千冬さんはラスボスか   作:もけ

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前話でストックについて書いたの間違いで、この後にもう一話分ありました。
と言うか、今話の存在を忘れてたんですよね。
でも、のほほんさん萌えとしては外せない回でした。
と言うわけで、お楽しみください。


のほほんさんの部屋移動

 寮長室で転校生について話し合った後、姉さんから明日のほほんさんが部屋を移動する事を聞かされた。

 

 一応現段階では入ってくるのは男子という事になっているので、僕と同室にするしかないそうだ。

 

 うん、筋は通っている。

 

 そうじゃなくても部屋さえ準備できれば男女が一緒に生活している現状は解消されてしまうはずだったわけで………………本当に?

 

 もう5月も終わりだ。

 

 入学してからもう二ヶ月も経っている。

 

 いくらクラス対抗戦で無人機騒ぎがあったからって部屋一つ用意するにしてはかかり過ぎじゃないか?

 

 そのくせもう一人の男、シャルル・デュノアが転校してくるとなったらこの対応の速さだ。

 

 疑うなって方が無理があるだろう。

 

 後から聞いた話だけど、ラウラの事件の時にのほほんさんが見せたと言う非常時の対応力。

 

 そして日本政府やロシア政府に顔が利く生徒会という組織の大きさ。

 

 これって学園側がわざと僕の近くにのほほんさんを置いているって風には考えられないだろうか。

 

 いや、でも単純に護衛という意味ならラウラみたいな専用機持ち、は無理としても生身の戦闘力があるタイプの方が望ましいはずだ。

 

 でものほほんさんはどう見ても、いや、実際に触ってみても柔らかいだけで……って、いやいや、そうじゃなくて。

 

 もしかして強かったりするのか?

 

 実は普段のポヨポヨした雰囲気や危なっかしい行動は全部周りを油断させるためのカモフラージュで、ダボダボの着ぐるみも毒から肌を守るための全身スーツ的な役割と、中に仕込んだ武器を悟らせないためのフェイクだったり。

 

 いや、もしかしたらあの着ぐるみはただの可愛いだけの着ぐるみじゃなくて、実は着ぐるみ型のISで、戦闘モードに移行すると相手の装甲をいともたやすく切り裂く爪が生えたり、尻尾が猫又や九尾の狐みたいに増えて、猫ならワイヤーブレードに、狐なら全身をカバーできるシールドになったりして、後は火炎放射とか、放電したりとか、人魂型の浮遊ユニットを出したりとか……。

 

 うん、まぁ、ないな。

 

 途中から妄想が変な方向に行っちゃったし。

 

 でも、くのいちみたいなのほほんさんより妖怪型ISを纏ったのほほんさんの方がイメージは合うかも。

 

 着ぐるみのイメージの延長線上だからかな。

 

 さておき話を戻すと、姉さんが入寮する時に僕が気負わずにいられる相手としてのほほんさんを選んでくれた以外に理由があるとしたら、生徒会への連絡役の可能性が高いんじゃないかと思う。

 

 他の在校生に問題が起きないとは言わないけど、僕が学内で最も目立つ問題児である事は厳然たる事実なわけで、学校運営に係わる生徒会としたら常に監視下に置いておきたいと思うのは当然だろう。

 

 そしていざ問題が起こった時は、IS学園最強と名高い生徒会長が解決に乗り出してくると。

 

 現会長の楯無さんはロシアの国家代表らしいからね。

 

 学内最強の呼び名も納得だ。

 

 あ、そういえばラウラの件でまだお礼に行ってないな。

 

 今度のほほんさんに付き合ってもらおう。

 

 なんて考えてるうちに部屋に到着。

 

「ただいま」

「おりむぅーーーー!!」

 

 部屋に入ると、黄色い固まりがドタドタと音をたてて走ってきて、そのまま突撃してきた。

 

 まぁ、のほほんさんだ。

 

「おりむぅーー、おりむぅーー」

 

 抱きついた勢いのまま僕の胸にぐりぐりと頭を押し付けてくる。

 

「のほほんさん、どうどう」

 

 馬をあやすように(したことないけど)背中を撫でて落ち着かせようと試みる。

 

 数分してようやく大人しくなった所で、

 

「どうしたの? のほほんさん」

 

 と理由を聞いてみると、抱きついたまま顔だけ上げて、

 

「織斑先生がぁーー、部屋替われってぇーー」

 

 それが如何にも理不尽な仕打ちであるかのように涙目で訴えてくる。

 

 いつも、見ているこっちが穏やかな気持ちになれる、おっとりとした微笑みを浮かべている顔が、今は癇癪起こした子供みたいに赤く染まり、頬が膨らんでいる。

 

「あ~あ~、そんな情けない顔しちゃって。可愛い顔が台無しだよ?」

 

 とりあえず膨らんだほっぺをぷにぷにしてみると、

 

「おぉ~りぃ~むぅ~」

 

 「今はそれどころじゃないんだよーー」といった感じで、両手をパタパタさせて抗議の声をあげる。

 

 十分にのほほんさんのほっぺを堪能してから、一向に治らないご不満なのほほんさんをあやすべく、パタパタしている手を外側から包み込み、姉さんが僕にしてくれるように優しく抱きしめる。

 

「話はちゃんと聞くから、少し落ち着こうね」

「むぅぅぅ」

 

 抱き締められたのほほんさんは一度短く唸ってからパタパタ抗議を中断。

 

「もうズルいんだから、おりむぅは」

 

 と文句を言いながらも、それでも背中に手を回してくれた。

 

 あぁ、やっぱりのほほんさんは小っちゃくて柔らかてヌイグルミみたいだな。

 

 頭を撫でる動きに合わせて着ぐるみのフードを外し、柔らかい栗色の髪に顔を埋める。

 

 のほほんさんは特に嫌がる素振りも見せずに、逆に自分も匂いを嗅ぐように僕の胸に顔を埋め返してくる。

 

 それが少し気恥ずかしくて、でもそのくすぐったい感覚を手放すのも勿体なくて、そのまましばらく堪能していると意識が段々と子供をあやすものから、

 

「(のほほんさんの匂い、感触、体温。このまま頭にキスしたらどうなるだろう。耳たぶを甘噛みしたら……)」 

 

 ちょっとエッチな方向に流れて行きそうになったので、さっきより落ち着いたであろうのほほんさんんを腕から解放する。

 

 自己主張をしてしまっている下半身をバレないようにしながら、とりあえず部屋の中に移動するように促すと、パタパタ走っていきボフンとベッドにダイブするのほほんさん。

 

 そしてそのままゴロゴロ転がり出す……僕のベッドで。

 

 仕方ないから僕はのほほんさんのベッドに腰掛ける。

 

「織斑先生は勝手なんだよーー。自分の都合で相部屋にしたくせにーー。転校生が来るから追い出すなんて横暴だ横暴ーー」

 

 珍しくムキーってなってるのほほんさん。

 

 ……レアだな。

 

 ところで、

 

「姉さんの都合って?」

「内緒ーー」

 

 そうですか。

 

「だいたい私達の気持ちも少しくらいは考慮してくれたっていいじゃないかーー」

 

 今度はクロールみたいに手と足をバタバタさせ始めた。

 

「おりむぅはそれでいいのっ!!」

 

 お~ぅ、矛先がこっちきたよ。

 

「もちろん僕はのほほんさんと一緒がいいよ」

 

 ここは空気を読んで素直に答えておく。

 

「でしょーー。私もおりむぅと一緒がいーーいーー」

 

 もうただの駄々っ子みたいになってる。

 

「のほほんさん」

「むぅーー」

 

 僕の呼びかけにもご不満なお返事だけど、

 

「おいで」

 

 と手を広げてあげると、ふてくされた顔のまま下向いたり上向いたり自分の中の何かと戦ってから、

 

「いくーー」

 

 と飛びついてきてくれた。

 

 のほほんさんは賢い子だから事情も分かってて姉さんの決定に逆らう事はしないだろう。

 

 でも頭と心は別だ。

 

 理屈でどうすればいいか答えが出てたって不満がないわけじゃない。

 

 だからこれは甘えたいだけなんだと思う。

 

 二ヶ月近くも一緒に生活して、僕を好きだと言ってキスまでしてくれたのほほんさんのちょっとしたワガママくらい、僕は受け止めてあげたい。

 

「おりむぅ好きーー」

「僕も好きだよ」

「ちーーがーーうーーのーー」

「ん?」

「ちゃんと男の子として好きってことーー」

「僕ものほほんさんを女の子として好きだよ」

 

 と答えると、バッと勢いよく体を離し、驚いた顔をされた。

 

 うん、この表情もレアだな。

 

「ホント?」

「ホント」

 

 固まるのほほんさん。

 

 だけど今度は、

 

「う~ん、う~ん」

 

 と何か考え始めた。

 

「のほほ」

「おりむぅ」

「なに?」

 

 遮られたけど気にしない。

 

「質問です」

「うん」

 

 いきなりだな。

 

「おりむぅは夏休みに旅行に行かなければいけなくなりました」

 

 ほうほう。

 

「行き先は6ヶ所だけど、行けるのは1つだけ、オーケー?」

「オーケー」

「一つ目、シノノンと温泉旅行」

 

 あっ、そういう趣向なんだ。

 

 でも夏に温泉?

 

 せめて海にしようよ。

 

 まぁ、純和風の箒ちゃんには温泉が似合うけどさ。

 

 まさに浴衣美人って感じだよね。

 

「二つ目、リンリンと本場中国のパンダに会いに行こうツアー」

 

 パンダって辺り自爆臭がするな。

 

 それ、本人に言ったら絶対怒られるよ?

 

 でも中国か……北京、広東、上海、四川と本場の料理を食べ尽くすコースとかの方がいいな。

 

 後は興味本位でマカオでカジノとか。

 

 いや、鈴は熱くなるタイプだから危険だな。

 

「三つ目、セッシーとイギリスで社交界デビュー」

 

 映画の中みたいでちょっと見てみたい世界だけど、ハードルが棒高跳び並みに高いな。

 

 と言うわけで、イギリスならベタな観光がいいな。

 

 大英博物館にバッキンガム宮殿、ベイカー街に行ってシャーロックホームズ記念館とか。

 

 食事は多彩なアフタヌーンティセットが楽しみだね。

 

「四つ目、ラウラウとドイツで軍隊体験」

 

 させられそーー。

 

 いや、絶対させられる。

 

 しかもドイツと聞いて観光スポットが全く思い浮かばないのがまた逃げ道をなくしてる。

 

 ラウラや姉さんがどんな所で生活してたかは気になるけど、これでもかってくらい扱かれそうだからな。

 

「五つ目、織斑先生と自宅でゴロゴロ」

 

 一言言わせてもらおう。

 

 それ旅行じゃないよね?

 

「六つ目、わたしと気持ちいい事したり美味しいもの食べたりキャッキャウフフな幸せ極楽ツアー」

 

 …………自分だけやけに盛ってません?

 

「さぁ、おりむぅはどれに行く?」

 

 う~ん、この質問はあからさまに選んで欲しい答えが用意されてるけど、

 

「やっぱり姉さんと一緒かな」

「だよねーー。うん、分かってた」

 

 素直に答えたら、ガクッと肩を落とすのほほんさん。

 

 だけど、すぐに復活して、

 

「残念ですが、織斑先生は急遽やまぴーと一緒に出張に行ってしまいました」

「どこに?」

「南極」

 

 すげーー!!

 

 真耶先生の泣き顔が見えるようだ。

 

 でも真耶先生の事だからペンギン見てすぐに復活するんだろうな。

 

 そして姉さんに怒られるっと。

 

 いや、姉さんも可愛いもの好きだしペンギンに囲まれたら喜ぶかも。

 

 でも何かしらの葛藤があって最初はなかなか触れられず、真耶先生に勧められてやっと手を出す感じ。

 

 そこからは撫でまくりで、先に満足した真耶先生に声をかけられてハッと我に返り、咳払いを一つ。

 

 照れ隠しで誤魔化した所に真耶先生が余計なこと言ってお仕置きタイムが始まると。

 

 何か見てきたように頭に映像が浮かぶな。

 

「さて、困ったおりむぅは次に誰を選ぶ?」

 

 のほほんさん……もう誰って言っちゃってるじゃん。

 

 でも、

 

「そうだな……。ちなみにのほほんさんの気持ちいい事って何?」

「え?」

「ん?」

 

 その質問は予想外といった感じで慌てるのほほんさん。

 

「えっと~~~~、と~~~~」

 

 一度息継ぎしてからポフと手を叩く。

 

「おりむぅがお風呂でわたしの背中を流してくれたり、お風呂上がりにマッサージしてくれたり、寝る時に添い寝してくれたりします」

「僕がするばっかりっ!?」

「いや?」

「うっ……嬉しいです」

 

 そんな可愛く小首傾げるのはズルいと思います。

 

「でも、のほほんさんは何かしてくれないの?」

「わたしは……」

 

 そう呟いて顔を伏せてしまった。

 

「わたしは?」

 

 先を促すとゆっくり顔を上げるが、その顔は林檎の様に真っ赤で、それを隠す様にダボダボの袖で口元を隠し、

 

「わたしの初めてをあげる」

 

 うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!

 

 可愛い。

 

 可愛過ぎる。

 

 なんだこれ。

 

 初めてって初めてだよね?

 

 いいのか僕なんかで。

 

 あぁ、顔が熱い。

 

 心臓もうるさい。

 

 舌がうまく回らない。

 

 どうしよう、どうすれば、どうなる。

 

 えぇ、テンパってますが何か?

 

 何かってなんだーーっ!!

 

「おりむぅ」

 

 とパニクってる僕をのほほんさんが止めてくれた。

 

「な、なに?」

「嬉しい?」

「そりぁあもうっ!!」

 

 勢い片膝を立てて、手はガッツポーズ。

 

「えへへ~~♪」

 

 僕の正直過ぎる答えにトロケる様な笑顔を浮かべるのほほんさん。

 

 目が離せないくらい可愛い。

 

 そんなのほほんさんに見蕩れていると、

 

「でもダメ」

 

 と悪戯っ子の顔に変わった。

 

「それはわたしを選んでくれた時ね」

「…………はい」

 

 その顔も魅力的です。

 

 そんなやり取りで質問自体は有耶無耶になったけど、その代わりに、

 

「最後ぐらい一緒に寝よ~~」

 

 と僕のベッドに潜り込んできた。

 

 嬉しいよ?

 

 嬉しいけどさーー。

 

 あんなこと言われた後に添い寝とか生殺しにもほどがあるって。

 

 対してのほほんさんは平気みたいで、僕にしがみついて気持ち良さそうに眠ってしまった。

 

 その幸せそうな顔を見てると、焦ってる自分が馬鹿らしく思えて、苦笑。

 

 その後は程なくして僕も夢の世界に落ちていった。

 

 あ、これで添い寝クリアしたから色々のほほんさんについて教えてもらえるのかな?

 




のほほんさん、どうだったでしょうか。
この話を書き直す際に「のほほんさん イラスト」でググって見てみたら、その可愛さに萌えましたw
小っこいのに巨乳って、鈴に喧嘩売ってるよねw

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