とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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今回もノーバトル

いろいろネタを入れようと頑張ってみました
そんな結果がコレだよ

相変わらずな出来ですがお付き合いください

誤字、脱字を見かけましたら報告を

では、どうぞ


#18 常盤台の盛夏祭

 

常盤台の女子寮、とある部屋にて

 

「…ハァ…」

 

御坂美琴は自分のベッドでぐだーっ、と項垂れていてため息をついた

彼女は器用に布団にくるまり、わずかに顔を出すスペースを出し、そこからひょっこり顔を出している

 

ほどなくしてカーテンが開かれた

窓から差し込む光に僅かながら目を細める

 

「朝ですわお姉様。ついにこの日がやってきたのですわよっ」

 

カーテンを開けたのは相部屋相手でもある後輩の白井黒子

何故だか彼女はすでに制服に着替えており準備万端である

 

「ついにって…」

 

対する美琴はローテンション

僅かばかりに出した場所から呟いた

 

「今日はお姉様の清々しき晴れ舞台っ、と、言っても晴れ舞台などお姉様にとってはいつもの事でしょうけど…わたくしはもちろん、寮生一同この日をまっておりましたのですよっ」

 

そう言う黒子の眼はひときわ輝いて見えた

はふぅ、と一度息を吐いて美琴はもぞもぞとくるまったまま器用に起き上がり

 

「…別にわたしじゃなくったって相応しい人たくさんいるだろうに…」

「まぁお姉様ったらご謙遜を。常盤台に常盤台に腕自慢多しといえど、ここはぜひお姉様にと満場一致だってだはありませんか」

 

あぁ、そういえばそうだったと美琴は心の中で思い出す

そして決まったその時には思わず食蜂に振ってはみたものの―――

 

―――ごめんなさぁい…私、そういうのホント苦手でぇ…―――

 

と割とマジな視線でそう言われた

あれは本当にできない目線だ

仕方なく美琴もそれを受け入れたのだ

 

「…まぁ、決まった以上は仕方ないけど…」

「それでこそお姉様っ。さぁ、お召変えお召変え~っと」

 

そう言いながら黒子は布団を引っぺがし自然な手つきで美琴のパジャマのボタンに手をかけようと

したところで思いきりぶん殴られて「にゃうっ!?」と反対側の黒子自身のベッドに吹っ飛ばされた

 

「言われんでもちゃんとやるわよっ! …決まった以上は」

 

吹っ飛ばした体制そのままに、わずかばかり頬を染めた

 

◇◇◇

 

数日前に遡る

 

その日特にやる事もなかったアラタは自分の部屋でテレビでも見ながら怠惰な時間を過ごしていた

そんな時である

 

ピンポーンと自分の部屋のインターホンは鳴らされた

こんな時間に珍しいと思いながら扉を開けるとその先にはこれまた珍しい客人がいた

御坂美琴である

どういう訳だか彼女の頬はトマトのみたいに赤く心なしか若干プルプル震えている

恥ずかしさから来てるのだろうか

 

「い、い、今時間空いてるかしらっ」

「え? あ、あぁ…問題ないけど」

「だい、大丈夫よ、すぐ終わるからっ」

 

いつもなら軽く茶化しているかもだがなんか今回に限ってそんなもんやった日にゃ確実に黒こげにされる未来がように想像できた

 

と、そんな時ビシッとほど紙を差し出してきた

大きく書かれている文字〝盛夏祭〟とある

 

「…これは?」

「こ、今度常盤台女子寮が一般開放される日よっ。…それの招待券」

「マジで? わざわざありがとうな」

 

そん紙を受け取る

常盤台にはあんまり行ったことはないが、今度は堂々と入れるのだ

その日は十分に堪能したい

 

「まぁとりあえずサンキュ。ところで美琴は出し物とかすんのか?」

「ふぇっ!? さ、さぁ、どうでしょうんねぇ…ははは」

 

乾いた笑いを浮かべる美琴

正直出し物かどうかはわからないが、何らかのステージはするのだろう

しかしそれを聞くのは流石に野暮だと感じたアラタはそんな美琴に苦笑いを浮かべながら

 

「ありがとな。楽しみにしてるぜ美琴」

「っ…。え、えぇ、楽しみにしてなさいっ」

 

美琴はそう言うと若干笑みを見せてそのまま階段の方へと走って行った

アラタはそのまま部屋へと戻り、さて夕食の支度でもするか、と厨房に向かったところで

 

 

「むぁいかぁぁぁぁぁッ!! 愛してるんだぜェぇいっ!」

 

 

隣人のやけにテンションの高いそんな声を聞いた

アラタの友人、土御門元春である

別名〝シスコン軍曹〟

この学園都市であれだけ義妹想いなのは彼を覗いてアラタは知らない

恐らく義妹の舞夏に盛夏祭のチケットを渡されてそれはもう歓喜しているのだろう

 

そんな仲睦まじい喧噪を聞きながらアラタはテレビに集中した

しかしその内心ではその盛夏祭とやらにワクワクしていた

ワクワクして眠りにつけないなんて久しぶりだった

 

◇◇◇

 

盛夏祭当日、常盤台女子寮にて

 

ずらりっ、とメイド服を着込んだ女子生徒たちが寮監の言葉に耳を傾ける

 

「いいか。普段一般開放されていない常盤台中学女子寮が、年に一度解放される日…! それが〝盛夏祭〟だっ!」

 

そのまま眼鏡をきらりと光らせる

 

「今日は諸君らが招待した大事なお客様がご来訪する日…寮生として誇りを持ち、くれぐれも粗相なきようおもてなしするように!」

 

『はいっ!』

 

そんな寮監が檄を飛ばしていた最中

御坂美琴は入り口付近でパンフレットを配っていた

当然彼女もメイド服である

 

「…別にこの服でなくてももてなすことは出来ると思うんだけどなぁ…」

 

そう言いながら美琴は自分が今着ているメイド服を見下ろしながらそんな事を呟いた

あまり気慣れていないこういったフリフリの洋服は少々動きづらい

…別に嫌いではない、むしろ好きだこういう服

 

気を取り直して美琴は来訪しているお客様にパンフレットを配る作業を再開する

 

「いらっしゃいませー! こちら、本日のパンフレットになりますー!」

「…美琴か。最初誰だか分らなかったぞ」

 

作り笑顔が引きつる

思いっきり聞き覚えのある声が耳に聞こえた気がした

ゆっくり目を開くとそこにはパンフレットを受け取った鏡祢アラタが立っていた

 

「…い、いつの間に来たのよ」

「ついさっき。…似合ってんじゃん、メイド服」

「…ありがと」

 

少しばかり頬を染めて応対する

お世辞といえど、言われて悪い気はしないものだ

 

「写真とか撮るか? 記念に」

「何の記念よ。あと寮生の撮影は禁止されてるから駄目よ」

 

しかしその直後カシャッと、どういう訳だかシャッターを切る音が聞こえた

美琴は引きつった笑顔で

 

「…だから禁止だって言ってるでしょうが」

「いや、俺じゃねぇって」

 

そう言われて美琴は作り笑顔をやめ目を開く

美琴の視界に入ってきたのはかしゃりかしゃりとシャッターを切りまくる我が後輩白井黒子の姿があった

 

「FANTASTIC…ですわっ、これはもうPPましましですの…! オウYES…」

 

どこぞのジャーナリスト型ゾンビ殲滅兵器みたいなことを口走りながら黒子はシャッターを切るのをやめない

 

「YESじゃないわよ! なんでアンタが撮ってんのよ!!」

「誤解なさらずお姉様…。今宵の黒子は盛夏祭の記録係…!」

 

そう言いながら右腕にかかっている記録係と書かれた腕章を見せつける

…一番やらせてはいけない仕事なのではなかろうか

 

「来年以降の開催に向けてこうして参考にと写真に残しておりますのよ? …ですがお姉様」

 

黒子は撮ったデータに目をやりながらどこか不満げな表情を浮かべる

 

「メイド服にまで短パンを吐くのは流石に如何なものかと…せめて普通の下着をお履きになられては―――」

 

相変わらず黒子は黒子だった

美琴はこめかみをひくつかせやがて雷を放出し、黒子のカメラを破壊する

「にゅわっ!?」と黒子は慌ててカメラから手を離した

 

「…来年以降の開催になんで私のそんな写真必要なのか教えてくれるかなぁ…!」

 

乾いた笑いで美琴は黒子のほっぺをにゅーんと伸ばし始めた

かつてJoseph's店内で伸ばしたほどではないがやはり黒子は伸びる

ていうかこの流れもはやテンプレとなってないだろうか

 

そんな光景を苦笑い交じりに眺めていたら

 

「こんにちわーっ」

 

再び聞き覚えのある声

声の方に向くとよく知る二人の人物が私服姿で立っていた

初春飾利と佐天涙子である

 

「相変わらずですねぇ、あの二人は」

 

佐天の言葉にアラタはまた苦笑いを浮かべて応えた

 

 

「わぁぁ…!!」

 

常盤台女子寮のドレスアップをした内装を見て初春のテンションはどんどん上がっていく

 

「ありがとうございます白井さんっ!盛夏祭っ! 何と言っても常盤台中の寮祭ですっ!! きっと想像を超えた何かが待ち受けてるに違いないんですっ!!」

 

マックスにまで上り詰めた初春の後ろからどことなく炎が見えた

これが執念というものか

 

「えぇ、その期待を裏切らないとても素晴らしい催し物もご用意してますからどうぞ楽しんでいってくださいまし」

 

何故少し美琴をチラ見しながらその言葉を紡いだのか

アラタの疑念をスルーしつつ、黒子は一度咳払いをして

 

「では改めて、ご案内を―――」

 

 

「ちょっと待てー」

 

 

そんな黒子を呼びとめる一つの声色

声の方へ向くとそこにはメイド服を着た美琴と同年代っぽい女の子が立っていた

しかしその女の子はアラタもよく見知っている

 

「お、アラタもいたかー」

「おう。土御門はどうした」

「アニキなら今は自由に見て回ってるんじゃないかなー。…と、忘れる所だった。白井、手伝いはどうするのだー」

「…わ、忘れてましたのー」

 

普通に会話しているので初春と佐天が完全に置いてけぼりをくらっている

やがて初春が「あ、あのー…」と遠慮しがちに呟いた

 

「あ、二人は初対面だったわね。紹介するわ、この子は、繚乱家政女学校の土御門舞夏。今回の料理も彼女の学校に指導してもらったの」

 

その学校名を聞いて初春は再び目を輝かせた

 

「繚乱家政女学校って…あのメイドスペシャリストを育成するって言う…!?」

 

よく知ってるな初春

正直アラタはなんか家政婦を排出する学校だとつい最近まで思ってた

対する舞夏はスカートの裾をわずかばかりたくし上げ、優雅に自己紹介をする

 

「土御門舞夏であるー」

 

「わ、ワタシは初春飾利と言いますッ! よろしくお願いしますっ!」

「佐天涙子です、よろしくー」

 

二人は口々に自己紹介し、それに舞夏も答えるように手を挙げて

 

「困ったらなんなりと問いただすがよいー。…さてと」

 

舞夏はぐわし、と黒子の襟首を掴みあげるとずりずりと引きずっていく

 

「白井ー、来るのだー」

「うぇ!? ちょ、待ってくださいな、お兄様たちを放っておくなど…」

「仕事は放ってもいいのかー?」

「い、いえ決してそんな…」

 

そんな問答しながら黒子は舞夏に引っ張られていった

その場に残ったのは初春と佐天、美琴にアラタのみ

辺りは他のお客で賑わっていく

 

「代わりに、私が案内するね」

 

引っ張られる黒子を見ながら笑み交じりに美琴がそう言ってくれた

 

 

「さて。どこから回る? どこか行きたいところは―――」

「はいっ! はいはい、はいっ!!」

 

美琴の言葉を遮って初春が挙手、声を上げる

先ほども思ったが今日の初春のテンションは終始上がりっぱなしだ

 

「行きたいところあります! えー…と、まずここと、こことここと…あと、こっからここまでを…」

 

パンフに指を指しながらありとあらゆる場所をする初春

ここまでハイな初春をアラタは見たことがない

そんな初春に佐天は苦笑いを浮かべながら

 

「それ全部じゃない」

 

と突っ込みを入れる

しかし初春は動じることなく

 

「佐天さん…、今日だけは私、いつもの初春飾利じゃあありません。強いて言うなればスーパーモード…! そう、今の私は、初春飾利スーパーモードなんです!!」

 

なんども言うが今日の初春のテンションはホントおかしい

それだけ〝盛夏祭〟を楽しみにしていたのだろうけど

燃え盛るような初春に気圧される佐天を見ながらアラタと美琴は微笑んだ

 

 

結局順番に一つずつ見て回る事となった

 

まず最初に入ったのはシュガークラフト展示典…といった方がいいのだろうか

展示品すべて砂糖で作られており、一見しただけでは砂糖とはわからない出来栄えだ

特に花の作りは素晴らしく一枚一枚の花弁が本物なのではないかという錯覚さえ覚える

 

「こんな展示があるなんて…流石お嬢様学校…!」

「そうだなぁ…。改めてすげぇ学校だな常盤台…」

「どれ…それじゃ一つ…」

 

それぞれ感想を漏らしながら感心している最中、徐に佐天がバラの花弁を一枚もぎ取りそれを口に放り込んだ

そしてもにゅもにゅと咀嚼し砂糖かどうかを確かめるように味わう

…いや、いいのかあれは

 

「…うん。果てしなく砂糖だね」

「あぁ~!? 食べちゃダメじゃないですか! 展示品なんですよこれ!? ね、御坂さん―――」

 

視線を向けたその先には後輩に砂糖人形を差し出され困っている美琴の姿が

 

「よろしければこれ、ぜひ御坂さまもおひとつ…」

「はは、ありがとう…けど気持ちだけ受け取っておくわ」

 

どこまでも美琴は人気者だった

 

 

次に回ってきたのはステッチと呼ばれる体験教室だ

ステッチとは…見た感じだと布に色のついた糸を通した針を通してそれをうまい事動かして作品を作るといった感じだろうか

 

初春に流されるまま体験コーナーへと足を運びそのまま作業に集中する

しばらくして初春は完成したらしく、針をテーブルに置いた

 

「これは中々の出来ですよ…ほら佐天さん―――」

 

と言いながら初春は自分の作っていた作品を佐天に見せようとする―――が、何気なく佐天の作品を見てストップする

ちらりと見た佐天の作品はそれはもうカッコいい車が描かれていたのだ

初春は自分とのクオリティの格差にちょっと面喰いながら、恐る恐る今度は美琴の作品を見てみる

そこには大変ハイクオリティなゲコ太があしらわれておりました

初春は最後の希望と言わんばかりに今度はアラタの作品を見てみることにした

 

こう言ってはなんだがアラタはきっとこういう細かい作業は苦手なはずだ、だからきっとなんか、それなりな出来のはずだ…と淡い願望を持ちながら彼の作品を見てみると…

 

そこには黒一色しか使われてなかったが、彼が変身するクウガを簡単に現したマークがあしらわれていた

少なくとも、初春よりは上手だった

 

「アラタさんの裏切り者ぉぉぉぉっ!」

「え!? なんで!?」

 

そう言いながらポカポカとアラタを叩く

特に理由のない怒りがアラタを襲った

 

◇◇◇

 

結構いい時間になったので美琴に誘われるままお昼ご飯を取ることになった

その食堂はなんとバイキング方式で好きなものを好きなだけ食べれるという素晴らしいシステムだ

流石常盤台だ、とアラタは内心呟く

 

「もう帰りたくない…ッ! いっそ住みたいです…」

「こらこら。…全く。先に行くぜ初春」

「あ、はーい」

 

うっとりしている初春を見ながらアラタは彼女にそう言いながら適当に皿に乗せると先に美琴が座っている席の前へと足を運ぶ

その道中、見知った顔を見た

 

鉄装綴里、黄泉川愛穂、そして立花眞人の三人だ

 

「く、苦しい…」

鉄装は椅子にもたれかかってお腹を押さえている

彼女の前には結構な枚数の空のお皿があり、早い話食べ過ぎたのだ

 

「…そんなに取るからですよ」

 

一人静かに呟く眞人

その隣では黄泉川がハァ、とため息をついた

 

「ったく。生徒には見せれないじゃんね。ほら、立った立った」

 

もうすでにがっつり見てしまっているのですが

そんなツッコミをアラタは心の中にしまい、三人を見守った

 

黄泉川は立ち上がりむんず、と鉄装の襟首を掴みあげそのまま食堂の出口へと歩いていく

眞人もそんな二人の後ろをついていき鉄装を立たせる

 

「ふやぁ…乱暴にすると逆流しますぅ…」

 

引っ張られる鉄装を見ながらアラタは思う

警備員も大変だなぁ、と

 

 

お皿に盛られた食事をフォークで突きながら御坂美琴はため息をつく

…別に憂鬱なわけではない

ただ、多少柄にもなく緊張しているというか

 

「どった美琴。食べないのか?」

「た、食べるわよ。…うん」

 

アラタにも心配されてしまうのだから余程だ

と、そんな時腰に何かが抱き着いてきた感触があった

 

「みことおねーちゃーん」なんて言葉と共に抱き着いてきたのはかつてボランティアで触れ合ったあすなろ園の女の子だ

 

「…あれ、その子は確か…あすなろ園の」

 

アラタも気づき女の子に駆け寄る

 

「あれ…けどなんで…」

 

美琴が疑問に思いかけた時、ふと視線を上げた時寮監に手を繋がれたあすなろ園の子供たちがいたのだ

寮監は僅かに顔を逸らして

 

「…私が、招待した」

 

そう小さく呟いた

…寮監は相変わらずツンデレ気質なようだ

美琴はどことなく苦笑いを浮かべる

 

そんな美琴を尻目に女の子はアラタに向かって笑顔を作り

 

「ビーズでゆびわつくったり、えをかいたりしたんだー」

「ほぉ、そうなのかー」

 

アラタは笑みを浮かべながら女の子の頭を撫で繰り回す

ひとしきり撫で繰り回した後、女の子は美琴へと視線を移し

 

「でもね、もっとたのしみにしてるのがあるんだー!」

「へぇ? 何を楽しみにしてるんだい?」

 

アラタの問いかけに女の子は大変いい笑顔で

 

 

 

「みことおねぇちゃんのステージ!!」

 

 

・・・

 

空気が凍った

なんかやるのかな、とは思っていたがまさかステージとは思わなんだ

ちらりと美琴の顔を見やると〝なしてこの子そないなことしっとんねん〟と言いたげな表情を浮かべている

否、なぜ知っているのかなど一目瞭然

 

目の前の寮監である

 

「いっぱいおうえんするから! がんばってね!」

 

女の子はそう言ってくれる

彼女に悪意は全くない、それ以前にむしろ好意としてそれを言ってくれるのはわかるのだが、逆にそれがプレッシャーを募らせていく

寮監はゆっくりと美琴の耳元へ顔を近づけて

 

「…あの子たちの期待に、応えてやれ」

 

眼鏡を光らせながらそう仰っては軽く脅迫だ

美琴は小さく「は、はい」と答え、子供たちと寮監が食堂を去るのを見送った

 

「…ステージ、ね」

 

すぐ近くでアラタが呟く

思えば彼はなんとなく察していたのだろう

それがステージとは言っていなかっただけで

 

「御坂さん御坂さんっ! ステージで何かやるんですか!?」

 

先ほどの出来事が耳に入り気になったのか初春と佐天がその話題を振ってくる

 

「え、え!? ま、まぁね…」

 

「えー? どうしてあたしたちに黙ってたんですか? …はっ!? わかりましたサプライズですね!!」

 

「…はい?」

 

何故だか勘違いがマッハで進行されていく

 

「い、いやいや! そういう訳じゃなく…!?」

「わっかりました! もう何も聞きませんっ! サプライズなんですから!!」

「サプライズかぁ…! すっごく楽しみです…」

 

完全に初春と佐天が勘違いしてしまった

まぁ言っていなかったし結果的に見ればサプライズなのかもしれないが

美琴の肩が下りたのを見て、アラタはどこか苦虫を噛みしめたような顔をする

この状況で美琴に向けて楽しみだなんて言えない

 

「アラタアラター」

 

不意に間延びした声が聞こえた

土御門舞夏のものだ

彼女は両手に料理を乗っけており運んでいる途中のようだった

 

「なんだ舞夏、用事か?」

「用と言うほどもないんだがなー。お前白井を見なかったかー?」

 

アラタは首をかしげた

白井黒子ならつい先ほど舞夏が引っ張っていったではないか

それを口にすると舞夏は

 

「実はどこ探してもいなくてな。…さては逃げられたか。いや、招待下友人の中によく食べる人がいてな。てんてこまいなのだ」

 

そう言いながらテクテクと舞夏は歩いていく

と、ふと足を止めて「そーだ」なんて言葉を口にしたのち美琴の方へと顔を向けて

 

「今日、楽しみにしてるぞ」

 

全く純真な笑顔でそう言ってきた

それを聞いた美琴はどこか浮かない顔をしていた

…嬉しくないわけではないのに、妙に緊張してしまう

 

 

とりあえずアラタは黒子を探すべく食堂で三人と別れ、適当に周囲を見渡しながらぶらつく

いろんな展示品のコーナーにはいなかった、となると奴がいるのは外か

…見て回ってない場所もあるからちらりと見ながら外へ向かおうとしたその時だった

 

「お。ワタルワタル!アラタだアラタ!!」

 

そんな声と共にもしゃもしゃなんかを食べてる咀嚼音がした

声の方へと向けるとそこには赤いストールをした青年と、肩にコウモリっぽい生き物が乗っていた

その人物たちをアラタは知っている

 

「ワタルさん。来てたんですか?」

 

名前は紅葉(くれなば)ワタル

肩に乗っている変な生き物はキバットという

出会ったのは数か月前の秋葉原での騒動だが、それ以降ちょくちょくメールでのやり取りを交わしていた程度だが

 

「うん。バイオリンの修理をしてたんだ。僕は学園都市で楽器屋を営んでるから」

「バイオリン? …となるとアイツのステージは演奏ものか…」

 

まだ断定できたものではないが恐らく十中八九そうだろう

しかしバイオリンの修理をワタルに頼むとは…

常盤台は慧眼だ

 

「他にも演奏の仕方とか、割かし教師っぽい事してんだぜワタルは」

「真似事だけど。…僕免許持ってないし」

 

紅葉ワタルは音楽に関してはとてつもない才を持っている

彼がコーチしてるなら常盤台の生徒らはバイオリンが上手くて当然だろう

 

「あ、じゃあアラタ、キバットがまたいろいろ見て回りたそうにしてるからこの辺で」

「あぁ、じゃあまた」

「え? 俺のせいなの!? 否定しないけど」

 

しないのか

 

 

「いらっしゃらないならこれで落札となりまーす」

 

中庭へとやってきた

作られた大きなステージでは現在オークションの真っ最中で、いろいろな欲望が渦巻いている…はず

 

「ていうかオークションまでやってるのか…。対象商品は…バッグ、かな」

 

よく覚えていないが今オークションされているバッグはレアもののブランド品だという情報を聞いたことがある

しかも中々市場には出回らない上に手に入りにくいというものだ

それが経った今落札したらしい

今ステージに上がっているのはそのブランド品を勝ち取った落札者―――

 

「あれ…?」

 

とてつもなく見覚えがある人物が壇上に上がっていく

いや、見間違えるはずはない

ステージに上がってるのは固法美偉だ

 

 

目的のブツを手に入れた固法はにやりとクレ〇んばりの笑みを見せる

少々値は張ったが問題ない、安い買い物だ

 

「おい固法」

「ふぉふぁ!?」

 

完全に背後を懸念していた固法はあっけなく後ろを取られた

彼女は後ろを向くとそこにはジト目でこちらを見る同僚鏡祢アラタの姿があった

 

「…結構ミーハーなのねぇ」

「ち、違うわよ!? これはチャリティなの! ここで払った金額は全部置き去り(チャイルド・エラー)に寄付されるの!! 風紀委員としては出ないわけにはいかないじゃない…ね!」

「わかったわかった。…そういう事にしておくよ」

 

なんか下手に追及するといろいろ面倒なことになりそうだ

だからアラタは適当に彼女に合わせることにした

 

「そ、そうだ。アラタも参加してみたら?」

「…お前、俺の経済状況知って言ってんのか?」

 

とてもじゃないがオークションで使うような金なんぞ持ち合わせていない

数字を提示したらすぐに潰されるだろう

 

「それの心配はないわよ。…ほら」

 

そう言って国法はステージの方へ視線を見やる

 

…次の商品は…〝小説版風の左平次〟! 百円から!

 

その言葉のあと所々から百二十円、だの二百円だの声が聞こえてくる

 

「ほらね。お財布にも優しいのよ」

「へぇ…それでも俺にとっては響くんだがな」

 

そのままちょっとずつ額が上がっていき次第に四百円へと上がっていき、このまま落札かと思ったとき

 

 

 

「八千円ッ!!」

 

 

 

ぶっ飛んだ額を聞いた気がする

その声の主を思い切りアラタは知っている

左翔太郎だ

彼は堂々とそのステージに上がり、その小説を受け取りタイトルを確認すると

 

「…よっ、しゃあぁぁぁぁぁッ!!」

 

喜びを全力で表現してくれました

その間アラタは壁を前に座り込んでいた

 

確かに翔太郎とは知人だ、認めよう

だがしかしこの瞬間だけは赤の他人だ

知人と見られてなるものか

 

 

オークションを見に来た初春佐天両名と合流、固法を交え四人でオークションを見学することにする

 

…次の商品は…キルグマーの文具セットー! 百円から

 

 

「そう言えばアラタさん、結局白井さん見つかったんですか?」

「うん? いや全然。あの後中を調べ回ってみたけどいなくてさ…もうお手上げだよ」

 

他のお客が口々に金額を言っているのをBGMに初春とそんな事を話し合う

それに佐天はうーん、と声を上げ

 

「白井さん、ホントどこ行っちゃったんだろう…」

 

やがて金額は五百円まで上り詰め今回はここで落札か…と思った時だ

 

 

 

「一万円ッ!!」

 

 

 

翔太郎を超える金額を叩きだす猛者が出た

そんな額を叩きだした人物をその四人はよく知っている

その人物は優雅に、かつ堂々とステージを上がっていく

 

「…いないと思ったら」

 

そこに白井黒子がいたのだ

メイド服のままで

 

 

「厨房抜けて何してんのかと思ったら。…文具セットに一万ってお前」

「いいえお兄様。ただの文具セットではありませんの。何故ならこれはお姉様がご出品なさったものなのですから。いわばこれらの品はお姉様の分身…ふ、ふふふふふ…」

 

黒子は文具セットに頬刷りをしながらいい笑顔を極めている

盛夏祭というイベントの中でも黒子はやっぱり黒子だった

 

「御坂さんの…」

「どうりで…」

 

佐天と初春も完全に苦笑いである

しかし厨房を抜けてまでオークションに参加する辺りにはもう呆れを通り越して関心する

そこでふと違和感がアラタの中を過ぎった

御坂美琴の姿がいないのだ

 

「そういや美琴は? 一緒じゃなかったのか?」

「あ、いえ…さっきお手洗い行くって言ってたんですけど…」

 

そうなのか、とアラタは頷きつつ顎に手を乗せる

珍しく緊張でもしてるのか、いずれにせよ少し心配だ

 

「御坂さん何かステージでやるの?」

「サプライズですよ! 固法さんッ」

「さ、サプライズ?」

 

 

やがて婚后や湾内、泡浮の三人も合流し用意されたパイプ椅子に座って美琴のステージを待つばかりだ

 

「御坂さま、一体どんなサプライズをなさるのでしょう…」

「楽しみですわね、婚后さん」

「えぇ、わたくしも心が躍ってきましたわ…」

 

一方初春、佐天組

 

「はわわ…なんか私まで緊張してきましたよ…」

「初春が緊張してどうするよ。…あれ? アラタさんは?」

「へ? あ、先にトイレに行ってくるって…」

 

最後に固法、黒子組

 

「白井さんは、御坂さんが何やるか知ってるの?」

「もちろんですの。しかし今は…」

 

そう言いながら徐に記録用のカメラを取り出し、シャッターを切る準備をした

 

 

そんな噂の中御坂美琴はステージ用の衣装へと着替えていた

その服装は白いワンピースタイプの服で頭には青いリボンをあしらった髪飾りをつけていた

…なんだか胸元と背中が少しスース―する

 

「うん。とっても似合ってるわよぉ、御坂さん」

 

食蜂が自分に向けてそんな声を発しているが、あんまり聞こえていない

正直言ってそれどころではないのだ

 

「…御坂さん?」

「は!? な、何かしらっ!?」

「いえ…その、緊張してるぅ?」

 

ほとんど真実を突かれた美琴は一瞬驚いた顔をするがすぐに落ち着きを取り戻し

 

「だい、大丈夫よ! うん! 私、行くわ食蜂さんっ!」

「そ、そう…。ならいいんだけどぉ…」

 

反応を見てる限り今日の彼女は緊張してるようだ

その証拠に手に触れた時、若干変な汗で濡れていたからだ

 

「…、」

 

食蜂は少し考えて徐に携帯を取り出した

 

◇◇◇

 

動きづらいワンピースのまま美琴は舞台裏までやってきた

袖からちらりと客席を覗き見てみる

見知った人物が最前列に座っている…

 

「…やば。なんか、すっごいドキドキしてきた…! …あぁもう、しっかりしろ私…!」

 

自分に気合を入れるように軽く自分の両頬を叩く

しかし緊張は増すばかりで思うようになってはくれない

そんな時だ

 

「あ、いたいた」

 

と自分を見つけたような声色である

ハッとして美琴はその声の方へと向くと、そこに自分が一番見知った男性、鏡祢アラタが立っていたのだ

 

「なばぁ!?」

 

当然美琴はびっくりする

どうしてここにいるんだとかなんでこんなところにいるのかとかそんな疑問が一切合切ぶっ飛んでいく

 

「なんでアンタがここにいんのよ!? 茶化しにきたの!? 笑いに来たのこの慣れない衣装をっ!!」

「今更そんなことして俺に何の得があんだよ。…落ち着いたか」

「いきなり来て何言ってるのよ! 落ち着くわけ…、れ?」

 

ふと美琴は気づいた

怒鳴ったからだろうか、妙にリラックスしている気分だ

 

「…よかった。今日のお前はちょっと変だったからな。ぎこちなかったって言うか…ソワソワしてたと言うか」

 

そう言ってアラタは笑う

その微笑みを見て、釣られて美琴も微笑む

図らずも、目の前の友人に助けられたみたいだ

 

「…うん。じゃあ行ってくるわ」

 

パイプ椅子に置かれたバイオリンと弦を手に、美琴はアラタに向かってそう言った

対するアラタもグッと親指を立てて彼女を見送る

 

「おう。行って来い」

 

アラタのサムズアップに美琴も同様にサムズアップして返す

 

ステージへと繰り出す美琴はどこか清々しく、凛として、それでいて…美しかった

 

 

中央へと歩み寄り、美琴は一つ礼をする

そして彼女はバイオリンを構えた

 

演目はバイオリンの独奏

 

(全く人の気持ちも知らないで…)

 

だけど、と思いながら弦をバイオリンへと当て、ゆっくりと音を奏で始める

 

(今日は素直に、感謝するかな。…過程はどうあれ、助けられたんだしね)

 

紡がれた音は優しく、人の心を惹きつける

聞いたものの心を優しく包み、温かく迎えるかのような感覚

その音色に、誰もが聴き入っていた

 

静かに、それでいて優雅に奏でられる静の音楽

 

彼女が弾いたその音は、きっと永遠に語り継がれていくだろう

 

そうして、年に一度開催される常盤台女子寮の盛夏祭は彼女の演奏を持って幕を閉じた

来訪した人々に何が良かったのかを問うたらきっと皆口々にこう言うだろう

 

御坂美琴のバイオリン、と




最近外伝的小説を始めました
読まずとも言いように書いていますがお時間空いたときに暇つぶし程度に読んでいただけたら幸いです
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