艦これ!ー特Ⅱ型駆逐艦、朧の日常ー   作:日向@ひなた

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 一ヶ月ぶりの更新になりました。ところで皆さん、食生活は気をつけないといけませんよ。若いから、とか、自分は昔から低血圧だったから、とか言って塩分ガバガバ取ってたら高血圧でぶっ倒れます。正月潰したくなかったらおとなしく減塩生活しましょう、ね?



第10話ー朧ちゃん、即売会に参加する②ー

 

 更衣室に入った瞬間に、朧が感じたのはとてつもない、言葉には言い表せない空気感であった。

 この更衣室という空間が異様な空気に包まれているという意味では、どんな戦場よりも異様な空気であることは間違いなかった。

 お互いを牽制し合いながら様々な衣装に身を包む艦娘らしき存在たちを、異様と言わずに何というべきなのか、という悲しい意味であるけれど。

 艦娘はそれぞれに個性があり、差異はあれど、元となった付喪神ーー原型の艦娘と姿が似るのだけれど、だから艦娘は見分けがつきやすい。基本的にはそっくりさんなのだから、自分のところにいる艦娘と比べて、似ていたらそれはもう、艦娘であると判断しても概ね間違ってはいないぐらいに。

 それでも微妙な違いはわかるし、個性や差異がある以上に、艦娘としてのオカルト的パワー、霊波のような、そういったものの違いなどで、それぞれの区別はつく。

 ちなみに艦娘の電探とは、普通の電探と同時にそういった霊波的なものを捉える役割もあるのだ。

 逆に言えば、そういうオカルト的なものを感じとることができれば艦娘であるということでもある。

 

「いや、うん、平和だと思うけどさ……」

 

 思わず独りごちる。朧はここに来る前に、内地で暮らす一般の人たちに大して危機感がないという感想を覚えたけれど、艦娘ですらこれだった。

 深海棲艦との戦争の終了は近そうだった。

 いや、艦娘の数は多いし、ここに来ている艦娘たちなんてせいぜい、その多くいるうちの、ほんの一部でしかないのだけれども。

 

「ぷっぷくぷー! 朧っぴょーーん!!」

 

「うわっ!」

 

 ドターン、なんて漫画みたいな効果音で再現できてしまいそうな感じに、誰かに飛びつかれて、そのまま倒れてしまった。

 

「お久しぶりでーっす。うーちゃんでっす!」

 

「う、うん……久しぶり。あの、退いてくれない?」

 

「いやですー。うーちゃんは朧のむねでふかふかするんですー」

 

「そういうのは潮の役割のはずなんだけれど……」

 

「ムフフ、朧のもなかなかのなかなかだぴょん」

 

「…………。兎は、保健所でよかったんだっけ?」

 

「退きます」

 

 さて。いきなり飛びついてきては執拗に胸を揉んできたのはうーちゃんこと、卯月だった。

 久しぶり、という言葉通り、会うのは本当に久しぶりだった。他所の鎮守府に所属する艦娘なのだから、こういう機会でもない限りはなかなか会うこともないので、当然といえば当然なのだけれど。

 ……いや、こういう機会でもなければとは言ってみたものの、こんな機会で出会うなんていうのはどちらかというとかなりレアケース、というか本来ならばありえないことだと思うけれども。

 

「ところで朧がいるってことはアッキーセンセーも来てるっぴょん?」

 

「うん。今はそっちの睦月と一緒に手続きをしているよ」

 

「睦月ねーさんはアッキーセンセーのファンだから喜んでいるだろうなぁ」

 

「ああ、嬉しそうだったね。秋雲もそっちの睦月のことが好きだし、良い関係だよね」

 

「うーちゃんはコスプレは楽しんでいるけれど正直なところ、作品はよくわからないぴょん……もっとこう、ドーンときてバーンとやられる、そんなバリバリアクションを見たいぴょん」

 

 ある意味ではドーンときてバーンとやっている作品内容ではあるけれど。確かに卯月が求めるような内容ではないだろう。少年漫画のノリというよりは青年誌ノリであり、もっと言えば成年誌ノリだ。

 駆逐艦娘が果たしてそのようなジャンルに手を出すのは世間的に許されるのか、という疑問はあるものの、かなりグレーではあるもののやはりセーフということになるのだろう。

 以前にも言ったように、艦娘である限りは年齢という問題は皆無なのだ。駆逐艦娘は、ケッコンだってできる。相手側がロリコンという謗りさえ恐れぬのならば、ではあるけれど。

 年齢の問題は皆無と言えどやはり子供扱いは免れないところはある、といったところである。

 

 ほどほどのところで着替えることにする。卯月は既に着替えていたのだけれど、朧を待つようだ。卯月の格好は加古タイプの艦娘、それも改二のものだった。はたしてそれをコスプレと言って良いのか微妙なところではあるけれど、まあ、いいのだろう。

 しかし今さらではあるけれど、やはりこれは季節外れではないだろうか。それに、艦娘オンリーイベントなのだから、やはり卯月のように他の艦娘を真似た格好のほうがいいのでは、とも思わなくない。

 潮の改二の格好とか、いいんじゃないかなあ。

 いや。いやいや。誤解をしないでもらいたいけれども、別に、潮の改二姿を着ることで自分が改二になったときの想像をしようだとか、そういうわけではない。朧はただ、純粋にハチマキを巻きたかっただけなのだ。…………自分に対する言い訳にしてももう少しマシなものがあったのではないだろうか。

 閑話休題。着ていた服を脱ぎ、コスプレ衣装と一緒に渡されていたアンダースコートを下着の上から重ね履きしてから、衣装を着る。サイズはどうやらちょうどピッタリなようで、窮屈さも、或いは大きすぎるということもなかった。

 しいて文句を言うならば、思っていたよりも胸元が見えていることが気になるぐらいか。

 

「今日の朧はなかなか大胆だぴょん。胸元に手を突っ込んでもいーい?」

 

「いいわけないよね」

 

「むー、ケチ。いいもーん、勝手に触るから」

 

「そんなに保健所送りになりたいんだ」

 

「じ、冗談ですぴょん、はい」

 

 なんて戯れ言を交わしながら、着替え終わったので卯月について行き会場に移動をする。会場用のホールに着くと、机がズラリと並んでいる光景が目に入ってきた。どうやら結構な数が来ているようだ。

 

「お、待ってたよー。うーたんもおひさー」

 

「アッキーセンセーお久しぶりぴょん! 今日の服も一段とすてきぃ~……なぁんてうっそぴょーん!」

 

「朧、保健所って何番だっけ?」

 

「えっとね」

 

「なんで五航戦護衛艦コンビはすぐに保健所に通報したがるんだぴょん!?」

 

 煽るからだと思う。いや、朧も正直に言えば秋雲のシャツについては隣を歩くのが恥ずかしいと評したので、気持ちはわからなくはないけれど。

 わざわざ言う必要はない。明らかにネタで着てきたんだろうとは思うし、むしろそんな煽りこそ期待していたんだろうな、とも思っているけれど。

 秋雲も「あはは」と、楽しげに笑っているし。

 

「二人は他所のサークルさんへの挨拶まわりはもうしてきたの?」

 

「済ませてるよー。想像はしていたけれどやっぱり艦娘が多いわ。まあ、艦娘オンリーなんてジャンルは艦娘が一番詳しいからねぇ」

 

「参加してる睦月たちが言えた義理ではないけど、みんな仕事はどうしたんだろうにゃー?」

 

「さあねぇ。て言ってもちゃんと今日のために休暇取ってるんじゃないの? シフトに穴あけるようなことはしないって」

 

 シフトと言ってしまうとまるでバイトである。

 とは言え、艦娘という存在が昔のように原初の付喪神のみであった頃と違い、様々な人間の少女たちが艦娘になってしまえるようになった現在ではその豊富な人数を生かして、出撃や哨戒、遠征などの役割分担をしながらでも休暇を用意できるのだから、シフト制のようなものではあるのかもしれないが。

 中には八鎮のように超少数規模のところもあるけれど、あそこは特例中の特例というか、存在する場所自体が辺境で、大人数が必要ないという理由があるのだけれど。

 

 適当な雑談をしているうちに、気が付けばイベントの開始時間がもうすぐのところまで近づいていた。会場内からではわからないけれど、外には既に入場の列がしっかりと形成されているのだろう。

 チクタク、チクタクと時計の音は聞こえてこないが、感覚としてそんなものを覚えている。緊張感とも高揚感とも違う感覚がこの空間を包んでいた。外からの熱気は、こちらから見えないながらも伝わってきているのだ。

 秋雲の瞳に焔が灯る……ような気がする。

 

『これより会場ですーー皆さん、暁の水平線に、勝利を刻みましょう!』

 

 勝利条件は、なんだろう?

 

 ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「貴様に売るお姉ちゃんたちの本はないのです」

 

        //   ,  /\ .i i V〈

        / /  ∠ム/ ー-V l 「ヽ

         j v、!●  ● i ' ├'

       /  〈  ワ   / .i y'

      / _ ,.イ , `ーゥ  t-!,、_У

      ´ ' .レ^V´ V_,ィtー〈  「| 「|

           / `央ー'j  \_|:| |:|

 

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「新刊三部ください。保存用不況用使う用で」

「『うしみたいな乳しやがって』を。あ、あとでスケブお願いしても……あの、うし……わたしが提督に乱暴されているような、はい。ありがとうございます!』

「イヤジャ☆ハラミTONIGHTが欲しいのぉ」

「はい、『二人分ですものね』をお願いします! え、これでいいのか? はい! 司令官に頼まれています。この朝潮、任務は必ず全うしてみせます!」

「朧月に愛を叫ぶは持ってきてないですか。超10センチ砲は秋月朧の夢を見るかはどうでしょうか? ない。そうですか……あの、それなら今日持ってきている朧先輩本はどれですか!? ボロボロバンソウコウだけですね、わかりました! 10部!! え? 私は成人です!!」

 

 開始早々に大盛況である。次々と押し寄せる人、人、人に圧倒されるばかりだ。何だか見知った声が聞こえてきたような気がしたけれど、恐らくは同タイプというだけで本人ではないだろう。うん。きっとそうなのだ。

 それはそれで、どこの鎮守府でも同じタイプの艦娘は似たような傾向にあって怖いということになるけれど、確かに同じような傾向になるのは事実なので、やだ怖い。

 

「やっぱり艦娘ジャンルではアッキーセンセーが一番人気にゃしぃ。隣だからおこぼれいただくのね!」

 

「むちゅき先生なら自分の力だけでも十分でしょうに」

 

「いやいや、アッキーセンセーには敵わないよー?」

 

 楽しそうに談笑しているが、その手はまるで止まっていない二人だ。というのも、一部のお客さんや知り合いに頼まれてその場で即興でイラストをスケッチブックに描く、業界用語(……でいいのかな?)で言うところのスケブというものを休みなくこなしているからであり、二人ともスケブを速筆でドンドンと仕上げていっているのである。

 それでいてボールペンによる線画ではあるものの、絵の質そのもの自体のクオリティは下がってはいない。

 そのぶん仕方ないことではあるが、売り子には専念できていない。というよりも、さすがに絵を描きながら売り子なんてできないので、商品の受け渡し、金銭の受け渡しは朧であったり、隣の睦月たちであれば卯月がしているのだけれど。

 目が回るような忙しさで、売り子をやるのも必死だ。

 よく秋雲が会場は戦場だと言うが、このあまりの忙しさに忙殺されてしまいそうな状況は、なるほど、確かに戦場であると言ってみてもいいのかもしれない。血走った目で様々な場所を見渡し、飛び回る会場に訪れてきた者達の姿は、戦場の前線を行く兵士のようなものか。

 もちろん、艦娘としての戦場に比べればなんてことはない、ただの戯れ事でしかなく、戦場なんて言葉は戯言なんだろうけれど。そんな戯れ事をやれる平和が大事だ。

 戦争なんて、無いにこしたことはない。

 なんて現実逃避をしてみたくなるほどに忙しい。多めに持ってきていたらしい本も、気が付けばかなりの量を捌いていたようだ。残数も残り少なくなってきていた。

 

 そして、開始から一時間が経過した頃には既に一冊も残らず。つまり完売となったのだ。

 

「今日はハイペースに売れたねぇ。それに、規模の割に人がかなりいて焦ったわー。もう少し持ってくればよかったかもしれないね。参考にしておこう」

 

「朧はもうヘトヘト……」

 

「ははは、忙しなかったからねぇ。おつかれさま。ありがとね」

 

「アッキーセンセーはさすがなのね! 睦月もまだまだ頑張るにゃしぃ!」

 

「うーちゃんはちょっと休みたいぴょん……」

 

 同じように忙しかった、いや、それどころか、ただ売るだけだった朧たちなんかよりもよく働いていたはずの秋雲と睦月のほうが元気なのだから、創作者のバイタリティというのは凄いなあ、と感心をする。

 ところで。ところで。ところで。である。

 勿体ぶって、今まで、終わるまではと見逃してきた、敢えて黙ってきていたことを、そろそろ朧は秋雲に追求して追及して追究しよう。売り子をしながらずっと気になっていたことだ。

 

「秋雲、ボロボロバンソウコウってあれ。成人指定本。あれ」

 

「……いや、ほら。朧先輩をこよなく尊敬している秋月に見せてあげようかなって」

 

「へえ、後輩に尊敬している先輩のエロ本を渡すつもりだったんだ」

 

「やだ朧、エロ本なんて直球過ぎない?」

 

「今さらだよ」

 

「ですよねー」

 

 ……まあ、今さらと言うのならばすべて売り捌けた今になってから言うことも今さらだし、秋雲にモデルとして本に出演させられることも、今に始まったことでもないのだし、別に本気で嫌がっているわけでもない。

 あくまでも本の登場人物と朧は別人であるし、そもそも本に出てくる登場人物ほどに朧は綺麗でも可愛くもないので、モデルであるなんて思われることもないだろうから。

 とは言えたまには釘差しをしないと、ね?

 





 まあぼくは若いから塩分取りまくるけどな?
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