とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
いつも拙いですけど
とりあえず妹達編が終わったら今度は劇場版に力を入れます
それが終わったら今度は風斬編かなー
目の前で起きていることが理解できなかった
あまりにも奇怪な光景に二人は凍りついた
見間違えるはずはない、それ以前に二人の本能が言っている
目の前にいるのは、御坂妹だと告げている
肩まである茶髪に半袖のブラウス、サマーセーターにスカート…
なじみのある姿がそこに立っていた
「申し訳ありません。作業が終了したら戻る予定だったのですが、とミサカは最初に謝罪を述べます」
視線に仕草、雰囲気に何よりもその口調
間違いない、彼女は御坂妹だ
「なぁ、お前は御坂妹で間違いないのか?」
そうアラタは問うた
念のため、という意味もあったがそうであると当麻が見たのは幻覚とかそういうものなのだろうか
仮にそうだとしたら、蜃気楼もいいとこだ
当麻はへなへなと言った様子で膝を付く
「くっそ…なんだったんだ結局…」
「さぁな…けど、お前の見た光景は夢とかの類になっちまったが」
「? お二人が何のことを話しているかは存じませんが―――」
当然だ
ついさっきここらへんにお前の遺体があったんだ、などとは死んでも言えない
いずれにせよ、妹が無事ならそれで問題はないと思っていたその時
「―――ミサカはちゃんと死亡しましたよ、と簡潔にミサカは述べます」
は、と当麻が声をあげ、アラタは眉間にしわを寄せる
そこまで聞いてふと、彼女が担いでいる寝袋に視線がいった
人ひとりがずっぽりと収まるであろうサイズであろうその寝袋
アラタは注意深く観察し―――気づいた
彼は当麻の肩を叩き、その視線を促す
「…見てみろ、あの寝袋」
「え…?」
アラタに促されて改めて当麻はその寝袋に視線を移した
壊れたマネキンでも入っていそうな、造形のおかしい関節の向きが変なその異様なシルエット
そこで当麻も気づいてしまった
ファスナーからはみ出している―――茶色の髪の毛に
「―――っ!!」
当麻は絶句し、アラタは冷や汗を流す
この短い時間帯で様々な事が起こりすぎている
偽物か、もしくは人形かとも考えた
しかしその艶や質感と言った何もかも、担いでいる御坂妹に酷似していた
「おい、その寝袋…一体何が入ってんだよ…!?」
「そもそも、お前はここで何やってる?」
「分からないのですか? とミサカは問い返します。…しかし、そうですね、確かに貴方方は〝実験〟との関係性はなさそうです、とミサカは直感で答えてみます」
御坂妹は続ける
「念のために確認を取ります、ミサカは有言実行します。―――」
そう言ったのち、御坂妹は何かを呟いた
しかし言っていることは全く理解できない
「は、ちょ、おま…何を言ってるんだ?」
と、当麻は戸惑った
当麻が分からないなら、当然だがアラタにだって分からない
「分からない時点で、関係者ではなさそうですね、とミサカは確信します」
一体、何を言ってるんだ、と思う
話している言葉は日本語なのに、まったく理解できなかった
「寝袋に入っているのは、妹達ですよ、とミサカは答えます」
疑問に答えたのは確かに御坂妹の声だった
しかしその声はその寝袋を抱えている御坂妹の背後から聞こえたもので
感覚に間違いはない、だからこそそれが誰か分からなかった
「黒猫を置き去りにしたのは謝ります、とミサカは謝辞を告げます」
彼女の背後から顔を出したのは、御坂妹だった
「しかし無用な争いに動物を巻き込むのは気が引けました、とミサカは弁解の言を言います」
顔を出したのは一つではなかった
どんどんとその顔は増えていく
マンガみたいな、分身でもしているように増えていく
ふと、気が付いたら
二人は大多数の御坂妹に囲まれていた
「…なんだ、これ?」
当麻は口に出すがアラタも同様に混乱していた
つまりさっき当麻が見た遺体はこの中の一人が殺された、という解釈でいいのだろうか
そしてそれの隠ぺいにもこの大多数の妹たちがやったのだろうか
確かに人間の血など凝固剤やドライヤーの熱風でも使えばすぐに固まる
指紋とかルミノールも専用の薬でも使えば消せるだろう
いや、違う、そうではない
双子―――俗に言う一卵性双生児は確かに遺伝子レベルでの同じ骨格を持った兄弟だ
だが、どうして目の前の彼女たちはこうも
普通兄弟と言ってもずっと同じ体格を維持できるなどあり得ない
十年、二十年と時を重ねれば当然生活リズムは変わり、自分に影響を及ぼすだろう
しかし妹はあまりにも似ている
まるで、彼女に合わせるような
まるで、作られたような
ふと、アラタは当麻の持っている黒猫へと視線を移した
囲んでいる御坂妹たちはどうも自分たちの事を知っているようで、さらに黒猫の事も知っている
アラタは御坂妹と当麻、そして黒猫にあった出来事は知らないが、同じような疑問を恐らく当麻は感じているハズだ
もしかして、今寝袋に入れられている人物こそが
「心配はいりません、とミサカは答えます」
寝袋を抱えた御坂妹は答える
「貴方方が今日まで接してきたのは検体番号10032号、つまり私です、とミサカは自分を指差しながら答えます」
ピ、と開いた手で自分を指し言葉を続ける
「ミサカは電気を操る能力を用いて互いの脳波をリンクさせています。他のミサカは単に10032号の記憶を共有させているにすぎません」
脳波リンク
信じられない事ではあるが双子ならあるいは、とも思う
遺伝子レベルで同じならば
そこまで考えて首を振る
この際、そんな事はどうでもいい
二人を代表し、上条当麻は問いかける
「…お前は、誰なんだ」
「学園都市で七人しかいない超能力者、
今度はアラタが問いかける
「じゃあ、そこで何をしている」
「実験ですよ、とミサカは言います。無関係な貴方たちを巻き込んでしまったことを重ねて詫びましょう、とミサカは頭を下げて謝罪します」
去っていく彼女たちにかける言葉が消え失せた二人はその場で立ち尽くしてしまった
もう何が何だかわからないくらいに、彼女の背中は違っていた
違い過ぎていた
◇
そんな会話を盗み見ていた人影が一つ
その人影は御坂妹たちが撤収する少し前にその身を隠し姿を消した
正直、バレてるかもしれないが
その人影の正体とはバーガー片手な門矢士
フィッシュバーガーをもふもふしながら片手間にそんな話を聞いていた
「…いまどき人体実験とか、アホか。SF小説でもやらねぇっつの。…わからんけど」
詳細はよく知らないが、実験とはたぶんそうだろう
あのバイザー女の連中は使い捨て、と言った所か
最後の一切れを無造作に口に突っこんで士は立ち上がった
「その実験についてちっと調べるか」
そう言って士は歩き出した
・
第二左探偵事務所
今日も平和ではあった
以前起きたテレスティーナの事件以降、この街では平和な時間が続いてた
それに比例してくる依頼も変わらずペット探しになったがそれでも問題はなかった
フィリップも読書に専念できるとしてソファに座りながらゆっくりライトノベルを読んでいる
そんな光景を見ながら翔太郎はタイプライターを打ちながら徐に窓の景色でも見ようと―――
「邪魔するぜ」
バン、といきなり開け放たれた扉に翔太郎は驚いた
フィリップも肩をビクッとさせながら読んでいたライトノベルを閉じながらそのドアを開けた人物に目を向けて
「…君は」
その人物を見てフィリップは目を見開く
翔太郎に至っては「あー!」と変な声まで上げていた
「よぉ、久しぶりだな。仮面ライダーダブル」
ドアを開けて乗り込んできたのはかつて共に戦った世界の破壊者と呼ばれた男
仮面ライダーディケイドこと門矢士だったのだ
「お前…いつ来たんだよ!?」
「そんな事はどうでもいい。…お前たちにちょっと調べてもらいたいことがあってな―――」
◇
あの後どちらともなく帰り道についた
本当は同じ帰り道なのだが、あんなことが起こった後だと会話が続かず、また明日、なんて言葉を交わして後、別々の道を歩き始めた
あの後路地を見てみたが、たくさんいたミサカたちは闇に消えそこには痕跡すらなかった
多分これからも実験は続いていくだろう
そしてアラタや当麻の知らぬところで殺され、その実験に貢献していくのだろう
クローンと自分で呟いて吐き気がする
世の中には草でも引き抜くかのような感覚で人を殺す奴だっている
それこそテレスティーナみたいなクソヤロウだっているのだ
御坂妹たちはどんな実験に加担しているかは知らない、知りたくもない
そこでふと足を止めた
御坂妹は〝実験〟と口にした
とするなら背後に何らかの研究機関が存在するはずだ
そうすれば自分たちを体細胞クローンという専門用語を言ったのも説明がつく
(まて、〝体細胞クローン〟?)
それを作るのには元となるデータ、つまりオリジナルが必要になるはずだ
彼女たちはなんと言ってた?
「…御坂美琴の体細胞クローン…」
まさか、もしかしたら…
美琴もその実験の事を知っていたのではないか?
◇
空の色はすっかり夜の青に変わっていた
そんな夜空を眺めながらアラタは御坂美琴本人に話を聞くためにビートチェイサーを走らせていた
正直こんなことすれば何もかも砕いてしまうだろう
だけど、聞かないと進めない、とアラタは思った
彼女の味方でいられるか、分からないけれど…
「ん?」
見えてきた常盤台女子寮入り口付近に一人の男がいるのを見つけた
ツンツン頭がトレードマークな自分の友人
アラタは門付近にビートチェイサーを止め、メットを取りながら彼を見た
当麻は当麻でいきなり現れたアラタにびっくりしつつ、それがアラタと知ると安堵した様子で歩み寄ってくる
「アラタ…、お前も」
「そう言うお前も。…聞きに来たんだな」
そう聞くとゆっくりと当麻は頷いた
これ以上下手に聞くのははっきり言って野暮だ
その決意だけわかっていれば十分だ
お互いに頷きあうと女子寮の入り口に向かって歩き出す
正面玄関には想像通り厳重なロックがかかっていた
一見木のドアに見える扉はカーボンファイバの特殊性のものだろう
ドアノブがセンサーになっているのか、古めかしく偽装された鍵穴の奥に光る赤いランプ
恐らく指の油からDNAコードでも調べる仕組みになっているのだろう
そしてインターホン
その近くにある電卓のようなボタンを操作して部屋番号を入力するとその部屋に繋がるという訳だろう
ボタンを操作する、たったそれだけの事ではあるがそれが出来ずにいた
冷静に考えてその実験には美琴の同意が得られなければ実行などできない
それを本人に聞く、という事が一体どういう事なのか
「…なぁ」
「どうした…?」
不安そうになく黒猫の声を聞きながら当麻は口を開いた
「もし…あの自販機で触れ合った御坂の顔が…演技、とかだったら―――」
「言うな」
アラタは言葉を遮った
彼は信じたいだけなのだ
初めて出会った彼女の顔を
共に笑った彼女の顔を
友と触れ合った彼女の顔を
共に戦った彼女の顔を
例え世界の全てが彼女の敵に回っても、自分だけは彼女の味方で在れるように
「せめて、あと少しだけは幻想を見させてくれ」
「…わかった」
アラタの眼を見て何かを感じ取ったのか当麻はそう言って黙りこくった
そしてついに、アラタは部屋番号を入力してインターホンを押した
ぶつっ、とノイズと共に部屋にそれが繋がった
案外言葉はすんなりと出てきた
「美琴、或いは黒子。俺だ」
そんなアラタを見て当麻は割とラフだな、と突っ込んだのは内緒である
<へ…? お、お兄様!?>
返ってきたのは今この状況で今絡みたくない奴のものだった
<お兄様!? まさかお部屋をお尋ねになさってくるとは! い、一体どのようなご用件で―――>
「いや、今回は美琴に用があってきたんだが」
<? お姉様と? 了解ですの、なれば中に入ってお待ちになってくださいな。行き違いになるといけませんので>
そしてぶつり、とインターホンの切れる音がして同時に玄関のロックが外れる音が聞こえた
「よし、行こうぜ」
「え? い、いいの!?」
「問題ないよ、黒子が言うんだ」
…その黒子が誰か当麻は分からない
だがアラタが言うなら間違いないのだろう、と当麻は結論付けて当麻は彼の後ろをついていく
玄関をくぐるとそこは大きなホールだった
貴族でも住んでそうな内装で、白い天井や壁、極めつけに床に敷かれた赤いじゅうたん
こんな所に忍び込んだ日には逆にバレそうな気がしてならない
そんな事を考えつつ二人は階段を上っていき左側を歩く
件の部屋は案外すぐに見つかった
常盤台女子寮の部屋は初めて見るがまるでホテルみたいだな、と思ったのが素直な感想だ
アラタが軽くノックすると扉が開け放たれる
そこから姿を現したのはツインテールな茶色い髪の女の子が出迎えてくれた
「どうぞおいでなさいませお兄様。…はて、そちらの殿方は?」
「俺の学友。まぁ気にしないでくれ」
「はぁ。お兄様がそう言うなら」
黒子に案内されて室内へと赴く二人
ドアの外見もホテルみたいなら室名もホテルみたいな感じだった
奥のベッド二つとサイドテーブル、小さい冷蔵庫だけ
クローゼットはなく私物は全部ベッド横の大き目なスーツケースに収めているようだ
「申し訳ないですわね。もとから寝て起きるための部屋ですので客人をもてなすなどできないのです。とりあえずお姉様を待つならそちらのベッドに腰掛けてくださいな」
「え、けど流石に本人の許可取らずに座っていいのかよ」
当麻の問いかけに黒子はふふん、と胸をはりつつ
「大丈夫ですの。そちらがわたくしのベッドです」
「…、」
当麻は一瞬何かを言いそうになったが、それを胸の中に押し殺す
とりあえず当麻は腰を下ろしたがアラタは何かを察しているのは立ったままにすることにした
「け、けど意外だな。さっき御坂の事お姉様って言ってたからてっきり後輩だと思ってたけど」
「いえ、わたくしはれっきとした後輩ですわよ? ただ前の同居人の方には合法的に、あくまで合法的に出てってもらっただけですの」
こわ、と当麻は思わず顔を引きつらせる
それに対し、アラタは苦笑いで済ませた
どうやら昔からいつも通りだったようである
「ですけど、お兄様もどうしてお部屋なんかを? お兄様はお姉様のアドレスを持っているでしょうに」
「え? あ…その…」
流石にそこまでダイレクトに聞く勇気はなかったのだ
言い淀んでいると黒子は苦笑いをしながら
「まぁいいですわ。全く、お姉様も無自覚なんですから困りものなのですのよ。食事時も入浴中もお兄様の話…思わず妬けてしまいますわ」
「…そう、なのか」
そう黒子に言われてアラタは素直に驚いた
そんな事を言っていたとは初耳だ
「…けど、アイツってリーダーシップを発揮して、いつでも輪の真ん中にいそうだけどな」
「だからこそですわ。お姉様は輪の中心に立つことは出来ても、混ざることは出来ない。敵を倒せても、作る事は避けられない。…そんなお姉様に必要なのは…対等に向き合ってくれているそれこそ、お兄様みたいな存在ですのよ」
「…、」
思わず二人は黙る
いや、それ以前に深く考え込んだのはアラタである
彼はふと自分と一緒にいた夕暮れの美琴の顔を思い出す
ありふれた話を繰り広げて、朗らかに笑っている彼女
そこにある笑顔は本物だった
そこにある日常は彼女にとっては安全だったのだろう
「…間に何があるかは、知んないけどきっとそこには確かな絆があんだな」
当麻に肩を叩かれ、アラタは頭を掻く
そして同時に自分を恥じた
あぁ、こんな思いをしたのは何度目だ
以前春上を疑ったようなときも似た感情を抱いたはずだ
なんでもっと信じてやることができないんだろう
そう考えた時、扉の向こうで足音が聞こえた
まさか、帰ってきたのか
そう予測したアラタと当麻は変な汗を出しつつ、対する黒子はその足音に耳を澄ませてベッドから飛び降りた
「マズイ、寮監ですわ」
「! マジでか」
寮監、という名前を聞いたアラタは先ほどとはまた別の緊張が走る
一方置いてきぼりな当麻は頭に疑問符を浮かべつつ
「ち、仕方ない! 当麻、隠れろ」
「え、ちょ! ―――たくっ!」
ここに当麻がいなければ黒子の空間移動で脱出しただろうが当麻がいてはそれが出来ない
なぜなら彼の右手はそんな能力も打ち消してしまうからである
そして咄嗟に生まれたのが一つがベッドの下に隠れるというアナログな方法である
それを見届けた黒子はいきなり開かれたドアに応対する
「白井。夕食の時間だ、食堂に集合せよ。…御坂はどうした? 私は外出届を見ていない。規則を破ったのなら同居人と連帯責任でマイナス一だが」
「いえいえ。本当に急ぎなら外出届を出す暇ならないですわ。わたくしはお姉様を信じてそのマイナスを受け取る事は出来ません」
ぐいぐい、と寮監を押し出しつつ、部屋から出ていった
どうやら一つの難は乗り切れたみたいだ
もぞもぞとベッドの下からアラタは出て立ち上がった
あとは当麻を待って―――と思ったとき
「…当麻?」
どういう事だかいつまで経っても当麻が出てこない
なんだろう、と思ったときもぞもぞと当麻が這い出てきた
その手にはなぜか紙の束を握りしめながら
「…当麻、それは―――」
アラタの問いに答えることなく、当麻は無言でそれを差し出した
まるで読め、と言わんばかりに
その表情からただならぬ様子を感じたアラタはその紙の束を受け取って目を通し始めた
内容は、想像を絶するものだった
◇◇◇
量産異能者、
学園都市には七人の超能力者が存在する
その中で樹形図の設計者の演算によって絶対能力に辿り着けるものは一方通行のみ
彼は事実上、最強の超能力者である
演算によるとそれを素体として用いれば通常カリキュラムを二百五十年組み込めば絶対能力へとたどり着くとされた
我々は二百五十年法としそれを保留、別の道を探してみた
そして樹形図の設計者を使用して演算した結果百二十八種類の戦場を用意し超電磁砲を百二十八回殺害すれば可能である、と判明
しかしながら超電磁砲を百二十八人を用意することなど不可能、そこで我々は同時に行われていた超電磁砲量産計画〝
当然だが量産型の
これらを用いて樹形図の設計者に再演算させた結果二万の戦場を用意し、二万の
その結果約十四日で超電磁砲と同様、十四歳の肉体を手に出来る
もともとが劣化品であるため、寿命が減じている可能性があるが実験を実行することには問題ない
◇◇◇
左翔太郎は事務所の壁を殴り付けていた
ドン、と壁にかけてある帽子が揺れる
「…まさか、裏でこんなことが行われていたとは」
パソコンの前で呟くのはフィリップ
その隣で息を吐くのが門矢士だ
「ここまでとは狂ってるとは思わなかったぜ」
「あぁ、ディケイド、いや、門矢。君はこれを知っていたのか?」
「んなわけないだろ。そんな話を聞いて気になっただけだ」
士が嘘を言ってるとは思えない
恐らく本当に気になって訪ねてきたのだろう
「おい、今その実験はどこで行われてやがんだ」
「翔太郎、気持ちは分かるが落ち着きたまえ。今調べてみる」
「けどよ! …俺はあったことなんかねぇけど、エレキガールは進んでそんな事に手を貸すとは思えねぇんだよ」
翔太郎は書類にある
しかしそのオリジナルである御坂美琴とは友人なのだ
触れ合った時間は短いがそれでも彼女の笑顔が偽物だと信じたくはない
「翔太郎、お前ガジェット出せるか?」
「あ? 出せるけど…なんで」
「同じように調べてるやつらがいると思ってな。…お前も知ってるだろ?」
自分も知ってるやつ、と言われて翔太郎は思い出した
「…アラタの事か」
「あぁ。場所を割り出したら知らせた方がいいと思ってな。それに―――」
士はパソコンに視線を向けて
「その女がどんな奴かは知らないが、翔太郎の言うとおりきっと自ら進んでこんな実験には協力しないと思うんだ」
「士…」
「お前の見る目は意外に確かだからな」
「うっせ、意外は余計だっつの」
◇◇◇
レポートを読み終えてアラタは手を握りしめた
そして口の中でふざけるな、と呟く
あの少女たちは殺されるためだけに作られたとでも言うのか
そんな事が、許される世界になってしまったというのか
違う、そんな事があっていいはずがない
「アラタ、気持ちはわかっけど、もう一個見てほしいとこがあるんだ」
レポートを睨んでいるとふと当麻から声が聞こえた
そして当麻はす、とある一点を指差した
なんだろう、と思い当麻が指差した場所を見つめてみる
そこで気づいた
そのレポートの上右側と下左側にあるバーコード
このレポート自体はデータ上に印刷物だ、別にそれは構わない
問題はそれと一緒になっているバーコード
唐突だが学園都市の端末にはランクがある
携帯がD、一般端末はC、学校の教師が使う端末はB、研究機関の端末はA、理事会の専用端末はSというようなものだ
アラタはバーコードをよく観察する
確か上のバーコードは端末のランクで、下がそのデータのランクだったはずだ
上の端末のコードは、C
下の情報のコードは、A
これはCの端末でAランクの情報を引き出した、という事になる
それはつまりどういう事か
それは彼女が、協力者ではないという事
アラタが思った幻想は、夢幻じゃないかもしれない
二人は互いに頷きあい、改めてそのレポートに目を通す
そこでふとがさり、と地面に落ちた紙が一枚
当麻はそれを拾い上げてばさばさ、と広げた
それは一枚の学園都市の地図だった
結構折りたたまれて全部広げてみると本棚くらいの大きさだ
その地図は路地裏など細かく記載されており、その地図のあちこちに赤いバツ印が書かれている
それは地図のあちこちにあった
気になった二人は当麻の携帯を用いてその座標を調べてみた
すると一件の建物の名前が表示される
〝金崎付属大学 筋ジストロフィー研究センター〟
筋ジストロフィー
その単語を聞いていつの日か飛空艇でやっていたニュースに、その研究センターが撤退だのなんだの表示されていた
その証拠に調べた建物全てがその筋ジストロフィーに関する建物だったのだ
そしてその場所全てに、バツ印がついている
そこである疑問に思い至った
ふと窓の外を見る
もう夜は更けていた
なのになんで御坂美琴は帰ってきていないのか、という疑問
このバツ印はなんだ、という疑問
研究所は撤退を表明した、という意味、いや、それ以前に―――美琴は今どこで何をしているのか
このレポートは正規に入手したもではない
となると美琴は実験の協力者でもない
もし、美琴の意に反して実験が進められているとしたら
「…そうか。そうなんだな」
「あぁ。俺たちは、アイツの味方でいられる」
それさえわかれば十分だ
二人は頷きあって部屋を飛び出す
見つかることなど考えず、一気に階段を下り、玄関を開け放ち外へと飛び出した
◇◇◇
レポートを読むのに相当時間を取ったせいか辺りは完全に真っ暗闇だった
夜の繁華街を二人走る
走っている途中、当麻の抱えていた黒猫が揺さぶられて気分悪そうな泣き声をあげた
しかしこのまま闇雲に走り回っていても意味はない
もしかしたらもう実験は始まっているのかもしれないのだ
彼に美琴を見つけても、実験が始まっていたら元も子もない
それでも間に合えばいいのだが、それも上手くいく可能性もない
隣を走るアラタに当麻は話をきりだした
「アラタ、お前は御坂を探せ!」
「はぁ!? 何言ってんだお前!」
「御坂とはお前の方が仲良いだろ? お前の言葉なら届くかもしれないんだ」
「それは…そうかもしれないが、とアラタは言い淀む
「じゃあお前はどうすんだ」
「―――実験を止める」
彼の口から信じられないことを聞いた気がした
今友人はなんといったのだ
「止めるって…お前!?」
「お前だって分かってんだろ、御坂が何をしようとしてるのか、何となくだけど分かってんだろ!? …そんなアイツを説得できるのは多分お前なんだ」
当麻はそう言って手に抱えていた黒猫を託すようにアラタに渡す
それを抱えたアラタはなんとなく黒猫に視線を落とした
黒猫はこちらの顔を見ると一つ、ミーと鳴いた
「…けど今度の実験がどこでやるかわかんのか?」
「それは―――その」
分かってなかったのか
まぁ確かに先ほどのレポートには場所の事は書かれていなかったし仕方ないが
しかしそれでは先ほどの提案は出来なくなってしまう
どうするか、と考えた時、声が聞こえた
「場所の心配ならすんな」
不意に聞こえた青年の声
声の方へ向くと三人の男性がそこに立っていたのだ
一人は左翔太郎
一人はその相棒、フィリップ
そして―――通りすがりの、門矢士
「ダンナにフィリップ…あれ、アンタは…?」
唐突に現れた三人に驚きつつそんなアラタを尻目にフィリップは徐に懐を漁った
「今日行われる場所の割り出しは何とか成功した、案内は任せてもらいたい」
フィリップは一枚の紙を取り出しこちらに向かって歩いてくる
そして当麻に向けてその紙を手渡した
当麻は一度その紙に視線を落としてみる
…正直内容はよくわからなかったが、それでも
何はともあれ、これで実行する手はずは整った
「けど、なんでダンナたちが…」
「士に頼まれてよ」
そう言って翔太郎は士の肩を軽く叩く
叩かれた士はフン、と言いながらどことなく夜空を見た
「こんな胸糞悪い茶番なんざさっさと止めたいだけだ。…それよりいいのか、行かなくて」
士に指摘されて当麻とアラタはハッとした
そうだ、こうしている間にも美琴は動いているかもしれない
「…じゃあ当麻、任せていいか」
「あぁ。…任せてくれよ」
お互いにそう言うとなんとなく笑い合った
そして二人は手を挙げて―――ハイタッチを交わす
「じゃダンナ、フィリップ、士さん、当麻の事頼んます!」
「あぁ、お前もちゃんとエレキガールを止めてこいよ」
「無理はしないようにね、アラタ」
「あぁ、まぁ任せとけ」
三人とそんな会話をした後、アラタは走り出した
御坂美琴を探し出すために
◇
アラタの背中を見届けたあと、フィリップは当麻に向き直った
いきなり視線を向けられて当麻はちょっとたじろぎつつ
「な、なんだ?」
「いや、君が上条当麻で間違いないね?」
なんなんだろうか、と思いつつも当麻は頷いた
「そうか、君が。…上条君、よく聞いてくれ」
「は、はい…?」
「この実験を止めるには、君の力が不可欠なんだ」
◇
ああいって飛び出したものの、正直行くあてなんてなかった
だけどそれでも走る事をやめない
ここで走るのをやめてしまったら、手遅れになる気がするのだ
宵闇の中を走り続け、ふと風力発電のプロペラが目にとまる
風なんてないのに緩やかに回っている
疑問に思ったとき、こんな話を思い出した
発電機、つまりはモーターの事だ
モーターはこう見えて面白い性質を持っているらしく、電気を用いて回すハズのコイルの軸を逆に手動で回すことでも電気を生み出せる
また、モーターに電磁波を浴びせることでも回転させることが出来る
最近学園都市で開発が進んでいるのがその仕組みを使っているマイクロ波発電、らしい
風もないのになぜプロペラが回っているか
つまりそれは見えない電磁波に作用しているからだ
「…もしかしたら!」
アラタは黒猫を抱え直し再び走る
人の流れを裂くように走るアラタに注目が集まるがいちいち気にしてなどいられない
最初は僅かにしか揺れることのないプロペラを頼りにしていたが、しばらくそのプロペラを追っていくと徐々にはっきりと早く回るプロペラが見える
アラタは走る
ただ、ひたすらに
◇
「俺の力が必要不可欠って…どういうことですか?」
前を歩くフィリップに当麻は問いかける
「話を聞くに、君は全ての異能を打ち消すという右手を持っているらしいね」
「は、はい…」
「その力を使って
そのはずだ、と思い当麻は首を頷いた
当麻が頷くのを確認するのを確認すると
「なら、彼にその進化の価値なんてないと示さないといけないんだ」
フィリップの言葉に当麻は思わず口を閉ざす
そうだ、実験を止めるという事はその
そしてそれを示す、という事は彼を倒すという事だ
それが出来るのは…すべてを打ち消す幻想殺しを持つ当麻だけ
「けどただ倒すだけじゃダメだ。…
「え? それって、つまり…」
当麻がそう聞くとフィリップは頷く
「あぁ、君は一人で戦わなくてはいけないんだ」
一人、という言葉に冷や汗が噴き出る
「本当なら俺たちも加勢してやりてぇ。…けどそれじゃ俺たち仮面ライダーの助力の末の勝利ってなっちまう。…
歯がゆい気持ちを呟き、翔太郎は拳を握った
その隣で士が言う
「それで、どうすんだ?」
どうするか、だって?
当麻の答えは、決まっている
アイツが戦っているのに、一人逃げ出すなんてできっこない
「戦います。―――だから、行きましょう」
想像できるかもしれないですが一方通行戦は当麻主体の原作沿いです
そこにいろいろ混ぜれたらな、なんて思いつつ今回は通りすがります
因みに士は割と滞在します