Harry And Warriors   作:魅珠

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第5話

 談話室に「お知らせ」が張り出された。おそらく他の寮でも同じものが張られているだろう。それを見た一年生は、きっとワクワクドキドキしていると思う。

 

 私だってそうだったから。

 

『飛行訓練は木曜日に始まります。グリフィンドールとスリザリンとの合同授業です』

 

 飛行訓練。

 

 魔法使いである身としては無くてはならない授業の一つで、マグルが車や自転車を使って移動すると同じように、魔法使いも箒で移動した方が徒歩の何倍も便利で速い。それは昔から変わらず今も続いている真実。

 

 飛行訓練の話題が出ると魔法使いの家の子は箒に、まつわる思い出やクィディッチの話をしたりと授業までの間、話題に尽きることを知らない。

 

 彼女も、こればかりは本を読むだけでは、できっこないので最近は特にピリピリしている。

 

 真面目なのは良し悪しなのだと思うのだが。

 

 木曜日の朝食の時、彼女…ハーマイオニー・グレンジャーは図書館で借りた『クィディッチ今昔』で仕入れた飛行のコツを、ウンザリするほど話しているのを、よく耳にする。

 

「だから、コツは……」

 

 ハーマイオニーの言葉を聞くネビル・ロングボトムは必死で聞き漏らすまいとしているから、なかなか見ていて面白い。

 

 梟便が来て彼女の講義が中断すると、皆ホッとした表情をした。GJ梟便。

 

 メンフクロウがネビルに、お婆さんからの小さな包みを持ってきたようで、ネビルは嬉しそうに包みを開けた。白い煙が詰まっているように見える大きなビー玉ぐらいのガラス玉を皆に見せた。

 

「『思い出し玉』だ! ばあちゃんは僕が忘れっぽいことを知っているから――何か忘れてると、この玉が教えてくれるんだ」

 

 見てて、と言ったネビルは玉をギュッと握った。すると思い出し玉が突然真っ赤に光り出し、彼は愕然とした。

 

「……何かを忘れてるってことなんだけど」

 

 何を忘れていると表示されたところで、その“何”が解らなければ意味ないのでは。ああ、そういえばと。

 

 飛行訓練ではネビル君が落っこちゃうんだっけ。どうにかしてあげたいが、どうしようかと

まぁ君に目配せしたら大丈夫だと言われた。

 

 ネビルが必死にその“何か”を思い出そうとしている時、ちょうどソレを狙ったかのようにクラッブとゴイルを引き連れたマルフォイがネビルの後ろを通り掛かり、ネビルの手から思いだし玉を引ったくった。

 

「(うぁー、子供だなぁ)」

 

 様子を見ていら次の瞬間、ハリーとロンが条件反射の如く立ち上がった。しかし……

 

「どうしたのですか?」

 

 不意に背後からミネルバが姿を現した。現れたミネルバの姿に、マルフォイは苦々しくも「見てただけですよ…」と返すと踵を返して大広間を後にしていった。

 

◇◇◇

 

 魔法史の授業中、まぁ君に先程の「大丈夫」の意味を聞く。日本語で。

 

「さっきの『大丈夫』ってどういうこと?」

「そのうち分かる」

 

 よくわからないけど。まぁ、いいか。

 

 

◆◆◆

 

 

 午後3時になり、ハリーと外へ出た。グレンジャーが、また呪文のように本から得た知識を唱えていて正直うんざりする。

 

 フーチ先生が、やってきた。キリっとしていて、清清しい雰囲気の格好いい先生だなと僕は思った。先生は鋭い口調で言った。

 

「何をぼやぼやしてるんですか。みんな箒の側に立って。さぁ、早く!」

 

 箒は皆ぼろぼろで、明らかに年代モノだ。ネビルの隣にある箒なんて、全ての小枝がありえない方向に折れ曲がっている。

 

 大丈夫かよ……

 

 先生の指示に従って「上がれ」と声を掛けた。箒は中々上がらなくて、思いっきり強い口調でいったら手を掠めて顔面に激突。

 

「うぅ……」

 

 最悪だ。まぁ、そのあとしっかりと握った。周りを見渡せば成功したのは、ハリーとマルフォイだけのようだった。ネビルは怯えているせいが一ミリも上がる気配はない。

 

 グレンジャーの箒は足元で、ころりと転がるだけだ。でも数分間箒と睨み合った末に成功した。

 

 ネビルも時間は掛かったが、何とか箒は手に納まったようだ。少しヨロヨロとした上がり方だったが、本当に大丈夫かと不安になる。

先生は箒の持ち方や箒の跨り方を指導した後、空を飛ぶ練習をすると言いった。

 

「私が笛を吹いたら、地面を強く蹴ってください。笛を吹いたらですよ。1、2の……」

 

 しかし、ネビルは先生の合図よりも先に地面を蹴りだしてしまったのだ。しかも、強く。

 

 先生が「戻ってきなさい!」と声を掛けているが、あれじゃ無理だ。完全にコントロール出来ていない。

 

 ぐんぐんと高度が上がっていき、ネビルは上空8m近くまで行ってしまった。バランスを崩し、身体が激しく揺れている。

 

 堕ちる!!

 

 そう思った時、何か一閃のようなものがネビルを掻っ攫った。

 

「「「えッ!?」」」

 

 それは大きな鷹で、鉤爪にネビルがぶら下っている。騒然とする中、鷹はゆっくりと降下してゆきネビルを、そっと地面に下ろした。とうのネビルは放心状態で、ガクガクと震えている。

 

「大丈夫ですか!? Mr.ロングボトム! ああ、助かりましたよ。Mr.レヴユン、レイブンクローに10点差し上げましょう」

 

 先生が鷹に向かって言った。

 

 え…???

 

 鷹が一瞬で青年に戻る。ネクタイの色はレイブンクローで僕たちよりも年上だ。

 

 兄貴たちの友達の叢雲先輩の友達、チルド・レヴユン。純血でありながら純血主義を嫌う一族として知られている。

 

 話したことはあまりないけど……

 

 

 学生で、既にアニメーガスを習得しているなんて、かっこいい!

 

「いえ、では失礼します」

 

 レヴユン先輩はそう言って城の方へ行ってしまった。始めから最後まで無表情だけど、嫌じゃない感じだ。

 

「彼を医務室に連れて行きます。その間、もし誰か1人でも動いて御覧なさい。クディッチの『ク』の字を言う前にホグワーツから出て行ってもらいます。」

 

 ピシャリと、そう言うとフーチ先生は未だに泣きじゃくるネビルを引き連れて医務室へと向った。

 

「あいつの顔を見たか? あの大間抜けの」と、あの嫌みな奴の嘲る言葉に意識が戻された。他のスリザリン寮生たちはマルフォイに便乗するように囃し立てた。

 

「やめてよ、マルフォイ」

 

 パーバティ・パチルが咎める。

 

「へー、ロングボトムの肩を持つの? パーバティったら、まさかあなたが、チビデブの泣き虫小僧に気があるなんて知らなかったわ」

 

 気の強そうなスリザリンの女子、パンジー・パーキンソンが冷やかした。

 

「ごらんよ!」

 

 マルフォイが『思い出し玉』を拾い上げた。

 

「ロングボトムのばあさんが送ってきたバカ玉だ」

「マルフォイ、こっちへ渡してもらおう」

「それじゃ、ロングボトムが後で取りに来られる所に置いておくよ。そうだな―――木の上なんてどうだい?」

「こっちに渡せったら!」

 

 箒に跨がったマルフォイが、ふわりと舞い上がり、ハリーに挑発するように言った。

 

「ここまで取りに来いよ、ポッター」

 

 グレンジャーは群がっている生徒達の元に走り、箒を掴んでいるハリーを止めた。

 

「だめ! フーチ先生がおっしゃったでしょう? 動いちゃいけないって。私達みんなが迷惑するのよ!」

 

 グレンジャーが叫んだが、ハリーはソレを無視し、箒に跨って地面を蹴ると、空中にいるマルフォイと向き合った。

 

 マルフォイはハリーがここまで来れるとは思わなかったのか、呆然としている。

 

「こっちへ渡せよ。でないと箒から突き落としてやる」

「へぇ、そうかい?」

 

 マルフォイはせせら笑おうとしたが、顔が強ばっていた。

 

「クラッブもゴイルもここまでは助けにこないぞ。ピンチだな、マルフォイ」

「取れるものなら取るがいい!」

 

 マルフォイはそう叫ぶとガラス玉を空中高く城の方へ放り投げた。ハリーは前屈みになると、箒の柄を上に向けた。

 

 次の瞬間、ハリーは一直線にマルフォイの横を通り過ぎる。上昇し見る見るスピードを上げて玉と競走していた。

 

 下で見ている誰かの悲鳴がした。僕は夢中でハリーの飛ぶ姿を見ていた。

 

 すごい。すごいよ、ハリー。

 

 ハリーが手を伸ばすと、窓スレスレの所で玉を掴んだ。

間一髪でハリーは箒を下げ、水平に立て直し、草の上に軟着陸した。

 

 "思い出し玉"をしっかりと手のひらに握りしめたまま。

グリフィンドールの生徒が歓声を上げ、ハリーの元に走った。

 

 スリザリンの生徒は苦虫を噛み潰したような顔をしている。僕も、ハリーの元に駆け寄ろうとした、その時。

 

「ハリー・ポッター!!!」

 

 マクゴナガル先生が血相を変えて走ってきた。これは、ヤバい。ハリーの顔は見る見る青ざめてゆく。こっちも気が気じゃない。

 

「まさか――こんなことはホグワーツで一度も……」

 

 マクゴナガル先生はショックで言葉も出ないようだ。

 

「……よくもまあ、そんな大それたことを……首の骨を折ったかもしれないのに――」

「先生、ハリーが悪いんじゃないんです……」

「おだまりなさい。ミス・パチル」

 

 どうにかしないと!

 

「でも、マルフォイが……」

「くどいですよ。Mr.ウィーズリー。ポッター、さあ、一緒にいらっしゃい」

 

 マクゴナガル先生は大股に城に向かって歩きだし、ハリーは静かにトボトボとついて行くしかなかった。

 

 マルフォイ、クラッブ、ゴイルの勝ち誇った顔に、僕は悔しさのあまり手を強く握り締めた。グレンジャーも、顔をしかめて三人を睨みつけていた。

 

 ハリー、いなくならないよな?

 

 

◆◆◆

 

 マクゴナガル先生は飛ぶようにして歩いていった。

 

 あれ?なんか機嫌がいい?

 

 ハリーは殆ど駆け足になってついていくのに必死だ。このまま退学になってしまうのだろうか。あのダーズリー家に戻らなくてはいけないのだろうか。頭の中が真っ白で、なにも考えられない。

 

 マクゴナガル先生は、ある教室の前で立ち止まり扉を開けて中に顔を覗かせた。

 

「フリットウィック先生。申し訳ありませんが、ちょっとウッドをお借りできませんか」

 

 ハリーは首を傾げた。

 

 ウッド?

 

 どうして生徒を叱るのに生徒を必要なのか。呪文学の教室から出てきたのは逞しい五年生で、あっちも何事だろうという顔をしていた。

 

「二人とも私についていらっしゃい」

 

 マクゴナガル先生は、それだけ言って、また同じ調子で廊下を歩き出した。やっぱり、機嫌がいい。物珍しそうに、こちらを見ているウッドにハリーは気になって仕方がなかった。

 

「お入りなさい」

 

 マクゴナガル先生は使われていない教室を示した。黒板に悪戯書きなぐっていたピーブズを教室から追い出し、先生はドアを閉めて、ハリー達に向き直った。

 

「ポッター、こちら、オリバー・ウッドです。ウッド、新しいシーカーを見つけましたよ」

 

 その言葉にウッドは驚嘆し、そして綻んだ。

 

「本当ですか!?」

「間違いありません。この子達は生まれつきそうなんです。あんな物を私は初めて見ました。ポッター、初めてなんでしょう?箒に乗ったのは」

 

 ハリーは黙って頷いた。如何やら、退学処分という訳ではないらしい。マクゴナガル先生は、ウッドに経緯を説明している。

 

「ポッターは今、手に持っている玉を城の壁ぎりぎりで掴みました。掠り傷一つ負わずに。チャーリー・ウィーズリーだってそんな事出来ませんでしたよ」

 

 ウッドは、ぱあぁっと顔を輝かせた。

 

「ポッター、クィディッチの試合を見た事あるかい?」

「い、いいえ」

「ウッドはグリフィンドール・チームのキャプテンです」

「ポッターはシーカーだな、やっぱり。君の体格はシーカーにぴったりだ。相応しい箒を持たせないといけませんね、先生。ニンバス2000とか、クリーンスイープの7号なんかがいいですね」

「私からダンブルドア校長先生に話してみましょう。一年生の規則を曲げられるかどうか。是が非でも去年よりは強いチームにしなければ。あの最終試合でスリザリンにコテンパンにされて、私はそれから何週間もセブルス・スネイプの顔をまともに見られませんでしたよ……」

 

 マクゴナガル先生は、眼鏡越しに厳格な目つきでハリーを見た。

 

「ポッター、貴方が厳しい練習を積んでいるという報告を聞きたいものです。さもないと処罰について考え直すかもしれませんよ」

「!!」

 

 そして、にっこりと微笑んだ。

 

「…ハリー、貴方のお父様がどんなにお喜びになった事か。お父様も素晴らしい選手でした。きっと、お喜びになった事でしょう」

「一年生の選手なんて、ここ百年、一人もいなかった。君は最年少の選手だ――」

 

 然し、そこで授業終了を告げるチャイムが鳴り、廊下にどっと生徒が出てきた。

 

「じゃあ、来週から練習開始だ。誰にも言うなよ。君達の事は極秘だ――ルールは、練習の時に教えるよ」

 

 ウッドはそう言うとマクゴナガル先生に軽く頭を下げ、廊下を曲がって見えなくなった。

 

 えっと……、喜んでいいのだろうか。

 

 

◇◇◇

 

 

「まさか」

 

 夕食の時にロンが信じられない顔で、そう言った。

 

「シーカーだって? だけど一年生は絶対ダメだと……なら君は最年少の寮代表選手だよ。ここ何年以来かな…」

「……百年ぶりだって。ウッドがそう言ってたよ。来週から練習が始まるんだ。でも誰にも言うなよ? ウッドは秘密にしておきたいんだって」

「すごいな」

 

 振り返れば、いつの間にかロンの双子の兄と叢雲先輩がいた。ジョージが小さく低い声で言った。

 

「ウッドから聞いたよ。僕達も選手だ――ビーターだ」

「今年のクィディッチ・カップはいただきだぜ、なぁ叢雲」

「ああ!」

 

 凄く嬉しそうな顔なもんだから僕は自然に笑みがこぼれた。

 

「ハリーが来たからウッドは小踊りしてたぜ」

「じゃあな。僕達行かなくちゃ。リーが学校を出る秘密の抜け道を見つけたって言うんだ」

 

 そのまま双子と先輩は行ってしまった。

 

 入れ違いに二人の生徒を従えたマルフォイがやってきた。

 

「ポッター、最後の食事かい?マグルのところに帰る汽車にいつ乗るんだい?」

 

 相変わらず嫌みな奴だ。マルフォイの声に先程まで笑っていたロンの眉間にシワがよった。

 

「地上では、やけに元気だね。小さなお友達もいるしね」

 

 上座には先生達がいるのでマルフォイを睨みつけるだけ。生憎、ダーズリー一家のおかげで皮肉には慣れている。

 

「僕一人でいつだって相手になろうじゃないか。ご所望なら今夜だっていい。魔法使いの決闘だ。杖だけだ――相手には触れない。どうしたんだい?魔法使いの決闘なんて聞いたこともないんじゃないか?」

 

 マルフォイが、せせら笑う。

 

「もちろんあるさ。僕が介添人をする。おまえのは誰だい?」

 

 今まで眉間にシワをよせて黙っていたロンが言った。

 

「クラッブだ。真夜中でいいね?トロフィー室にしよう。いつも鍵が開いてるんでね」

 

 マルフォイが、そう言い残していなくなるとロンは決闘について説明してくれた。しかし、そこで聞き耳を立てていた少女がいた。

 

「ちょっと、失礼」

 

 グレンジャーだ。

 

「聞くつもりはなかったんだけど、あなたとマルフォイの話が聞こえちゃったの……夜、校内をウロウロするのは絶対ダメ。もし捕まったらグリフィンドールが何点減点されるか考えてよ。それに捕まるに決まってるわ。全くなんて自分勝手なの」

「大きなお世話だよ」

「じゃあ」

 

 グレンジャーを、あしらって寮に戻った。作戦を考えないと。

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