ベル君が生き倒れを拾ってきたのは間違いだっただろうか 作:ウンニーニョ
薄暗く光る洞窟の中を4人の人影が進んで行く。
4人は誇りにまみれ、所々に細かな傷をつくり、ある者は血を流し、ある者は肩で支えられ、身につけるサラマンダー・ウールもボロボロである。
「リリ、残っているアイテムは……?」
「ポーションが四つに解毒薬が二つ、ハイ・ポーションはありません…」
その言葉にクロは唇を噛み締める。
ダンジョンの脱出には絶望的な状況…
前衛の一人であるヴェルフは片足の骨を折り、ベルが肩を貸して支える。
前衛の、一人と中衛を欠いた状況。
そして何よりここは13階層では無く、さらにその下。
周りで壁から落ちる小石の音などのわずかな音にも4人は振り向き、そこにモンスターが、いないことを確認すると胸を撫で下ろす。
警戒に次ぐ警戒で4人の精神は削られていく。
4人は装備の確認、そして今後の方針を相談する。
そしてリリの口から話された言葉にさらなる絶望が襲いかかる。
「クロ様、ベル様、ヴェルフ様、取り乱さずに聞いて下さい。これはリリの主観ですが……今いる階層は、
しかしリリから出た次の言葉にわずかな希望も生まれる。
「ここからが本題です。上層への帰還が絶望的であるのは間違いありません、ですが。ここであえて
リリは地上へ戻るよりも
足の折れたヴェルフを担いで地上を目指すよりも今落ちて来たような縦穴を利用して下へ落ちた方が可能性があると考えたのだ。
しかしこれは賭けだ。
当然だがダンジョンは下へ行くほどにモンスターが強くなる。
そして17階層には
通常のモンスターとは次元が異なる存在。
階層主《
しかしこのモンスターは二週間前に遠征へ出発した【ロキ・ファミリア】が倒しているだろうと予想した。
下層へと進む時【ロキ・ファミリア】ほどの実力者達なら無視せずに倒してしまった方が安全だからだ。
リリの提案は選択肢の一つであり、その決定はこのパーティのリーダーであるベルへと託された。
☆★☆★
『ニャー…やっぱりクロの背中は落ち着くニャー』
『そんな事言って、ただ疲れただけでしょう』
レナスに注意されたミリィは顔をプクッと膨らませながら反論する。
『そんな事言っても休憩する場所も無いダンジョンが悪いニャ!』
『ハハハ、そうだな。モンスターの出現しない休憩できる階層があればもっと攻略も楽になるなあ』
『クロノス様、何を笑っているんですか! そんな冒険者に優しいダンジョンがあるわけないでしょう⁉︎ ねえクロ?』
『でもそんなダンジョンがあったらいいなあ。見張りを交代しながら野営するのは精神をすり減らすから。ゆっくり寝たいなあ』
『もう、クロまで!』
そのやり取りに周りの仲間が声を上げて笑い出す。
一番大きな声で笑ってレナスに睨まれて頭を掻くオーディンや論点をずらしてしてやったりといった顔をするミリィ。
そしてため息を吐き出すと笑い出すレナスと、賑やかなパーティがダンジョンを下へと進んで行った。
☆★☆★
18階層の…安全階層?
昔を思い出し目を点にするクロにベルが「クロ君もそれでいい?」と確認を取る。
ベルの下した決断は下へと進む事だった。
クロは頷く事で返事を返し4人はわずかな望みを求めて縦穴を探した。
☆★☆★
現在17階層
あと1階層下に降りる事が出来れば目的の安全階層だ。
しかし16階層でミノタウロスと遭遇し、ベルが応戦してくれ切り抜けられたのだが、その所為でベルの精神力も疲弊してしまったしパーティは疲労の所為で会話すら無く隊列も崩れてしまっている。
ただ全員無事で18階層へたどり着く。その意志だけが体を動かしていた。
幸いなのは17階層は嫌に静かでモンスターとの遭遇もなく進む事ができていた。
そしてこの開けたエリアの出口にあたる穴は傾斜がついており、下の階層へ進める事を示している。
つまりは目的の場所だ。
全員が無事にたどり着けた事に喜びを覚え、出口へと歩み始めたその時だった。
ピキピキと嫌な音を立てて壁から巨大なモンスターが産み出され始める。
階層主、迷宮の孤王《ゴライアス》
7Mほどある巨人は4人の希望を握り潰す為にベルとヴェルフ、遅れていたリリとクロの間で産声を上げた。
クソッ。賭けに負けた。
クロは心の中でそう呟いた。
ベルとヴェルフは出口の手前でゴライアスを見上げ横ではリリが絶望と恐怖で震えている
クロは拳を握り締めるとその眼には何かの決意が込められていた。
震える口の口角を無理矢理にでも上げ笑顔を作るとリリの頭を撫で言葉を紡ぐ。
リリの表情が驚きに変わる間も無くクロはリリをベル達に向かって放り投げた。
ベルとヴェルフは驚きリリを受け止めるが疲弊した体は衝撃に耐えられずに倒れこみ出口から坂を転がり下層へと進んで行く。
(スヴェン、今ならお前の気持ちがわかる。仲間だけでも生かそうと殿を務めたお前の気持ちが……
ただ、俺は置いていかれた気持ちも知っているから、足掻いて、希望を掴んでやる。
デカブツ! 俺は殺されてなんかやらないからな‼︎)
仲間の元へたどり着こうとする意志に呼応してクロの中では鎖が一つ弾け飛び、今までの疲労が嘘のように体は軽い、そして、恐怖は…ない。
(行ける)
ニヤリと口から笑みがこぼれるとクロは槍を構え、巨人へ向かって駆け出した。