とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
相変わらずな出来ではありますがご容赦を
誤字等を発見したらご報告を
多分あと一~二回くらいかな
ではどうぞ
降ってきた建材は意外に軽く、どかすのに時間はかからなかった
それをどかしている最中、バッシャーとゴウラムの二人が血相を変えてこちらに走ってくるのが見えた
彼らがアラタの近くへ走ってきて息を整えながらバッシャーは言った
「ごめん! 僕らがいたのに…!」
「気にしないで、バッシャー。…けど、どうして? 君がこんなミスをするなんて思えない」
そうワタルが聞き返すとゴウラムが
「うん。…だけど、急にいなくなったんだ。うっかりバッシャーさんと話してた私も悪いけど…、それでも後ろにいたハズなのに」
ゴウラムの話を聞いてアラタは僅かに首をひねる
…急にいなくなった? それは一体どういうことだろうか
それを考えようとして、首を振った
その事以前に気になることが多すぎる
確かに襲撃してきたシェリーも気掛かりだが、それ以上に気掛かりなのが風斬氷華の事だ
彼女は自分自身の以上に気づいていないようだった
だからガラスに映り込んだ自分の姿を見て悲鳴を上げ、逃げるように走り出した
彼女のリアクションを見る限り、その真実に彼女自身、今日初めて気づいたようだった
つまり自覚していない能力なのか、それとも風斬自身の能力ではないのか…?
当麻と二人、考え、悩んだ末に当麻が携帯を取り出す
いくらなんでも不可解な事がありすぎる
携帯を取り出したタイミングでアラタは天道に向かって
「なぁ、天道。この付近でアンテナないか?」
「あぁ、それなら…あそこのスポーツ店の近くにあるのがいいんじゃないか?」
そう言ってす、と彼はある一点を指差した
場所は少し離れてはいるが、特に問題はなさそうだ
一行はそのアンテナ付近まで駆け寄って、当麻が携帯を操作し始めた
携帯を弄る当麻を尻目に、改めてアラタは思考を巡らせた
…そもそもあの風斬氷華はいつこの学校に来ていたのか
出会ったのはインデックスとゴウラムらしいし、その顛末を聞いてはいなかった
「…なぁ、お前が初めて風斬さんと出会ったとき、何か感じたりはしなかったか?」
「うぅん。何にも感じなかったよ? …ちょっと変わった人だなぁ、とは思ったけど」
恐らく彼女が言うならそうなのだろう
…だがそれでも謎が深まっていく
そんな中ワタルがバッシャーに一つ問いかける
「ねぇ、バッシャー。風斬さんが消えた時、何か感じた?」
「そう言われても…わかんないんだよ、その…いきなり消えた、というか…」
「消えた?」
どういう事だろうか
風斬氷華はテレポートの能力者なのか?
いや、そんな事は聞いてはいないし…そう考えたところで当麻の声が響き渡った
「せ、先生、ちょっと待ってくれ! 今スピーカーにするから…」
そう言いながら当麻は携帯のスピーカーをオンにし連絡先の声が聞こえるようにする
彼の携帯から聞こえてきたのはとても見知った声色だった
<あ、あー。聞こえてますですかー?>
「こ、小萌先生?」
<あら? その声は鏡祢ちゃんですかー? 上条ちゃんと一緒なら安心ですねぇ>
いつも通りの声色に、アラタは少しだけ安堵する
しかし状況は何ら変わらない
<えっとですね? さっき上条ちゃんからカザキリヒョウカさんの事について聞いたのですけど…>
どうやら当麻は〝こんな能力があるのだが〟みたいに風斬の事を隠したうえで小萌に聞いてみたのだが、どういう訳か小萌はそれを聞いただけで風斬氷華の事を言い当ててしまったようだ
<上条ちゃんの質問…
その声色に、僅かに緊張が走る
<知っての通り、学校にもセキュリティがあるのは知ってますよね? 先ほど
月詠小萌は、映っていない、と言った
なら、つい先ほどまで自分たちと話していたあの氷華は一体なんなんだろうか
「…小萌先生は、どのように考えているんですか」
張り詰めた空気に天道の問いかけが響き渡る
電話の向こうで少しだけ息を吐いて調子を整えるような吐息が聞こえた
一瞬間を開けて小萌は続ける
<AIM拡散力場。先生はこれが深く関わっていると思いますね>
AIM拡散力場
その単語にアラタと当麻は互いの眼を見やる
<人様の論文内容を口外するのはやっちゃいけないんですけど…先生は上条ちゃんたちの口が堅いのを信じてます。今朝、先生は言いましたね? 友達に付き合ってAIM拡散力場について調べてるって>
電話の向こうで何かパラパラと紙をめくるような音が聞こえ
<その研究内容は、複数のAIM拡散力場がぶつかった際に生まれる余波の事なんですけど>
ますます何が言いたいのか分からなくなる
本当にそれらは風斬と何か関係があるのだろうか、と首をひねっていると
<上条ちゃん、鏡祢ちゃん、人間って、機械で測ったいろんなデータが取れますよね? 熱の生成やら放出やらその他諸々。扱う機会に応じて何万通りのデータが取れると思うのです>
「え、えぇ」
「…それが一体?」
そう周囲に気を気張りながら彼らは先を促した
<これは推測なんですけど…逆に、それらのヒトらしいデータがあったらそこに人がいるという事になると思いません?>
息が詰まる
小萌はさらに続けて
<この都市にはいろいろな能力者がいるのは知っていますよね、そして同時に彼らは無意識に微弱な力を放出してしまう。一人一人が小さい力でもそれらが重なり合って一つの意味を成すとしたら? たとえば、あ、とかいって言う意味のない文字でも、いろいろ並べるとおはよう、とかありがとうみたいな意味のある言葉になるじゃないですか>
「つまり、風斬氷華という人物はたくさんの命令文が集まったプログラム…みたいなものなのか」
<簡単に言うとそうですね。天道ちゃんは頭の回転が早いです>
思えば先ほどバッシャーはワタルに何と言ったのか
いきなり消えた、と言っていた
そうじゃなく、最初から風斬氷華なんて人物がいなかったらとしたら
その実、プロセスは全くの逆だとしたら
そこに人がいたから体温を感じた、ではない
体温が感じたからそこに人がいるのだ、と勘違いしたのだとしたら
能力者が体温を作り、また別の能力者が肌の感触を形作り、また別の能力者が声を作り
それら様々な能力のAIM拡散力場がいくつもの数字やアルファベットを創り出し、それを組み合わせて入力するプログラムみたいに、人を、人間を作っているのだとしたら
<学園都市には二百三十万人の能力者がいます。体温は
今いるこの場所さえも、戦場という実感すらなくなってしまいそうになる
それに裏付けるようにワタルが
「けど、確かに念動力者が上手い事能力を駆使して指を押せば人肌を感じるし、空気の振動を操れば声も出せる…」
「光もその屈折操れば姿を見ることもできるしな。…ワタル、学園都市ってすっげーな」
ワタルのすぐ近くでパタパタと飛んでいるキバットにワタルは頷く
小萌が言うには何度か不完全なカザキリの目撃談は何度かあったらしい
恐らく当時のカザキリは曖昧な幽霊みたいな存在だったに違いない
そこで不意にアラタは思い出した
「けど、彼女自身は自分の事に気づいていなかったみたいだけど。あくまで自分は普通の人間だって」
「そ、そうだよ。アラタの言ってる通りその自分の異常に怯えたから逃げ出した、本当にそんな、生まれた時から人間以外のモノだとしたら、おかしいじゃないですか―――」
そんな二人の声を斬り裂いたのは近くに見知った声色
「いや、何もおかしいことはない」
「事はないって…」
口を開いた―――天道は当麻の声を遮り言葉を続ける
「生まれた時からずっと自分が人間だと思い込んでいれば、何の疑問も抱かないだろう」
「なっ…!?」
言葉を聞いた時、当麻は絶句した
その隣で、妙に納得してしまうアラタもいた
同時に、そんな感情を抱いた自分に嫌悪感を覚えた
「…つまり、結論行っちゃえば、カザキリは…人間じゃないってこと?」
<そうなりますね。AIM拡散力場が生み出した物理現象の一つです>
ゴウラムの言葉に、小萌は淡々と返す
そんな言葉に反論するかのように当麻は口を開いた
「…そんなのって! そんなのってアリかよ! 酷過ぎる…! そこにいるアイツの思いも、感情も全部作られたものなのか…!」
「…酷い、か。間違ってるぞ当麻」
嘆く当麻に反応したのは、天道総司だった
その言葉に腹が立ったのか、ギリ、と当麻は天道を睨みながら
「…なんだよ、まさか単なる自然現象に感情移入するのは馬鹿馬鹿しいって! そう言いたいのかテメェッ!!」
「話は最後まで聞け当麻。…それに、そんな分かりきったことを聞くなら、俺はお前と友達をやめなくてはならないぞ」
電話の向こうで小萌の息を吐きつつも、苦笑いするような声が聞こえる
そんな中、天道は続けた
「確かに言ってしまえば彼女は幻想だ。ヒト足り得る要素をすべて満たしていようが、彼女は人間じゃない。…しかしだ当麻、お前の眼から見た
「―――!」
そうだ、と思い返す
アラタは彼女と触れ合った期間は短かったが、それでも、記憶に焼きついた彼女の笑顔は決して偽物なんかじゃない
「―――幻想なんかじゃないよ」
その場にいた一行を代表するように、ゴウラムが口を開く
「作り物だなんだって言われても、カザキリはカザキリだよ! …私や、インデックスの…友達なんだ…!」
泣きそうになるのを堪えながら、ゴウラムは告げる
そんなゴウラムの頭を撫でながらアラタは
「あぁ、少なくとも、本物だとか偽物だとか…そんな〝小せぇ〟事で仲間外れに出来る存在じゃねぇよな」
「…あぁ」
当麻は頷く
あぁ、そうだ
幻想なんかであるはずがない
以前に、彼女は苦しそうだった、自分も知らない現実を突きつけられて、そして受け入れることが出来なくて、右も左も分からない、訳の分からない状況で、闇へ逃げるしかなかった、ただ一人の女の子
見殺しにされていいわけがない
「…けど先生、ふと思い出したんですけど、先生の友達ってAIM拡散力場の事を調べてたんじゃ?」
<大丈夫ですよ、その論文の中にカザキリヒョウカさんの事はなかったですから。もちろん、この事は伏せておきますから心配しないでも大丈夫なのですよー>
アラタの問いに小萌は変わらずほんわかした様子で応えていく
<それに小萌先生は先生なのです。単純ですけど、それが一番の強力な心の柱なのです。そしてわたしのお仕事は生徒の大切なお友達を売りとばして名声を得る事は含まれてないのです>
「…ありがとう先生」
アラタがそう感謝を伝えると電話の向こうでふふん、という声が聞こえたのち
<くれぐれも、その人を泣かしちゃダメですよー>
そう聞こえたのち、それではなのですーと言って電話は切れた
その電話を見たワタルは
「…いい先生だね」
そんなワタルにアラタは小さい笑みを作りながら頷く
そしてアラタは当麻を見た
視線の先には、決意のこもった瞳があった
その隣には、同じよう笑みを浮かべる天道の顔が見えた
やるべきことも、行くべきかも理解した
しかし問題は別にある
「とりあえずは、あの石像をどうするか、だな」
あの女の傍らの石像…
変身すればいくらか太刀打ちは出来そうではあるが、それでも一抹の不安はある
どうするか、と悩んだときふとガラスのウィンドウを見て、自分たちの後ろに誰かが立っていたことに気が付いた
「―――ふふ」
当麻の小さい笑い声が聞こえる
本当は息を吐いたらなんとなく無意識に笑っていただけなのだが
同じように天道も、ワタルもそれらに釣られて笑みを浮かべる
ゴウラムは頭に疑問符を浮かべてアラタを見たが、それに対してアラタは彼女の頭を撫でて応えた
案外近くに、切り札はあったのだ
◇◇◇
今になり、焼けるようなその痛みに気が付いた
「あ、うううっ…!」
顔の半分―――砕けたその断面に灼熱で溶けた熱でも流し込まれたような激痛が彼女を襲い、立っていられずに地面に倒れ込む
それでもその痛みを紛らわせるように両手両足を振り乱して地面の上を転げまわった
普通なら死んでいるハズなのに
むしろ死んでなきゃおかしいのに
生き地獄とはまさにこの事だ
死ぬほどの痛みに苛まれていながら、死ぬことも許されないのだから
「―――あっ!?」
しかしそれも長くは続かない
変化が、あった
ぐじゅ、とゼリーが崩れるような音と共に傷口が塞がり始めた
ビデオの早送りのようにあり得ない速度で瞬く間に空洞が修復されて、痛みも引いていく
致命傷なのに
死んでてもおかしくないはずなのに
「―――あ」
痛みが引くと同時、考える余裕すらなかった思考が高速で展開していく
己の中は、空だという真実
普通と思い込んでいた己の正体は、異常だという事実
言葉を組み立てる余裕もなく、叫ばずにはいられない重圧が彼女の心を蝕んでいく
そんな彼女の絶望に引き寄せられて、もう一つ深い絶望が現れる
ズゥン、と深い音と共に、佇んでいる遺物な化け物
その傍らには、金髪の女が立って、そして嗤っていた
「―――ひ!?」
反射的に逃げようとした―――が思うように足が動かなかった
それに対して、女はただパステルを振り抜くだけ
パステルに応えるように石像が風斬に向かって拳を繰り出す
咄嗟に風斬は地面に伏せようとした、が少し遅れてなびいた髪に拳が引っかかりそのまま頭皮ごと剥がさんとばかりにそのまま拳を振り抜き、それに釣られて彼女の身体が大きく飛ばされる
「あがっ!!?」
恐るべき勢いで地面を滑った彼女は、まるでヤスリに削られたような痛みに襲われた
その地面には何メートルにわたり、剥がされた皮膚や髪の毛がこびりついていた
しかし、またぐずぐずと彼女の顔が波打っていく
剥がされた顔のパーツが、元に戻ろうとしているのだ
「…なんなのかしらねぇ。これ」
女がようやく口を開いた
目の前の光景に、笑いながら
「っは。虚数学区の鍵がどんなものかと思って来てみればこんなもんかよ! ったく、こんなんを後生大事に抱え込むなんて。…ホント狂ってるよな科学ってのは」
けらけらと笑う女の前で風斬の修復が始まった
べちゃりと湿った音を立て、数秒もしない内に風斬の修復は完了する
怯える彼女を見て、女は言う
「…なんだよその面構えは。お前、まさか自分が死ぬのが怖いってほざくようなやつかしら?」
「え…?」
「はっ。何当然ですって顔してンだよ。気づきなさいな、自分がクソ気持ち悪ぃ化け物だってことをよぉ」
化け、物
「お前が消えたくらいじゃ世界は何も変わらない。化け物が死んでお涙ちょうだいなんてありえないから。何、着せ替え人形の服ひん剥いて興奮するような性癖なんざないんだよ」
絶望に絶望を塗り重ねるように、女はさらに真実を突きつけてくる
「この際だからはっきり言ってやるよ化け物。逃げる以前に、どこに逃げんのよ? 居場所なんかないくせに」
パステルがふらりと揺れる
だけど風斬は動けない
身体の傷はもう治った、心に恐怖はない、今も逃げろと叫んでる
逃げる? いったいどこに?
そこで風斬はふと思い出した
初めて、学校に通った
同じように、食事を取るのも初めてだった
あれだけの男の人と話したのも初めてで
自動販売機を使うのも初めてだった
買い方は知っているのに、どうして飲んだことがないなんてわけの分からない異常にどうやって納得していたのだろうか
今日、何もかもが初めてだった
それこそ本当に初めてだらけで、目に映るものが全て新鮮に見えた
―――あぁ、なんで気づかなかったんだろうか
ただ私は、目を逸らしていただけじゃないか
思ったところでもう遅いのだ、この世界に、自分を受け入れてくる場所など存在しない
ふと、ポケットの中に、あの少女たちと撮った写真のシールに目がいった
それを取り出し、見た
映っている少女たちは、写真の中で笑っているインデックスとゴウラムは知らない
己の正体を知らない
それを知ったら、もう笑ってはくれない
瞼が、熱くなる
暖かい世界に、いたかった
もっと笑っていたかった
いいや、違う、結局の所誰かと笑って過ごせるのなら死にもの狂いで縋りたかった
「泣くなよ化け物」
女が嗤う
「お前が泣いても気味が悪いだけなんだよ」
ゴーレムの腕が迫りくる
絶望の中で彼女は思った
そうだ、確かに私は死にたくない
だけどいっそ化け物として扱われるくらいなら、死んだ方がマシなんだ
襲い来る衝撃に耐えるように、風斬は目をギュッと閉じた
だけど衝撃は来なかった
いつまで経っても何も衝撃は襲ってこなかった
不気味なはずのその沈黙は、何故だか優しく風斬の身体を包んでいるように感じた
ポン、と誰かの手が風斬の肩に置かれた
彼女は恐る恐る目を開ける
まず視界に広がったのは、ゴウラムの顔だった
「―――え?」
「…大丈夫だよ、カザキリ」
言って彼女は微笑んだ
彼女の後ろでは、少年がいた
一人の少年がゴーレムの拳を受け止めて、その近くにいる三人の人影が同時にその拳を蹴り返す
その蹴りは―――ゴーレムの拳を容易く砕いた
「―――待たせちまったみたいだな」
聞き覚えのある声がした
その声は、力強かった
「せっかくの美人が台無しだ。おばあちゃんがいっていたぞ、全ての女性は、等しく美しいってな」
その声は、暖かった
「キミと触れ合った時間は短いけれど、それでも友達であることは変わんないからね」
その声は、頼もしかった
「ほら、涙を拭きな。もう、安心していいからさ」
その声は、優しかった
風斬氷華は子供みたいに涙をぐしぐしと拭う
涙の膜が晴れ、その視線の先に彼らはいた
上条当麻が、鏡祢アラタが、紅葉ワタルが、天道総司がそこにいた
向けられたその笑顔は、自分自身に向けられたものだと気づくのに少し、時間がかかった
そして気づく
その笑顔は、友達に向けるような笑顔だという事に