千冬さんはラスボスか   作:もけ

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さてさて誰になるでしょう。


同室は……。

 初日の授業が終わり、早々に帰ろうと教室を出ると真耶先生がパタパタ走ってきた。

 

 揺れてるなぁ~~いやぁ、自然と目がいってしまう。

 

「織斑くん。良かった。間に合って」

「どうしたんですか? ”真耶”先生」

 

 いい笑顔で応じる。

 

「はうっ!? お、落ち着くのよ真耶。こんなことで動揺してはいけないわ。仮にも相手は生徒。私は先生……禁断の関係……いやんいやん、ダメよ真耶……」

 

 なんか教師にあるまじき台詞が聞こえるけど、どうしたもんだろう……。

 

 どうも真耶先生は妄想が暴走するタイプみたいだな。

 

「で、でも、織斑君と結婚したら織斑先生がお義姉さんって事で……」

「真耶先生?」

「家事が苦手な織斑先生と織斑君の帰りをエプロン姿で待つ私……」

「おぉ~~い、真耶先生ぇ~~」

「食事にします? お風呂にします? それともワ・タ・シ♪ なんちゃって……」

「てりゃあっ」

「あうっ」

 

 放って置くといつまでも自分の世界にトリップしていそうだったのでチョップをお見舞いする。

 

「な、何するんですか、織斑君。仮にも私は教師で」

「その教師は生徒に何か連絡事項があるみたいでしたよ?」

「はっ!? そうでした」

 

 とりあえず我に返ってくれたみたいだ。

 

「こほん、えっと、織斑くんに寮の部屋が決まったことをお知らせにきました」

「えっ? 確か空きがないから一週間くらいは自宅からって話だったと思うんですけど……」

「それがですね。身辺警護の観点から無理にでも寮に入れるようにと政府から通達が来ちゃいまして」

 

 まぁ、警護もタダじゃないしね。

 

 良い意味でも悪い意味でもって姉さんは言ってたけど、悪い意味は警護の対象だとして、良い意味ってどうなってるんだろう?

 

 今の所、外国からの勧誘とかは特に受けてないけど……。

 

 みんなで条件出し合って、僕に選ばせてくれないかな?

 

 まぁ、進路についてはそのうち姉さんに相談してみよ。

 

「はぁ、じゃあ仕方ないですけど、荷物とかどうしましょう?」

「それなら心配するな。私が持ってきてやった」

 

 後ろから急に声がして驚く。

 

 姉さん、気配消して近づかないでよ。

 

「あ、ありがとう、姉さん」

「放課後だろうと学園にいる間は織斑先生だ」

 

 また軽く叩かれてしまった。

 

 どうにも姉さんの顔を見ると油断してしまう。

 

「とりあえず、服と携帯の充電器があればいいだろう? 足りないものは買うなり、外出許可を取って取りに行くなりすればいい」

「了解です。それで部屋はどこですか?」

「1025号室です」

「一人部屋ですよね?」

「いや、相部屋だ」

「はっ?」

 

 しばし絶句してしまう。

 

「それはさすがに問題あるんじゃ……」

 

 年頃の男女が密室で二人とか間違いが起こったらどうするんだ。

 

 さすがに姉さんのいる学園でそんなことするつもりはないけど、万が一ということもある。

 

「確かに我々もそう思うが上の決定だからな。どうにもならん」

「姉さ、織斑先生と一緒はダメなんですか? 姉弟なんだし」

「教員は機密情報を扱うから無理なんですよ」

「そう、ですか」

「そう気落ちした顔をするな。私だって我慢するのだ。お互い様だぞ?」

「そうだね。姉さん、ごめん」

 

 叩く代わりにワシワシと頭を撫でてくれた。

 

「それに一人部屋だとハニートラップの危険もあるからな」

「…………ウソ」

「嘘なものか。お前から間違いを犯さなくても、力づくや薬という手段もある」

「同い歳の女の子にそんな事を……?」

「あぁ、国や組織からの命令だったり、自ら望んで行う者もいるだろう」

 

 信じられない……いや、信じたくない。

 

「織斑君」

「は、はい」

「ハニートラップは織斑君を離れられなくさせて自発的に自分たちの陣営に引き込むのが最善ですが、最悪妊娠の責任を取らせる形で引き抜こうとするでしょう」

 

 まだ高校生の女の子を妊娠なんてさせたら男として責任を取らざるを得ない。

 

「でも、話はそれだけでは終わりません」

「え?」

「多分、口には出しませんが、みんな織斑君の子供にも注目しているはずです」

「あ…………」

 

 確かにそうだ。

 

 世界で唯一ISを動かせる男である僕の遺伝子を受け継いだ子供。

 

 注目しないわけがない。

 

「ですから、ハニートラップを仕掛ける様な組織なら男の子が生まれるまで…………いえ、ISを動かせる男の子が生まれるまで何人でも生ませようとするでしょう」

 

 愛も夢もあったもんじゃない話だ。

 

 気分が悪い。

 

「ですから――――――」

「山田君」

「は、はい」

「その辺でいい」

「そう、ですね。すみませんでした」

「一夏」

 

 姉さんの優しい声に顔上げる。

 

「色々言ったが、私がいる限りそんな事は絶対にさせん。安心していい」

「うん」

「それにルームメイトは信用の置ける者にしておいた。それに奴ならお前のストレスも少なくて済むだろう。まぁ何かあったら言ってこい」

「ありがとう。姉さん」

「織斑先生だ」

 

 最後に軽くデコピンをして姉さんたちは去って行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、何とか気分を立て直してさっそく部屋に来てみたわけなんだけど、なぜか巷で大人気の某電気ネズミがベットの上でゴロゴロ転がっていた。

 

 「これは夢か?」と最初は驚いたけど、何か癒される光景だな。

 

 姉さん、どうやって捕まえてきたんだろう?

 

「あっ、おりむぅだ~~待ってたよ~~」

 

 癒し空間を眺めていると僕に気付いた電気ネズミ、もとい女の子が振り向いた。

 

 見覚えのある顔だな。

 

「えっと、確か同じクラスの……」

「布仏本音だよ。よろしくね。おりむぅ」

 

 既にあだ名で呼ばれている。

 

「こ、こちらこそよろしくね。布仏さん」

「固いな~~おりむぅもあだ名で呼んでよ~~」

 

 いきなりの無茶振りだったけど、あだ名と聞いて閃くものがあった。

 

「じゃあ『のほほんさん』て呼んでいいかな?」

「おっけ~~」

 

 この何とも緊張感の欠ける癒し系着ぐるみ少女が同室か。

 

 女の子と同室って聞いて不安だったけど、うん、何とかやっていけそうだ。

 

 その後、着替えやシャワーについて取り決めがあった方がいいだろうと思って話してみたら

 

 「わたしは気にしないよ~~」「一緒に入ればいいじゃ~~ん」と嬉しい反応が返ってきたが、そこは丁重にお断りしておいた。

 

 ハニートラップじゃないんだよね? 姉さん。

 

 着ぐるみだから分かりにくいけど、のほほんさんって意外と一部の発育がよろしいようで、露出が少ないので助かりました。

 

 いや、残念がったりしてないからね。

 

「本音いる~~? ご飯行こうよ」

 

 のほほんさんとの話し合いが終わったタイミングでノックもなしに扉が開き女生徒が入ってきて、

 

「てっ!? 織斑くんっ!?」

 

 驚いてフリーズした。

 

 身長は平均的でショートカット、スポーツをしてそうな引き締まったスレンダーなボディライン。 

 

 オレンジ色の生地に小花柄のキャミソールとデニムのホットパンツを着た活発そうな子。

 

「あ~~きよきよ~~。うん、ご飯行く~~」

「のほほんさん、こちらの方は?」

「あ、相川清香ですっ!! ハンドボール部入部予定。趣味はスポーツ観戦とジョギングです。よろしくお願いしますっ!!」

 

 フリーズから復活したと思ったらいきなりテンションMAXになった。

 

 面白い子だな。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。相川さん」

 

 挨拶していると袖がクイクイと引っ張られた。

 

「おりむぅも一緒にご飯行こうよ~~」

「いいの?」

「も、もちろんですっ!! 大歓迎っていうか、むしろこちらからお願いしますっ!! 」

 

 なんか発言にいちいちビックリマークが付いてそうな感じで、おっとりしたのほほんさんといいコンビみたい。

 

「うん、じゃぁ同席させてもらおうかな」

「よ~~し、じゃあ食堂にレッツゴ~~♪」

 

 元気よくベットから飛び起きたのほほんさんを先頭に部屋を出ようとすると

 

「清香お待たせ~~本音いた?」

 

 ぶつかりそうなタイミングで女生徒が顔を出した。

 

 彼女は知ってる。

 

 背は相川さんより少し低めで、細いけど女の子らしい柔らかな感じのするスタイル。

 

 こげ茶色のショートカットに赤いカチューシャと眼鏡が印象的な、岸原理子さんだ。

 

 僕の後ろの席で、休み時間に少し話したんだよね。

 

 ちなみにこちらは水色の肩の出たワンピースを着ている。

 

「わっ!? びっくりした。お待たせ~~って、なんで織斑くんがいるの?」

「リコリコ、それはおりむぅがわたしのルームメイトだからだよ~~えっへん♪」

 

 意味はよく分からないが胸を張るのほほんさん。

 

 そして

 

「「 えぇぇぇぇっ!! 」」

 

 前と後ろでハモる絶叫。

 

 うぅ、耳がキーンってする。

 

「どういうことよ本音っ!?」

「ズルい、ズルいわ、私と代わってよっ!!」

 

 のほほんさんに詰め寄る二人。

 

 揉みくちゃにされてあぅあぅしてるのほほんさんが助けを求めるように視線を向けてくる。

 

 小動物のようなその姿、正直凄くカワイイです。

 

 もう少し見ていたい気もするけど

 

「そろそろご飯に行かない?」

 

 振り返って二人は、僕の存在を思い出したみたいで手を止める。

 

 とりあえず仲裁成功っと。

 

「話は食事しながらにしようよ」

 

 しかし移動した食堂でものほほんさんはみんなに囲まれてしまい、とても食事どころではなかった。

 

 僕は人だかりから何とか逃亡を成功させ、離れた席にいた箒ちゃんの所に避難する。

 

「箒ちゃん、ここいい?」

「あぁ」

 

 どこかブスッとした表情で焼き魚を突いている箒ちゃん。

 

 食事時にうるさくて不機嫌なのかな?

 

 僕も食事を始める。

 

 夕飯は、から揚げ定食。

 

 初日ということもあって気疲れしちゃったからお肉を食べて元気を出すのだっ!!

 

 ということでモニュモニュから揚げを食べていると

 

「一夏」

「なに? 箒ちゃん」

「聞きたいことがあるのだが」

「うん?」

「布仏と同室というのは本当か?」

 

 さすがにあれだけ騒いでいれば、ここからでも話は聞こえてしまう。

 

「うん、そうだよ」

 

 素直に答えると、突然箒ちゃんが机を叩いて立ち上がった。

 

「どういうつもりだっ!? 男女七歳にして同衾せず。常識だっ!!」

 

 随分古い価値観だけど、言いたいことは分かる。

 

「確かに僕も問題だと思うけど、政府からの要請で学園側がまだ準備できてないのに無理矢理寮に入らなくちゃいけなくなって、仕方ないんだよ」

「なら、千冬さんの所でいいだろうっ!!」

「僕もそうしたいけど、教師は機密情報を扱うからダメなんだって」

「う、うぅぅぅ……」

 

 納得がいかないという顔でうなる箒ちゃんだけど、ため息を一つして力を抜き、座り直した。

 

「お前から希望したのか?」

「へ?」

「布仏と同室になりたいとおまえから希望したのか?」

「まさか。姉さんが決めたんだよ」

「千冬さんが?」

「うん」

「そう、か……」

 

 いくら箒ちゃんでも姉さんの決めたことには逆らえないとしぶしぶながら納得してくれたようだ。

 

 でも、なんか死んだ魚のような目になってるよ?

 

 なんかフォローしないと。

 

「でもね、話を聞いた時、僕は箒ちゃんと相部屋だと思ったんだよね」

「それはどういうことだ?」

 

 とりあえず顔を上げてくれた。

 

「うん、姉さんが信用できて、僕の負担の少ない相手にしてくれたって言ってたから、てっきり幼馴染の箒ちゃんが相手だと思ったんだよ」

「そ、そうか、私だと思ってくれたのか」

 

 急に機嫌を良くした箒ちゃんは「そうか、そうか」と何度もうなずいている。

 

 とりあえず、フォロー成功かな?

 

 きっと幼馴染なのに蔑(ないがし)ろにされたと思って悲しくなっちゃったんだよね?

 

「あっ、でも……」

「ん? どうした?」

「箒ちゃんと同室だとちょっと困ってたかも」

 

 箒ちゃんの笑顔が固まる。

 

「な、なにが困るというのだ?」

「えっと……」

 

 ちょっと恥ずかしいけど、正しく男子の事情を知ってもらういいチャンスだよね。

 

「箒ちゃん綺麗になったしスタイルいいから、一緒に生活したら目のやり場に困るというか、ちょっと緊張しちゃうかなって」

「なっ!!」

 

 胸を手で隠し、顔を真っ赤にして絶句する箒ちゃん。

 

 言った僕も絶対に顔が赤くなってる。

 

「ふ、ふしだらだぞっ、一夏っ!!」

「ごめん。でもこれでも思春期の男子だからさ」

「だ、だからって……」

 

 真っ赤な顔で落ち着きなく視線を彷徨わせる箒ちゃん。

 

 でも、しばらくしてなんとか復活したのか

 

「ふ、ふん、私だって男子がそういうものだということくらい知っている。だからって許したわけじゃないからな。ほ、他の女をそういう目で見るんじゃないぞ」

「うん、気を付けるよ」

 

 ついつい目が行っちゃうけどね。

 

 姉さんとか、姉さんとか、真耶先生とか。

 

「ど、どうしても見たい時は、わ、私を見るのだぞ」

 

 途中から消え入りそうな小声になっていたけど、しっかり聞こえた。

 

 聞いた瞬間、あまりの衝撃に息が止まる。

 

   「私を見るのだぞ」

 

 み、見ていいの?

 

 真っ赤な顔をそむけ、腕組みした箒ちゃん。

 

 気付いてないだろうけど、結果として豊満な胸を押し上げる形になっている。

 

 そして衝撃のままに凝視してしまう僕を誰が責められよう。

 

 その視線に気づいた箒ちゃんは大慌てで

 

「ば、馬鹿者っ!! 公衆の面前で何をしているっ!!」 

「い、いや、箒ちゃんが見てもいいって」

「TPOを考えろっ!!」

「ご、ごめん」

「ふ、ふん」

 

 真っ赤な顔を怒ったようにして席を立ち、食堂を出ていく箒ちゃん。

 

 でもその後ろ姿のポニーテールが、犬が尻尾を振るみたいに嬉しそうにピョコピョコ跳ねていた。

 

 び、びっくりした。

 

 まさか箒ちゃんがあんなこと言うなんて。

 

 やっぱり同室じゃなくて良かったよ。

 

 今、部屋で二人きりになんてなったらメチャクチャ意識しちゃうじゃん。

 

 気心の知れた幼馴染の箒ちゃん相手にこれじゃあ、ハニートラップなんてあった日には冷静に対処できる自信がないな。

 

 いや、気心が知れた相手だからこそギャップでキタのかも。

 

 それにいくら幼馴染でも箒ちゃんが美人で胸が大きい事には違いないし。

 

 と、とりあえず、なるべくそういう目で見ないように気を付けよう。

 

 まぁ、無理だろうけど。

 

 

 

 

 

――――――――――おまけ――――――――――

 

 うつむきながら廊下を早足で移動する。

 

「こんな顔、誰にも見せられん」

 

 箒は顔に集中する熱に茹っていた。

 

「あぁ、なんてことを言ってしまったんだ。あれでは私の方がふしだらではないか」

 

   「私を見るのだぞ」

 

 思い出してさらに顔が熱くなる。

 

「あ、あんなこと言って、一夏に幻滅されていないだろうか」

 

 不安がよぎるが、自分の胸を凝視する一夏を思い出し、わずかな不安など吹き飛ぶ。

 

「あ、あ、あんなに凝視するなんて……」

 

 自分でも分かっているが、私は胸が大きい。

 

 しかし、これは私にとってコンプレックスのようなものなのだ。

 

 転校続きの自分に向けられる好奇の視線。

 

 そこには少なからずそういう視線も含まれていた。

 

 だから嫌だった。

 

 視線も、胸も、女である自分も……。

 

 「でも」と思う。

 

 一夏の視線は嫌じゃなかった。

 

 ずっと会いたかった一夏。

 

 幼い頃の面影を残しつつも成長した一夏。

 

 わんぱくだった少年は、優しい雰囲気をまとって少し落ち着いていた。

 

 背は165くらいと平均より低いが、体は鍛えているようで引き締まっていた。

 

 剣道、続けていてくれたのかな?

 

 そう思うと頬がゆるむ。

 

 一夏の顔を頭に浮かべる。

 

「格好良くなったな」

 

 と惚けていると、想像の中の一夏の視線が徐々に下がっていき胸の辺りに……。

 

「うぅぅぅぅ……」

 

 再度、熱暴走。

 

 恥ずかしさで死ぬんじゃないだろうか。

 

「でも……」

 

 一夏が夢中になるくらい見てくれるなら。

 

 一夏が私を女として見てくれるなら。

 

 この大きすぎる胸も少しは好きになれそうだ。

 




と言うわけで、同室はのほほんさんでした。
そして箒ちゃんの最初の見せ場♪
ヒロインが増えてくると空気になるので今のうちにと言うやつですww

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