とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
こんなモノに今まで付き合ってくれてありがとうございます
相変わらずの出来だがよろしくお願いします
では、どうぞっ
常盤台女子寮に辿り着く
時間は体感時間で四時くらいだろうか
恐らく黒子を携帯かなんかで呼べばここに来てくれるだろう
「…ねぇ、アラタ」
不意に後ろに乗っていた美琴がメットを取りながら口を開く
脱いだメットを膝の上に置き、その上で掌を弄びつつ言葉を続けた
「…まだ、支部には顔出さないの?」
「あぁ、そのことか。…そうだな、まだ気になる事があるからさ」
「気になる事? もうポルターガイストは起きないしその子供たちの覚醒方法もテレスティーナさんが見つけてくれるって…」
「上手くいきすぎてると思わないか?」
え? と美琴の言葉が詰まる
「美琴、仮にもお前は誰の目につかないように行動したんだろう?」
「え、えぇ…、細心の注意を払ったと思うけど」
「なのに後をつけてたってさ…。あぁ、別に美琴を責めてるわけじゃないぜ?」
そう言ってアラタは苦笑った
その笑みを、美琴は素直に見れなかった
どことなく、無理をしているように見えたから
「ともかく、これで一段落だ。美琴もちゃんと休めよ」
「その台詞、そっくりアンタに返すわ。…無理して、この馬鹿アラタ」
小さく呟く言葉に頭を掻きながらアラタはエンジンを蒸かし始める
美琴の視線を背に受けながらアラタがビートゴウラムを発進させた
◇
先進状況救助隊の研究所
その春上の病室にて
春上衿衣は携帯の画面を見ていた
それはゲームセンターで撮ったプリクラで、画面の中ではそれぞれが皆笑い合っている
自分が退院したら、またこうやって笑い合える時が来るだろうか
そう物思いに耽っているとコンコンと扉がノックされた
「春上さん?」
そう言って扉を開けて入ってきたのはテレスティーナだった
彼女はどこかうっすら笑っているようにも見える
「お友達よ」
…
「…お友達って…初春さんたちじゃないんですか?」
「さぁどうかしら」
先ほどから聞いてもはぐらかされるばっかりでテレスティーナは何も語ろうとはしない
それ以前にどこか雰囲気も変わって見える気がする
疑心暗鬼のまま彼女についていくとある扉の前で止まった
扉を開けて進むとたくさんのベッドとそれに横たわっている大勢の子供たちが目に入ってきた
きょろきょろと子供たちを見ながら春上はテレスティーナを追っていく
やがてテレスティーナは一つのベッドの近くに止まる
春上もそれにならって立ち止まり、そのベッドで寝ている子供を覗き込んだ
「…え!?」
春上は驚愕の声を上げる
それもそのはずだ
今そのベッドで寝ているのは彼女が探している枝先絆理その人なのだ
「絆理ちゃん!? どうして…絆理ちゃんっ!?」
彼女は感極まった様子で涙を流す
本当に目の前にいるのは枝先絆理なのだと春上は実感していたのだ
「そうだ…初春さんたちに連絡を…」
そんな春上を離れたところでテレスティーナは見つめていた
その口元をこれ以上ないくらいに歪ませて―――
◇
深夜からいろいろありすぎた
コンビニによって朝食を購入していたら学生寮に戻るころにはすっかり九時ごろになってしまった
流石に疲れがたまったアラタはいったん身体を休めようと学生寮の自室へと戻った
階段を上っていき扉のドアに手をかけて扉を開け―――
「あ、お帰りなさいお義兄様っ!」
何故だか自分をお義兄様と呼ぶ両儀未那が出迎えてくれた
しかも奥の居間には見覚えのある黒い髪の女の人―――
「あ、おかえりー」
黒桐鮮花
彼女は黒桐幹也の妹君で、妹でありながら実のお兄ちゃんに恋をしてしまった困ったお人である
しかしなんでこんな所にいるのだろうか
考えられえる可能性は幹也を追っかけて式の所に行ったのか…とかだが
正直真面目に考えると疲れるのでこの際スルーしておく
「ていうか勝手に人の部屋ん中に入んないでくれますか鮮花さん」
「いいじゃない別に。…そりゃ悪いとは思ってるけど」
そう言って可憐な笑顔を見せる鮮花
…こんなに可憐なのに幹也はすべてをスルーするあたり凄まじいと言える
どこまでもあの人は式一直線だった
「…とりあえず、ちょっと寝ていいですか? 深夜からあんま寝てないんです」
「おっけー。…風紀委員の?」
「いえ…まぁ似たようなものです」
短くそう答えてアラタはベッドに倒れ込んだ
とりあえず、二時間前後は仮眠を取ろう
そう思ってゆっくりアラタは瞼を閉じた
◇
時間は少し遡る
時間帯は恐らく六時前後
ステーキハウス〝ブラック・サン〟
店主は厨房にてステーキの為に仕込みをしていたところだった
そんな時、ハウスの入り口が開け放たれた
そこに目をやると茶色いジャンパーを着込んだ男性がそこに立っていた
男性は歩き出すとカウンターに腰をかけて
「…悪ぃ、子供たちを〝保護〟されちまった」
その声を聞きながら店主は仕込みをいったん中断し、冷凍庫に置いてある保存してるお肉へと手を伸ばした
「本当は俺も動くべきなんだが…生憎本業をおろそかにもできねぇ…」
冷蔵庫から取ったお肉を包みクーラーボックスに入れながら店主は男性の前に持っていく
「差し出がましいが…頼まれてくれるか?」
男性の言葉に店主は頷く
その仕草を見たあと男性は苦い笑いをして
「すまねぇ。…恩に切る」
「気にしなくていいさ。…それに、未来ある子供たちを道具にするような悪行を、俺は許さない」
そう言って店主はかけていたエプロンを外し畳んだ後、テーブルの上に置いた
置いた後店主はハンガーにかけてある白いジャケットを取り、それを羽織る
「…頼んだぜ」
「あぁ。頼まれたよ」
そう言って男性―――伊達明と手をハイタッチを交わし店主はステーキハウスを後にする
大体の情報は伊達から聞いてはいるが、テレスティーナに関する情報は少々少ない
ここはいつも来てくれる翔太郎を頼ってみようかな…なんて考えながら店主は歩を進める
全ては、この街にいる誰でもない誰かのために
◇
テーブルに置いてある携帯が鳴る
そんな音に気が付かずアラタはベッドの上でごろりと寝返りをうった後、こちんと頭を叩かれる感触があった
痛みに耐えながら目を開けるとそこには鮮花の顔があった
彼女はずい、とアラタの携帯を差し出しながら
「電話」
と言ってきた
彼女から電話を受け取り誰から来たのかを確認する
表示された名前は初春だった
ちょっと気まずいと思ったが無視するわけにもいかない
アラタは通話ボタンを押してそれを耳に当てる
「…もしもし?」
<…ひっく…! ぐず…>
聞こえてきたのは泣き声だった
それもただの泣き声ではない、本当に何かを失敗してしまったような、そんな声色
流石に疑問に思ったのかアラタはベッドから起き上がり改めて会話に集中する
「…初春?」
問いかけても帰ってくるのは泣き声ばかり
これは…もしかして―――
「…支部で話し合おう」
初春にそう言ってアラタは電話を切り、ベッドから立ち上がった
鮮花と未那にお昼でも振る舞おうかなと仮眠を取り始めた時は考えていたがそれはまた別の機会で振る舞うとしよう
◇
矢車ソウは乱雑に電話を受話器に叩きつけるように戻した
唐突に申してきたその申し出に、苛立っているのだ
「隊長~…ポルターガイストの資料、一通り集めましたぁ」
そう言って鉄装は山ほど資料が入った段ボールをデスクに置く
矢車は彼女に向き直り
「あぁ、ご苦労。…」
「隊長? どうしたんですか?」
先ほどから矢車は電話を睨みつけている
普段の彼からはみられない怒りにも似たオーラが漂っているような…
「いや、今しがたMARから連絡があってな。ポルターガイストの件はもういいと言ってきてな」
「! なんですって!?」
それに過敏に反応したのは立花眞人だ
「あんなに大きな事件なのに、一方的にそんな事言うなんておかしいですよ!」
「あぁ、それには俺も同感だ。…終わったから、の一点張りではな」
もともとあの女…テレスティーナと言ったか
あの女も含めて先進状況救助隊とはどうにも胡散臭い
その疑惑を、この電話はさらに深めたのだ
「鉄装、その資料は影山に渡せ。あいつに保管させる」
「了解しました!」
◇
「テレスティーナ・木原・ライフライン…!? 本当にそう言ったのか!?」
一七七支部
駆け付けた時にはすでに初春が座っており、そして泣いていた
そんな初春の背中を佐天が優しくなでている
話を聞くに、彼女は木山と一緒に子供たちに会えないかと頼みに行ったようだ
そのついでに今まで木山が調査したデータも持ち寄って頼んでみたのだが―――結果はすぐにわかる
今目の前にいる初春を見れば一目瞭然だ
そしてそこで…テレスティーナは本性を現した
「木山は今、どこにいますの?」
「わっ…! かりま、ぜん…ぐずっ…」
初春は先ほどからずっとこの調子だ
これでは会話にすらなりはしない
「落ち着いて初春…大丈夫だから」
佐天に宥められているが彼女は一向に泣き止まない
そんな初春に、少しだけアラタはイラついた
「あったわ! テレスティーナ・木原・ライフライン…」
パソコンの前に座って彼女を調べていた固法がそう声を上げた
「木原幻生の血縁…孫!?」
「なんですって…!?」
木原、というファミリーネームがあった時点で何らかの可能性は考えてはいたが、まさか孫だとは思わなんだ
嫌な予感はしていたのに、まんまと行動を許してしまった
「前白井さんが見つけた論文から当時の職員のデータに当たったの…これを考えると、恐らく彼女は木原幻生の助手をしてたことにもなるわね…。待って、第一被験者…〝テレスティーナ・木原・ライフライン〟!?」
「なんだと…!?」
めまぐるしく動き回るアラタや黒子を見ながら、美琴は拳を握りしめた
そして同時に後悔する
どうして、あそこで立ちはだかってしまったのだろう…、自分がやったことは、完全に間違いじゃないか…!
「つまり、アイツが最初の被験者!? いや、ちょっと待て、自分の孫さえも材料に…!」
まさに外道、というレッテルがピッタリだ
そしてそのテレスティーナも研究者…血は争えないとはこの事か
「ど・・・どうじよう…っ!! わたじ、わだじ…!」
「な、泣かないで初春…!」
「だっで…春上ざん…枝先さんまで…う、うぅぅぅぅ…!!」
みっともなく初春を見て、アラタは苛立ちが募っていく
やがてピークに達したアラタは彼女の方に歩いて行った
「…いつまで泣いてるつもりだ」
「…え…!?」
彼女の顔は酷いものだ
涙に濡れて、目は真っ赤になっている
「いつまでそうやってめそめそ泣いてるつもりだ、初春」
「あ、アラタ…ざんっ…ぐずっ」
まだ彼女は涙を止めない
それどころか、拭おうともしない
アラタは意を決した様子で彼女の胸ぐらをつかみあげた
そして、怒鳴る
「泣いてるばかりで何してんだこの馬鹿野郎ッ!!」
「っ!?」
「泣けば彼女が戻ってくるか!! 泣いたら何かが変わるのか!! 変わんねぇだろわかってんだろうんなコトはッ!!」
初春は涙を流しながら彼の怒号を聞いた
それ以前に佐天や黒子、固法でさえも彼の声に驚いている
「答えろ! お前の仕事はなんだ!!」
「わ…私は…」
初春はそこでめいっぱい息を吸い込んだ
そして、真っ直ぐアラタを見て、言い返した
自分のやるべきことを確認するかのように
「風紀委員一七七支部の…初春飾利です…!!」
「…よし、よく言った」
宣言する時には初春からだいぶ涙は消えており、いつものような顔つきが戻ってきていた
そうだ、それでこそだ
「怒鳴って悪かった。…いろいろごめんな、だから―――絶対に助けるぞ」
「―――はいっ!」
そう元気よく、そして僅かに笑んだ彼女は国法の所に行き、交代を申し出る
彼女がキーボードを叩く音を背に、アラタは一つ、息を吐く
ふと目を開けると佐天と視線があった
彼女はアラタに気づくと少し笑ってくれた
「アラタさんって、結構不器用?」
「言ってくれるな」
小さい声でそんなやり取りを交わした直後、辺りを見回すと違和感に気づいた
佐天…は目の前にいるし、初春は黒子と話しながらパソコンを操作していて、その様子を固法が見ている
固法もその違和感に気づいたのか唐突にきょろきょろし始めた
「…あれ? 御坂さんは?」
何気なく呟いたその言葉に支部の中の時間が止まる
脳裏に嫌な予感がよぎった
もしかしたら、美琴は―――
「あのバカ…!」
いてもたってもいられずアラタは支部を飛び出して下に停めてあったビートチェイサーの下に駆け寄った
◇
先進状況救助隊研究所の入り口付近
そこに御坂美琴は立っていた
目の前からはMARのトレーラーが通り過ぎていく
恐らくあの中に子供たちが入っているのだろう
「いいの? 追わなくて」
目の前に見えるテレスティーナは前と変わらないスーツ姿だった
しかし、今はそんな事などどうでもいい
「騙したわね」
「騙す? 人聞きの悪い」
彼女は依然と変わらない態度だったがそれでも不快に感じるものがある
いや、今やそこにいるだけで不快な存在だ
「何を企んでるの」
「企むぅ?」
「木原幻生の孫娘…それでいて結晶体の最初の被験者…なのに、アンタは木原幻生の研究を手伝い…子供たちを連れ去った…。一体どういうつもりなの―――」
「ぷっ!! げひゃははは!!」
纏う空気が完全に変わる
「よく調べたじゃねぇかお利口さ~ん…でもさぁ、なんでって言われて正直に答えると思ってんのかァ!? サスペンスの見すぎだろヴァァァカ!! 聞きたかったら力づくとかで割らせてみやがれ小便くせぇ小娘がよぉ!!」
怒りが頂点に達した
今までの性格は完全に作っていたものだったようだ
体中にバヂバヂと雷を奔らせて目の前のアイツにぶつけようとしたところで
キィィィン…、と耳に残る音が響いてきた
その音は美琴の頭に痛みを走らせて思わず膝をつかせてしまう
「こ、この音…!?」
「知ってるのぉ? キャパシティダウン」
キャパシティダウン
それは蛇谷率いるビッグスパイダーの連中が使っていたものだ
それをどうしてこの女が持っている…
「ん~? なんでお前がーみてぇな面だなぁ。教えてやるよ…これはアタシが作った奴だからなぁ!!」
そう言ってテレスティーナは美琴の腹を蹴り飛ばす
灰から空気が逆流し、一瞬呼吸が出来なくなる、が身を転がしてなんとか距離を取った
「作った…!?」
「スキルアウトのネズミどもにプロトタイプくれてやったらよぉ、たくさんデータが集まったんだ。おかげでだいぶパワーアップしたぜェ? …ま、おかげでデカくなっちまったが」
そう言ってテレスティーナは徐にある所に視線をやった
恐らくそこに改良されたキャパシティダウンがあるのだろうが、美琴はそこに視線をやるほど余裕はない
「スキルアウトとかいうゴミみてぇな役立たずどもでも、使い方次第じゃ役に立つんだなァ? あっひゃひゃひゃっ!!」
美琴は拳を握りしめる
脳裏に蘇るのは一緒に戦った黒妻綿流の笑顔
友達を馬鹿にされて、怒らないヤツはいないんだ
「ざっけんじゃねぇわよ…!」
「あァ?」
「スキルアウトは…
怒りと共に放たれた雷は凄まじい威力を誇るものだった
しかしキャパシティダウンの邪魔があり、思ったところには上手くいかなかった
「おお怖い怖い。…こりゃ流石に、生身はあぶねぇな」
そう言いながら胸ポケットから取り出したのはガイアメモリだった
書いてあるのは〝W〟の文字
彼女は「っは!」と笑いながらメモリを起動させる
<WEATHER>
そして彼女は首へとそのメモリを挿入し、身体を変貌させていく
「アンタ…そんなものまで…!」
「雷ってのは…こう撃つんだよぉっ!」
ウェザーの掌から放たれた雷撃を美琴は走る事で何とかして回避する
だが状況は完全にこちらが不利だった
◇
ビートチェイサ―を走らせるその道中、前方に異様な集団を発見した
その連中はまりで自分がこの道を通るのを予期しているかのように立っていたのだ
(…もしかして、テレスティーナの部隊かあれは…!)
流石に轢くという訳にもいかず、アラタはその集団の前でビートチェイサーを止める
そして敵意を隠さず、メット越しにそいつらを睨みつけながら
「なんだ、アンタたち」
しかし言葉が返ってくることはなかった
代わりに返ってきたのは、メモリの起動音声
<MASQUERADE>
一つだけではない
その集団が一斉にそのメモリを起動させて自分へと挿入していくのだ
来ている衣服はそのままに、人型を保ちながら頭部全体がムカデか背骨のようなマスクで覆われていく
少なくともこの集団は二十人前後はいるか
だが、そんな事で止まってなんていられない
アラタはメットを被ったまま腰へと手を翳す
そしてそのままポーズを取って叫んだ
「変身!」
ギィン、とアマダムが赤く輝き彼の身体を変えていく
クウガはビートチェイサーから降りながら身構えてマスカレイドの集団に駆け出して行った
◇
クウガがマスカレイドに足止めされているとき、御坂美琴は追い詰められていた
キャパシティダウンのおかげで能力はうまく作用しないし、相手は雷だけでなく雲や雨といった天候までも操ってくるのだ
はっきり言って避けるだけで精いっぱいだ
「アンタみたいな子ってとっても素敵。正義感にあふれて頑張り屋でさぁ。そんなあなたやお友達のおかげでぇ、子供たちを見つけることが出来ましたァ。…だからよぉ、褒美の代わりに教えてやるわ」
ウェザーは全く疲れた様子は見せていない
それどころか余裕すら見せている
「私の目的はその能力体結晶を完成させること。ついでになぁ…あの花火大会で襲ってきたあの化け物…」
ウェザーはそこで一度言葉を区切った
そしてずい、と美琴の顔へ近づけて
「―――私が人体実験で作った奴なんだよねェ?」
「―――!?」
今、目の前の女はなんといった
「クウガとかいう奴のデータを取りたくてよぉ? けど出来た化け物はみぃんなすぐおっ死んじまってさぁ…たまたま出来たあのトラを、仕向けてやったのさぁ」
「アンタ…! 人間をなんだと思ってんのよ…!?」
「別に何とも思ってねぇよ。それくらい分かんだろ?。学園都市の奴らは皆能力開発受けてんだぜ? つまりみんなサンプル品だって事だろうが」
軽快に腐ったことを吐きながらウェザーはさらに美琴を蹴り飛ばした
幸いにも喰らうその直前、僅かに右に飛んだおかげで大きな怪我は免れたが、それでもダメージを負ったことに変わりはなかった
そんな時だ
「…ん」
ウェザーの耳にバイクのような音が届いた
差し向けた部隊を退けた鏡祢アラタが向かってきたのだろうか
仮にそうだとしたら役に立たねぇ部隊だな、とも思ったがそうでもないようだ
何故なら視界に入ったバイクは自分が知っているバイクではなかったからだ
そのバイクの色を一言で表すなら青である
特徴的なのは赤い瞳のようなものがあり、陽に当たって輝いている
そしてその勢いのまま、何と乗っている男が自分に向かって飛び蹴りをしてきたのだ
そのままバイクはなんと美琴の付近で自律的に止まった
「トゥアッ!」
「ぐっ!?」
その蹴りを受け止め、思わず後ろへ下がる
地面に着地した後も男は攻撃の手を緩めず、そのまま腹部に蹴りを叩きこんできた
一度距離を離すとすかさず男は地面を這いつくばる美琴の方へ駆けていく
「大丈夫か」
「え、ぇ…あ、貴方は―――」
「名乗るのは後だ、今はここから逃げる」
そう言って男は彼女を抱きかかえると再びバイクに跨った
跨ったとき、疲れが溜まったのか緊張が切れたのか、美琴は気を失ってしまった
「行くぞ、アクロバッター!」
<OK、ライダー>
「く、そうは問屋が卸さないってなぁッ!!」
逃がすまい、とウェザーは雷を掌から放出する
だがその雷撃はすべて躱され、流れるように駆け抜けていってしまった
「…ちっ!」
テレスティーナへと戻ると大きく彼女は舌を打つ
貴重なサンプルを取り逃がした
◇
一方で膨大な量のマスカレイドドーパントと戦っていたクウガは最後の一体を仕留めた
一人一人ははっきり言って弱かったが、流石に数に頼られるととてつもなくしんどい
クウガは地面に膝をつくと同時、変身が解けてしまった
「…数多すぎ…、物量って怖いなぁ…」
完全に息が切れている
ともかくこれで美琴の所へ行ける
急いで合流しなければ、と前を見たところである一台のバイクがこちらに向かってくることに気が付いた
バイクはこちらに気が付くと自分の前に止まる
そこで気づいた
彼の手元に御坂美琴が担がれていたことに
「美琴…! え、っと…」
「君がアラタくんかい? 翔太郎くんから聞いているよ」
「えっ? …ダンナの知り合い…なんですか?」
男性は美琴をアラタに託すとメットを取った
その素顔はどこにでもいそうなおじさんだったが、その笑みだけでもこの人の優しさが伝わってくるかのような感覚を覚える
そして、その視線が果てしない激闘を潜り抜けてきたという事も
「とにかく、早く病院に行こう。念のため、その子を」
「お、おうっ」
男性にそう言われ、アラタは美琴をお姫様だっこして再びビートチェイサーに跨り、アクセルを切る
◇◇◇
御坂美琴が目を覚ましたのは病院のベッドの上だった
「お姉様!?」
「御坂さん、大丈夫ですか!?」
「どこか、痛いところとか…」
起きた瞬間に黒子、初春、佐天の三人に声をかけられる
アラタも声をかけては来なかったが本当に安堵したように息を漏らした
そしてアラタの付近には自分を救出してくれたあの人もいた
「…そうだ…私…あの人に…」
そう思いだしたところで、あの女の顔を思い出す
そうだ、自分は何もできなかった
こんな所で、寝ていられない…
思い立った彼女はベッドから立ち上がった
「お姉様!? 急に動いては…」
「どいて黒子…春上さんたちを、助けないと…!」
「ですからそれは―――」
「私が! …勝手に研究所に忍び込んで…勝手に頭にきて…! 子供たちをあの女に…!」
彼女の声色は怒りに震えている
あの時の行動は、間違っていたんだ
まんまとあの女に利用されただけじゃないか…!
「どきなさい黒子。…あの女は、私が止める」
黒子の制止を振り切り、美琴は一人出口へと足を進める
そんな彼女の前に立ったのは―――佐天涙子だった
「…佐天さん?」
「御坂さん」
彼女は言った
「今、貴女の瞳には、何が見えていますか」
「…何って…佐天さん、…だけど…」
違う
佐天が言っているのはそう言う物理的な事ではない
彼女が言っているのは―――
「…あ」
気づいたように声を洩らした
そして、振り向いた
最初に視界に入ってきたのは黒子だった
次に初春…そして、アラタ
バカだ、と美琴は自分を罵った
こんなに自分を心配してくれる〝友達〟がいるのに…目先の事にとらわれて周りが見えなくなっていたんだ
「…ごめん。また…皆に迷惑をかけてた…」
「迷惑なもんかよ」
そんな美琴にアラタは声をかける
「迷惑ってのはかけるもんだぜ? まぁ程度はあんだろうけど…それでも、ただ心配するくらいならさ、近くで一緒に背負わせてくれよ。…それが友達ってもんだろ?」
「そ、そうです!! 私たちだっているんですからっ!」
「えぇ。仲間外れは許しませんわよ?」
そう言って笑いかけてくれる初春と黒子
あぁ、そうだ
自分は一人じゃないんだ
そう思って思わず美琴もつられて微笑んでしまった
「…いい友達を持ってるんだな、アラタくんは」
「えぇ。…最高の仲間です」
そう返答すると、男性はフッと笑った
「人間は一人では生きてはいけない。それは、誰にも言えることなんだ」
男性が窓の景色を見て、懐かしむように
「…友達、か」
遠い戦いを懐かしむように男性は目を閉じ、小さく微笑んだ
「…信彦」
小さく呟いたその声は聞き取ることは出来なかった
しかしその佇まいから、彼がどんなに激動の人生を歩んできたのがひしひしと伝わってくる
やがて男性は目を開けて
「君たちの戦い、微力ながら俺も手助けしよう」
「え? けど流石にそこまでは…」
「大丈夫だ。伊達君に頼まれてるからね。それに…中途半端には関わらないさ」
「伊達さんが? …あの人…」
見えないところで尽力してくれる
そう思ったところでそう言えばこの人の名前を聞いていなかったことに気が付いた
「そう言えば名乗ってなかったですよね。知ってると思うけど俺はアラタ。…彼女が美琴で、花飾りの子が〝飾利〟、ロングの子が〝涙子〟…そしてそのツインテの子が黒子です」
アラタに紹介されてそれぞれ礼をして挨拶をしていく
この時、呼び方に変化があったがあまりに自然すぎたため誰も気づかなかった
「俺は南光太郎。…しがないステーキハウスの店主だ」
◇◇◇
一七七支部にて
<わかった! なんとかしてみる>
「き、聞いてくれますの!? てっきり何か言われるかと思ってましたのに…」
パソコンに向かっているのは白井黒子
テレビ電話のようにモニター越しに会話をしているのは矢車ソウだ
黒子はこれまでのことをすべて話したうえで警備員に協力を仰ごうとしていたのだが
<あいつの組織が怪しいのなんて一目瞭然だ、おまけに君から話を聞いてさらに決心が固まった! さすがにすぐには無理だが、必ず動く! 君たちも無理はするな!>
「よろしくお願いしますの!」
そう言って矢車は一度通信を切った
てっきり反論でも言われるかと思っていたが矢車も疑念を抱いてらしい
どっちにしろ、これで一つ、強力な味方を得た
それから数分後
「警備員から衛星のデータが届きました! トレーラーは現在都市高速五号線、十八学区第三インターチェンジを通過したところです!」
五号線とは、十八学区へと続く道路だ
恐らくそこには木原幻生が所有している研究所があるのだろう
「…初春、このトレーラーの後ろを走ってる車に寄れるか?」
「え、はい…って!?」
画面を近づけて初春が驚いた
その後ろを走る車のカラーリングには見覚えがあるのだ
「これ、木山先生じゃないですか!」
佐天の言った通り、これは木山が使用している車なのだ
そんな木山の車を見て美琴が呟く
「ったく…無茶して。背負い込んでじゃないわよ全く」
「…お姉様がそれを言いますの?」
「やれやれ、だな」
人の事言えないのは美琴も同じだった
「はい、アラタ」
そうしているうちに固法から渡されるお椀
その中には美味しそうなわかめスープが入っていた
「光太郎さんが作ったスープよ。私はおにぎりだけど…ほら」
そう言って彼女が視線を向ける
その先のテーブルにはたくさん盛られたおにぎりと、大き目の容器に入れられたわかめスープが
「腹が減っては戦は出来ぬ。しっかり食べて備えなさい!」
『はーいっ!』「おうっ!」
◇
やがて皆の準備も終わり、それぞれが戦いに向けて表情を引き締めていた
佐天は護身用か金属のバットを持っている
というか、どこで手に入れた
「…よし!」
アラタも決意し、両手を翳す
それに呼応するかのように光太郎も右手を天に突きだした
そしてお互いにそれぞれの構えをし―――叫ぶ
「変身っ!」「変ッ身ッ!」
アラタのアークルのアマダムが輝き、光太郎のサンライザーが太陽の如し光を生み出す
その輝きが終わったときには、そこにアラタと光太郎の姿はなく、二人の仮面の戦士がいた
「仮面ライダー…クウガ」
静かにアラタは構えながら小さく呟く
アラタの変身を初めて目の当たりにした固法はおぉ…と何かに感嘆したような声を出す
「仮面ライダー、BLACK! R、Xッ!!」
両手を交差し、RXを描くように構えを取る
黒いボディに、真っ赤な目
その姿は、まさしく戦士
「なんか…私たちすごいとこにいますね」
「そうだねぇ…都市伝説で噂されてる仮面ライダーが目の前にいるんだもん」
そう呟きながら改めて佐天はバットを握り直す
皆が完全に戦闘態勢になったとき、美琴が言った
「それじゃ…行きますか」
美琴の言葉にクウガが答える
そしてこの時から、子供たちを救う戦いが始まるのだ
「おう。…ぶっちぎるぜ!」
覚悟は決まった
あとは、前に進むだけだ―――
本格的なRXの戦闘シーンは多分次回
とりあえずまた次回っ!