【前回のあらすじ】オリヴィエの影が薄すぎて、あっかりーんしてた。
氷の転がる小気味良い音がグラスの中に響く。
中に入っているのは琥珀色の液体。
今日無事に帰れたら飲むんだ……とかフラグを立てていた例の秘蔵の酒だ。
自分の結婚式とか人生の中で大きなイベントがあった時にでも飲もうと思っていたかなりの高級品なのだが、
それを私は生還記念って事でつい開けてしまっていた。
「輪廻転生ねぇ……」
私、
そんな中、今日私は人生で初めての奇妙過ぎる出来事に遭遇した。
口に出して反芻しながら思い返すのは、今日出会った子どもの片割れの言葉の数々。
彼の話す内容は、とてもじゃないけど信じ難い事ばっかりだった。
されど、子どもが考えた絵空事にしては妙にしっかりとした内容だったのも確かだ。
それに魔法と化物については実物を見ている訳だし、
「暫くは様子見かしら」
うーむ、と唸りながらグラスを軽く傾ける。
喉が焼けるような感覚と共に体が一気に熱くなった。
「って……あ。そういえばあの子達、お風呂に入ってない」
家に上がった時に足はタオルで拭いたけど、衣服から落ちた汚れで今頃布団がえらい事になっていそうだ。
あー、布団の洗濯とか大変よねぇ。新しいの買っちゃおうかしら。
「明日は有休取ろ……仕事も進んでるし、問題ないでしょ……あの子達の服も買いに行きたいし」
オリヴィエちゃんもクラウス君もとんでもなく可愛らしいし、楽しいショッピングになりそうだ。
どんな服が似合うかしらねぇ、とグラスを揺らして氷同士をぶつけ合わせる。
カランと硬質的な音が鳴った。
「オリヴィエちゃんは虹色、はないし、白かしら……クラウス君はなんとなく灰色が似合いそうね」
イメージカラー的にはそんな感じよね、と頬に指を当てながら考える。
あ。結構楽しい。テンションが上がってくるわね。
子持ちの母親が娘や息子に買ってあげる衣服を考える気持ちってこんな感じなのかしら。
「悪くはないわねぇ……」
グイッと一気に酒を胃に流し込んで大きく酒臭い息を吐く。
どうせ普段は1人暮らしでお金を使う機会もないし、
「明日は奮発してファッション大会と行きますか……フフフ、2人とも覚悟しておきなさいよぉ……」
酒が回ってきたせいで揺れる視界の中、私は拳を握って今は夢の中であろう少女達に宣戦布告する。
さーて、ファッション雑誌とかどこにしまっておいたかしら……。
ちょっとは今流行のものも把握しておかないとね。
●
気がつくと私は何時の間にか薄い茶色の外壁に囲まれた中庭に居ました。
私が腰を下ろすのは生命の色である青を強く宿した草の色に満ちた床。
彼等はその身を風に揺らし、心地良い音で私の鼓膜を震わせてくれます。
私はそんな音の中、中庭の中央に聳え立つ大きな木に背を預けた体勢で呆然としていました。
突発的過ぎる事態。
されど私は慌てる事無く、ぼやけた思考ながらも状況を理解する事が出来ました。
……嗚呼、これは夢なんですね。
現実の私は先程クラウスに抱きついて就寝した筈ですから夢に違いありません。
周囲を緩慢な動きで見渡しますが、出口らしきものも見当たりませんでした。
どうやら外界から隔離された空間に私は居るようです。
この様な状況、夢でしか有り得ません。
しかし夢に見るという事は、
……此処は私に関係がある場所でしょうか?
改めて視界を動かして確認しても目ぼしい発見はありませんでした。
というか誰も見当たりません。
どうやらこの空間には私しか居ないようです。
響くのは自然の生み出す音と私の吐息の音のみでした。他には人1人分の気配すらありません。
静寂が満ちて、ゆったりとした時間が過ぎて行く平穏なる世界。
しかしながらこれは流石に静か過ぎて寂しい気もします。
「1人ではありません」
「?」
ふと声が聞こえました。
「"私"も居ますよ?」
「わ!?って痛っ!?」
唐突に、本当に唐突に私の目の前に女性が現れました。
あまりにも突然過ぎる登場に、思わず私は背にしていた木に後頭部を強打してしまいました。
痛いです。凄く痛いです。
「あぅぁぁ……!」
「あわ、ご、ごめんなさい、大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫れす……」
痛みのせいで熱を持つ後頭部を両手で押さえながら涙目を突如として現れた女性へと向けます。
瞬間、私は予想外の事態に目を見開いてしまいました。
何故ならばその女性の顔は、
「"私"……?」
「はい。そうです。"私"は"貴女"です」
返答の内容は普通ならば意味不明と捉えられるようなものでした。
されども問いに答えた女性は本当に私をそのまま大人にしたような容姿をしていました。
ちなみに目測ですが、どこがとは言いませんが小さいみたいでした。
クラウスの言う通りでした。泣いて良いでしょうか。
「驚きましたか?」
色んな意味で唖然としている私に対して彼女はにっこりと笑いながら小首を傾げます。
その言葉に私はハッとして現実逃避しかけていた意識を取り戻しました。
「あ。は、はいっ」
そして答えながらも目の前の女性を観察してみます。
まず抱く感想はやはり、
……わわ、本当に私そっくりです……。
異なる箇所と言えば、白を基調とした金色の縁取りをしたドレスを着ている事と、
両手に衣服とは不釣り合いな鋼鉄製の籠手を付けているところくらいでしょうか。
あと髪型は伸ばした金髪を後頭部の高い位置でお団子状にして纏める所謂シニヨンというものでした。
お団子に被せられた白い布の根元を結ぶ長めの黒いリボンの末端が風に吹かれて揺らめきます。
まるで絵画の世界からそのまま出て来たような作品のような印象を受けます。
……綺麗な人ですね……。
似た容姿をしている筈なのに思わず見惚れてしまいます。
……将来私もこんな人になれるのでしょうか?
そんな期待と願望の入り混じった思いを浮かべると同時、私と彼女の赤と碧の視線が交差しました。
すると私の動向を黙視していた彼女は微笑み、口を開きます。
優しい響きを持った声音で彼女はこう言葉を紡ぎ始めました。
「夢の狭間へようこそ、オリヴィエ・ゼーゲブレヒトさん」
私の名を呼びながら彼女は数歩後ろへ下がり、互いに見やすい位置で停止しました。
「"私"はこの世界の案内人。貴女に道を示す者です」
彼女はドレスのスカートを摘んで少しだけ持ち上げると小さく頭を下げました。
そんな彼女の行動に、慌てて私も礼を返そうとします。
が、私はその瞬間、自分が半ズボンを履いていた事を失念していました。
摘もうと伸ばした指は見事に空を切ります。
なんという事でしょうか。この衣服では彼女と同じような礼を返す事は叶いません。
「うぅ……」
「ふふっ」
顔を赤くする私を見ると、彼女は小さな笑い声を零しました。
うぅ、すっごい恥ずかしいです。
「さて、可愛らしい私をもうちょっと見ていたい気もしますが……時間もありません。始めましょう」
「?」
言葉と同時に彼女の表情や纏う雰囲気が真剣なものとなります。
始める、という言葉に私は思わず首を傾げてしまいます。
一体何を始めるつもりなのでしょうか?
そんな私の困惑の色を帯びた疑問を知る由もない彼女は瞬きを1つ。
そして――、
「これから私達の使命をお伝えします。そして、どうして"貴女"が今の世界に放り出されたのかも」
そう始まりを告げました。
私の運命の歯車を動かす為の始まりの言葉を。
「曙光の魔導書――その名を覚えていますか?」
●
逃げなければならない。
我はそう判断する。
突如として目の前に現れ、我が身を吹き飛ばした虹色の光――あれは危険だ。
宿主無きこの身では滅される恐れがある。
それはならない。
もっと多くの破壊をもたらさなければならない。
それが我の使命である。
故に今は身を潜めよう。
己の同一体を見つけ、力を蓄えるまでヤツに近づいてはならぬ。
「……」
深い森の中に身を潜める。
誰も居ない筈の深く暗い森の中に。
「?」
不意に我が身が震える。
何事かという問いは生まれなかった。
「オォ……」
低い唸り声を上げ、全身の毛を逆立てて戦闘態勢を取る。
それは本能による行動だった。
森に"何か"が居る。
「……」
沈黙の中、我はただ周囲に感覚の手を伸ばしていた。
この身より伸びる無数の触覚を四方へと放ち、"何者か"を探す。
北、南、西――不穏な気配はない。
東――生命の気配は一切ない。
「……?」
森に生命の気配がない。何故だ。
命の宝物庫と言える緑の中に生命の気配がないなど有り得ない。
故に東をもう一度探索の手を伸ばす。
触覚の感知する範囲には生を謳歌する者は小動物1匹すら居ない。
いや居た。
触覚が見つけ出したのは、小柄な鳥。
しかしその身は黒く染まり、完全に動きを停止させている。
異常。
「……!」
瞬間、我は身を跳ね上げ全速力で移動を開始した。
この場に身を置き続けるのは拙い。
"何か"がコチラへ迫ってきている。
「ゴッ!!?」
否。既に迫ってきていた。
それは我の体に張り付くようにして在った。
動けない。その場に身が縫い付けられる。
赤の双眸を動かし、原因となった存在を見る。
「!?」
それは影だった。
黒い影。人型のような、そうではないような揺らめく影。
正体不明の厚みが全く存在しない影だった。
「―――!!!」
咆哮を上げようとするが、既に時遅し。
我の口までが影に覆われていた。
ずるり、ずるりと影の中に引き摺り込まれる。
……オ、オォ!!!
最後の抵抗として触覚を影へと叩き込む。
この身は破壊をもたらす者。
ただではやられてはやらぬ、と意思ならぬ意志を籠めて。
「―――」
しかし、影は微動だにしない。
触覚は影に飲み込まれて消え失せた。
「ア゙」
我の口から断末魔が上がり、影が一気に浸食を強める。
赤の目が、黒に染め上げられた。
●
「世界中で起こる筈の悲劇を失くす、ですか?」
気づけば、私は小首を傾げていました。
原因は私の真正面に腰を下ろす"私"が語った言葉にありました。
「はい。それがこの世界において――曙光の魔導書が享け賜った使命です」
私と"私"は今一台の卓袱台を挟んで向き合っていました。
ちなみに場所は移動せず、そのまま中庭の中央をお借りしています。
真正面の彼女の表情は至極真剣なもの。
今、私の顔に浮かんでいるものも同じでしょう。
「曙光の魔導書……なんですかそれは?」
語られた内容に沸いた疑問として私は更に質問を投げかけます。
「……生まれ出でたのは何時かも解らない魔導書です」
彼女は1度言葉を切り、息を整えました。
「その能力は魂の集積」
「魂の集積、ですか?」
えぇ、と"私"は頷きました。
「ありとあらゆる世界の死者の魂を集め、新たに1つの世界を書の中に構築する――それが魂の集積です」
それはつまり、
「此処は死者の魂が集う天国のようなもの、という事ですか?」
「似たようなものですね」
"私"は私の挙げた例えを肯定します。
「その能力を持って、世界から"死"という概念を取り除こうとした」
それが、と彼女は言いながら手を卓袱台の上に置き、表面を撫でます。
すると不思議な事に卓袱台の表面が石を投げ込まれた水面のように波紋を生み出し始めました。
これも魔法なのでしょうか。
「曙光の魔導書の生まれた理由」
波紋が治まると卓袱台の上には何時の間にか1冊の本が在りました。
表が白、裏が黒の表紙を持ったかなり分厚い本です。
「これが曙光の魔導書……ですか?」
「はい。本体はもっとこの世界の深い位置に存在していますが、これもまた曙光の魔導書です」
私は卓袱台に置かれた曙光の魔導書を手に取ります。
予想以上に軽い素材で出来ているようです。私でも簡単に持ち上げる事が出来ました。
開けば、そこにあるのは無数の白紙のページでした。
「……白紙?」
「はい。それは貴女の為の曙光の魔導書ですので」
私はページを捲っていた手を止め、"私"に視線を向けます。
冗談を言っているようには見えません。
「私の?……つまりこれを使って、私に何かをさせようというのですか?」
彼女は頷いて肯定の意を見せました。
「私達は長い間、待っていました」
「待っていた……?」
さっきから首を傾げてばかりですね、私。
「はい。待っていたのです。この地でずっと――ジュエルシードが私達の眠る地へ落ちて来る時を知るが故に」
"私"の放った言葉に私の動きが停止してしまいます。
その単語には聞き覚えがありました。
就寝する少し前に聞いたクラウスの話に在った単語です。
ですがその存在は、
「世界を滅ぼす程の存在がやって来る事を、待ち望んでいたと?」
「待ち望んでいたのは事実です。しかしながら、世界を滅ぼさせるつもりはありません」
肯定と否定を同時に行い、女性は胸に手を当てました。
「あれを取り込む事により、曙光の魔導書は漸く本来の使命を果たせるのです」
「使命……?」
世界中で起こる筈の悲劇を失くす、という話の事でしょうか。
思想としては立派な事だと私も思います。
しかしながら、魂の集積を機能とする曙光の魔導書がどうやってそれを成す気なのでしょうか?
「ジュエルシードで世界を滅ぼして魂を一気に集める、とかですか……?」
「えっ」
「それなら一気に魂を集められるでしょう?」
「いやなんですかそれ恐い」
この子大丈夫かな、的な冷めた目が向けられました。心外です。
「ジュエルシードを取り込みたい理由は、偏に私達には外部干渉能力がほぼ皆無な故です」
「外部干渉能力?」
私は本日何度目か解らない疑問符を頭に浮かべます。
「簡単に言えば、書内部の世界構築にリソースを取られ過ぎて外界に一切影響を与えられないんです」
成程、と私は彼女の説明に納得しました。
でもそれでも疑問は残ります。
「何故曙光の魔導書は外部干渉能力を欲するのでしょうか?魂の集積だけが目的では?」
「それはただの機能であって、使命ではありませんよ」
「?」
特大疑問符を頭に乗せる私に彼女は人差し指を立てながら、先程と同じ内容の言葉を復唱しました。
「世界中で起こる筈の悲劇を失くす、というのが書の本当の使命です」
「あ」
気づけば、私は自然に声を漏らしていました。
「……書の持つ機能だけでは――悲劇の後に魂を集積する事しか出来ない……?」
「Exactly(その通りです)」
彼女は肯定の言葉の後、眉尻を下げ、
「原初の開発予定では書の機能は死者の魂を集積するだけでは無かったのだと思われます」
再度卓袱台に置かれた曙光の魔導書の白い表紙を彼女は指で撫でました。
「彼等が見舞われた悲劇の原因、それらも集積し、取り除く事が書の真の使命」
「取り除く?」
えぇ、と彼女は私の言葉に応えてくれます。
「言った通り、曙光の魔導書はありとあらゆる世界の魂を集めます」
それこそ、と彼女は前置きし、
「過去、未来……この世界を物語として観測する異世界、どこであろうと」
思わず私は目を見開きました。
この世界を物語として観測する――それはクラウスの話していた内容と似通っていたからです。
「故に曙光の魔導書は悲劇が起こる前に未来から魂の情報を得て、その原因を取り除く事が出来る……」
彼女は書を卓袱台の上で開き、1ページ目の白紙を広げます。
「ですが、その機能は完成しなかった。恐らくリソース不足が原因でしょうね」
本当の原因は不明ですが、と言いながら彼女はページを捲り続けます。
「それでジュエルシードを使用して、そのリソース不足を補おうと?」
今まで聞き役に徹していた私は、彼女の言葉が途切れたところに質問を投げかけます。
すると彼女は白紙のページを千切りながら、瞼を下ろしました。
「えぇ。正確には、それを核とした己の手足となる端末を作ろうとしていたのです」
「端末?」
問いに応えながらも"私"の指は迷いなく動き、ページを別の形へと変化させていきます。
「貴女や……貴女がクラウスと呼ぶ子と同じような存在の事です」
瞬間、私の鼓動が跳ね上がりました。
途端に心拍数が上がり、額に汗が浮かぶのが解ります。
彼女は、何を言っているのでしょうか。
「残酷な事かもしれません……ですが、貴女が世界に放り出された理由を教える以上、嘘は吐けません」
口の中が乾き、私の喉が鳴ります。
彼女は卓袱台の上に書の1枚分のページを使用して折った2羽の鶴を置きました。
「正直に言いましょう。貴女は"私"をベースとして様々な人間の因子を織り交ぜられ作られた――」
凛とした眼が緊張に手が震える私を見据えました。
「魔法生命体です」
●
俺、クラウスは夢を見ていた。
夢の中で俺は浜辺におり、傍らにはオリヴィエも居た。
彼女は白い水着に身を包み、夕日をバックに頬を赤く染めている。
嗚呼此処は我が桃源郷か、理想郷か。
俺は遂に辿り着いたのだ、世界の果てへ。
「オリヴィエ」
「クラウス」
成長した俺の腕が出会ったばかりの頃よりも少し大きくなったオリヴィエを抱き締め、
「アイラビュー……」
雫に濡れた宝玉の如き瞳を向けるオリヴィエへと告白した。
「ミートゥー……」
彼女もそれに応え、2人の気持ちは通じ合った。
そして2人の影は徐々に近づいていき、遂に重な――、
「そぉい!」
「ホゲェ―――ッ!?」
重なろうとしたところでオリヴィエに殴られて俺は吹っ飛んだ。
何故にホワイ!?
●
あ。これはジャストミートの感覚ですね!?
「……ショ、ショックだったのは解りますが、いきなり虚空を殴ってどうしたんですか……?」
「あ」
背中に投げかけられた声に私はハッとして我に返ります。
あれ?一体私は何をしていたのでしょうか?
「え、えっと、すいません。ちょっと不埒な妄想を感じ取ったので、つい……」
コホンと私は咳払いして改めて席に着きます。
変な妄想がいきなり流入してきたせいでなんか驚愕的な発言を聞いたというのにそんな事はどうでもいいや的な気持ちが沸いてきました。
まあ、私がどんな存在であれ私自身は気にしません。
元々記憶もありませんし、自分の根幹を揺るがす発言にもなり得なかったようです。
自分自身の人格というものがまだキチンと出来上がっていないせいなのかもしれませんが。
……クラウスも気にしませんよね。多分……というか、絶対。
うん、と私は自身の考えを完結させ、とりあえず拳に残る謎の感触は忘れる事にしました。
手を曙光の魔導書のページで拭って――これで良し。綺麗さっぱりです。
曙光の魔導書は逃げようとしましたが、既に確保済みですから安心ですね。
「まぁ、それはどうでも良いです」
「あれ?えっと、魔法生命体なんですよ?ビックリしないんですか?」
私の冷静な様子が余程予想外だったのか"私"はかなり慌てた様子で問いを投げて来ました。
それは確かに私も凄くビックリしました。
確かにビックリはしたのですが、
「今はそんな事はどうでもいいんです。重要な事ではありません」
私は頭を左右に振り、彼女の言葉を否定します。
逃げ出そうとしていた曙光の魔導書を草原の上に置き、座布団代わりにしてから視線を前に。
「それよりも私が作られ、世界に放り出された理由を聞かせていただけますか?」
言葉に強い意思を籠めて"私"と視線を交わします。
彼女は暫しキョトンとした顔をしていましたが、やがてその表情は柔らかいものとなり、
「思っていたよりも、私は強かったようですね……」
微笑んでくれました。
やっぱり綺麗な笑顔です。
なんだか"私"と話している筈なのに母親と話しているような印象を受けてしまいます。
何故か彼女の笑みを見ていたら気恥ずかしくなり、自然に頬が熱を持ってしまっていました。
あわわ、なんで私照れてるんですか。
「えと、ありがとう御座います……」
「ふふ……ではお教えしましょう。貴女達が作られ、世界に放り出された理由それは……」
彼女は私の下に敷かれた曙光の魔導書を指差しました。
「曙光の魔導書の暴走を止めて頂きたいのです」
「え?」
何故?と私は首を傾げてしまいます。
もう既に私の下で微動だも出来ないようになっていると思うのですが……。
私がそんな風に神妙な顔で思っていると彼女は困った顔で違うと手を振りました。
「その本の裏表……色が違うでしょう?」
「あ。はい、白と黒ですね」
地面にめり込んでいた曙光の魔導書を引っこ抜き、表紙を見ます。
確かに両面とも色が違います。ちなみに背表紙には銀色の鉄板が貼られていました。
「人の魂もそれと同様……白く安らかに眠る魂と黒く怨念に駆られた魂が存在するのです」
唇を噛み、辛そうな表情で彼女は言いました。
この本の表紙はそれを表現している、という事なのでしょうか。
「ジュエルシードが落ちてくる事は集積された知識により、事前に知っていました」
後はそれを手に入れれば曙光の魔導書は完成する筈だったのです、と"私"は俯きました。
だった、という事は恐らく何かがあったのでしょう。
「その時を"彼等"はずっと待っていました」
「彼等、ですか?」
「えぇ。先程話した黒い魂達です」
「まさか……」
私の疑念には肯定が返ってきました。
「私達がジュエルシードによる歴史への干渉を狙っていたように、彼等もそれを狙っていたのです」
つまり、
「彼等はジュエルシードの落下と同時期に思念体となり、行動を開始しました」
彼女の後ろに曙光の魔導書から抜け出していく黒い魂のイメージが映し出されました。
目の前で丸い物体に尻尾が付いたオタマジャクシみたいな子達が天に向かって行きます。
なんかデフォルメされてるせいで凄い可愛い光景です。
「大多数は行動を開始した時点で白い魂が止めました」
すると天に昇るオタマジャクシが横から白い魂の直撃を受け、数匹まで減りました。
なんだか可哀想です。
しかしながらその襲撃を受けても黒い魂達の内、何匹は生き残り、青空の向こうへと消えていきます。
その挫けぬ様に思わず、頑張って、と応援したら"私"から半目で睨まれました。すいません。
「ですが何人かは止め切れず、外に出てしまったのです」
成程。話の流れは把握出来ました。
「では、彼等を連れ戻す事が私の役目、という事ですね」
「えぇ。彼等はジュエルシードに触れるまでは何も出来ないただの思念体です。ですが――」
「ジュエルシードを媒介に実体を得てしまったら大変な事になる……ですか?」
"私"は私の言葉を首肯しました。
これは思ったよりも責任重大な役目です。
「恐らく彼等は己の身を黒に染めた原因を排除しに動くでしょう。そうなれば更なる悲劇を生むのは必至」
そう言うと彼女は私の横に移動してから座り込み、私の手を取りました。
「なので、お願いです……無力な私達に代わり、私達の仲間を止めてはくれませんか?」
懇願する彼女の目は涙で潤み、何かを悔やんでいるように見えました。
いえ。"私"の事だから解ります。実際そうなのでしょう。
彼女は自分自身で成す事が出来ない己の無力さを嘆いている。
ならばそこは私の出番です。
苦しむ人には、救済の手を。
まだ目覚めたばかりの身ではありますがそれが私の主義です。
「顔を上げてください。その願い――確かに受け取りました」
「ぁ……」
私は"私"を抱きしめて、その柔らかな金髪を撫でます。
「私に任せてください。いえ、私だけじゃなくてクラウスも一緒です……だから、きっと大丈夫」
「……はい」
私と"私"は暫しの間笑顔を交換し合うと、どちらともなくその身を離しました。
"私"は籠手で涙を拭うと、復活させた卓袱台を挟んで改めて私の真正面に正座します。
あの籠手、大分硬そうですけど拭いた部分痛くないんでしょうか?
「すいません。取り乱しましたね……もうそろそろ時間ですが、話はあと2つ」
「あ、はい」
目尻に涙を擦った赤い跡をつけながら、彼女は凛々しい表情を浮かべて言います。
「1つは――あと6人。貴方達の仲間を海鳴に送ります」
「6人ですか……?」
んー、と腕を組んで首を傾げながら唸ってしまいます。
その人数は多いのでしょうか?それとも少ないのでしょうか……?
魔法云々の知識のない私にはさっぱりです。
「少ないと思うかもしれませんが、どれもジュエルシードを核とした者達です。頼りになりますよ」
なんだ、それなら大丈夫ですね。
なんて言ったってジュエルシードを核に――あれ?
「どうかしましたか……?」
"私"が可愛らしい仕草で小首を傾げます。
……えぇっと。
私の記憶が確かならジュエルシードって世界を滅ぼしかねない爆弾ではなかったでしょうか?
「あぁ、安心してください。貴女の中にもちゃんとジュエルシードはありますよ」
天使の様な微笑みで、私の中にも爆弾がありますよ、と彼女は告げました。
え?なんでしょう。実は死を告げる天使だったんですか、"私"?
「そうですか、私の頭の中に爆弾が……」
「って、え!?あ、いえ、ちゃんと制御出来てますから!大丈夫ですから!?」
私が震えながら瀕死の魚の目で死にそうな声を出すと、彼女は慌てて否定してくれました。
「そ、そうですか、良かった……」
ホッと安堵の息を吐きます。
これで肯定されたら私の心がそりゃあもうポッキリと折れるところでした。
そんな私の様子に安心したのか、"私"は崩れた姿勢を整えて言葉を続けます。
「では最後にこれを……申し訳ありませんが、私達には戦力とこれを授けるくらいしか出来ませんので」
ふわりと私の目の前に曙光の魔導書が浮かびます。
「黒い魂が近くに居れば、その本が教えてくれます」
「それから、どうすれば?」
「その本を開き、『封印』と唱えてください。それで彼等はその本に取り込まれる筈です」
「ま、魔法少女アイテム……!」
「は?」
来た!来ました!ついに魔法少女らしい言葉が出て来ました!これで勝てます!
目を輝かせながら私は思わず立ち上がって両手で曙光の魔導書を掴みました。
ふふふ、暴れて逃げようとしていますが、もう離しませんよ!
「えと、あの……一体どうしたんですか、いきなり立ち上がって……?」
「お供のマスコットは居るのでしょうか!?」
「居ません」
「はうっ」
流石にそこまでは用意されていなかったようです。
無念です……。
悔しがる私を"私"は半目で無視しました。
なんでですか!貴女も"私"なら解るでしょう!?この悔しさ!?
「解りません」
考えが読まれました!?
「この子の構成時に何か余計なものまで混じったのでしょうか……生み方間違えたかしら……」
「生み方間違えたまで言われました!?」
口元を手で隠して小声で呟いていましたけど、この至近距離じゃ丸聞こえですよ!?
彼女は抗議しようとする私を、冗談です、と言って片手で制すると、
「それではそろそろ深い眠りの時間ですね……私等も内部の調整の為、暫く出ては来れません」
彼女は立ち上がり、私に1度礼をしてから背を向けました。
まるでその姿は今から戦地に赴く勇者のような威容でした。
否。実際に往くのでしょう。彼女は彼女の戦場に。
「申し訳ないですが、そちらはお願いします――ご武運をお祈りします、もう1人の"私"」
「そちらもご武運を」
私の返答に驚いたのか彼女は肩越しに振り向いて目を見開き、
しかしすぐに太陽のような笑顔を見せてくれました。
うん。やっぱり"私"には笑顔が似合いますね。
そして今度こそ彼女は片手を私へと上げながら、歩みを始めます。
歩き出した彼女の姿はやがて草原の向こうへと消えて行きました。
その姿が消えた方向を見つめながら、私は胸を熱くし、両手の拳を握り締めます。
「よぉし、私、やりますよ……!」
"私"から受け取った使命に対して新たな決意を抱き、私は青空へ向かって誓いの言葉を放ちます。
草原の草木が風に揺られて、私を祝福するように音を奏でます。
その音を背景に私の戦いは今まさに幕を開けたのです!
そしてふと思います。
「あ。"私"自身の記憶について、何も聞いてませんでした」
視界の隅で曙光の魔導書が派手に転ぶのが見えました。
だ、だって仕方ないじゃないですか!シリアスな雰囲気だったんですから!?
●
海鳴市はその名の通り、海に面した町。
広大な海は時に海沿いの道行く人々の心を癒し、包むような温かさを与えてくれる。
私――水橋花楓は今、酒の熱を冷ます為に外に出て来ていた。
夜空の中央に月が昇る頃、私も海の癒しを求め、海沿いの街道へと来ていた。
おお、海よ。その姿のなんとも雄大な事か。
「はー、涼し。酔いが良い感じに冷めるわね」
毛玉がまた襲ってこないかとか不安はあるけど此処なら家もすぐ近くだし、安心よね。
もし襲撃してきたら今度こそ逃げ切ってやるわ……!
「しっかし、こうも不可思議な事態が連続すると夢じゃないかとまで思えてく――」
瞬間、私の目の前の海から6つの青い光柱が空へと伸びた。
「Oh...」
どうやら夢じゃなかったようだ。
ちょっとくらい現実逃避させてくれたって良いじゃない。
休む間もなく不思議現象の波状攻撃とか神様マジ鬼畜。
「えぇっと、この光どうすんの!?なんかやばそうだけど!?」
私は逃げる準備をしつつも光柱の様子を伺う。
いきなり変身して襲ってくる事はなさそうだけど、これもジュエルシードってヤツの仕業なんだろうか?
えぇっと、だとしたらオリヴィエちゃん達を起こして連れてきた方が良いの?
あ。でも出かける前に見て来たあの可愛らしい寝顔を顰めさせるのは大人としてどうなのかしら?
ああもう突発的過ぎて考えが上手くまとまらないわよ!?
「って、うわぁ!?」
頭を抱えた瞬間、起きるのは周囲を薙ぎ払う衝撃波。
それを起こしたのは勿論、
「ジュ、ジュエルシードがぁ―――!?」
町に向かって光柱の中からすっ飛んで行く6つの光の線だった。
ていうか町に向かって飛んで行った!?
どこに向かったのあれ!?
「…………」
すわ世界が滅亡するのではと光線の消えて行った先を見つめていた私だったが、
「……何も起きない?」
後ろへと振り返る。
何時の間にか海に突き立っていた6本の柱は消えていた。
「……」
よし。
「見なかった事にしよう」
きっとお酒が入ってたから、幻覚でも見たのね。
そうに違いないわ、ウフフ。
全てを記憶から消し去り、んー、っと伸びをしてから私は歩き出す。
さぁて、寝る前にオリヴィエちゃん達の寝顔でも見て癒されるとしましょうか。
●
6の内の1はとある動物病院へと向かっていた。
そこはとある物語の始まる場所。
動物病院の屋根の上にそれは緩やかに降りると、その場で小さく明滅を繰り返し始めた。
そしてそれは待つ。
物語が始まる、その時を。
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6の内の2は海鳴市から少し離れた場所へと向かっていた。
それはとあるビルの屋上。
周囲一帯を一望出来るほどの高さにある広い空間にそれは降り立った。
そしてやはり明滅を始める。
運命の子と出会う時を待つ為に。
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6の内の3は温泉に浸かっていた。
とても暖かそうだった。
なんか幸せそうであった。
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6の内の4はとある神社に降り立つ。
境内に建てられた鳥居の上にその身を置くと、明滅を始める。
目覚めの時は近い。
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6の内の5は空に在った。
黒い雲の中、その身に雷光を受け、力を蓄える。
いずれ必要とされるその時の為に。
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そして6の内、最後の6はとある少女の住居へと向かっていた。
その身を流星として、願望を叶える石に宿りし魂は往く。
ただ疾く。今はまだ、独りで戦い続ける少女の下へと。
そしてそれは見えた。
1人で暮らすにしては大きな一軒家。
2階建ての住居の周りを石はくるくると旋回し続ける。
「!」
そして石は見つけた。
ベッドに横になりながら、本を読む1人の少女の姿を。
加速する。壁を透過して、真っ直ぐ少女の下へ。
狙いは――少女の部屋に置かれた古めかしい本。
「へ!!?」
少女の横を通過し、本の表紙を直撃する。
そしてその中へ。
「ちょぉ!?な、なんなん!?」
悲鳴にも似た驚きの声聞こえるが、石はそんな事を気にはしない。
本の奥深くへ、闇の奥深くへ潜り込んで行く。
途中で銀髪の女性とすれ違ったが、それすらも無視。
深く。深く。ひたすらに深く。
そして目的の存在は、そこに在った。
「ミツケタ……!!!」
闇の奥深く、そこに幼い金の髪を持った少女がその身を丸め、眠っていた。
だが狙いはその少女ではない。
狙うはその少女の周囲に浮かぶ、3つの光球の内が1つ。
石はその1つに対して突撃を敢行する。
「―――!!!」
直撃する。
瞬間、青の光が闇の世界に満ちた。
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部屋になんか青い流星が突っ込んで来たと思ったら、昔から所持してる怪しい本が黒の光を放ち始めた。
な、何を言っているか解らんと思うけど、私にも解らん。
ていうかいきなり過ぎるし、超常現象過ぎるやろ、これ!?
「あわわわ、どどどど、どないしよ!?」
嗚呼。私――
美人薄命というし、このまま光に巻き込まれてしまうんや。
うう、ごめんなぁ、お父さん、お母さん。今はやてもそこに――、
「あや?治まった?」
はて。祈りを捧げてたら、光が治まった。
本がぽてりと床に落ちる。
おお、きっと天国のお母さん達に祈りが通じたんやな!?
ありがとな、お父さん、お母さん!
ああ、しかしいきなりなんなんやこの本、謎の発光現象起こしたりして。
やっぱり呪いの品か何かなんかな。
知り合いの寺生まれのTさんに御祓いしてもらうべきやろか……?
そんな風に思ってたら手が生えた。
うわ、綺麗な手やなぁ。
って、あれ?
Q.この手ってどこから生えとるん?
A.床に落ちてた本から。
「ゲェ―――!?」
うわー!?完全に呪いの品やんコレー!?
なんかずるずる出て来とるし!?
嗚呼、もう肩まで出て来よった!?どないしよ、どないしよ!?
「あわわわ、貞子さんやー!?」
逃げる……アカン、車椅子じゃ逃げ切れるとは思えへんし。
この状況、どないせーっちゅーねん!?
あわわわと慌てている間も手から肩へ、肩から顔が……。
って、この顔。
「ぐ、お……漸く、出られたわ……」
「本から私が出て来たぁ―――!?」
うわぁー!?なんやコレー!?
ドッペルゲンガーか!?ドッペルゲンガーなんか!?
「ククク、震え慄いたか、八神はやて……」
地獄の底から響いてくるような声が私の鼓膜を震わせる。
ていうか私の声なんやけどな。
私よりちょっと目つきは悪いし、髪色もちょっと違うけど、やっぱり私や。
髪型だって同じショートヘアやし、髪飾りも同じようなもんを付けとる。
ちょっと色素の薄い私って感じやろか。
まあしかし、顔は似とるんやけど、なんか変な格好してるな目の前の私。
「みなぎるぞパワァ――!」
その格好はなんて言えば良いんやろうか。
黒と紫を基調した黄色の線の入った衣服を着とる。
構成としては所々が金属で装飾された裾の短い長袖のジャケットに紫色のワンピース、
腰の両サイドには金色のタセットが付けられており、黒や紫の暗い色の中で異彩を放っとるな。
更にタセットと一体しているのか、前の開いたスカートのようなものも付けとるし。
そして最も目立つのが、その背に持つ2対の黒い翼。
かなり大きなその翼をもう1人の私ははばたかせて部屋の空気を激しく循環させる。
「あふれるぞ魔力ッ!」
ていうか、両手になんか黒い光を溜めてるんやけど何やあれ。
え?魔法?魔法的な何かなんか?
大体この子の出現の仕方からしてファンタジーやったけど、マジなんか?
「ふるえるほど暗黒ゥッ!」
目の前の子は黒い光を握り潰すと腰に手を当て、私を見据える。
そして大きく息を吸うと、
「我が名は闇統べる王、ロード・ディアーチェ!」
鼓膜が裂けると思えるような大音量で名乗りを上げた。
うおおお、耳がキンキンするわ……。
「フフフ、我が威光に言葉も出ぬか、無理もない……」
ああうん。この子アレやな。なんか貞子さんより恐ないわ……。
「いやしかし、我が威光を理解するとは見所はあるようだ……ククク」
なんというか、言っちゃ悪いと思うんやけど、アホっぽいしなぁ……。
「ならば早々に我の前に跪くが良い、八神はやて――否。小鴉よ」
ふふん、とディアーチェとか名乗った子が私に手を差し伸べる。
んーっと、これは臣下になれ的な展開やろか?
でもなぁ、1つ言っときたい事があるんよ。
「なぁ。ディアーチェちゃん、でええんかな?」
「王と呼ぶが良い」
「んじゃあ、王様。1つ言わせて貰うよ?」
「む。なんだ?なんでも言うが良い。ふふふ、今の我は機嫌が良い故、懐が深くなっているぞ!」
「じゃ、遠慮なく」
私はにっこりと笑って、ベッドの下からハリセンを取り出す。
そしてベッドから座ったままの状態で跳躍すると、
「今何時やと思ってるんや、ちょう静かに喋らんかい―――!」
「ウゲェ―――――!?」
すぱーんと派手にハリセンを頭に叩き込むと、これまた派手にディアーチェこと王様は吹っ飛んだ。
突発的な事態だというのに、このリアクション……この子、出来る!
「クゥ!おのれおのれおのーれェェェ!」
王様が現れた時とは別の戦慄を覚えていると、彼女が上半身を跳ねるように起こす。
その表情は怒り心頭といった感じで、緑色の瞳の奥に炎が見える。
アカン、これはマジで怒っとる。
「よくもこの闇統べる王に蛙の小便よりも下衆なハリセンを――あれ?やだ。足が動かない」
じたばたと部屋の隅で何やら壊れた玩具みたいに立とうとして転びを繰り返す王様。
え?何?私もしかしてなんかやらかしてしもうた?
「あ、ちょ、まさか、これは……!?た、助けろ小鴉ゥ―――!」
はいはい。ちょう待ってな。
今車椅子を……って?あれ?なんか視線高いな?
「……ってあれ?私……」
視線を下に。そこにはハリセンを持った手と――、
「立っとる」
「だからそのまま助けに来んか馬鹿者ォ――!?」
えーっと……何が起きたのかわからんけど、とりあえず立っとるな、私。
夢か。夢なんか、これ?
そうやな。夢じゃなきゃ碌に動かさなかった足をいきなり動かせる様になるわけないしな。
あー、驚いた。やっぱり魔法なんてあるわけないんや……。
ファンタジーやメルヘンじゃないんやから。
「こーがーらーすー!」
「はいはい。今いくでー」
しゃあないなぁ、と私は躍る心を抑えながら苦笑する。
夢の中やけど、こうして歩けるようになったんやし、多少我侭でも親切にしたろ。
そう思いながら、私は部屋の隅に転がっている王様を起こしに行く。
これが現実であるとも知らずに、ただ嬉しさに無邪気に笑いながら。
超展開祭り、はっじまるよー!!!(事後)
まずは、ここまで読んでいただいた方々に最大限の感謝を。
というか、いつもの2倍くらいになっちゃいましたよ、長さ。
読むのに長過ぎないかな、と心配しておりますが、いかがでしょうか?
さて、ここで漸く物語の目的を明かす事が出来ました。
といってもオリジナル設定+原作ブレイク祭りなんですけどね……。
闇王さんにはとっとと出演して貰いました。不憫枠ですね。
楽しく書けるように頑張っていきますので今後とも見ていただけたり、
感想をいただけたりしたら幸いです。
それでは、また次回。