リリカルオリヴィエSacred   作:ころに

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―――平和な時こそ気を引き締めておかないと、大抵後で酷い目にあうもので。

【前回のあらすじ】『オリヴィエ×オリヴィエ』『6つの光が海と大地を貫く』『呼ばれてますよ、ヤミオウさん』


Memory.05:嵐の前の静けさ

 唐突に視界が白に染まった。

 今まで暗闇に沈んでいた世界に光が満ちる。

 

「んぅ……」

 

 恐らくはカーテンの隙間から差し込んだ朝日が瞼を通して私の網膜を刺激しているのだろう。

 それが今日という日が始まった事を教えると同時に微睡みの中から私を引っ張り上げてくれる。

 何時もなら清々しい1日の始まり。

 それが私――八神はやての日常の開始の仕方。

 でも今日ばっかりは眠りから簡単に覚めたくは無かった。

 されども現実に生きる者としてそれは容認されない事だ。

 そう。怠惰のし過ぎは罪なのである。

 

……あーあ……もう、朝なんか……早いなぁ。

 

 そんな風に思いながら私は上半身を起こし、両手を掲げて思いっきり体を伸ばす。

 それから瞼を擦り、未だ私を夢の中へと引きずり込もうとしている睡魔を払った。

 正直、あんまりにも良い夢を見たものだから2度寝してもう一度夢を見たい。

 けどそこは我慢する。はやては出来る子なんです。

 

「ふぁ……あー、不思議な夢やったな」

 

 本からもう1人の自分が出て来て自分が立てるようになる夢。

 もしこうであれば良いな、という願望が実現した夢。

 非現実的な夢だけども私に希望を与えてくれる夢だった。

 

……最近ファンタジー系の小説ばっかり読んどるせいかな。

 

 そんな夢を見た自分自身に対して苦笑してしまう。

 

「あれが現実だったら私も苦労せんのになぁ……」

 

 ほーれ、と冗談交じりで試しに足を持ち上げてみる。

 ほうら、何時も通り。やっぱり上がらんや――、

 

「ホゲェッ!?」

「あ。上がった」

 

 ついでに勢い良く上がった足で何かを蹴ってもうた。

 蹴った何かは凄い音を立ててベッドの下になんか落ちたみたいやった。

 でもそんな事を今は気にしている暇は無い。

 だって私は目の前の光景から目が離せなかったんやから。

 

……あれ?上がっとる?思い切り、足、上がっとる……?

 

 衝撃的な事実に思わず硬直しながらも身を小刻みに震わせてしまう。

 

「嘘……?」

 

 え?夢?これもまた夢なん?

 慌てて頬を抓ってみる。痛い。

 という事は痛覚はしっかり稼動中みたいやな。

 それはつまりこの状態がまごう事なき現実であるという事を示している。

 そう。これは――夢やない。

 

「えええ!?」

 

 溜まらず悲鳴を上げてしまう。

 

「ななな、なんで!?石田先生も治療法はまだ解らないって言っとったのに……!?」

 

 あかん。何度も足を動かしているうちに目尻に涙が溜まってきた。

 なんでこんな急に動かせるようになってるん?

 訳解らんわ。もう殆ど諦めとったのに。

 

……き、奇跡や……奇跡が起きたんや……!

 

 うう。こんな突然治られても困るわ。

 涙が溢れて止まらんやないの。

 

「う、ご……小鴉、きさ、ま……!?」

「ひぃ!!?」

 

 瞬間、なんか地獄の底から響いてくるような怨嗟の声が私の鼓膜を震わせた。

 って、嗚呼!ベッドの縁になんか手が見えるし!?

 なんか這い上がって来とる!?

 

……あれ?ちょう待ち、自分。足が治ったのが夢やないって事は……。

 

 腕の力のみでベッドの縁に在った手の持ち主が這い上がってくる。

 その手の持ち主の顔は――私と全く同じものだった。

 

「ゲェ―――!?王様!?」

「我の偉大なる顔を朝っぱらから蹴り飛ばしておいて『ゲェー!?』とはなんだ、貴様ァ!」

「あ。ごめんなぁ……何か蹴ったと思ったんやけど、王様だったんやな……」

 

 夢やなかったんやなぁ。

 そんな風に事実を確認しながら怒気を撒き散らす王様を宥める。

 王様はベッドに乗りこんで来ると私の目の前に座った。

 その座り方は予想外な事に女の子座り。

 口調とか聞いた限りだともっと男らしい座り方すると思ってたんやけど可愛いところもあるんやな。

 

「なんだ」

「いやいや、何でもないんよ?」

 

 疑念を乗せた半目の視線を私は両手を振って誤魔化す。

 しかし、どないしたもんやろうか。まず何から話すべきかな。

 王様は魔法の国から私を救いに来てくれたん?とか質問してみるとかかな?

 

「おい、小鴉」

「あ。はいな?」

 

 反射的に顔を上げて応える。

 ていうか今更なんやけど王様、なんで私の事を小鴉って呼ぶんやろ?

 疑問に思うけど王様は知らんとばかりに私と目を合わしながら口を開いた。

 

「我は腹が空いた」

「はい?」

 

 私が小首を傾げると王様は腕を組みながら胸を張り相変わらずの尊大な態度を見せた。

 

「我は腹が空いた。故に食事の準備をせよ。早急にだ」

「……」

 

 思わずぽかーんとしながら唖然としてしまう。

 ああうん。こういう子やったな、そういえば。

 まぁええか。なんか嫌味っぽい感じはせえへんし。

 傲慢な感じも似合っとるというか、なんというか。本当に王様って感じやしな。

 それに足が治った今の私のテンションは最高潮!過去最大や!

 少しくらいの我侭ならむしろ歓迎しちゃうくらいや。ドンと来い!

 

「ほいほい。了解や。それじゃ、とりあえずリビング行こか」

 

 私は言いながら立ち上がり、ベッドから降りる。

 はわぁ!?床を踏みしめる感触が足裏から返って来おった!?

 

……おおおお、か、感動やー……!

 

 その場で両手を握りしめてふるふると感激に震える。

 

「何をしている小鴉」

「ハッ!?」

 

 声に振り向けば王様がベッドの上に座りながら呆れた様子で半目を向けていた。

 あかん。意識が一瞬だけど天国に飛んでしもうた。

 

「あ、いやいや!ちょう感動しとっただけでな!」

 

 私が慌てて事情を説明する。

 だって仕方ないやん?殆ど生まれて初めての床の感触やで?

 ちょっとくらいテンション上がったって仕方ないやん?

 そう王様に対して説明すると、彼女は何故か顔を左右に振った。

 え?なんか私、間違えたんやろか?

 

「そうではない」

 

 疑問符を浮かべると同時に王様は私に向けて、両手を突き出した。

 そして相変わらずの尊大な笑みを浮かべながら彼女は――、

 

「足が動かん。抱き上げよ」

「は?」

 

 そんな衝撃的な発言を放つのであった。

 

 

  ●

 

 

 ドーモ。ミナ=サン。クラウスです。

 あの衝撃的なこの世界への転生から一夜が明け、俺は今とあるデパートに訪れていた。

 今、俺が居るのはそのデパートの2階に存在する衣服販売コーナーだ。

 壁にかかったシンプルな形状の時計を見れば、時刻は11時。

 もうすぐ昼時という事で飲食店に人が集まり始める頃だろう。

 事実、周囲でショッピングを楽しむ人達の姿も減ってるしな。

 

……まぁ、平日っていう事もあるだろうけど。

 

 今では俺達と数人の客しか居ないようにも見える。

 そんな人口密度の低い衣服販売コーナーの試着室前に俺達は居た。

 面子は俺とオリヴィエ、水橋さんという構成。

 まぁ。何をしているかなんて言うまでもないだろう。

 こんな場所でやる事と言えば、1つだけだ。

 そう。俺は先程から"着せ替え人形"にされているのである。

 

「次はこれを着てみましょう、クラウス」

「ん?」

 

 金髪の可愛らしい少女がキラキラと瞳を輝かせながら駆け寄ってくる。

 その少女とは昨日出会ったばかりの少女――オリヴィエだ。

 彼女の服装は白い半袖のブラウスに黒のフレアスカート。

 そんな見る者にどことなく落ち着きのある印象を与える格好をしていた。

 

……うん。似合うな。

 

 間違いなく道端で擦れ違えば振り向いて視線で追ってしまう程に凄く似合っている。

 胸元にある青いリボンも白黒のシンプルな組み合わせの中、アクセントになっていてグッドだ。

 

……だけど。

 

 彼女の手には俺に着て欲しいという衣服が在る。

 それは純白の柔らかな生地を使った店長も勧めるであろう一品であった。

 オリヴィエが着たらとても似合いそうだ。

 そう。オリヴィエなら、似合いそうなのだ。

 何故ならその服は――、

 

「なぁ、それスカートだぞ……?」

「えぇ、クラウスに似合いそうでしょう?」

 

 嗚呼、邪気の全く存在しない笑顔が眩しい。

 何故か彼女は純白のスカートを持って来ていた。

 彼女に他意はない。

 心底俺にそのスカートが似合うと思っているのだろう。

 それを喜ぶべきなんだろうか、悲しむべきなのだろうか。

 ていうか悲しむべきだろう、絶対。

 確かに鏡で見たら女の子みたいな顔してたけどさ、俺。

 ともあれ、だ。

 オリヴィエの勧めとはいえ、それを受け取るわけにはいくまい。男児として。

 丁重にお断りすると、彼女はトボトボと心底残念そうに服を元の場所に戻しに行った。

 その背中には哀愁が漂っているようにも見える。

 なんか可哀想な事をした気がするが、俺があのスカートを履くのは流石に無理がある。

 男には絶対に譲れない一線というものが確かに存在するのだ。

 

……というかなんであんなに俺に良くしてくれるんだ?

 

 彼女と俺は昨日出会ったばかりの間柄だ。

 だというのに彼女は俺に対してまるで長年連れ添った友人の様な態度を取って来る。

 まだ良く知らぬ彼女の方からあの無防備さと無邪気さで懐かれると、正直なところ困惑してしまう。

 本来なら時間をかけて構築されるべき信頼関係がいきなり出来ている様な気がするというか。

 あれはあの子の性格によるものなのだろうか?

 それとも彼女の"オリジナル"と俺の基になった存在に縁があったのか?

 原因はまだ解らないが、恐らくはどちらかは該当しているだろう。

 オリヴィエが今朝話してくれた事が事実だとしたら後者も有り得そうではあるのだが……。

 そんな風に俺が顎に手を当てて思考していると不意に肩を叩かれた。

 何事かと思って振り向けば、そこには桃色の服を持った黒い長髪の女性こと水橋さんが居た。

 

「こっちの方が似合うんじゃない、クラウス君?」

「って、それナース服でしょう!?どっから持ってきたんですか!?」

「あっちに普通に置いてあったわよ?」

 

 彼女は楽しそうに笑いながら店の隅を指差した。

 ちなみに彼女は白いワイシャツに茶色のタイトスカートというラフな格好をしていた。

 そんな服装の彼女の勧めも丁重にお断りする。

 彼女も残念そうに項垂れながら服を戻しにトボトボと歩いて行った。

 ていうか今の発言本気だったんですか、水橋さん?

 

「クラウスクラウス。ならこっちはどうですか?」

「メイド服!?」

 

 再び満面の笑顔で駆けて来るオリヴィエ。

 その手には白と黒のオーソドックスなデザインのメイド服があった。

 本物のメイドさんが着そうな本格志向の一品だ。

 ていうか何でこんなもんまで置いてあるんだ、この店。

 店長に問い質したい。小1時間くらい問い質したい。

 

「ワタシとしてはこの魔法少女コスチュームがオススメデスネー?」

 

 え?と振り向くとそこには毛玉が在った。

 色取り取りの着色がされた毛玉が在った。

 ていうか毒々しいアフロが在った。

 

「って、誰!?」

「店長デスネー?」

 

 って、このアフロさんが店長!?

 という事はアンタか、この訳の解らないラインナップを揃えたの!?

 

「わぁ、もさもさです」

「モッサモッサデスネー?」

「はい、もっさもさです!」

 

 今日も眩しい笑顔が素敵ですね、オリヴィエさん。

 彼女の輝く笑顔を受けて微笑み返した後、アフロ店長はこちらへ向き直る。

 アロハシャツ姿の彼の手には、白を基調としたどっかで見たような気がする魔法少女の衣装が在った。

 どこかの制服の様な胸元の赤いリボンが目を引く衣装だ。

 アフロ店長はニカッとワイルドな笑みを浮かべ、

 

「さぁ、この魔法少女リリカル――」

「それ以上いけない」

 

 

  ●

 

 

 口内を熱い物体が転がる。

 火傷しそうでしない境界を彷徨うその温度は絶妙だ。

 その焼き加減から匠の技が伺える。

 これは頼んで正解ね。

 

「んー。美味し」

「たこ焼き熱いです、はふはふ……」

「あー……火傷するんじゃないぞ?」

 

 ショッピングを一通り終えた私達はデパートのフードコートに存在するたこ焼き屋の前に居た。

 店前に配置されたテーブルを囲むのは、オリヴィエちゃん、クラウス君、そして私――水橋花楓(みずはし かえで)の3人だ。

 テーブルの上にはたこ焼きの入ったパックが数個とそれぞれが頼んだドリンクが置かれている。

 視線を巡らせればオリヴィエちゃんが両頬に手を当ててたこ焼きの発する熱に耐える姿があった。和む。

 その横の席ではクラウス君が氷の入ったグラスを用意してハラハラと彼女を見ていた。心配性ね、彼も。

 私はそんな2人の様子を頬杖を突きながら観賞していた。

 そしてオリビエちゃんがたこ焼きを飲み込み終わるのを待ち、私は頬杖を止めて背筋を伸ばした。

 

「さて、服も買い終わったし、次は布団でも買いに行く?」

 

 今後の予定を提案する。

 

「待ってください」

 

 しかし、そこに片手を上げて異を唱える者が居た。

 私の提案に待ったをかけたのは縦縞模様の入った灰色のシャツと半ズボン姿のクラウス君だった。

 ちなみに今の彼が着ている服はこのデパートで買った物ではない。

 自宅付近の衣服販売店の開店直後に突撃をかまし、私が適当に選んで買ってきたものだ。

 流石に彼等が元々着ていた患者衣じゃ人移動の際に目を引き過ぎると思い、適当にチョイスして来たのだが、

 

……うーん。移動用のつもりで適当に選んだんだけど、やっぱり素材が良いのかしら。似合っているわねぇ。

 

 そんな風に思いながらも、どうぞ、と彼の発言を促す。

 

「その前に情報整理を――オリヴィエが昨日見た夢についても話を纏めたいですし」

「あぁ。そうだったわね。ごめん、忘れてたわ」

 

 そういえば今朝、昼食を食べ終わったら詳しい話をしましょうと彼が言っていた事を思い出す。

 久方ぶりのショッピングに熱中し過ぎて忘れてしまっていた。

 私は未だに頬を両手で押さえて『熱い熱い』なんて言ってる可愛い生命体へと視線を向ける。

 

「それで……えーっと、オリヴィエちゃん良いかしら?」

「はふ……あ、はひ、大丈夫です……」

 

 うわ、涙目は反則でしょ。

 幾らなんでも可愛過ぎるわよ。耐えられるわけがない。

 もう止めて私の益荒女ゲージが我慢の限界超過よ……!

 

「抱き締めて良い?」

「あ、え、えと、どうぞ……?」

「話が進まないので後にしてくださいね、水橋さん」

 

 ニッコリとクラウス君が朗らかな笑顔を見せて私の行動を制した。

 私の身が動きを止める。

 なんというプレッシャーだろうか。

 溜まりに溜まった益荒女ゲージが凄まじい勢いで減衰していくのが確かに感じられた。

 この歳で笑顔によるプレッシャーのかけ方を知っているとは、本当に将来が楽しみな子だ。

 

「で、今朝見た夢……曙光の魔導書だったっけ?」

 

 私はいざ抱き締めんと乗り出していた身を潔く引っ込めながら改めて話を切り出す。

 

「あ。はい。これですね」

 

 私の言葉に応えた彼女が片手をテーブルにかざすと、そこに黒と白の表紙の本が現れた。

 もうこんな不思議現象には驚かないぞ、私。

 額に冷や汗を流しながらもじっくりと本を観察する。

 かなりの分厚さを持つ年代物みたいだが、それ以外は至って普通の本のように見える。

 殴ったら痛そうと思うぐらいか。

 

「まぁ、これも実物があるって事はその夢も本物なんでしょうね……」

 

 ふぅ、と私は椅子に背を預ける。

 少し仰け反れば視界いっぱいに青い空が広がった。

 ちなみに昨日散々彼女達の事を疑ったが、私はもう彼女達の言葉を信じる事にした。

 だって酒に酔ってたとはいえ、あの後また不思議現象見ちゃったし。

 眼鏡をかけた受験生のご近所さんに確認しても、

 

『水色の光の柱ですかぁ?確かに突き立ってましたねぇ、凄かったですよねぇ』

『反応薄っ!?』

 

 ナチュラルに非現実的な事が起きた事を肯定された。

 更にそんな私に追い撃ちをかける様にオリヴィエちゃんから不思議な夢を見たとの報告があった。

 しかもその夢から持ち帰った代物まで見せられた。

 ここまで証拠を揃えられた上に、それを真摯な目で語られたらもう信じるしかないだろう。

 溜息を吐くと同時に頭の中に浮かんでくるのは今朝オリヴィエちゃんから話された件についてだ。

 

「しかし、貴女達が魔法で作られた生命体か」

 

 私が呟くとオリヴィエちゃんは頬を指先で掻きながら困り顔を浮かべた。

 クラウス君もドリンクに口を付けながら似た様な顔をしていた。

 

「私も未だにそういう実感はないんですけど……どうやらそうみたいなんです」

「あぁ。俺もその発想は無かったけど……有り得なくはないだろうなって認識ですね」

「凄いわねぇ……貴女達」

 

 いきなり自分が人間じゃないと言われて納得出来る人はそんなに居ないだろう。

 まぁ、目の前の2人は難なく納得しているようなのだが。

 

……本当に、強い子達ね。

 

 訳の解らない使命や生まれを背負わされても、彼女達に気負った様子は見られない。

 むしろ楽しげに、且つ、誇らしげにその使命を語っていた様子は逞しいというべきか。

 とんでもなく強い心の持ち主達だ。

 私にはとてもではないが真似出来そうにない。

 

「で、その話を聞いた上でやるのね?」

「はい、私はやります。約束もしましたし……クラウスはどうしますか?」

「……降りるっていう選択肢は無いな。オリヴィエも放っておけないし、やれるだけやるよ」

「クラウス……ありがとう御座いますっ」

 

 オリヴィエちゃんが嬉しそうに両手を組みながら微笑む。

 対するクラウス君はその微笑みに気恥ずかしそうに頬を掻きながら視線を逸らした。

 おお、熱い熱い。

 

「じゃあ、今後の方針だけど……暫くは私の家に泊まりながら黒い魂を探索する、で良いわね?」

「お、お世話になってしまい、申し訳ないですが……」

「必ず恩返しはしますので」

 

 2人揃って深々と頭を下げる。

 私としては楽しいから既に対価は貰ってるようなもんなんだけどね。

 

「良いの。その代わり家事の手伝いをして貰うって事でね……後は――」

「「?」」

 

 にやりと知らずの内に私は胸の内から湧き上がる気持ちに邪悪な笑みを浮かべてしまう。

 そして自分の傍らに置いていた紙袋に手を突っ込み、とある白を基調とした服を取り出した。

 

「げっ」

「わっ」

 

 目の前の2人がそれぞれ別の理由で息を詰まらせる。

 クラウス君はこの服を見て、嫌な予感でも感じとったんでしょうね。

 オリヴィエちゃんは綺麗な服に目を奪われてる、って感じかしら。

 

「私が満足するまで着せ替え人形になってくれれば良いわ。ね――?」

 

 本日の日差しの如く暖かな笑みを浮かべ、一言。

 

「クラウス君?」

 

 私の声が放たれてから1秒も経たずに彼は行動を開始した。

 椅子を飛び降り、振り向き、クラウチングスタートの姿勢、走り出す。

 その間、2秒も無し。速い。

 彼が目指すのはフードコートの出口。

 さながら疾風の如く彼は往く。

 並の使い手ならば触れる事すら叶わぬ凄まじい速度だ。

 されどこちらにも切札は在る。

 それを切る事に逡巡はなかった。

 私は求める。

 

「オリヴィエちゃん捕まえて」

「はいっ!」

 

 ギャー!という悲鳴が聞こえて、すぐにクラウス君は取り押さえられた。

 風すら追い越す虹色の流星となったオリヴィエさん、マジパネェッス。

 そんな感想を抱いていると、彼女は彼をずるずると音を立てながら引き摺って帰って来た。

 

「な、な……」

「?」

 

 声に振り向けばたこ焼き屋の店長とかがいきなり発生した虹色の光とかに唖然としていた。

 そんな彼に私は手を振りながら言う。

 

「気にしないで、ただの魔法よ」

「気にするよ!?」

 

 騒ぐ店長や店員を無視してもがくクラウス君と笑顔のオリヴィエちゃんを連れてフードコートを出る。

 フフフ。さぁ、楽しい宴の始まりよ。

 

 

 

  ●

 

 

 

 その後、再び衣服コーナーに連れ込まれたクラウス君。

 彼は助けを求めて凄い悲鳴を上げて抵抗していたのだけど――。

 行先ではアフロ頭の店長が防音対策バッチリの試着室を用意してくれていた。

 アフロ頭の店長……一体何者なんだ……。

 ちなみにその時のクラウス君の絶望した表情には何か背筋にゾクリと来るものがあった。

 まぁ、そんなこんなでたっぷり楽しめた事をここに明記しておく。

 いやはや、魔法少女姿のクラウス君、可愛かったわー。

 最後の方、死んだ魚の目してたけど。

 

 

 

  ●

 

 

『助けて――』

 

 小さな声が響く。

 今にも消えてしまいそうな弱々しい声。

 それでも必死に己の使命を果たそうとする強い意志の宿った声。

 

『誰か、お願い――』

 

 声が響く。

 籠められるのは、救いを求める切なる願い。

 それは空間を超え、魔の力を持つ者達へと向かう。

 

『助けて――』

 

 声の主はただひたすら投げかけ続ける。

 己の救いとなる少女と出会う運命を引き寄せる言霊を。

 物語の始まりは――近い。

 




今回は短めにここまで。
まずはここまで読んでいただいた方々に最大限の感謝を。

次回漸くあの主人公の出番です。
いや、あくまでこの作品の主人公はオリヴィエとクラウスなのですが……。
兎にも角にも漸くです!長かったなぁ……。

そんなこんなで相変わらず遅いような早いような展開続きですが、
ご指摘、ご感想などをいただけたらと思います。

それでは皆さん、また次回。
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