俺の頭は、首から切り落とされて落ちていく。
俺の視界には、優しくも悲しげな表情をしたアリスが写る。
アリスが、口を動かして何かを伝えようとしていた。
「――また夢の中で――」
俺は、その声を最後に記憶が途切れた。
目覚めた俺が最初に見たものは、変わり映えのないいつもの自室だった。
その部屋は、もちろん破壊されてなんてない俺の部屋。
なおかつ、視界に色がある。
俺は戻ってきたのだ。
あの色のない、不思議な世界から。
俺は、一心不乱に体中をぺたぺたと触る。
「怪我……、傷もない。血も。」
首が切り落とされ、確実に死んでいたはずの体に傷ひとつないのだ。
あの世界が現実ではないことを、これが示唆していた。
「やっぱ……夢、だったんだよな……」
肩を落として大きな深呼吸をする。
なんとも不思議な感覚である。殺されたのに生きているなんて。
これが夢だとして、今までこんなリアルな夢があっただろうか。
俺は、あの世界での出来事を頭の中を一つ一つ整理していた。
色のない世界。
白いワンピースの白髪の少女、アリス。
名も知らぬ、ツインテールのワイヤー使いの少女。
彼女は、殺されて……。
俺は、あの壮絶な光景を思い出してしまった。
サイコロステーキのように細かく刻まれていく肉片を。
首を切り落とされた少女を。
血飛沫で紅く染まった俺の部屋を。
俺は、あの時できなかった分まで嗚咽する。
胃から逆流してきたものが床に広がっていく。
一通り吐き出したしまった後の床は、吐瀉物まみれになっている。
俺の顔は、涎と涙でぐしゃぐしゃになっていた。
ある程度、心の落ち着いた俺は吐瀉物の片付けをしながら考えていた。
あの少女――アリスの事を。
夢の管理者を自称する彼女は、何者なのだろうか。
それに、《参加者》とは一体?
後、彼女が言った『選びなさい。死んで私にかしずくか、生きて私と共に戦うか』という一言。
まるで俺の運命は、アリスの手の平の上の様な言い方だ。
ああ、気に入らない。
掃除を終えた頃、誰かが俺の部屋のドアを叩く。
「お兄ちゃーん、ご飯出来たよー」
「……悪い。今日いらないわ」
悠里だった。どうやら夕食の準備ができたから俺を呼びに来たらしい。
しかし、今は食欲なんてない。ある筈がない。
今日は少々、グロテスクなものを見すぎた。
「えーなんで! 具合でも悪いの? さっきはそう見えなかったんだけど 」
妹がドアを開けて俺の部屋に入ってくる。
妹は、俺の顔を見た瞬間少し驚いた顔をしていた。
「んっ、・・・・・・なんか臭うよ」
たぶん、さっき吐いたからだろう。
「ど、どうしたのお兄ちゃん!? 顔、真っ青だよ!?」
妹に言われて、初めて鏡を見た。
俺は虚ろな目つきで、精気の抜けたような顔をしていた。
俺自身さえ、自分の風貌に少々驚いてしまった。
「……なんでもない」
「なんでもなくないよ! 絶対異常だって! お医者さん行かなくて大丈夫!?」
妹は、あまりにも変わり果てた風貌に驚いたのか捲し立てながら俺に迫ってくる。
妹に心配をかけるわけにはいかんよな。まさか夢のことで。
「なんでもないよ。ただ怖い夢を見ただけだ。ちょっと風邪気味で食欲ないだけだから」
そう言いながら、妹の頭をなでる。
「本当に?」
「ああ、本当さ。俺は休むからもう部屋出てくれるか?」
「うん、わかったよ。お休み、お兄ちゃん」
「ああ、お休み」
そう言うと、妹は俺の手から離れていき部屋から出ていった。
部屋の戸が閉まる音と同時に、俺は仰向けでベッドに倒れ込んだ。
静かになった部屋で、また考えにふけっていた。
俺ははたして、あの世界でどうしたいんだろう。
「共に戦う、か……」
俺は、あの少女が言った台詞を呟いていた。
俺に力なんてない。そんなことは俺が一番知っている。
むしろ今日の一件で、戦うということが怖くなった。
俺も戦って負ければ、あんな風に肉塊にされてしまうかと思うと足がすくんでしまう。
そう考えるのは、至って普通だろう。
しかし……。
あー、考えがまとまらない!
俺は、頭をガシガシと掻きむしる。
いつの間にか十一時を回ろうとしていた。
俺は知らない間に、数時間も考え事をしていたらしい。
それにしても今日は、いろいろあって疲れた。
もうこのまま寝たい。
でもこのまま寝ると。
また……。
俺は再び夢に落ちるのであった。