみようかな。
参考までにみんなの制服を例に挙げてみると、通常型を着ているのは箒ちゃんだけで、その箒ちゃんも白のニーハイソックスで絶対領域を強調している。
露出の全くないのはセシリア。
ワンピースの丈は膝の隠れる長さでフレアスカートの様に広がっていて、その下には黒のストッキング、袖口と裾に黒いフリルの付いたデザイン性の高い改造をしている。
逆に露出の激しいのは鈴。
リボンを外して首元を空けているのはいいとして、丈は普通のワンピースなのになぜか肩を出している。
あえてツッコミは入れないけど、なんでそこを出しちゃったのか……。
ちなみに、腕を振り上げた時の脇の下が眩しいとか、新しいフェチに目覚めたりはしていない。
ついつい目が行っちゃうだけだ。
男の本能に近い反応で、エロいだけで他意はない。
しかし気になる事が一つ、あの袖どうやって止まっているんだろう?
肩口は開いているし、袖口もノーマルタイプと同じで緩い。
内側にバンドでも仕込んであるのかな?
最後はクラス、と言うか学内でも異彩を放っているのはのほほんさん。
どこがと言うと一目瞭然、袖が長い。
なぜか袖がダボダボと長い。
いや、可愛いんだけど、とりあえず不便そう。
ノート取る時に袖が汚れそうだし、物を持つ時も袖越しなので滑りそうで見ていて心配になる。
まぁ今の所その心配は杞憂で終わっているんだけど。
後、地味に変更されているのはインナーがシャツじゃなくて黒のハイネックを着ている所。
さて、じゃあラウラにはどんなのがいいかな?
今のコンセプトは明らかに軍服。
露出がなく、動きやすく、何かに引っ掻ける様な部分もない。
上下に分かれてなくて下はズボンて、ツナギみたいなもんだよね。
全く方向性変えて、普通の制服っぽくワンピースをジャケット丈にして、下にプリーツスカートとかどうだろう。
または、逆に足首まであるドレスみたいなロングのワンピースにするとか。
今度、試しにイラストとか頼んでみようかな。
なんて、僕が余計な事を考えているうちに姉さんとラウラは話を進めている。
「どうだった?」
「生家というわけではなく、2年前に入ったようです。それまでの経歴は不明。この2年間は別邸と研究施設以外に立ち寄った形跡はなし。候補生になったのは今年の4月になってからですが、しかし公表はされていません」
「そうか。よく調べてくれた」
「はっ」
ラウラからの報告を聞いて、難しい顔する姉さん。
僕としては何の話かさっぱりだけど邪魔するのも悪いと思い、とりあえずラウラにオレンジジュースを出す。
「一夏」
「何? 姉さん」
「ちょっと厄介な事になった」
「うん」
それは何となく雰囲気で分かるけど。
「だが本題に入る前に、まずは予備知識の確認だ。EUの進めるイグニッション・プランは知っているな?」
「うん、少しは。EU各国が開発した第3世代機を選抜して、統一した防衛システムを作る計画だよね」
「そうだ。オルコットのブルー・ティアーズや、ラウラのシュヴァルツェア・レーゲン、イタリアのテンペストⅡ型が挙げられる」
ラウラの機体はこの前見せてもらったけど、近接ではプラズマ手刀、中距離ではワイヤーブレード、遠距離ではレールカノンと距離を選ばない万能型で、その特徴はAIC、慣性停止結界、アクティブ・イナーシャル・キャンセラーだ。
これは、ある程度の範囲にある任意の物体を停止させることができるという反則の様な能力で、模擬戦の時は早々に捕まってしまった。
遠距離武器の少ない僕では相性が悪過ぎる。
その辺を即日束さんに電話で相談してみると何か考えておいてくれるそうなので期待しておこう。
「一つ目のポイントは、この計画にはフランスが含まれていないという事だ」
フランス?
「次に、うちの学園でも訓練機として使っているラファール・リヴァイヴだが、これは第2世代型ISの最後期の機体で、最後発でありながら現在配備されている量産機ISの中では世界第3位のシェアを誇っている。それを製造している会社が、フランスのデュノア社だ」
フランスのデュノア社か、そこが話の中心みたいだな。
「しかし、いくら優秀な機体だろうと第2世代機であることは変わらない。これからの世界の主力は第3世代機だ。これは公然の秘密というやつなんだが、ポイントの二つ目だ。デュノア社は第3世代機の開発の目途すら立っていないらしい」
ふむふむ、つまりフランスもデュノア社もピンチという事だね。
「少し補足を入れておくが、ISの開発というやつは膨大な時間と資金がかかる。しかしコアの数が限られていることから市場と呼べる程のものはなく、普通なら全く商売にならない。だがISは国防の要だ。開発しないわけにはいかない。よって国が自国の防衛のために企業に資金を出し、ようやく成り立っているのが実情だ」
もはや一般常識になっちゃってるけど、ISにはISでしか勝てない。
つまり他の国より強いISさえ作れれば、簡単に侵略ができてしまうということだ。
まぁ、実際そんな事になったら国連やIS委員会、他の国が介入してくるんだろうけど。
「噂では、フランスはデュノア社への資金援助の打ち切りを検討しているそうだ」
デュノア社は、崖っぷちまで追い詰められていると。
「それらを踏まえた上で本題に入るが、明後日転校生が来る。名前はシャルル・デュノア。フランスの代表候補生で、デュノア社の社長の子供だ」
姉さんは一旦言葉を切ってから忌々しいといった感じで、
「そしてこいつは男だ」
吐き捨てた。
「は?」
予想外のことに間の抜けた反応しか返せなかったけど、徐々に理解が追い付くにつれ、
「男っ!? 僕以外にISを動かせる男が見つかったのっ!?」
「落ち着け、兄様。まだ話は終わっていない」
取り乱した僕をラウラが止めてくれ、姉さんの後を引き継ぐ。
「シャルル・デュノア。こいつの生家はデュノア家じゃない。2年前、何処かから連れて来られ、家に入っている。養子だとは思うが、隠し子という線もある。それから2年間は研究施設で訓練漬けにでもされていたんだろう。代表候補生になったのはこの4月だ。しかし問題なのは、フランスもデュノア社もこいつが男だという事を全く公表していないという点だ。これは不自然が過ぎる」
あぁ、何となくオチが見えてきた。
「いくら兄様の二番煎じでインパクトに欠けると言っても、その有用性は変わらない。落ち目のフランスが世界の脚光を浴びる絶好の機会を逃すはずがないし、デュノア社にとってみても独占して情報を売ろうが、共同研究で出資させようが、会社を立て直すチャンスを棒に振るとは考えにくい」
「つまり?」
僕の合いの手に乗る形で、姉さんが締めに移る。
「つまり、シャルル・デュノアが男であるとは考えられない。では、何故そんな嘘をついてまで男としてここに転入して来るかというと」
そこまで言って、姉さんとラウラは「分かるだろう?」と視線だけで聞いてくる。
あぁ、うん、大丈夫。
ちゃんと分かってるよ。
「僕に近付くためだね」
「そうだ。目的は、本当の男性操縦者であるおまえと、おまえのISのデータだろう」
「キュクロープスは束さん特製だもんね」
そのデータは即開発の役に立つのだろう。
って、思ったんだけど、
「…………あれ? でも」
何かちょっと変だな。
「どうした?」
「それって男装する理由になってなくない?」
「どういう事だ? 兄様」
「うん、確かに男子が転入してきたら僕は自分からすぐに仲良くなろうとするだろうけど、でもそれは別に女の子でも出来ないわけじゃないよね? 現にセシリアとは友達だし」
「「…………」」
二人は僕の言う事を吟味しているようだ。
「例えばなんだけど、同性ってことは僕と同室になるんだよね? そのメリットって、仲良くなる以外に何かあるのかな?」
「それは……」
「……ないのか?」
そうだよねぇ?
「僕のDNAを調べたいなら更衣室や部屋にこっそり入って髪の毛でも何でも採取したらいい。逆に、キュクロープスのデータは勝手に見たりはできないんだから近くにいる理由にならないし、戦闘データなら模擬戦を頼めば済む話だよね」
二人の反応を見る限り、僕の意見は的外れということもないようだ。
「それに、性別なんていつまでも隠し通せるわけないよね? 怪我や病気で医者にかかったら一発でバレるし、そうじゃなくても他人と同室なんだよ? 着替えやシャワーの時にうっかりバレる可能性が高過ぎるでしょ」
もし隠し通せると思ってるなら楽観が過ぎる。
「つまり、僕に接触する難易度を下げるためだけに、わざわざ高いリスク、しかも失敗が目に見えてるリスクを負うっていうのは考えにくいんじゃないかな?」
「確かにそうだな」
じゃあ、どうしてっていうのは分からないんだけどね。
「兄様」
「なに? ラウラ」
「奴の時間軸に沿って考えてみてはどうだろう」
「どういう事?」
「うん」
と、一つ頷いてから
「まずは2年前、奴は高いIS適正を見込まれ家に引き取られた。または、引き取られてからその適正が見つかった。そこから2年間は研究所詰めだ。大方、訓練とテストパイロットでもやっていたんだろう」
「うん」
姉さんも横で頷いている。
「しかしこの4月になっていきなり、しかも秘密裏に男として代表候補生になった。そしてこの学園に転入だ。これは転入のために表に出てきたとも考えられる」
「確かに、IS学園の転入条件には国からの推薦が必要だ。それはつまり代表候補生以上の肩書が必要だという事になる」
姉さんが僕にも分かるように補足してくれる。
「男装という嘘が長くはもたないとすると、男装の理由は代表候補生になるためではないのか? つまりデュノア社はシャルル・デュノアを何とかしてこの学園に入れたかった」
確かにそう見ると男装の説明がつく。
「ここで考えられるのは、入ることそれ自体が目的というケース。もう一つは正体がバレるまでの短期期間に何かしようというケースだ。前者の理由は分からないが、後者ならテロなどが考えられる。しかしデュノアの名前が出てしまっている以上、それも考えにくいのだが……」
一民間企業がテロをする理由なんて僕には思い付かないな。
「脅迫されていたらどうだ?」
「え?」
「例えば、デュノア社社長の家族を誘拐したり、会社の不正の証拠などを使って、どこかのテロ組織が自分たちの手を汚さずにこの学園に攻撃しようとしていたら」
誘拐か、脳裏に嫌な記憶がチラつく。
「ただ、犯行後、間違いなく会社は潰されるだろうから、どちらかと言えば誘拐の方がしっくりくるがな」
「だが姉様。代表候補生になる根回しや準備に少なくとも一ヶ月はかかるとして、情報を集めた限り、それだけの期間行方が分からなくなっている者はいませんでした」
「これもダメか……」
手持ちの情報では、さすがに行き詰ってきて3人で黙り込んでしまう。
ふぅ~、気分転換でもしようかな。
「少し休憩しようか」
立ち上がり、珈琲とお茶、オレンジジュースを入れなおす。
「今これ以上続けてもいい考えが浮かぶとも思えないし、いくつかケースを想定して対策に話を進めない?」
「そうだな」
「ラウラ、お願いできる?」
「了解だ。兄様」
ラウラは紙とペンを用意し、書き出しながら進める。
「まずはケース①。対象が男である場合。これは特に問題がない。ただし情報を公表していない理由を探る必要はあるだろう」
「これだったら僕は素直に喜ぶだけなんだけど」
「確率は低いな」
「ですよねーー」
姉さん、分かってるけどお願いだからバッサリ切らないで。
少しくらい期待しても罰は当たらないと思うんだ。
「ケース②。対象は男装した女で、転入そのものが目的である場合。これは目的が既に達成されているので危険はないが、理由の如何(いかん)によっては発覚した時の対処が難しくなる可能性がある」
「転入が目的って事は、国か会社か家にいられなくなったって事かな?」
「おまえと同じで学園を避難所として使うという事か……」
IS学園特記事項第21項、本学園における生徒はその在学中においてありとあらゆる国家・組織・団体に帰属しない。
本人の同意がない場合、それらの外的介入は原則として許可されないものとする。
これのおかげで、僕はモルモットにならずに済んでいる。
もし似たような境遇なら味方になってあげたいかも。
「ケース③。同じく男装した女の場合だが、こちらは転入後、短期間のうちに何らかの行動を起こすのが目的だ。テロや暗殺、拉致などの危険性があり速やかなる対処が必要になる」
「嫌な想像だけど……」
「それだけに一番確率が高いだろうな」
この場合、黒幕が他にいる可能性もあって、その場合は攻撃がこれ一回で終わるとは限らないと言うのが性質が悪い。
まぁ、僕には現状他に行く当てがない……わけじゃないけど、出来れば社会性を守るためにそれは避けたいから、対処する以外の選択肢がないわけなんだけどね。
「でもIS学園を襲うなんて、世界を敵に回すようなもんだよね?」
「そうだな。標的が誰にしろ、周りに被害が出た場合、他の国も黙っていないだろう。まぁ、そんな事態になる前にどうにかするのが我々教師の努めなんだが」
「姉様、そのような時は、我が黒兎部隊にお任せください」
「ラウラ……あぁ、頼りにしているぞ」
「は、はい♪」
姉さんにそのまま頭を撫でられ、子供みたいな笑みを浮かべるラウラ。
なんだか本当の姉妹みたいで見ていて嬉しくなってくる。
家族が増えるっていいな。
「よし。では一夏、ラウラ。おまえ達には少し協力してもらうぞ」
「うん」
「望むところです」
「うむ、最悪のケースを考えれば後手に回るわけにはいかないからな。転校初日を叩く。おまえ達には朝のHRには出ずに、アリーナでデュノアと模擬戦をしてもらう。その間に黒兎部隊のメンバーに奴の私物をチェックさせる」
「拘束して尋問しますか?」
「必要ならばそれも辞さないが、まずはISのエネルギーをゼロにする所まででいい」
「どういう建前でやればいいのかな?」
「相手の機体の性能テストも兼ねて、サービスでおまえと対戦させてやるとでも言っておけばいいだろう」
「1対1?」
「いや、2対1でいい。訓練では多対1など珍しくもないからな」
「分かった。じゃあ、ラウラ。明日、コンビネーションの特訓をお願いしてもいいかな」
「了解だ、兄様。きっちりしごいてやろう」
「次の日に響かないくらいで、お願いします」
「それは兄様次第だ」
そう言って腕を組み、不敵な笑みを浮かべ、下からなのに上から目線と言う高等テクニックを披露する義妹。
姉さんにしてもラウラにしても基本が軍隊のソレだから、やるとなったら容赦がないんだよね。
ま、でも必要な事なんだから泣き言言ってても始まらない。
フランスからの転校生、シャルル・デュノア。
代表候補生にして自称二番目の男性操縦者か……。
できたら平和的に解決できたらいいんだけど、そのためにはまず模擬戦で勝たないとな。
ラウラの足を引っ張らない様に頑張ろう。
こういう事を原作の裏側では千冬さんの頭の中、または教師陣で話し合っていたと思って書いてみました。
一夏の存在が世紀の大ニュースになったのに対して、シャルの扱いはおかし過ぎますもんね。
次回は、シャルを殺りますw