千冬さんはラスボスか   作:もけ

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ISを新しくしたのでバトルは書き直しなので、ちょっと大変でした。
と言っても、本格的なバトルは次回となります。


vsセシリア、前編

 セシリアさんとの試合当日。

 

 第三アリーナのAピット。

 

「来ないね~~」

「来ないね~~」

「お菓子食べる?」

「うん、貰おうかな」

「おりむぅ飲み物ちょうだ~~い」

「はい、どうぞ」

「ありがとう~~」

「そこっ!! 和んでるんじゃないっ!!」

 

 僕とのほほんさんが寛いでいると箒ちゃんが吠えた。

 

「まぁまぁ、シノノンも落ち着いて。お菓子食べる?」

「いらんっ!!」

 

 なぜ箒ちゃんがご立腹かというと、後十五分で試合が始まるというのにまだ僕の機体が到着していないのだ。

 

「箒ちゃん、抑えて抑えて、ここでイライラしても仕方ないからさ」

「なぜ、お前が落ち着いているのだっ!!」

 

 まぁ、来ないものはどうしようもないからね。

 

「そうだ、リラックスのいい方法があるから、箒ちゃん手出してよ」

「あ? あぁ、こうか?」

 

 ぶっきらぼうに出された手をとり、両手で広げるようにして手のひらをマッサージをしてあげる。

 

「なっ!?」

「どう? 気持ちいいでしょ」

「あ、あぁ、そ、そうだな」

 

 赤くなって俯いてしまったけど、さっきまでのイライラは落ち着いたみたいだ。

 

 効果満点だね。

 

「おりむぅ、来なかったら打鉄で出るの?」

「そうだね。いきなり射撃は無理だろうし」

 

 訓練機には打鉄とラファール・リヴァイヴの二種類があり、打鉄は刀による近接戦闘が主で、ラファールは銃火器によるオールラウンダーとなっている。

 

 汎用性でいけば間違いなくラファールの方が優秀なのだが、しかし銃を持ったこともない人間に扱えるものではないので、近づいて斬るだけの打鉄もそれなりに人気がある。

 

「し、しかし、オルコットの機体は遠距離射撃型なのだろう? 刀だけでは難しくないか?」

 

 もみもみ継続中。

 

「そうなんだけど、相手の土俵である射撃で挑むよりかは可能性があるんじゃないかなと思ってさ」

 

 もみもみ。

 

「そ、そうか」

 

 もみもみ。

 

「い、一夏っ」

 

 もみもみ。

 

「なに? 箒ちゃん」

 

 もみもみ。

 

「もう、大丈夫だから。は、離してくれ」

「そう? 逆の手もしようか?」

 

 素直に離す。

 

「い、いや、大丈夫だ」

 

 箒ちゃんは慌てた様子で反対の手を体の後ろに隠す。

 

 理由が分からず見つめていると、

 

「おりむぅ、シノノンはおりむぅに手を握られて嬉し恥ずかしなんだよ~~」

「なっ!? 何を言っているっ!!」

 

 真っ赤な顔で声を荒げる箒ちゃん。

 

「ち、違うぞっ!! こ、これは、その……」

 

 僕にも弁解しようとするが言葉が続かない。

 

 これって意識してくれてるって事だよね?

 

 そんな箒ちゃんを見て僕の顔も自然と赤くなる。

 

「二人とも真っ赤っか~~」

「うるさいっ!!」

 

 そっぽを向く箒ちゃんと、ニマニマするのほほんさん。

 

 二人のおかげで試合前なのに緊張しなくていいや。

 

 そんな感じで時間を潰し、試合まで後五分と迫った時、

 

「織斑くん、織斑くん、織斑くん」

 

 スピーカーから真耶先生の声が響いた。

 

「来ましたっ!! 織斑くんの専用ISっ!!」

「やった~~」

「心配させおって」

「間に合ったね」

 

 三人で笑顔になりながら、

 

「(束さん、お疲れ様でした。ありがとうございます)」

 

 心の中で呟く。

 

「織斑、すぐに準備しろ。アリーナを使用できる時間は限られているからな。ぶっつけ本番でものにしろ」

 

 搬入口のシャッターが開き、そこには

 

「これが織斑くんの専用IS『キュクロープス』です」

「これが一夏のIS……」

「ほえ~~」

 

 色は白一色。

 

 フォルムは腕と足が太く、肩に厚みがありパワー系である事を窺わせ、全体的に武骨な感じを受ける。

 

 しかし、ひときわ目を惹くのはやはり全身装甲な点だろう。

 

 うん、まぁ、こいつの目的を考えればこうなるよね。

 

 自分で言っといてなんだけど、生身の僕との戦闘スタイルが真逆なのにはちょっと笑える。

 

 苦笑を浮かべているとスピーカーから聞こえる真耶先生の声でレクチャーが始まる。

 

「織斑くん、復習です。ISの試合は相手のシールドエネルギーを0(ゼロ)にした方の勝ちです。ISは操縦者を守るためにシールドバリアを張っているのですが、それを攻撃することでエネルギーを減らせます。それと、バリアを貫通するほどの威力のある攻撃がされた場合、操縦者の命を守るために絶対防御が働きます。これにより操縦者は大怪我をしないで済むのですが、その代わり大幅にエネルギーを使ってしまいます。もし自分の乗るISがパワー型なら積極的にシールドバリアを抜く攻撃を狙っていくのも戦術としては良いかもしれません。分かりましたか?」

「はい、大丈夫です」

 

 真耶先生の説明は分かりやすいな。

 

 最後にこっそりアドバイスもくれたし、優しいよね。

 

 まぁ、素人が代表候補生に挑むんだから、そのくらいのサポートはあって然るべきなのかもしれないけど。

 

「では、すぐに装着しろ。時間がないからフォーマットとフィッティングは実践でやれ」

 

 それは初期状態で戦えって事か。

 

 じゃあ作戦としては、積極的に基本スペックで押し切るか、消極的に一次移行まで時間稼ぎをするかの二択だね。

 

 教本通りに背中を預けるように座る感じで装着すると、開かれていたボディが閉じ、スッポリと包まれる。

 

 すると次の瞬間、全身にぬくもりが広がった。

 

 なんだろう、凄く落ち着く。

 

 姉さんに抱きしめられてるみたいだ。

 

 守ってくれるの?

 

 その絶対的な安心感を感じたのも束の間、目の前にウインドウが開き、

 

「やぁやぁ、いっくん。久しぶりだねぇ。未来永劫いっくんだけのアイドル束さんだよ♪」

「束さんっ!?」

 

 ウサギ耳を付け、無邪気な笑顔がデフォルトのもう一人の姉的存在の女性が映し出された。

 

「どうした、織斑。気分でも悪いのか?」

「え、あ、い、いえ、大丈夫です」

 

 姉さんの声で我に返る。

 

「お、お久しぶりです、束さん。IS、ありがとうございました。大変だったでしょう」

「へーき、へーき。私を誰だと思ってるんだい? 天才の束さんだよ? いっくんのためなら愛情パワーで一週間完徹なんて余裕のよっちゃんだよ」

「なんか、ごめんなさい」

「謝られたっ!?」

 

 画面の向こうで、ガーーンなんてベタなリアクションをしている。

 

 その昔から変わらないいつも通りの束さんの姿に懐かしさと安心を感じ、

 

「でも、ありがとう。”お姉ちゃん”」

 

 昔の呼び名を使うと一瞬驚いた様に固まり、次いで笑みが深まって

 

「お礼はいっくんの体でいーーよーー♪」 

 

 ナチュラルにセクハラしてきた。

 

「でもそれは次の機会に取っておくとして、今はやらなくちゃいけない事をササッと済ませるよ」

 

 言い返す前に話はどんどん進む。

 

「時間ギリギリになっちゃったから、これから実地でチュートリアルを行いたいと思いまーーす」

「うわっ!?」

 

 と言うか、勝手に体も動いた。

 

 僕の意思とは関係なし、ピットからアリーナに飛び出す。

 

「一夏、勝ってこい」

「おりむぅ、頑張って~~」

 

 二人の声援に応える余裕もない。

 

「はーーい、まずはスラスターね。背中にある大型のやつがメインで、こいつは後付けパーツと組み合わせる事で大気圏も突破できる束さん印の特別製。と言うか、このキュクロープスは全身隅から隅まで束さんのいっくんに対する愛情いっぱいの手作りだから全部が全部特別製なんだけどねーーっと、後は肩・胸・腰・足にサブがいっぱいあって細かい姿勢制御や短距離移動をサポートするよ」

 

 アリーナの地面に着地するまでに、上下左右と細かい機動をしてみせる。

 

「それでね、それでね」

 

 ウインドウが別に開き、武装の一覧が出る。

 

「武器はいっくんのリクエストを参考にこんな感じになりましたーー。どう? どう? 夢とロマンが詰まってる感じでしょーー」

「おぉ、確かに」

 

 そのラインナップに感心する。

 

「じゃあ、まずはこれで行ってみよーー」

 

 両手に武装が展開されると同時に、タイミングを見計らっていたように、

 

「それでは、セシリア・オルコットと織斑一夏の試合を始める…………始めっ!!」

 

 試合開始を告げる姉さんの声がアリーナに響いた。

 

 

 

 

 

――――――――――セシリアside――――――――――

 

 

 

 

 

「時間、ギリギリですわね」

 

 アリーナの上空400m、10分前には既にスタンバイしていたわたくしの眼下に、一夏さんが乗っていると思われる白い機体が飛び出してきたのが見えた。

 

 いくら時間通りだろうと、レディを待たせるなんてマナーがなってませんわ。

 

 ですが、これくらいの事でいちいち目くじらを立てるのもレディとしての慎みに欠けると言うもの。

 

 ここは優雅でありながら、しかし婉曲にマナー違反を指摘してさしあげなければなりません。

 

 言葉を選び、いざ声をかけようと白いISを正面から視界におさめた瞬間、口から出た言葉は用意したものではなく、驚きのあまり見たままをただ表現した優雅さの欠片もないものになってしまった。

 

「全身装甲ですって」

 

 別に禁止されているわけではないのですが、表向き競技スポーツであるISにおいて「顔を隠す」という行為は、戦術的なメリットより戦略的なデメリットの方が遥かに大きく、正式に採用している機体はありません。

 

 どういう事かと言うと、表向き競技スポーツであるISの操縦者は国の威信をかけて戦うため、国の顔、軍の顔といった広告塔やアイドルといった側面を持ち、他人に見られるのも仕事の内という事になります。

 

 それなのに顔を隠す。

 

 しかも自分だけ隠すと言うのは酷くイメージを悪くする事になります。

 

 さらに全身を隠したISは見るからにロボット兵器という外見になってしまいますから、その外見で対戦相手を蹂躙でもした場合、内外からの非難は避けられないでしょう。

 

 戦術的には、表情が読まれないと言うのはそこそこのメリットになるのですが、表情が見えていても逆にフェイントに使われることを考えれば隠すことに固執する理由もなく、勝率を確実に上げるわけではない選択肢では戦略的なデメリットを覆すことは出来ません。

 

 そもそも絶対防御で守られているISでは基本的に装甲の厚さはほとんど防御力には関係がないのも軽装化される一因でしょう。

 

 ISはあくまでもスポーツであり、絶対防御が効かなくなった後の事は表向き想定されていないのですから。

 

 しかし、そこをおしてまで全身装甲を選択した一夏さんのISの意味……。

 

 その先を見越しているのか、または単純に女性との差別化なのでしょうか。

 

 どちらにしても、あの外見ではエレガントさに欠けますわね。

 

「一夏さん、お待ちしておりましたわ」

 

 驚きの波が引いた所で、当初の予定通り遅れてきた事を指摘しようと声をかける。

 

 が、返答がない。

 

 と言うより、そもそもウインドウが開かず、目の前のISと交信が持てません。

 

 ジャミング等の妨害はないようですが、何かのトラブルでしょうか。

 

 一夏さんがISに乗れることが発覚してからまだ二か月ちょっと。

 

 たたき台となる機体があったとしても、専用機を作り上げるにはあまりにも期間が短すぎます。

 

 スラスターや姿勢制御は大丈夫の様ですが、一応織斑先生に進言した方が良いでしょうか。

 

 と悩んでいる間に、スピーカーから試合開始の合図が送られてしまう。

 

 そして目の前のISはこちらの心配をよそに既に武装を展開していた。

 

「っ!?」

 

 狙撃が主体の中・遠距離型であるわたくしにとってファーストアタックは大事な意味を持ちます。

 

 奥の手がないわけではありませんが、基本戦術は近付かせずに削り勝つ事ですから、相手がこちらの狙撃に対してどのような対応をして見せるかは戦闘において大きなウエイトを占めるのです。

 

 だと言うのに、先に動かれてしまうなんて、これは明らかな失態です。

 

 こちらも素早く主力武装である大型レーザーライフル『スターライトmkⅢ』を展開し、照準を合わせる。

 

 が、その時点でようやく相手の両手に展開された武装の異質さに気付く。

 

「ドリルと…………あれはショベル、ですわね」

 

 スポーツと言ってもISはやはり兵器である以上、その武装は刀剣や銃器がほとんどとなっています。

 

 百歩譲ってドリルはまだしもショベルというのは、ふざけているとしか思えません。

 

 銃器と重機をかけたジョークとでも言うつもりでしょうか。

 

 そう考えるとちょっとムカムカしますが、一夏さんが作ったわけでもないので、一夏さんを責めるのはお門違い。

 

 再度照準を合わせ、気を静める。

 

 あちらの機体情報はありませんが、あれだけ重量級のフォルムならパワー型ですわね。

 

 大きくて遅いのなら的としては最適ですわ。

 

 これは一方的な展開になってしまうかもしれませんが、だからと言って容赦はいたしません。

 

「まずは、お手並み拝見ですわ」

 

 上空から地上で顔だけをこちらに向けて直立不動の彼を狙い撃つ。

 

 が、

 

「なんですってっ!?」

 

 そのビームは、先程馬鹿にしたショベルによって防がれてしまう。

 

 あまりの予想外な出来事に一瞬固まってしまうが、何とか気を取り直して、試しにもう一度狙撃を行う。

 

 先程の焼きまわしの様に、右手のショベルで何でもない様に防がれる。

 

 冷静に今起こった事を分析すると、あのショベルは形は変わっていますが盾の代わりなのでしょう。

 

 そして、わたくしのスターライトmkⅢではあれを抜くには火力が足りない。

 

 次に、躱すのではなく防ぐ事を選択した事に着目すると、やはり敏捷性には難があると見ていいでしょう。

 

 躱せない事を想定するからこそ盾が必要になるのですから。

 

「ならば、手数で勝負ですわ」

 

 そう結論付けて、機体名の由来にもなっている第三世代兵器を起動させる。

 

「お行きなさい。ブルーティアーズ」

 

 四機のビットが空を舞う。

 

「さぁ踊りなさい。わたくし、セシリア・オルコットとブルーティアーズの奏でる円舞曲でっ!!」

 

 さぁ、一夏さん。

 

 わたくしの代表候補生としての実力、その全てを余す事なく見ていただきますわ。

 




とりあえず、まず出てきた武装はドリルとショベルの二つでした。
もちろんまだ出ますよw
ショベル、ちゃんと意味があるので、次回か次々回に説明しますね。

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