「そう言えば、お名前を聞いてなかったのです」
ずいっと顔を、俺の目の前までもってくる。
「俺は葛葉悠人っていうんだ」
「ほうほう。じゃあゆうちゃんって呼ぶのです!」
嬉しそうな顔で、宣言するペニスちゃん。
名乗って数秒で、あだ名が付けられてしまった。
「勝手にあだ名をつけるんじゃない」
「ぶー、じゃあなんて呼んで欲しいの?」
ペニスちゃんは頬を膨らましてむくれた。
「いや、普通に名前で呼んでくれればいいよ」
「嫌なのです!」
即答。露骨に嫌そうな顔で拒否されてしまった。
女の子にきっぱりそんなこと言われると、さすがにちょっと傷つく。
「なんでさ?」
「だって面白くないの! 名前を教えてもらったらあだ名をつけるのがこの世界のルールなのです!」
俺の知らない世界では、そんなルールがあるらしい。
流石は非現実的夢世界といった所か。なんやかんや頭がおかしい。
まぁ、ただの夢なんだが。
「へぇー。そうなんだー」
投げやり。
「無知なのです! あなたは無知なのです。というかもう少し私の話に関心をもってほしいです!」
俺の生返事がお気に召さなかったらしい。
胸元を両手でポコポコと叩いてくる。
しかし、全然力が入っていないため痛くなかった。
うるうるとした涙目で、俺の胸元をポコポコと叩くさまは可愛かったので良しとしよう。
「せめて、もうちょっとかっこいいあだ名が欲しかった」
「あなたは我儘なのです! もうあなたは、痛夫で十分なの!」
「誰が痛夫か!」
てか、痛夫ってなんぞ!?
「だって、中二病っぽい雰囲気がしたの。だから痛夫なの」
結局、痛夫の意味が分からんが、中二病男子をそう呼ぶのだろうか?
それにしてもオタクみたいで嫌なネーミングである。
見ず知らずの女の子に古傷をえぐられたうえ、泥まで塗られた気分だ。
アイタタタ……。
「そのあだ名はやめろ!? もうゆうちゃんでいいから!」
「あなたがどうしてもというなら仕方ないです。ゆうちゃんと呼んでやるのです!」
ドヤ顔で両手を腰について宣言する。
なんだかなぁ。本当になんだかなぁ。
コイツ殴っていいかな?
話せば話すほど、まるで別人だと分かる。
アリスの容姿(そういえば服装も白のワンピースだ)だが、中身は明らかに別人だ。
アリスから感じた雰囲気と全く違う。違いすぎる。まるで子供の相手をしているようだ。
ただ、まったくの別人格とはいいきれない。
「あだ名といえば、君にもあだ名つけてもいいかな?」
「何故です? 先程までと同じように親しみと羞恥の心でペニスちゃんと呼べいいと思うの」
「なんでだよ。もうぶっちゃけると恥ずかしいんだけど」
ペニスとか真顔で言わされる方の身にもなってほしい。
と言うか、あまり女の子がペニスペニスと言わないでほしい。
「てかさっき羞恥とかって言ったよね! 言わせる気まんまんだよね」
「そんなことは、どうでもいいのです」
しれっとした顔で、話を逸らした。
コイツ、自分の都合の悪い事は一蹴しやがった。
というより本名ですらないだろ絶対!!
一瞬の間。
「ゆうちゃんは《アリスゲーム》に参加するの?」
おちゃらけた空気が一変して、急に話の雰囲気が変わった。
いきなりなに言ってるんだよ。参加なんてしたいわけがない。俺はアレを見た。
そして、今もその光景が……。
心拍数が上がる。俺は怯えている。想像するだけで恐怖心を駆り立てられる。
アリスは、どういうつもりで俺を引き込みたいのかは知らないけど。
「……俺は、殺すのも殺されるのも嫌だ!」
強い拒絶の意思を示す。
そもそもあんなのに勝つ力が俺にはないじゃないか。
「ふぅーん。でもゆうちゃんはいいの? 本当に?」
何が言いたいんだよ、こいつは?
「だって……もらったの。あの手紙を」