とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
こんな拙い文にここまでお付き合いいただきありがとうございます
では#15、どうぞ
沈黙
それがこの場を支配しているものの正体だった
固法はどこか遠い目で黒妻を見ているし、その視線を黒妻はただ黙って受け止めていた
やがて先に固法が口を開いた
「…生きてたんですね、先輩」
「そうみたいだな…」
そんな二人についていけずに、黒子と美琴はそれぞれの顔を見合わせたのち、アラタの顔を見た
…いや、そんな視線で訴えられてもどうすることもできないのだが
「…どうして。どうして連絡くれなかったんです!? 私、てっきり―――」
何気なく自分の右腕を見て固法はハッとする
彼女の右腕には風紀委員の腕章がかけられているのという事に今気づいたのだ
立場的には、彼女は黒妻を捉える立場にある
固法は慌てて左手で腕章を隠す…が、もう遅かった
その腕章を見た黒妻は小さく笑みを浮かべて、一つ息を吐くと改めて牛乳を持ち直して歩き出す
「安心しろ」
黒妻は彼女の横を通り過ぎると同時、呟いた
「すぐ消えるさ」
「っ! 先輩っ!!」
固法は慌てて振り返った
しかし黒妻はそれに答えることはなくそのまま歩いて行ってしまった
「…先輩」
彼の背中を見ながら呟く
彼女の胸中はわからない、しかしそれでも、拳が握られていたのだけは逃さなかった
◇◇◇
ここはとあるレストラン<AGITO>と呼ばれるお店の中
つまりは店内である
このレストランはアラタのお気に入りで、週一ペースで通っている
たまには気分を変えてみよう、というアラタの意見で彼のお気に入りのレストランをみんなに紹介したのだ
メニューは結構豊富だと思う
軽食のトーストからガッツリなステーキとか千差万別
知人である伊達明とかもよく通っているのだ
それでいてあまり人には知られていない、俗に言う隠れた名店である
そんなAGITOの一角にて
「固法先輩と黒妻が知り合いぃ!?」
佐天の大き目な声がAGITO内に響き渡る
「ちょ、佐天声がでかい…」
そんな佐天を宥めながらアラタ目の前に出されたジュースを軽くかき混ぜる
彼女は「す、すみません」と言いながらいそいそと椅子へと座りなおす
「けど、けど黒妻って言ったら…」
「ビッグスパイダーのボスですよね?」
二人の認識は正しい
しかし二人は本物の黒妻を見ていないのだ
疑念に思うのも当然である
「…それは、そうなんだけど…」
美琴が苦い顔をする
…どう説明すればよいのやら
そう困惑していると、さらに二人の口撃は加速していく
「その黒妻となんで固法先輩が!?」
「寄ってたかって女の子襲うような奴なんかと!?」
「い、いや、二人が知ってる黒妻と違うんだ。…なんて説明すりゃいいか…」
そう美琴とうんうん悩んでいるとただ一人、涼しい顔で紅茶をすする女が一人
御坂美琴の後輩、白井黒子その人である
「…おい黒子、なにだんまり決め込んでんだ」
「アンタからもなんか説明しなさいよ」
かちゃり、と黒子はカップを置きながら静かに口を開く
「縁は異なもの、味なもの…」
『…はぁ?』
美琴と声が重なる
何言ってんだこの子
「この件に関しては、わたくし静観させていただきますの」
つまりは特に追求もしなければ語ろうともしない、という事なのか
ていうかなんでこんなに達観してるんだこの子は
そんな黒子の言葉を聞いていてもたってもいられなくなった佐天はぐわしゃあ、と勢いよく立ち上がって
「あーもー気になるモヤモヤするー! こうなったら、固法先輩に直接―――」
「それがさー…」
そんな佐天にアラタは肩肘を頬につけながらため息交じりに
「…あいつ、ここ最近一七七支部に顔出してないんだよ」
アラタの呟きに初春はえぇ、と小さく頷いた
ちなみに黒子は変わらず紅茶を啜っております
「そうなの?」
その情報は初耳だと言わんばかりに美琴がアラタに問うてみる
彼は小さく頷きながら
「携帯は繋がらない、メールもダメ。…お手上げだよ」
その場に漂う変な空気
ただ一人黒子だけが涼しい表情なのが唯一の救いか
…これは最終手段を行使した方がいいのかもしれない
「…黒子、お前固法んち知ってたっけ」
「? えぇ、知っていますけど。…もしかしてお兄様」
「あぁ、そのもしかしてだ」
◇
会計時
誘ったのは自分なので今日ぐらいは俺が奢ると頑張って説得し、四人を外に待たせている
レジの前で財布を開きながら中身と相談する
幸いにも今回はホットケーキなどの軽食くらいしか頼んでいないため、問題はないかな、と高を括っていた時期が自分にもありました
自分含めて五人ともなると結構な被害が被る
しかしそれほど大きくはないかな…などと熟考していると
「アラタくん、大丈夫?」
横合いから声をかけられハッと顔を向ける
そこには一人の青年がアラタの顔を覗き込んでいた
その青年を自分は知っている
「翔一さん…、大丈夫って、お金ですか?」
「…確かにレジの前でうんうん唸ってるとちょっと心配はするかな?」
こちらを心配してくれている青年の名前は立神翔一
ここのレストランの店長でもあり、教諭でもある二足のわらじを履いているお人である
また、アラタがクウガと知る数少ない人物であり、かつ自身も仮面ライダーでもある男性なのだ
「はは…すいません。ちゃんと払いますから…と、」
言いながらアラタはレジに表示された金額を翔一の手に置いた
受け取った翔一は手早くそれをレジに入れながらおつりをアラタの手に乗せて
「…僕でも手伝えることがあれば、協力するから」
「…ありがとうございます。翔一さん」
笑顔でそれに答えながらアラタは外で待っている美琴たちの下へと歩いていく
これから向かう場所は、彼女のマンション…つまりは自宅だ―――
◇◇◇
ピンポーン、とインターホンが鳴り響く
黒子の案内の下にたどり着いたのはあるマンションの一室
そしてとたとたと扉へ駆け寄ってくる音が聞こえたのち、「はーい」と答えるような返事のあと扉が開いた
「どちらさま?」
開いた先にいたのは固法でなく、ストレートが決まってる女性だった
恐らく相部屋の相方の方だろう
てっきり部屋にはいるものだとは思っていたが、まさか彼女は自宅にもいないのだろうか
「…えっと、ここ、固法美偉さんの部屋…で間違いないですよね?」
「あ、もしかして美偉の彼氏!? やだ、アイツ結構―――」
「違います」
変になんか噂されると恥ずかしいので思いきり否定する
少なくともアラタは彼女を友達だとは思っているが
「はは、冗談よ冗談。…あ、ごめんね、今アイツ出かけてるのよ」
その口ぶりから察するにどうやら自宅には帰ってきているようだ
なぜだろうか、どこか安堵している自分がいる
「…う~。黒妻の事が聞きたかったのにー…」
「仕方ありませんよ。…あと佐天さん、それは思ってても言っちゃダメですよー」
黒妻、という単語聞いたときにその相方の表情が一瞬変わった、ような気がした
しかしアラタは特に気づく様子はなく佐天の方を見ながら苦笑いを浮かべた
正直に言えば気にはなるが、かと言って自宅に入り浸るなんでもってのほかである
そんな事をした暁にはなんかもういろいろ終わる
「すみません、また出直します」
固法のルームメイトにそう告げて、一度みんなで礼をする
そしてその場を後にしようとしたときに
「あ、ちょっと待って!」
ルームメイトに呼び止められた
◇
「っとにしょうがないわね…後輩や同僚にまで迷惑かけて」
ルームメイトの人が得々と麦茶を注いでくれる
そんなルームメイトに「い、いえ」と言葉を濁しながらアラタは麦茶を口にして喉を潤した
「それで、黒妻が帰ってきたのね」
「っえ!?」
あまりにも自然に口にするものだから本当にびっくりした
初春に至ってはむせてしまっている
「…まさか生きていたとはねぇ」
どこか物思いにふけるルームメイトにがたっと勢いよく立ち上がった人がいた
それは美琴と佐天である
「黒妻の事、ご存じなんですか!?」
「それで、黒妻と先輩はどーいう…!?」
「二人とも」
ヒートアップしている佐天と美琴に対してアラタが止めに入る
「逸る気持ちは分かるが落ち着け。その人が迷惑してるだろうが」
彼の言葉を受けて熱が冷めたのか一つ二つ深呼吸して美琴と佐天は椅子に座りなおした
その二人を見てルームメイトの人は一つ咳払いをして空気を変える
そしてアラタの顔を見て
「…とりあえず、そっちの話を聞こうかしら?」
どうでもいいがこんな時でも黒子は静かに麦茶を飲んでおられました
◇
「…そっか。どうりでね」
一通りの話を聞き終えたルームメイトはそう小さく呟いた
「…その、それで、固法先輩はどうして黒妻を知ってたんですか?」
「ん? あぁ、それはね。美偉は昔ビッグスパイダーのメンバーだったの」
ルームメイトが軽い感じでそう呟いた
あまりにもさらりと言うもんだから一瞬場の空気が固まった
数秒後
『えぇぇぇぇ!?』
佐天と美琴、初春の絶叫
そのことには流石に黒子も若干ながら狼狽えているように見える
事実、アラタも少しながら狼狽えている
「あり得ない! いくらなんでもそれはないっ!」
「だって、先輩は風紀委員なんですよ!? どうして…」
当然の疑問をぶちまける初春佐天
そんな疑問をぶつけられてもなお、彼女は笑いながら
「ああ見えて、昔はやんちゃだったのよ」
「やんちゃって…!?」
信じられない、と言った感じで美琴が呟く
それもそうだろう、普段見せている彼女とのギャップにただ驚いてばかりなのだから
「…あまり過去にどうこう言うつもりはありませんけど」
不意に美琴の隣にいる黒子が言った
「〝寄り道〟なら、もっと他にあったでしょうに。なぜよりにもよってスキルアウトなんかに」
黒子の言葉を聞いた彼女は静かにその言葉を聞いて、やがて口を開く
「貴方にはない? 能力の壁にぶつかった事。それが中々乗り越えられず暗い気持ちを持て余した事…」
◇
どこに行っても居場所がない
自分の能力に伸び悩み、雨の中をただ彼女は歩いてた
そんな時だ
不意に河川敷に方へと顔を向けるとそこにはスキルアウトの連中がケンカをしていたのだ
最初は物騒だな、なんて思ったものの、いつしかその赤い髪の男性に目が行っていた
しかもその理由が、また意外だった
小さい子供を守るために、その男たちは戦っていたのだ
何時しか時間がたつのを忘れ、その赤い人を目で追っていたら
不意に、その人と目が合ってしまった
それが、固法美偉と、黒妻綿流との出会いだった
別にスキルアウトと言っても、彼らはただ気の置けない仲間たちとバカやってただけだった
ヤクに手をだすわけでもなく、犯罪をするでもなく、ただ集まって楽しく遊びあうような人たちだった
当然、最初は心配した
わざわざ自分が能力者であることを隠してまでいるとこなのか、と聞いて見たこともあった
そうすると彼女は真っ直ぐこう言ったんだ
◇
「ビッグスパイダーは、私が私でいられる場所…そう言ってたわ」
居場所、か
小さく呟きながら佐天は隣の初春を見る
その視線に初春は笑みで応えた
彼女らの光景を見ながらアラタも小さい笑みを零した
「…ま、固法も人間。
「…でも麻疹にかかるのは一度だけよ」
アラタの言葉を砕くように、御坂美琴はそう言った
「…美琴」
納得できていないのか、彼女の顔に笑みはなかった
◇◇◇
その帰り道
道中、ただ淡々と道を歩いていた
別に気まずい、という訳ではなかったのだが、今日は状況も状況で、どこか口を聞くのを躊躇わせてしまう
こういう時に明るく振る舞ってくれる黒子と初春でさえ黙ったままなのだ
「…やっぱりわからない」
アラタの隣を歩く美琴がふと呟いた
「…どうした?」
「固法先輩がスキルアウトだったっていうのもショックだけど…。だからって、なんで風紀委員を休んでるの。…なんか関係があるの?」
「…だから、それは―――」
「昔は昔じゃないっ!!」
唐突に張り上げたその声に思わず身体が震えてしまった
「今は先輩、風紀委員で頑張ってるし、私たちにも優しくて、でも時に厳しくて、頼りになって…。そんな先輩が好きなのに、…なのに、どうして今更―――」
「…そう簡単に、割り切れないんじゃないかな」
ふと、初春の隣にいる佐天がそれに答えるように口にした
誰だって大切な人や自分を変えてくれた人と出会ったら、その人の事を意識するだろう
当然だ
現在の自分を形作るのは、過去の自分
その過去に、そういった大事な人がいるならば、なおさらだ
「…その過去が、大切なものなら…よりいっそう…」
ふと気づけば全員の視線が佐天に集まっていた
その視線が気恥ずかしくなったのか慌てて手を振りながら
「や、違いますよ!? 別に御坂さんに反対してるわけじゃっ! は、ははっ」
思い切り乾いた笑いが出てしまっている
別に美琴もそれをわかっているのかわずかばかり笑みを見せたあと空を仰ぎ見る
その視線の先に広がる空は、少し赤みがかった青空
「…。やっぱり、わかんないよ…」
ぼそりと、彼女は呟いた
けど、今はそれでいい
いつか、彼女も気づいてくれるとアラタは信じている
そう思いながら、皆で帰路への道を進む
あの日、何気ない自販機で美琴と会えたことも、きっと意味があると想いながら
◇◇◇
ビッグスパイダーアジトにて
そこ二はメンバーも集まってはいるのだが、その数はまばらである
「…なんだよ、集まり悪ぃな」
ちょうど来た一人の男が代弁するようにそんな言葉を漏らした
「仕方ねぇだろ。…〝あんなコト〟があった後じゃ」
「…まぁな」
あんなコト、とは先日起きたある戦いの事である
その戦いで起きた出来事は、ビッグスパイダーのメンバーにある疑惑を抱かせていた
「…黒妻さんって、偽物なのかな」
「んなわけねぇだろ!! 黒妻さんは、黒妻さんだよ」
「…でもよ、あの人蛇谷って呼ばれてビビッてなかったか?」
その一言で、言い様のない空気がその場に流れる
目にしてしまった事実はどうあっても拭えないのだ
そんな男の後頭部に、何かを突きつけられたような感覚があった
それが銃口だと気づくのに時間はかからなかった
「―――誰がビビってるって?」
それは先ほど話していた人物、蛇谷である
しかしメンバーには黒妻で通っているようで
「く、黒妻さん!?」
「…俺を疑ってる暇があんなら、今すぐあの偽物を探し出してぶっ殺せぇっ!!」
蛇谷は手に持った銃を天井に向けながらさらに叫んだ
「学園都市に、黒妻綿流は二人もいらねぇんだ!!」
鬼気迫る叫びに身の危険を感じたのかガタガタと慌ただしくメンバーは散っていく
その場にメンバー全員が外に駆け出すのを確認すると一つ息を吐いてソファにどっかと腰掛けた
ふと、唐突に蛇谷の携帯が鳴り始めた
その音に思わず驚いてしまったがすぐ冷静さを取り戻し自分の携帯を取り出し、通話をするべく耳に当てる
「もしもし、俺だ。あ? キャパシティダウン? ちゃんと使ってるよ。…うっせぇな! こっちも今いそがしぃんだ!! んなコトしてる暇は―――なんだと…!?」
電話の主が言った一言に蛇谷は戦慄した
◇◇◇
一七七支部にて
御坂美琴はある一点を凝視している
それは固法美偉が仕事していたデスクである
ここ最近、彼女はずっと彼女のデスクを眺めたままなのだ
「…御坂さん、あれからずっとあんな感じなんですか?」
「あぁ。まぁ、気持ちはわからんでもないけど」
佐天の言葉に応えつつ、アラタは自分のノートパソコンをカタカタと弄る
キーボードを叩く傍ら、ちらりと美琴の方へと視線をやった
変わらない様子で彼女は固法のデスクを眺めたまま、どこか物悲しい表情を浮かべ佇んでいる
その風景を見ていると、脳裏に彼女と固法が仲良さそうに話している姿を幻視してしまった
「…、」
そのような幻視を首を振るう事でかき消すと改めて自分の作業に集中する
「…あれ、
そんな時に初春の言葉が耳に入ってきた
そのまま彼女はその場にいる全員に聞かせるように言葉に出して読み始めた
「え…と…警備員本部は…スキルアウトの能力者狩りに対抗し…明朝十時より、第十学区エリアG…ストレンジの一斉摘発を行う…!?」
空気が変わる
早い話が強硬手段
今更になり、警備員は取り締まる気でいるのだろう
いずれにしてもこの話は国法にも伝わっているハズだ
…話すなら今しかないかもしれない
明日には一斉摘発が始まる、動くなら急がなければ
向かう場所には心当たりがある
◇
第十学区〝ストレンジ〟
あるビルの屋上に固法はいた
その場所は固法や黒妻にとっても思い出の場所である
夕焼けに染まる景色を視界に入れながらどこか物思いにふけっていると
「やっぱりここにいたんですね」
声が聞こえた
固法が振り向くとそこにはその声の主である御坂美琴と、その隣には鏡祢アラタ
アラタは苦笑いを浮かべつつ頭を掻いている
御坂は半ば強引についてきたのだろうか
そんな二人を見て、小さく口にする
「…二人とも…」
◇
「こんな所で何してるんです。…ひょっとして、明日の一斉摘発の事、黒妻に教えに来たんですか」
どこか彼女の言葉はとげとげしい
信じているからゆえの言葉だろうが、それでも少しケンカ腰のようにもとれる
なまじ、彼女は今の固法美偉しか知らないから
「ここは、先輩がいていい場所じゃないと思います」
「…そうね」
吹きすさぶ風に髪を揺らせながら固法は応える
そして付近の手すりに手を乗せて朱く染まってく夕焼け空を見ながら
「でも、その居場所を私に教えてくれたのは…黒妻なのよ」
◇
行かないで
そう彼女は黒妻に懇願した
黒妻に届けられた一通のメール
それは仲間の一人である蛇谷を預かった、という簡素なものだった
それ故に、罠だと分かり易すぎるほどの
しかし黒妻は仲間を放っておくわけにはいかない、とそれを突っぱねる
性格を考えればその返答を予測していた
だがその次の言葉は全く予想してはいなかった
「…やっぱりさ、ここはお前の名前を刻む場所じゃねぇと、俺は思うぜ」
え、と考える
そして彼女は自分の後ろにある手すりを見た
何気なく書いた相合傘
古いかな、とその時は思ったが書いてみると割といい感じかも、と思った相合傘
自分の名前と黒妻の名前がマジックか何かのように上書きされていた
それが明確な否定、と思って彼女は慌てて先ほどまで黒妻がいた方を見た
しかし、もうそこには誰もいなかった
◇
「私が駆け付けた時には、もう…」
その時の悲しみはどれほどだったか
それは想像できるものではない、ましてや自分たちは部外者だ
かける言葉など、見つかるはずがない
「それで、今の私がいる」
悲しみを乗り越えて、固法美偉はそこに立つ
彼女の背中がどことなく儚く見えてしまったのは気のせいだろうか
「…でも、先輩は風紀委員じゃないですか! 犯罪者を逃がすなんて…! おかしいじゃないですか! それって―――」
「あぁ。間違ってるよな」
美琴の言葉を割って入るように一つの声が耳に入る
咄嗟に美琴とアラタは振り向いた
そこにはいつか見た革ジャンに身を包んだ赤い髪の青年、黒妻綿流がいた
彼は以前の笑みでなく、どこか真面目な表情をしてゆっくりと歩いてくる
「…先輩」
「あの後、目を覚ましたら病院でさ。そのまま施設に送られて、出てこれたのがほんの半年前」
黒妻はその時ちらりとアラタの方を見て
「照井のアニキにあったのもそんときくらいかな」
「えぇ。…そう聞きました」
アラタが答えると黒妻はそうか、と笑み交じりに返答して固法の隣で立ち止まった
彼は手すりに寄りかかって懐かしむように景色を見る
「…先輩、…私…」
「ここで見る景色も、もう見ることはないんだろうなぁって思ってたけどな。…それから、お前にも」
黒妻の言葉に固法の肩が震えた
そんな二人の会話を美琴とアラタは黙って見守るしかできなかった
下手に言葉を投げかけては、いけないと思ったから
「会わない方がいいって思ってた」
「また、一人で行くつもりですか。…あの時みたいに」
拳を握りしめて固法は口を開く
その体はわずかに震えており、今にも砕けてしまいそうで
「ビッグスパイダーを作ったのは俺だからな。…その落とし前をつけるのも俺さ、警備員じゃない」
予想通りというような言葉を固法はわかっていたのか、ついに彼女は心中を吐露する
固法は彼の左腕を握りしめて
「行かないでっ!!」
昔みたいに黒妻を制止する
言えなかった不満をぶつけるように彼女は言葉を重ねていく
「貴方はいつだってそう! 自分勝手に人を思いやって! 自分勝手に動いて!! 貴方がそんなだから…! 私は…!!」
「お前だってそうじゃねぇか」
黒妻に言われ、固法はゆっくりと顔を上げる
自分を見る黒妻の顔は穏やかで、微笑ましかった
「だから、〝ここ〟に来たんだろ?」
その言葉に真意はおそらく固法自身にしかわからない
同時に腕をつかんでいた力が抜け、手を離していく
「ほら、もう帰りな。あの子たちも困ってるじゃねぇか」
黒妻に視線を向けられる
その視線に美琴は思わず顔を逸らし、アラタは苦笑いする
「…今いる所を大切にな」
そして黒妻はポケットに両手を突っ込み、扉へ向けて歩き始めた
「…私も一緒に行きます…!」
そんな黒妻を止めるように固法は言った
「もう…あんな思いは、したくないから…!」
「いい加減にしろよ美偉。…昔と今じゃ違うだろ」
「今とか昔とか!! 関係ありません!! 居場所が変わっても、私の気持ちは変わりません!!」
そう叫ぶ固法の姿を、二人はただ見てることしかできなかった
◇◇◇
思えば彼女と友達になったのはいつだろうか
あれは確か、中学二年くらいの頃ではなかったか
一七七支部に配属され、そこで初めて彼女と出会ったのだ
同年代ではあるのだが、風紀委員としては彼女の方が先輩にあたる
学年も近かったし、仲良くなるのには特に時間はかからなかった
そんな彼女の過去を図らずも自分は知ってしまったのだ
常に大人びていて、冷静で心優しい彼女の過去
「…居場所、ねぇ」
居場所、とはなんだろうか
一口に居場所と言っても多々ある
通っている学校、入っている部活動、立ち上げたサークル…こういった寮なども居場所に当たるだろう
もちろん友達と一緒にいるその時間を居場所という人もいるだろうし、孤独こそが自分の居場所という人だっているはずだ
そこまで考えて、なんとなく悟る
居場所とは、自分らしく在れる場所
軽口を叩きあい、時にケンカしたり、励ましあったり…
そんな気軽に触れ合えて、駄弁りあうような人たちが近くにいるだけでも、それだけでも確かな居場所なのだ
積み重ねた月日が、自分の
「…、」
今いる友人たちとの関係は、何年たっても変わることはないはずだ
自分でそう結論させた
どことなく自分の口元には小さい笑いがあった
自分の考えに一区切りをつけ、よし、寝るかとそう思ったその時、ピリリと携帯が鳴り響いた
こんな時間に誰だろうか、と思いながら見ると画面に御坂美琴の名前が表示されていた
「…美琴、どうしたこんな時間に」
<うん、ちょっと手伝ってもらいたいんだけど…いいかな?>
「…やけに明るいな声色が。…なんかあったのか?」
そう聞くと電話の向こうでえへへ、と小さい笑いが聞こえた
その後で
<今日固法先輩の言ってた、変わらない気持ちって奴に、気づいただけよ。…アンタとだって、これからも友達でいたいしね>
直球で言われると思わず頬が赤くなってしまいそうなセリフをサラッと口にするものだから驚いた
だがそれは、アラタも同じ気持ちだった
その言葉に
「…あぁ、そうだな」
短く、それでいて強く返す
多分黒子とかも彼女についてくるのだろうな、まぁ…悪くはないかもしれない
「んで、手伝ってほしいことはなんだ」
<あ、そうだった。…、まぁ本当に大したことじゃないんだけど―――>
◇
翌日、時刻は明朝
固法美偉は携帯のとある画像を眺めていた
それは自分がまだビッグスパイダーに在籍していたころに携帯で撮った写真である
暫くその写真を眺めたのち、固法は携帯をパチンと閉じた
自分の机の上には風紀委員の腕章があったが、固法はそれを手にすることなくクローゼットへと足を運んだ
ガチャリとドアを開けた中には、自分がビッグスパイダーの時に着用いていた赤い革ジャン―――
それを着て、固法は一人ストレンジを目指していた
今頃警備員が動いているハズだ
警備員より先に、何としてもビッグスパイダーだけは止めないといけない
そんな固法の目の前に、空間転移してきた人たちがいた
それは黒子と美琴、そしてアラタの三人だ
「…あなたたち? どうして―――」
そんな言葉の中で美琴はアラタから何かを受け取り、黒子は彼女の方に手を置いた
直後美琴は国法の右腕付近へと空間転移し、そして彼女の右腕に何かを撒きつけはじめた
「ちょ!? なんなのこれ!?」
慌てふためく固法をスルーし美琴は作業を完遂させ「ふぅ」と息を吐いた
「やっぱりこうでなくっちゃ」
そう美琴が言った後、固法は自分の右腕を見た
その腕には風紀委員の腕章が巻かれていた
「これ…風紀委員の…どこから…?」
「それは俺のスペアだ。流石にお前の部屋から持ち出すわけにはいかないしね」
そう言われアラタは僅かに微笑んだ
同様に彼の隣にいる黒子もウインクしてそれに答える
「先輩」
不意に美琴に言われ、固法は彼女の方を見た
美琴は笑んだ後、言った
「カッコいいですよ」
固法は自分に巻かれた腕章を見る
幾度となく見た緑色の腕章
それが、今の自分である証でもある
そう考えて、なんとなく口元に笑みを浮かべた
◇
同じ時間帯
ビッグスパイダーの本拠地を見張っていたスキルアウトの一人の腹部に鉄拳を叩きこみ、それを出入り口へと投げ込んだ
投げられたスキルアウトは扉を吹き飛ばし、そこから外の光が室内に入っていく
「朝っぱらから忙しそうじゃなねぇか。…終わらせにきたぜ」
周りのメンバーが警戒する中、蛇谷はやはり来たか、と言った顔つきで
「…テメェ…!」
そう怒りを露わにした
その怒りに黒妻は小さい笑みを浮かべ
「分かってるだろうけど―――俺は強ぇぜ?」
◇
黒妻の言葉は偽りでなく、彼に挑んでいったメンバーはことごとく打ち倒された
しかしそんな事わかりきっていたことだ
そう正攻法が通じないなら、正面から挑まなければいいだけだ
「…あぁ、確かにアンタは強ぇ! けどな! んなのは能力者と一緒だ! 数と武器には適う訳ねぇんだよぉ!!」
「待ちなさいっ!」
声が聞こえた
聞こえた場所は黒妻の後ろ…出入り口の方からだ
黒妻が振り向いた場所には、赤いジャンパーを羽織った固法美偉が立っていた
「美偉…」
そして、右腕にある風紀委員の腕章―――
それを見て黒妻は笑った
「…カッコいいじゃねぇか」
それに答えるように固法も彼に笑んで見せた
そして、蛇谷を視線に捉える
「こ、固法さん…!?」
「蛇谷くん。あなたずいぶん下賤な男になり下がったわね。数にものを言わせて、その上で武器?」
「―――! う、うるせぇ!! 俺らを裏切って風紀委員になった奴に何が分かんだ!! おらぁっ!! こいつらに俺たちの力を見せてやれぇ!!」
蛇谷の号令に応えるようにメンバーが二人に対して手に持っていた銃器を構える
しかし直後、その銃器に鉄針のようなものが突き刺さった
それは空間転移で貫かれたものだと理解するのに時間はかからなかった
そしてそれを象徴するかのように、一人の女の子が現れる
「今度は、体内に直接お見舞いしましょうか?」
白井黒子は手に鉄針を持ち、不敵に微笑んだ
「能力者!? へ、へっ! だが俺たちにはあれが―――」
「あれって」
言葉の途中で、コインの弾く音が響いた
一秒のあと、御坂美琴が放った超電磁砲が壁を貫通してそとにあるキャパシティダウンを搭載していた車を吹き飛ばした
「これの事?」
吹き荒れる砂塵のなか、御坂美琴は雷を迸らせる
「まさか二度も引っかかるなんて思ってないよな」
彼女の隣にいたアラタは口を開く
今度はそれの発生源を確実に叩き潰した事により、美琴は全力を出せるだろう
同様に自分はサポートに回るだけだ
完全に切り札はつぶれた
勝因ははっきり言ってないに等しい
だけど―――もう退けない
「―――やれぇ!!やっちまえぇ!!」
「で、でも―――」
バァン、と銃声が鳴り響く
それは天井に向けて蛇谷が撃ったものだ
「うるせぇ!! いいからやるんだよ!! でないと俺がお前らをぶっ殺すぞぉ!!」
完全に恐怖で部下を支配している
これならば倒すのにはあまり苦労はしないだろう
美琴と黒子、そしてアラタは襲い来るスキルアウトの連中に身構えて―――
「貴方たちは手を出さないで」
そんな時に固法がそう言った
続けて
「たまには先輩を立てなさい」
そして固法は笑みを浮かべる
そんな言葉を聞きながら黒妻はふっ、といい笑顔を浮かべ一気に走り出し、襲い掛かる相手を迎え撃った
以前見た強さは全く変わっておらず、はっきり言って無双状態である
振るわれた鉄パイプを身を屈めることで回避しがら空きの顔面に拳を叩きこみ、逆に自分を狙ってきた男に向かってパンチをブチ込み、反対側から襲ってきた奴には蹴りを入れる
さらに三人密集していた一人にライダーキックばりのとび蹴りをかましたのちに、いとも簡単に残りの二人も一蹴する
「おらどうした。もっと気合い入れて来ねぇと、張り合いがねぇぞオラァッ!!」
物足りん、と言った様子で黒妻は叫んだ
そんな叫びに呼応されたかは分からないが一人、怪しい動きをした奴がいた
そいつに向かって固法は自身の能力、
まず男が忍ばせたポケットには拳銃があった
そして反対側のポケットにはスタンガンが忍ばせてある
これは放置しておくとマズい、そう判断した固法は駆け出した
「―――っへ…あがぁ!?」
「これは没収ね! それから―――」
取り出そうとした右腕をひねりあげ、拳銃を手から離させる
そのまま腹部に手刀を叩きこみ、そのまま反対側のポケットに固法は手を突っ込んだ
「このスタンガンもねっ!!」
取り上げたスタンガンを見せつける
男はなんでわかったんだと言いたげな表情に固法はゆっくりとスタンガンを押し当てて
バヂヂ、とそのスタンガンが炸裂した
「…なんかイキイキしてるな、今日の固法」
「そうね…けど、あれが固法先輩なのかも」
「まぁ、イキイキしてるのは事実ですわねぇ」
三人でそんな事を言い合う
普段の冷静な固法もカッコいいが今日みたいな活動的な固法もいいかもしれない
「へぇ、それがお前の能力か」
不意に黒妻が固法に言った
固法は彼の方へと視線を向ける
黒妻は口元にクールな笑みを作ると
「すげぇじゃねぁか」
「…、でしょ?」
それに応えるように頬を赤くしながら短く答えた
「へっ…。俺も負けてらんねぇなぁ!!」
その叫びと共に再び黒妻無双が始まる
そしてその黒妻を支えるようにひっそりと固法が走る
「…派手にやってるな」
殴る音と悲鳴をBGMにドアからまた新しい人物が姿を見せる
「照井さん」
「心配になってきてみたが、杞憂だったな」
照井の手にはエンジンブレードが握られており、彼が歩いたと思われる地面には剣を引きずった跡があった
恐らく引きずって歩いてきたのだろう
「知り合いですの?」
「あぁ。ちょっとしたな」
黒子の問いに答えながら戦っている黒妻と固法の方を見た
いつしか部下は殲滅され、残ったのは蛇谷一人になっていた
「おら、どうするよ」
黒妻が問いかけた
しかし蛇谷は不敵な笑みを浮かべ黒妻を睨む
「まだ…! まだ俺は負けてねぇ…!」
「…?」
黒妻が訝しむ
蛇谷はジャケットの内側から一本のメモリを取り出して、スイッチを押して起動させた
<COMMANDER>
電子音声が鳴り響き、蛇谷はそれを自らの掌に差し込んだ
瞬間に彼の身体はみるみる変わっていき、怪物の姿へと変化した
「…お前」
「うおおぉぁぁぁぁぁぁっ!!」
叫びと共にコマンダードーパントは自分の周囲に仮面兵士と呼ばれる自分の駒を呼び出した
先ほどまでに自分の部下を恫喝していた彼が指揮官を関する怪人となるのは何の因果か
黒妻は呟く
…本当に、変わっちまったな
「黒妻さん」
さっきまで美琴の隣で待機していたアラタは歩いてきていた
彼の隣にはエンジンブレードを引きずって歩いてきていた照井の姿もあった
二人は黒妻の下に歩み寄ると照井はエンジンブレードを地面に突き刺した
「悪いな。状況が変わった。手を出させてもらうぞ」
「えぇ、頼みましたぜ照井のアニキ、アラタ。…俺の代わりに、アイツにお灸をすえてやってくれ」
そう言われ照井は「あぁ」と首を頷いた
道を違えてしまった青年を矯正するのは、慣れていると言わんばかりに彼はアクセルドライバーを取り出し、それを腰に巻きつける
「蛇谷と言ったな。…お前では俺たちに勝てん。それでもやるのか」
「うるせぇな! 今更後に退けるかよ…!」
「…やれやれ」
そう呟いたのち、照井竜は自分のジャケットの内側から赤いメモリを取り出した
それはAと書かれたメモリだ
「アラタ、兵士どもを任せていいか」
「了解です。…照井さんもお気をつけて」
そう答え、アラタは自分の腰に手を翳し、アークルを顕現させる
それと同時、照井もアクセルメモリを起動させた
<ACCEL>
メモリが起動するのと同じタイミングでアラタはポーズを取りながら、各々に叫ぶ
「変…! 身ッ!!」
「変身!」
アクセルメモリをドライバーにセットしパワースロットルと呼ばれる右グリップを回した
まるでエンジンを蒸かすように
<ACCEL>
そう電子音声が鳴り響き、バイクのような音と共に、照井の姿を変える
その姿こそ、照井のもう一つの姿〝仮面ライダーアクセル〟
個々のメモリを使い分け、汎用性が高いダブルとは対照的にアクセルは一つのメモリを極限にまで高める事で凄まじい戦闘力を誇っている
「…重圧感がありますね」
その隣で変身を完了したクウガの声を聞きながらアクセルは苦笑いする
そしてアクセルはエンジンブレードのグリップを握りしめ勢いよく引き抜いて
「さぁ! …振り切るぜ」
◇
一直線に向かってくる仮面兵士を真っ向から挑み、クウガは拳を振るっていく
幸いに仮面兵士の一体一体の力はさほど強くなく、数発叩きこめばすぐにダウンする
問題はその数である
「おっと…!」
不意に背中をホールドされる
両手をがっしりと掴まれ、腕の自由を奪われるが足は問題なく動く
止まった隙を狙おうとした仮面兵士の腹に蹴りを入れる
そして背後を掴んでいた兵士の顔に自分の後頭部を頭突きの要領で当てるとわずかに腕の拘束が緩んだ
すかさず肘鉄を腹部に叩きこんで振り返りざまに顔面に拳を繰り出す
しかしやはり数の暴力は素手では覆せそうにない
何かないか、とクウガは辺りを見回した
少し見回すと地面に先ほどのスキルアウトが使用していたとされる木刀が見つかった
クウガはそれ目掛けて跳躍すし、その付近へと着地するとその木刀を手に取って
「超変身!」
紫色のクウガへと姿を変える
同様に手に持った木刀も両刃の剣、タイタンソードに変化し剣先がシャン、と伸びた
よし、とクウガは手に持つタイタンソードを構え、向かってくる仮面兵士を一刀の下斬り捨てていく
「ああもう、多いなホントに!」
前方の仮面兵士の群れに向かってクウガは剣を持つ手に力を込める
バヂリ、とわずかに雷が迸った、が自らの姿を変えるまでには至らない
そのままクウガは一気に接近し、すれ違いざまに次々と剣で斬り裂いていった
すべて斬り終えたとき、クウガは剣についた血を払うような動作をする
別に血などついてはいないのだが
自分の背後には粒子となって消え去っていく仮面兵士の姿があった
「…あとは、照井さんか」
◇
「お前の兵士は倒されたぞ、まだやるか」
「うるせぇ!! いちいち勘にさわる野郎だなてめぇはぁぁぁ!!」
激昂したコマンダードーパントはコマンドソウと呼ばれる電磁刃を取り出すと一気にアクセルへと接近していく
アクセルはエンジンブレードを使用して器用にコマンドソウと切り結んだ
蛇谷自身がこういった武器になれていないことが唯一の救いか
闇雲に振るうコマンダーのソウをアクセルはエンジンブレードで受け止め、その腹部に蹴りを打ち込む
吹っ飛ばされ地面を転がっていくコマンダードーパントは態勢を立て直すと、再びコマンダードーパントは自分の周囲に仮面兵士を呼び出した
しかしアクセルは冷静にエンジンブレードのマキシマムスロットを開き、そこに一つのメモリを差し込んだ
<ENGINE><MAXIMAMDRIVE>
エンジンブレードにエネルギーを宿し、そのまま仮面兵士の群れに向かってアクセルはブレードを突き出す
その刀身からはAの文字を模った衝撃波が飛ばされ、仮面兵士たちを一撃のもとに殲滅した
「グ…! くっそぉぉ…! 俺たちは、示さないといけないんだ…! 学園都市の、連中にぃ…」
「その示し方が間違っていると何故気づかない。…ひねくれた男だ」
アクセルはゆっくりと自分の手をアクセルドライバーの左グリップのレバーへと持っていき、それを引く
<ACCEL><MAXIMAMDRIVE>
そして再び変身の際に右グリップを回していく
ブゥン、ブゥンとバイクの音が聞こえ、その音が徐々に速度を増していく
それに合わせるようにアクセルの周囲も赤く蒸気が発生し、うっすらと炎のようなエフェクトが見えてきた
ほどなくして、アクセルがコマンダードーパントへと飛んだ
そしてそのまま飛び後ろ回し蹴りの要領でアクセルは〝アクセル・グランツァー〟と呼ばれる必殺キックを打ち込んだ
アクセルが蹴りつけた場所はまるでタイヤの跡が残り、アクセルは倒れ伏すコマンダードーパントを背に呟いた
「絶望がお前の、ゴールだ」
瞬間、アクセルの背後でコマンダードーパントが爆発する
その場には変身を解除された蛇谷と、ブレイクされたコマンダーメモリだけだった
◇◇◇
「…どうしちまったよ。蛇谷」
うずくまる蛇谷に向かって黒妻は問いかけた
昔は本当に楽しかった
皆で集まって、バカやって…何気ない日々の一つ一つが宝物だった
なのに、なんで
「…仕方なかった…! 仕方なかったんだ…!!」
蛇谷は両手で自分を抱きしめるような仕草のあと、呻くように答えた
「俺たちの居場所はここしかねぇ…! ビッグスパイダーを纏めるには、俺が〝黒妻〟になるしかなかったんだ…!」
ただ彼は自分にとっての居場所を守ろうとしただけだった
だがそのために、蛇谷次雄という存在では纏まらなかった、故に、彼は黒妻綿流を騙るしかなかった
しかしそれは居場所と呼べるものではない
自分を偽ってまであり続けることが、本当に居場所と呼べるのだろうか
「だから…!! だからぁ!」
そう叫んだ時、蛇谷は懐へと手を突っ込み、鋭利なサバイバルナイフを取り出した
「今更テメェなんていらねぇんだぁぁぁぁぁ!!」
そう言ってナイフを黒妻に向かって突き出、そうとしたときに蛇谷の手に何か堅いものがブチ当てられた
それがアラタが投げつけた木刀だと気づくころには、黒妻の鉄拳が顔面にめり込み、意識が抉り取られ、地面にみっともなく倒れた
「蛇谷…」
黒妻は呟く
かつて自分の隣にいてくれた友人に
「居場所ってのは、自分が自分でいられる場所を言うんだよ…!!」
◇◇◇
その後つつがなくやってきた警備員の連中にビッグスパイダーの奴らは逮捕され、照井はそれらを指揮するためにどこかへと歩いて行った
今、この場にいるのは美琴に黒子、それにアラタ
そしてその三人の前に黒妻と固法である
「いやー。終わった終わった…」
その場で軽く息を吐くと彼は改めて固法を見る
黒妻は彼女の前に徐に両手を出した
「ほら」
それは自分を捕まえろ、という事だ
しかし固法はすぐに実行に移さず、それを躊躇うような動作を見せた
「美偉」
黒妻に後押しされ、それでも固法は悲しそうな表情を浮かべる
しかしやがて意を決したように
「黒妻綿流。貴方を、暴行傷害の容疑で拘束します」
そうして固法は彼の手に手錠を付けた
その行動を、黒妻はどこか優しげに見つめていた
「似合ってるぜ」
「…、」
そう言われ満更でもないような顔をする固法
しかし黒妻は不意に固法の胸元を覗き込み
「けど、その革ジャン、流石にもう胸きつくねぇか?」
オブラートに包むでもなくド直球に発言する
これが普通の男性なら間違いなくセクハラものだ
しかしなぜだか彼が口にするとあまりいやらしくない不思議
指摘された国法は流石に顔を赤らめたもののすぐに笑みを作り
「そりゃ毎日あれ、飲んでますから」
あれ、と言われ黒妻は一瞬訝しんだ
しかし即座にあれの正体は何かを看破し、二人同時にそれをいった
『やっぱり牛乳は、ムサシノ牛乳!』
お互いの顔を見ながら言った後、二人は楽しそうに笑いあう
その二人が本当に楽しそうで、まるで兄弟のような雰囲気だった
「…、」
思わずアラタは隣の美琴のある一点に視線を向けてしまい
「…ねぇ」
「…はっ!?」
がっつり美琴の怒りを買った
「アンタ今アタシのどこを見てたのかなぁ」
「ど、どこと申されましてもっ、え、えと…強いて言うならその慎ましい胸ですかね…?」
美琴は笑顔であるが、目で見てもはっきり分かるようにこめかみをひくつかせ、徐に手に雷を溜めた
アラタは悟る
あ、これ死んだ
「正直でよろしい…この変態がぁぁぁぁッ!!」
「おっふ!? ちょっと、落ち着こう美琴さんっ! 話せば分かる!」
「やっぱりアンタもデカい方がいいのかァァァァァ!」
「嫌ァァァァァ!」
そんな喧噪を見て黒子は思わず苦笑いをする
「本日もお姉様とお兄様は平常運転ですわねぇ」
そして黒子の視線は不意に黒妻と固法の視線と合った
少し互いに見合って、どちらともなく吹き出してしまった
笑い合っている最中、固法は自分を導いてくれた黒妻へ感謝を馳せる
先輩、ありがとう…と