とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
そしてとりあえずできました
今回はちょっとオリジナルな感じです
誤字脱字がありましたらご報告を
ではどうぞ
炎天下の中、三人は木山を待った
今頃はここの院長と専門家にしかわからない話をしてる頃だろう
L字型の椅子に腰掛けて待ってはいる結構時間がかかっている
美琴に至ってはぐっすりと眠ってしまっているくらいだ
普段見せない彼女の姿から繰り出される寝顔は破壊力がある
「…それにしても熱いなぁ」
「そうですわねぇ。…ふぃ~」
黒子はそう言いながら手をパタパタさせ、人口手団扇を展開する
黒子の言うとおりこの病院はなんでかエアコンを起動させていない
メンテナンスでもしているのだろうか
「…黒子、なんか飲み物奢ってやる。何がいい?」
「あら。ではお言葉に甘えて…ていうかお茶でいいですのー」
この際三人ともお茶でいいだろう
純粋に今は水分を身体が欲している
アラタは椅子から立ち上がってすぐ近くにある自販機に歩み寄ると小銭を投入し、何気なく右側の通路を見た
視線の先には話が終わったのかこちらに向かって手をポケットに突っこんで歩いてくる木山春生の姿が見えた
「黒子、木山さんが来た。美琴起こせ」
「了解ですの。お姉様、起きてください、お姉様」
そう言ってゆさゆさ、と出来るだけ優しく揺する
しかし意外に眠りは深いらしく軽く揺すった程度では起きそうにない
「お姉様、おねえ…さま」
唐突に黒子の口元がにへら、と歪んだ
その声色は明らかによからぬことを考えているときのもの
黒子の狙い、それは美琴の唇だ
未だ誰にも穢されていない、柔肌…
そうだ、普通に起こしても起きないお姉様が悪いのだ
黒子は自分にそう言い聞かせ目覚めのキスをするべく自分の唇を美琴の唇へと―――
「…にゃ」
と、間一髪で美琴が覚醒した
そして自分の身に何が起こるかを瞬時に先読みした彼女は勢いよく立ち上がると
ごちんっ! と黒子の頭にゲンコツをブチ当てる
殴った右手を握りしめながら美琴は言う
「普通に起こせないの!?」
「起きなかったではありませんのー…」
「…自業自得だよ。ほら、お茶」
先ほど購入した缶のお茶を二人に手渡しながらアラタは呟く
まぁ今回は普通に起こしても起きなかった美琴も多少は悪いかもだが
「君たち…まだ残っていたのか?」
「あ、いや…。ちょっとお聞きしたいことがありまして」
頭をさすりながらその場を代表して黒子が聞いた
◇
「…それにしても暑いな。ここは真夏日でも冷房を効かさないのか…」
「まぁ…確かに暑いですけど…別に耐えれないってわけじゃ」
その時この病院の看護婦さんがきゅらきゅらと何かを押しながらその疑問に応えるように
「現在、機械系統のメンテナンス途中でして、エアコン等の機材は使用できないんです。申し訳ありません」
そのままからからと通り過ぎていく看護婦さん
木山は「そうか」と呟きながらネクタイを緩め始めた
その行動の意味は分かりきっていた
唯一、そしてこれが初見な黒子は木山の取った行動の意味が分からず「ふぇ?」と素っ頓狂な声を上げる
「あ、あんたは見るな!」
「あだだ!?」
若干顔を赤くしながら美琴は両手を使ってアラタの両目を圧迫するように押し当てる
意外にも手の圧迫は眼球にダメージがあり、結構痛い
本気でやられたらしばらく目が見えなくなりそうだ
「ななな!!? 何をいきなりストリップ、もとい脱いでおられますの!!?」
一般人の正しいリアクション
しかし木山はさも当然、と言わんばかりに
「いや…だって暑いから」
やっぱり理由になってない
「殿方の眼がありますの!!」
「下着つけてても?」
「ダメです!!」
そう言われて少ししょんぼりーとする木山晴生
…この人には羞恥心という概念がどこかに抜け落ちているのではないだろうか
「…木山先生、専門家として、一つご意見を伺いたいんですが…」
そう言って美琴はアラタの両目から手を放す
ようやく目の圧迫から解放されたアラタは少し目をぱちぱちさせるアラタ
…うん、大丈夫
最悪見えずとも
うん、そう信じたい
「…それは構わないが…ここは暑すぎる…」
どこまでもマイペースなお人だ
◇◇◇
「遅いなぁ佐天さん」
そう言いながら初春は先ほどメールを貰った携帯を開いて時刻を確認する
そんな何気ない確認をした直後である
「今日は青のストライプかー!」
佐天の強襲である
全くためらいなくどうして彼女は友人のスカートをめくることができるのか
とりあえずせめてもの抵抗として初春はポカポカと佐天を叩くのだった
◇
一通り落ち着いて
初春はさっそく本題の事を聞き始めた
「見せたいものってなんですか? 佐天さん」
初春にそう聞かれた佐天はふっふっふ、と不敵な笑みと共に
「よくぞ聞いてくれました…。…括目しなさいっ!!」
「へ!?」
いきなり声を大きくした佐天に初春は軽く驚いた
佐天はそこでくるくると回りながら
「ついに見つけたの! あの噂のアイテム!」
次第に佐天はスケートリンクの選手のように初春の周りを移動しながらやがて初春の正面に移動し、そして
「じゃじゃーん!!」
と佐天は音楽プレーヤーを突き出した
そんなテンション高めな佐天に初春は見たままの感想をもらす
「…音楽プレーヤー、ですよね?」
見たまんまな感想である
いつも彼女が聞いている音楽プレーヤーそのままだ
しかし佐天はちっちっち、と舌を鳴らしながら
「中身が問題なのよね~」
やけに勿体ぶった様子で佐天は初春の前を歩く
そして振り返って
「あとで、教えてあげるっ」
そこにはいつもの佐天の笑顔があった
◇◇◇
ところ変わってファミレス〝Joseph's〟
ここは冷房完備なパーフェクトなお店である
そこにファミリー席に陣取り、木山は両手を組んで
「さて、話しの続きだが。なぜ同程度の露出でも下着は駄目で水着は問題ないのか…」
「それは俺もぜひ議論したはごラバっ!!」
思いっきり美琴にぶん殴られた
グーであるグー
いくらクウガと言えど生身にパンチは普通に痛いです
殴られた頬をさすりながら改めて本題へと戻す
…なんで水着はいいのだろうか
◇
改めて本題である
「
黒子からその話を聞いた木山はふむ、と小さく息を吐いた
眼の下に隈ははあれど考えるその姿はまさに研究者、と言ったところか
「それはどういったシステムなんだ? 形状は? どうやって使用する?」
「…まだ分かっていないんです。…こちらから聞いておきながらお恥ずかしい限りですが」
からん、と飲み物に入れたままのストローが揺れたのを聞きながらアラタはそれに返答する
正直に言って昏睡の原因は不明
今回の事だって半ば縋るような思いで木山博士に聞いたのだ
「とにかく君らはその
木山の問いに三人はうん、とそれにしっかりと頷いた
仮にそれが原因であるならそれを取り締まる事が出来れば被害を少なくすることができるかもしれない
「で、そんな話をなぜ私に」
「能力を成長させるということは、脳に干渉するシステムであることが高いと思われますの。ですから、もし
黒子はまっすぐ木山の眼を見ながらそう告げる
仮にこちらで
だからこういう場合は専門家の力を仰いだ方が効率がいいと判断したのだ
ちなみその時窓の方からなんかガラスになんか引っ付いた音が聞こえたような気がしたがあんまり気づきはしなかった
「…むしろこちらから協力をお願いしたいね。大脳生理学者として、興味がある。…ところで、さっきから気になっていたんだが」
そう言いながら木山は窓の方へ視線を動かす
「あの子たちは知り合いかね?」
釣られてアラタたちもその窓の方へと首を動かした
視線の先には手をべったりとガラスに引っ付けてこちらを笑顔で見ている佐天の姿が
その少し後ろには申し訳なそうに苦笑いしている初春もいた
店内へ彼女たちが移動中
そんなわけで初春佐天が合流
木山側に初春佐天、その対面にアラタ、黒子、美琴
席の順は初春が端(窓側)で佐天が中央、その右(通路側)に木山が座っている位置だ
その対面での席順は黒子(窓側)、美琴(中央)、アラタ(通路側)という位置である
「へぇ~…脳学者さんなんですか~…。…はっ!! 白井さんの脳に何か問題がっ!?」
どうでもいいが最近初春の黒子に対する言い分が少し過激になってきたなぁ。と思う
そんな初春に対し黒子は若干イラッとした様子で
「
「あ、それなら―――」
「アラタや黒子が言うには、
え、と佐天の手が止まる
そんな何気ない仕草に気づくものはおらず、純粋に疑問を抱いた初春が質問する
「まだ調査中ですので、はっきりとは言えませんが…使用者に副作用が出る可能性がありますの」
「おまけに
別に二人は佐天の事を言っているわけではないだろう
ただ、
それでも何故だか自分が言われているような錯覚に襲われる
「? 佐天さん、どうかしました?」
「あっ、い、いや、別に―――」
驚いた拍子に自分の近くに置いてあったコップに手が当たってしまいコップが倒れて中身を木山のストッキングにぶちまけてしまった
「あ」
「あぁ!? すいませんっ!!」
「あぁ、大丈夫だ―――」
しかし佐天は予期していなかった
その後に木山がとる行動を
それを予期していた美琴は再び両手をアラタの両目に押し当てる
だが問題ない、今度は受ける直前目を閉じたから軽傷だ
「―――濡れたのはストッキングだけだから…脱いでしまえば…」
いそいそとスカートを脱いだかと思うと今度はストッキングを脱ぎ始める木山
その艶めかしい素足はとれもきれいなものがある
そんな光景を見て初春は顔を真っ赤にし、美琴は目をつむって小さくため息を吐く
「
そんな中入る黒子の一喝
けれどやっぱり木山はポカンとしながら
「しかし…起伏に乏しい私の身体を見て劣情を催す男性なんて…」
「趣味嗜好は人それぞれですのっ!! それに殿方でなくとも、歪んだ情欲を抱く同性もいますのよ!! ねぇ!!」
何故だろうか
黒子が言うと無駄に説得力がある
◇
「忙しい中付き合って下って感謝しています」
そう言ってアラタが軽く一礼する
それに合わせて黒子と初春も腰を曲げる
「いや。私も教鞭を振るっていたころを思い出して楽しかったよ」
「木山さん、教師を?」
何気ない問いに頷くと
「あぁ。…むかぁし、ね」
そう言った時の表情はなんだか寂しいものがあった
軽く手を挙げて歩き去る木山を見送りながら黒子が呟く
「一度、支部に戻らなければなりませんわね」
「木山先生に渡すデータも揃えないといけませんしね」
「あぁ、そうだな。…それじゃ俺たちはいったん戻る。美琴は…」
振り返ったとき、なぜか美琴はいなかった
いや、なんとなく行き先はわかってた
同様にいなくなったもう一人を追っかけていったんだろう
不思議に思う黒子と初春を連れながら情報を整理すべく、アラタは一七七支部へと歩を進めた
◇◇◇
手放したくない
それが佐天涙子が思った率直な思いだった
ようやく手に入れた
まだ使用したわけではないし、黙っていれば問題ないはずだ
大きな橋を支える柱に背中を預けながら佐天は音楽プレーヤーを握りしめた
「やっと見つけたんだもん…」
ようやく見つけた一縷な望み
ズルはいけない、わかっているけど、それでも縋るしかなかった
「こんなとこで女性一人は危険だぞ」
だから不意に聞こえたその声にビクリ、とした
聞いたことない声色にビクビクしながら佐天は声の方へと視線をやる
そこにはコンビニ袋を携えた青年が立っていた
年齢はアラタと同じくらいか
「あ、貴方は…?」
「ああ。いきなりで申し訳なかったな、俺は天道総司。鏡祢の友人だ」
言いながら天道と名乗った男は右手で天を指差すような仕草をした後こちらに向かって歩いてくる
腕章がないのを見る限り彼は風紀委員ではなさそうだ
「アラタさんの…?」
「あぁ。同じ高校なんだ」
そう言って天道はニヒルな笑みを浮かべる
「あの…天道さんは、どうしてこちらに…?」
「ん? あぁ、ここは夜間よく不良共が
どうやら善意で彼はここに来てくれたようだ
きっとこの人は何気ない相談事でも全力で向き合ってくれるような人なのだろう
「佐天さーん」
もう一つ聞こえたその声色は美琴のものだった
佐天は振り返ってその声に応える
「御坂さん…どうして…」
「だって急にいなくなるんだもん…。あれ、この人は…」
「あ、その、この人は―――」
「天道総司。鏡祢の知り合いだ、会うのは初めてだな、御坂美琴」
「アラタの…? 私の事知ってるの?」
「あぁ。よくアイツが言っている、お転婆だがカッコいい女だってな」
「…あいつ…」
プルプルと拳が震えている
この場にいないときでも話題に上がるんだな、と心の中で佐天は呟く
「…まぁアイツじゃこの際置いておくとして。…心配してのよ? 佐天さん」
不意にこちらに振ってきたものだから佐天は驚きながら
「な、何でもないですよ!!」
「でも―――」
「ほ、ほら! あたしだけ、事件とか関係ないじゃないですかっ!」
佐天は無理に笑顔を作り、ポケットにその音楽プレーヤーをしまいながらその手を出し
「風紀委員じゃないし!」
その拍子にポケットから何かがポロリと落ちた
それは赤をベースに桜の花びらのような模様が刺繍されたお守りだ
「何か落ちたぞ」
天道がお守りを拾い上げ、佐天に手渡す
佐天はそれを受け取りながら「ありがとうございます」と礼を言う
「それ、いつもカバンに下げてるやつでしょ?」
「はは…えぇ、そうなんです」
人差し指に紐を通しぷらん、と掲げ苦笑いを浮かべる
「母に、貰ったんです」
ぷらん、と掲げたそのお守りを見ながら佐天は言葉を続ける
家族の事を馳せながら
「お守りなんて。科学的根拠、何にもないのに…」
佐天は思い出す
自分が学園都市に行くといった時の事
弟はそんな自分をカッコいいと言ってくれたし、母は最後まで心配してくれていたこと、そんな母を笑って励ます父
表面上は笑ってごまかしていたが本当は怖かった
超能力開発
すなわちそれは自分の頭の中をいじられるというものだ
超能力に期待すると同時に、能力開発に対する恐怖も当然あった
そんな事を言い出せず、佐天は一人公園のブランコで黄昏ていたそんな時
―――はい、お守り―――
母がお守りをくれたのだ
ヒカガクテキ、と言葉を口にしながらも心の中は嬉しさで一杯だった
―――何かあったらすぐ戻ってきていいんだからね? 私は、涙子が一番大事なんだから―――
「…こんなもので、身を守れるわけないですよね?」
お守りを両手で握りしめながらまた苦笑いを浮かべる
本当に、迷信深い人なのだから
「…いいお母さんじゃない」
「ああ。尊敬に値する」
美琴と天道、それぞれが口にする言葉
もちろん、それはわかっている
このお守りをくれた事が、自分を気遣ってくれたということを
「…けど、そんな期待が、重い時もあるんですよ。…いつまで経っても、
自分はそんな母の期待を裏切ってしまった
心配してまでお守りを渡してくれたのに、結果は、貴方は
「―――おばあちゃんが言っていた」
そんな中一人、言葉を挟んだ
それは天道総司だった
彼は右手の人差し指をまた天に指す動作の後、言葉を続ける
「大切な人に思われていると気づいたとき、また人は強くなれる。…お前の母は優しい人だ。胸を張っていい」
「そうよ。それにレベルなんて、どうでもいいことじゃない」
そう二人に言われて、苦い顔をする
その言葉の意味を、佐天はまだ分からないでいた
◇◇◇
翌日の事である
パソコンの前でにらめっこする初春に足してアラタが「どうだ?」と聞いた
聞かれた初春は「うーん」と首をかしげながら
「暗号や仲間の中でしか使われない言葉ばっかりで、正直何とも言えないですけど、
「さっすが初春ですの!」
初春はカタカタとパソコンを操作し取引場所をリストに纏め、プリントアウトしたものをそれぞれ黒子とアラタに手渡した
それを受け取った二人はその瞬間顔を歪ませる
「…多すぎね?」「全くですわ…」
言葉にするのも億劫な場所の量である
しかしそれでも動かなければ始まらない
黒子とアラタは頷いて支部の出口へと歩き出す
「白井さん、アラタさん―――」
何も言わずに出口に向かう二人を呼び止める
二人は振り向いて
「この中に必ずあるんでしょう?」
「なら
そう言って二人は笑む
その笑みに初春も笑みで返した
これならきっと、問題ない
そう信じて
◇
「ではお兄様、後程」
「おお。お前も無理すんなよ」
言葉を交わして黒子は
先ほど黒子がいた空間を見ながらアラタは手元にあるリストを見た
「んー…やっぱ多いな」
しかし初春にああいった手前退けない
というか退く気もない
とはいえ流石に徒歩で行くとなると疲れる
ここは自分の移動の為の足が必要だ
「…とりあえず、燈子んとこの近くの取引場所を潰しながらバイク取りに行くか」
リストを折りたたんでポケットに突っ込んで歩き出したその瞬間、視界に入ってきた人がいた
腰まで伸びた長い髪の持ち主をアラタは知っている
「…神那賀」
「やっほー、アラタさん」
ひらひらと手を振りながら彼女はこちらに向かって歩いてくる
やがて自分の前に来た彼女は
「これから仕事?」
「まぁそんなとこ。お前はなんだ」
「私はただ歩いてただけ、やる事もないしね。…ねぇ」
少しだけ声を低くして神那賀はこちらを伺うかのような声色になった
「? なんだ?」
「その、私も手伝っちゃダメかな?
◇◇◇
「
最初聞いたとき流石にそれは噂だろう、と心の中で何度思ったことか
無論仮面ライダーの噂も最初は疑ったが、のちにネットにアップされた動画でその存在を信じることが出来た
しかし
証拠がある仮面ライダーとは違い、証拠があるわけでもない
「…
だから見つけた時は本当に好奇心だった
これを使えばこんな自分でも無能力者じゃなくなる
母からの期待に応えることができる
そう簡単に考えていた自分の幻想は昨日、いとも簡単に砕かれた
「…得体のしれないものは怖いし、よくないよね…」
そう自分に言い聞かせながら形態のディスプレイに表示された〝消去しますか?〟の文字に指を這わそうと
―――
そんな時耳に入ってきた別の声
驚きのあまりその動作をやめ、「え…?」と短く声を漏らした
◇
声の聞こえた方に佐天は足を運んだ
そこには一方的に一人の男を殴っている数人の男
取引現場―――!?
佐天は本能で察し、急いで物陰に隠れる
少し音が聞こえてしまった気がするが、それより先に身体を隠すことができたからきっと問題ないはずだ
(とりあえず、警備員か、風紀委員か…)
内心で呟きながら佐天は急いで携帯に視線を移す
しかしそこには充電してください、と無情にも表示されたディスプレイ
(やば、充電切れ!?)
万策尽きた
どうしようか、と考える
しかし正直言ってもう自分にできることは何もないのだ
連中はいかにもな男たちが三人
こちらに至っては最近まで小学生をしていたのだ
適う訳ない
適う訳ない、が―――
◇
「やめなさいよ!」
逃亡か、挑むか
佐天涙子は後者を選んだ
なし崩しの勇気を振り絞り、佐天は言葉を振り上げる
「その、人、怪我、してるみたいだし、すぐに警備員が―――」
その言葉が最後まで紡がれることはなかった
リーダー格と思われる男が佐天のすぐ後ろの壁を蹴りを打ち込んだからだ
バガン!! と音が鳴り響き、佐天は思わず頭を押さえる
「今、なんつった?」
歯並びが悪いその男が佐天に向かってそういった
「…え?―――きゃあ!?」
男は佐天のむんずと掴みあげ、
「ガキのくせに生意気いってくれるじゃねえか。あ?」
男は続ける
「なんも力もない奴が、グダグダ指図する権利はねぇんだよ」
「―――!!!」
…あぁ、やっぱりそうなんだ…
力もない自分が、出しゃばる事なんか―――
「おばあちゃんが言っていた―――」
そんな絶望も切り裂くように一人の男の声が耳に響いてきた
「―――まずい飯屋と、悪の栄えたためしはない、ってな」
佐天は声色で判断する
(天道、さん…?)
「何やら騒ぎがするかと来てみれば。…どんな場所にも外道はいるんだな」
状況は三対一
数で言えば圧倒的に天道が不利だ
しかし、あのような自信は一体どこから来るのだろう
「けっ!! 何かと思えばよぉ…」
男の一人がにやにやと笑いながら天道に近づく
「優男が一匹増えただけじゃねぇか」
そう言って男は天道の胸ぐらをつかみあげる
「―――威勢がいいな」
「はぁ!? 何言ってんだこの野―――」
ぷぎゃる!!? と男の声が響いた
情けない声を上げながら仰向けにぶっ倒れた男の口元からは若干の血が流れている
言葉の途中で天道が本気のアッパーカットを叩き込んだために恐らく唇を切ったのだろう
「だがお前らと話すことなどない。
言葉が終わると同時、また別の男が天道に向かって走ってくる
走りながら男は天道から見て右側に避けた
その直後後ろから鉄パイプやら何やらがこちらに向かって飛んできていた
「ほお。念動能力か」
しかし天道は物怖じする様子など微塵も見せず器用に一番最初に飛んできた鉄パイプを回転しながらキャッチし後から飛んできた諸々をはじき落とす
「すまないな。わざわざ武器を提供してくれるとは」
どうでもいい謝辞を口にしながら男の脇腹に鉄パイプの一撃を叩き込む
がっふ!!? とまた声を漏らしながらその場に崩れ落ちる男
天道は鉄パイプをその辺に放り投げると先ほどまで佐天を掴んでいた男を見据えた
「なんだ、能力なしかお前」
「少なくとも偽善な力で手に入れているお前らなんかよりはずっといいさ。むしろ誇りに思えるね」
くっくっく、とリーダー格は笑い
「あっそ」
<DRACULA>
おもむろに取り出したメモリを起動させる
その行動に天道は目を見開いた
「お前、
「力がすべてなんだよこの世はよぉ…」
汚い歯並びから繰り出される言葉の後、露出した二の腕にガイアメモリを差し込んだ
差し込んだところを起点にし、リーダー格の男が変わっていく
その姿はまるで西洋の吸血鬼みたいな風貌だ
「…そうか。お前もそんな力で来るなら―――」
バッと天道は大空に向かって手を伸ばした
ドラキュラドーパントが目を細める中、天道の手に何かカブト虫のような赤い機械が捕まっていた
「…変身」
そう呟いた後、天道はベルトにそのカブトの機械をセットする
<HENNSINN>
そう電子音声が聞こえ、天道の身体を何かがつつんでいく
ヒヒイロカネと呼ばれる呼ばれるマスクドアーマーに包まれたその姿
「…仮面、ライダー?」
譫言のように呟く
まさか昨日知り合ったばかりの人が都市伝説の人だったとは誰が思っただろうか
「へぇ…噂の仮面ライダーをぶっ潰せるとは…今日はラッキーだなぁ!」
ドラキュラドーパントがカブトマスクドに向かって走ってくる
しかしどういう訳かその姿は一回り大きく見えた
しかし些細な事と切り捨てたカブトMFは大振りに放たれたその拳はいなし、ドラキュラドーパントの背後に回って反撃を繰り出そうと―――
「何?」
振り返ってみるとそこには何もなかった
ただあるのは先ほど自分がノックアウトした野郎二人だけだ
どういう事だ、自問自答する中、背後からの足音
「っ!?」
瞬時に判断し大きく放たれた蹴りを振り向きざま両手で防ぐ
幸いにもマスクドフォームゆえかあまりダメージは通らなかった
それでも天道の思考はまだ追いついていなかった
(俺の方が回り込んだはずだ…しかし奴は…)
そんな思考の中、カブトMFはクナイガンを取り出してドラキュラドーパントの脳天に向かって引き金を引く
このまま行けば弾丸はドーパントの頭に直撃し、動きを一時的に止めることができるはずだ―――
そう考えていたカブトMFの予想とは斜め上の結果がでる
どういう訳か弾丸は当たることなくそのまま顔の横を通り抜けたのだ
(外した…?)
ドラキュラドーパントはそのままカブトMFに向かって直進し両手にあるその鋭利な爪をカブトMFに向ける
別段マスクドフォームとなっているこの状態なら当たっても問題はないが本能からその一撃を避け、大きく後ろに飛び退いた
「…見極めるか」
そう呟いて、カブトMFは一度身構える
ドラキュラドーパントが一直線に突っ込んでくる
そしてそのままの勢いで大きく蹴りを放つ
予想ルートは上段
だからカブトMFは左手でそれを受け止めようとした
しかしその蹴りはがら空きの腰にぶち当たった
「うぐっ!?」
威力を軽減するべく自分も横に飛び退いたことが幸運だったか
そしてマスクドフォームだったことも自分を助けてくれた
そうじゃなかったらあばらの数本は持っていかれただろう
「ちっ、邪魔くせぇなその装甲。おかげで足痛めちまったぜ」
「…要望なら脱いでやろうか」
「あ?」
カブトMFは立ち上がるとカブトゼクターのホーンを軽く起こす
すると妙な機械音と共にマスクドアーマーが浮かび上がり、
「キャストオフ」
起こしたゼクターのホーンを右側に展開させる
直後
<Cast Off>
そう電子音声が鳴り響いた瞬間装着されていたマスクドアーマーが吹っ飛んだ
あまりの勢いにドラキュラドーパントは両手を顔の前に持っていき、風圧等から身を守る
<Change Beetle>
顎のローテートを基点に顔面の定位置に収まったその姿は赤く、水色の複眼が一時的に発行する
「…そら、脱いでやったぞ」
「へ、へへ…ご丁寧にどうも―――」
そんな言葉と共にドラキュラドーパントはカブトに拳を叩き込んだ、はずだった
だがするり、とその拳は避けられ逆に自分が投げ飛ばされたということを自覚するのに多少時間がかかった
「お前の能力。それはただの目くらまし」
立ち上がり態勢を整えるドラキュラドーパントに対してカブトが言い放った
「周囲の光を歪ませて、相手の視覚情報を誤らせる。…姑息なお前にぴったりだ」
「っへ…
「頼るものならあるさ。…それはお前の気配だ」
両手をだらんとさせた状態でカブトはゆっくりとドラキュラドーパントを目掛け歩き出した
たったそれだけの動作なのに、なぜかゾクリとした
(…こけおどしだ。あんなもん!!)
自分に言い聞かせ、ドラキュラドーパントは再びカブトの方へ走る
そしてそのまま拳を顔面に叩きこもうと―――したのだが
どういう訳か当たる寸前にすっと首を右に動かされ容易く躱された
そしてカブトはその手を掴み
「…捉えたぞ」
短く呟いたその後にカブトはドラキュラドーパントの腹部に向かって膝蹴りを叩きこむ
数発打ち込み、その後はがら空きの顔に向かってカブトはパンチを叩きつけた
「あがっ!!?」
みっともなく地面を転がりドラキュラドーパントは軽くせき込んだ
「どういう事だぁ!」
そして叫ぶ
訳が分からないと駄々をこねるように
「俺の能力は完璧に作用しているハズだ…!! なのになんで攻撃が当たりやがるッ…!?」
「言っただろう。俺はお前の気配を呼んでいる、と」
先ほどと変わらない口調でカブトは答えた
「相手の眼に効果を及ぼすなら、いっそ眼なんて使わなければいい。…お前のむき出しの殺気を捉える事くらい、眼を瞑ってでもできるからな」
眼を、瞑っても…?
訳が分からずドラキュラドーパントは呟く
ゆっくりと歩いてくる仮面ライダーに恐怖を覚える
アイツは一体なんなんだ
恐怖が極限に達したドラキュラドーパントは付近に佇んでその戦いを見守っていた佐天に近寄ってその頭を掴みあげた
「きゃっ…!!」
「近寄んなよぉ…!! 近寄ったらこのガキがどうなるか―――」
「…クロックアップ」
小さく呟いてカブトは腰右側のスイッチを軽く叩いた
瞬間、カブトが消える
「…え?」
佐天が呟いたその時にはどういう訳かドラキュラドーパントが宙に浮いていた
かすかに聞こえる打撃音
それが意味しているものは―――
◇
クロックアップ
それは分かり易く言うなれば超高速移動である
ライダーフォームに駆け巡るタキオン粒子と呼ばれるものを操作し、時間流を自在に行動可能になる事である
他者から見ればそれは消えたと同じ、そしてカブトから見れば他者はすべて止まって見えるのだ
正直に言ってこれはワンサイドゲームになってしまうため、極力使用を避けていたのだが、人質を取られてしまったなら話は別である
クロックアップを発動したカブトはドラキュラドーパントの顔面を殴り付け一度佐天から引き離した後、そのまま連打を叩きこみつつ、ゼクター上部のスイッチスロットルを押す
<one>
そしてそのままアッパーを繰り出し、ドラキュラドーパントを上空に追いやった後、残りのスイッチを押していく
<two three>
カブトはその後、ゼクターホーンを一度戻し
「ライダーキック」
そしてまたゼクターホーンを倒すと
<Rider kick>
という電子音声が鳴り響き、タキオン粒子が右足へとチャージされていく
カブトはふと上を見た
そこにはゆっくりとした調子で落ちてくるドラキュラドーパントの姿があった
そして自分の攻撃範囲に落ちてきたその瞬間
「はぁっ!!」
掛け声と共にドラキュラドーパントに向かって回し蹴りを叩きこんだ
「ぎゃあぁぁぁぁっ!!」
断末魔と共に爆散するドラキュラドーパント
その爆発を背に、一人カブトは天を指差す
「…天の道を往き、総てを司る」
最後にそう呟いた
◇
「見事だったぞ。佐天」
駆け付けた警備員にすべてを任せた後、天道は佐天に向かってそう言った
どこが見事なのかわけがわからず、佐天は頭に疑問符を浮かべた
「…お前は、自分と関係ない人の為にその勇気を振り絞った。それだけでも十分お前はすごい。そう行動できるかで、お前はただの無能力者とは違うんだ」
「天道、さん…」
「もし
天道に指摘され、ようやく佐天はハッとした
そして昨日言われた言葉の意味
―――大切な人に思われてると気づいた時、また人は強くなれる―――
わたし、思われてるんだ
脳裏に浮かぶ、家族の事、初春の事、黒子の事、美琴の事…そしてアラタの事
今、この瞬間だけは、レベルゼロであること誇れるような気がした
「…ありがとうございます。天道さん…」
「ん?」
「私、もう少しで大切なものを自分から壊しちゃうところでした」
そう言って大きく佐天はお辞儀する
顔を上げた佐天の
「そうか。…それはよかった」
そんな笑顔に天道も同じように笑顔で返した
◇
さしあたっては自分の持つ
何らかの副作用があるならやっぱりこれは危険なものだ
しかし今携帯の充電は切れているのでここは公衆電話を使わなければいけなさそうだ
よし、と一人決意した佐天は走り出した
もう自分は無能力者であることを悲観しない
力がないからなんだというのだ
そう思える佐天の足取りはいつも以上に軽かった
軽快に走る佐天の背中を天道は一人見送って
「…いい友人を手に入れたな。佐天」
そう言葉を送りながら天道も歩き出す
これ以上、