ベル君が生き倒れを拾ってきたのは間違いだっただろうか 作:ウンニーニョ
椿から大鎌を受け取ったクロは家族の元へと急ぎ森を抜けていた。
遠くでは巨人に立ち向かう冒険者達が見える。
クロは道を塞ぐモンスターの中をまるで大鎌とタンゴを踊るように通り抜ける。
クロが過ぎ去った後そこに居たモンスターは全て命を刈り取られていた。
その時、黒い
空気が震えるのと同時にクロのいる場所はで衝撃が駆け抜け、巨人と戦っていた冒険者達が吹き飛ばされるのが見えた。
「
クロは足を止めてそう叫んだ。
咆哮とは恐怖を喚起し束縛する通常の威嚇では無く、魔力の込められた衝撃波。いわば見えない弾丸のような物だ。
事実階層主であるゴライアスの通常種は使ってこなかった。
もし咆哮を使う階層のモンスターと同レベルだとすれば【ロキ・ファミリア】が帰ってしまったこの階層の冒険者でどれだけの冒険者が太刀打ちできるだろうか?
クロは後ろから飛びかかってくるモンスターを大鎌で薙ぎはらうと遠くで巨人と戦っている白い冒険者の元へと急いだ。
☆★☆★
クロがベル達の元へとたどり着いた時、後方から叫ぶ声がした。
アスフィが街の冒険者を連れて後ろの高台に到着し、魔法の使える冒険者達は魔法の詠唱を始め、アスフィはこちらへと向かってきているようだ。
「ベル! ヴェルフも無事か?」
前線で緑の冒険者が戦う後ろでベル、ヴェルフ、クロは集合した。
「クロ、ヴェルフ! 無事でよかった。命さん達は?」
「大丈夫だ、今あいつ等は他のモンスターの相手をしてる」
あたりを見回すとこの階層に集まって来ているであろうモンスター達を街の冒険者達が築いた補給地点へ近づけさせまいと戦う命と桜花の姿があった。
「お前等はどうする? 俺達と一緒に周りのモンスターを叩くか?」
ヴェルフが質問してくるがクロは無言で黒いゴライアスを見上げる
「僕は……」
ベルが何か言いかけた時、前衛攻役の小隊からベルへ半ば面白がるように怖気ずいたのかと野次が飛んできた。
しかしその言葉のおかげかベルの気持ちは決まったようだ。
「ベル、行くか」
「うん……」
「……行ってこいよ。階層主を張り倒したのは俺の
「うん!」
笑顔で送り出すヴェルフにベルもまた笑顔で頷く。
「クロ、お前のその武器は見たこともないがそれでいけるのか? なんなら槍を調達してくるが……」
「やれるさ! 俺の為に神様がくれた武器だ」
「なら問題ないな。行って来い!」
クロはヴェルフの言葉に無言で頷きヴェルフに背を向け歩み出すとその足は徐々にスピードを増していく。
そして白と黒の冒険者は最前線へとその身を投じた。
☆★☆★
物理的な攻撃は余り効果がなく、ダメージと言うダメージを与えられたのはLv.4冒険者のリューとアスフィだけだった。
クロやベルの攻撃は弾かれるという事はないが効いているかと言われれば微妙なところだ。もしもメーターなどが表示されていれば数ドット削っているだろうか?
後方で詠唱していた冒険者達の魔法もダメージを与え、体の一部を破壊したものの、ゴライアスは自己再生で破壊された部分を直し、何事もなかったように暴れている。
今はリュー、アスフィ、クロがゴライアスへと攻撃を仕掛けている。
クロが関節などの急所と思われる部分にタイミングよく攻撃し、注意を引きつけることでリューとアスフィの攻撃のバリエーションが増え、より効果的に攻撃が行えている。
それを一番実感しているリューとアスフィの2人は本当に貴方は何者ですかとため息をもらす。
ベルはそのすぐ後ろで【英雄願望】をチャージしている。
インファント・ドラゴンを一撃で屠ったベルの必殺技の最大出力で放つ為だ。
チャージが終わったのかベルが前線へ戻って来る。
クロ達3人が道を開けると同時にベルが叫んだ。
「【ファイアボルト】‼︎」
白い稲妻とともに轟音が轟き、ゴライアスの顔面を八割方消し去り、この階層の果てに魔法を炸裂し、絶壁を爆砕した。
射線がそれた。
胸部を狙ったはずが、その威力に狙いが定まらずに頭部に命中したのだ。
頭をほぼ失い動きを止めた
勝った。
冒険者達はそう思い歓喜の声を上げようとしたその時、夥しい赤い粒子が巨人の首元から溢れ、失われた顔を再生してしまった。
歓喜を上げようとしていた冒険者達が声を飲み込んだのと同時、ゴライアスは自分の顔を消し去った攻撃を放ったベルに向けて咆哮を放った。
先ほどの反動により動けないベルを助けようとクロは駆け出すが間に合わない。
なすすべなく咆哮を受けるしかないベルの前に、1人の影が割って入った。
その人物は桜花。【タケミカヅチ・ファミリア】に所属する冒険者でベル達の助けになると誓った冒険者だ。
彼と共にベルは吹き飛ばされるが衝撃を受けたのは大盾を構えた桜花で、ベルは吹き飛ばされた桜花に巻き込まれた形だ。
転がったベルにクロが駆け寄り、そしてヘスティアとリリにヴェルフも遅れて駆け寄って来る。
意識を手放しているベルの姿を見るとヴェルフは何かを決意した様に大刀を放り捨て、東の森へと駆け込んで行った。
一方の桜花も【タケミカヅチ・ファミリア】のメンバー千草と命が駆け寄っている。
「エルフ君、行ってくれ。少しでも長く、時間を稼いでくれ」
「ベル君は絶対に起きる。起きて、あのモンスターを倒す」
ヘスティアの言葉を信じ、今はできる最善にリューはゴライアスの足止めに向かう。
クロも目を覚まさぬベルに「早く起きないと俺が倒しちまうぞ」と悪態を付き足止めに向かう。
後ろで必死にベルへと呼びかけるヘスティアとの声を聞きながらベルが必ず立ち上がると信じて。
☆★☆★
リューが戦いながら魔法の詠唱を始める。
高速戦闘下における並行詠唱は並みの冒険者に真似できるものではない。
周りで見ていた冒険者達は戦慄する。
それを見てそこに至らぬ自分に不甲斐なさを感じながらもいつかそこへとたどり着くと心に誓い命と言う少女もゴライアスを足止めする為に詠唱を始めた。
リューと命の詠唱が完成し、ゴライアスの足が止まる。
しかしそれは一瞬のことで、その魔法を引きちぎる様にゴライアスは前へと進み始める。
まだ魔法で動きは抑制されているが破られるのも時間の問題だろう。
その時、ゴライアスが抑制される体に痺れを切らしたのか目を覚まし、次の一撃の為に【英雄願望】をチャージしていたベルへ向けて咆哮を放った。
抑制されていることで威力が下がっているかもしれないが直撃すればタダでは済まない。
クロはベルを守る為に射線上へと立ちはだかった。
先ほどの桜花に感化されたのか、魔法も使えない。攻撃も通らない自分に出来ることはベルへと希望を繋ぐことだと思ったからだ。
クロは吹き飛ばされベルやヘスティアの元へと転がる。
「「クロ君!」」
ベルとヘスティアが心配そうに声をかけるがクロはボロボロになりながらもフラフラと立ち上がりベルへと笑いかける。
身にまとっていたコートは破れ、衣服はボロボロになっているもののヴェルフにもらったマッドブラックのプロテクターはしっかりとクロへのダメージを減らし、命を繋ぎ止めた。
「破られます……⁉︎」
命がそう言ったのと同時に魔法が破られた。
そこへ長剣を構え、走りこんできたヴェルフがその一撃を放った。
「火月いいいいいいいいいい‼︎」
その一撃の為だけに名付けられた『魔剣』の真名をヴェルフが叫んだ。
仲間を守る為に忌み嫌う己の魔剣を発動させる。
それと同時に魔剣は粉々に砕け散った。
オリジナルの魔法を超える伝説の魔剣はゴライアスを燃やし尽くす。
しかしそれでさえ一時の足止めにしかならずにゴライアスは体を再生し始める。
ただその一時だけの時間があれば十分だった。
チャージが終わったベルはリリが持ってきた下層のモンスターの牙か何かであろう黒い大剣を振りかぶり渾身の一撃を放った。
先ほどの様にそれることなく炸裂した。
純白の極光がフロアを埋め尽くし、光が消えた後に残ったのは上半身を失ったゴライアスの下半身だけが残り、彫刻の様にその場で静止している。
再生する気配も無く、下半身が灰へと変わり、ドロップアイテムと巨大な魔石だけが残った。
それを見て冒険者達は勝利の雄叫びをあげる。
終わったと誰もが思ったその時、天井に頭蓋骨に肋骨が百足の足の様に動く見たこともないモンスターがカタカタと音を鳴らして張り付いているのを冒険者の1人が気づいた。
カタカタという音が次第に大きくなり、天井から飛び降りるとゴライアスの魔石に取り付き、その肋骨を魔石へと突き刺した。
そして変化が起こる。
魔石を核として新しい体が生まれ、まるで骨の鎧を纏った黒いゴライアスが再生した。
先ほどの歓喜の声はどこへ行ったのか疲弊しきった冒険者達は絶望に包まれた。
その時、歌が聞こえた。
『時計の針は逆巻き回り』
ヘスティアはハッとクロを見て叫ぶ
「止めるんだクロ君! それは使っちゃいけないって言ったじゃないか! キミのその魔法は_____」
クロはその言葉にヘスティアの方を振り向くと笑顔を返し
『全ての鎖を解き放つ。我が名はクロノス・ヴァレスティ! 神殺しの英雄なり!』