ベル君が生き倒れを拾ってきたのは間違いだっただろうか 作:ウンニーニョ
クロ、ベル、ヘスティアは全力で走っていた。
後ろから追走するのは人の2倍程の大きさのモンスター《シルバーバック》
クロとベルの到達階層である6階層よりもはるか下に出現するモンスターである。
おかしい、周りに人が溢れてるのに僕達だけを狙ってきてる? 神様の体力はもう限界だしクロ君は今武器を持っていない…僕が、なんとかしなきゃ。
☆★☆★
「クロ君、神様を頼んだよ」
ベルはそう言って一人で立ち向かって行った。
クロはその光景に昔を思い出す。
『オーディン! 何やってんだよ‼︎ 助けに行かなきゃ、スヴェンが…スヴェンが…』
『クロ、スヴェンは自分から殿を引き受けたんだ。…俺たちがしなきゃいけない事は無事に地上へ帰る事だ‼︎』
『だからってスヴェンを見殺しにしていいのか? 答えろよ! 父さん、オーディン‼︎』
あの時、未到達階層であった◯◯階層での
違ったのはクロが立ち尽くしている間にヘスティアがベルの元へ向かったこと。
武器を壊され、なす術の無かったベルに漆黒の短刀を授けたこと。
ベルはボロボロになりながらも、見事シルバーバックを撃破してみせた。
しかし、この騒ぎはそこで終わらなかった。
さらに2匹のシルバーバックが現れたのだ。
先ほど倒されたシルバーバックがドラミングしていたのが原因だろう。
ベルは先ほどの戦闘のせいでもう戦えそうにない。
カタカタッ
繋がりを作りたくないんだ。
違う!
繋がりをなくしてしまうのが怖かったんだ。
繋がらなければ無くなる繋がりもできないから…
もう、失いたくないから…
カタカタカタカタ
それでも大切な繋がりが、
失くしたくない繋がりができたなら…
全力で守ってみせる。
ガタガタガタガタ
クロがヘスティアに寄りかかるベルの前に出る。
「コレなら使える」
そして先ほどの騒動で転がっていた他の冒険者の物か、売り物なのかも分からない槍を拾い上げる。
ガキンッ
そして構えた時、ヘスティアにはクロを縛っていた鎖の一つが弾け飛んだ幻影が見えた気がした。
☆★☆★
アイズ・ヴァレンシュタインは走っていた。
あらかた怪物祭から逃げ出したモンスターを片付けた時、白い髪の兎の様な冒険者がモンスターと戦っていると聞いたから。
その場所へ向けて全力で走っていた。
「待ってくださいよー! アイズさんどこ行くんですかー?」
それを追いように【ロキ・ファミリア】の副団長であるリヴェリアと後輩であるレフィーヤにハクアが続いて走っていた。
「白髪の冒険者が一体倒したんだけどよ、やったと思ったらもう二体現れやがった」
現場へたどり着いた時、アイズは周りから聞こえたそんな言葉に頬を緩ませる。
シルバーバックを倒した……? …おめでとう
アイズは心の中で少年を祝福した。
しかし、後二体いるのだ。
「あいつ! この前の奴じゃない⁉︎」
後からたどり着いたハクアのそんな声に、アイズ、リヴェリア、レフィーヤは注目する。
ハクアの声が少し苛立っている。
三人がそう感じたのは間違いでは無かった。
ハクアはクロの事を上級冒険者に意見した生意気なヤツだと思っている。
あの時のベートは言い過ぎだが、弱い冒険者は引っ込んでろと言うのには賛同できる。
自分を含めて弱い冒険者が意気がっても死が待っているだけだからだ。
ハクア自身もLv.2になって一年半以上、早くLv.3になって遠征に連れて行って貰おうと日々努力しているのだ。
それを、まだ5階層ソコソコしかたどり着いていない冒険者がシルバーバックに立ち向かうなんて命を粗末にしているとしか思えない。
4人は助けに入ろうと武器に手を掛けた時だった。
動き出した黒い少年の動きは想像をはるかに超えており、4人は言葉なく魅入ってしまうのだった。
☆★☆★
クロは槍を振り回し、感触を確かめるとシルバーバックの一体に向けて突進した。
そのまま槍を突き出すかと思わせ、シルバーバックがカウンターぎみに右腕を突き出してきたところを回転し、紙一重に躱しぎみに一薙ぎ。
シルバーバックの腕を切り離した。
「ウブォ?」
何が起こったかわからず無くなった腕を見ているシルバーバックの胸めがけて一突き。
核である魔石を砕き絶命させた。
仲間を殺された事に怒りを覚えたのかもう一体のシルバーバックは雄叫びを上げる。
その間に既にクロは動き出していた。
足元に転がっていたベルがヘスティアに漆黒の短刀をもらう前に使っていたナイフの折れた刃先。
それを踵で跳ね上げ、宙に浮かせたところを槍で弾く。
打ち出された刃先はそのままシルバーバックのゴーグルを貫き、右眼から脳を貫通する。
雄叫びを上げていたシルバーバックはそのままクロに攻撃する事なく絶命し、膝から崩れ落ちた。
「…クロ君、本当に君は何者なんだい?」
周りの住民が歓声を上げる中ヘスティアは目を見開きながらそうつぶやいた。
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「何? あの戦い方⁉︎」
はじめに声を出したのはレフィーヤだった。
リヴェリア、アイズ、ハクアも息を飲んで見ていた。
自分たちが知っている槍の使い方では無かった。
槍はガタイに恵まれた冒険者が盾と共に使い、攻撃を盾で受けとめて槍で突き刺すのが一般的だ。先ほど見たような舞い踊る様に戦う姿は見た事がない。
「本当に彼は5階層でアイズさんが助けたヤツなの⁉︎」
ハクアの声には先ほどの様な怒りの声は含まれていなかった。
かわりに何か別の感情が含まれていた様だが、それに気付く前に4人に自分たちの主神である朱髪の女神か声を掛けてきたため、気付く事はなかった。
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「ヘスティアには悪い事したけれど……もう、妬けちゃうわね」
とある人家の屋上。
先ほどの戦いが一望できる場所に日の光を反射する銀色の髪の女神、フレイヤは呟いた。
銀瞳の先には緊張の糸が切れたのか気を失い、ベルに抱きかかえられ、クロに心配されるヘスティアが居た。
「おめでとう。まだ少し情けないけれど……ふふっ、ええ、格好良かったわ」
「それに、大きな収穫もあったわ。 ロキには感謝しなくちゃね」
あの時のロキに言われなければ気付く事がなかった。
自分の見初めた見た事のない透き通る透明の魂の子、その隣に立つ魂の
見えないなんて事、今まで無かった。
その少年がどういう存在なのか、興味が尽きない。
「また遊びましょう_____ベル。それに、クロ」
光を受けキラキラと光る髪を翻し、彼女はその場を後にした。