リリカルオリヴィエSacred   作:ころに

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―――はて。私は一体誰なのでしょうか。

【前回のあらすじ】毛玉との壮絶なデットヒート、遂に決着。


Memory.01:自分自身とのはじめまして

 

 時は女性と毛玉が追走劇を開始する僅かに前まで遡る。

 

 

   ●

 

 

 数多の人が夜空の下、各々の住居にて明日の為に心身を休め始める時間となろうとした頃。

 雲一つ存在しない空の彼方よりそれは訪れた。

 夜の黒を引き裂き現れたのは極彩色の光を身に纏う1対の流星だった。

 それは音を置き去りにする速度で天を駆け抜ける。

 そしてその速度のままに流星は街の一角にある緑の中へと堕ちていった。

 

 

   ●

 

 

「きゃん!?」

 

 べちゃと何かが潰れたかのような音が脳裏に木霊しました。

 同時に唐突な衝撃が背中から私を貫きます。

 視界が明滅し、デフォルメされた星が幾つも瞬きました。

 

「あいたたた……何ですか?何が起きたのですか……!?」

 

 四肢を地面に投げ出した仰向けの体勢で私は目を白黒させます。

 よく解らないけどもいきなり宙に投げ出された上、地面に叩きつけられたようです。酷いです。

 そして、今現在、眼前に広がるのは星々が点々と輝く美しい夜空でした。

 はて。なんで私は外に居るんでしょうか?

 

「あれ?私は確か……あれ?」

 

 目を白黒させながらも、上体を起こして周囲を見渡します。

 どうやら周りには誰も居ないみたいでした。

 存在しているのは青々と茂った草木のみです。

 視線を上げると、そこにはやはり黒一色に染め上げられたキャンパスが在りました。

 それは無数の星々が瞬く夜空でした。

 そんな夜空の中央に浮かぶのは、淡く輝く金色の満月。

 今が夜中である事をその輝きを以てこれでもかと主張して来ます。

 

……んと。なんで私は……此処に居るのでしょう?

 

 思考が上手く纏まりません。

 というか……何も思い出せません。

 え?あれ?と両手で頭を抱えるけども、何も思い浮かびません。

 どうしてこんな場所に居るのか。

 ここは何処なんだろうか。

 そもそも――私は誰なんでしょうか?

 

……はわ、どうしましょう!?記憶喪失っていうんですっけ、これ!?

 

 自分の現状に気づき、思わずあわあわと狼狽の声を漏らしてしまいます。

 だがそれだけでは状況が変化する事はありませんでした。

 されども時間が経てば気づく事もあります。

 寒いんです。

 凄く、寒いんです。

 私の顔が一気に青に染まります。

 やばいです。このままじゃ凍死してしまいそうです。

 

「ってあれ?私、こんな薄い服着てましたっけ?」

 

 自分が着ている衣服を確認してみると、それはかなり薄手の物でした。

 着込んでいるのは、無地の白いティーシャツに半ズボン。

 まるで病院に入院中の患者さんのような格好です。

 それに、

 

……体が小さい?

 

 試しに自分の目の前に手を持ってきて観察します。

 凄く小さい――ような気がしました。

 記憶はない筈なのにそんな感想を私は抱きました。

 

「これ、私の手……ですか?」

 

 とても細い輪郭の手でした。

 まるで生まれたての赤ちゃんのように傷1つ無い綺麗な肌。

 その肌を染め上げるのは無垢な薄い肌色。

 思わず見とれてしまいます。

 

……綺麗……。

 

 どれくらいそうしていたでしょうか。

 冷たい風が私の身体を撫でたところで我に返りました。

 またもぶるりと身を震わせてしまいます。

 冷え切った風が私の体温を奪う感覚は紛れもなく現実です。

 夢や幻の類では決してありません。

 

「私、"生き返ったの"でしょうか?」

 

 不意にそんな言葉が自分の口から出てきました。

 瞬間、一拍の間ですが思わず硬直してしまいました。

 

「え?」

 

 思わず首を傾げます。

 その行動の原因は、先の自分の発言です。

 自然に出た言葉でした。

 意識して言い放ったわけじゃありません。

 

……生き返った?

 

 よく解らない単語です。日常ではまず放つ事のない言葉でしょう。

 ですが無意識に漏らした言葉です。何か意味があるのかもしれません。

 もしや私は今の今まで死んでいたりしたのでしょうか。

 軽い混乱に襲われている思考の中でそんな考えが思い浮かびます。

 ですが、まだ辛うじて残っている理性がそれを否定します。

 

……そんな非現実的な事があるわけないですよね。

 

 別にお墓から這い出してきたわけでもないですし、私はゾンビじゃない筈です。

 

……ないですよね?

 

 不安に駆られたので一応自分の叩きつけられた地面を確認してみました。

 何の変哲もない茶色い大地がそこにはありました。

 

……うん。周りに土を掘り返した跡とかありませんよね……。

 

 ふぅ、と一安心の溜息を吐きます。

 きっとこんな場所に投げ出されているのはどこかの神様が悪戯でもしたのでしょう。

 別に私はそういった存在を信仰しているわけではないですが……。

 でも、現状があまりにも超展開過ぎてそんな風に疑念を抱かざるを得ません。

 

「あう。体痛い……」

 

 もそもそと緩慢な動作でですが、未だ痛みが抜けきらない体を無理矢理起き上がらせます。

 そしてとりあえず移動しようと私は森の向こう――灯りが見える場所に向かって歩き出しました。

 あ、やだこれ。草が足の裏にチクチク刺さって痛い痛い。

 

 

   ●

 

 

 黒煙を上げる抉られた大地の上で"それ"は目を覚ました。

 

「……」

 

 眼を開けば、その目の先には見知らぬ空が広がっていた。

 己の身を護る外殻は既に剥ぎ取られ、寒々しい風に苛まれる。

 状況を確認しようとするが、周囲には何もない。

 強いて何があるのかというならば、森が存在していた。

 

「此処は……?」

 

 疑念の声も上がるが、ふと己が何をしていたか思い出せない事に気づく。

 記憶喪失という言葉に思い至るが冷静さを失う事はなかった。

 故に動く。己の頭以上に冷えた体を如何にせんと思考は絶やさずに。

 そう。今はただ求める。

 

「暖を……!」

 

 一言で言うならば――放り出された先はとても寒かった。

 

 

   ●

 

 

……うぅ、寒いです……。

 

 冷え切った空気が私を包みます。

 体温を逃がさない為に両手を合わせて息を吹きかけました。

 ちょっとだけですが、手があったかくなります。

 

……此処、公園だったんですね。

 

 ぺたぺたと足音を鳴らしながら舗装のされていない土色の道を歩きます。

 どうやら私が目覚めた場所は何処かの公園の森林部だったようです。

 ちなみに何故そんな事が解るのかと言うと先程、

 

『海鳴第三公園』

 

 と刻まれた石壁を見かけたからです。

 

……潮の香りもするし、海の近くなのでしょうか?

 

 少なくとも私が住んでいた場所は海の近くじゃなかった筈です。

 記憶喪失のせいで断定は出来ないのですが……。

 でも多分そうです。私のゴーストがそう囁いている気がするんです。

 

……うーん。でもどうしましょう。行く宛もないですし……。

 

 幾分か落ち着いてきたので、これからの事を考えてみます。

 記憶喪失の為、家族の顔や今まで住んでいた場所すらも一切思い出せません。

 慌てるべきなんでしょうが、何故か心は驚くほど落ち着いていました。

 我ながら肝が据わっていますねぇ、と思います。うん。私は強い子です。

 あと先程歩きながら確認したのですが、どうやら私は自分に関する記憶だけを失っているようです。

 だから"森を出るにはどうすれば良いか"という疑問等に対しては問題なく対応する事が出来ました。

 なんとも中途半端な記憶喪失ですね。

 まぁ、全ての記憶を喪失して言葉も喋れなくなるよりはマシなのですが……。

 

……とりあえず。まずは人の居る場所まで歩いていくべきですよね。

 

 よし、と気合を入れてこれからの行動方針を決定しました。

 色々と考えなきゃいけない事はありますが、一旦私は思考を打ち切ります。

 今は考えている暇があったら今は行動した方が良さそうですしね。

 と、現実に意識を戻すと同時に不意にせせらぐ川に映った自分の姿が目に入りました。

 

「わ」

 

 思わず声を漏らしてしまいます。

 先程から驚いてばかりですが、今回の驚きのインパクトも中々のものです。

 

……わわ。凄い。お人形さんみたいです。

 

 水面に映り込んだ私の姿は"普通ではない"と思えるようなものでした。

 水の鏡の内側から私を見つめ返すのは右が碧、左が紅の瞳。

 見事なまでのオッドアイでした。

 続いて目に入ったのは、私を照らす街灯の光を吸い込んで煌めく金髪でした。

 肩程まで伸びたそれに触れると、まるで高級な布のような手触りが返ってきます。あ。気持ち良い。

 

「でもやっぱり小さい、気がしますね……」

 

 やっぱり体が縮んでるんじゃないでしょうか。

 微かに残っている記憶がそう告げている気がします。

 もっと私は、こう、なんでしょうか。色々大きかった気がします。

 眉尻を下げながらそんな風に思った瞬間でした。

 またもやぶるぶると身が震えます。

 

「くしっ」

 

 いけない、と体を両腕で抱きます。

 このままでは風邪引いてしまいます。

 とにかく人気のある場所まで歩いて行きましょう。

 出来れば暖をとれるようなものも見つかると最高です。

 

……人に会えば、私の現状もなんとかなりますよね……。

 

 淡い希望を胸に眉を立てて、周囲を見渡します。

 まずは案内板のような物を見つけ出さないといけません。

 このままではどちらへ行けば公園から出られるのかすら解りませんしね。

 そんな風に思った時でした。

 

 ガサリと背後から音が響きました。

 

「え?」

「ん?」

 

 硬質的な何かを掻き分けるような音に思わず私は振り向きます。

 そこには、

 

「えと……」

「君は……」

 

 音の発生源は私が出てきた森とは違う方向の森へと続く草むらでした。

 そこに丁度草むらから出て来たばかりといった体勢の子どもが居ました。

 何故か驚愕の表情を浮かべています。

 そんな彼の様子を余所に、

 

……多分男の子ですよね。

 

 と私は彼の体の輪郭を見ながら判断します。

 服装は私と同様の無地の白いティーシャツに半ズボンといったもの。

 背は目測ですが、今の私より少しばかり大きいくらいでしょうか。

 でもなんとなくですが、同年代っぽく見えました。

 そんな風に硬直した少年を観察していると、ふとある思いが鎌首をもたげます。

 

……もしかして、この人もなんでしょうか……?

 

 目の前の男の子も私と同じような境遇にあるのではないでしょうか。

 確証はないけど、そんな風に思えました。

 

……うん。多分そうですよね。だって――。

 

 彼の容姿は今の私と同じように"普通"とは言い難いものなのですから。

 私と向き合ったまま動かない彼の碧銀の髪が風に揺られます。

 その動きに注目すると、自然に視線は彼の瞳へと向いていました。

 吸い込まれそうな印象を受ける1対の瞳でした。

 私と視線を交差させる左右の瞳の色は少しだけですが、差異がありました。

 

……綺麗な目。何故でしょうか。なんだか懐かしい気がします。

 

 右が紺、左が青の瞳。

 夜の暗がりの中でも何故か私にはそれらの色がはっきりと認識出来ました。

 彼の瞳を見ていると原因は解りませんが、胸がぽかぽかとしてきます。

 頭の正常な部分が理由を探ろうと疑問を投げかけてきます。

 ですが、私はそれ以上考える事も動く事も出来ませんでした。

 何故なら、彼の眼から視線が外せなかったからです。

 どうしようもなく、目が離せなかったのです。

 私の体は石像にでもなってしまったのではないかと錯覚まで覚えます。

 しかし、次の瞬間、それは起きました。

 

『ねぇ、■■■■』

『どうしたんですか――■■■■■?』

 

 中世のお城のような建物の中庭で微笑みあう1組の仲睦まじい様子の男女。

 そんな光景が脳裏にフラッシュバックします。

 

……え!?

 

 あう、と同時に襲ってきた頭痛に堪らず声を上げてよろけてしまいます。

 頭を振って、頭痛を払おうと試みます。痛みはすぐに消えました。

 

……今の光景は?

 

 一体なんだったのでしょうか?

 男性は目の前の男の子に似ていた気がします。きっと彼が成長したらあんな風になるでしょう。

 対する女性の方は、今の私が成長すればあんな風になるかもしれません。

 もしかしたら、あれは未来の私だったりするのでしょうか?

 まさか今のは私の中に眠る予知能力の類が突発的に発現したりしたのでは。

 そんな風に戦慄していると、相対していた男の子が私と同じ様によろめいている事に気づきました。

 

「うぐ」

 

 彼はなんとか街灯に手をついて転倒しないよう耐えているようでした。

 ですが、調子はすこぶる悪そうに見えます。

 

「だ、大丈夫ですか?」

「あ、あぁ、なんとかね……」

 

 一足早く体勢を立て直した私は彼に向かって歩み寄ると体を支えます。む。結構重い。

 ですが彼はそんな私の行動に対して、

 

「もう大丈夫だよ。ありがとう」

 

 と述べて街灯から手を離し、改めて私と向かい合うように立ちました。

 あ。やっぱり私より背が高いですね。むむむ。

 

「君は……もしかして俺と同じかな?」

「あ。はい。多分、ですけど……気づいたら森の中に居たんです」

 

 貴方もですか?と私は問い返します。

 

「ああ。やっぱりか……良かった。同じ様な格好をしてたからもしかしてと思ったんだけど」

「私もです……あ。そうだ。えと、すいません。貴方は此処がどこだか解りますか?」

「いや……俺にもそれは解らない」

 

 彼は顎に手を当てながら首を横に振ります。

 どうやら彼も私と同じ様にいきなり見知らぬ土地に放り出されたようです。

 

「せめて此処の地名とかが解れば良いんだけど」

「あ。それだったら解ります!」

 

 おお、と男の子が感嘆の声を上げ、私に期待の視線を向けます。

 ふふ。なんだかこうして頼りにされると嬉しくなりますね。

 私は彼に対して右手の人差し指を立てながら、

 

「さっき看板を見つけたんですが此処は『海鳴第三公園』という場所らしいです」

 

 言った瞬間、周囲の空気が凍りついた――ような気がしました。

 あ、あれ?もしかして私何か失敗しちゃいました?

 ですが、今度の時間停止はそんなに長くは続きませんでした。

 白黒になったかのように感じた世界の中、私よりも先に行動を起こした人が居たのです。

 

「は?」

 

 男の子が停止の壁を突き破り、目を見開いて唖然といった表情を浮かべます。

 ああ、成程と私は先程の時間停止の理由について得心しました。

 恐らくですが、きっと私の言葉が彼にちゃんと聞こえなかったんですね。

 うーん。もしかして聞き取りづらかったでしょうか。

 よし、今度は1単語ごとしっかり区切るように言うようにしましょう。

 

「『海鳴、第三、公園』だそうです」

「うみ、なり……?」

「はい。『海』に『鳴る』と書いてありました。多分そう読むと思うんですが……」

 

 男の子は私の言葉に天を仰ぐと、あー、と間延びした声を上げました。

 

「えっと、もしかして、何か間違っていましたか……?」

「あ。いや、多分その読み方であってると思う……いや、まさか、なぁ……」

 

 彼は頬を人差し指で掻きながら言い辛そうな顔をして、逡巡しました。

 ですが暫くして考えがまとまったのか、彼は私と視線を合わせると言葉を放ちました。

 そう。今度は思わず私の方が固まってしまう言葉を。

 

「君――転生って信じるか?」

「?」

 

   ●

 

 

 海鳴第三公園のベンチに私達は並んで座っていました。

 

「なるほど。此処はもしかしたら創作の世界かもしれないと……?」

「あ。うん。俺、今の状況と酷似した始まり方をする作品を、以前ネットで読んだ――気がするんだ」

 

 まさか自分がなるとは思ってなかったけどなぁ、と彼は溜息を吐きました。

 あれから少し彼と話をしたのですが、どうやら彼も私と同じで自分に関する記憶を失っているとの事でした。

 ですが、彼には私と違って現状を打破する為の知識があったようです。

 それは先程彼が硬直する原因となった『海鳴』という単語に関連する知識でした。

 

「リリカルなのは、でしたっけ……魔法少女ですか。私、少し憧れます」

 

 魔法少女は乙女の永遠の憧れですからね、と私は拳を握ってみせました。

 ヒラヒラな衣装を着て、人々を救い、希望を与える存在が脳裏に浮かびます。

 うん。やっぱり魔法少女というからにはこういうのが鉄板ですよね。

 

「結構なバトルモノだった気がするけどなぁ……あれ」

「え?魔法少女なのに戦うんですか?」

 

 バトルモノという単語に私は首を傾げます。

 はて。それは魔法少女からはかけ離れた単語ではないのでしょうか?

 

「ああ。そりゃあもう殴ったり斬ったり桃色ビームで敵を飲み込んだりするぞ」

「なにそれ怖いです」

 

 私の中にあった魔法少女のイメージがガラガラと音を立てて崩れていく気がします。

 夢を砕かれるってこんな気分なんでしょうか。

 思わず顔が引きつってしまうのが良く解りました。

 対する彼はそんな私の様子がおかしかったのか、楽しげに笑い声を漏らしました。

 

「ははは。まぁ、俺も原作は途中までしか知らないんだけどな」

「そうですか……でも、まだ此処が創作の世界と決まった訳ではありませんし……」

「だな。ま、その時は俺の勘違いって事で笑ってくれ」

 

 その方が良いだろうしな、と彼は言葉を切ります。

 

「兎に角、まずは人気のある場所に行きましょう。こう人気がないと、なんだか怖いですし」

「あぁ、そうだな。変質者にでも襲われたら堪ったもんじゃないしな――俺ら子供だし」

「そうですね……そういえば子どもなんですよね」

 

 全く疲れたり苦労しないから忘れかけていましたが、私達は今10歳くらいの子どもでしたね。

 ちなみに彼もやっぱり自分の体が記憶を失う前より縮んでるような気がする、と言っていました。

 あと私の体はボンキュッボンじゃなかった気がするって言ってました。なんで知ってるんですか。

 

「じゃ、移動するか」

「待ってください!何を根拠に私の胸に将来性がないと仰ったんですか!?」

「なんとなくそんな将来図が脳裏を過ぎってな……」

 

 この人も予知能力の類を持ってるんですか……。

 止めてくださいよ、そんな不吉な未来を見るのは。

 

「うう……解りませんよ。未来は無数に分裂――?」

「ん?どうした?行かないのか?」

「いえ、ちょっと……」

 

 何かが、聞こえたような。

 

『――けて――』

「これは……?」

「?」

 

 やっぱり聞こえました。女の人の声が。

 訝しげな男の子を余所に、私は目を閉じ耳を澄まします。

 すると、それは明確な感情を乗せて、私の耳に届きました。

 

『誰か、助けて!』

「!」

「あ、おい、何処に行くんだ!?」

 

 頭に強く助けを呼ぶ声が響いた瞬間、私は走り出していました。

 男の子の問いかけの言葉が背に届きます。

 ですが、私がその言葉に応える事はありませんでした。

 すいません。でも今は余裕がないんです。

 私が一歩を踏み出す度に、あり得ないと自分で思えるような加速が行われます。

 今なら私、オリンピックとかに出れるのではないでしょうか。

 

「確かこっちですね……!?」

 

 声の聞こえた方向へ木の間を抜け、ただただひたすらに駆け抜けます。

 心が逸ります。更に速くと。声の主が悲劇に見舞われぬ内に、と。

 だからこの身よ。ただ速く。

 

「速く!」

 

 次の瞬間、私の体から虹色の光が吹き出ました。

 明らかにおかしな現象。

 ですが私はそれを無視しました。足を止める事はありません。

 そして、虹色の光が私の全身を包むと同時に全身に力が漲ります。

 視覚的には痛いですが、嫌悪感はまるで感じません。

 むしろ私を包み込む感覚はなんとなくですが、暖かく優しい母親の抱擁の様にも感じられました。

 

「これなら――!」

 

 更に加速。

 瞬間、私は虹色の流星と化しました。

 異常な事態の連続。

 されど私に戸惑いはありませんでした。

 私は森の中を光りの帯を引きながら疾駆します。

 

「待っててください。今、往きますから!!!」

 

 向かう先は救いを求める声の元。

 ただただ声の主の叫びに応える為に。

 




<超スピード!?(ストーリー展開的な意味で)
<早めにしないとダレるからね。仕方ないね。(諦観)

まずはここまで見てくださった方々に最大の感謝を。
さて、主人公ともう1人の転生者が早速登場しましたね。
一体彼らは何者なのでしょうか……その正体は今後明かされていくと思います。(棒読み)

それでは、次回また。

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