PHASE2 夢の中の正しい世界①
「それでお母さん遅くなるんだって」
妹の悠里。俺より二つ年下ながら家事一切をこなす出来た妹。
両親が家を空けていることの多い我が家では事実上、俺より立場が上の存在。
可愛いから許すけどさ。
「だから今日は今日は悠里がごはん作るよ。なにがいい?」
「なんでもいいよ」
「それが一番面倒臭いの!」
俺は考える素振りだけみせると、
「シェフのおまかせで」
と言い残し、そそくさと二階の自分の部屋に向かった。
いつまでもこんな胡散臭い手紙を持っているのは危険だ。……いやまあ身体的に危険とか精神的にヤバいとかそんなんじゃないんだが。
そもそも痛い手紙だ。こんなの中二病だ。
だからそれが問題なんだって!
一階から妹の小賢しい声がまだ聞こえていたが相手にすると長いので聞こえない振りをする。飄々としているのが兄貴風でかっこいい。
……と思う。
我が家では兄妹で別々の部屋をもらっている。
俺の部屋はベットと勉強机、本棚。整然としたシンプルな部屋だ。訳あって数ヶ月前に大掃除を敢行したのでそれ以来かわっていないということになる。
「さて、どうするか」
部屋に着いてまず考えたのはそれだった。
この手紙を悠里に見つかるのは非常に不味い。俺が書いたわけじゃないけど、悠里より先に俺が見つけたのは僥倖と言える。
悠里ならこれを俺が書いたと思っただろうから。
それで言うんだ。
「お兄ちゃん、こういうの中二病って言うんだよ?」
……。
そう、俺は中二病を患っていた。
それはもう数ヶ月前の過去の話だ。
高校進学を機に『正義のヒーロー』になる運命から俺は逃げた。
「俺はいつか正義のヒーローんだ」
それを口にすると悠里が困った顔をしていたことは今でも覚えている。
だから、
「お兄ちゃん、こういうの中二病って言うんだよ?」
この言葉は俺の中で生まれた言葉。悠里の言葉じゃない。それでもあの時、悠里の瞳が俺に語りかけてきた言葉なんだ。
だから俺は諦めた。いや、恥ずかしくなった。
妹にそう思われることが。
夕飯までの時間。
部屋の外から夕陽が差している。
もうすぐ日が落ちる。
ささやかな時間。
もし。
眠ってしまっても。
悠里が起こしてくれる。
はずだ。
俺はたぶん疲れていた。考えることをやめ。手紙のことを忘れ。
ちょっとした夢の時間を。
受け入れた。
俺はいつのまにか夢の中に落ちていた。