「皆さん本日もお集まりいただき、ありがとうございます。さて、長々と語ることもないので、早速本日の駆逐艦娘限定、司令官LOVE勢会議を始めましょう」
長方形の長机、その上座で碇ゲン◯ウのような姿勢で、吹雪はそんなことを言い始めた。
お集まりいただいたも何も、ここは自分たちの部屋である。まるで長のように吹雪がいるけれど、本来彼女の部屋は別にあるのだけれど。何故ここに集まることにしたのか、たぶん勢いだろう。
頑張り屋で真面目な子ではあるが、しかしときたまこのようにして暴走することもある。
そこがまた可愛いところではあるのだけれど、巻き込まれている身としては少し自重をしてほしいというのが本音ではある。
「んーっ、んーっ!」
吹雪の後ろで簀巻にされて口を手ぬぐいで防がれた曙が、半泣きで何かを訴えているが、吹雪は意にも介せず無視をしている。
もちろん曙を縛った犯人は吹雪だ。うちの鎮守府では駆逐艦の中では最も練度の高い彼女に勝てる相手はいない。更なる改装ーーいわゆる改二にもなっている彼女には、曙ではさすがに荷が重いか。
姉妹艦としては助けてあげたいところだけど、そうできない訳がある。
単純に、駆逐艦限定だが鎮守府最強と名高い吹雪に、自分では敵わないということもある。だがそれ以上に、吹雪は単独犯ではないからだった。
お集まりいただいたーーという言葉は、自分からすればおかしなものではあるが、しかしそれは同時に、他に集まってきているものがいるということでもあった。
駆逐艦娘限定、司令官LOVE勢ーー通称『SDK』。 司令官大好き駆逐艦という、そのまま過ぎるネーミングをした集まりが、この鎮守府でひそかな勢力として活動され始めたのは、重巡洋艦、古鷹さんが提督とケッコンカッコカリをした頃だっただろうか。
それまでは水面下で互いを牽制し合っていた艦娘たちが、まとまり、ひとつの目的に向かって共に行動をするようになった。
それは、提督とのケッコンカッコカリだ。
ケッコンカッコカリは複数の艦娘とすることができる。今は古鷹さんのみだが、いずれは自分たちもと意気込んでいるわけだ。この際、いがみ合っていないで仲良く提督を分け合おうーー数で押し切ってしまおうという、極めて単純かつ残念な計画を推し進めたのは、この吹雪だった。
しかし、賛同者は多い。
ひとつに、今さら唯一のひとりになんてなれないというのもあったのだろう。そして、そもそも複数人との恋愛にさして問題を感じないという大らかというか、なんというか。男子たるもの女子の二人や三人侍らせるぐらいが格好良い、なんて、価値観すらあるようだ。
それ以上に、大好きな人と繋がることができるのなら、そんなことは問題じゃない。大好きな人と、大切な仲間たちとが一緒に結ばれるなら、それはとても幸せなことだよ、と吹雪は笑顔で言っていた。
まあ、そんなわけで。
吹雪の下には仲間がいる。曙を助けようと動けば自分までやられてしまいかねないので、見捨てることにした。曙、尊い犠牲だったよ、たぶん。
「それで朧ちゃん、何かいい案ないかな?」
「当然のように朧に話を振らないで」
そもそも具体的に何の話をしているのか。何の案を上げたらいいのかもわからない。
「そもそも集まって何をしているの、みんな」
「えっと、おやつ食べたり、トランプして遊んだりしてるよ」
「それは遊んでいるって言う、と思う」
「あはは、重大な抜け駆けとかない限りは会議は平和に遊んだりするだけだもん」
定期的に集まって遊ぶだけ……駆逐艦は見た目どおりに中身が子供っぽかったりするのだけど、SDKのみんなも例には漏れないようだ。
「ハラショー、こいつは力を感じる」
「はわわ、できればジョーカーを捨てたいのです」
「電、自分の手札にジョーカーが来たって言ったらダメじゃない。ババ抜きはポーカーフェイスよ」
「ババ抜きって、子供っぽくてレディには退屈だわ。もっと大人のゲームをしましょうよ、ポーカーとか!」
ポーカーが大人のゲームだと思っているあたりが子供だと思うよ、暁。
特に幼さが目立つ暁型や睦月型もこの集まりに来ているのだから、うちの提督は本当に人気者だ。このあたりのメンツは子供に好かれる、という意味合いが強いのかもしれないけれど。
「というか、なんで曙を早々に縛ったの?」
「だって司令官のことをクソ提督って言うのに、水着姿を一人で見せびらかせていたんだもん」
「ああ、提督にもらった水着。絶対に見せないなんて言っていたのに、曙ったら」
「朧ちゃんも司令官に水着もらってたよね。見せないの?」
「……提督に見せるのは恥ずかしいから、いい」
「あはは、赤くなってる。可愛い」
むう。吹雪優位に進んでいる。対空戦の教えを請うていた、あの可愛い吹雪はもういない……そもそも五航戦に所属していたとは言え、あまり対空戦が得意だったというわけではない自分に、どうして彼女が教えを請うたのかは未だにわからないが。
まあ、というか、物凄い速度で練度を上げて、改二になって対空ステータスも大きく伸ばした彼女には、自分ではもう教えるどころか、到底追いつくこともできないのだろうけれど。
「……それで、どうしてこの部屋で集まるの?」
「ダメだった?」
「良いって言うほうがおかしいと思う」
「あはは、だよね。うん、実は理由はちゃんとあるんだ。曙ちゃんを簀巻にして、潮ちゃんの胸を揉んで、漣ちゃんのうさちゃんと戯れるっていう」
「今すぐ出ていってもらう」
「ああん、冗談だよ、冗談」
だから追い出さないで、と笑いながら言う。
まったく……どこまで冗談だったのか。曙を簀巻にするっていうのは、事実としてやっているし。
「実は朧ちゃんに頼みたいことがあってね、それを伝えに来たんだ。集まりはそのついで。朧ちゃんとみんなで遊びたかったってのも、あるかな」
「……頼みたいこと?」
「うん。とっても簡単なこと」
明日の秘書艦、朧ちゃんにお願いしたいなって。
吹雪が言った。
明日のーー秘書艦?
彼女はそう言ったか。怪訝に思う。それはとても簡単なことで、そもそも秘書艦という立ち位置は提督の仕事を補佐する、言わばパートナーだ。必然的に一緒にいられる時間が長くなる。だからそこを狙う艦娘たちは後を絶たないし、既に秘書艦の地位を得ているものは容易くそれを渡そうとはしない。
それがこうして、自分にお願いしてくるのだ。不思議に思う以上に警戒してしまうのは仕方ない。
それも司令官LOVE勢の筆頭の吹雪が、となるとこれはもう、警戒をして更に警戒するぐらいでも足りないぐらいかもしれない。
「何か企んでる? だとしたら、断るけれど」
「もう、疑り深いなぁ、そんなところも可愛い。別に何も企んでないよ。ただわたしも古鷹先輩も、明日は一緒に南方へ出撃があるから代わりを務める人を探していたんだ」
そう言えば、そんな話があった気がする。第六戦隊の人たちと、第十一駆逐隊から吹雪と叢雲が出る六隻編成で、南方への出撃任務だとか。
なるほど、だから自分に秘書艦を頼む。吹雪が誰かに秘書艦を代わってもらう理由としては、確かに理屈は通っている。けれど、それは確かに代わってもらう理由であっても、自分である理由にはならない。
わざわざ自分に頼みに来たのだ。それだけでは理由にはならない。
「もう、朧ちゃん、そんな顔して。まだ疑ってるなんて、わたし、何か朧ちゃんにしたかなぁ」
「何もしてないけど……理由はいるよね? 秘書艦になりたい子ならいっぱいいるのに、なんで朧に頼むのかなって」
「そんなの決まってるよ。わたしが朧ちゃんを信頼してるからだよ。朧ちゃんなら安心して司令官を任せることができる」
「それは、どうも……ありがとう」
そんなにまっすぐな目で言われると、照れる。
それと同時に、そこまで信頼されるような奴ではないんだけどなあ、とも思うけれど。
まあ、他の子たちと比べると、提督LOVE勢ではない自分では、暴走して余計なことをしたり、抜け駆けをするようなこともないという、極めて打算的な判断がそこにあったのは、想像に容易いけれど。
朧には、恋というものが、よくわからない。
「おっと、信頼と言えば私じゃないかな。信頼の名は伊達じゃないよ」
「聞いてたんだ。うーん、響ちゃん……じゃなかったね、ヴェールヌイちゃんはまた今度ね。信頼してるよ、ヴェルちゃん可愛い、大好き」
「さすがにこれは、少し恥ずかしいな……」
「あはは、ヴェルちゃん赤くなってる。可愛い」
可愛いやつめ、可愛いやつめ、と吹雪はヴェールヌイを抱っこして頬擦りをしている。
されるがまま、やられるがままのヴェールヌイは案外と吹雪の親愛表現に満更でもなさそうだが、とは言えあのまま放っておけばほっぺたとほっぺたがくっつくまで続けかねないので止めよう。
別に、朧には口で言うだけで、ヴェールヌイにはスキンシップまでしていることに嫉妬したりしているわけではない。たぶんじゃなくて、本当に。
嫉妬なんてするわけない。
吹雪は特型駆逐艦すべての姉ではあるが、朧は別にお姉ちゃんっ子でもないし、吹雪には対空戦を指導した、言わば師と弟子のような関係なのだから。
むしろ上から目線で接するぐらいが正しい。
たぶん。
「吹雪は誰彼構わず可愛いって言い過ぎよ。ほら、困ってるでしょ。ヴェールヌイを離してあげて」
「あれ朧ちゃん、もしかしてヤキモチ? あは、可愛いなぁ。大丈夫だよ、朧ちゃんも可愛い、大好きだよ」
「誰がヤキモチなんてやくの!」
「わわ、怖い怖い。うんうん、朧ちゃんもハグハグしてあげよう」
「いーらーなーいー!」
「良いではないか、良いではないかー」
結局、押し切られてしまい、ほっぺたが赤くなるまで頬擦りをされてしまうことになったのだった。
01
「しかし、今日は本当にすまないな、朧。慣れない書類仕事をさせて」
提督は執務室の机から、書類に目を向けたまま言う。朝から数えて本日三度目の言葉だが、本人は果たして自覚をしているのか。はたまたそれほどまでに自分の書類仕事をする姿が覚束ないように見えているのか……はたしてどうなのだろうか。
確かに、自信があるわけではないけれども。
言われている自分もまた書類ににらめっこ状態である。今月の資材消費量、工廠での装備開発記録のまとめ、艤装の管理表や食堂間宮や居酒屋鳳翔への食材卸のチェック、色々とある。
ハンコを押せばいいだけ、なんてことはない。
しっかりと目を通して、不備がないか確認。不備があればその不備をメモ帳に記載し、該当不備に関しての調査もしなければならない。
一日の仕事量とは思えないほどの量だ。これを普段からこなしている古鷹さんや吹雪は凄いな、と感心をする。
吹雪はあれでかなり優秀な子だ。でも、けっして天才的にこなしているわけではない。最初はミスも多かったと聞いている。それでも、必死に努力をして、なんでもできるようになっていった。
吹雪ほどの努力家な子を、朧は知らない。
「大丈夫ですって。三度目ですけど、秘書艦の仕事もある程度は勉強しているから、わかります」
その吹雪に、今日に備えて昨晩、ある程度のことは聞いていた。
元々艦娘として、秘書艦を務めることもあるかもしれないと、座学で勉強をしていたというのもあるけれど、現状を把握して仕事を円滑に、スムーズに進められるのは、吹雪の情報があったからだ。
こればかりは感謝をすべきだ。とは言えそもそも秘書艦の仕事を持ってきたのは吹雪だし、頬擦りの代金と考えれば、わざわざ礼を言う必要もないか。
調子に乗って、またあんなことをされてはたまらない。
「そうか、そうだったな。いや、朧は秘書艦の経験もなかったのに、突然で悪かったと思ってな」
「いいんですよ。嫌なら吹雪に頼まれた時点で断っていますから、提督は気にしないで」
「そうか、すまないな。以後は気をつける。ああそうだ、適当なところで目処をつけたら、間宮にでも行こうか。奢るよ」
「そんな、奢ってもらうなんて悪いです。提督よりも稼いでいるから、大丈夫ですよ」
「ははは、え、マジで?」
提督の腕が止まり、こちらを見る。上司である彼よりも貰っているというのは、事実だった。深海棲艦を唯一倒すことのできる艦娘という存在を蔑ろにするわけにはいかないということなのか、はたまたその性質上、普通よりも長く生きられないことを哀れに思われているのか、お給料はなかなかいい。
元が艦であったとしても今は女の子であり、それ相応にお金を使う。とは言え管理がしっかりできなさそうな子は、戦艦や重巡のお姉さんがたが財産の管理をしているのだけれど。
確かに睦月型の子たちのような、小さな子に扱わせるには少しばかり金額が大きい。
「あとで貯金見ますか? 特に使わないから、結構貯まっています」
「いや、いい……しかしそうか、朧はちゃんと貯金をしているんだな。偉いぞ」
「使い道があまりないだけです、漣みたいに趣味に使うこともないし、潮みたいにオシャレに気を遣うこともない。曙みたいにギャンブルもしません」
「曙、ギャンブルするのか!?」
「冗談です。……たぶん」
「だ、だよな……はは、びっくりしたよ。朧もそういう冗談を言うんだなーーって、たぶん!?」
「朧だって、冗談ぐらい言います」
からかってみただけだ。そもそも曙がギャンブルなんてしているのなら、止めているし、お金をお姉さんがたに管理してもらうようにしている。
というか、明らかに外見の問題でギャンブル関係のお店には入れてもらえないということは簡単に思いつきそうなものだが、意外と抜けている。
もし吹雪にこの話をしたら、完璧過ぎないで少し抜けているところがまた可愛い、とでも言うのだろうか。それは少しばかり盲目過ぎる気もするが。
……いや、というか、さすがに提督に可愛いとは言わないのかな。それにかっこいいと話すことはあっても、提督のことを可愛いなんて言っているのを聞いたことはない。
「そういえば今日は何か用事はなかったのか? 七駆の子たちと出掛けたりは」
「あったら断ってます。心配はいらないですよ」
「そうか。あ、これ見てもらっていいか? 別に急ぎのものじゃないから、ある程度、一段落着いて落ち着いたらでいいからな」
「了解、そこに置いてください。」
「ああ、頼んだ」
会話はいったんそこで止めて、黙々と仕事を進めていく。カチカチと鳴る時計が執務室内でよく聞こえる。紙をめくる音、ペンを動かす音、ちょっとした息遣いまで聞こえるほどに静かな環境だ。
静かなことは、そこまで嫌いじゃない。たぶん。
普段はあまりこんなに静かなことはないから、少し珍しい。とは言え、静かだから居づらいというわけでもない。それどころか居心地は悪くない。ゆったりと時間が流れていく中で黙々と作業をすることが、存外楽しかったりもするぐらいだ。
物珍しいことをしているから、その新鮮味が理由で、毎日のようにやっていると疲れが優先して出てくるようになるのだろうけれど。
よし、とチェックを済ませて完了した書類をファイリングする。
大まかな流れの作業が一段落したので、提督が頼んだものを見ることにしよう。一見すると簡素なだけのノートだけど、何かをまとめたものかな。たとえば戦術や、敵艦隊出現パターンみたいな。
とにかく中身を想像しているよりも、先に目を通さなければ、とノートを開く。一ページ目を見た感じでは、ざっくりとしたメモ帳のようだ。提督の考えたこと、思ったことをアイデア帳として書き連ねている、のかな。
概要を掴んだところで、最新のページまで飛ぶ。
まだ空欄の多い、最新ページには、一言書かれている。
『聞いた話によると、今日の間宮はプリンがオススメだそうだ。楽しみだな』
……えっと、なんだろうか、これは。
「お、どうやら一段落ついたみたいだな。よし、それじゃあ間宮に行こうか」
と、提督がこちらを見て言う。それを見て、納得する。つまりどういうことなのか、理解した。
「なるほど、そういうことですね」
「ああ、そういうことだ。わかりやすいだろ?」
「そうですね。わかりやすいです」
作業の目安ーーということだったのだろう。
後でいい、と回してきたのは、朧がどの程度作業を進めたのか、わかりやすい目印にするためだ。朧がこのノートに取り掛かった時点、そしてこのメモ書きを見た時点を休憩時間にしようとしたのだ。
本当にそのものそのまま、このノートはただのメモ帳だったということである。
よく中身を読んでみると、今まで秘書艦を務めたものたちとの筆談や、似たような手段を何度も使っていたのか、その日のオススメ商品が書いてある。
提督が甘党なのか、艦娘たちの好みに合わしてなのかは知らないが、ここに書いてあるオススメ商品は決まって甘味だ。
案外、好みのものを勝手にオススメ商品だと言っているだけなのかもしれないな、なんて思ったり。
「朧の今日の気分は蟹身入り天津飯ですよ、提督」
「おいおい、随分とガッツリだな……昼ご飯のおにぎりじゃ足りなかったか?」
「頭を使うとお腹が空くんです」
「ははは、食べ盛りだな」
そんなことを話しながら、執務室を出て、間宮に向かう。
なんか……そこかしこから気配がする。こちらを見られている。まさか執務中、執務室の外にずっと張り付いていたのではないだろうな。盗聴器でもつけられていても、おかしくない。まあ、そんなことをしそうな青葉さんは吹雪たちと共に出撃中だが。
「と、忘れていた。あまり食べ過ぎるなよ。今日は古鷹たちがごちそうを持って帰ってくるからな」
「そうなんですか?」
南方への出撃任務のはずだけど……ごちそう?
「ああ、本土南方のほうで、漁船の護衛任務だからな。お礼に魚介類を貰う約束をしているんだ」
「本土!? え、南方って、南方海域じゃ」
「あっちのほうは、電がレッちゃんーーレ級と仲良くなってるから、攻めないようにしてるぞ」
「え、なにそれしらない」
「あれ、知らないのか。たまに遊びに来てるんだけど。ほら、フード被ってるやつ」
「見たことない……ええ、そんなのでいいの?」
「いいんじゃないか。戦わずに済むのならそれに越したことはないさ、レ級と戦えばこちらも大きな損害を被りかねないからな」
「というか、そもそも電はどこで仲良くなってきたんだろう……」
「さあなあ。だが、電だからな」
「ああ、電ですからね……」
その一言で納得できてしまう人柄の者というのは凄いことだと思う。
02
「やあ、司令官、朧。休憩かい?」
間宮に着くと、響ーーもとい、ヴェールヌイに声をかけられた。他の暁型の子たちが見えないが、ひとりで来ているようだ。彼女の机の上にはホットミルクがある。まだ湯気が出ていて、どうやら注文が届いてからあまり時間は経ってないようだ。
ひとり用の座席も空いている中、わざわざ四人がけの席を占領しているが、そもそも来ている艦娘もそう多くない。昼食時も過ぎたこのぐらいの時間は空いているので、ゆっくりとしたい艦娘は敢えてこの時間を狙い、広々とした空間を利用することもある。
ヴェールヌイもひとりで過ごすときは落ち着いたもので、暁型の姉妹の中でも大人しい。時折自由さが目立つが、基本的には落ち着いた性格だ。
「よかったら相席しないかい? ひとりで飲むミルクよりも、そのほうが美味しいんだ」
「そうか。俺は構わないが、朧はどうだ?」
「構いません。反対する理由もありませんし」
「スパスィーバ。それじゃあ、司令官」
ポンポン、とヴェールヌイが自分の隣の席を叩いて提督を誘導する。提督が誘導されるままにそこに座るのを確認して、彼女は自分の席を立ち、提督の膝の上に乗った。
……………凄く自然な表情のまま、凄いことやったなこの子。
流れ自体は不自然極まりないが、いつもどおり変わらない、クールな表情を変えないままに提督の膝に座ったのだから、器が大きいというか。
提督も、彼女のそんな突飛な行動を特に気にすることなく受け入れているので、口を出す必要はないけれど、それにしても成り行きに身を任せ過ぎではないだろうか、提督。無抵抗どころか、はっはっはと笑いながら、ヴェールヌイの頭を撫でていた。
まるで子供と戯れる父親のようだ。
「ふっ」
どうだ、と言わんばかりの表情を浮かべる。それが誰に向けられたものなのかは、周りから聞こえる歯軋り音だけでだいたい察することができた。
まったく、わざわざ挑発をしなくても。内心苦笑いしながら、そう思う。子供っぽいというか、実際に大人しく大人びていると言っても、ヴェールヌイは暁型の駆逐艦で、幼いのだった。
さて、それよりも注文はどうしようかな。
あまり食べ過ぎると、夕食に差し支えが出る。何せ今日の夕食はご馳走だという話だから、お腹はできるだけ空かせておいたほうがいいだろう。
メニューを開く。むむ、どれも美味しそうだ。お腹を空かせておかなければいけないとは言え、現在時点で既にそこそこの空き具合なのだ。蟹身入り天津飯を求めるぐらいのお腹の空き方だった。
提督はさっさと本日オススメと手書きで書かれたプリンと紅茶に決めていたけれど、やっぱりデザート系で軽いものにしておいたほうがいいのかな。
少しお腹に入れてやれば多少は空腹も紛れる。
「パフェにします。この、チョコレートソースがかかっているやつ。飲み物は提督と同じ、紅茶で」
「全員決まったね。従業員さんを呼ぶよ」
すまない、と提督が手を上げる。それを見て従業員の少女が小走りしながらやってくる。 その後ろを連装砲がついてきているーーいや、あれは連装砲じゃない。高角砲だ。自立思考し行動をする高角砲こと、通称長10センチ砲ちゃんだ。
他に自立する砲台といえば、島風や天津風が連装砲ちゃん、或いは連装砲くんという連装砲を連れているのだが、高角砲となると、その二人は外れる。
高角砲と言えばーー秋月だ。
かつて、共に瑞鶴さんの護衛艦も務めた過去を持つ、朧にとっても縁浅からぬ大事な後輩である。
質素かつ真面目な彼女は、着任してからこの間宮でバイトをしている。本来であれば艦娘としての給料だけでも十分にやっていけるだけのお金は貰えるはずなのだが……どうやらそういう性分のようだ。
染み付いた性というのは、なかなか抜けることはない。
おにぎりと牛缶を贅沢と感じるその素朴な感性は大事にするべきだとは思うが、何事も過ぎたるは及ばず、あまりにも切り詰めるようなことがあれば朧からも注意するようにしたいが、とりあえずは現状のところ、程よく質素な生活をしているだけで、常識を弁えているようなので安心はしている。
何より、間宮で働いていれば賄いもあるし。
秋月を一人で放っておいたら、お金をほとんど使わずに、一ヶ月一万円生活みたいなことを平気でしかねないので、そういう意味でもアルバイトをしているということは安心材料だ。
「おまたせしました。ご注文ですか?」
「ああ、頼む。紅茶がふたつに、名物間宮プリンと特製間宮デラックスパフェを一つずつだ」
「紅茶がおふたつに、特製間宮デラックスパフェがおひとつと、名物プリンをおひとつですね、かしこまりました。ふふ、デラックスパフェは朧先輩ですよね。今日は珍しく小食なんですね」
「夕食もあるから、控えめにしようかなって」
「なるほど。それでは朧先輩、司令、ヴェールヌイさん、ごゆっくりどうぞ」
頭を軽く下げてから、秋月がオーダーを厨房へ伝えに行く。
「このパフェ、確かかなりの量だったはずだけど控えめにって、朧は一航戦だったかな?」
一航戦を大食いの代名詞にするな。それに朧はあそこまでの大食いではない。たぶんじゃなくて本当に、こればかりは自信を持って断言することができる。
そもそも駆逐艦娘と正規空母を比べること自体が物理的に釣り合わないことだ。というかその代名詞的使い方は赤城さんや加賀さんにも失礼である。
……まあ、わからなくはないけれど。
「まあ朧は身体が細いからな。たくさん食べたほうがいい。響……あ、いや、今日はヴェルか。ヴェルも育ち盛りなんだから、いっぱい食べろよ」
「同じ女性としては、あれだけ食べても細いままというのが羨ましいけどね。それから司令官、ヴェルでも響でも呼びやすいほうで構わないよ」
「その日の気分で響とヴェールヌイの艤装を入れ替えるなんてことをやっているから、どっちで呼べばいいのか未だに困るんだよ」
「これもまたひとつのオシャレってやつさ」
「女子のオシャレはよくわからんな……」
提督、朧も女子だけどオシャレがよくわからないです。もしも自由であることがオシャレだとするのならば、ヴェールヌイはきっとこの鎮守府で誰よりもオシャレなのかもしれないけれど。
「オシャレといえば、潮と今度出掛ける予定なんだけど、朧も一緒にどうだい?」
「そう、どこに行くの?」
「ジ◯スコだよ。その商品の豊富さから、ショッピングモールの通り名もあるよ」
「通り名というかそのものだよね」
というか久しぶりに聞いたな、ジャ◯コ。今はその名義を残している店舗は無くなっているのに。
「暑くなってきたし、そろそろ新しい夏服を買いに行こうって話しているんだ。どうかな?」
「服か……でも、去年の服はまだ着れるし」
「でも朧、そろそろキツいんじゃない?」
「えっと、なにが?」
「胸だよ、胸。潮から聞いてるよ。どうやら最近大きくなってきたらしいじゃないか」
真顔でとんでもないことを言った!
「ふぁっ!?」「ぶふっ!」「わっ」
何を唐突に言い出すんだこの子は!?
驚きのあまりに変な声を出してしまった。そして咄嗟に胸を隠して、困ったように視線をこちらに向ける提督を半目で睨めつける。こっち見んなクソ提督、とは曙のセリフだけど、今ばかりは曙ほどの言い方ではないにしても、こちらを出来れば見ないでほしい。朧だって、恥ずかしいと思うのだ。
とんでもないことを言った本人は提督が驚きで噴き出したお冷の水が頭にかかったようで、「冷たいな」とぼやきながらおしぼりで拭いていた。
「潮曰く、去年からサイズを変えてないらしいじゃないか。そろそろ買い換えたほうがいいんじゃ」
「わ、わかった! わかったから、行くから、この話はやめよう!?」
「ハラショー、その言葉を待っていた」
謀られた気がする……断らないように仕向けられたような。いや、そんなことをしなくても、用事でもない限りは別に断るつもりもなかったんだけど。この必要以上に追い詰める感じは、潮の企みか。
思えばヴェールヌイはしきりに潮の名前を出していた。
ふたりが仲が良いのは知っているけれど、朧のことを話し過ぎじゃないだろうか。秘密にしていたわけではないけれど、人の成長状況や下着事情を、気安く喋りすぎだ。後で注意しておこう。
「まあでも、ちょうどいいんじゃないか?」
「……どういうことですか?」
「お金の使い道がないって言っていただろう。貯金は確かに美徳だけど、たまには使わないとな。金は天下の回りもの、とも言うだろう?」
「それ、正確な意味で使ってます?」
「はっはっは、こんな言葉に正確な意味なんて、意味ないだろ。伝わるニュアンスがあればいいのさ」
全国の語学研究者を敵に回したのが、うちの提督だなんてまさかそんなことがあるはずがない。
まったく。よく言えば柔軟だが、悪く言えば適当なところがある提督だ。正しい日本語を使わないといけないなんてことを言うつもりはないけれど。
そんなことを言いだしてしまえば、姉妹艦である漣なんて、本当に日本語なのかと疑わしい言葉を使うし、曙にいたっては上司を相手にクソ呼ばわりなのだから。
だからただの揚げ足取りのようなものである。
「どうせだからふたりに見てもらって色々服を買えばいい。朧なら何を着ても可愛いだろうから、ふたりも楽しんで着せ替えごっこ……もとい、選んでくれるだろう」
「スパスィーバ。それは素晴らしい案だ」
「素晴らしくない。朧は人形じゃないの。……だ、だいたいですね、可愛いだなんて言葉をそんな簡単に使って。吹雪みたいですよ」
「いやいや、率直な意見だよ。俺はいつも朧を可愛いと思っている」
「も、もう……またそうやって適当言って。提督のそういうところ、嫌いです」
「おっと、嫌われてしまったか」
「大丈夫だよ司令官。ね、朧?」
ヴェールヌイが意地の悪そうなニヤけた笑みを浮かべながら聞いてくるが無視をした。
03
休憩も終わり、執務室に戻ってから本日分の仕事はほとんど片付いたと言ってもいいまでに働いた夕刻過ぎ。窓から見える外の光景は斜陽。ぼんやりとした夕焼け色の空が、くたびれた神経におつかれさまと優しく言ってくれているように感じた。
執務作業は出撃とは違った疲労感がある。どちらがしんどくてどちらが楽、なんていうこともない。
んん、と小さく声を出して伸びをする。曲がった背中がまっすぐに矯正されるような感覚が気持ちいい。
ここに珈琲とタバコでもあれば、少しくたびれた大人のようだ。もちろんそんなものはないし、珈琲はブラックも飲めなければタバコなんて吸ったこともないのだけれど。
バタバタバタと騒がしい足音が執務室の扉の向こうから聞こえてきた。
足音は大きなものがひとつと、やや離れたところからゆっくりとした足音で複数のものだ。落ち着き内一人が先行して走ってきていて、後から保護者のように見守る人たち、という感じだろうか。
だとすれば先行してきているのは、想像がつく。
「司令官っ、ただいま戻りました!」
執務室の扉を勢いよく開かせながら、吹雪たちが出撃先から戻ってきた。両手にぶら下げたクーラーバッグを持ちながらどうやって開けたのかと言えば、蹴飛ばしてだった。……蝶番をいじめるのはやめよう。
想像したとおり、走ってきたのは吹雪だった。
そろそろ戻ってくるだろうと考えていた本日出撃した第一艦隊のメンバーを考えれば、そんなことをしそうな艦娘は吹雪ぐらいだろうから。
まるで犬のように提督の前に立ち、目をキラキラと輝かせている吹雪に、提督も苦笑する。
扉を蹴飛ばしたことを注意しようにも、この顔では出鼻を挫かれたということだった。
「あ、ああ、おつかれさま。いつも助かるよ」
「はいっ、司令官のために頑張りました!」
だからですね、と吹雪は提督に頭を向ける。
頭を撫でて欲しいようだった。犬のような、とは言ったが、これでは犬そのものである。
そんな吹雪に対して、提督は一瞬躊躇い頬を掻いてから、やれやれと言いながら、吹雪の頭を撫でる。その顔は保護者のそれである。いつまでも父離れできない娘に、呆れながらも内心飛び跳ねて喜んでいる父親というものを、これほどわかりやすく再現したものはないのではないだろうか。
撫でられた本人、吹雪は「むふむふ」、と変な声を漏らしながら、満面の笑みである。
むふむふって。
どんな笑い方よ。
「もっと、もーっと撫でていいんですよ?」
ひと仕切りで撫でる手を止める提督だったが、吹雪はそれに対して笑顔でそんなことを言う。これには提督も困り顔で、どうしようと言った感じた。
うわめんどくせえ。思わずそんなキャラでもないことを言いかけた口を閉じる。
「はいはい、吹雪ちゃん。そろそろね?」
「うーがるるー!」
それ違う娘だから。吹雪から遅れて入ってきた第一艦隊の他の五人ーーその中のリーダー格であり本日の旗艦も務めた古鷹さんが犬のリードを引っ張るように吹雪のエリを掴んで後ろへ下げる。
放っておいたら吹雪はいつまでもむふむふと笑って撫でられたままでいただろう。
「改めまして、提督。古鷹、及び他五名、ヒトハチマルゴー、帰還しました」
古鷹さんが吹雪のエリから手を離して、敬礼をする。海軍式と陸軍式の敬礼は違うのだが、古鷹さんはもちろん海軍式のものだ。艦娘が軍艦を元にしたものであるのだから、当然であり、鎮守府とは海軍傘下なのだから当然ではある。旗艦として、しっかりした態度を取ろうとする姿勢はさすがだ。
基本的に提督はあまり厳しくない、緩い人だ。
駆逐艦などは特にただいま、なんて言って戻ってくる者も多いーー現に吹雪なんかは扉を蹴飛ばして戻ってきたのだから、わかりやすい例だろう。
吹雪も少しは古鷹さんを見習うべきだと思う。
「うん、おつかれさま。全員特にダメージは無さそうだな」
「もちろん完全勝利よ。私たちの実力を考えれば当然ね、むしろ過剰戦力だったわ」
ふん、と鼻を鳴らして叢雲が少し自慢げに胸を張る。
「眠い……ちょっと寝る。テキトーに起こしてー」
加古さんは器用にも立ったまま居眠りを始めた。
「青葉としてはもう少し面白い記事を書けそうなところがよかったですねぇ。あれじゃ地元のお魚の特集でもするしかないですよ」
「あら、面白いことならあったじゃない、青葉。航行中に古鷹姉さんのスカートの中に顔面突っ込んだり、おっぱいを揉んだり」
「あ、あれは事故じゃない衣笠!?」
……何があったかは、触れないでおこう。
「うん、みんな元気で何よりだ」
はっはっは、と笑う提督。うちの提督はもしかして大物なのかもしれない。
「それより司令官、お魚たくさんですよ、たくさん!」
吹雪が手持ちのクーラーバッグを開いて、中身を見せる。中には吹雪が言うとおりにたくさんの魚などが入っている。丸々と大きな魚から小ぶりな魚まで、種類も豊富だ。
魚以外にも、海老や貝、タコに蟹とたくさんだ。
魚はすぐに絞めているが、タコや海老、貝、蟹はまだ生きているようで、それぞれ小分けにされた網の中でも動いているのがわかる。
……蟹か。ごくり。
蟹は食べてよし、飼ってよしと素晴らしい。朧タイプの艦娘は蟹好きが多いという話は聞くが、朧も例に漏れず蟹は好きだ。飼う分にも食べる分にも。
「おお、凄いな。これだけあれば今夜は豪勢な食事になりそうだ。鮮度が悪くなってはいかん、すぐに間宮たちのところへ持っていこう」
「あはは、司令官早く食べたいだけですよね?」
「ふっ、腹が空いては戦はできないさ」
「戦うのは私たちでしょ、まったく……まあ、あまり待たせるのも悪いわね。さっさとこれを間宮に引き渡しましょう。あんたじゃないけど、お腹の空いている子もいるようだし」
ちらりとこちらを見て、からかうように叢雲が言う。……否定はしないけど。確かに、休憩のおやつも控えめにしたから、ちょうどお腹が空いていた。とは言え、まるで朧がいつもお腹が空いているような扱いなのはちょっと文句を言うべきかもしれない。
あくまでも駆逐艦娘の標準程度にしか食べていないし。正規空母や戦艦の艦娘と比べたら小食と言っても過言ではない。
けっして大食いではない。
少しばかりお腹が空くのが早いだけだ。
「わたしはいつも腹ぺこな朧ちゃんも可愛いと思うよ、大好き!」
だからいつもお腹空いている扱いをやめろと。
なんて反論をする気も失せる。気が抜けるというか。
「あ、もちろん叢雲ちゃんもだよ。可愛い、すっごい可愛い、美少女!」
「はいはい、そーね。可愛い可愛い。そんでついでに吹雪も可愛いわよ」
「うむうむ、お姉ちゃんを讃えるがよいぞ!」
「わーふぶきおねえちゃんすごーいー」
「あはは、棒読みだー!」
「ふふ、提督。相変わらず特型の子たちは仲が良いですね」
「ああ、見ていて微笑ましいよ」
……………
…………
………
魚を間宮に届けたところで本日すべての業務は終了した、という流れとなったので夕食の準備が完了するまでの時間を部屋に戻って過ごすことにした。
第七駆逐隊四人の部屋には、曙と漣が二人それぞれバラバラなことをしている。潮はどこかへ行っているのだろうか。
読書をする曙と夕方のアニメ鑑賞をする漣。それぞれ熱中しているようなので、部屋に入る際には静かに音を出来るだけ立てないようにした。
畳の床に寝転がる。制服に皺が寄るかも、なんてことも気にせず、盛大に足を伸ばして休める。
ううん、と少し伸びをした。慣れない事務仕事に疲れたのか、腰がギシギシと軋んでいるようだ。眠たい。横になったことで、眠気が襲ってきた。
どうせ食事まで少し時間はある。曙、漣に一声かけて少し眠ろう。
「ーーおっぼろちゃーん!」
…………はぁ。
「うるさいわよ!?」
「うるさい!!」
眠ろう、と思った矢先に、先ほど間宮で別れた吹雪が部屋に雪崩込んできた。
扉を蹴飛ばしていないだけマシと思おう。曙と漣は吹雪の騒がしい声に怒鳴りつけているが、吹雪はどこ吹く風とばかりにそんな声をスルーして、自分に一直線で向かってくる。
……まったく、何のようだというのだ。
曙と漣は睨みつけてくるし、さっさと追い出すかどこかへ連れて行けと言わんばかりだ。この二人は二人で、仕事が終わりさっき戻ってきたばかりの姉妹艦に対する態度か、これが。
「どうしたの、吹雪。何か忘れ物でもあった?」
少しムカつくので敢えて部屋内で対応することにした。
「そういうわけじゃないけど、まあそうかな。忘れ物というか忘れ事、聞きたいことがあったのを忘れてたから、遊びに来たんだ」
「そう、聞きたいことって?」
「今日の秘書艦体験はどうだったのかなーって。楽しかった?」
「なんだ、そんなことだったんだ」
「あはは、やっぱり変わってもらった身としては気になるからね」
楽しかった、か。どうだろう。仕事量に追われていただけに、充実はしていたとは思うけれど。
「まあ悪くないかな」
「はあ? あんたクソ提督の相手をして悪くないですって? 変わり者ねぇ」
「訳すると羨ましい、ご主人様の相手をするなんて凄い嬉しいことなのに、変な朧、ってところね」
「ささ、漣っ、あんたなに言って、適当なこと言ってるんじゃないわよ!?」
「素直じゃないだけで実は司令官のことが大好きな曙ちゃん可愛い」
「うっさいわよ吹雪ィ!!」
吹雪の言うことに否定をしていないのは、わざわざ追及しなくてもいいか。
「ヴェルちゃん曰く、司令官に可愛いと言われてニヤついていたとか、なんとか。ふふ、朧ちゃんもなんだかんだで、なんだかんだだよね」
「に、ニヤってない! 朧は吹雪みたいだって言っただけだし、別に嬉しくないし!?」
「素直じゃないのは曙ちゃんだけじゃないね」
「はあ!? あたしは朧と違って本音でクソ提督と思ってるんですけど!?」
「は? 朧こそ曙と違って提督のことは良い人程度にしか思ってないですけど?」
「なによ、朧、あんた喧嘩売ってるわけ?」
「朧は事実を言ってるだけだし。喧嘩を売ってるように聞こえるなら図星なだけじゃないの?」
「ふ、ふふふ……ここまでコケにされて黙ってるあたしじゃないのよ、表に出なさいっ!」
「別にいいけど、泣いても知らないから」
「良い度胸じゃない、泣くのはあんたよ!」
ーー結局。
吹雪に連装砲制裁されるまで続くのだった。
大丈夫だ、問題ない