とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
申し訳ない
誤字脱字等ありましたら報告を
問題は山積みなのでありました
冷静に考えてみるとそう言えばこのベンチの上に積まれている約十九本の缶ジュースである
流石にかわいそうになったアラタは約半分の九本くらいを持ってあげた
そんな訳で赤い夕暮れの街並みをジュース抱えてのんびり歩く姿は正直シュールである
割と冷たいジュースとは意外にも長時間持っていると体の体温を奪っていく
確かに時期は夏ではあるが、流石に缶ジュースで凍傷とか笑えない
と、いきなり当麻がずっこけた
誰かが遊んでそのまま放置していたテニスボールを運悪く思いっきり踏んづけたのだ
手の中にあるジュース缶をぶちまけダイレクトに背中を打った当麻はゴロゴロとのた打ち回る
こうまで彼が不幸だとさすがにアラタも笑えない
っていうか前より不幸がマッハな気がしている、と思うアラタだ
「うー…いってー。俺が何したんだよ…」
手伝いたいのも山々だが今アラタの腕もジュースで埋まっている
一人しょぼんとジュースを回収する当麻を見ているとひとりの人影がその二人に近づいた
「うん?」
とアラタは首を向ける
そこには御坂美琴―――の妹さんが立っていた
一見、見分けがつかないが、妹と美琴の外見的違いは頭につけているヘッドギアだ
割かしカッコいいデザインは見分けるのに十分である
そんな妹さんはアラタに向かって軽く一礼をして後、当麻に
「必要あれば手を貸しますが、とミサカはため息を吐きつつ提案します」
「え? あ、妹か。…にしてもお前ホントにアイツに似てるのな」
当麻の言葉に妹は首をかしげつつ
「アイツ…あぁ、お姉様の事ですね? とミサカは確認を取ります」
「いや、他にいないでしょう」
そんなマイペースな妹にアラタは面食らいながらふと気になったことを妹にぶつけてみる
「あれ、けどさっき美琴に連れてかれなかった?」
「ミサカはあちらから来ましたけれど? と来た方向を指差します」
そう言って妹は通りの向こうを指差した
見当違いの方向だった
当麻とアラタは顔を見合わせながら頭に疑問符を浮かべる
「それで散らばった缶ジュースはどうするのです? とミサカは問いかけます。必要なら手も貸しますが、とも付け加えます」
「え? いいよ、流石に。半分はアラタが持ってくれてるし大体お前が手伝う必要性なんてないだろ?」
その時運悪く軽トラックが走ってきた
軽トラは当麻たちの前で止まると乱暴にクラクションを鳴らす
そのクラクションを聞いて妹は無言で缶ジュースを拾い始めた
一瞬何か言いたげな当麻だったがクラクションがうるさいからかそれを喉の奥にしまい込む
平等に二人で半分づつ缶ジュースを持つことにした
「…あれ?」
いつの間にか缶ジュースを多く持っているのはアラタになってしまった
いや、別にいいんだけど
缶ジュースを回収し終えると軽トラは怒ってる様子を隠さずに乱雑に発進した
「それで、このジュースはどこまで運ぶのでしょう、とミサカはジュースを抱えて問います」
「あぁ、だからいいってば。お前が運ぶ義理とか―――」
「早くしなさい」
言葉が鋭くなった
思わず助け船を期待して当麻はアラタを見る、が彼もやれやれと言った感じで首を振った
ハァ、と諦めて御坂妹に荷物を持ってもらうことにする
そんなこんなで学生寮のエレベーターの前にやってくる
本数の少なくなった当麻が先にエレベーターに入り、七階を押した
そして残った妹とアラタが乗り込み三人は七階へと向かっていく
当麻やアラタの住むこの学生寮の形は長方形だ
故にエレベーターを降りると道は直線通路しかない訳だ
因みに直線通路、当麻の部屋近辺の手すりの金属は不自然なくらい真新しいものになっている
何故そんなことになっているかというとどこぞのバーコード神父が炎を用いて吹き飛ばしたからである
ふと、当麻の部屋の前でインデックスと巫女服を着ている女の子が向かい合うようにしゃがんで猫とじゃれついていた
二人に挟まれた三毛猫は少女二人の手に撫でられてゴロゴロしている
「…おい、部屋の鍵でも失くしたのかよ」
当麻が声をかけると巫女さんとインデックスがこちらを向いた
「あ、とうま。違うよ、スフィンクスにノミが付いたから取って―――ってまたとうまが知らない女の人連れてる!?」
そんな叫びをしたのがインデックスと呼ばれる十四歳くらいの女の子だ
偽名マックスな彼女は見た目紅茶カップのような白地に金刺繍という豪華な修道服を身に纏っている
彼女は魔術の世界では禁書目録と呼ばれており、上条当麻の居候相手でもある
もっとも、今の当麻からしたらいつの間にか居候になっていた女の子、という事になるのだが
「もはやそう言う星の下に生まれたのかもしれない。息を吐くようにフラグを構築していく」
こちらののんびりと口を紡いだのは姫神秋沙
長い髪に巫女装束という割とぶっ飛んだファッションをしている彼女だが首から下げた大きい十字架だけは妙に浮いていた
これは後にインデックスから聞いた話なのだがあのケルト十字は姫神の内に宿す力、
その力を巡って厄介事に巻き込まれたらしいが、そこを上条当麻に救われた…
まぁすごく簡単に言うとこんな感じだ
そして姫神を救うべく奮闘した当麻に手を貸したあるキバった仮面ライダーがいるらしいが、アラタは知る由もない
因みに、姫神とアラタはここで会うのが初めてである
「…えと、どちら様」
「あぁ、そういえばアラタは初めてだっけ。この巫女さんは姫神秋沙、ちょっと前に知り合ってさ」
「はじめまして。私は姫神秋沙。お見知りおきを」
そう言って礼儀正しく一礼する巫女さん秋沙
思わずアラタもつられて礼をしつつ、名を名乗った
「こ、これはどうもご丁寧に。鏡祢アラタと申します」
その後握手を求められたが自分の両手は缶ジュースに塞がれていたという事実に気づき握手を断念した
そして姫神はそんなジュースを見て当麻に聞いた
「ところで。そのジュースは一体? 水が飲めない口?」
「ちげーよ。それにジュースのが身体に悪いし」
当麻はため息をつきつつ、アラタが持っているジュースの山から一つ甘いものを抜き取るとインデックスにそれを渡す
「ほらインデックス。甘いのはお前の担当だろう」
「むむ。ジュースは好きだけどこの〝ぷるたぶ〟っていうのは嫌い。とうまとうま、開けて」
現代の文化に馴染んでいないインデックスはプルタブが開けられないようだ
開け方が分からない、とか単純に力が弱いとかでなく無理に開けようとすると爪が割れそうで怖いから、との事
まぁ、分からんでもない
そんなインデックスは当麻の横で飲み物を持っている御坂妹へ視線をやって
「それにしてもとうまはワケあり少女との遭遇率が高すぎるんだよ。関わるなーって言っても聞かないと思うし。それで? その子はどこのどなたなの?」
「私的見解としては。謎の組織に狙われる薄幸少女の予感」
普段の当麻の不幸ぶりが露わになる的を得た答えだった
思わず笑う自分がいる
「そこ、笑うな。 誰でもなんでも不幸扱いにするなお前らも」
そこで思い出したように当麻がインデックスを見て
「それで、三毛猫にノミが付いたっていう聞き捨てならないことを聞いたような気がしたんだけど」
「うん。朝起きたらスフィンクスがノミだらけ。とうまの布団の中がきっと大変なことになってると思う」
「思うじゃなくて! 何という事をしてくれたのでしょうこのシスターさんはっ! その前に布団に猫を入れるなよ抜け毛でエライ事になるから! ていうかなんか身体のあちこちがかゆいなー、なんて思ったら原因はそいつかーッ!!」
恐らく当麻の布団の中身は増殖繁殖したノミの魔窟になっている事だろう
喚く当麻を尻目にふとインデックスは袖から緑色の葉っぱを徐に取り出した
「…えっと、インデックス? そいつは…」
「セージって言うんだよ? 結構そこらに生えてるんだけど、あらた見たことない?」
学園都市では能力開発に薬物を用いるのは基本である
因みにセージとはシソ科の多年草であり地中海地方原産、サルフィア葉と呼ばれる葉の部分は薬用として使用し、香辛料や観賞用として栽培されることもあるのだ
「セージには浄化作用があるんだよ。それを用いて魔女学のごとくノミを追っ払うの」
「? …その、どうやって?」
そうアラタが聞くとインデックスは満面の笑みを浮かべ言葉を続けた
「うん。セージに火をつけてスフィンクスを煙でいぶして、ノミを追っ払うの」
「…。え?」
「あ、流石に部屋ではやらないよ。そこまで私も非常識じゃないんだもん」
内心苦笑い、表情青ざめつつ、アラタは固まった
「アラタくん。そこは突っ込み所。このままでは。猫の香草蒸しの出来上がり」
そう姫神に指摘されハッとする
「そ、そうだよインデックス。そんなことしたら猫も一緒にお陀仏だよ」
内心姫神に安堵しつつ、当麻の交友関係は多彩だなぁ、と感心する
よかった、彼女は自分と同じツッコミだ―――
そう思っていた時期が自分にもありました
「…姫神さん。その袖から出しうる奴はなんですか」
「魔法のスプレー」
・・・
どう見ても殺虫スプレーじゃないですかーやだー
「てゆうかなんでゴキ二秒でぶち殺す試作スプレー持ってるんだ! 何、アンタ友人の顔に蚊が止まったら迷わず殺虫剤吹き付けるのか!?」
?を頭に作って顔を見合わせる姫神とインデックス
そんな二人を見てアラタは当麻へと視線を移す
向けられた当麻はやれやれといった表情でアラタを見返した
何が辛いと言えば二人とも真剣に考えての事だから余計辛いのだ
「議論を交わすのなら先にジュースを下ろしてからの方が効率的では? ミサカは提案します」
唐突に今まで黙っていた御坂妹が口を開いた
「…まぁそれもそっか。当麻、部屋開けてくれ、冷蔵庫に入れてくる」
「おう、わかった」
アラタに言われ当麻は部屋のカギを開ける
そしてアラタはその部屋に入ってすぐの場所にある冷蔵庫に缶ジュースを入れてくる
一通り自分の分を入れると一旦部屋の前にいる二人の所へ戻り、二人が持ってた缶ジュースを受け取ると再び当麻の部屋の冷蔵庫にしまってきた
「…それで猫についての対処法ですが」
アラタが戻ってくるタイミングを見計らってか御坂妹が口を開いた
「おっとそうだった。何か知ってんの?」
「知っているも何も市販のノミとり薬を使用することを推奨します。粉状で振りかけることによりノミを落とすタイプのものがあったはずです、とミサカは助言します」
「けど薬だろう? どのみち猫にとっては有害っぽくないか?」
御坂妹は無表情のまま告げていく
「この世に有害でない薬など存在し得ません、とミサカは即答します。ノミか薬か、と問われれば前者の方が深刻と捉えます。さらにノミやダニなどの害虫被害は皮膚炎を起こすだけではならず、最悪命に関わるほどのアレルギーを作る引き金を作る可能性もあります、とミサカは補足します」
むむぅ、と当麻とアラタは互いの顔を見て黙り込む
抗生物質の乱用は免疫力の低下に繋がると言われても高熱にうなされたら服用するしかない、という理屈は分かるのだが
「ようは薬を使わなくても猫の表面からノミを落とせばいいのですね? とミサカは確認します」
「え? あ、あぁ。だけどどうやって?」
こうやって、と彼女は猫の方に手を向けた
瞬間彼女の掌からパチンっ! と静電気が弾けるような音がした
するとパラパラとホコリのように猫の体表面からノミの死骸が落ちていく
全身の毛を逆立てたスフィンクスはバタバタと暴れたのち、思わず七階からフライする瞬間に姫神に掴まれた
「特定周波数により、害虫のみを殺害しました、とミサカは簡潔に述べます。このタイプの虫除け機械は大手量販店で割と普通に市販されてるので安全面の心配も大丈夫でしょう」
そう言った後御坂妹は一度ドアの方を眺め
「室内の方は煙が出るタイプの奴を使えば簡単に駆除できると思います、とミサカは助言を加えておきます」
では―――と彼女は感謝の言葉を聞かずに背を向けて颯爽と立ち去っていく
少女の後姿を目で追ったインデックスはぽつりとつぶやく
「あれがきっとパーフェクトクールビューティーって奴なんだね」
インデックスに言われアラタはそれに答えた
「異議なし。…ハードボイルドだぜ」
そんな事をボソリと呟くアラタの隣で当麻はインデックスに向かって呟いた
「…少しでいいから見習ってください」
「…切実な。願い」
◇◇◇
とあるヘリコプター内部
運転席に座って操作をしているのは神裂火織の後輩でもある五和と呼ばれる少女である
五和は天草式十字凄教と呼ばれる組織の一員であり、神裂火織はそれのリーダーでもある女教皇なのだ
しかし今現在神裂火織は離脱してしまったために、別の人物がその代理を務めているのだが
それでもこんな小さいことでも頼られることは嬉しかった
「ありがとうございます。五和」
「いいえ、いいんです。お役に立てたなら何よりですから」
神裂は学園都市への移動手段として五和にお願いし、ヘリコプターでの移動を頼んだのだ
そのお願いを五和は快く快諾し現在は空をヘリで飛んでいるわけなのだが
そこでふと、先ほど学園都市へと送ってきた一人の男性、響鬼の事を思い出す
イギリスで件の魔化魍を退治したのち、彼はふと気になっていた都市として学園都市の名を挙げた
その後で彼はその場所へと言ってみたいと言ったのだ
神裂は魔化魍を退治してくれたお礼として彼を学園都市へと送迎し、今自分たちは戻る途中なのである
「…しかし、人は見かけによらないものですね」
「そうですねぇ…。確かに私も最初その人を見たときはちょっとって思っちゃいました」
しかしふたを開けてみるとどうだ
ベテランの名に相応しき堂々とした戦いぶり、圧倒的なまでの力強い一撃
その活躍は事前に持ったイメージを払拭するには十分だった
そう思ったとき、ふとあの少年を思い出した
右手一つで自分に向かってきたあの少年を―――
「―――ほぉ、ここが学園都市か」
ヘリの中の空気が変わる
いつからそこにいたのか、まったく気配を見せず、自分の隣の席に一人の男が堂々と腰を下ろしていた
神裂は付近に携えていた七天七刀を突きつけた
どういう事だ、と神裂は思考を巡らせる
その席は響鬼がここに送ったときに座っていた場所のはずだ
しかし今座っているこの男、理屈は分からないが〝いつの間にか〟座していたのだ
「答えなさい、貴方は誰、いえ、何者です」
「通りすがりの…なんだ、旅人だ」
「答えになっていません、それでこの状況を乗り切れるとお思いですか?」
「乗り切るも何も、そうとしか言えないんだから仕方ないだろ。昔は破壊者だなんて言われたが、もう飽きたしなー」
そう軽い調子で応える男
見た目は赤っぽいシャツに黒いコートに黒いズボン、何よりも目を引くのが首にかけられた二眼レフのトイカメラだ
それに加えて男自身もひょうひょうとしているようで全く隙がないのだ
(…この男、出来ますね)
そう考えた瞬間だった
その一瞬の思考の隙をついたのか、その男は飛んでいるヘリのドアを開け放ちそこから飛び降りたのだ
「! 五和、貴女は先に戻っていなさいっ!」
「え? ちょ、
そんな五和の制止を聞かず、彼を追うように神裂もヘリコプターから飛び降りた
また空中にいた男に、何らかの影が重なった気がしたがその時の神裂は知る由もなかった
◇◇◇
時刻は午後六時四十分
もうそろそろ当麻の補習は終わっていそうだな、などと思いながらアラタは特にやることもなくその辺をうろうろと歩いていた
ちらりと彼は風力発電のプロペラを見た
特に風が吹いているわけでもないのに、そのプロペラはのんびりとくるくる回っている
「おっすーアラタ、アンタも補習帰り?」
人混みの中からこちらを見つけた御坂美琴は駆け寄ってくる
対するアラタは笑いつつそれを否定した
「違うよ、ただ当てもなくブラブラしてただけだ」
「そうなの? じゃあちょっと付き合ってよ。一緒に歩くだけでいいからさ」
特に断る理由もないアラタはそれに快く応じる
しかしこういった場所を得るべくどれほどの男が努力しているのかアラタは知らない
一瞬、妹の事を聞くべきか迷ったがアラタはそれを心の奥にしまいこむ
今聞いたらなんかややこしいことになりそうだからだ
その道中を一緒に歩きながら二人はそれこそなんでもないありふれた会話が紡がれた
やれ今日は黒子がどうだの、格闘ゲームでのキャラはどれが使いやすいか、だのどこにでもありそうな会話がなされた
言葉を紡いでゆく彼女の顔は笑顔だった
いつも見ている、笑顔だった
そこでふと、アラタの視線が空に行った
釣られて美琴も空を見る
視線の先には飛空艇があった
そんな船のお腹には大画面がつけられておりその画面に表示されているのは筋ジストロフィー関連の研究施設は二週間で約四件が撤退表明を出しており―――みたいな、そんな感じのニュースをやっている
視線が空に行ってしまったからかそこで会話が途切れた
ぼんやりと眺めていると不意に、美琴が呟く
「私、あの飛空艇って嫌いなのよね」
「え? なんで?」
アラタは眺めながら美琴に聞いた
なんでもあれは学園都市の統括理事長が〝もっと学生にも時事問題を知ってもらうため〟に飛ばしたらしいのだが
「…機械が決めた政策に、人が従ってるからよ」
忌々しいものを吐くように彼女は応える
思わずアラタは彼女の顔を見た
しかし特におかしいところはなかった
「…
樹形図の設計者
分かり易く言うなればそれは世界で一番賢いスーパーコンピューターの事を指す
より完全な天気予報を使うために作られたシミュレーター
天気予報、なんていえば身近に聞こえるかもしれないが樹形図の設計者がやってるのは予言に近い
必要なデータを全部ブチ込めばそいつを演算し完全に天気を予測するのだ
そんなスーパーコンピューターは外敵からその身を守るために宇宙に漂っている
早い話、学園都市が打ち上げた人工衛星、それが樹形図の設計者である
「…けど、どれだけ高い演算能力があってもそれが人に牙を向くってのはないんじゃない? ATMが人の身を滅ぼすのが計画的に利用してなかっただけって具合でさ」
「…」
美琴は黙ったままもう一度夕闇を動く飛空艇を見る
いや、飛空艇を見ているのは分からないが、それでも彼女は夕闇の空を見上げている
「気象データ解析という名目で打ち上げられた人工衛星〝おりひめ一号〟に搭載されてる今後二十五年はどこにも抜かれないだろう、と言われている世界最高のスーパーコンピューター、
まるでパンフでも読むように、彼女は口の中で呟く
「―――なんて言われてるけど、実際そんな馬鹿げたシミュレーターなんて、存在してるのかしらね」
「…え?」
アラタは思わず彼女の顔を見る
振り向いた彼女の顔はいつもと同じような、朗らかな笑顔をしていた
「なーんてね。はは、ちょっと詩人になっちゃった」
そこにいたのは変わらない
◇
「少年、ちょっとそこの道を歩く少年よ」
美琴と別れて数歩歩くとまた横合いから声が聞こえた
立っていたのは革製のジャケットを着込んだ人当たりの良さようなまた二十代後半、もしくは三十代前半のおじさんだった
「…えっと、どちら様でしょうか」
「おっと。俺は通りすがりのおっさんだよ、よろしくな」
と言いながら彼はシュッ、と妙なポーズを取る
なんですかシュッって
「まぁそれはそれとして聞きたいんだけどさ、ここいらで家電とか売ってるお店知らない?」
「か、でん?」
家電とは
炊飯器とかミキサーとかそういったものを大雑把に纏めて家電という
間違ってるかもしれないが、大体あってると思う
「そう、家電。学園都市って科学の最先端都市でしょ? 俺家電好きでさぁ、ぜひこの都市の家電が欲しいの!」
まさかこのおっさんは家電マニアだと言うのか
確かにそういった家電はよくテレビとかで宣伝とかしてるが実際役に立つのだろうか、という疑問が残る
まぁそれをこの人に聞いたところで無駄だろう
「まぁ…俺が知ってる場所でよければ」
「助かるよ少年! あ、そだ,威吹鬼と轟鬼の分も買ってやんなきゃ!」
そんな事を耳に入れつつアラタはその人に家電店の道を教える
それを聞いた響鬼はやけに上機嫌で再びアラタに向かってシュッ、として走って行った
…だから何ですかシュッ、って
◇◇◇
夕闇の学園都市の最中
あるビルの屋上にその二人は相対した
一人は神裂火織
もう一人は旅人と名乗った青年だ
「…いつまで逃げるつもりですか」
「別に逃げてたわけじゃない。…まぁ、状況を考えれば逃げたことになるけどな」
青年は両手でやれやれ、と言った仕草をとる
その背中を見ながら神裂は考えた
もしかしたらインデックスを狙ったある組織の一員か、いや違うと否定する
仮にそうであるならばこんな所で会話になど興じないはずだ
それ以前に、あのヘリコプターに乗り込む意図が掴めない
ではこの男の目的はなんだろうか
インデックスの襲撃でないとすれば、あの少年とその友人を狙いに来たのだろうか
「この学園都市は渦巻いているな、いろいろと」
神裂が思案しているとき、不意に男が呟く
彼女は七天七刀の柄に手をかけ、出方を伺った
「一人一人が夢を持ち、憧れを胸にやってきて…現実に打ちひしがれる。夢のような、それでいて拷問所でもあるような、そんな都市だ」
夕闇を見つつ、その男は言葉を続ける
「けれどここで出会った絆は何物にも耐えがたいものとなる。能力があろうとなかろうと」
「…さっきからあなたは何をいってるのですか」
「アンタはどうだ」
神裂は目の前の男を見据えつつ、柄を持つ手に力を込める
そんな事を知ってか知らずか男は続けた
「何があるかは知らねぇが、迷ってるみたいだな」
「…貴方になにがわかるんですか」
「一つ言っておいてやる。仲間ってのはな、〝背負うもんじゃねえんだぜ〟」
その時の言葉は、今の神裂には分からなかった
言葉の真意を知るのは、本当に先の事
神裂は男を見据え、たった一つ聞いた
「貴方は―――何者ですか」
男は答えた
「―――通りすがりの仮面ライダーだ。覚えなくていい」
・
妙な格好のエロい女にそう言い放つと、男〝門矢士〟はそのビルから飛び降りる
落下しながら士は器用に用意していたカードをバックルに差し込んでそれを閉じるように動かした
<KAMENRAID DECEDE>
そんな電子音声が鳴り響き士の身体に幾重にも幻影が重なりその姿を変える
その姿は変わり終えたころには地面に着地しており、すかさずバックルを開き変身を解いた
「…?」
そんな時士の目の前に何やら絶句した様子のツンツン頭の男が電話している様子が見えた
その口ぶりから察するに恐らく友人にでも電話しているのだろうか
しかし士はその男から視線を外し、唐突にきょろきょろと見渡した
「…とりあえず、飯だな」
◇
アラタは当麻から連絡を受け、道を走っている
内容は信じられないものだった
簡潔に、延べよう
それは御坂妹が死亡した、というあまりにもあっけないものだった
アラタが駆け付けると、そこに当麻はいた
当麻は両手に黒猫を抱えていた
何故、そういった状況になったのか、それをアラタは聞かなかった
聞いたらまた、思い出してしまいそうだから
彼はひどく落ち着いていた
それでもそこから離れなかったのは、彼なりの意地だったのか
当麻はアラタに気づくと声を出す
僅かに震えた声色で
「あ、アラタ…」
「当麻、その、状況は」
仮にもアラタは風紀委員だ
それでも殺害現場に遭遇するとは思わなかったが
とりあえず、警備員には後で連絡をするとしよう
「そこの、路地裏だ。…うん」
その言葉でアラタはだいたい察した
「なぁ、友達が死んだのに! なんで俺はこんな冷静なんだ!? もっと取り乱してもおかしくないのに、なんで…なぁ、なんでっ!」
「落ち着け、当麻」
ずい、と手を顔の前に出され当麻は言葉を止める
「何もできないわけはない。少なくともそれを探しにその現場に行く。お前はどうする、残るか」
少し経って、当麻はアラタの顔を見て言った
「俺も行く。理由なんてわかんないけど…もう逃げたくないんだ」
・・・
「…む」
その路地裏に赴くと、どういう訳だか件の遺体はなかった
しかし当麻の言っていることが嘘だとも思えないアラタは周辺を操作しようと辺りを見回す
確かに血痕とかは見つけることは出来なかった、しかし壁の傷の違和感に気づくことが出来た
しかしその壁の傷は何でついたのか、それだけが分からない
ふと、どこかでもぞりと動く影があった
それに気づいた当麻がその影に向かって叫んだ
「誰だ!」
釣られてアラタもその方向を見る
その人影は意外にも小柄だった
体格から察するに、その子は女子だろうか
しかしその肩に担がれている寝袋のようなものが何よりも怪しかった
やがて二人はそれを見た
あきらかに怪しい寝袋が入ったそれを持っていた人物の正体、それは―――
他ならぬ御坂妹だったのだ