【前回のあらすじ】『天駆ける少年の燃え尽き』『魔法少女オリヴィエ閣下降臨』『一路水橋さん宅へ』
私――
自分で言うのもなんだが、業績優秀、容姿端麗と仕事仲間の内でもかなり出来る女をしているつもりだ。
そんな私はつい先程、なんとも摩訶不思議な出来事に立て続けに遭遇してしまっていた。
1つは黒い毛玉の化物に追い回された事。
会社帰りに人気のない路地裏を通り、近道をしようとしていた私は謎の黒い毛玉と遭遇し、襲われた。
これでも脚力には自信があったのだが、化物と人間では流石に差があり過ぎたらしい。
やがて限界が訪れ、油断したところで大転倒。
危うく化物の腹に納められるところだった。
そして2つ目は化物に食われる寸前、私を救ってくれた美少女と出会った事だ。
赤と碧の瞳を持った肩程まで金髪を伸ばした整った顔立ちの少女。
この世の物とは思えない容姿をした彼女は、なんでも、
……魔法少女、か。
そう。彼女は自分は魔法少女であると名乗ったのだ。
その言葉を聞いて常人ならば「そんな馬鹿な」と反論するだろう。
しかしながら、私はその"魔法少女"の肩書きに相応しい現象を彼女が起こすのを見てしまっている。
化物から私を守ってくれたのは、視界を埋め尽くさんばかりの虹色の光。
それを纏い、彼女は私の目の前に現れた。
まぁ、それを見た直後に私は気絶してしまったのだけど……。
でも目覚めた後、もう1度彼女に虹色の光を操作するところを見せて貰ったし、見間違いではない。
信じ難い事だが、私は幼い頃に何かの漫画で見た魔法と現実が交差する世界に迷い込んでしまったらしい。
今年で二十代中盤を迎えるという時にまさかこんなファンタジーに巻き込まれるとは、
……もう少し若ければ私も主役として参加出来たんかなぁ。
魔法少女をやるとしたら、目の前で正座する10歳前後に見える私の恩人ぐらいが適正年齢だろう。
私の歳じゃ流石に年齢的に"魔法少女"と名乗るのは厳しい。
それに私がフリルの大量に付いた衣装を着て魔法のステッキ片手に魔法少女する姿なんて思いつかないし。
閑話休題。
話が逸れたわね。
兎にも角にも私は魔法少女――オリヴィエ・ゼーゲブレヒトちゃんに危機を救われた。
その恩を返す為にもこうしてとあるマンションの一室である私の住居に招いた訳なんだけども、
……そういえばこの子、なんでこんな格好しているのかしら。
小振りのテーブルを挟んで真正面にちょこんと座るオリヴィエちゃん。
彼女は柔らかな微笑を浮かべて首を傾げる。
そんな可愛らしい仕草を見せる彼女の服装はとても質素な物だ。
無地の白いティーシャツに半ズボン。
とてもオリヴィエちゃんくらいの年頃が着る服ではない。
まるでどこかの病院の患者衣のようだ。
……もしかして魔法少女っていうのはこの子の妄想で……。
実はどこかの実験施設から抜け出してきた超能力者でした、とかっていうんじゃないでしょうね。
……魔法より現実的かしら。うわ、有り得そうで困るわ。
漫画だったら私はそのままオリヴィエちゃん達を巡る戦いに巻き込まれるか、速攻で死にそうな展開だ。
その展開だと巨大な悪の組織とかバックに出て来そうだし、出来れば勘弁して欲しいわね。
……で、こっちの子はボロボロだけど何かあったのかしら。
オリヴィエちゃんから視線を外して部屋の壁に寄りかかって天井を見上げている少年へと向ける。
こちらもまたオリヴィエちゃんと同様に異常と呼べる風貌をしていた。
まず目を引くのは碧銀の髪。
自主的に染髪でもしない限り滅多にお目にかかれない髪色だ。
しかも微妙に解り辛いが、彼もまた左右の目の色が若干異なるようだ。
魔法少女界隈ではオッドアイが流行っているのだろうか。
……軽い火傷に、打ち身、といったところかしら。
彼は火を噴く化物とでも戦ったのだろうか?
……まぁ、オリヴィエちゃんのツレだし、何かの能力は持ってそうね……。
今の状況、彼女達がいきなり暴れ出したら間違いなく私の命はないわね。
他人事のような感想を抱きながら、再度オリヴィエちゃんへと視線を戻す。
相変わらず天使のような微笑で私が考えを纏め終るのをずっと待っていた。
聡い子だ。
とても外見相応の年齢とは思えない。
……さて、脱線はこれくらいにしておいて、これから彼女達をどうするか、ね。
この際、彼女が使う力が魔法か超能力なんていう疑問は置いておこう。
問題は1つ。"記憶喪失"である彼女達をこれからどうするか、だ。
……警察に届け出る……なんの捻りもないけど、まともな対応ね。
されどここで私は己の考えに待ったをかける。
……もしかしたら実験施設から抜け出してきた、っていう線も捨てきれないのよね。
漫画や小説の読み過ぎかもしれない。
が、警察に知らせた途端屈強な黒服達に自宅訪問される可能性も否めない。
そのまま彼女達の秘密を知った私は口封じの為に始末され……とかね。
……とりあえず彼女達の記憶喪失が治るのを待つ?……下策かしら?
記憶喪失が治りさえすれば彼女達を取り巻く状況も把握出来るだろう。
それまでは彼女達を家に預かるのも1つの手ね。
孤児院とかに押し込んで何時の間にか姿を消していました、なんて事になったら後味も悪いし。
……方針は決まったわね。あとはオリヴィエちゃん達の許可と状況の確認を取って……。
考えを纏め終ると一旦思考を打ち切る。
「オリヴィエちゃん」
「はい」
まずは軽い問答から。
「貴女の記憶喪失ってどれくらい酷いものか、解る?」
「えと、名前以外の記憶はあまり覚えていません」
クラウスと知り合いだったとは思うのですが、と彼女は言葉を締め括る。
ちなみにクラウスというのは壁に寄りかかっている少年の事だ
「どうしてあの公園に居たのか、どこから来たのかと問われるとさっぱりで……」
彼女は申し訳なさそうに、ごめんなさいと頭を下げる。
「いいの。確認したかっただけだからね」
私は腕を組んで彼女の言葉を頭の中で反芻する。
受け答えする際の彼女の表情は終始真摯で、嘘を吐いているようには見えない。
表情筋を操作する訓練でも受けていればその程度は自由自在だろうけど、
そこまで疑っていたらキリがない。
ここは彼女の言葉を信じてみるとしよう。
……それにこの子は私の命の恩人だしね。
私は頷きを1つ。
「うん。状態は解ったわ。あとは……貴方、私を襲った毛玉が何者かとかって知ってる?」
「いえ……咄嗟の事で思わず突き飛ばしちゃいましたが、まったく見覚えのない生き物でした」
オリヴィエちゃんは頭を左右に振る。心当たり無しか。
「それは多分、ジュエルシードから生まれた化物だと思う」
唐突に響いた予想外な第三者の声に私とオリヴィエちゃんの視線が部屋の壁へと向かう。
「クラウス、知っているんですか?」
「クラウスって呼称、確定なんだな……まあ、良いか」
視線の先に居たのは碧銀の髪を持った少年改めクラウス君だった。
彼は半目でオリヴィエちゃんを見ると言葉を続けた。
「出会った時に教えただろう?俺はこの世界の事を知ってるかもしれないって」
「あ。そうでした」
オリヴィエちゃんが驚きの顔で両手を打つと、クラウス君は小さく溜息を吐いた。
どうやら彼はオリヴィエちゃんよりも多くの情報を保持していそうだ。
「詳しい話、聞かせて貰える?」
「えぇ、こうしてお邪魔していますし、話せる事なら」
「話せる事ならっ事は話せない事もあるのかしら?」
「え?あ、いや、そういうわけでは……」
おお、慌ててる慌ててる。
大人びた雰囲気で話してたもんだから少しばかり凄んでみたけど返って来た反応はまるで子どもだ。
「まぁ良いわ。話してみて。クラウス君はどこまで現状を把握してるのかしら?」
「はい……まず確認したいんですけど、此処の地名は"海鳴市"で合ってますか?」
「えぇ、それは合っているわ」
私は彼に投げかけられた疑問に即座に回答する。
どこで彼がその地名を知ったのかは知らないが、長年住んでいる地の名前だ。
回答に迷う事はない。
対して私の答えを受けたクラウス君は、
「やっぱり……」
と口元に手を当てて呟くと、改めて私と真剣な面持ちで視線を合わせた。
「俺達は多分、この世界の住人じゃありません」
「……へえ」
この世界の住人じゃないと来たか。
随分とまた突拍子もない発言が出たものだ。
「つまり異世界人って事?」
「有り体に言えばそうなりますね」
「ふぅん……」
更に私の保持する彼らの情報として、異世界人である事が追加されてしまった。
どんどん私の知らない世界の設定が膨らんでいく。
さて、ここからどう質問していくべきか。
「地球以外にも世界が存在するって事?その割には日本語が達者だけど」
「多分、生前は日本人、だったんだと思います」
「は?生前?」
思わぬ言葉に私は目を点にしてしまう。
まるで自分が既に死人であるかのような言い草だ。
「はい。多分、俺とそこのオリヴィエは1度死んでいます」
「……ちょ、ちょっと待って……」
いかん。頭が痛くなってきた。
彼の言葉を一旦止め、こめかみに人差し指を当てて、目を閉じる。
えっと、彼等は――魔法が使えて、異世界人で、ゾンビなのか?
幾らなんでも属性過多過ぎやしないだろうか。
魔法とか超能力ならファンタジーだが実物も見たし、まだ容認出来る。
しかしながら、続けて"自分達は死人"と来たか。
私の抱いているゾンビと彼等の容姿とではイメージにかなりの差異があるのだが。
「……続けて」
頭痛が引いて来たのでクラウス君に話の続きを促す。
まずは情報を全部得てしまおう。
魔法、異世界、ゾンビ云々まで効いたんだ。もう私は何が出て来ても驚かないぞ。
言うなれば、もう何も怖くないといった心境だ。
「それじゃあ、続けますが……水橋さんは"転生"ってご存知ですか?」
「えぇっと、輪廻転生の転生?」
「そうです。恐らくですが、俺とオリヴィエはそれを生前の知識だけを持って為してしまったのかと」
「それまた凄い話ね……」
幾らなんでも凄い話過ぎるくらいだ。
生前の知識を持ったまま輪廻転生してきた実例なんて聞いたら、
世界中の人間が血相を変えて彼等を調べようとするだろう。
私の口元の筋肉が痙攣を起こすが、クラウス君は言葉を続けた。
「しかも俺の頭の中にはこの世界の未来の情報が極僅かな期間ですがあります」
「今度は未来人説か……」
「厳密には違いますが、未来の情報を持ってるという点では似たようなもんですね」
「そっかぁ……」
フフフアハハ、もう何でもこーい。
「水橋さんが壊れました……」
「まぁそうなるよな……」
子ども達の痛ましそうな視線が私に突き刺さるが無視した。
「……どこまでが本当?」
「信じ難いかもしれませんが、全部です」
「うわぁい」
私の縋るような声はクラウス君の一言で一蹴された。
つまり記憶喪失で魔法使いか超能力者で現代に転生して来た異世界の未来人な訳だ、この子達は。
なんだこの極まった属性過多。
「ま、まぁ、仔細は置いておくとして」
細かい設定まで聞いていたら、頭がパンクしてしまいそうだ。
それはまた後日説明して貰うとしよう。
私は髪を一撫でしてから表情を改めると肘をテーブルについてから両手を目の前で組んだ。
「……その未来知識の中にさっきの毛玉の事もあったのね?」
「はい。あれはジュエルシードっていうある特殊な力を持った宝石を核にしたモンスターです」
「ジュエルシード……その宝石の詳細な知識はある?」
「限界まで暴走したら世界が滅びる代物です」
「えっ」
「しかも21個あります」
「えっ」
「更に言うと21個全部海鳴に落ちて来てます」
「なにそれこわい」
いや、真面目に恐過ぎる。
世界を滅ぼすような品が21個も地元に転がってる?
なんの性質が悪い冗談だろうか。
「今のところその1つが毛玉になって暴れてると思うんですけど……」
ああ、それに私は襲われた訳か。
世界を滅ぼすような毛玉から逃げ切れただなんて私は運がイイナァ。アハハ。
ほらクラウス少年。そんな怯えてないで話を続けたまえ。
「は、はい……で、あいつなんですけど、多分、明日の夜まではもう出て来ないと思います」
「オリヴィエちゃんに吹っ飛ばされたから?」
「それで死んでなければの話なんですけどね……下手に衝撃与えると爆発しそうですが」
「……あれ?私もしかしてかなり危険な助け方してました?」
「下手をすれば世界が滅んでたかもしれないな……」
「「うわぁ」」
オリヴィエちゃんと示し合わせたように同じ声を漏らしてしまう。
私の危機は救われたけど、代わりに世界がピンチですとか洒落にもならない。
「で、明日の夜までっていう期限を付けた理由なんですけど……」
彼はそこまでで一度言葉を切り、私を見た。
「水橋さん、翠屋って喫茶店、知ってます?」
「あ。知ってるわよ。私も甘いものは好きだし、休日とか行く事もあるわね」
「そこの家族構成はご存じですか?」
「えーっと、やたら若いマスターと奥さんにイケメンの子と……その妹かしら?女の子が2人居たわね」
「そのイケメンさんの妹さんの小さい方が恐らくなんですけど、明日魔法少女になります」
「えー……」
魔法少女って感染性の病気か何かなんだろうか。
「そこまで何で解るのか、理由を教えて貰えるかしら……?」
「えっと、俺の知識だとあの毛玉が魔法少女になったその女の子の最初の相手だったからです」
成程。逆説的に言うと、まだ毛玉が生きているから魔法少女は生まれていないと。
そういう事か、と納得しつつも同時にある不安が沸いて来た。
「あれがチュートリアル代わりの相手になるの……?」
あの毛玉が以前見た翠屋一家の末っ子と思われる子に突撃を敢行する姿を想像する。
普通の子ならそこで怯え竦んで何も出来なくなると思うんだけど……。
「彼女が魔法使いになるのを未然に防いだりは?」
「俺達が彼女の代役をする事で出来るとは思うんですけど……」
そこで彼は眉尻を下げて申し訳なさそうな顔を作った。
「俺達じゃどこまで出来るか解りませんし、彼女に魔法少女になって貰うのが一番安全ですね……」
子どもが荒事に巻き込まれるのを容認するのは心苦しいですが、と彼は締める。
確かにその通りだ。
どう見ても小学生にしか見えない翠屋の末っ子ちゃんが世界の命運を賭けた戦いに巻き込まれるだなんて
彼女とあまり関わり合いがない私ですらどうかと思う。
それを敢えて放置するという事は、きっと彼女でなければならない理由があるのだろう。
その理由とは一体何か?という疑念が鎌首をもたげると同時に私は彼へと質問を投げていた。
「そんなに凄いの彼女?」
「魔法の砲撃で核爆弾級の威力を出せるくらいの才能の持ち主です」
瞬間、彼の言葉に室内の空気の動きが停止した。
嗚呼、なんででしょうね。
不思議な事に世界がモノクロに見えるわ。
「もうわたしはおどろかないわよ」
「片言になってますよ、水橋さん」
やかましい。
ていうか魔法の砲撃って何よ。
魔法少女ってもっと可愛くて優しげなお子様向けの存在でしょう?
なんで砲撃とか某少佐がヒャッハーしそうなミリタリー系な単語が出て来るの?馬鹿なの?死ぬの?
「落ち着いてください、水橋さん。信じられないかもしれませんが……俺の今話せる事はこれで大体全部です」
「話は解ったわ。世界は滅亡する」
「落ち着いてください、キバヤシさん」
このネタが解るとか、あんた本当に記憶喪失か?
●
水橋かえでさんとの話が終わった少し後、
『私は聞いた情報を整理するからあんたらは今日は寝なさい』
と彼女に言われ、俺とオリヴィエはあてがわれた部屋に布団を敷いていた。
ちなみに水橋さんはリビングのソファで寝るから良いとの事だった。
「えへへ、なんだかお泊まり会みたいですね」
「あー、うん。そうだなぁ、ははは」
喜々とした様子で俺の布団を叩くのはオリヴィエだ。
そう。俺の布団の上に居るのは無邪気な笑顔の眩いオリヴィエだ。
水橋さんは1人暮らし故、常備してある布団が1つのみ。
したがって目の前の布団は俺のものであり、オリヴィエのものでもある。
「一緒に寝ろと……?」
「どうしたんですか。早く寝ましょう、クラウス?」
首を傾げるオリヴィエに他意はない。
先程彼女に聞いてみたが、どうやら彼女にはこの世界の知識はないらしい。
さっきの話も初耳で、驚くばかりだったと言っていた。
それに加えて記憶がないせいか、体に引っ張られて行動がとても子どもっぽい。
故に彼女に一切の他意はない。
子どもが親に一緒に寝よう?と強請っているのと同意だ。
他意は、ない。
「心頭滅却すれば火もまた涼し」
「えっと、どこかの諺でしたっけ?」
落ち着きたい時はこの言葉を思い出せって俺の知識が囁いているんだ……。
「まぁ良いや。今日は寝るか……流石に疲れた」
「そうですね……本当に色々ありましたし。水橋さんに感謝しながら床を借りるとしましょう」
布団の上で正座しながら目を閉じて両手の指を組み合わせ、感謝の祈りを捧げ始めるオリヴィエ。
何故かその仕草を見た俺まで体が自然に動き、同じ行動を取ってしまった。
「この出会いとベルカの神々に感謝を……」
「感謝を……」
数秒間の祈りを捧げ、目を開ける。
オリヴィエも同様のタイミングで目を開き、視線が交差する。
彼女は一緒に祈りを捧げていた人が居たのが嬉しかったのか、微笑を俺へと投げかけてきた。
俺は思わず気恥ずかしくなって目を逸らしてしまう。
そんな俺に彼女は苦笑すると、掛布団を捲り上げて布団の中へと潜り込んだ。
「ささ。就寝の時間ですよ、クラウス」
「はいはい……」
オリヴィエが母親の様な笑顔でぽんぽんと俺の枕代わりである座布団を叩く。
なんだろう。俺の方が小さな子どもになった気分だ。
素直に導かれるままに布団に入り、布団の横に落ちてたリモコンを使って電気を消す。
真横を見ると、そこにはオリヴィエの赤と碧の瞳があった。
相変わらず綺麗な目だ。
「それじゃあ、おやすみなさい、クラウス」
「おやすみ、オリヴィエ」
軽く就寝の挨拶を交わし、俺達は目を閉じる。
やはり疲れていたのか、それとも無事寝床を確保出来た安心のせいか、俺の意識は即座に闇へ落ちて行く。
闇の中で思い返すのは、今日目覚めた瞬間からの事。
そして思案するのは、これからの事だ。
特に俺とオリヴィエの記憶喪失、これは早期に何とかしたい。
自分の正体が解らないなんて、無性に気持ちが悪い。
この不快感はさっさと払拭したいところだ。
その為にもどうにかして自分自身の情報を――、
……って、あれ?
そこまで考えたところで何かが思考の網に引っかかる。
何か俺はさっきとんでもなく重要な単語を聞き飛ばしてしまったような気がする。
俺達の存在の根本に関わるような重大な何かを。
……思い出せ。何だ。どの単語だ?
先程したばかりの水橋さんやオリヴィエとの会話を記憶の淵より再生させる。
『話は解ったわ。世界は滅亡する』
これじゃない。
そんな陰影の濃い顔で言わないでください、水橋さん。
『どうしたんですか。早く寝ましょう、クラウス?』
これでもない。
既にクラウスという呼称で固定されているのはもう諦めた。今日から俺はクラウスだ。
うん。なんか車っぽい響きだけど格好良いじゃないかクラウス。
なかなかいけるぞクラウス。
大丈夫だ、問題ないぞクラウス。
いかん。脱線した。
思考を元の路線へと置き直して走らせる。
『ささ。就寝の時間ですよ、クラウス』
いや、これも違う。確か……この言葉の少し前だ。
『この出会いとベルカの神々に感謝を……』
あ。
『ベルカの神々に感謝を……』
「って、あ゙――――――――――ッ!?」
俺は思わず闇の中からミサイルの如き速度で射出される勢いで意識を浮上させ、上半身を飛び起こす。
隣で寝てるこの子、普通にベルカの神とか言ってたよ!?
ベルカって多分アレだよな。
確かリリカルな世界の2期目で出て来た昔滅びた世界の名前だよな。
もしかしてオリヴィエはベルカの住人だったりするのだろうか?
「オ、オリヴィエ!君、今さっきベルカって……!?」
「すぴー……」
「寝るの早っ!?」
軽く揺すっても起きる気配無し。熟睡しているようである。
むにゃむにゃと寝息を立てる彼女の姿を見ると俺の攻撃は完全に無効化されているようだ。
なんという防御力か。
……ま、明日で良いか。
凄い幸せそうな寝顔を見ていたら、慌てていた気持ちが一気に落ち着いた。
こんな顔をしている彼女を起こすのも悪い。
やっと得られた安らぎなんだ――。
先程の単語の件については明日起きてから尋ねてみるとしよう。
もしかしたらそれで彼女の正体が解るかもしれないしな。
「……ふぅ」
いきなり飛び起きたせいか、頭がクラクラする。
1度寝かけて疲労が出て来たのか体が気怠い。今度こそ就寝するとしよう。
「おやすみ……オリヴィエ」
改めて爆睡する少女に向かって呟き、瞼を下ろす。
すると再度俺の意識を闇が深淵へと引き摺り込む。
今度はそれを享受し、抵抗せずに落ちて行く。
そしてそのまま俺は意識を手放した。
まずはここまで読んでくださった方々に感謝を。
質疑応答回だけでこんなに長くなるとは……ネタが仕込めなかったよ、兄者!
次回はちょっとばかり超展開になるかもしれません。
良ければ続けて見ていただければ幸いです。
なお、オリヴィエ達のイメージは以下の様な感じとなっております。
彼等の姿を想像する時の材料にでもなれば、幸いです。
【オリヴィエ達イメージ】
http://4514.mitemin.net/userpageimage/viewimage/icode/i65733/
それでは、皆さん次回また。