とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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お待たせしました

相も変わらないクオリティではありますがよろしくお願いします

誤字脱字等ありましたら是非是非

幻想御手編も終盤

どうかお付き合いくださいませ
ではどうぞ


#10 木山せんせい 前編

木山の操る車が道路を駆け抜ける

 

疾走感漂うその車内で佐天は初春と木山の会話に耳に澄ませていた

 

「演算、装置?」

「AIM拡散力場を媒介にしたネットワークを構築して、複数の脳に処理を割り振ることによってより高度な演算をすることを可能とする。…それが幻想御手(レベルアッパー)の正体だよ」

 

口調は淡々としたものだったがそれは冷静に考えて恐ろしい事ではないか?

もしかしたら自分も一歩間違えばそう言った道具になっていたのでは、と考えると背筋が凍る

 

「…どうして…!」

 

ぎゅ、と悔しさを現すかのように初春がスカートの裾を握りしめる

木山は変わらぬ表情でまた淡々と言葉を続けていく

 

「ある目的のために樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)の使用許可をしたのだが、どういう訳か断られてね。代わりになる演算装置が必要だった…」

 

「…代わり、になるって…!?」

 

呟くように佐天が会話に割って入った

木山はちらり、と佐天に視線を向けたあとまた前を見る

 

「一万人ほど集まった。…十分代用してくれるさ」

 

代用、という言葉に反応したのは初春である

まるで人を道具としか見ていないその発言に怒りを抱いたのは佐天だって同じだ

 

「…ふふ。そう怖い顔しないでくれ。もうすぐ全部終わる、そうすれば皆解放するさ」

 

そう言いながら徐に木山は白衣のポケットに手を突っ込んだ

数秒ほど探すようなしぐさの後に取り出したのは一つの音楽プレーヤーと一枚のメモリースティックである

す、とそれを初春に渡しながら

 

幻想御手(レベルアッパー)をアンインストールするプログラムだ。…君に預ける」

 

「えっ…!?」

 

耳を疑った

行動の意味を理解するのに少々時間がかかる

…彼女が言うすべてが終わったらこれを使えとでもいうのだろうか

 

「後遺症などはない。すべて元通り…ハッピーエンドと言う奴だ」

 

「騙されないで初春っ! …嘘かもしれない」

 

一瞬心が動きかけるが、佐天の言葉で持ち直す

そうだ、この人は幻想御手(レベルアッパー)を開発しそれをばらまいた張本人だ

もしかしたらこれもなんかの罠かもしれない、という一抹の不安はどうしても拭いきれるものではない

 

「信用できません! いきなりこんなもの渡されて信じろと言われても、気休めにもなりませんよっ!」」

 

「…ふふ。手厳しいな…、む?」

 

ふと単調な電子音が耳に聞こえてきた

木山がそこに顔を向ける

向けた先はカーナビのようなものでその画面には赤い文字が表示されている

 

「もう踏み込まれたのか。…君たちとの連絡が途絶えてからにしては、早すぎるな。別ルートでたどり着いたのかな」

 

「…どういうことですか」

 

初春の問いに木山は「うん?」と短く呟いた後

 

「一定の手順を踏まずに起動させると、セキュリティが動くようプログラムしておいたんだ。…これで幻想御手(レベルアッパー)に関するデータはすべて消えた。使用者を起こせるのは、君の持つそのアンインストールプログラムだけだ」

 

「えっ!?」

 

思わず手元にあるプログラムに視線をやり、そのあとで思わず佐天と顔を見合わせる

もしそれが真実なら無下にはできない、いや、本人が言うのだ

恐らくそれが事実だろう

 

「大切にしたまえ」

 

最後にそう呟いたのち、車の中での会話は途切れた

何とも言えぬ空気を醸し出しながら木山の車はその走りを加速させていく

 

 

しばらく走っていたら急に木山が急ブレーキをかけた

割と速度も出ていたので一瞬ガクンッ! となったがシートベルトをしていたおかげかそれでのダメージは少なかった

何事か、と思いフロントガラスの先を見てみるとそこにはアサルトライフルを構えた大勢の警備員(アンチスキル)姿があった

 

それを掻き分けるかのように一人のスーツ姿の男性が前に歩きながら拡声器で

 

「木山晴生、だな」

 

落ち着いたような声色で男は聞いてきた

その男の視線は車の中にいる木山に向けられている

 

「…警備員(アンチスキル)、か。上層部(うえ)から連絡が入ったときだけは、動きが早いものだ」

 

幻想御手(レベルアッパー)頒布の被疑者として拘束する。速やかに車から降りてもらおう」

 

そんな木山の呟きをかき消すかのようにそう男が拡声器でそうしゃべりかけた

 

「…どうするんです? 年貢の納め時ですよ?」

 

「降参した方がいんじゃないですか?」

 

そう二人に言われるものの木山の表情は変わらない

むしろうっすらと笑みさえ浮かべて

 

「…幻想御手(レベルアッパー)は、人の脳を使用した演算機器を作るためのプログラムだ」

 

そう呟くように口にした

その言葉が何を意味するか分からず初春は佐天と顔を見合わせてまた木山へと視線を戻す

 

「しかしそれと同時に、使用者にある副産物をもたらしてくれるのさ」

 

「?」

 

「…面白いものを見せてあげよう」

 

 

ほどなくして木山は車から降りてきた

見たところ何か武器を隠しているわけでもなさそうだがそれでも油断することは出来ない

矢車は再び拡声器を用いて

 

「そのまま両手を頭につけて、地面に伏せろ。…、人質の安否は」

 

そう言って矢車は自分の隣にいる部下、影山シュンへと首を向ける

視線を投げられた影山は双眼鏡で車の中を確認している鉄装へと視線を向け、同時に鉄装は頷いた

 

「人質の女の子たちは無事です。どこにも異常は見られません」

 

「…よし、確保だ」

 

矢車の一声で警備員(アンチスキル)の部隊がじりじり、と距離を詰め寄る

ゆっくりとではあるが着実に詰める

このまま何もなければ―――そう思っていたその時だった

 

 

 

ダァン! と一発の銃声があたりに響き渡った

 

 

 

「貴様っ!?」

「何を!?」

 

それは警備員(アンチスキル)のうちの一人が仲間に向けて発砲したものによるものだと理解するのに時間がかかった

 

「違う!! 俺の意思じゃないっ! 信じてくれ!」

 

たった一発の銃声が引き金となり、部隊は混乱の坩堝へと突入していく

そんな混乱を狙ってか、ふと木山はこちらに向かって手を突き出した

そしてゆっくりと何かを潰すように少し掌を動かすと

 

 

ヒュオォッ! と風をその場に巻き起こし始めた

 

 

「何!?」

「能力者だと!?」

 

黄泉川と矢車が叫んだその時には木山は風の中で不敵な笑みを浮かべていた

 

巻き起こる烈風

吹き荒れる砂嵐

 

「黄泉川! 鉄装を一緒に残っている部隊を率いて一度身を隠せ! このままでは分が悪すぎる!」

「了解! 隊長はどうするじゃん!?」

「時間を稼ぐ! それと余裕があったら立花にも連絡を入れておけ!」

 

そう黄泉川に言い放ち、矢車は彼目掛けて飛んできたバッタのような機械を掴む

 

「行くぞ影山」

「はい、矢車さん」

 

応える影山の手には同じようなバッタの機械が握られており、二人はそれぞれ腰に巻きつけてあるバックルを展開させ、

 

「変身!」「変身っ!」

 

そう叫んでバックル部に乗せるようにバッタの機械、〝ホッパーゼクター〟をセットした

直後二つのそれぞれのゼクターから<HENNSIINN>と電子音声が発せられ、矢車と影山の身体に纏われていく

 

矢車は緑色の生える姿に、影山は矢車と姿は似ているが色は茶色だ

 

<Change Kick Hopper>

<Change Punch Hopper>

 

仮面ライダーキックホッパー、そしてパンチホッパー

それが今の二人の姿の名である

 

「…へぇ。まだ仮面ライダーがいたとはね。これは少し、リサーチ不足かな?」

 

「本来生身相手に使うのは不本意だが、能力者、しかも複数の能力を使うとならば話は別だ」

「木山晴生。…大人しく投稿しろ」

 

「ふふふ。そう言われて、大人しく抵抗する輩がいると思うかな?」

 

説得は失敗に終わった

ならば話は早い

 

「…続け、影山!」

「はいっ!」

 

お互いに頷きあってホッパーライダーは木山に向かって駆け出した

 

 

橋の方で大きな爆発が聞こえた

その爆発から察するに交戦でもしているのだろうか、とも思ったが考察は後だ

アラタはビートチェイサーをどこか適当な場所に停め、エンジンを切る

 

後ろでは美琴が黒子と電話でやり取りをしている

今の自分に出来るのは美琴の道を作る事だ

彼は先導し立ち入り禁止と看板が張られた金網の扉を思い切り蹴破ってぶっ壊す

状況が状況だ、大人も許してくれるだろう

 

「彼女、能力者だったの!?」

 

そんな美琴の驚きの声が聞こえてくる

となると橋の上で戦っているのは間違いなく木山晴生だ

相手は警備員か、左翔太郎か

どちらにせよ危険なのは確かである

しかし一体どういう事だろうか、木山晴生が能力者などという情報はなく、書庫(バンク)のデータにも載っていなかったハズだ

 

「そんな! 能力者に一能力者に一つだけ! それに例外はないはずじゃ…!」

 

一つだけ?

それはつまり木山はいくつかの能力を使用しているという事なのだろうか

もしそうだとするならば木山は実現不可能と言われた多重能力者…

 

考察しながらカンカンと鉄でできた階段を走って上がっていく

やがて美琴も電話を終え、アラタの後ろへと追いついた

階段を登り終えた二人の視界に最初に入ってきたのは―――

 

 

「…む」

 

悠々とホッパーライダーの攻撃を捌く木山は誰かの存在を感じとる

それは自分もよく知る人だと気づくのに時間はかからなかった

蹴りかかってきたキックホッパーを吹き飛ばし、接近してくるパンチホッパーを水の激流で拘束する

 

「すまない。君たちの相手をする暇がなくなった」

 

「なん、だと…!?」

 

水の中で拘束されているパンチホッパーがそう呟く

木山は身を翻し、パチン、と指を鳴らす

 

「後の相手はこの子たちに任せておくとしよう」

 

突如として拘束を解除されたパンチホッパーは地面にドサリ、と叩きつけられた

 

「影山、無事か!」

 

そんなパンチホッパーを気遣ってかキックホッパーが駆け寄ってくる

 

「はい、何とか…けど」

 

立ち上がりながらパンチホッパーは辺りを見回す

周囲にはいつの間にやら気配があった

普段クウガが倒している怪人たちだ

中にはクウガがかつて倒している怪人の姿もある

木山が呼び寄せたのか、それともあるいはクローン体なのか

どちらにせよやるべきことは変わらない

 

「結構な数だな。…やれるか影山」

「もちろんです。さっさと倒して木山をひっ捕らえましょう」

「ふっ…! 頼もしいなっ!」

 

そう言いながらホッパーライダー二人は背中合わせに駆け出した

 

 

視界に広がってきたのはまさしく地獄絵図

幸いにも死人などが出ていなかっただけでも十分奇跡だろう

 

警備員(アンチスキル)が、全滅…!?」

 

倒れた車両、ボロボロの道路に立ちこむ煙

それだけで何がこの場所で起こったのか容易に想像できた

 

「アラタ!」

 

不意に横合いから声が聞こえた

声の方向に視線を向けるとこちらに向かって走ってくる帽子を被った一人の青年

左翔太郎だ

 

「悪ぃ! 遅れちまった…!!」

 

「いいや、大丈夫ですぜ。俺たちも今来たところです…。! おい美琴!」

 

周囲を見渡している内に何かに気づいたアラタは指をさして叫んだ

美琴もそれに釣られて指をさした方向を見やるとそこには一台の車があった

そしてその車内の中には二人がよく知る人物の姿があったのだ

 

「初春さん! 佐天さん!」

 

思わず駆け寄って中の二人を確かめる

 

「安心しろ、気を失ってるだけだ」

 

翔太郎の言葉で二人は一瞬安堵する

しかし同時に気持ちを切り替える

そうだ、すぐそばにはこの状況を作った張本人、木山晴生がいるのだ

 

「来たようだね。…御坂美琴に鏡祢アラタ。それに風都の探偵、左翔太郎。まさか貴方みたいな名探偵まで出てくるとはね」

 

不意に背後の方で声がした

三人が振り向くと煙の中から一人の人影が現れる

ポケットに手を入れたその姿からは正直気迫にかけるが、身に纏う気配は研究所出会った時とは全然違った

外見にも多少ではあるが変化しており、よく見ると左目が充血しているように真っ赤だった

 

「そっちこそ俺を知ってくれてるとはね。…俺も売れてきたかな?」

「アホな事言ってないでください。美琴が若干ポカンとしてます」

 

アラタに言われて翔太郎はこほん、と息を整える

そして木山を見据えながら徐にダブルドライバーを取り出し、腰に巻きつけた

同様に美琴も身構え、いつでも雷撃を繰り出す準備をする

そしてアラタもいつでも駆けるように身構えようと―――

 

「―――む? 君はベルトを出さないのか?」

 

まるで生徒の間違いを指摘するかのように木山はアラタに向かってそう呟いた

一瞬アラタは何を言われたのか分からなかった

同じように翔太郎もただただ顔を曇らせるしかできなかった

当然だ

アラタは木山に変身を見せたことはないし、怪人を退治するときだって監視カメラには細心の注意を払っていたはずなのに―――!?

 

「何を言っているのよ! アラタは無能力者(レベル0)よ!? 能力なんか何にも…!」

「…あぁそうか、彼女には黙っているのか。…となると、あの風紀委員(ジャッジメント)の同僚にもいっていないんだね。…まぁ、当然か」

 

アラタの戸惑いを知ってか知らずか木山はぐんぐんと話を進める

いや、それ以前にどうして彼女には自分の正体が割れているのだろうか

そしてこの状況で一番戸惑っているのは隣にいる美琴自身のはずだ

 

(…いや、考えるのは後だ)

 

いずれにせよ正体がバレたのは自分の責任だ

それに、いずれバレるとは思っていた

ただそれが、早まっただけの事

今更後には退けない

 

「…美琴」

「な…何?」

「文句は、後で聞く」

 

彼の表情から何かが伝わったのか美琴は戸惑いを隠せないままそう聞き返した

アラタは翔太郎とアイコンタクトを交わし意を決したように腰に手を翳す

直後内側から浮き出るように彼の腰に〝アークル〟と呼ばれるベルトが顕現する

そのベルトを見て思わず美琴は息を呑んだ

そんな美琴を一度視界に入れたのち、再び木山に向き直り、右手を自身の左上に突き出し、左手はアークルの右上に軽く添える

 

<JOKER>

 

アラタに合わせ隣の翔太郎も自身のガイアメモリを起動させる

軽く帽子を整えて翔太郎は自身の左側へとメモリを握る手を左側へ動かし、アラタも同様に両手を反対方向にスライドさせる

そして各々に叫んだ

 

『変身っ!』

 

<CYCLONE JOKER>

 

翔太郎のベルトからそんな電子音声が鳴り響き、辺りには風が吹き荒れる

その風の中、アラタもその姿を変えていく

 

風の強さに思わず美琴は両手で顔を庇い、木山はただ眼を細くして見つめていた

数秒の後、風は止み、一瞬の静寂が訪れる

手をのけて美琴はアラタたちがいた場所を見た

そこにはいつぞや初春たちが見せてくれた映像に映っていた都市伝説の姿があった

確か、名前は仮面ライダー

 

「アラタ、準備はいいか? そこな嬢ちゃんも」

 

緑と黒、それぞれが半分なカラーリングは目立つライダーがそう聞いてきた

そう言われ美琴は頷く

驚くには驚いたがそのことを追及するのはまた後だ

 

「行こう、美琴」

「…ええ。わかったわ」

 

隣の変身したアラタもそう言いながら構える

その光景を眺めていた木山は「ふふ…」と笑みを浮かべ

 

「…あえて問おう。…君たちに、一万の脳を統べる私を止められるかな?」

 

「はっ! また分かり易い事聞いてくるじゃねぇか」

「止められるか、…だと? 決まってる」

「そんなの…! 当たり前でしょ!!」

 

美琴の叫びに呼応して一気に三人は木山に向かって駆け出した

これ以上、被害を拡大させるわけにはいかない

 

 

くん、と一瞬ではあるが木山が充血したかのような左目を細めた

何か来る、と判断したその時はそれぞれ行動を起こしていた

頭が理解する前に本能でそれぞれ前に飛び込んだ

瞬間、先ほどまで自分たちがいた場所がぽっかりと穴が開いていたのだ

 

<地面に穴を開ける能力? …興味深いねぇ>

「今そんな事言ってる場合じゃねぇだろうがっ!」

 

こんな時でも平常運転なフィリップに翔太郎はツッコミを入れながらダブルは一気に接近してとび蹴りを木山に向かって放った

本来生身の人間相手に放つのはいただけないが状況が状況だ

油断していたら倒されるのは自分たちだ

 

「流石に早いな。…だが」

 

放たれたキックは木山に届くことなくその攻撃は見えない壁のようなもので防がれた

ガキンっ! とまるで本物の壁に蹴ったかのような感覚を感じ、ダブルは驚愕する

 

「なんだこりゃあ!? 念動力とかか!?」

<可能性は捨てきれない。…っ!? 翔太郎、離れるんだ!>

 

本能的に危機を感じとったのか右の複眼が点滅し、ダブルに危機を促す

同様に翔太郎も危機を察知していたのかすぐさま後方へと飛び退いた

 

直後、ダブルの目の前で大きな爆発が生じた

あのままその場に留まっていたならば今頃火だるまになっていただろう

 

「発火能力か!?」

発火能力(パイロキネシス)というよりは、爆発能力(エクスプロージョン)と言った方が正しいかもしれないね>

 

どちらにせよ厄介なことに変わりはない

一度距離を取ったダブルの背後からと飛び出すように美琴が現れる

その手にはバチリ、と雷を迸らせ

 

「これなら、どう!?」

 

迸らせた雷撃の槍を木山に向かって真っすぐ撃ち出した

放たれた一撃は直線となって木山に遅いかかるがその雷は木山に当たる寸前でかき消される

どうやら直前で念動力か何かの壁に当たりそのまま相殺させたのだろう

しかし避雷針か何かを生み出す能力は今のところなさそうだ

もしかしたらあるのかもしれないが、被害者にはその能力を所持する人物がいなかったのか

 

「なら…!!」

 

美琴は再び右手に雷を迸らせ大きく弧を描くように地面に雷を走らせる

バリバリ、と音を響かせて木山の視界を遮るように煙が浮き上がる

 

「…む?」

 

木山は一瞬訝しんだ

しかしそれだけという理由だけで気を抜くわけにもいかない

彼女は煙が収まるのを待った

瞳を細くしながら警戒心をあらわにする

どこから来る?

前…しかし目の前の御坂美琴は掌に雷に溜めたままこちらの動きをうかがっている

その隣のダブルはいつの間にか右半身が赤く、左半身が鉄のような色へと変わっていた

だがダブルからは敵意は向けているがこちらに先手を取ろうとタイミングを計っている

…ふと、目の前の光景に違和感を覚えた

 

 

 

―――あと一人はどこにいる?

 

 

 

前からも来ない、背後からはあり得ない

となると残る場所は

 

「上か!」

 

殺気を覚え木山は念動力の壁を作る

途端にその壁に何かがぶち当たったような衝撃が駆け巡った

それは誰なのかなど、確かめるもでもない

 

「っぐ…! っ!!」

 

木山は一気に一瞬壁を解き、そのまま波動を生み出しそいつを直撃させる

 

「のわっ!?」

 

そいつは飛び退いたことによって威力を軽減させる

そのまま彼は美琴の隣に移動して、持っていたロッドをシャン、と構えた

 

「…少し考えればわかったものを。うっかりしていたな」

「まさか直前までバレないなんて思ってなかったよ。…二人のおかげかな」

 

男―――クウガは赤い姿から青い姿へと変化していた

…どうやらあの青い姿は素早さを増すようだ

そして手に持ったロッドはその反動で低下した腕力をカバーするもの…

 

「それにしても、ホントにいくつもの能力が使えるのね…!」

<君のは、二重(デュアル)というより多重(マルチ)だね。…それも幻想御手(レベルアッパー)の恩恵かな>

 

右の複眼が点滅して翔太郎とは別の声が聞こえた

恐らくそれは彼の相棒、フィリップだ

 

「流石の洞察力。…頭脳は違うのだね」

 

<お褒めの言葉痛み入る。…状況が状況なら友人になれたかもしれない>

「あぁ。…かもしれないな」

 

そう言いながら木山はくっ、と右手を握る動作をした後に、地面を走るかのように風の刃が通過した

その刃を美琴とクウガは左へ、ダブルは右へと飛んでその風を回避する

 

「こっちも遠距離だ!」

 

ダブルはそう言いながらメモリへと手を伸ばし、ドライバーのメモリを一度引き抜いた

そして先ほどのとはまた別のメモリを取り出し起動させ、ドライバーに入れまた開く

 

<LUNA TRIGGER>

 

電子音声が響きダブルの色が黄色と青色へと変化した

ルナトリガーへとチェンジしたダブルは木山に向かってトリガーマグナムを向ける

 

「美琴!」

「おっけー!」

 

その一方で二人の息も合っていた

正体が露見してしまったといえど、彼女はいつもと変わらない表情を見せてくれる

それが少しだけ嬉しかった

そんな事を思いながらクウガは手に持ったドラゴンロッドを大きく振りかぶり、そのロッドに美琴の雷撃を纏わせる

そしてダブルが引き金を引くと同時に木山の胴目掛けて一気に振り抜く、が

 

振るわれたロッドと放たれた弾丸は木山に届くことなく、彼女の周囲に展開されたドーム状のバリアに阻まれた

 

「!? これも念動力か!?」

<いや、これは別の…防御専門の能力!?>

 

「どう捉えるかは君たち次第だ。…こんなのはどうかな?」

 

不敵に笑みを作った後何か音波のような波動が周囲に発せられた

なんだ、と考える暇もなく突如として地面が崩壊する

ガガガ! と音を立てながら態勢を立て直しながらクウガは美琴の手を引いた

 

「わ!?」

 

半ば強引にこちらに引き寄せ彼女を抱き寄せる

崩壊する瓦礫を背後にクウガはダブルと共にその橋の下に着地する

 

<…おっかないね。巻き込むことをためらいもなく能力を行使してくるとは>

「全くだ…戦いにくいったらないぜ」

 

ダブルからの会話を耳にはさみながらクウガは木山を見据え美琴を隣に下ろす

下ろされた美琴は「ありがと」と小さく声を呟いて同様に木山へと視線を見やった

一方で木山はポケットに手を入れながら軽く息を吐いた後

 

「…。もうやめにしないか? 私はある事柄を調べたいだけなんだ」

 

何を思ったのか唐突にそんな事を言い出した

三人が怪訝な表情を浮かべる中、木山は続ける

 

「それが終わればすべて解放する。…誰も犠牲にはならない―――」

 

「ふざけんな!!」

 

木山の言葉を遮って叫んだのはクウガだ

当然である

ここまで大多数の人間を巻き込んでおきながら今更犠牲はださない、と言ったのだこの科学者は

 

「…確かに犠牲は出てないかもしれない。けど被害は出てんだろうが!! …他人(ひと)の心をもてあそぶような奴を、見過ごすわけにはいかないんだよ」

 

彼の言葉に同意するように美琴も頷きながら木山を睨みつけた

その光景を見た木山はやれやれというように髪を掻きながら

 

「…やれやれ。やはりライダーや超能力者(レベル5)と言えど、所詮世間知らずの子供、か」

 

『アンタにだけは言われたくないっ!!』

 

美琴とクウガの声が見事にハモった

ところ構わず脱ぎだすような女に世間知らず、とか死んでも言われたくない

そんな言葉を受けてもなお、木山は冷静に彼女はクウガと美琴、両方を見ながら

 

「…君たちが日常的に受けている能力開発。それが本当に安全で人道的だと、思ってるのかな」

 

「…何が言いたい」

 

その場を代弁するかのように大人であるダブルが問いかけた

問われた木山は頭を掻いていた手を再びポケットに仕舞いながら

 

「学園都市の上層部は、能力に関する重大な〝何か〟を隠している。…それを知らずにこの町の教師たちは、学生の脳を、改造(かいはつ)してるんだよ」

 

妙にニュアンスの籠った言い方に背筋がぞくりと震えあがる

もし本当に何か裏があって、それを知らずに自分たちが毎日開発されているのだとしたら

 

「…へぇ。なかなか面白い話じゃない」

 

その話を聞いてもなお美琴は怯まなかった

彼女自身興味はあるのだろうが、優先順位を目の前と決めただけなのだろう

彼女は地面へと手を伸ばしながら

 

「アンタを捕まえた後でその話、たっぷり調べさせてもらうわっ!!」

 

バチバチっ! と雷を走らせて砂鉄を一斉に槍へと変えた彼女の攻撃は真っ直ぐに木山へと向かっていく

 

「…残念だが、私はまだ捕まるわけにはいかないのだよ」

 

対する彼女は手をポケットに突っこんだまま周囲の瓦礫を操ってその砂鉄の攻撃を受け止めながらそのへんのゴミ箱を彼女たちの周囲へとばら撒いた

 

「なんだ!? 空き缶!?」

「いや、これは…!」

 

その空き缶のほとんどが〝アルミ缶〟

アルミ缶、と言えば―――

 

虚空爆破(グラビトン)だ!」

 

自分たちの上空にある空き缶は数えきれないほどある

ペガサスやルナトリガ―なら撃ち落せるかもしれないがクウガに至っては銃がないためそれはなし

それ以前にいくらルナトリガーといえど百を超えるあの空き缶を撃ち落とすなんてことは不可能に近い

 

「さぁどうする。流石にこの数は対応しきれていないのではないかな…」

 

「舐めんなっ…! 私が全部、吹き飛ばすっ!!」

 

小さく笑みを浮かべたのち彼女は上空に無数に位置するその空き缶へと雷を放電する

雷を受けた空き缶は連鎖的に爆発を起こしどんどんと数が少なくなっていく

その圧倒的な姿を見てクウガは改めて彼女は|超能力者なのだと思い知らされる

そして、カッコいいじゃんか、とも

 

「…すごいな。…だが」

 

一方でその光景を見ていた木山も似たような感想を考えていた

しかし彼女は手にあった空き缶を転移させる

どこか、などはわかりきった事

 

「はぁ、はぁ…! どう!? もう終わり!?」

 

やがて全てを破壊し終えた美琴の表情にはやや疲れの表情が見て取れる

しかしそれを感じさせない辺り流石だ

 

「…やるじゃねぇか。エレキガール」

「御坂美琴だっつの。…あんたといいアラタの友人と言いなんで名前で呼ばないのよ」

 

ダブルが手をスナップさせながらそう称賛する

言われた美琴の方も文句は言いながら満更ではなさそうである

 

「…二人とも、状況わかって―――」

 

そう言いかけたところで言葉が止まった

油断しきっていた三人の目の前に一つの空き缶が出現したのだ

介旅で大能力クラス…

木山ならその上のレベルでの威力を撃ち出すことが出来るはず―――!

そう考えに至ったクウガは二人の前に出て―――

 

 

ドォォォンッ!! と大きな爆破が木山の前に広がった

黙々と広がる黒煙に向かって木山は誰にともなく言葉を紡ぐ

 

「…てこずるとは思っていたが、こんなものか」

 

不意を突いたといえどこうもあっさり終わるとは

拍子抜けにもほどがある

 

「恨んでもらって構わない」

 

そう呟いたのち、ふと違和感が木山を襲った

黒煙の向こう側…

まるで誰かいるような―――

 

そう思った瞬間にその黒煙の向こうから黄色い腕が伸び、自分を拘束し、引っ張られる

 

「なっ!?」

 

防いだとでもいうのか、あの爆発を!?

木山の驚愕は疑念から確信へと変わっていく

黒煙の中へと引っ張られやがて木山はガッと誰かに胴を掴まれた

その最中、木山はクウガの姿を見た

爆発する前は確かに青かったはずのその姿を紫色に縁どられた銀の鎧にロッドは剣へと変化していたのだ

 

「そうか…! 防御特化の紫に…!」

「介旅の時は防げたけど、流石にアンタのはちょっと堪えたね」

 

そして今度はその隣のダブルへとその視線を巡らす

姿こそ変わらない黄と青だ

 

「まさか、伸びるとはね…それは予想外だ…!」

「切り札ってのは最後まで取っておくものさ。ミス木山」

<正直に言えばただ伸ばして殴っても意味がないと判断したからさ。隙を突いた結果だよ>

 

どうやら油断していたのは自分の方だったようだ

しかし拘束されていようと能力を行使してあがくことはまだできるはず

そう思いたった木山は同じように電気の力を用い周囲の砂鉄を固形化し―――

 

しかしその砂鉄はクウガの剣とダブルの銃によってすべて阻まれた

 

「ゼロ距離の電撃―――受けてみなさいっ!!」

 

木山の表情がハッとするのも束の間

バチバチッ!! と大きな音を上げ木山が痛みを堪えるかのように声を張り上げた

このまま近くにいては巻き込まれかねないのでダブルとクウガは変身を解き、少し離れた位置に移動する

やがてその雷は終わり、ぐったりとした木山を彼女は支えながら

 

「…一応、手加減したからね」

 

―――せんせいっ―――

 

「っえ…?」

 

唐突に頭の中に声が響いた

それは子供の声だった

まだ幼く、小学三年生くらい、だろうか

 

それは付近にいた翔太郎やアラタにも聞こえていたようで

 

「なんだ…これは木山の記憶なのか?」

「かもしれねぇ…エレキガールの電気に呼応して何らかのバイパスは繋がったのか…?」

 

だとしたどうして電気を介していない自分たちに繋がったのかが説明できない

しかし頭に響いてくる声は変わらない

 

「…もしかしたら」

 

呟きながら翔太郎は腰に巻きつけたままのダブルドライバーを見る

 

「…ベルトがなんか拾ったのかも知れねぇな…」

 

そう言われてアラタも自身のベルト出現位置の所を見る

あり得ない話ではないかもしれないが、どうも信じられない

…いや、この霊石(アマダム)ならあり得ない話じゃないかもしれない

そう考察するうちにも徐々にその声は鮮明に聞こえてくる

 

はっきりと、親しみが込められたその言葉

 

 

―――木山せんせいっ―――

 

 

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