PHASE16 夢追いし者の姿①
芽衣が帰って数時間がたっていた。
俺は、悠里の作った夕食を食べ終え部屋で寝転んでる。
それにしても今日は、いろいろ会ったなぁ。芽衣の奴は、人の家に押しかけてくるし。何したかっていったら、格ゲーくらいなもんだ。
後は、夢の一件を話せたのが良かった。心が少し楽になった。
一つ気になったのは、あいつが見たという夢の事。大したことは聞けなかったが、一体どんな夢なのだろうか。気になる。
後もう一つ。あいつがたまに見せていた、悲しげな表情が気になるな。
いつも笑顔の芽衣が、あんな表情をしたことは俺が知る限りではなかった。それだけに気になってしまう。
あれは単純に、俺の心配をしていてくれただけなのだろうか。それとも……。
俺は、頭をガリガリと掻きむしりベッドに顔を埋める。
まぁ、考えてもわからないな。
なるように。
なるだろう。
俺は、夢のなかに落ちる事となった。
俺が目を覚ますと、そこは自宅のベッドの上だった。
寝ぼけ眼を手でゴシゴシと擦り、体を起こす。部屋の周りを軽く見渡す。
「ここはまさか……」
現実と全く同じ景色のようで違う、白と黒で彩られた景色。夢にしては、いやに頭がはっきりとする妙にリアルなこの夢。
俺は、この世界を知っている。
「また、きてしまったのか」
俺は、再び《夢幻世界》へと戻ってしまったのだ。
どうして今日なのだ。今まで全く来れる気配などなかったというのに。
いや、考えても無駄というものか。俺にどうこうできる現象じゃない。
考えることをやめ、俺はまっさきに家の外へと飛び出した。
家の中にいたって、無事でいられる保証なんてない。それは前に身をもって知っている。だったら、今度は外にいく。どこにいたって絶対安全なんてないのだから。
俺は、恐怖心で冷静な判断など出来ずにいた。
家から飛び出した直後だった。目の前を一台のバイクが走り抜けていく。
もしかして、俺以外に人がいる?
嫌な汗が体の中を伝っていく。気づけば、俺の額にはじわりと汗が滲んでいた。
バイクの主が、俺の存在に気づいて居ないことを祈るばかりだ。
バイクが走り去っていった道と逆方向に走りだす。とにかく俺は、バイクの人物と接触したくはなかった。
――まさか、そのバイクが俺の後をつけているなんて夢にも思わずに。
家から五分位走ったところにある公園。俺はそこにいた。
走って逃げるにしても、そこまで体力が続くはずもない。俺がアスリート選手なら話は別だが。
俺は、公園の中央に設置してある水道を頭から被る。汗が滲む頭を洗い流しながら、頭を冷やしたかったからだ。
……とにかく今は冷静になるんだ。状況がわからない。ここが《夢幻世界》であるのは間違いないだろう。だとすると俺が今、置かれてれている状況はどうなっている?
あのバイクの男は、敵なのか味方なのか? いやそもそもこの世界で味方なんているのか。話通りであれば、一人一人全員が敵である筈なのに。
もし、前に家を襲撃した少女のように襲われれば間違い無く死ぬだろう。状況が違う。今回もアリスが助けてくれる保証なんて何処にもないのだから。
俺自身に能力があるかさえ、分からないのにどうすればいいんだよ。
頭を濡らした俺は、軽く頭を振り水気を落とす。一応、人目のつかない木陰に入って腰を下ろした。
「クソッ……!!」
俺は、苛立ちが募り無意識に軽く舌をうち小さく言葉を漏らしていた。
「一体どうすれば……」
その直後だった。
『HYAAHAAA!! WYIIIII!!』
突然の大声に肩が跳ねた。近くから奇声聞こえる。どこかで誰かが叫んでいるそれは間違いない。ならば、誰が叫んでいるのか。
ヴォンヴォンヴォン!!
奇声の後、聞こえてくるバイクの音らしき爆音。それはどんどんと大きくなり、やがてその音を止めた。その後、砂を蹴って歩く音が公園内に響く。
「まさか……」
俺は、そっと木の影から公園の様子をうかがう。俺の心臓は、ものすごい高速で鼓動を響かせていたような気がした。
『おかしいな。確かにここに来たと思ったんだが』
最初に、視界にはいったのはバイクだった。ハンドル部分は縦に長く、タイヤやマフラーも普通のものに比べて大きい。巨大な単車だった。
次に目についたのは、奇声の主。
黒いレザーのジャケットにGパンを履いていて、腰からは髑髏をかたどったチェーンを垂らし、背中には、大型のショットガンを背負ってる。声を聞く限り若い男のようだ。
他に人のいる気配はしない。どうやら独り言のようだが。それよりも男の言葉が気になる。内容から察するに、俺を追ってきていることは明白だ。
マズイ……。見つかれば殺される!!
俺の頭の中は、ひたすらそれが渦巻いていた。取りあえず、見つからないようにここから移動しよう。
ここの公園は、入り口が一箇所しかない。ということは、公園から出ようとすれば必然的に入り口近くにいる男に出くわすわけだ。
ならば手は一つ。フェンスをよじ登り公園を出る。それしかない。
俺は早速、公園のフェンスに近づいていく。もちろん、物音を立てず慎重にだ。運がいいことに、男は俺と逆の方を見ているためこっちには気づいてはいない。
フェンスの元に来た俺。物音を最小限に慎重に登る。
幸か不幸か、ここの金属フェンスは造りがしっかりしているのかあまり音を立てずに登ることができた。
公園の隣には民家がある。そこのブロック塀の上に乗り、歩いていけば細い路地に出られるはずだ。ここならバイクなんて入るのは不可能だ。まず探しに来ることはないだろう。
ブロック塀に乗ることができた俺は、バランスを取りながら静かに歩いて行く。俺は心の中でこっちに気づかないことをひたすら祈っていた。気づかれれば、路地に入ろうが結局は同じだ。
「後……数歩!」
しかし、祈りは届かなかったようだ。