とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
物語も佳境に入ってきました
一期終盤の物語に突入です
相変わらずではありますがご容赦を
お気に入り登録、感想をくださった方々に深く感謝を
こんなモノではありますが皆さんの暇つぶしになれているなら幸いです
あと皆! 今月の22,29のウィザードは見逃すな!
〝もやし〟が通りすがるぞ!!
そんなこんなではじまります
誤字脱字見つけましたらご報告を
#19 乱雑解放<ポルターガイスト>
その日の夕食時、自分の部屋に戻ってきて一番最初に視界に入ってきたのは黒髪ロングの幼女だった
「あ、アラタさんだっ」
「…へ?」
どうやらその少女は自分の事を知っているらしくとてとてとこちらに駆け寄るとだきっとしがみ付く
「初めまして! パパから話は聞いてます、ワタシ、娘の
「ま、未那…? ってか、パパ!?」
誰だパパって、と考えて一つ思い当たった
そう言えば知り合いに一組、夫婦がいた
親が蒸発し、クウガとなったとき燈子からの紹介で少しだけだがお世話になったことがあった
両親代わり…いわば家族と言えるような存在…
その証拠にテレビが置いてある居間を覗いてみると上下真っ黒な服を着込み眼鏡をかけた男性が座っていた
彼はアラタに気づくと笑顔となり手を振ってくる
「おかえり、アラタくん」
「幹也さん!?」
黒桐幹也
どこまでも普通な、〝異常〟な男性
彼がアラタの父親代わりだ
ある理由から幹也は左目が聞かない、そしてそれを隠すように左側だけ伸ばした髪形をしている
アラタは未那を連れて幹也の所へ行くと未那は父親である幹也に抱き着いた
そしてここからキッチンに位置する場所から調理するような音が聞こえる
ここに幹也がいるとするなれば、キッチンにいるのは…
「よぉ。遅れて言うが邪魔してるぜ」
「し、式…」
簡単な野菜炒めを大きな皿に乗せてこちらにやってくるのは両儀式と呼ばれる和服美人
幹也の奥さんであり、彼女が母親代わりでもある
式はテーブルに皿を置いてゆっくりと腰を下ろすと
「ていうかお前、もう少し食材を買っておけ。珍しく腕を奮ってやろうと思ったら全然材料ないから簡単な野菜炒めになっちまった」
さっそくのダメ出しである
とはいえこちらは普段一人暮らしな上、式たちの訪問など予期していなかったのだ
そればかりは今回ぐらい許してもらいたい
「まぁまぁ式。押しかけたのは僕たちなんだし、仕方ないじゃない」
「そりゃあな。…けどもっとマシな食生活はおくれよ?」
ずい、と式に指差される
昔は冷蔵庫に貴女も水の入ったペットボトルしか入れてなかったじゃないですか、というツッコミたい気持ちを抑えつつ、アラタは頭を掻きながら
「ぜ、善処します。…ところでなんで今日はいきなり…」
アラタがそう聞くと野菜炒めをつつきながら
「ちょっと義手の調整を燈子に頼もうと思ってな。ついでに、お前に未那を紹介しようって話になったんだ」
となると既に燈子に挨拶は済ませているという訳だ
しかし燈子は式や幹也たちから離れるとき特に何も言わずに去って行った…なんて話を聞いていた気がするのだが
そこん所を式に聞いて見ると式はちらりと幹也を見やった
当の本人は娘を仲良く話をしながら夕食である野菜炒めを食べている
そう言えばこの人は探し物の天才だった
隻眼になっていてもそこの所は全く衰えはないようだ
思わず燈子も笑ってしまっただろう
と団欒しているときだ
カタカタ、とテーブルに乗ったコップが揺れた気がした
そう言えば最近学園都市は地震が頻繁に起こっている
自分が通っている学生寮は流石に大きくは揺れたりしないがそれも時間の問題か
「…学園都市でも地震があるんだ?」
「いや、普段はあんまりないんですけどここ最近多いんですよねぇ…なんなんだろう」
幹也からの何気ないつぶやきに返事しながらアラタは野菜を口に運んでいく
この自然現象に近い地震が、まさか大きな騒動になるとはこの時思いもしなかった
◇
とりあえずベッドは未那と式に譲り、男連中である幹也とアラタは床で就寝した
幸いにも夏に近い時期なので寝る際は何もなくても何とか寝れた
そして翌日
「そう言えば後どうするんですか?」
「んー。とりあえずしばらくは学園都市に滞在する予定だぜ? 未那だってこういうとこ来るの初めてだしな」
そう言いながら式は未那の頭をポンと軽く叩く
その光景は仲睦まじく、ずっと見ても飽きないくらいだ
「あれ、じゃあ住居とかは? …流石に俺の寮はちょっと…」
「大丈夫。その辺は燈子さんが部屋を貸してくれるって言ってくれたんだ。今度からはそこに移るよ」
用意が早いなあの人
もしくは伽藍の堂にでも空き部屋でもあったのだろうか
現在彼女が滞在している伽藍の堂はかつて住んでいた場所を再現したいわば二代目なのだ
しかし流石に地下のガレージは再現できず、そのガレージは一階となってるのだが
おまけにそのガレージにはゴウラムがゆっくりしている
「了解です。…んじゃあ俺そろそろ出ますけど、鍵は燈子の所にでも置いておいてください、後で取りに行きます」
「了解、それじゃ行ってらっしゃい」
そう幹也に見送られ、アラタは扉のノブに手をかける
アラタは幹也や式、未那の方を見ながら言い返す
「…行って、きます」
「おう」
「行ってらっしゃいアラタさーん」
今度は式と未那がそんな見送りの言葉を発した
普段聞き慣れないその言葉を聞きながらこんなのも、悪くないかもしれないと思いながらアラタは歩を進めた
◇◇◇
本日は珍しく初春からお誘いがあったのだ
なんでも柵川中学に転入生がやってくるとかなんとか
そんでもってその転入生が初春のルームメイトになるからみんなに紹介したい、とのことだ
つつがなく美琴と黒子、そして佐天と合流し先頭を佐天が歩く
「それにしても今の時期に転入生なんて珍しいですわねぇ」
「普通は、新学期の始まりに合わせるものだけど…」
黒子と美琴が二人してそんな事を話し合う
言われてみればそうだ
何か思惑があってこんな中途半端な時期になったのか…と考えて首を振る
変に考えるとまたいろいろと面倒だ
ふと何気なく佐天を見ると彼女は先ほどから上機嫌で鼻歌を歌っている
「…それはそうと、やけに嬉しそうだな」
アラタに問われた佐天は鼻歌をやめ、拳を握ると
「そらそうですよ! 初春のルームメイト、つまりはアタシの親友候補でもあるんですから!!」
喜びの理由はそれか
まぁけど、友達が増えるのは喜ばしいことだ
「佐天さーん!!」
しばらくしてこちらに向かって全力で手を振る初春の姿が視認できた
その隣には恐らく件の転入生の姿が見えた
◇
場所を初春たちの住む寮の部屋入口へと移し、そこで軽く自己紹介のお時間
初春は自分の隣にいる転入生へ手をやって
「こちら、春上衿衣さん。そして…」
今度は四人で並んでいるアラタや美琴たちを手で示して
「常盤台中学の白井黒子さんとその先輩の御坂美琴さんに、私たちと同じクラスになる佐天涙子さん、そしてそちらの男性が、鏡祢アラタさん」
一通り自己紹介(というかほとんど初春の紹介)が終わったとき、佐天が笑顔を見せる
「よろしく、春上さん。…いや、まぁそれは良いんだけど…」
言って佐天は扉の前にある大きな段ボールの荷物へと視線をやる
そう、どういう訳だか初春の部屋の前には春上のものと思われる荷物がどっさり積まれていたのだ
「…なんでこんなことになってるわけ?」
「い、いやぁ…その、春上さんを駅に迎えに行ってる時に引越し屋さんが到着したって連絡が来て…この有り様に…」
初春は両手をいじいじしながら若干頬を赤らめる
ただタイミングが悪かっただけだろう
「…引越し屋もちょっと考えてくれればいいのに」
「やれやれだな。…よし、黒子、出番だ」
「はぁ。…仕方ありませんわね」
若干呆れ顔で黒子は積まれた段ボールの一角に手を置いた
途端ヴォンッ! と置かれた段ボールは消失する
恐らくもう室内に
こう言った地味な作業の時、
黒子の助力もあって荷物を部屋へと運搬する作業は十秒足らずで終わった
今現在アラタたちは初春の室内へとお邪魔している
その中央には黒子の力で積まれた春上の荷物が
「すごいの…空間移動って初めて見たの」
「そりゃそうでしょうともっ。わたくしほどの力を持った
「ほえー…」
春上に褒められ胸を張る黒子
「…けどこの学園都市で空間移動能力者をあんま見ないんだけど」
「お兄様、それ以上いけません」
結構な数いるはずだが黒子以外アラタは知らない
「はいはい。ちゃちゃっと荷物片しちゃお」
パンパン、と手を叩いてみんなを纏める美琴
確かにここで手間取っていては遊ぶ時間が無くなってしまう
とりあえず春上や初春に聞きながら荷物整理をすることになった
~整理中~
皆の手伝いもあって思いのほか早く荷物の整理が終わった
佐天が段ボールを畳み、最後の一枚を積み終えるとふぅ、と一息ついて
「こんなところかね」
なんて関西のおばさんじみた言葉を口にした
春上はおずおずとどこかぎこちない様子で礼をすると
「その…ありがとうございますなの」
「気にすんな。困ったときはお互い様だ」
「そうそう。それよりさ、結構速く片付いたし、どっか遊びにいこっか?」
美琴の提案に初春は笑顔を見せて
「さんせーい!!」
「ちょっとお待ち初春。賛成ではありませんの、忘れましたの?」
出鼻をくじかれふぇ? と怪訝な顔をする初春
かくいうアラタも(何かあったっけか…)と疑問の顔を浮かべる始末
「もう…お兄様とわたくし、そして初春はこれから合同会議」
黒子から単語を聞いて初春はハッとする
そしてアラタも思い出したように手を叩いた
「…そういやそんなんあったな」
「合同って?」
美琴の言葉にアラタが答えていく
「なんでも風紀委員と警備員のだよ。ほら、ここ最近頻発してる地震についてのな」
「? 地震で会議…?」
ただの地震なら会議など多分起きないだろう
しかし会議が合同で行われるほどのものだから、何らかの可能性は捨てきれない
ついでにちらりと初春を見やる
「ハァ。…ソーデシタ」
テンションの落差が酷いなおい
がっつり落ち込む初春を尻目に佐天は少し前に歩みつつ
「じゃ、あたしと御坂さんと、三人で行こうか」
「あぁ! ずるいですよ佐天さん!」
「終わったら合流すればいいじゃん? …ね?」
唐突に佐天は春上に話を振った
振られた春上は急だったためか対応できず「え、っと…」と言葉を濁してしまう
「あ、大丈夫ですよ春上さん。佐天さんはともかく、御坂さんは優しい人ですから」
「…アンタねぇ」
そんなやり取りを春上は小さく笑顔を浮かべながら眺めていた
「くれぐれも佐天さん。春上さんのスカートをめくらないでくださいよ」
「え? なんで私がそんな事するの?」
「…え?」
まさかのマジレス
◇
ここは第七学区にある
その建物内部の第一会議室
各部署の風紀委員が募り、警備員の説明を聞いている
大きなモニターの前に立ち、立花眞人は資料を見ながら説明をしていく
「ここのところ頻繁に発生している地震について、判明した事実があります。結論から言ってしまえば、これは地震などではありません。これは、ポルターガイストであるという事が判明しました」
ポルターガイスト、あるいはポルターガイスト現象と一般では呼ばれている
触れてもいないのに物がひとりでに動いたり、物体を叩いたような音がしたり、発光、発火など通常では説明のつかない現象の事を指す
「なお、最初に言っておきますが、これは超常現象などではありません。このポルターガイストの原因は、RSPK症候群の同時多発です」
「…RSPK症候群の…」
「同時多発…」
固法と黒子が呟くのを耳に入れながら、アラタは正面のモニターに視線を集中させる
「ここからは、先進状況救助隊のテレスティーナさんから説明を伺います…どうぞ」
眞人がそう言うと袖の方から黒いスーツとタイトスカートに身を包み、眼鏡をかけた女性が眞人の方へ向かって歩いてきていた
彼女は眞人からマイクを受け取ると軽く咳払いをしたのち、話を始めた
「ただ今ご紹介に預かりました、先進状況救助隊所属、テレスティーナです」
自己紹介の後、テレスティーナは説明を始めていく
まずRSPK症候群とは能力者たちが一時的に自立を失い、自らの力を無意識に暴走させてしまう状況を指すらしい
個々に起きる現象自体は様々だが、これらが同時に起きた場合、暴走した能力は互いに干渉し融合しあい一律にポルターガイストと呼ばれる現象が発生するようだ
「さらにこのポルターガイストが規模を拡大した場合体感的には、地震と何ら変わりがない状況になってしまいます。…これが、今回の地震の正体…という事になります。同時多発の原因については目下調査中ではありますが―――」
そこまで話を聞いてアラタは大きく一つ息を吐く
こう言った事を変に学生たちが騒ぎ立てなければいいんだが
・・・
意外にも早い時間帯で合同会議は終わった
早速初春は携帯を取り出して電源をつけ、佐天に連絡を取ろうとしている
「警備員はこれからもミーティングですって。…はて? どうしましたの固法先輩」
合同会議が終わって以来、どうも固法が考えている
黒子が聞いて見ると「あぁ…」と固法は反応し
「RSPK症候群の同時多発なんて、聞いたことがないわ。それに今回の対応…なんか引っかかって」
「そいつをこれから専門家が調査すんだろ? 俺たちが考えても仕方ないって」
とはいってもその妙な違和感を拭えてない訳ではない
固法が疑問に思っていたようにアラタもまた疑問に思っていたのだ
しかし考えても今はどうしようもない
「それはそうかもしれないけど…」
「あ! 佐天さん! 今どこですかっ!?」
今日の初春は余程春上と遊びたいのか、そんな事などどこ吹く風といった感じだ
まぁ正直今考えても無駄なので早々に美琴らと合流することにした
…
ほどなくゲームセンターに到着
正直に言うと黒子に運んでもらったのだが
「さぁ! 春上さん、次は何が良いですか? あ! あれなんてどうですかっ!!」
そう言うと彼女は春上の手を掴み、走り出した
その光景を一歩後ろで眺めていた佐天たちは笑みを浮かべる
「初春ったら。張り切っちゃって」
「お姉様もずいぶん張り切っていらしてるようで」
黒子はちらりと美琴が持っているメダルカップへと視線をやる
その中にはどこかで見たようなことがあるメダルがわんさか入っていた
「あ、…いや…」
「補充できたか?」
「えぇそりゃもう…って言わすな!」
◇
チャイナチックな音楽と共に穴からモグラが出たり入ったりしている
そう、モグラたたきだ
本来モグラたたきは名前の通りモグラをぶっ叩いて得点を稼ぐゲームである
中にはそのモグラを憎い餡畜生に置き換えて全力でぶっ叩いてしまう人もいるらしいのだが
とにかくモグラたたきはモグラを叩くゲームだ
しかし春上は
「わぁ…」
どういう訳かモグラを叩かずただ眺めているだけなのだ
その反応に初春も流石にどう対応していいか分からずおろおろしているばかり
「お? モグラたたき?」
そんな状況を発見した美琴がそう呟きながら春上たちに歩み寄る
「懐かしいですわねぇ…」
「あんまりこういうのやんなくなったからなぁ…」
以前は当麻とどっちが得点を稼げるか競争したこともあった
そしてそんな一日を思い出し、唐突に涙が湧き上がる
あの時、もっとちゃんとしていれば―――
発生した自答を振り払い、アラタは改めて春上へと視線をやる
「私、こういうの初めてなの…ピコピコ出てきて…可愛い…もぐらさん」
その言葉に場の空気が一瞬固まった
もしかして…モグラたたきを知らない?
「で、でもでも…その、見てるだけじゃなく、叩いて見ない?」
「モグラさんを? …、…かわいそう」
・・・
話は平行線を辿ってしまった
そうこう話している内にモグラたたきマシーンはやがて時間切れとなり、モグラたちは穴の中へと戻って行った
「あ…。…もう一回」
「は、春上さん、流石に四回目は…」
三回もやってたのか
ただ眺めているだけでモグラたたきを三度繰り返し四度目に突入しようとは
場の空気を変えようと思わず美琴はある機会を指差して
「ね、ねぇ! みんなでアレとらない!?」
美琴が指差したのはプリクラだった
…
流石にこういった機械では女子だけでいいだろう、と言っては見たものの、美琴に半ば強引にプリクラ内部に引きずられてしまった
女子五人に男子一人という構図は流石に恥ずかしい気がする
「それじゃ行くよー」
美琴がそう言ってシャッターボタンを一度押す
すると数秒後、シャッターを切る音がした
まず一枚目は普通に撮り、二枚目は各々にポーズを取って、三枚目は本当に自由にその姿を写真に収めた
一通り回って先ほど撮ったプリクラを初春は電子メールで送信している光景を眺めながら徐に黒子が呟いた
「…なんと申しますか、不思議な子ですわねぇ」
「そう? 可愛いじゃない」
美琴の言葉には同意だ
確かにちょっとふわふわしている印象があるがそれを覗けばどこにでもいる普通の女の子だ
流石にモグラたたきのくだりはちょっと驚いたが
「…なんだか、初春の昔を思い出しちゃった」
不意に佐天が呟いた
「? 初春が?」
アラタが聞き返すと佐天はえぇ、と頷いて
「入学したての頃なんですけど…あれ」
言葉の途中で佐天が春上を見た
釣られてみると何故だか彼女が座っていたベンチから立ち上がってどこかに歩き始めていた
進んだ先にあるのはガラスの壁だ
「あ、春上さん危ない―――」
「―――あうっ」
初春の制止は一歩遅く、彼女はそのガラスの壁におでこをぶつけてしまった
春上はおでこを抑えながらうずくまり、すかさず初春が彼女の傍へ駆け寄った
「春上さん、どうしたんですか?」
「うぅ…あれ」
そう言って春上はガラスの壁の向こうにあるポスターを指差した
壁に貼られてあったのは花火大会の開催を知らせるポスターだった
簡単に言えば花火大会の告知用紙である
「あ、そういや今日じゃないですか? 花火大会」
佐天に言われアラタはそのポスターをよく見てみる
確かに日付は今日と記してある
「ねぇ、皆でいこっか!」
「いいですわねお姉様っ! 浴衣なんか着て」
「賛成です白井さん!」
そんな楽しそうな三人を見ながらアラタはちらりと春上を見た
春上は一瞬キョトンとしていたが
「…行くかい? 花火大会」
アラタがそう問うた
それに初春も乗って
「行きましょう春上さん! きっと楽しいですよ!」
そう言って初春は笑顔を作る
春上は彼女の笑顔を見つめ
やがて笑顔で
「うん!」
と大きく頷いた
◇◇◇
そんな訳で花火大会へと行くことになりました
時間までその場はいったん解散となりアラタは伽藍の堂へ寄って鍵を受け取ると一度学生寮へと戻っていく
恐らく彼女たちは浴衣で来るだろう
それに合わせてこちらも浴衣で行くのが普通なのだが、いかんせんアラタは浴衣を持っていないのだ
ていうかそれ以前にアラタはあまり服に興味がない
ぶっちゃけ私服も普通にあまり脚色がないTシャツだし、ズボンはジーパンとかである
基本的に制服しか着ないのだアラタは
「なんだったら、着物でも貸してやろうか?」
と式が言ってくれたが丁重にお断りした
流石に女物を着る勇気などアラタにはなかった
そうこうしている内にちゃくとちゃくと時間が進んでいった
外のはもう夕方となっており、太陽もだいぶ沈みかけている
「さて…そろそろ行かないとな」
結局制服を着ていくことになった
なんか美琴辺りから言われそうだが特に気にしない事にする
…
すでに待ち合わせ場所には五人そろっていた
美琴は黄色い浴衣、黒子は紫色というちょっと変わった色の浴衣だ
「…制服なんだ」
「いいだろ別に」
案の定なんか美琴に言われたが先述の通り気にしない
今度は初春たちを見る
佐天は緑色のシンプルな浴衣、初春はピンクで多少花柄があしらわれた可愛らしい浴衣、そして春上は白をベースに水色をあしらった浴衣だ
どれもみんな個性が出て可愛らしい
「皆可愛らしいじゃんか」
そう言うと初春は苦笑いと共に頭を掻く
春上はどこかもじもじとした様子で
「あ、ありがとうなの…」
と呟いた
「あー!」
唐突に佐天が声を上げた
彼女が見た方向へ視線を向けるとその先には数々の夜店が並んでいた
「夜店だー!」
「ホントだ! いっぱいあるね!」
ここから夜店までは結構な距離があるがすでに焼きそばやたこ焼きなどの匂いは漂っており食欲をそそっていく
「ん~! たまらんっ!」
そんな言葉と共に佐天は駆け出してしまった
「あ! 私も!!」
「お姉様! そんなに走っては…。もう!」
そんな佐天を追って美琴も彼女の後を追いかけた
そして美琴を追いかけて黒子も空間移動してその場から消える
「…俺たちも行くか」
「そうですね。それじゃ行きましょう春上さんっ」
「うんっ!」
◇
その後は純粋に夜店を楽しんだ
まずたこ焼き
こう言った屋台でのたこ焼きは出来立ての為かほくほくとしてとても美味しい
ぷりぷりのたこがその味を増していると言ってもいいだろう
「やっぱり鰹節が決め手だと思うんですよね。アラタさんはどう思います?」
「え? どう思いますって言われてもなぁ…」
もむもむと頬張る佐天にちょっと萌えてしまったのは内緒である
次にスーパーボールすくい
ボウルみたいな最中的生地に持ち手が付けられておりそれを用いてボールをすくうゲームだ
見た目の割りに意外と難しく一つもすくえないまま終わってしまった
「わわ! 春上さん! 食べちゃダメですよ!」
「はむ?」
やっぱり彼女は天然なのだろうか
お次は輪投げ
シンプルに輪を投げて景品を輪に入れるゲームだ
アラタは一回挑戦してキャラメルをゲットした
「…よし、入りましたのっ!」
「能力使って入れんじゃないッ!!」
バシッと黒子がド突かれる
輪が入らないからといって能力を使ってはいけません
◇
御坂美琴はあるお面に心を奪われていた
それはカエルのお面である
別にそのお面がただのカエルのお面なら美琴も興味を持たなかっただろう
ではなぜか
そのお面が美琴が好きなキャラクター〝ゲコ太〟に酷似していたのだ
いや、もしかしたらこの面はゲコ太なのかもしれない
「…買ってやろうか」
その光景を見ていたアラタがそんな事を言い出した
「え!? いいの―――って! べ、別に私は―――」
「遠慮すんなって。ほら、このお面だろ」
手早く清算するとアラタはそのお面を受け取って美琴に渡してきた
美琴はおずおずとそのお面を受け取ると僅かばかりに頬を染めて
「あ、ありが…と」
そう小さく言うとそのお面を被る
お面の中の顔はどことなく、無意識に笑んでいた
◇
「…ん?」
綿あめをもふもふしている佐天がふとある一角へ視線をやった
「なんですか? あのトラック」
視線の先にはサイレンが取り付けられた大き目のトラックが三台ほど並んでおり、その付近には何名かの大人たちがいた
そのトラックにはMARと書かれている
「あれは…先進状況救助隊のトラックですわね」
「あぁそうか。例のポルターガイストの一件でここに」
ポルターガイスト、という単語を聞いた途端佐天の眼が輝き始めた
「ポルターガイスト! やっぱりあの噂まじなんですか!!」
「こんな人通りの多いところで起きたら大パニックですし…」
確かにこんなお祭り騒ぎな会場でそんなことが起きたら大惨事だ
それを未然に防ぐためでもあるのだろうか
「それはそうと…あんな警備がいる中で花火見物だなんて。…風情も何もあったもんじゃないですわ」
ハァ、と黒子がため息と共に愚痴を漏らした
それに佐天がアッと気づいたように声を上げる
釣られて皆が佐天を見た
「だったらいいとこがありますよっ!」
◇◇◇
佐天に案内されてきた場所は自分たち以外の客がおらず、先ほどのMARの職員らもいないまさしく花火を楽しめる場所だ
「ここ、穴場なんですよ」
確かにここからなら花火もよく見えるし視界には何も堅苦しいものも入ってこない
まさしく穴場だ
「あ、また上がりますわよ!」
黒子のテンションもわずかではあるが上がっている気がする
そんなタイミングでまた花火が夜空に打ち上がり、夜の空に花を咲かせていく
「どーんと響きますよねぇ…」
「うん。どーんと来るの…」
花火はどんどんと打ちあがる
色とりどりの花火たちは何発も空に花を作り、心を魅了する
あまり花火などを見たことはなかったが、ここまで美しいものだとは思わなかった
…
『たーまやー!』
初春と佐天がそんな定番の言葉を同時に叫んだ
春上はそんな二人を見ながらふと口元に笑みを浮かべる
「? どうしたんですか?」
「…思い出してたの」
春上は物思いにふけるように胸元に手をやった
そして懐かしむように
「私にも…初春さんと佐天さんみたいな…―――」
言葉が途切れた
急に様子が変わった春上に戸惑いを隠せない二人は顔を見合わる
「春上さん?」
初春の言葉に耳を貸すことなくいきなり春上は会談に向かって歩き始めた
「ちょ、春上さん!?」
「どこ行くんですかー!?」
…
「どこ行くんですか―!?」
そんな声を聞いたのはついさっきだった
ふと視線をやるとどこかに行く春上を佐天と初春が追っかけていく姿が見えた
「…どこ行くんだアイツら」
アラタの呟きに美琴も反応し彼の視線の先に目を見やる
「? どうしたの? 初春さんたち」
「さぁ…俺に聞かれても」
「きっとわたくしたちに気を使ってくれたんですわよ…。…さぁ、今こそ黒子たちもめくるめく熱い夜を…」
ピリリ、とアラタの電話が鳴った
今にも襲い掛からんとする黒子を美琴に任せアラタは携帯に手を伸ばしディスプレイを見る
そこにはフィリップと名前が映し出されていた
「もしもし、フィリップ?」
<やぁ、アラタ。君に頼まれていた件なんだけど、一応調べ終わったよ>
「マジですか。…早いな」
あの合同会議の後、やっぱり違和感はぬぐえず、花火大会に帰り際左探偵事務所に赴いて調査を依頼したのだ
数日はかかるかな、と思っていたがまさか半日かからないとは
<調べ終わったといえどそこまで詳しいことじゃない。RSPK症候群…だっけ。それの同時多発の条件がAIM拡散力場への人為的干渉という可能性が浮上したんだ>
「…人為的干渉? …え、ちょっと待て、つまりそれって」
<あぁ、ここまで起きたポルターガイストは偶発的に起きた事故なんかじゃない。誰かが意図的に―――>
フィリップがそこまで言いかけた時不意に足元がぐらりと揺れた
揺れが徐々に大きくなり、目の前の手すりを支えにしないと立っていられないほどだ
思わず携帯の通話ボタンを押してしまいフィリップとの会話が途切れてしまった
「ちょ、これって…!?」
「ポルターガイストですのっ!?」
揺れの大きさがピークに達したとき、地面が罅が入るのをアラタは見た
そこからは本能だ
アラタは美琴と黒子を脇に抱え、そのまま叫ぶ
「わひゃあ!?」とか「お、お兄様っ!?」なんて言葉が聞こえるが気にしない
「変身っ!!」
アークルが顕現しアマダムが青色に輝く
崩れ去る地面から跳躍し、階段の上へと着地する
そして美琴と黒子を下すと美琴が叫んだ
「佐天さんたちは!?」
そう言われて思い出す
そうだ、ポルターガイストが起きる前三人は…!
◇
訪れた揺れに佐天は足を取られてしまった
自分の先には初春と春上がいるのだ
幸いにも今の所二人は無事―――と思ったその矢先だった
揺れによって地面が崩れて街灯が初春たちの所へと倒れていったのだ
「初春!!」
言葉を飛ばすが間に合うかどうか、それ以前にアラタも美琴も黒子もいないこの状況では佐天はただ言葉を発することしかできなかったのだ
佐天の言葉にハッとする
向かってくる街灯に恐怖を覚えるがそれでも彼女は春上を守るべく自分の身を盾にするように覆いかぶさった
…
しかしいつまで経っても衝撃は来なかった
恐る恐る目を開けてみるとビビッドなピンクのロボット(?)がその街灯を受け止めていたのだ
そんな時黒子のテレポートを用いて美琴とクウガがその場に到着した
「佐天さん! 怪我はない!?」
「は、はい。初春たちも、怪我は…」
そう言いながら佐天はそのロボットみたいなのに視線をやった
「あれって…」
ロボットは街灯をゆっくり下ろすとしゃべりだした
「間一髪ね」
うっすらと黒で覆われた顔に該当する部分がはっきり見えてくる
「もう大丈夫よ」
それは合同会議で見た、テレスティーナの顔だった
という事はあれはロボットではなくパワードスーツだったのか
とりあえず当面の危機は去ったと思ったその直後である
「ハァァァッ!!」
と茂みから唐突に虎の怪人が強襲してきたのだ
虎の怪人は真っ直ぐ春上を狙って襲い掛かる
その前にクウガは彼女の近くへと跳躍して顔面を蹴っ飛ばす
びっくりしながらもそれでも春上から離れない初春の頭を撫でつつクウガはテレスティーナに告げる
「任せていいですか?」
テレスティーナはゆっくりとアーマーの中で頷いて
「えぇ、行って来てちょうだい」
その言葉を受けてクウガは虎の怪人に向かって駆け出した
彼の背中を見つめながら、テレスティーナは僅かに、本当に僅かに笑んだ
(…見せてもらうわよ。仮面ライダーさん)
◇
敵は虎というよりも豹、といった方が正しいか
とはいえ違いなんかよくわからないのでこの際虎の怪人という事にしておく
クウガは赤に戻りながら一定の距離を保ちながら敵の動きを待つことにした
お互いの距離はそのままにじりじりと足を動かしつつ出方を見る
最初に動いたのは虎の怪人だ
虎の怪人は一思いに跳躍して手にある鋭い爪でクウガを斬り裂こうと手を伸ばした
クウガは一歩退いてその一撃を躱しカウンターで蹴りを繰り出すが、反対側の手でそれを防がれた
すかさず足をひくが相手の繰り出した拳がクウガの胸を捉える
「うぐっ!」
一歩身を引いたことでダメージを軽減する
その隙を逃すまいと一気に接近して虎の怪人はラッシュをかけていく
このままダメージをくらい続けることは流石にマズイ
そう思ったクウガは何とか両手でそのラッシュを耐えていく
虎の怪人の攻撃を耐えている最中、クウガは妙な違和感を覚えた
(…なんだ、この敵…泣いてる?)
どういう原理かは分からない
しかしクウガにはこの敵が泣いているように思えるのだ
別に拳を交えれば分かるとか、そんなものではない
ただ、なんとなく…そう言った曖昧なものでしかないのだが
「ハァァァァッ!」
顔面に向けられた拳を両手で受け止めてギリリ、と握りしめる
力強く握られた拳に痛みに耐えられず虎の怪人はクウガを蹴っ飛ばして後ろへ飛んだ
吹っ飛ばされたクウガは態勢を立て直しながら周囲を軽く探す
見渡すと自分の付近に木が合った
植物にごめんなさいと謝りながら適当に枝をへし折ると剣のようにそれを持った
「超変身!」
そう叫んでクウガは紫の〝タイタンフォーム〟へと色を変えた
そして手に持った枝も彼のモーフィングパワーにより両刃の剣〝タイタンソード〟へと形を成す
クウガはソードを持ち直し、一気に虎の怪人へと駆け出す
「ウアァァァッ!」
虎の怪人も咆哮を上げ真っ向からクウガへと接近していく
手を開き手刀を繰り出すがクウガはそれをギリギリで回避する
そのままクウガは右下から斜め上に向かって逆袈裟切りを繰り出すが難なく虎怪人はそれを回避しがら空きの横腹に蹴りを貰ってしまった
痛みはさほどあったものではないがそれでも衝撃は強く軽くよろめいてしまう
なればクウガはその痛みを耐えることにした
「ガァァァァッ!」
虎怪人が叫びながらクウガの顔面に一撃を叩きこんだ
だがクウガは怯むことはなく、むしろそのままぐい、と前に歩み寄ってきて
「だぁぁぁっ!!」
手に持ったタイタンソードを虎怪人の腹部へと思い切り突き出した
突き出された剣は虎怪人の腹を突き破り、貫通する
そのまま虎怪人はどういう訳かクウガにしがみつき、か細いような声でこう言った気がした
「…あ、り…がと…う」
「―――え?」
疑問に思う暇もなく直後に虎の怪人は爆発する
爆炎の中、美琴たちの下へ帰りながらクウガは僅かに聞き取った言葉を頭の中で再生する
…あ、り…がと…う
何故感謝されたのだろう
その意味が、分からなかった
◇
「春上さん」
怪物もクウガとなったアラタが倒してくれたしこれで少しは安全だろう
初春は自分の倒れている春上に声をかけた
「無理しちゃダメ…」
佐天と初春の声に反応しつつ、春上はゆっくりと身を起こす
「…どこ」
僅かに呟いたその呟きを初春は聞き逃さなかった
「…春上さん?」
春上は首にかけていたネックレスを握りしめながら誰かを想うように
「…どこに、…いるの…?」
そう短く呟いた
夜に花火が上がっていき、先ほどのポルターガイストの一件で野次馬が増える
美琴は思わず花火に目をやった
夜空で爆発する花火は綺麗だった、しかし今はその美しさを楽しむ気にはなれなかった
そして、パワードスーツを着込んだテレスティーナは、誰にも悟られることのないその内側で、口元を歪に歪ませた―――