今さらですが、当作品における艦娘の性能はゲームでの性能や或いは史実での艦性能を完全に度外視したものが含まれております。気になる人もいると思いますが仕様なので、駆逐艦が強くても給油艦が強くてもあまり深く気にせず「駆逐艦ペロペロ」の気持ちでいてください。
ーーピピピ、とアラーム音が鳴る。旗艦に渡された腕時計から鳴るその音は、演習の始まりを知らせる音だった。
しかし朧、吹雪、ヴェールヌイの三人は海上の岩陰に佇んたまま、のんびりとしたものだ。動きはない。索敵は捨てている、ということだろうか。確かに居場所もわからず闇雲に動き回るよりは、隠れたまま待機するほうが良いのかもしれないが。
ヴェールヌイが海面に手を置くーー些か表現としておかしくも感じるが、しかしそうとしか言いようがないのだから仕方ない。浮かせるというよりもまさしく、置いたと表現したほうが正しかった。
目を瞑り、集中をしているようだった。
そのままの姿勢で、しばらく。
数秒の間を開けて、ヴェールヌイは目を開いた。
「見つけた。十時の方角にいるよ」
と、言う。自信たっぷりに言う。
ちなみに彼女が指し示した指の方角は十時の方角ではなかった。二十二時の方角でもない。しいて言うなら十六時の方角だった。
明後日ではないけど四時間後の方角だった。
「ヴェルちゃんすごーい!」
「ふふ、信頼の名は伊達じゃないよ」
「うん。それで信頼さん、信頼できる根拠は?」
「そんなの直感だからないけど?」
「それ、当てずっぽうってことじゃん」
「当たり前じゃないか。音響測定艦じゃないんだから。いくら響だって言っても無理なものは無理」
「じゃあ何だったのさっきの一連の流れ……」
楽しいだろう、とヴェールヌイは悪ぶれず澄ました顔だ。澄まし顔というか、どちらかと言えばどちらと言わずドヤ顔だった。楽しいというより一発どついてやろうかなと思うほうがたぶん正しい。
吹雪は信じ切った様子だが、さてどうしたものかと朧は考えてみるが、面倒だから別にいいかと適当に流すことにした。薄情なわけではない。
さて、振り出し。
どうしたものかーー考えてみる。
闇雲に、無作為に動き回ることはよくないとしても、ただ相手が来るのを待つのも如何なものか。
無いとは思うがお互い見つけられず時間が来てしまうということも、まあないわけではない。何よりも、索敵を放棄することは勿体無い。駆逐艦のみの編成と言えども、電探はある。ある程度の範囲に入れば、索敵は可能だ。
幸い向こうにも空母はいないーー航空機搭載をした給油艦はいるが、速吸が索敵のために流星を飛ばしてくることは、可能性としては捨てていい。
霞は、切り札の使い方は理解している。
こちらのジョーカーを抑える、ジョーカー。
……まあ、経験値として、経験談として。
恐らくそうしてくるだろうな、という考え方ができているだけなのだが。馴れ合いにも近い数回目の演習では、どうしても戦法も何も被ってくる。
裏を欠くという可能性も考慮できるが、その代償を配慮すれば、結局は無しになるだろう。
なんかもういっそ最初から正面で殴り合えばいいのではないのか、なんて吹雪のようなことも思ってしまうが、まあ足で探す力を養うという意味ではいい鍛え方なのかもしれない。
電探を利用した索敵能力を鍛えることはできる。
三人は岩陰から離れて進み出す。近場の岩礁から岩礁を渡り、身を隠せるときは隠しながら進む。
本来、艦であれば岩礁に近づくという行為は自殺行為にも等しい。直撃する可能性もあれば、動きにくいという理由もある。しかし彼女たちは艦ではなく艦娘、人の姿である。小回りが利くということはそれだけで全然違うのである。
ちょっとした水上モービル気分。
ただし油断したら普通にぶつかるので気をつけないといけないのに変わりはないけれども。
「あ、電探に反応があったみたいだよ?」
「近くにいるのかな。対空電探のほうは反応ないから、艦載機は飛ばしてないみたいだけど」
「んー、なら、とりあえず空の警戒はいったんある程度捨てて辺りを警戒しつつ、反応のあった方角を目視で探そっか」
水上電探を装備した響が演習相手を発見し、対空電探で警戒していた朧が艦載機の有無を確認。それを聞いて旗艦の吹雪が指示をする。役割分担はしっかりとしているようだ。
「ーー見えた。一直線、こっちに向かってきてる」
朧が指を指す。その方向には、確かに霞たち、第八鎮守府の艦娘たちがいた。
主砲を構えて、既に臨戦態勢だ。射程距離ではないので撃ってはきていないが、それも時間の問題だろう。この速度で向かってきていれば、数秒もすれば射程距離に入る。
それはもちろん、お互い様なのだが。
「正面から突撃ってことかい? やれやれ、血の気が多いなぁ」
ヴェールヌイ、朧もまた主砲を構えつつ、艦隊行動へと移行する。
しかし、吹雪は立ち止まっている。動かないままでいる。クスクスと笑う。楽しげに笑う。面白そうに、愉快そうに。クスクスクスクス、笑う。
釣り上がった頬、爛々と輝く瞳。まっすぐと見据えて、吹雪はスタートの姿勢を取る。
さん、にぃ、いち。
自分でカウントダウンをしてーー飛び出した。
奥歯に加速装置でもついているのか、とでも言いたくなるほどの高速移動で、一気に距離を詰める。
直線で一気に突っ込む。良い的である。常識的に考えれば、だが。常識的に言えば迎撃の射撃をすれば、普通に当てることも可能だろう。だが、霞、三日月の判断は違う。
経験値として、それは甘いと判断する。
だから二人は、任せた。
一番の適任者にーージョーカーにはジョーカーをと。
「はい、ストップですよ、吹雪ちゃん。」
速吸が直線に進んでくる吹雪の正面に立ちはだかる。艤装を構えず、腕を胸の前で構える。ボクサーや空手家、徒手空拳を得意とするものがするファイティングポーズのような姿勢だった。
速吸が吹雪を引きつけているその間に霞、三日月の二人は吹雪から離れるように移動をする。完全に吹雪の相手を速吸に任せることにしたようだ。
その結果、吹雪と速吸は艦隊行動も何もあったものじゃない正面からの一騎打ちの形となる。
吹雪は高角連装砲を突き出し、速吸を目掛けて撃つ。鈍い砲撃音は、瞬間的に何発もの数だ。実弾を放つ軍艦ではできないーーいや、艦娘であろうとも一般的には可能とは言えない、高速連射。
艦娘の艤装は軍艦を再現したものではあるが、しかし、その運用方法は少し違う。かなり違う。艦娘という存在は、深海棲艦と同様にかなりのオカルトだ。現代の物理法則を大きく無視することもできるほどに。
艦娘、深海棲艦は付喪神のような存在であるがゆえに、その力は魂の力、神の力、或いは霊的な力なものである。現代の艦娘は基は人間ではあるが、その力はオリジナル、起源であり根源であり元となった、かつての混じり気なしの純粋な付喪神としての艦娘のものを利用したものであるので、人間の枠を超えた、物理法則の向こう側にいる。
つまりどれほど現実的ではないことであったとしてもそのとき不思議なことが起きた、で片付けてもとにかく問題はない、ということである。
だからこその艦娘であり。
だからこそ危険でもある。
霊的な力で擬似的な砲弾を作り出し、射撃する。
そんなオカルトを使用する艦娘だからこそできる連射を、吹雪は行った。しかしそれは言葉にするほど簡単なことではなく、単純ではあるが複雑だ。
砲弾を作る行程も、それを放つまでの速度も、その照準も、吹雪は一般的な艦娘のソレを大きく上回る。大きく上回る、どころの話ではなくて、その力は朧やヴェールヌイという高練度艦を、或いは鎮守府最高練度の古鷹でさえ規格外であると評する。
ーーだが。
速吸はその速度の連射の、すべてを見切り、躱して、避ける。少しは掠りながらも、しかしまともな命中と言えるものはひとつもない。
人間技ではないーー艦娘技でもない。
すべてを紙一重、半身で避けると、そのまま速吸は距離を詰める。ブン、と効果音。それと同時に速吸の太過ぎず、かと言って細くもない、ほどよく柔らかそうで、ほどよく肉の付いた、思わず頭を垂れて頬擦りをしたくなる脚が青白く光る。
霊的な、オカルトパワーが可視化したものでありある程度艦娘事情に詳しいものでさえもなんだこれと言いたくなる。そんな運用方法は今まで、どんな艦娘もしてきていないーー突出し、規格外であると評される吹雪ですらも有り得ないと断言する、突飛かつとんでもない、少なくとも艦娘としては考えることなんてできないものであった。
行動は至極単純なものだ。
明快にわかりやすい。
まさしく単純明快。
スカートの中身が見えるのも厭わない、蹴り。
首を削ぎ落とさんばかりの、ハイキックだった。
「青葉ちゃん、ちゃんと撮ったか!?」
観戦する第八鎮守府の提督が血走った目で尋ねると。
「はい! もうバッチリですよ!」
凄く良い笑顔でサムズアップする青葉。どこから撮影していてどこから見ているのかと言うと、零式水上偵撮機に接続されたビデオカメラから映し出されたモニターであり、それとは別に高精度カメラを搭載した水偵だった。ちょっとしたドローンのような扱いで、カメラの遠隔操作は青葉がしている。
その後ろには黒いオーラを出しながら笑っていない笑顔を浮かべる古鷹がいるので、おそらくこの写真データは遠からず消えることになるだろう。
閑話休題。
変態とパパラッチの行いはさて置いて。後々きっちりと責任者が処理をするとして。
速吸の蹴りである。
射撃後の隙をついた攻撃であった。しかし、そうは簡単に決まらないーー隙をついた速吸の鋭い蹴りを、しかし吹雪は避けることはできないまでも、受け止めることはできた。
その細い腕で、首へ直撃させることなく受け止めたーーいや、受け止めきれてはいなかったが。
蹴りの勢いをその場で殺すことは叶わず、吹き飛ばされることとなった。勢いよく空中を飛んでいきながら、身体を半身捩じらせて、無理矢理着地姿勢を取る。
そして海面に手をつき、滑りながら着地する。
ぱんぱんと蹴りを受け止めた腕を払う。回す。手をにぎにぎと開く、握るを繰り返して、よしと呟いた。どうやら問題はないという判断をしたようだ。
「うん、さすが速吸さん。体捌きが凄いや」
「そういう吹雪さんこそ、あの蹴りを簡単にいなしてしまうんですから凄いです」
「んふふ、お姉ちゃんですから」
「ふふ、そうですか」
「そうなのです。さてと、ウォーミングアップはもういいですよね?」
「はい。慣らしはこんなものでしょう」
それじゃあ、と吹雪が笑う。速吸も応えるように微笑む。
「本気でやりましょう!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「やっぱり重巡がいっちばーん! ですね!」
+ ヽ、
+ ._,/ ̄ ̄` ̄\ +
// ,ハ、 /ヽ\ i
+ .-=´/ ノ \リ/ /レV lハ +
+ .j v、!● ○"i 〈
.キ ノ〈"" ワ ""ル レ ハヾ +
七'レ`ーゥ t-リ!Уハ 「:l_「:l +
+ ./::::/,,「:l´ V_,ィtー〈 「l l:::l・・l:::l
+ ./::::/::l=:〉`央ー'j \==ニニl +
+ +.//〈:,/ー、{,_ノ /ー、! \
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
異次元の戦いが始まったが、とは言え今日の演習とは一対一で行われるものではない。他の仲間たちもまた、それぞれの戦闘を開始していた。
「対空狙撃……朧、やれます!」
高角砲を構え、空を飛ぶやたらと仰々しいカメラのついた水偵を狙う。ちなみにモニター用のほうではなく意味深な撮影用のほうである。
「ああああっ! ちょっ、朧さんストップーー!」
青葉の叫びも虚しく、簡単に撃ち落とされることになる。なお使い捨てになるからとカメラ品質を下げて再度飛ばす懲りない姿勢を見せる模様。
盗撮は犯罪です。