「えっ……?」
俺は、彼女の言葉に上ずったような情けない声を漏らした。
彼女の口ぶりがまるで俺を知っている様な口ぶりだったからだ。
もちろん初対面だ。俺が覚えている限り会った記憶はない。
「取りあえず今は、ここを切り抜けるのが先ね」
彼女は、俺に優しい微笑みを浮かべる。
白髪の少女は、長い白髪を翻しツインテール少女の方を向く。
ツインテールの少女も予想外の出来事に驚いていたが、だんだんとその表情には怒りが浮かんでいた。
「あんたも『参加者』よね? 何のつもり?」
「名乗るつもりはないわ。悪いけどここは引いてもらうわよ」
その言葉を聞いたツインテールの少女は、ケラケラと笑い始める。
「アハハッ。ここで帰る? できるわけないよね。こんな美味しそうな獲物が転がってるんですもの」
人の事をまるで動物か何かのように言いやがる。
自分はハンターにでもなったつもりなのだろうか?
いや事実か。こんな情けない姿で転がっているんだ言い訳も何もない。
「そう。残念ね。これは、貴方への忠告でもあったのだけれど」
白髪の少女の凛とした佇まいは変わらず、相手を静観していた。
「へぇ。まるでその口ぶり私よりも劣ってないって言いたげね」
「少なくとも貴方よりは、強いと思うのだけれど」
ツインテールの少女の表情は、明らかに歪んでいた。
「調子に乗るな! この糞女!!」
激号した少女の身体から、再び黒い線が張り巡らされていく。
その線は不規則に飛び廻り、家の壁、天井、床様々なところに当たっては線を打ち付けていく。
「危ない!」
白髪の少女は、足元で転がっている俺を庇うように立つ。
「あはははっ!!」
ツインテール少女の高笑いが響く。
やがてその線は、我が家を囲むように張り巡らされていた。
それを比喩するならまるでジャングルジムか、アスレチックにあるようなロープの階段といったようなものか。
「ここはそんなに広くなくて助かったわ。もうここは私の戦場。私のための舞台よ。正直、勝ち目はなくなったわね」
手に持った短めのワイヤーからは、ゴツゴツとした鋭いフックがついていた。
ツインテールの少女は、薄気味悪い笑みを浮かべながらそれを振り回す。
白髪の少女は、すぐ近くの黒い線に触れる。
「これはワイヤーね。それが貴方の能力?」
「鉄線舞《ワイヤーアート》は、体中からフック付きワイヤーを打ち出し操る事が出来る力。威力は身を持って知ってるよね獲物くん」
獲物くんとは言い得て妙だ。しかし、俺の腹を抉ったのはそいつだったのか……。
そう思った瞬間、一瞬だが俺は意識が飛びかけていた。
ハハッ……。どうやら痛みはなくとも失血すれば意識は飛ぶようだ。
よく見ればあたりは血の海だった。そりゃ身体から血の気も失せるというものだ。
「すぐだからもうちょっと生きててね」
冷静な目で一瞬俺を見た白髪の少女。
「そろそろ終わりにしましょうか」
「余裕ぶってんじゃないよ!!」
黒いワイヤーが彼女めがけて飛んでくる。
目の前の攻撃をいとも簡単にかわす。
ワイヤーの放たれた軌道は、あまりにも直線的だった。
攻撃が少々早くても、分かってさえいれば避けるのは容易なのかもしれない。
「余りにも直線的ね。これでは避けてくれと言っているようなものだわ」
白髪の少女は、淡々と話す。
しかし、ツインテールの少女はさっきまでと打って変わって冷静だった。
不意に笑みを浮かべる。
その笑みに俺は、ゾッとした。そして直感的に通り過ぎたワイヤーの行方を見る。
まさか……。
俺は、必死で声を絞り出す。
「おい……っ! 上だっ……!」
震えるように絞りでた、俺の声は彼女に届いたのだろうか。
「大丈夫」
白髪の少女は、優しく囁く。
「負けないから」
次の瞬間、頭上から迫るワイヤーはバラバラになり降ってきた。
「なっ……!?」
白髪の少女の手には、細身のサーベルが握られていた。
ここに、彼女たちの戦いの火蓋は切って落された。