とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
あと今回正直無理やり感があります
ではどうぞ
「私が、教鞭を…?」
最初その話を聞いた時木山春生は耳を疑った
自分のような無愛想な女などがそのような事来るはずないと確信していたからだ
しかしそんな木山の想像とは裏腹に目の前の老人、木原教授は朗らかな笑みを崩さない
「君は、教員免許を持っていたよね?」
「確かに持っていますが…しかしそれはついでに取ったようなもので…」
「なら問題はないじゃないか」
そう言って教授は老人特融の優しげな笑顔をする
しかし今現在している研究を手放してなど…
「別に研究から離れろと言っているわけではないよ」
教授は腰掛けていた椅子から立ち上がり窓から見える景色が見える位置に移動する
「…あの子供たち」
教授が視線を移したその先には元気よく遊ぶ子供たちの姿があった
彼、あるいは彼女たちは勢いよくボールを蹴っ飛ばして校庭を走り回っている
…こんな炎天下なのに、元気だな、と思わずその時の木山は思ってしまっていた
「彼らはチャイルドエラーといってね。何らかの理由によって捨てられた、身寄りのない子供たちだ」
「…はぁ」
「そして今回の実験の被験者でもあり、君が担当する生徒でもある」
「…え!?」
あの子供たちが自分の?
…気が合うとは思えない、そもそも自分は根っからの根暗に近い性格だ
奔放な少年少女についていけるとは…
「実験を成功させるには、被験者の詳細に成長データを取り、彼らのコンディションを整えておく必要がある。それらの事を踏まえると、担任として受け持った方が効率がいいでしょう」
「…それは、そうかもしれませんが」
そう言われると言い返せない
少し木山は悩む素振りを見せた後、仕方なく教授の申し出を受け入れた
◇
そうして、私の教師としての生活が始まった
教室内にかつかつ、とチョークで黒板に書く音がする
やがて私は自分の名前を書き終えると改めて生徒たちとなった子供たちへと向き直り
「…えー。今日から君たちを受け持つことになった、木山春生だ。…よろしく」
『よろしくお願いしまーすっ!!』
…厄介なことになった
もう何度目かと思うその言葉を私は心の中でもまた呟いた
◇
正直言って私は子供が嫌いだ
デリカシーがないし、失礼だし、イタズラするし、論理的じゃないし、なれなれしいし、すぐに懐いてくる
純粋な好意を向けてくる子供という生き物自体が私は苦手だった
私のような研究者が彼らの好意に応えていいものなのか、と自問自答したほどだ
そんなとある日の事だった
雨が降りしきる中傘をさして帰路へとついていた私の目に飛び込んできたのはしりもちをついている枝先絆理という女の子だった
「どうした? 枝先」
「あっ…木山せんせい…あっはは…滑って転んじゃった」
あはは、と大きな笑みを浮かべておちゃらける枝先
表情こそ笑ってはいるもののその日は雨、しかもどしゃ降りだったために彼女はずぶ濡れだった
―――だから、魔が差したのだろう
「…私のマンション、すぐそこだから…風呂貸そうか?」
そう言った時の枝先の嬉しそうな顔は忘れられないくらいとてもいい笑顔だった
それもそのはずだ
枝先の施設では一週間の間に二回ほどのシャワーしかない
だからお風呂、などというのは憧れなのだ
「ねーせんせい」
「ん?」
風呂から聞こえるその声に反応する
「私でも、頑張ったら大能力者とかになれるかなー?」
「…今の段階では何ともいえないな。…高能力者に憧れでもあるのか?」
「んー。もちろんそれもあるけどー…」
その後ちゃぷん、と水面が動く音が聞こえた
そして
「私たちは、学園都市に育ててもらってるから。この都市の役に立てるようになりたいなぁって」
…
役に立つ、か
私の行っている研究は、役に立っているのだろうか
やがて彼女もお風呂から上がり、私は眠気覚ましにコーヒーを淹れ居間に戻ると枝先がソファの上ですやすやと眠る姿が視界に入ってきた
「…研究の時間がなくなってしまった」
口ではそう言いながらも内心悪く思っていない自分がいる
なれとは恐ろしいものだな、とコーヒーを飲みながらソファに座り枝先をちらりと見やる
そんな枝先を見て、思わず口元が緩んでしまう自分がいた―――
子供は嫌いだ
騒がしいし、デリカシーがない、イタズラするし、論理的じゃない
だけど、共に過ごしていくうちに、そんなのもいいかな、と思えてくる
しかしそんな日々もやがて終わりを迎え、実験の日がやってきた
◇
木原教授指導の下、係員の行動は迅速だった
私は一人の女の子の下に歩いていき、こんなことを聞いて見た
「怖くないか?」
問われた女の子、枝先絆理は即答する
「全然! だって木山せんせいの実験なんでしょ?」
その言葉のあと枝先は満面の笑顔でこう付け足した
「せんせいの事信じてるもんっ!」
笑顔につられて私も小さく笑みを作る
せんせいゴッコもこれでおしまい、か
そう思うとこれまでの日々がどこか懐かしく思えてならなかった
必ず成功させよう
そう心の中で誓うまでに至るほどに
しかし
響き渡るアラームの音
対処しようと駆け回る他の科学者たち
…何が、起こっているんだ?
「早く病院に連絡を―――」
「ああ。いいからいいから」
「しかしこのままでは―――」
「浮き足だってないで早くデータを纏めなさい。この実験については所内にかん口令を敷く」
耳に入ってこなかった
ただ目の前で起きている
「実験はつつがなく終了した。君たちは何も見なかった。…いいね」
有無を言わさぬ迫力で教授は他の研究員に告げる
そして教授は茫然となっている木山の下へと歩み寄りポン、と肩を叩いた
たったそれだけの事のなのに、全身が震えあがった
「木山くん。よくやってくれた」
よくやった、だと?
そんな、こんな、ことになっていながらよくやっただなんて―――
「彼らには気の毒だが―――」
そう言いながら教授は笑みを浮かべ
「―――科学の
そこに、かつて見せた笑みはなく、ただただ先を追い求める狂気の笑みがあった
◇◇◇
ひとしきり彼女の記憶を見たその直後、美琴はもう一つの記憶を見た
それは木山ほど鮮明なものではないものの、内容を分かるには十分なものだった
彼がその力を手にしたのは彼がまだ中学生、ちょうど美琴と同じような年代の時だ
親が蒸発し、孤独になりながらも彼はその時に知り合えた友人と共に毎日を楽しく生きていた
しかしある時、その事件は起こる
学園都市にもワームやそれに該当する怪人が出没するようになり、少年は居合わせた人を庇い致命傷を負った
命の危機に瀕した彼は一人の女性に救われた
だがそれは同時に、彼にある変化をもたらした
それはクウガへと姿を変える事
無論最初は姿を変えることに抵抗があった
だからワームとかが現れても
けどいつしかそんな事をしている自分がとても恥ずかしく感じた
力があるのに何をしている? 今こうしているときでも誰かが泣いているのではないのだろうか
かつての自分のように怪我を負い、痛みに堪えている人がいるんじゃないのだろうか
助けを求め自分に向けられて伸ばしているその手を、自分は払うことが出来るのか?
否、出来るわけがなかった
ワームだとか、ガイアメモリを悪用し私利私欲を満たす奴らによって誰かが涙を流している
そんな奴らの為に、これ以上誰かの涙を見るのは嫌だった
世界の人を笑顔にすることなんて、そんなのは
ならせめて自分の近くにいる人たち…
◇◇◇
「おい、エレキガールっ」
「…こと。美琴」
「―――え?」
自分の名前を呼ぶ声で美琴はハッとした
目の前にはドサリ、と倒れた木山春生がいる
「…どうした?」
自分を心配して覗き込んでくるアラタの顔から少しだけ視線を逸らし赤くしながら「大丈夫…」と返答しながら翔太郎にも視線で合図する
「っう…見られた、のか…?」
頭を押さえながらよろよろと立ち上がる木山を見て美琴を思い出す
そうだ、今はそんな事気にしている場合ではなかった
◇◇◇
「…道が無くなってる…!?」
「あたしたちが気を失ってる間に、なにが…」
意識を取り戻し木山の車から降りた初春を佐天は目の前で起きたことに思考が追いつけていないでいた
今見える視界の範囲で一番目を引くのぽっかりと空いた大きな穴だ
「…う! ぐ、あああ…!」
その穴の下から誰かのうめき声が聞こえた
声色から察するに、恐らく木山春生のものだろう
二人は頷きあい、その穴へと近づいてその中を見た
「あ…! 御坂さん…!」
「アラタさんと…誰?」
思わず佐天が呟いた言葉にこけそうになったが正直同感ではあった
まぁ二人は翔太郎にあったことはないのだから当然の反応ではあるが
◇◇◇
「…なんで、あんな事をしたのよ」
美琴が確信を突くように誰もが思った疑問を問いかけた
記憶を見る限りでは木山自身もそのことを知らないような素振りを見せていたのだが
美琴の疑問に木山はよろよろと立ち上がりながらも
「…あれはね、表向きはAIM拡散力場を制御するための実験とされていた。事実、私もそう思ってた…! しかし実際は、暴走能力の法則解析用誘爆実験だったんだ…!」
「…え?」
「…それは、AIM拡散力場を刺激して暴走条件を知るための実験ってわけか」
翔太郎の呟きに美琴とアラタは愕然とした
「…じゃあ、暴走はあらかじめ仕組まれていたってことなのか!?」
アラタの声に木山は後ろ姿でありながら頷く
「もっとも、気づいたのは後になってからだがね…」
よろよろ、と態勢を治しながら木山はこちらを振り返り
「あの子たちは今なお目覚めることなく眠り続けている…! 私たちはあの子たちを、〝使い捨ての
木山は声を張り上げる
悲痛に満ちた叫び、木山本人としてはそんなつもりはなかっただろう
しかし、結果的にはそういうことになってしまったのだ
「け、けどよ! んな事あったなら、
「二十三回」
翔太郎の声を遮り木山は何かの数字を口にする
「…なんだそりゃ」
「あの子たちの回復手段を探るため、そして事故の原因を究明するシミュレートを行うために、
だが、と木山は続ける
「却下された!! 二十三回ともすべてっ!!」
「…そんな…」
嘘だろう、と言わんばかりに美琴が呟いた
いくらなんでもそんなに申請をして全部断られるなんてありえない
つまりそれが、意味しているのは―――
「統括理事会が
「だからってこんな、一万人もの人間を巻き込んでまで―――」
「君たちに何が分かるっ!?」
アラタの言葉を遮った怒号に思わず体が震えた
彼女の瞳には迷いがなかった
彼女は覚悟している
このまま止めなかったら、世界を敵に回してでも彼女は歩みを止めないだろう
それはまるで血を吐きながら続ける、孤独で悲しいマラソンのようだ
「あの子たちが助かるならなんだってする! 悪魔にだって魂を売る!! たとえ世界を敵に回しても!! 私は、諦めるわけにはいかないんだぁぁっ!!」
彼女がそう咆哮した直後だった
ドクンっ! と何かが躍動したような音が聞こえた
それと同時に、木山が頭を抱え苦しみだす
「な…!?」
「ちょっと…!?」
心配する美琴とアラタ、そして警戒する翔太郎
その三人の視線を受けながら彼女は小さく呟く
「ネットワークの、暴走…!? いや―――これは…―――」
そのまま木山はドサリ、とその場に倒れ込んでしまった
思わず駆け寄ろうとした美琴とアラタに向かって
「待て!!」
何かを感じ取ったのか翔太郎が叫んだ
そして、その不安は的中する
不意に木山の身体から何かが召喚された
まるでRPGみたいに彼女から何かが生まれたのだ
「…胎児…?」
美琴の呟きは的を得ていた
生み出されたものは赤ん坊の胎児に似ているが大きさは何倍も大きい
内側には何か水色の体液のような目立つ
極めつけは頭にある天使のような輪だ
しばらく眺めていると、その胎児の眼が開き、ぎょろりと三人をその赤い瞳孔が捉える
悪寒が走る
第六感が告げている
こいつは、在ってはいけないものだと
そんな意図を知ってか知らずか、目の前の胎児は奇声を上げた
その言葉は耳で聞きとれるものではなくただの叫びか
まるでこの世に生を受けた赤子のように産声を上げた―――