グラーフ出ねえんだよ!!!!
さて、青葉の盗撮型偵察機を撃ち落としたのはいいけれども、しかしそれが戦果になることは別にないので、気を引き締めなおして。朧とヴェールヌイは縦列に並び行動を続ける。既に吹雪と速吸が交戦をする場から距離を開け、霞と三日月の警戒をしている。
暴風雨さながらの戦いに割り込んで入り込むほどに命知らずではないと、お互いがお互いとも、割り込まず割り切って考えての行動だった。
野暮なことはしない。野暮は撃ち落とす。
エロ偵察機のような野暮ももちろん。
それはともかく。吹雪たちから離れた、とは言っても視認による確認はできる距離だ。完全に離れてしまうことはよくはない。確かにあの二人の戦いの間に入り込む余地は無いかもしれないが、それはいつまでも続くものでもない。
形勢が傾いたとき、それは一気に攻め込む、或いは攻め込まれるときである。艦隊は群体なのだ。
先に動いたのはヴェールヌイだった。砲を向けながら、霞と三日月へと直進していく。
大きく迂回するように二人の戦場から離れた二組の距離は未だに小さくない。
「うらー!」
「正面から突っ込んでくるのね!? 上等っ!」
負けじと霞も速度を上げてヴェールヌイへと突っ込む。基本的に駆逐艦娘の戦闘は、情熱的だ。射程の短い砲と命中率の低い魚雷を活かすため、極端な接近戦を行うものも少なくない。
だからこそ、霞もヴェールヌイへと突っ込んでくる。駆逐艦娘の距離へと向かう。
ヴェールヌイは牽制の砲撃を撃つが、霞は容易く避ける。距離がある。駆逐艦娘の機動力だ、これだけ距離があれば砲撃を躱すなど造作もない。
距離を詰める。交錯一歩手前。ここにきて霞は砲身を構える。突撃射撃。超々接近戦による擬似的な格闘戦をするつもりなのだろう。
しかし、ヴェールヌイは意地悪く笑う。
にぃ、と口角を釣り上げて、まるで悪戯の成功をした子供のような笑顔だった。
いいのかい? そうヴェールヌイの口が動いたと同時に、ひょい、と首を横に傾けたーーぽっかりと隙間のできたその空間に、砲撃が通過する。
その後方ーー駆逐艦娘の距離ではない、ヴェールヌイと違い、大きく動かず、その場で砲を構えていた朧の射撃だった。寸分違わずにヴェールヌイの頭で隠された砲撃だった。
「そんなものぉ!」
霞は半身を捻りながら、攻撃を避ける。回避行動をするが、しかし避けきれず、砲撃は霞の肩にヒットする。まともに喰らわなかっただけ全然大丈夫。
しかし反動で身体が後ろへずらされる。
「大丈夫ですか!?」
「こんなもん余裕よ!」
合流した三日月と軽口を交わす。肩部分の制服が少し破け肌を露出していたが、大きなダメージではない。小破以下といったところか。
「そんなことよりチャンスよ。朧はまだ距離がある。合流される前に数の優位であの野郎をぶっ飛ばすわよ」
「野郎って……ひどいな」
「知らないの、駆逐艦は口が悪いのよ!」
私も駆逐艦なんだけどな、とヴェールヌイはひとりごちて錨を構える。鈍器のように構える。
暁型の艦娘はこれを好んで使うし、それは第二次改装を果たしたヴェールヌイであったとしても変わらないことなのだけれども、もちろん本来は戦闘で使うようなものではない。錨の本来の役割である繋ぎ止めるとは、まったく違う使い方であるし、これを近接打撃武器として使うのはある意味、艦ではない艦娘らしさかもしれない。
「電ほどではないにしても、私も暁型。錨の扱いはちょっとしたものだよ」
ビュン、と霞目掛けて錨を軽々と横薙ぎに一閃にふる。小柄な体躯からは想像もできないほどに容易く、軽々しく鈍器を振り回すが、しかし艦娘であるのならば何もおかしなことではない。自らの艤装も扱えずに、何が艦娘だというのか。
腰を引きながら避け、反撃。近距離砲撃、それを錨で薙ぎ払うという離れ業を容易く行うが、やはり人間基準で考えるのではなく、艦娘であるからこそと思うべきかーーとは言え、単純にヴェールヌイの練度が高いということもあるのだけれど。
霞の砲撃の隙間を縫うようにすかさず三日月が連装砲を撃つ。身体を回転させながら回避をする。余裕を見せようとふふふ、と笑ってみせるが、実際のところはいっぱいいっぱいである。
「手を休めないったら!」
避けることでできた僅かな動きの止まりを狙って霞の力いっぱいの蹴りが腹部に向かうが、それを錨で受け止める。すかさず後ろから三日月が連装砲を打撃武器として頭に向かって振り下ろす。
密接になり過ぎて殴り合いの様相になっているが彼女たちは艦娘なのであり、だから本来は撃ち合うべきなのだろうけれど、敢えて格闘戦に持ち込んでいるのはヴェールヌイのペースだった。
そう思いたかった。そんなことはもちろんなかった。ヴェールヌイがそう思いたかっただけである。
単純に、距離が近い場面においてわざわざ撃ち込むのは時間のロスが生じやすいからだった。ましてや昼戦における駆逐艦の火力では、魚雷を打ち込まない限りは単純な殴る蹴るのほうがダメージを与えられる可能性すらあるのだから。
とは言え、そんな僅かな時間のロスを気にしなければならないのは、ヴェールヌイが相手だからである。普通の深海棲艦を相手にする場合にはそんな時間のロスよりも確実に仕留めるためにも砲撃を叩き込むことこそが正解である。だからこそ何の参考にもならない演習と言われるのかもしれないが。
一方で、確実な砲撃を得意とするものがいる。
確実にクリティカルヒットを与えるほどの狙撃力を持つ、スナイパーのような存在。
ヴェールヌイが近接型であり、吹雪が特異ながらも敢えて分類するならば近接寄りオールラウンダーであるとするのならば、彼女はその二人とはまるで逆に位置する、駆逐艦娘の距離を無視した存在。
「だからって、この距離の砲撃には、牽制程度の意味しかないけれどーーねっ!」
バンバンバン、と連続砲撃。その砲撃は、ヴェールヌイと密接する霞と三日月を正確に狙っていた。
「ーーチッ、もう射程圏内ってわけ!?」
仕方なく距離をあけて砲撃を避ける。距離のある砲撃と言えどもまともに直撃すれば駆逐艦娘の装甲ではそれなりのダメージを受ける。
戦艦娘、或いは重巡艦娘であれば無視できるのかもしれないが、それはないものねだりである。
「余所見していいのかい?」
ニヤリ、と今度こそ意地悪く本音で笑い。
ヴェールヌイは錨で霞を横殴りにする。
ゲボっと空気の塊を吐き出しながら、まともに錨を喰らった霞は吹き飛ばされる。ノーバウンドで吹き飛ばされると言ってみてもいいかもしれない。
いや、海上でバウンドも何もあったものではないけれど。
「か、霞さんーーきゃあっ!?」
「心配する前に周りを見ないといけないよ。特に水中は、何があるかわからないから」
一瞬、三日月が霞のほうに気を取られた瞬間。
足元で炸裂したーー駆逐艦の切り札、魚雷だ。
発射主は、朧だ。先ほど砲撃で牽制をしながらも魚雷を海中へ打ち込んでいたのだ。
「朧、ちょっとオーバーキルじゃないか?」
「気を抜いてやられるくらいなら一気に畳み込むことが大事だから。やっぱり負けたくないし」
朧は負けず嫌いだなあ、とヴェールヌイは思う。
事実、朧は穏やかなようでいて案外と、意外にもかなり負けず嫌いである。曙と似ている、と吹雪がかつて評したこともあるが、負けず嫌いという面だけを見れば、むしろ曙以上ですらある。
ーーだが、しかし。
何も負けず嫌いなのは朧に限ったことではない。
大体、そもそも。駆逐艦娘というのは情熱的であり、熱くなりやすい。そして何よりも、どんな艦娘よりも負けず嫌いが集まりやすいのだ。
だから。
「なーに終わった気になってんのよ!? まだまだここからなんだったら!」
「ええ……! こちらも、反撃です!」
そう簡単には、決着しない。
少女たちの戦いは、まだまだ終わりそうにない。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「掘りが終わらないのです!」
// , /\ .i i V〈
/ / ∠ム/ ー-V l 「ヽ
j v、!● ● i ' ├'
/ 〈 ワ / .i y'
/ _ ,.イ , `ーゥ t-!,、_У
´ ' .レ^V´ V_,ィtー〈 「| 「|
/ `央ー'j \_|:| |:|
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「ーーで、お前たちは完敗してきたわけだが、今回もボロ負けだったわけだが、敗因はなんだ、霞?」
「あんたというクズが司令官という悲しすぎる事実からくるモチベーションの著しい低下かしら」
「そうか……なるほど、それは俺の問題だ。悪かったな、モチベーションの維持には気をつけるよ。どんなプレイがご要望だ?」
「水責めかしら。呼吸をできないようにするほう」
「拷問だなそれは!」
「冗談よ。敗因なんてわかりきってるでしょ。ひとりいれば戦闘すべてを制圧できてしまう切り札同士の対決の結果、それがすべてよ。……つまりは速吸に頼りきりのアタシたちが問題ということね」
「わかってるな。まあ、個人のレベルの底上げが重要だ。お前たちも普通の駆逐艦娘よりは強いはずだが、あの子たちは特異すぎるーーだからこそ、戦う価値がある。レベルの高いものとの演習は得るものも大きい。今回の反省は次回に活かそう」
「次こそは勝つったら! いいわね!?」
「はいっ! もっと、頑張らないとですね!」
「もちろん、次は吹雪ちゃんにも、相手の皆さんにも勝ってみせます!」
次回へ向けての反省会をしている第八鎮守府の人たちは、意識が良い意味で高いと思う。飽くことのない勝利への探究心は、必ず次へと繋がることだろう。次回の演習ではもちろん、深海棲艦との戦いにおいても、きっと良い影響を与えるだろう。
千切れた水着の肩紐を抑えながら、朧は思う。
彼女たちの話しぶりでは、まるで朧たちが圧勝したかのようであったけれど、しかしそれは違う。吹雪、ヴェールヌイ、それに朧自身も、みんな中破以上に追い込まれている。というか、朧に至っては大破判定をもらっている。……もう水着が殆ど残っていないし、とても人前に出られない格好だった。
やっぱり水着で戦わせるのは間違っていると誰か大本営に通達してくれないだろうか。
「その、なんだ、朧。……俺の服なんかで良ければ上に羽織るか?」
あまりにもあまりな格好に、提督が気を使ってくれていた。……というよりも、こんな裸よりもある意味フェティシズムあふれる露出だらけの格好を提督に見られているという状況が一番の問題だった。
うわあ、凄い恥ずかしい……穴掘って埋まりたい。
幸いにもというか、当然の配慮というべきか、提督は極力こちらを見ないようにしているので、凄く助かってはいるけれど。いや、かの第八鎮守府の提督という例があるので当然と言い切るには不安があるかもしれないけれど、まあそもそもあの第八鎮守府の提督こそが特殊ケースなので除外してしまっても構わない。
「すみません……お借りします」
提督の上着をお借りして、羽織る。夏制服である白詰襟だが、夏の陽射しに照らされていたということもあり、ほんのりと汗の匂いがする。
……提督の匂いは、嫌いじゃないです。
いや、変な意味ではなくて、そういう特殊な趣味があるとか、そういう感情があるというわけではなくて、ただ単に汗の匂いだけど、大して不快に感じないとか、そういう意味でしかないけれど。
「あーっ! 朧ちゃんズルい! 司令官、わたしもボロボロですよっ、ほら、ぱんつ見えそう!」
「お前いつも見えてゲフンゲフン」
失言をしかけて咳払いで誤魔化していた。
とは言え、確かに中破判定を受けているほどなので吹雪もそこそこに肌が露出しているのは間違いないのだけれど……正直、少しお腹が見えたりしているぐらいで、あとは服が煤けている程度と、よく見ると存外、普段と大差ないようにも見える。
「司令官、私は司令官の靴下でいいよ」
「俺の靴下……? 必要なのか、それ。替えがなくて必要だというなら、後から支給するけど」
「司令官の靴下がいいんだ」
「よくわからんな……ボロいだけだろうに」
「価値観は人それぞれということさ。私は使い古しのほうが安心できるんだ」
「なるほど、そんなもんなのか……」
いや、そんなものじゃないと思う……
次回更新するときにはグラーフ着任してると信じてます。