とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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変身、戦闘一切なし

今回はほのぼのな感じです


誤字、脱字ございましたらご報告ください

では#17、どうぞ


#17 あすなろ園 ~寮監の恋~

「黒子ォォォッ!?」

 

常盤台女子寮にて、時刻夜

今日もルームメイト〝白井黒子〟首が狩られた

 

どさり、と地面に倒れ伏した黒子は眼鏡が光る寮監に引きずられ、寮の外に投げ出された

そして重い声色で寮監は口を開いた

 

「…寮内での能力の使用は禁止だと、何度言えば分かるんだ。…なぁ? 御坂」

 

ギラリ、と眼鏡が煌めきレンズの奥の視線が御坂美琴の身体を貫く

 

そんな寮監に美琴は怯えながら気を付けの姿勢のまま、「はっ、はひっ」なんて情けない返事しか出せなかった

 

◇◇◇

 

「まったく! いつ何時(なんどき)も、口を開けば規則! 規則!! 規則!!!」

 

Joseph's店内

白井黒子がそう愚痴りながらカップの中をストローでつつく

つつかれた反動で中に入れられていた氷が飛び出し、対面にいる美琴とアラタの方へと飛んで行った

 

「…それが寮監の仕事だろうが」

 

アラタの呟きは最もである

それを黙認していたら仕事にならない

格闘家に戦うなというようなものである

 

「それでもですの! どうにかなりませんのあのオンナ…昨日だってお姉様と戯れていただけなのに…。なんでわたくしばかりがあのような目に。…イケズゴケのヒステリーですわ」

 

制裁対象がいつも黒子なのはおそらく寮監も発端は彼女だと察しているのだろう

 

「…それはそれとしてイケズゴケって」

「本当の事ではありませんの!」

 

美琴の言葉に怯むことなくどんどん黒子は寮監に対しての罵詈雑言を連ねていく

 

「だいたい女子寮の量感なんて男っ気の欠片もない仕事なんてしてるからいつまで経っても時代に取り残されてるんですわ。その鬱憤をわたくしたちに晴らそうだなんて。ほんっとイイメイワクですわ」

「こらこら。…いくらなんでもそれは言い過ぎ―――」

 

「…ん? あ」

 

宥めようとした美琴を尻目に何気なくアラタが窓の外を見たその瞬間思わず声を洩らした

そんなアラタの声に反応し美琴と黒子もつられて窓の外へと視線をやった

そして同時に二人はテーブルに突っ伏した

何故なら先ほどまで黒子が罵詈雑言をぶちまけていた寮監が歩いていたからである

噂をすればなんとやら

 

「…おかしいですの」

 

そんな中ひっそりと黒子が呟いた

 

「…え?」

「何がだ?」

 

二人の言葉に頷きながら黒子が答えていく

 

「あの寮監がおめかしをしているんですの」

「そ、そういえば、休みになるとどこかに出かけてるらしいけど…」

「え、マジか?」

 

意外である

こう言ってはなんではあるがアラタも彼女に対しては正直きついイメージしか持っていなかったからだ

そんな彼女が休日に出かけてる、という理由は―――

 

オトコ(OTOKO)ですわっ!!」

 

『…はぁ?』

 

見事にハモってしまった

いや、その考えに行きつかなかった訳ではないがこう、面と向かって言われると…なんか、ねぇ

戸惑う二人を尻目に黒子はバッと席から立ち上がると

 

「こうしてはおられませんわお二方ぁ!」

 

一直線に出口に向かって走り去ってしまった

 

「ちょ、黒子!?」

「ったく…、あ、ごちそうさまでしたぁ!」

 

さりげなく黒子は席を立つ直前に自分の分の勘定をテーブルに置いていたのだ

同様に二人もそれぞれ五百円ずつ置いて、彼女の後を追いかけた

 

 

一定の距離を保ちつつ三人は寮監さんの後ろをスニーキングする

技術も何もあったものではないが意外にバレてはおらずすんなりと尾行には成功している

 

「…つうか、尾行してどうすんだよ」

 

アラタの問いに黒子はそれはとてもとても黒い笑みを浮かべながら

 

「あの女の弱みを握ってやりますの」

「弱みって…」

 

その後はただもうただもう黒子のマシンガンな口撃が繰り出される

 

「きっとお見合いですのよ。あんな血も涙もないロボットみたいな人でなしのイケズゴケにデートする相手なんているとお思いですの? まぁ最も、お相手の方も大変なマニアックですわよねぇー、よりにもよって賞味期限切れ寸前の女なんかと! 罰ゲームですわよホントに」

 

「…そこまで言わなくても」

「てか世話になってる人になんでそんなボロクソに言えるのかねお前は」

 

そこまで恨みは凄まじいという事か

それにしたって言い過ぎだと思う、オーバーキルである

尾行を開始して数分経ったその時、寮監はとあるお店に入って行った

ピザチェーン店である

 

「…ピザ屋でお見合い?」

「いや、流石にそれは」

 

美琴と二人、顔を見合わせる

そんな中黒子はじろ~と出入り口を睨んでいた

 

やがて出入り口から寮監が出てきた

両手にはピザの箱がそれぞれ五箱ずつ、計十箱手に持っていた

 

「…なるほど、見合いの相手はメキシコのお方…! 恐らく名前はマルコとみて間違いないですわ!!」

「…お前は何を言ってるんだ」

 

わりかし付き合いはあるが何だか白井黒子が分からなくなってきた

思わず美琴に視線をやってみたが彼女は苦笑いと共に首を横に振るばかりである

 

 

電車に揺られて数十分

彼女の後を尾行し続けるうちに三人は十三学区に辿り着いた

ていうか結構遠出してきてしまった

 

「ていうかどこまで後をつける気なのよ」

「だいぶ学区も移動したぜ?」

「マルコの顔をこの目に収めるまでですわ」

 

もう彼女の頭の中でマルコは決定事項らしい

そこからしばらく彼女の後をついていくと一つの大きな施設の中に入っていくのが見えた

入り口の看板には〝児童養護施設 あすなろ園〟と書かれている

 

思わず三人して顔を見合わせてしまった

 

 

あすなろ園とやらに入って最初に目にしたのはたくさんの児童に囲まれてる寮監の姿だった

アラタも何度か寮監と話したりはしているがあまり笑顔というものを見たことがなかった

そんな彼女が子供たちの前ではとても自然な笑顔を浮かべているのだ

黒子がその場で調べてみた情報によるとあすなろ園という養護施設はどうやらチャイルドエラー達が通っている施設のようだ

 

「…寮監のあんな顔、初めて見た」

 

呟く美琴に頷く

彼女の笑顔は本当に本心からの笑顔なのだ

感銘を受けたのは美琴やアラタだけではない

 

「知りませんでした…! まさかこんなところで寮監〝さま〟がこれほどまでに心根のお優しい方だったなんて…!」

 

待ってくれ、今〝さま〟って言わなかったか

つい先ほどまで罵詈雑言ぶちまけていた黒子が

 

「それに比べてわたくしたちはっ! イケズゴケなど人でなしなどロボットだなどと…! 自分が恥ずかしいですわっ! くろこのばかっ! ばかっ!」

 

そう言いながら黒子は手すりにぺちぺち拳をぶつけ始めた

いや、それ全部お前の口から出た言葉なんですけど

そう言いたい気持ちを抑え、アラタはハァとため息をついた

美琴も同じように苦笑いをしていたが、ふと視界にある人物が入ってきた

 

「ねぇアラタ、あれ」

 

彼女はアラタの袖をくいくいと引っ張り、視線を向ける

アラタの視界に入ってきた人物は自分たちがよく知っている人たちの姿があった

 

 

「はぁ…いくらテストの点が悪かったからボランティアだなんてさぁ…」

「何事も経験ですよ佐天さん。ほら、元気に遊ぶ子供たちを見て癒されましょうよ」

 

ジャングルジム付近にて

佐天涙子と初春飾利両名は

ほうきを持って地面のお掃除をしていた

 

「そして子供たちと遊べて楽しいじゃないですか」

「…ま、それもそっかっ」

 

ボランティアといえど子供たちに触れ合う機会はあんまりない

腕白にははしゃぐ子供たちの相手をしていると疲れる分、元気そうな笑顔が見れるからそれで良しとしよう

佐天は頷きながらおーし、と気合を入れ直しさて掃くかぁっ、としたその時

 

「二人とも、ちょっと大丈夫かな」

 

二人の目の前から眼鏡をかけた先生と園長と思われる先生はこちらに向かって歩いてきていた

眼鏡をかけている先生の名前は大圄といい、初春と佐天の通っている柵川中学校の教師でもある

今回二人はこの先生に言われ、このあすなろ園でボランティアをしているのだ

 

「まだ紹介してなかったね。この方が、園長の重之森加寿子さん」

 

大圄がすっ、と手を差し出し園長先生を紹介する

園長は大圄を見ながら

 

「この子たちが、大圄先生の生徒さんね。今日一日、よろしくお願いしますね」

 

『よろしくお願いしますッ』

 

元気よくそう挨拶をしてふと園長先生がちらり、と視線を動かして

 

「ところで…あちらの子たちはお友達?」

 

「え?」

「あちらって…」

 

園長に指摘され初春と佐天は彼女が向けた視線の方へと首を動かした

そこにはこちらに向かってすごく手を振る白井黒子と小さく笑みを浮かべる御坂美琴、そして控えめに手を振りながら笑みを浮かべている鏡祢アラタの姿が見えたのだ

 

 

「こんな所で会うなんて奇遇ですわねぇ」

 

中に入れてもらい、五人はブランコ付近に集まっていた

 

「三人もボランティアですか?」

 

と純粋な瞳で佐天がそう問いかけてきた

正直に言って尾行してましたとはさすがに言えない

 

美琴と二人「あ、あぁ…」とか「ま、まぁね…」とお茶を濁すような返答しかできなかった

一瞬そんな二人に?を浮かべるがすぐにそれを振り払った

そんな時初春が窓の向こうにいる寮監を見ながら

 

「あれって、白井さんの所の寮監さんじゃないですか?」

「いえ、これには深い深い事情がございますのよ」

 

そんな風に言いながら黒子はその寮監さんを見るべくこっそりと窓付近に移動した

それに釣られて残りのメンバーも黒子の後ろについて行った

窓の向こうで子供たちと戯れている寮監に先ほどの大圄先生が挨拶でもしているのか、彼女に向かって歩いてきていた

 

彼に声をかけられた途端、寮監の頬がどんどん赤くなっていく

 

「今日はうちの生徒も一緒なんです。至らない所があったらどんどん注意をしてくださいね」

「そ、そんな…。大圄先生の生徒を叱るだなんて…。りょ、寮生を叱った事もありませんのに…」

 

普段は規律に厳しい寮監さんがあら不思議

何ともしおらしい乙女になってしまってるではないか

 

「寮監さんもボランティアなんですねー」

「ふーん。大圄のボランティア仲間かー」

 

そんな二人の呟きにムッと反応したのが白井黒子だ

彼女は腕を組んだままちらりと首を向けて

 

「あのお方は大圄先生と申しますの?」

「? はい。私たちのクラスの担任で―――」

「なるほど…! お相手はあの方だったんですのね」

「え? お相手って?」

 

よくぞ聞いてくれました、と言わんばかりに黒子が目を輝かせる

 

「寮監様は、あの大圄先生に恋をしているのですのよ!!」

 

場が一瞬フリーズする

その後、黒子以外の四人の声がシンクロした

 

『恋ぃぃぃぃぃーッ!?』

 

別に考えが行かなかった訳ではない

だがしかしやっぱり窓越しに見る寮監の大圄さんを見るその視線はやっぱり熱を帯びている

さっきも思ったが恋する乙女状態だ

 

そんなアラタの独白を尻目にグワシッ!! と黒子は拳を握り

 

「その恋、わたくしが実らせてさしあげますわっ!」

 

「お、おい黒子…」

 

流石にこれは黒子がまたカキョッてされる未来しか見えない

こんなに未来がはっきりしているのだ

先輩として止めねばなるまい

と、思っていた矢先

 

「わー! なんか楽しそうですね!」

「私も手伝いますよっ! 白井さんっ」

 

まさかの初春、佐天が同意

 

「もぉ…面白がって」

「そうすんなり上手くいくはずないだろう」

 

「問題ありませんわっ! さぁ、お兄様もお姉様もさぁ! 作戦会議ですのっ!!」

 

そんなこんなで白井黒子主導の下、名付けて〝寮監様の恋を成就させましょう作戦〟は開始された

 

…と、ぶっちゃけその時のアラタはどうせ寮監さんにまた怒られて終わるだろう、などと軽く考えていた

そう言った色恋沙汰に変に干渉すると余計こじれてややこしくなるに違いないと思っているからだ

少なくとも黒妻さんと固法の時はそうだったし

 

そう思っていたアラタの考えは夜、美琴から来た一本の電話によって見事に覆された

 

「…寮監さんが乗った!?」

 

夜も更ける午後九時付近

暇だからゲームでもして時間を潰そうと考えていた時、アラタの携帯が鳴った

電話の相手は御坂美琴で、彼女は思いもしない言葉を言ってきたのだ

 

〝寮監が黒子の作戦に乗った〟という事に

 

実際は黒子が寮監の悩み、つまり恋の悩みの相談に乗るという形ではあるが相手が黒子な以上、作戦を発動するだろう

そして先ほどの言葉に戻る

 

<うん…あたしもまさかそんな展開になるなんて思わなくて>

「…まぁ、寮監さんも女性だからねぇ」

 

人に好意を抱くときとはちょっとしたキッカケが必要だ

そのキッカケをトリガーに、その人に興味を持ち徐々に好きという感情へと変わっていく

今回はボランティアがトリガーだったのだろう

そこで寮監は大圄という異性に出会い、好意を持った…

ほとんどが推測だがきっとこんな感じのはずだ

 

<…次の休みなんだけど、大丈夫?>

「問題ない。乗りかかった、どころかがっつり乗った船だ。俺だけ関係ないとは言えないよ」

<ありがとう、そう言ってくれると助かるわ。…じゃあまた>

 

短く告げて携帯は切れた

携帯をテーブルに置くとアラタは背伸びをする

子供は苦手なわけではないが先生の真似事がうまく出来るか多少不安になってくる

ふと、思い立ったアラタは携帯を手に取り、ある人物へと電話をかけた

 

 

で当日

 

「今日一日、皆と一緒に遊んでくれるボランティアのお兄さんお姉さんたちですよー」

 

園長先生にそう紹介され、『よろしくお願いしまーすッ』と礼をして挨拶を交わす

あすなろ園のエプロンを着込んでいるのは初春、佐天に黒子、そして美琴にアラタ…と、神那賀の五人

 

 

「…唐突に呼び出して何事かと思ったら」

「悪いな。急にこんなん頼んで」

 

苦笑いをしながら愚痴る神那賀にアラタはちらりと視線をやった

 

「大丈夫よ。特にやることもなかったし。子供も好きだし」

「お、それじゃ結果オーライって奴かな」

「チョ-シに乗んないの」

 

そんなやり取りを少し微妙な顔つきで美琴が睨むように見ていた事をアラタは気づいていなかった

と、部屋の隅で何やら相談というか打ち合わせをしていた黒子と寮監の二人に目がいった

一言二言会話を交わした後、黒子が咳払いをしながら四人の前に立ち、宣言する

 

「それではさっそく、作戦(オペレーション)を実行いたしますわよっ!」

 

何その名称

 

 

黒子の指示で寮監さんを厨房へと移動させる

そこでは今日開かれるお誕生日会に使用されるケーキを作るための材料があるのだが

連れて行った初春が戻ってきて黒子にそれを報告した

 

「寮監さん、連れて行きましたよ」

「ご苦労さまですの。これでステップ1はクリアですわね」

 

黒子が考えた作戦はこうだ

まず厨房に寮監を放り込み、そしてその場に大圄先生をブチ込む

そして二人の共同作業にて愛を深め合う…

 

まぁ要約したらそんな感じ

早い話一緒に作業すれば二人の仲も進展するはずだ、というようなものだ

 

「つか意外だな。黒子がそんなわりかしまともな作戦を思いつくなんて」

「あ、それには同感。てっきりまたわけわかんない小道具でも使うのかなって思ってたけど」

「まぁ! お二方ったら。普段わたくしにどんなイメージをお持ちですの」

 

それを言われると言葉につまるのだが

二人して苦笑いをしているとエプロンを不意にくいくいと引っ張られる感覚があった

 

「おにいちゃーん、あそぼー」

 

気づけばいつの間にか子供たちがアラタと美琴の前に集まってきていたのだ

 

「ではお姉様、お兄様。お願いしますわ」

 

黒子に促され二人は頷く

二人は打ち合わせで子供たちの遊び相手を引き受けていたのだ

 

「んじゃ行くか」

「おっけー。じゃあ、皆行こっかー?」

『わーいっ!!』

 

そう元気に叫ぶ子供たちに似たような声を、どこかで聞いた気がした

 

 

子供たちは外でアラタと美琴に任せて、厨房には今寮監と大圄先生が愛の共同作業(黒子命名)をしているハズだ

初春、佐天に黒子、そして神那賀の四人は椅子に座って、絶賛休憩中

 

「…うまくやってますかねぇ、大圄先生と寮監さん」

 

ほんわかと呟く初春

こういった色恋沙汰には疎いがそれで二人が進展するなら安い…かは分からないが

 

「まぁ見た感じだと結構いい雰囲気だったし、上手くいってくれると手伝った甲斐があったって胸張れるね」

 

初春の近くで立っていた神那賀はそんな事を言いながら笑みを作る

初春と佐天両名は今回が神那賀と初コンタクトになる

しかし明るい佐天と朗らか笑顔な初春にすぐに打ち解けて仲良くなり、アドレスも交換済みだ

 

「でもさ」

 

そんな時ふと思い立った佐天が口を開いた

 

「あたし達って成功前提で作戦進めてるけどさ、これ失敗したらどうすんですか?」

 

そんな事を言われ神那賀はそう言えば、と考える

確かにこの作戦はセッティング云々は黒子を中心に自分たちだが、実質二人になれるような場所を用意するだけで成功するか否かは寮監にかかっている

つまりはいくら自分たちががんばっても肝心の寮監がコケてしまったらそれっきりだ

そんな疑問を払拭するように黒子が

 

「それは―――」

 

 

 

「にゃわーーーーーッ!!?」

 

 

 

そんな黒子の呟きを遮るかのように厨房にいる寮監がそんな叫びをあげた

 

「今の、寮監さんの声でしたよね?」

「一体なにが…」

「え、けどケーキ作るのにそんな叫ぶようなことって…」

 

三人それぞれ口々に不安の声を上げるがただ一人、黒子は笑みを崩さない

 

「心配ご無用ですわ。こういった不測の事態に対する策はちゃんと用意してますの」

 

 

黒子についていき、厨房のドアの前に到着

 

そして黒子は扉に手をかけて勢いよく開けると

 

「あらまぁなんという事でしょうー!?(棒)」

「ちょ、なにこれ!?」

 

佐天の驚きももっともだ

厨房はどういう訳か小麦粉が周囲にばら撒かれており、寮監も大圄も真っ白だ

そしてその中心にいた寮監が一番白かった

 

「わ、私がいけないんだ。小麦粉を開けようとしたら…」

「…小麦粉を開けるだけでそんな…」

 

神那賀が呟くが、自分もかつてポテトチップスを開けようとしてエライ事になったことを覚えている

それを思い出して苦笑いする

 

「だ、大丈夫ですよ、またやり直せば。ね? 先生」

 

「…だ、大圄先生…」

 

一瞬ではあるものの、二人を取り巻く空気多少変わった気がする

 

「それではとても間に合いませんわっ!」

 

間に入るように黒子が乱入する

そして黒子は笑みを浮かべて大圄に

 

「ささ、今すぐケーキを買って来て下さいですのっ」

「そ、それもそうだね。それじゃ―――」

 

そう言って大圄先生は買いに出かけようとした彼を

 

「ちょっとお待ちくださいな」

 

黒子が呼び止めた

そして彼女は寮監を開いた両手で指し示し

 

「寮監さんがとっても美味しいケーキ屋さんをご存知ですの」

「なぁ!? 白井ッ!!」

 

あまりにも無茶ぶりな要求に寮監は黒子の肩を掴むが

 

「大丈夫ですわ。こちらの三人がサポートしますから」

 

降られた三人は内心〝え!?〟とドッキリした

別段反論する気はなかったのだが寮監がちらりとこちらを見て

 

「…本当か?」

 

と小さく呟いた

それに慌てて三人は軍人ヨロシク敬礼の体制を取りながら

 

『も、モチロンデスっ!!』

 

若干冷や汗を流しつつそう答えたのだった

 

◇◇◇

 

一方外で子供たちと戯れる組

 

(なにやってんだろあたし…)

 

笑みを浮かべながら鬼ごっこをしてる美琴はそんな事を思っていた

そんな時自分の腰付近に衝撃があった

それは一人の女の子が抱き着いてきたからだ

 

「捕まえたっ」

「よーし、今度は美琴お姉ちゃんが鬼だぞー」

 

その子供の近くにいたアラタが自分を指しながらそんな事を言う

普段呼び捨てで名前を呼ぶ人物にそんなお姉ちゃん付きで呼ばれるとなんだかすごくこそばゆい

美琴はふう、と息を吐きながら小さく笑みを浮かべ

 

「よーし、今度はあたしが鬼かー。ほらぁ、早く逃げないと…鬼になっちゃうぞぉっ!」

 

そう言って両手で威嚇するようなポーズをして子供たちへと視線をやる

嬉しそうに「わーっ!」と逃げ回る子供たちを見ていると、〝ある子供たち〟の姿が頭の中で蘇った

 

木山春生の子供たちだ

 

〝あの子たちが助かるならなんだってする! 悪魔にだって魂を売る!! たとえ世界を敵に回しても!! 私は、諦めるわけにはいかないんだぁぁっ!!〟

 

「…、」

 

そんな子供たちを見て、どことなく歯がゆい気持ちになる

もし未来が変わっていたら、あの子たちもこんな風に笑って遊んだ日が来たのだろうか

 

「美琴」

 

ふとアラタに名前を呼ばれた

先ほどとは違い、呼び捨てでフランクな呼び方

美琴は彼の方へと向き直る

 

「…あの子たち見てたらさ、木山たちの教え子たちの事…思い出しちゃってさ」

「あぁ、そっか…。どこかで見た事あるな…なんて思ってたら、あの子たちだったのか」

 

頭で再生される元気だったあの子たち

木山春生を信じ、木山春生がすべてを捨ててまで助けようとした、そんな子供たち

 

「…、やめだやめこの話題。…沈んで話になんねぇよ」

「…うん、そうね」

 

どこかぎこちない様子でアラタが呟いたのに美琴は頷く

こんな所でしんみりとしていてもしょうがない

今は、前を見て歩かなければいけないからだ

 

よし、と美琴は一つ息を吐くと同時にガバッとアラタに抱き着いた

 

「なばっ!?」

 

アラタは当然ながら驚く

美琴は上目遣いでアラタの表情を見て一言

 

「…つーかまーえた」

「は? …あ!? おまっ!?」

 

すぐさま美琴は離れて子供たちの方へと逃走する

そしてアラタを指差して

 

「さぁ、今度はアラタが鬼だかんねっ!」

 

そう元気に宣言して美琴は子供たちと一緒に逃げ回る

 

どこか苦い笑顔を浮かべる彼を見て、不意に美琴も笑顔になる

いつしか自分が無意識に、彼に惹かれていることに、御坂美琴はまだ、気づいていない

 

◇◇◇

 

その後初春たちもつつがなく戻り、その手にはケーキの入った箱が握られていた

しかし変だったのは五人の表情である

どことなく疲れているようなそんな表情

 

佐天は語る

 

「…何とかケーキは買えましたけど、その過程がもぉ大変で大変で…」

 

なんでも犬のしっぽをうっかり踏んでしまいエライ事になってしまったり、どういう事か道を間違えるわ、寮監さんはふらっと川に落ちてしまいそうになるわetc…

 

「…なんでケーキ買いに行くだけでそんな冒険してんだよ」

「アラタ、そこんとこは聞かないで」

 

切実な神那賀の言葉にアラタは口を紡ぐ

確かに変に追及したら後々メンドイことになりそうである

そんなハプニングを乗り越えて、今目の前にはテーブル二つをその上にテーブルクロスをひいて、注文したピザや先ほど買ってきたケーキをテーブルの上に乗せてお誕生日会の準備は万全だ

 

いずれにせよ結果オーライだ

 

「さぁ、それじゃいただきましょうねぇ」

 

園長先生がそう言うと子供たちが元気よく『わーいっ!』と返事をする

 

「よかったですね、皆、喜んでくれて」

 

大圄先生がそう言った

言葉を聞いた寮監は内心恥ずかしい気持ちになりながら徐に眼鏡を取って、レンズを拭く

 

「すいません。…ちっともお役にたてなくて…―――」

 

「…あれ?」

 

不意に大圄が口を開いた

その動作に寮監は「?」と怪訝な顔をして大圄を見る

 

「…眼鏡、ないほうが良いですね」

「…えっ!?」

「あ、いや…ある方も似合ってますけど、裸眼の先生も素敵だなって」

 

寮監の顔がみるみる赤くなっていく

そりゃそうだ、気になる異性からそんな事言われてしまっては赤くならざるを得ないではないか

そんな寮監の気分も一人の子供の「あーっ!」なんて言う言葉で現実に戻される

 

「おねえさんとだいごせんせい、ラブラブだーっ!」

 

『ラブラブーっ!!』

 

直後に子供たち全員からそうリピートされる

純真な子供たちとはいえど、そう大っぴらに口にされるとさすがに恥ずかしい

 

「こ、こらっ! 大人をからかわないのっ!」

「そ、そうだよ! 第一、僕なんかが相手じゃ先生に申し訳がないよ…」

 

そうはにかみながら答える大圄を黒子は逃さなかった

すかさず続ける

 

「では、大圄先生はどのような方が理想ですの?」

 

「んー?… そうだなぁ…」

 

そんな黒子の質問に大圄は真面目に応えようとする

多分この人、いい旦那になれるな、と内心アラタは勝手に思う

 

「…尊敬できる人、かな」

「尊敬、と仰られますと…具体的には…?」

「そうだな…自分よりも、他人の為に行動できる人…、かな」

「なるほどー…」

 

といった会話がなされているとき、背を向けていた寮監は顔を赤くしていた

先ほど子供たちから茶化されたから顔を合わしづらい

どこまでも、優しい方だな…なんて思いながらカタカタ、という音に現実に戻された

 

徐々に揺れが強くなりやがてテーブルに乗っていたコップに入っていたジュースが震えはじめる

 

「地震!?」

 

アラタが明確に言葉にしたことで子供たちが恐怖に震え、怯えはじめる

混乱する子供たちにどう対応していいか分からず、大圄も美琴たちも困っていたその時だ

 

「動くなっ!」

 

寮監の張りのある声が室内に響き渡った

 

「落ち着いてテーブルの下に隠れろ、ゆっくりな…!」

 

寮監の声は不思議と浸透し子供たちを含め美琴たちも指示に従いテーブルの下に潜り込み、隠れる

しかし一人の子供が指示を聞かず、混乱したまま走って逃げだそうとした

そして、ポットが乗っているテーブルに肩をぶつけてしまう

ぶつかった拍子にポッドがぐらり、と揺れて子供へと落下していく

 

「危ない―――!!」

 

大圄先生の言葉と同時、寮監が駆けていた

ガンっ! と何かがぶつかった音が聞こえる

 

そんなことが怒っているとは知らずテーブルの下へと潜り込んでいた組

 

「…止まった?」

 

ボソリと神那賀が呟く

 

「最近多いですよね…」

 

神那賀に初春が答えた

それに内心アラタも同意する

さほど頻繁に起きるわけでもないのだが妙に地震が多い気がする

 

「先生! 先生っ!!」

 

ふと大圄の声に反応した

声の方を見るとそこには寮監が自分の身体を盾にするように子供を抱きしめていた

その傍らにはからのポッドが落ちており、地震の揺れで落ちたのか、子供がぶつかったことで落ちたのかは分からないが、どうやら寮監はそのポッドから子供を守ったようだ

幸いにも空だったおかげで大事には至らなかったみたいだ

 

「先生、怪我は―――」

「こら! だから落ち着けって言ったでしょう」

 

寮監は守っていた子供へ一喝する

それは本当に子供を心配していたことが分かる一言だ

怒られた子供はしゅん、となり「ごめんなさい…」と呟いた

その後で寮監は優しく微笑み

 

「怪我はない?」

「うん」

 

そのやり取りはどこか、仲睦まじい家族を連想させた

 

「先生」

「! だ、大圄、先生…」

 

寮監と子供を心配して駆け寄った大圄先生が笑顔を作る

 

「流石です。…尊敬します」

 

微笑み交じりで呟いたそんな言葉

もう寮監の心は、大圄(かれ)の事でいっぱいだった

 

 

その後つつがなくお誕生日会は終了した

ちなみに終始寮監はぽわわんとしたままだった

 

「…あれでフラグは立ったのだろうか」

 

学生寮自室にて

すっかり時間は八時を迎え、アラタはテレビをなんとなく見ながら少し遅い夕食を食べていた

メニューは白米とチンジャオロースという簡素な品

作り方は天道に教えてもらったものの、まだまだ彼の味には程遠い

肉とピーマンを箸ではさみ、それを白米の上に乗せてそれをかきこむ

 

「…ん、やっぱ俺が作るより天道のが美味いなー」

 

などと言っていると携帯が震えた

誰だなどと思いながら携帯を手に取るとそこには黒子の名前があった

…猛烈に嫌な予感がしたがそれらを振り払い電話に出た

 

<お兄様! 今お時間よろしいですのっ!?>

 

なんかテンション高い黒子が電話に出た

どうしたのだろうかという事を問うてみる

 

「…なんだ? やけに息が荒い気がするけど」

<寮監様がプロポーズをお受けになるんであられますのよっ!!>

 

うん、意味が分からない

とりあえず夕食にラップをかけて黒子の迎えを待つことにした

 

そしてその数分後に黒子は来た

傍らには美琴もおり、彼女もやれやれといった顔つきでお手上げのポーズをする

しかし隣にいる、という事でおそらく寮監がらみは本当なのだろう

 

・・・

 

んで、AGITO店内

 

大圄と向かい合って座っている寮監を少し離れた席で見守る

いつの間にか佐天と初春も合流しており、すっかり観戦ムードである

 

ちなみに美琴から話を聞いたところによると寮監さんは〝相談に乗ってくれ〟と大圄先生に誘われたらしいのだ

つまり本当にプロポーズなのかはわからないのだが…

 

「いよいよ大詰めですねっ白井さん」

「なんかあたしまでドキドキしてきたよ…!」

 

すっかりテンションマックスなお二人

 

「…けど、なんでレストラン?」

「全く…これだから彼女いない歴=年齢な男は困りますの」

 

さりげなくAGITOがディスられた

 

「ですよね~、やっぱりプロポーズって言えば、海辺の綺麗なレストランですよねぇ…」

「えー? 夜景がきれいなレストランでしょ? ね、御坂さんっ」

 

美琴に話を振るのは良いんだけどそれ以上翔一さんの店ディスらないで、頼むから

初春と佐天が示す条件全く満たしてないんよこのレストラン

と、そこまで考えてふと一個の仮説が思いついた

 

ここに呼んだ、という事はもしかして本当に大圄先生は寮監さんに相談しに来ただけなのではないか、という事

仮にこれはプロポーズと仮定してもはっきり言ってムードも減ったくれもないこんな場所に呼び出すことは…もしかしたら…

 

さりげなくアラタもAGITOをディスっているが、この際気にしない

 

「そ、そうねぇ…それで、プロポーズをOKしたら、海から花火が上がるのとかいいかなぁ…」

 

そんなアラタの思考を余所に先ほど佐天に降られた話題を妄想全開で返す美琴

 

『いや、それはちょっと…』

「…え!?」

 

初春、佐天がハモり、黒子も首をかしげてしまう

意外にも御坂美琴はロマンチックだった

 

「あ、じゃアラタさんだったらどんなプロポーズしますか?」

「は? え、俺にも振るの?」

 

不意に佐天に振られて考え込むアラタ

女子だけで終わってしまうだろうと思っていたためにこの不意打ちは想定外だ

 

「…そうさなぁ…。俺だったら変に飾らないで真っ直ぐ言うかも。演出なんかしてこけたら恥ずかしいしね」

「もう、アラタさんってば意外にロマンがわかってませんっ」

 

なんか初春に怒られた

…変に凝るより真っ直ぐ向かい合った方が伝わると思ったんだけど、ダメみたいだ

 

―――そ、それで…私に相談って…?

 

聞こえてきた寮監の声に慌てて身を低くする

そして二人の会話に耳を澄ませた―――

 

 

「…えぇ。単刀直入に聞きますけど、結婚相手が年下って…どう思われますか?」

「!? け、けけけけ結婚? 相手、ですか?」

「はい。…例えるなら僕のような―――」

「!?!?!?」

 

一瞬会話が止まる

そしてその後寮監から会話を再開した

 

「と、歳は関係ないと思います…。その人の事を、尊敬、出来るなら…」

「…やっぱり。先生なら、そう言ってくれると思ってました。…ありがとうございます、急にこんな変な事聞いて」

「…い、いえ…」

 

寮監は頬を赤くしながらそう返答した

 

そして隠れてそれを聞いていた四人はそれぞれガッツポーズをする

その中で一人、アラタだけはどこか微妙な顔をしていた

 

 

パァンっ!!

 

『おめでとうございまーすッ!』

 

寮監が帰ってくると同時にクラッカーの音が常盤台女子寮に響いた

ついさっきコンビニで購入した簡素なクラッカーではあるが、祝うのにはこれで十分なはずだ

それを五人は手で持って寮監の帰宅を待ってタイミングよく引っ張ったのだ

引っ張るのと同時、そんな謝辞の言葉を女性陣が口をそろえる

 

「…見てたのか」

 

顔を赤くしながらそんな言葉を発する

 

「やりましたわね寮監様っ、あとはご両親へ挨拶の後、式場を―――」

「白井」

「―――? はい…なんでございましょう」

「私の頬をつねってくれ。…夢なら早く覚めたい」

 

どうやら寮監は本当に信じられないようで、先ほどから天井の一点を見て惚けているようだ

黒子は一つ咳払いをしたあと、心を鬼にして寮監の頬をつまみ、ぐいーっと引っ張る

 

「…いはい(いたい)いはいろひらい(いたいぞしらい)

 

これは紛れもない真実なんだと寮監は多分理解しただろう

ほどなく黒子も手を話し寮監はつねられた頬をさすりながら

 

「…それともう一つ、頼みたいことがあるんだ。…ちゃんと、返事をしたいから…」

 

頼みたい事

それは服諸々のコーディネートだった

 

なんの服を着ていったらいいのか、どんなお化粧したらいいか…

そう言ったことを初春や佐天、黒子と美琴と話し合う寮監の顔は紛れもない女の子だった

その分、アラタの辿り着いた仮説を寮監に言い出すことが出来なかった

 

化粧は大介に頼み込み、最高のメイクをしてくれることを約束してくれた

 

「風間流、奥儀…〝究極なる美しき化粧(アルティメット・メイクアップ)〟ッ!!」

 

その手つきはまさにプロ級、いやプロという肩書さえ彼には失礼なのかもしれない

ヒカリのサポートも相まってメイクしている大介の手はおろか、寮監の顔すらも見れない

割と大介の店にはよく行くが、こんな奥儀なんて初めて見る

そしてメイクアップが終わると、そこには見違えた寮監の姿があった

 

「行けますって! これなら大圄なんてちょちょいのちょいですよっ!」

「風間さんの技も見れて…! 今日は幸せですっ!」

 

ヒートアップしまくしの初春、佐天

眼鏡も外してパッと見の外見なら寮監だってわからないのかもしれない

コーディネートを終えた寮監は、まっすぐあすなろ園へと向かう

 

子供たちと一緒に遊んでいる途中の大圄を寮監は呼び止めて、ブランコへと移動した

 

「…今日はなんだかいつもと雰囲気が違いますね」

「…あの、こないだの話なんですけど…」

 

そんな二人を物陰から、五人がうかがっていた

ここまで関わってしまったのだ、こうなったら最後まで見届ける義務があると思うのだ

 

「あぁ、その時はありがとうございます。…先生のおかげで、やっと決心がつきました」

 

そう言いながら大圄は寮監にある箱を見せて中身を見せた

それは指輪だった

一見するとただの指輪かもしれないがこういった状況ならその指輪がどんな指輪か、一目瞭然だった

結婚指輪である

 

「…〝彼女〟に、プロポーズをしようと思ってまして」

「…〝彼女〟?」

 

大圄は「えぇ」と頷きながらある人物へと視線を向ける

その視線の先には、子供たちと遊んでいる一人の女性の姿があった

園長先生だ

 

「…彼女、…て」

「貴女に、歳は関係ないって言われて、勇気を貰ったんです。…本当に、ありがとうございます」

 

大圄はそう寮監に感謝の言葉を述べる

きっとそれは紛れもない本心なのだろう

そして、彼は、寮監の気持ちに気づいていないことも

だから寮監がおめかししていても、普段と態度を崩すことはなかった

 

「…ッ。いえ、よかった、です。…お役にたてたなら」

 

その時寮監はどんな顔をしていたことか

ここからでは二人の後姿しか見ることが出来ず、その表情は読めない

 

「…大圄先生、お幸せに」

 

その言葉を言うのに、どれほどの決意を要したことか

きっと彼女は泣きたかったはずだ

けどそれは、彼が尊敬している寮監の姿を裏切ることになってしまう

だから、泣くなんてことは出来なかった

 

「…上手くいくと思ったのに…」

「なんだかなぁ…」

 

初春と佐天がどこか煮え切らない様子でそう呟いた

煮え切らないと言えばアラタも同じである

自分の想像した通りになってしまうとは思わなんだ

 

「…そのうち、良い事があるよ」

「寮監様…優しいですものね」

 

どこか寂しげな様子で子供たちの方へ向かっていく寮監の背中を見ながら美琴と黒子が呟く

そんな寮監をアラタは見つめ

 

「…まぁ、とりあえず…お疲れ様だな」

 

ここまで奮闘してくれた寮監に小さく感謝と称賛を

 

「さぁ、皆、今日は何して遊ぶー?」

 

耳に子供たちを戯れる寮監の明るい声が聞こえた 

こうして、〝寮監様の恋を成就させましょう作戦〟は終わりを告げた

 

 

 

 

 

 

おまけ

 

白井黒子は逃亡していた

しかしそんな黒子を逃がさないと伸びた手が黒子を捕える

 

「た、たった一秒遅れただけではありましぇんかっ!?」

 

黒子は言う

しかし

 

「たとえ一秒だろうとコンマ一秒だろうと、門限を破ったことにかわりはないだろ、なぁ…」

 

寮監は巧みな手さばきで首を狩る態勢を作ると黒子の頬をつまむ

 

「覚悟は出来てるなぁ、白井ぃ…」

 

その言葉にはなんかいろいろ含んでいそうな気がするが

 

一方階段を下りて急いで黒子を救助しようと駆ける

が、ダメ

 

「黒子!?」

 

コキッ…!!

 

―――ぎゃああああああッ!?―――

 

―――黒子ォォォォォッ!?―――

 

常盤台女子寮の夜は更けていく―――

 

 

 

おまけのおまけ

 

「ねぇ、アラタくん」

「? なんですか翔一さん」

 

朝時のAGITO店内

来店したアラタに翔一は話しかけてきた

 

「…僕の店、そんなにムードないかなぁ」

「…え?」

 

気にしてらした

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