千冬さんはラスボスか 作:もけ
でもバトルはサラッと流れます。
※大事なお知らせ
束さんのチュートリアルが終わった時点で、キュクロープスの全身装甲からフェイスとボディの着脱、オン/オフが可能になり、一夏操作時はオフになっています。
後でその描写を書き加えておきますが、とりあえずは先にご報告だけ失礼します。
「どんな地層でも掘り進めるショベルと、どんな岩盤だろう打ち砕くドリル。他のもそうだけど、キュプロークスの武装は基本的に束さんオリジナルブレンドの超合金を使ってるから丈夫で長持ち100年どころか1000年保証の優れもの。だからへなちょこビームなんかでは傷一つ付かないのは当然なんだよーー」
「さすがです。束さん」
セシリアから打ち出されたビームを事も無げに防いで見せたショベル。
驚きはするが、束さんの天才振りには免疫があるのでリアクションを取るくらいの余裕はある。
「にゅふふ、次は一気に行くから目つぶっちゃダメだよ?」
「はいっ」
ハイパーセンサーの360度ある視覚情報に戸惑いながらも、意識を上空のセシリアに向け、気合いを入れる。
そしてセシリアの機体からブルーティアーズが射出されるのを視認した次の瞬間、今まで感じた事のない感覚に支配された。
時間感覚が引き伸ばされ、自分の意思は働いていないはずなのに、自分の脳がISに指示を飛ばす。
肩に内蔵されている二つのワイヤーブレードで2機のブルーティアーズをターゲットロックし、ランダム機動のプログラムに乗せて射出すると同時に自分も急上昇。
上昇中に左手のドリルをロケットパンチの要領で側面の新たにターゲットした機体に打ち出し、右手のショベルでセシリアまでの直線上にある4つ目のブルーティアーズを殴り飛ばす。
勢いは止まらない。
そのまま上昇する僕はセシリアを衝突するギリギリの所でかわし、飛び越え、勢いを殺さない様に宙返りして急降下。
振りかぶった腕に巨大ハンマーが展開され、セシリアに振り下ろ――――――
そうとしたハンマーが上向きに弾き飛ばされ、両腕が跳ね上げられる。
同時に爆音と前方の視界を埋め尽くす黒煙。
「ふーーん、ゴミ屑のくせに抵抗するんだ」
「束さん?」
ISの補助のおかげで、体にかかる負荷はそれ程でもなく、生身なら到底処理しきれない情報量も理解できる。
さっきの爆発は、セシリアが自爆覚悟で隠し玉であるブルーティアーズの最後の2機、ミサイルユニットを使ってハンマーを防いだのだろう。
それはいいとして、問題は束さんの方だ。
束さんは子供っぽい所があって、自分の思い通りに行かないと道理の方を曲げてでも我が意を押し通す傾向がある。
例外は姉さんと箒ちゃんと僕の事くらい。
その幼い頃からの経験が、束さんの発言に警笛を鳴らす。
「た、束さん」
「いっくん。束さんはちょーーっとゴミ掃除しないといけないから待っててくれるかな。大丈夫、すぐ終わらせるから」
全然大丈夫じゃないっ!?
マズい、何とかフォローしな――――――
いとと思った時には時既に遅く、セシリアの機体に向けて雨のように爆弾が降り注いでいく。
止める術を持たない僕は、ただ眼下に広がった火の海に青い機体が飲み込まれていくのを眺めている事しかできなかった。
そして爆煙が収まるのを待たずに、試合終了のブザーと姉さんの勝ち名乗りがアリーナに虚しく響いた。
「いや~~、快勝だね。瞬殺だね。さっすが私っ♪」
「束さん、オーバーキルって言葉知ってます?」
「もちろん知ってるよ。わらわらと湧いてくる羽虫同然の奴らを辺り一面焼け野原にして滅殺する事だよね」
「ごめんなさい」
スケールが違い過ぎる。
「じゃあチュートリアルも終わったし、細かい事はキュプロークスのデータ見て確認しといてね。オススメはステルス機能内の光学迷彩で、見た目を好きな色と模様にできるから色々楽しめると思うよ。水玉とかシュールで良いよね。メンテナンスと武器の補充は待機状態にしたらオートで勝手にやるからいっくんは何もしなくても大丈夫。と言うか、その辺のゴミ屑共に束さんのいっくんへの愛情がたっぷり詰まったキュプロークスを触らせたくないだけなんだけどね。何かあったらすぐ飛んでいくから安心していいよ。いっくんは第二のお姉ちゃんである束さんがしっかり守ってあげるから」
「あ、ありがとうございます、束さん」
「ちっちっち、違うでしょ? いっくん。そこは”お姉ちゃん”って言ってくれないと」
立てた人差し指を横に振りながら「ちっちっち」って、束さんくらいしか似合わないよね。
「ありがとう、お姉ちゃん。僕もお姉ちゃんの役に立てる様に頑張るよ」
「にゅふふ、いっくんは良い子だねーー。じゃあ、良い子のいっくんにお願いが一つ。さっきのチュートリアルは二人だけの秘密ね。ちーちゃんに知られたらお仕置きされちゃいそうだし」
「姉さんのお仕置きは怖いからね。うん、了解」
「うん、うん。じゃあ、またね、いっくん。イチャコラのお礼、楽しみにしてるからねーー」
そんなセクハラ発言を最後にウィンドウは閉じられた。
…………とりあえず頭を振って煩悩を追い出す。
「さ、さてと」
意識を無理矢理切り替えて、眼下を確認。自由の戻った体の動作を確かめてから、チュートリアル中の感覚を思い出しながらアリーナの地面に出来たクレーターへと降下していく。
「セシリアさん、大丈夫?」
着地した所でISを待機状態に戻し、同じくISを解除して目のやり場に困るレオタードの様なブルーのISスーツ姿の彼女に手を差し伸べる。
露出されている太ももが眩しいとか思ってないったらない。
これ、煩悩抜けてないな。
「一夏さん…………え、えぇ、このくらい何ともありませ、あっ」
「っと、無理しないで」
手を取って立ち上がろうとしてよろけた彼女を正面から抱き止めると、ISスーツ越しに柔らかさと体温が伝わってきた。
髪から良い香りがする。
「あ、ありがとうございます」
「う、うん」
顔が見えないのが幸いした。
自分の顔がだらしない事になっていないかちょっと自信がない。
でもそれも彼女の次の言葉で素に戻る。
「完敗、でしたわ」
冷や水をかけられた様に一気に熱が引いた。
さっきの試合は、束さんの力によるものだ。
確かに僕の脳がISに指示を出してはいたけど、あれは多分僕という端末を通して束さんが動かしていただけで、僕の実力では決してない。
その時の感覚が残っているから再現は可能かもしれないけど、それとこれとは話が違う。
何とか弁解がしたい。
でも束さんの事を話すと言う選択肢はない。
二人の秘密云々もあるけど、そもそも束さんの存在は軽々しく話していい話ではないのだ。
世界の軍事バランスを一変させたISの生みの親にして、誰にも作れない、解析すらできないISコアを世界でただ一人作る事が可能な世紀の大天才。
世界中のありとあらゆる国や機関がその身柄を探していて、捕まれば拷問が待っているかもしれない危う過ぎる立場。
とは言っても、束さんを本気で敵に回すのは勇気でも何でもなくただの蛮行愚行でしかないけど、何時誰がトチ狂うかは分からない。
だから束さんの情報は極力秘匿しなければいけない。
これは束さんを心配すると言うより犯人、ひいては巻き添えを食う人たちのためと言う意味合いの方が強い。
なぜなら束さんを怒らせると冗談抜きに国が、世界が滅びかねないのだから。
今の世界は情報で管理されている。
交通や経済は当たり前として、お茶の間の家電製品ですらネットに繋がっている時代だ。
その情報の世界で絶対の力を持つ束さんが本気になったら、世界は第一世界大戦前の文明まで逆行する事になる。
それはただ文明レベルが下がるだけの話では済まない。
文明の発達と共に増えていった人口を支えられなくなると言う事でもあるし、通信網とGPSを遮断されるだけで目と耳と足が死に、残った手で資源の奪い合いが始まるだろう。
束さんの存在はそれだけの危険性をはらんでいる。
だから、世界中の国は表向き束さんの機嫌を取る姿勢を崩さない。
篠ノ之家に対する要人保護プログラムは、小さな親切大きなお世話に見えなくはないけど、その姿勢自体は責められるべきものではないと思う。
なぜなら、世界が本気で束さんの排除を望んだら、まず最初にすることは箒ちゃんと僕を人質にする事だろうから。
いくら強い姉さんだってISが10機も20機も来たらさすがに数の暴力に屈してしまう…………よね?
姉さんが負ける所って正直想像がつかないけど。
話が逸れた。
つまり束さんは誰にとっても地雷なので「触らぬ神に祟りなし」と言う事で、それは裏を返せば無闇に触らせない様にしようと言う事でもあるのだ。
奔放な束さんの行動を止める事は出来ないから、せめて周りが隠せる事は隠さないといけない。
まぁ「しないよりはマシ」と言うレベルだけど。
そもそも機械が絡んだ情報に関しては束さんが自分でどうにかしてしまうので、僕に出来る事は余計な事は言わないくらいしかない。
姉さんなら、実際に見ている目を潰したりしていそうだけど。
さておき、セシリアさんの誤解をどうにかしないと。
「セシリアさん」
「はい」
「潔く負けを認める姿勢は好感が持てるけど、正直な所、もう1回やったら負ける気はしないでしょ?」
「え?」
体は密着したまま、セシリアさんが僕の方に顔向ける。
身長差がほとんどないから顔が近い。
まつ毛、長いな。
「さっきのは実力差じゃなくて、不意打ちや騙まし討ちの様な事前の情報の差だと僕は思ってるんだけど、違う?」
「……………………いえ、そうですわね。負け惜しみに聞こえるかもしれませんが、次は簡単には負けないと思います」
「それはなぜ?」
「一夏さんの機体はやはりスピードに欠けるので、飛び道具に注意しながら逃げに徹し、遠距離からの多角的な狙撃を繰り返せば削り勝てると思います」
セシリアさんが考える素振りなんかで身じろぐ度に、形を変える柔らかさに意識が逸れる。
「うん、僕もさっきみたいに簡単に距離が詰められることはもうないだろうと思う。だからさっき勝てたのは僕の実力でも何でもなくて、ただ条件が良かっただけだと思うんだ」
「一夏さん……」
「セシリアさんは試合をしようって決めた時、勝ち負けが重要じゃない。正面から全力で当たって、セシリア・オルコットを知ってもらいたい。僕の事を知りたいって言ってくれたよね?」
「はい」
「正直嬉しかったよ。唯一の男性IS操縦者なんて持ち上げられて、新しく出会う人達は僕を肩書で見て、何処か特別なものを期待してる感じだったから。例外は幼馴染の箒ちゃんとルームメイトののほほんさんくらいかな」
箒ちゃんは幼馴染だから納得だけど、のほほんさんはマイペースで超然とした雰囲気がるんだよね。
「それは、責任ある立場に立った人間には必ずついて回る問題ですわね」
「まぁ、色眼鏡で見られるのは『ブリュンヒルデの弟』で慣れてるからいいんだけど、それでも僕自身に対してぶつかって来てくれたのが嬉しかったんだ」
「わたくしも教室で助けていただいて嬉しかったからお相子ですわ」
「うん、そうだね」
至近距離で微笑み合う。
が、僕は思いが伝わる様に真剣な表情を作る。
「でも、だからこそ僕はもっとセシリアさんを知りたいんだ。セシリアさんの日常を彩る小さなピース、趣味や好きな食べ物や小さい頃の思い出だけじゃなくて、IS操縦者であるイギリス代表候補生セシリア・オルコットの本当の実力を」
セシリアさんが息を飲んだのが分かる。
「セシリアさんの実力を僕はまだ欠片も見せてもらってない。ビデオで見たセシリアさんの戦う姿は相手を射抜く鋭さと、それでいて常に優雅さを併せ持っていた。その勇姿を僕に見せて欲しいんだ」
セシリアさんの綺麗なブルーアイを見つめる。
長いまつ毛が一度その瞳を隠し、
「一夏さんには醜態を晒してばかりですわね」
呟きと同時に、トンと軽く体を押され温もりが離れる。
そして再度開かれた瞳には力強い輝きが宿っていた。
「セシリア・オルコット、謹んでその申し出受けさせていただきます」
「ありがとう」
その高貴と言っていい佇まいに見蕩れ、言葉少なに応える事しかできない自分は小市民なのだろう。
――――――――――おまけ――――――――――
「じゃあ、ピットに戻ろうか」
僕がISを展開してもセシリアさんはそのまま。
それに首を傾げると
「わたくしのブルーティアーズは先程のダメージですぐには飛べませんから、お気になさらず先にお戻りになってくださいな」
そう言われても、女の子を残して行くのはちょっと心苦しい。
「う~~ん、じゃあ」
ちょっと茶目っ気を出す。
「お姫様、お手を」
「え?」
「「「「「えぇぇぇぇっ!!」」」」」
片膝をついて手を取ると、逆の手を彼女の膝裏に通しお姫様抱っこの体勢で持ち上げる。
観客席から悲鳴が上がった気がするけど気にしない。
「い、一夏さん」
「セシリアさんを置いて行くなんて出来ないから、ピットまで送らせてくれないかな」
「よ、よろしいのですか?」
「むしろ僕のためにお願い」
気持ちを抜きにしても、僕だけ先に帰るのは体裁が悪い。
「そう、ですわね。では、お願い、できますか?」
レディファーストが基本の国の彼女はその辺を酌んでくれる。
「もちろんです。お姫様」
赤い顔で上目使いは、普段の気品ある美人さんとのギャップで反則級に可愛いです。
そのままゆっくりと飛行し、セシリアさんの控室であるBピットに入る。
ピットには誰もいなかったので、そのままベンチの前まで行こうとするが、大きな姿見の前で足が止まってしまう。
そこにはISを装着した僕がスーツだけのセシリアさんをお姫様抱っこしている姿が映っていて、現状を正しく客観的に僕たちに自覚させる。
二人とも顔が赤い。
そして鏡の中で目が合い、
「「えっと、あの、これは……」」
誰に何の言い訳をしようとしてるのか、意味不明な二人。
どちらも混乱していてどうにもならないでいると
「一夏っ!!」
扉を壊さんばかりの勢いで箒ちゃんが飛び込んできた。
「何をしているっ!! さっさと下ろせっ!!」
いきなりテンションMAXでご立腹のようだ。
「え、えっと、これはね、箒ちゃん。セシリアさんのISが――――――」
「言い訳はいいっ!!」
「は、はい」
何で僕、怒られてるんだろう。
その場でISを解除し、足からそっとセシリアさんを下ろす。
「一夏さん、ありがとうございました」
「どういたしまして」
感触とか匂いとか最高でした。
口には出さないけど。
「見つめ合うなっ!!」
吠える箒ちゃん。
「おりむぅエッチさんなんだよ~~」
ひょっこり現れたのほほんさんまで責めてくる。
「ち、違うよ。不可抗力だよ」
誤解とは言わないのがミソ。
その後、更衣室に逃げ込むまでお説教が続きました。
――――――――――セシリアside――――――――――
試合後のメディカルチェックを受けてから自室に戻り、今、シャワーを浴びている。
わたくしは男性に対して強い不信感を抱いている。
それは、父の姿がきっかけだった。
婿養子だった父は、気高く優秀な母に常に媚びへつらうような態度を見せる人で、幼心にあまり好きにはなれなかった。
そんな両親も3年前に事故で他界。
わたくしは残された莫大な遺産を群がるハイエナ共から守るため、あらゆる努力をした。
その一つがISであり、登り詰めた代表候補生の座だ。
しかしISに関わるようになって、さらに男性不信が進んだ。
世に広がる女尊男卑の流れ、こちらの機嫌を取ることしかしない男たち。
わたくしの中で男性とは1ランクも2ランクも下の生き物という感覚が普通になってしまっていた。
そんな時、彼に出会った。
織斑一夏。
世界で唯一人、男性でありながらISを操縦できる存在。
最初は興味だけだった。
でも彼の優しさに助けられた事で、一人の対等な人間として接してみようと戦いを挑んだ。
敗れてしまった事は正直悔しいし、不甲斐無い自分に反省する所多数ですが、またここでも彼の優しさに触れられた事に嬉しく思っている現金なわたくしがいる。
それを自覚すると胸が高鳴る。
トクン、トクン、
この体の中から溢れ出るような感覚はなんなのでしょう。
「織斑一夏」
名前を口にすると胸が高鳴なる。
「織斑一夏」
もう一度、今度は彼の柔和な表情を頭に描いて呟く。
「織斑一夏」
抱きかかえられた時のたくましさを思い出す。
「織斑一夏」
呟くたびに鼓動が高まり体が熱を持っていく。
名前を発する唇の動きが彼の輪郭を表しているかのようで自然と指がその形をなぞる。
そして鏡に映った自分と目が合った。
その瞬間理解した。
あぁ、自分は恋をしているのだと……。
一夏を操作しての束さん無双w
感覚共有と言う完璧なるチュートリアルを考えてみました。
しかしそのせいでファーストシフトならず……でもセカンドシフト程大げさではないはずなので問題ないかな~~なんてw
後でこっそりさせます。
武装はショベル、ドリル、ハンマー、爆弾、ワイヤーブレードと、とりあえずはこんな感じで、杭打機も出したかったんですが持ち越しとなりました。
基本コンセプトは、セシリアに馬鹿にされてましたが、重機です。
ISは本来、宇宙での船外活動用のパワードスーツですからね。
機体が白い理由はキャンパスをイメージしていただければ……束さんの台詞に混ぜ込めなかったのでこちらでw
光学迷彩は隠れるためではなく、事故防止のためにどんな環境でも目立つために付けました。
まぁ、自衛の意味がないとは言いませんが。
セシリアさんは原作同様チョロイさんになってしまいましたw
本当はライバルとか同士とかいう方面に持っていこうとしたんですが、書いてみたらやっぱりそっちに流れて行ってしまった。
原作のパワー恐るべしw