ベル君が生き倒れを拾ってきたのは間違いだっただろうか 作:ウンニーニョ
ベル、クロ、リリの3人は9階層まで降りた所で装備を交換していた。
別にクロが遅刻して来たから罰ゲームでここまて持たされたというわけではない。
【ソーマ・ファミリア】にリリの存在を隠す為にリリの魔法、シンダーエラにてリリは姿を変え、さらにクロと装備を交換する事でカムフラージュしている。
今日の探索は10階層を探索する事になっている為、一つ上のこの層で装備を元に戻し準備する。
ベルが何かを感じたのか早く下へ行こうと言った所で少し開けたこの空間に、この層に居ないはずのモンスターはやってきた。
隻眼の瞳を血走らせ、多分冒険者の物であろう返り血を浴び、大剣を右手に持ったモンスター。ミノタウロスはクロ達を視認すると雄叫びを上げた。
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「にっ、逃げましょう」とリリが慌てて呼びかける。
9階層に出現しないミノタウロスが目の前にいる。
現実逃避したくなる事態だがそんな事をすれば命が奪われる。
しかし、ベルは過去の恐怖に震えてしまっている。
クロがベルに声を掛けようと思った瞬間、ミノタウロスは再び雄叫びを上げると地面を蹴った。
まるで弾き出された弾丸の様にベルに向かい大剣を袈裟に振り下ろした。
クロがベルを庇おうと思った瞬間、ベルはクロの方に飛び退き、二人は地面を転がる。
しかしクロが顔を上げた時、目に飛び込んできたのはベルを庇う様に覆い被さり腹から血を流すリリの姿だった。
クロはリリに駆け寄り抱き上げる。
息はある。しかしリリは激痛に顔を歪め、小さく呻いている。
クロはポーションの瓶をリリの口に押し込み、無理やりにでも喉を通す。
「ファイアボルトォオオオオオオオッ⁉︎」
ベルが怒りの声を上げミノタウロスに向けて魔法を放った。
その威力に押されてミノタウロスが後退する。
あの猛牛が後退した事にベルはわずかな希望を見出したのか魔法を連発する。猛牛の体は爆煙に包まれ、それが晴れた。
そこには少しの火傷以外ほとんど無傷のミノタウロスがこちらを睨んでいた。
手応えの無い事と精神力を使いすぎた為かベルが膝から崩れ落ちる。
クロはリリが回復していくのを確かめベルの前に立つ。
ベルに精神回復薬を渡すと決意を固め、ミノタウロスに向かって走り出した。
ミノタウロスの繰り出した大剣を紙一重で避けると槍を切っ先に当て、反動を利用して一回転。 遠心力をプラスした逆袈裟の一撃を放つ。
しかしその一撃は硬い筋肉の鎧に阻まれ進行を止める。
痺れる手に力を入れ槍を引き戻すと迫り来る拳を屈んで回避する。
クロの攻撃はミノタウロスに当たり、ミノタウロスの攻撃はクロに当たらない。一見クロが優勢のように見える。その攻撃がミノタウロスにダメージを与えていれば……
ミノタウロスが次の一撃を繰り出す。
そのタイミングはクロがどうしようにも避けようのないタイミングで大剣は振るわれる。
クロは槍を盾にし防ごうとするがやはりLv.1の頃では防ぐ事はかなわず、真っ二つになるのは防げたものの、槍は砕け、クロは吹っ飛び壁に激突した。
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ハクアは走っていた。
前に走れるのはアイズ、後ろからは【ロキ・ファミリア】の仲間。
先程逃げて来た冒険者にこの先でミノタウロスと白い冒険者と黒い冒険者が戦っていると聞いたからだ。
聞いてすぐにアイズとハクアが走り出し、それを追うように仲間が続いた。
そこに前からパルゥムの少女が走ってくる。
「お願いします。冒険者様、ベル様とクロ様を助けてください」
そう言って倒れかける少女をアイズが抱き上げ、場所を聞くとその場所へと急いだ。
開けたルームに着くとそこには白い冒険者が倒れていた。
ハクアはクロがいないと辺りを見回す。
壁際にクロはいた。
まるで壁に背を預けて座るように、しかし、クロの瞳は濁り、口からは血を吐いた跡がある。
ハクアは駆け寄り呼びかけるが返事はない。それでも、必死に呼びかけ続けた。
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目が霞む、身体はあちこち痛くて腕も上がりそうも無い…
当たり前か……
俺の装備はあんな化け物を相手にするような想定はしていない。
躱して攻撃はなるだけ受けない。だから重いアーマーは装備せずにエイナさんに貰ったプロテクター位しかまともな防具は付けていないから……
霞む目線の先でベルが再び立ち上がりミノタウロスへ向かっていく。
動けよ! 俺の身体⁉︎
共に歩む家族と仲間。それに共に成長出来る希望も見つけたんだ…
だから動けよ⁉︎
いくら念じようとも身体は動かない。
なぜ俺はここで倒れている?
なぜ昔のような力が無い?
力が欲しい…
昔のような力が…
対価でもなんでも払うから、今だけでも昔の力を取り戻させてくれ‼︎
どれだけ思いを抱こうともそれが叶う事はない。
目の前でベルがミノタウロスの大剣をナイフで弾く。
先程とは違いミノタウロスと対等に渡り合うベルの姿がそこにうつる。
ベルは凄いな……
瞳を動かすとアイズにハクア、それに
ほら見ろ、言っただろ? あいつは必ず強くなるって
そう思って、クロは意識を手放した。
クロが意識を手放してしばらくして、ベルは【ロキ・ファミリア】に見守られる中、ミノタウロスの大剣を奪い糸口を掴むと、ミノタウロスの体内で魔法を爆発させ、ミノタウロスの息の根を止めた。
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クロが目を覚ましたのはバベルの治療施設のベットの上。
目を覚ました事に気付いたリリが隣のベットでベルの看病をしているヘスティアに声をかける。
どうやらリリは俺の看病していてくれたらしい。
泣きながら抱きついてくるリリの頭を優しく撫で、ヘスティアの話を聞く。
あれからベルはミノタウロスを倒した後、精神枯渇で意識を失い、クロと共に金髪金眼の少女達の手でここまで運ばれてきたらしい。
ヘスティアが、リリに水を入れて来てくれるようたのみ、リリは部屋を出て行った。
「クロ君、ステイタスの更新をしようか?」
ヘスティアは笑顔でそう言うとステイタスを更新していく。
いつものように成長は無いだろう。
クロはヘスティアが面と向かって話したく無い理由が分かる。
背中からいつものように話すヘスティアの声は涙ぐんでいて、心配をかけたと実感させられる。
ふと、ヘスティアの声が聞こえなくなった。
クロが振り向くとヘスティアは慌てて紙にステイタスを書き写しクロに話しかける。
「クロ君! ステイタスが更新できたよ、ほら!」
ヘスティアが見せてくれた紙をクロは覗き込む。
クロノス・ヴァレスティ
Lv.1
力:S999→SS1000
耐久:S999→SS1013
器用:S999
敏捷:S999→SS1009
魔力:S999
《魔法》
【記憶の扉】
『一時的に封印の鎖を全て断ち切り過去の力を解放する。ただし、代償として大切な記憶を一つ失う』
《スキル》
【封印の鎖】
『この封印はクロノス・ヴァレスティの氷が溶けて行くにつれて断ち切ることができる』
【成長する意思】
『仲間と共に成長する意思が続く限り、限界を越えてでも成長は止まらない。』
とびきりの笑顔を、向けてくるヘスティアにクロも笑顔を返す。
この魔法は絶対使わないようにと注意されるがもちろんクロも使うつもりはない。
今は素直に家族と、仲間と共に成長出来る喜びを噛みしめようと思う。
あとがき
この話でエピローグも兼ねております。
次章もおたのしみに。