物凄い危険なタイトルだけど内容は極めて健全です。
今回からちょっと何かが変わってます。不評なら戻しますが
「やあ、おはよう朧ちゃん。朝から精が出るね。今日はうちの奴らの相手、よろしく頼むよ」
身体を暖めようとしていた朝のジョギングが終わり、ぼんやりと海を眺めていたところに、気安く喋りかけてきたのは第八鎮守府の提督だった。
八鎮の提督はグレーのスウェットパンツに、英字プリントの白シャツの上からネイビーカラーのパーカーを羽織った、随分とラフな格好だ。まるでこれから遊びに行く大学生である。
曲がりなりにも他の鎮守府を訪れている人間とは思えない……うちの提督は寛容が過ぎるというか、いくら八鎮の提督とは候補生時代からの知り合いとは言え、こんな格好を許すのはどうなのか……場所が場所なら即刻打ち首にでもなっているだろう。
まあ、正式な業務中でもないと言ってしまえばそれまでではあるけれど……TPOとか、あるだろう。
さて、随分と親しげに話しかけられたが、朧と八鎮の提督は別に親しいわけではない。
一応、演習のたびに顔を合わせることになるのだから知り合いぐらいではあるにしても、とは言えただ顔と人となりの一部をなんとなく知っているぐらいでしかない、ほとんど他人のようなものである。
はあ、そうですね。なんて適当に相槌をうって終わらせてしまえるような、その程度の関係だ。
……さて、どうすればいいのか。
コミュニケーション能力が無いというわけではないけれど、一応は目上の人間である。よく知らない目上の人間を相手にすることほど面倒でしんどいものはない。誰か乱入してそっちに話が流れていけばいいとか願うのはよくあることだと思う。
「昨日のパンツ気に入ってくれた?」
「憲兵さーん!! 変態です! 変態です!!」
思わず取り乱してしまった。
昨日のパンツってあれか、古鷹さんからいきなり渡された、蟹さんのプリントがされた。
というか下着に縁ありすぎだろう、ここ数日。
何かの陰謀を感じるレベルだ。
「ははは、変態って。マセてるなぁ。買ってきた下着をつけている駆逐艦娘の姿を想像して興奮するなんて、まさかそんなことあるはずないだろ?」
「誰もそんなこと言ってない……」
語るに落ちすぎだ。語り過ぎだ。どんな変態だ。
そんな語りは騙りであってほしい……なんて言葉遊び以下のダジャレが思わず浮かんでしまうほど、そんな度し難い変態の相手をしたくない。
「駆逐艦娘の汗を飲みたいなんて、まさかなぁ」
「助けてお姉ちゃーん!!」
ーーーーーーーー
「はっ、朧ちゃんが助けを呼んでる気がする! 助けてお姉ちゃんって、呼んでいる気が!」
「何言ってんのよ。頬におべんとさんつけて」
「…………」
「何よ、ぼーっとこっち見て」
「いや、おべんとさんって言い方かわいいなあ、と思って。霞ちゃんすごくかわいい」
「……うるさいったら」
ーーーーーーーーー
思わず錯乱して叫んでしまったけど、叫びは届いたようで届かなかった気がする。
いや、届かなくてよかったのだけど。
吹雪にあんな叫びを聞かれた日には、一日中ずっと満面の笑顔で『もっかい言って? もっかい言って?』と言ってくる、凄く鬱陶しことになっていたに違いない。
「提督さーん、こっちから叫び声が聞こえてきたんですけど、流星したほうがいいでしょうかー?」
鎮守府の方角から声が聞こえてきた。どうやら朧の叫びは吹雪には届かなかったが、他の誰かには届いたようだった。タタタと小走り気味にこちらへ向かってきている。視認できる距離まで来て、誰が来たのかすぐに理解した。
ピョコンと外に跳ねた髪型が特徴的な人だ。今はどちらかというと、空中に待機させている艦攻機の流星に目が行きがちだが。ジャージにミニスカートという、まるで体育会系部活のマネージャーのような格好は、給油艦という艦種を考えると、差し入れをするマネージャーと被り合っていると思う。
改風早型の一番艦、その艦娘である速吸さんだ。
第八鎮守府に所属する、今日の演習相手の一人。
ふう、と息を整えながら朧たちのもとまでやってきた。
ニッコリと笑顔を浮かべて、八鎮の提督に流星を今にも発艦、攻撃しようと向けている。
「やめよ? 当たり前のように流星を準備するのやめよ?」
「なら他所の娘にセクハラはやめましょうね」
「せせせ、セクハラしてへんわ!」
なぜ関西弁。
「……もう、セクハラをするなら、鎮守府に帰ってからにしてくださいね?」
戻ったらしていいのか……えええ……引くな。
「はっ!? い、今のは恥ずかしいから他所様のところではしないでくださいという意味で、別に速吸自身がしてほしいとか、そういうわけじゃないですよ!? 言葉の選び間違いであってですね!」
あまりにもあまりな必死さが逆に怪しく聞こえるけれども、とは言え信じないほうがこちらの精神ダメージ的にひどいので信じることにしておく。
セクハラを望む痴女とか、怖すぎる。
セクハラ提督とは、もしかしたらそのほうがお似合いなのかもしれないけれど……だとしても怖い。
「あはは、そう怖がるなよ、朧ちゃん。速吸は俺と違って、ちゃんとしているからさ」
「提督さん、自覚してるなら少しは変態さんなところは治しましょうね?」
「風評被害だ。俺は少しフレンドリーに接しているだけじゃないか」
「あれをフレンドリーで済ませられるとしたら提督さんはどんな環境で育ってきたんですか」
「ははは」
笑ってごまかすとはよく言うけれど、ここまで本当にただ笑ってごまかそうとする人間を朧は初めて見たかもしれない。
いや、ごまかされないけど。
「まったく。ごめんね、朧ちゃん。うちの提督さんには後で流星……お説教しておくから」
「待って、今すっごい不穏なこと言いかけなかったか?」
「あはは。それはもちろん」
「何が? 何がもちろんなんだ……!?」
何がもちろんなのと言えばたぶんもちろんそういうことなのだろうけれど、朧は何も聞かなかった。
知らぬが華。
そういうことにしておこう。
「それじゃあ朧ちゃん。また後でね」
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「アイキャッチなのです!」
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「朧ちゃんが助けてお姉ちゃんって叫んでたって青葉先輩が言ってたけど本当!?」
「たちの悪い嘘だから信じなくていい」
間宮食堂でいざ朝食を食べようとしていたところに小走りで駆け込んできた吹雪の満面の笑顔とキラキラとした瞳から目を逸らしながら答える。
そろそろ青葉さんとは一度お話をするべきかもしれない。蟹さんがたくさん入ったドラム缶の中に放り込んでから会話をしようかなあ、なんちゃって。
「ひぃっ……!?」
「どうしたの、青葉?」
「い、いえ、何か物凄く恐ろしいことが待っているような気がしまして……」
「青葉、先に謝っておいたほうがいいよ」
「古鷹さん、青葉が何かやらかした前提で話してません……?」
「だって、青葉だし。こないだもわたしのスカートの中に顔を突っ込んでたし……」
「あ、あれは事故ですから! けっしてわざとじゃないんです!」
「ふーん、わざとじゃないならしてもいいんだ」
「いえ、あの、そういうわけでは。……すみません」
「ふふ、冗談だよ。でも青葉、後ろめたいことはやめたほうがいいよ。怒られるのは嫌でしょ?」
「いや、だから何もしていないですって! そんな小さな子に諭すような言い方しなくても! 少し吹雪ちゃんに朧ちゃんが言っていたことを教えてあげただけですし!」
「それが原因じゃないの……?」
「あはは、まさか。朧ちゃんが助けてお姉ちゃんと叫んでいたと吹雪ちゃんに教えただけですよ?」
まさにそれだと言ってやりたい。
が、とは言え確かにそれだけではある。余計なことを言いやがってとは思うが、だからと言って別に拷問にかけるほどのことではない。
少し面倒くさいな、というだけである。
「そもそもどうして助けを求めるようなことになったのかという話ではあるんだけどね」
「おはよう、響」
「おはよう。相席良いかい?」
「もちろん! そうだ響ちゃん、どうせだからお姉ちゃんのお膝においで!」
「何がどうせなのかはわからないけれどどうせなら代わりに暁を乗せたらいいと思うよ」
「わかった、暁ちゃーん!」
「ぴゃあ!?」
姉を容易く売り渡す響の交渉力はもしかして感嘆されるべきかもしれない。が、よく考えなくても単純にひどいだけだった。暁は吹雪に捕まり、膝の上に乗せられるという『れでぃ』らしい有様だ。
お子様扱いしないでとか、こんなのレディじゃないとか言ってはいるものの、案外と満更でも無さそうな表情なので、微笑ましいなあと思っておく。
けっして面倒くさいから助けないわけではない。
朧さんそんなことしない。
話を変えよう。
響が持ってきたトレイにはジャムを塗ったトーストと簡素なサラダに紅茶だけという、質素な朝食が乗っている。これだけではお腹に溜まらないだろうと思うのだが、とは言え朝食は少ない目に取る人もいるのでとやかくと言うつもりはないけれど。
「それで、今朝何があったんだい?」
「いや、大したことじゃないよ。八鎮の提督と話していただけで……」
「ああ、なるほど。さしずめセクハラされたってところだね」
「まあ、そんなところ」
たったあれだけの情報で答えに辿り着いたけれども、それは別に響の推理力が凄いというわけではなく、それほど八鎮の提督が有名ということである。
悪名高すぎてビビる。
「すみません、すみません、うちの司令官が……」
背後から声が聞こえてくる。振り返ると、後ろの座席で一人で食べている子がいた。
綺麗な黒髪の、小柄な子だ。黒いセーラーの制服を着ている。あの制服には見覚えがある。睦月型の子と同じものだ。ということは、睦月型の艦娘か。
小声で小さな身体をさらに小さくしながら、ペコペコと壁に向かって謝っている姿に、大丈夫かとたずねたくなる。なんというか、色々な意味で。
「えっと、三日月?」
「は、はいっ! 三日月です! すみません!」
彼女は第八鎮守府所属の睦月型の駆逐艦娘、三日月だ。今日の演習相手、最後の三人目でもある。
なんというか……なんかもう、ちょっと哀れに思えてくるぐらいになっている。口を開けばすみませんである。
根っこから真面目で素直だからだろうが、少し気にしすぎである。八鎮の提督にはそれなり以上の報いを受けているはずなので、朧としてはそれ以上はもういいかな、とも思っているし、何なら今後の彼を想像して合掌すら出来てしまうのだった。
「あの、あまり気にしないで?」
「いえ、そんなっ。うちの司令官が本当に迷惑をかけて! ああ見えてというか、ああいう態度ですし信じられないかもしれませんが、本当に艦娘想いですし、良い人なんですけど、あれだけは本当に玉に瑕といいますか、ですので何卒司令官の蛮行を許していただきたく思うと言いますか、あっ、そうだ、この三日月が身体でお返します!!」
……………………。
えっと、うん。
「少し落ち着こう?」
身体で返されても困るし。
「ナスは嫌いなのです!!」