とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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お待たせしました
今回は

食蜂操祈の大幅な改変
ぐだぐだ
長い

な感じです

こんなのでよければお付き合いくださいませ


#3 狙われた常盤台

その日はなんだか違和感があった

特に何の変哲もない住宅街の道を婚后光子は歩いているとき、心の中でそう思った

 

ここは普段から通っている道だし歩くことに何ら抵抗はない

時刻は夕刻だし人通りも決して多くはない、というか人はいない

 

だと言うのに先ほどからどうも視線を感じるのだ

 

「…」

 

しかし振り返って確かめても誰もいない

いつも通りの道並みしか自分の視線は移さなかった

 

…やっぱり気のせいか、と自分で結論づけて再び前を向いて歩き出そうとしたその時に

 

 

また自分を見るような視線を感じた

 

 

一体これで何度目だ

いい加減腹が立ってきた婚后は声を張り上げて叫んだ

 

「どなた!?」

 

後ろを振り向いて視線を巡らせる

しかしどこを見てもやっぱりその視線の主はいない

ならば何らかの能力を用いその姿を消しているのだろう

ここは学園都市、見た事こそはないがそのような能力があっても不思議じゃない

 

バッ、と婚后は自分のトレードマークで扇子を取り出して開くと自身の口元に持っていく

 

「わたくしを常盤台中学の婚后光子と知っての狼藉ですの!?」

 

視線を張り巡らしながら少しずつ背後へと歩いて距離を取っていく

どこから来るかわからない、ならせめてどこから来られてもいいように距離だけは―――

 

ドンッと背中に何かが当たった感触がした

その感覚は確実に人だ

 

「っ!?」

 

瞬時に背に振り向いて確かめようとするがやっぱり誰もいなかった

 

(…どういうことですの?)

 

自分の勘違い?

だとしてもまだ相手はどこかに潜んでいるかもしれない

注意深く辺りを見回し、どこかにいるかもしれぬ相手を探す―――

 

 

―――バヂリっ!!

 

 

「あうっ!?」

 

背中に電撃が走った

その電撃の正体がスタンガンなのだと知るのに時間はかからなかった

しかしその一撃は婚后の意識を奪うのに十分すぎる威力だった

どさりと力なくその場に倒れ伏し気を失う婚后

そんな彼女の近くに一人の女の子が立っていた

その女の子は婚后の近くまで歩み寄ると小さく口角をつり上げた―――

 

◇◇◇

 

太陽の日差しを受けて目が覚めた

 

「おはようございますお兄様」

 

黒子の声を聞きながらアラタは上半身を起こす

そしてうーんと背伸びをして眠気を覚まそうとして

 

なんで黒子が俺の部屋にいるんだと気づく

 

「たっはー。お兄様の寝顔ゲットですわ。さっそくこれを保存ん!?」

 

「何勝手に俺の部屋に上がってんだテメェはぁぁぁ!!」

 

空間移動能力者(テレポーター)とはこれだから

いや、こんなことするテレポーターは学園都市中を探し回ってもこの黒子(バカ)しかいないと思うが

 

とりあえずゲンコツをかましカメラをぶんどって画像ファイルを消去しておきました

 

 

「迎えに来てくれんのはありがたいけど不法侵入はやめてくんないかな」

 

「はは…、つい出来心で…」

 

苦笑いとともに頭を掻く黒子

笑ってすむものではないが知り合いなので一応許す

で、本題

 

「美琴はもう来てるのか」

「ええ。もう常盤台の校門で待っておられますわ」

 

本日は初春、佐天の両名に〝学舎の園〟を案内するべく、彼女ら二人を招待したのだ

〝学舎の園〟は学園都市の女子校が集結している場所であり、当然ながら我ら一般庶民では入ることは不可能に近い

しかし今回は美琴や黒子に招待されているから堂々と入れるのだ

まぁしかし今回は黒子の能力で入るのだが

 

「じゃあさっさと制服着るから待ってくれ」

「ええ。私にお構いなく」

 

そう言っていそいそとビデオカメラを用意してこちらを

 

「だからやめろって言うとろーがぁぁぁ!!」

 

ベシィ!! と頭をド突く

本日も黒子は変態でした

 

◇◇◇

 

「おっすー。来たわねアラタ。その様子だと…うん。だいたい察した」

 

つつがなく黒子の空間移動(テレポート)にて常盤台校門に到着

ちなみに黒子は頭にクレヨンし〇ちゃんばりのたんこぶを作っていたのを見て何がおこったのを美琴は察してくれとようだ

その判断に心から感謝した

 

「で、二人は?」

「ううん。まだ来てないわ。もうそろそろだと思うんだけど…」

 

そう言って形態を取り出して時間を見る

時刻は午後三時

待ち合わせは三時だったはずだ

 

そう思ったその時足音が聞こえた

 

「あ、来たぞ。…て、あれ」

 

三人が足音の方を見るとそこには確かに初春と佐天がいた

しかしなぜだか佐天だけやけにずぶ濡れで

 

「…どうしたの?」

 

苦笑いを浮かべて美琴が聞く

その問いに二人は「あはは…」とはにかみながら

 

「その…水たまりで、ちょっと…」

 

とりあえず佐天さんに替えの服を貸してあげることになりました

 

◇◇◇

 

とりあえず佐天が着替え終わるまでアラタは校門で待つことになった

まさか着替えにまで同席するわけにもいかない、というかそんなんしたらさすがにいろいろやばい奴である

 

とりあえず彼女らが出てくるまで何にもすることがない

どうしようかな、と考えながら校門でぼけー、と待つことにする

 

「あらぁ。アラタじゃないのぉ?」

 

ずいぶん甘ったるい語尾を聞いた気がする

その声の主をアラタは知っていた

 

「…操祈じゃねぇか。ここで会うなんて奇遇だな」

 

「それはこっちの台詞なんだケドぉ…どうしたの今日は。あたしに会いに来たとか?」

 

てててと近寄ってこちらの顔を覗き込むように移動する彼女

名前は食蜂操祈

彼女は常盤台のもう一人の超能力者(レベル5)

そしてアラタが最初に出会ったガイアメモリ使用者である

 

「違うわ、友達待ってんの。さっきまで降ってた水たまりで衣服汚れたから今着替え待ち」

 

「なぁんだザンネン」

 

ふてくされたような表情を見せてぶーたれる食蜂

そんな仕草の一つ一つは可愛いのだが

 

「ほら、さっさとどこか行け。それともここに用事でもあるのか?」

「はぁい。言われなくとも行きますよぉだ」

 

なんか知らないがぷんぷんした様子で食蜂はアラタの隣を通り過ぎた

…そういえばなんで食蜂は常盤台を通ったのだろうか

 

「お待たせ。待たせたわね」

 

ちょうど食蜂が帰ったタイミングで着替え終わった佐天を連れて美琴たちが戻ってきた

佐天は常盤台の制服に身を包み、その佐天を初春がうらやましそうに見ている

 

「…佐天さんだけずるいです…」

 

なんでかぷくー、と頬を膨らませている

そんな初春に対し佐天は苦笑いを浮かべスル―している

 

「制服はクリーニングに出しておくから、後で寄ってね?」

「なんなら、貴女方の寮なで届けますわよ?」

 

常盤台半端ない

輸送とかまであるのか

 

「メイドさんですか!? やっぱりメイドさんなんですか!?」

 

今日の初春のテンションはなんかおかしいと思うのは自分だけなのだろうか

そんなことを思いながらアラタは四人の少し後ろを歩いていく

そんな五人を後ろから見つめている女性の存在に気づかずに―――

 

◇◇◇

 

鏡祢アラタに初めて出会ったのは四月の初め

たまたま町に繰り出してボディーガードに丁度良さそうな男を探していたら偶然出会ったのが彼だった

その時は自分の能力でどうとでもなると思っていた私は特に何も疑いを持たず彼に近づき能力をかけようとした

 

だけど彼に能力は効かなかった

 

なんとでもなると思っていたが能力が効かないなんて聞いていない

そんなのは超電磁砲だけで十分だ

能力が効かないなら力で打ちのめして自分の配下に置けばいい

ちょうどこの学園都市には様々な能力者が集っているのだし、集団でかかれば問題ないだろうと考えていた

だが送り込んだ奴らはことごとく返り討ちにされ、あまつさえその根源が私だと突き止めたのだ

観念した私は事前に入手したガイアメモリを持って鏡祢アラタと戦うことを決めた

 

 

「…案外やってくれるわねぇ…ますます欲しくなったわぁ」

 

深夜誰もいない廃墟の中で私は鏡祢アラタと対峙した

向こうからゆっくりと歩いてくる男の姿に少しだけゾクリとした

 

「…高々俺一人のためにずいぶん巻き込んだなおい。いい迷惑だぜマジで」

 

ため息をつきながら私の眼を見る鏡祢アラタ

その時の私はもう少しで手に入るその男に内心ドキドキしていた

 

「なら私に従いなさい。そぉすれば今より幸せな未来が待っているわよぉ?」

 

「そいつは却下だ。生憎俺は今の生活にすげぇ満足してるんでね」

 

そう言われるとはわかっていた

その予想通りの言葉に思わず笑ってしまったほどだ

 

「そう…ならやっぱり、力づく…しかないのねぇ」

 

そう言いながら普段リモコンを入れているバッグから一つのメモリを取り出す

途端に鏡祢アラタの表情が驚愕に染まったのを私は見逃さなかった

 

「お前!? それは!?」

 

「直々に、相手してあげるぅ…」

 

<QUEENBEE>

 

そうメモリから電子音声が聞こえ私はそのメモリを二の腕の生体コネクタに挿入する

少しズキリ、と痛むが我慢できないほどではない

そして徐々に姿が変わっていく

モチーフは女王蜂

お尻にある蜂特有の重みが気にはなったが些細なことだ

 

「…話し合いでどうにかとは思っていたが、メモリ使用者なら別だ」

 

「…?」

 

ドーパントとなった私の耳にははっきりと聞こえた

どういう意味なのだろうか

そう思った矢先彼がアクションを起こした

バッと自分の両手をおへその下…丹田あたりだろうか…に手をかざす

すると唐突に体の内側から現れるように変なベルトが出てきたのだ

そして一定のポーズを取って鏡祢アラタは言ったのだ

 

「変身!」

 

確かにそう言った

今どきテレビの特撮番組よろしくそんなことがあり得るかとその時の私は思っていた

実際に鏡祢アラタの姿が二本角の仮面をした姿になるまでは

 

「…な、によそれぇ…!?」

 

「悪いな。…女とて、手加減しない」

 

 

結果を言うなら私は負けた

鏡祢アラタは半端なくこういった戦いに慣れており、こちらの攻撃はすべて避けられ往なされ、弾かれた

初めて使ったメモリの力は私では扱いきれず、そもそも身体を使った戦闘に不慣れな私はなすすべなく打ちのめされた

 

アラタの蹴りが私の腹部に決められて吹き飛ばされて、身体が爆発する感覚を覚える

倒れ伏す私の身体から抜け出てくるメモリはカチャン、と音を鳴らす

 

「…お前さん、超能力者(レベル5)なんだってな」

 

「…それが、どおしたの…」

 

ガシャン、とそのメモリを踏みつぶし、先ほどの姿を解いた鏡祢アラタが私の方へ近寄ってくる

このまま警備員(アンチスキル)にでも突き出されるのだろうか

そんな事ばかり考えていた

しかし予想に反して鏡祢アラタは私を抱え上げそのまま歩き始めた

お姫様抱っこ、というのは恥ずかしいものだ

 

「ちょ…何を…?」

 

「今まできっと自分の為にしかその能力使ったことないんだろ。…少しずつでいい。他人の為にその力を使ってやってくれないか」

 

「…え?」

 

何を言っているのか最初はわからなかった

少し経ってからそれは自分に言ってくれているんだと気づく

 

今まで思い通りに事をなしてきた

だけどこの男だけは思い通りにならなかった

それどころか真っ向からぶつかってきて私に説教じみた事を言ってくるなんて

けどそんな自分に初めて反論した人物なんて初めてだった

 

 

だからそれなりに力になってあげようかな、と最近は思うようになり野心も薄れていく今日この頃

今日はアラタに会えたことだし気分もよかった

 

「…さて…なにか面白い事起こるかしら。…ないか」

 

小さい笑み交じりに食蜂は呟く

そこにはかつてのような不気味な笑みはなく、ただ純粋な笑顔があった

 

◇◇◇

 

現在佐天がリクエストしたケーキ店にて

佐天や美琴、黒子が決まっている中で初春だけが決めかねていた

ちなみにアラタはイチゴのショートケーキと決めている

生クリームの上にあるイチゴとか最高じゃないか

 

「うむむむむ…これも美味しそう…あぁ! けどこっちのも捨てがたい…」

 

ショーケースに並べられたケーキを見ながらいまだに悩んでいる初春

きっとこの子はレンタルビデオ店に入っても悩んじゃうタイプだ

だってアラタもそうだから

 

「そんなに悩むようなことですの?」

 

「ま、まぁアタシはチーズケーキって決めてましたから…」

 

「早くしないと陽が暮れちゃうよ?」

 

それぞれが苦笑いを浮かべつつ初春に言う

対する初春は慌てた様子で

 

「うわぁ、ちょっと待ってください―――」

 

そして注文をしようとしたとき、アラタの携帯が震えだした

 

「うん?」

 

「悪い」と四人に断わってアラタは携帯を取り出して通話ボタンを押し耳に当てた

 

「うい。なんだ固法。…わかった、すぐに行く」

 

携帯をぱちんと閉じながら黒子と初春の顔を見る

雰囲気を見て察したのか黒子が先に口を開いた

 

「呼び出しですの? お兄様」

 

「ご名答。行くぞ二人とも」

 

タイミングが悪いとはあえて口に出さなかった

しかしケーキが食べれない、という事実は初春に衝撃をもたらしたようで

 

「はぁう…」

 

ものすごく残念そうな表情でショーケースの中のケーキを眺めていた

 

「…美琴、初春の分テイクアウトできるか?」

 

「ええ。私もちょうどそうしようと思ってたところよ」

 

「ありがとうございますぅ…」

 

とりあえず初春のケーキ問題はこれで解決

あとは支部に顔を出して、指示を仰ぐのみだ

 

「よし、行くぞ二人とも」

「了解ですわ」

「はいっ」

 

三人は口ぐちにそう言ってケーキ店を飛び出した

慌ただしく走る三人の背中を見ながら美琴は小さい息を吐く

こんな時にもお仕事をする三人に少し申し訳なく感じながらも美琴は佐天の方へ向き直り

 

「じゃあ私たちも―――」

 

「あの…」

 

少しもじもじしながら佐天は視線をちょっとだけそらしながら頬を掻く

 

「私…ちょっとお手洗いに…」

 

◇◇◇

 

風紀委員活動第一七七支部、JUDGMENT 177 BRANCH OFFICE

通称一七七支部

 

風紀委員の初春、黒子、そしてアラタの三人が所属している事務所である

ちなみにこの事務所に入るのに特に制限はない

実際たまに友人であるツルギもたまにここに入り浸っては国法に怒られている

ツルギというのはアラタの同級生で、彼の親友でもある

 

「まったく…せっかくの非番の日だというのに…」

 

愚痴る黒子に苦笑いする初春

しかしそのままストレートに不満を口にするといろいろと危ないので黙っておく

 

「あたっ」

 

案の定ポカリ、と黒子に頭が叩かれた

 

「到着早々ぼやかないの」

 

しっかりと黒子の小言を聞き逃さなかった彼女は注意の意味も込めて適当に書類をくるめて軽くたたいたのだ

彼女の名前は固法美偉

今叩かれた黒子や初春の先輩で立場上はアラタにとっても先輩であるが同時に年齢的には同学年にあたる

 

「で、固法。用事ってどんな用事だ?」

 

アラタが聞くと国法は表情を切り替える

仕事モードの表情(かお)

 

「昨日の放課後から夜にかけて、常盤台の生徒が六人ほど、連続して襲われる事件があったの」

 

言いながら国法はデスクに置いてあったパソコンに近寄りキーボードを操作し画面を切り替える

いくつか操作して、ディスプレイには被害者と思われる生徒六人の顔写真が写された

 

「しかも、その事件すべてが〝学舎の園〟の中で」

 

◇◇◇

 

事を終えた佐天はハンカチを口にくわえながら手を洗おうと洗面所へと歩み寄って蛇口をひねって水を出す

 

その時どういう原理か分からないが背後の出入り口が勝手に開いた

 

「…?」

 

しかもご丁寧に開いた後また普通にその扉が閉まったのだ

 

「…え?」

 

正直訳が分からず気のせいか、自己完結し佐天は気にはしなかった

 

◇◇◇

 

常盤台の学生は最低でも強能力者(レベル3)以上の能力者しかいない

その能力者をいとも簡単に倒していることから、相手はかなりの手練れだと推測できる

 

「相手の能力は?」

 

アラタが固法に聞くと彼女はいいえ、と言っているように首を横に振った

ただ、と固法は口を開き

 

「ただ、被害者は全員、スタンガンで昏倒させられているの」

 

◇◇◇

 

トイレの中をきょろきょろと見回す

やっぱりどう考えてもあの扉がひとりでに開くなんて想像できないのだ

そもそもあの扉はしっかりと閉め切ったはずだ

ノブを回さない限り開くことは絶対にない

 

注意深く周囲を見渡していると―――

 

 

バヂリ、とどこからかスタンガンを押し付けられた

 

 

「あぅ!?」

 

今まで受けたことのない痛みに佐天は洗面所に身体を預ける形になってしまう

 

◇◇◇

 

「それで、意識を失った被害者は…?」

 

恐る恐ると言った様子で初春が固法に聞く

すると固法はまた空気を一変させる

それはこれより先、聞く勇気をこちらに問うかのように

 

「写真があるんだけど―――」

 

国法はカチカチ、とパソコンを操作しながらキラリ、と眼鏡の奥の瞳を煌めかせる

 

「―――酷いよ?」

 

背中に駆け抜ける戦慄

それはこれより先に待っているのはかなりの凄惨なものだろう

そんな事実が三人の脳裏に駆け巡る

 

「見るんだったら、覚悟しなさい」

 

じっ、とレンズの奥からまた固法の瞳が光る

ここから先に何があっても、動じないと約束できるの?

固法の瞳はそう訴えていた

 

「…今更だな。この仕事に就いてから、とっくの昔にできてるぜ」

「わたくしも」

「私もっ!」

 

アラタ、黒子、初春の三人はそう言って固法の眼を見る

それぞれの瞳から何かを感じたのか、固法は観念した様子でパソコンのディスプレイはこちらに見えるように動かした

 

そしてその画面を見た三人は、絶句した

 

◇◇◇

 

「佐天さーん?」

 

あまりに遅い佐天の帰りを心配した美琴がお手洗いを訪ねてきた

入ってきてすぐ思ったのは水の音が絶え間なく流れているということ

 

「…佐天さん?」

 

トイレの方を覗き込むが誰もいない

そして今度は洗面所に顔を向けると―――

 

「―――!?」

 

そこには洗面所に身体を預けて気を失っている佐天の姿が飛び込んできた

 

「佐天さん!!」

 

慌てて彼女の下に駆け寄り身体を揺り起こす

しかしスタンガンにでもやられたのか、彼女の意識はだいぶ深いところに落ちてしまっているようだ

だがとにもかくにも彼女をここから移動させなければ

そう思った美琴は改めて彼女の身体を支えようとする

その時にぐらりと彼女の頭が揺れて、美琴の視線に入ってきた

 

「―――あぁ!?」

 

その瞬間、また美琴も絶句した

 

◇◇◇

 

常盤台中学の中にある風紀委員室

 

そこに一同は集まっていた

ちなみに佐天はソファに寝かせている

 

「常盤台狩り?」

 

黒子と初春から事件の詳細を聞いた美琴はそう声を上げた

 

「そっか…常盤台(うち)の制服を着てたせいで…」

 

偶然とはいえ彼女は常盤台の制服を着ていたせいでこんな事件に巻き込んでしまったのだ

その罪悪感がその場にいる者にのしかかる

 

「…佐天の具合はどうだ?」

 

「しばらく横になれば、大丈夫だろうって…。…ただ…」

 

そこで美琴は言葉を区切る

いや、言うのを躊躇ったのだ

その行為が意味するのはつまり、彼女も犠牲になってしまったのだ

その事実に初春は肩を落とす

 

「…犯人の目星は?」

 

「まだついておりませんの。…少々厄介な能力者でして…」

 

「厄介?」

 

「目に見えないんです」

 

呟いた初春の言葉に美琴は耳を疑った

 

「…え?」

 

 

「本当ですわ!!」

 

だん、と机を勢いよく叩きながら婚后は声を張り上げた

 

「わたくし何も見ていません!」

 

「で、ですが、監視カメラには確かに…」

 

彼女の相手である立花眞人はパソコンの画面を見せながらそう言うが婚后は聞く耳を持たず

 

「それでもっ! 本当に見ておりませんの!」

 

 

そこで映像はブヅリと途切れた

正確には黒子が見かねてその画面を落としたのだが

ちなみに映像の婚后はとある事情により常に額を隠していたのだが、理由は後程

 

「被害者には見えない犯人、か…」

 

ぼそり、とほおづえを突きながら美琴は呟いた

 

「最初は光学迷彩系の能力者を疑ったんだけどさ…」

 

アラタの言葉に続けるように初春がパソコンを操作しながら付け足す

 

「完全に姿を消せる能力者はこの学園都市に四十七人います。けど、その全員にアリバイがあって…」

 

「それ以前に監視カメラには映ってるんでしょ? 光学操作系っていうのはちょっと違うんじゃない?」

 

そうなのである

光学迷彩は基本的にそう言ったものから逃れるための能力だ

しかし今回のケースは〝犯人はカメラに映っている〟

光学迷彩の件ははずれなのだ

 

「…けど、なんで被害者は犯人の姿に気づけなかったのでしょう?」

「…すっごく早く動いたとかでしょうか…」

 

黒子と初春のそんな何気ない会話にアラタの耳はピクリと反応した

〝気づけなかった〟?

 

「初春、一つ調べてほしいことがある」

 

「ふぇ?」

 

 

静かな風紀委員室にカタカタとキーを打つ音が響く

しばらく初春が検索しているのを黙って見ていると一つのウィンドウが開かれた

 

「ありました! 能力名は視覚阻害(ダミーチェック)。対象物を見ているという認識そのものを阻害するという能力です。該当者は一名。関所中学校一年〝重福省帆〟」

 

ウィンドウに表示された分を淡々と読み上げる

その画面に映った女の子はお団子頭で、前髪が長く自分の眉毛を隠すように伸びている

その画面を確認した黒子は

 

「そいつですわ!!」

 

と声を張り上げて画面を睨む

しかし初春がその言葉を否定する

 

「けど、この人異能力者(レベル2)です。自分の存在を消せるほどの力ではないと、実験データにはあります…」

 

と、なるとこれも不発ということになる

その事実を知ったアラタははぁ、と深いため息をついた

 

「…いい線いってると思ったんだがなぁ」

「振り出しに戻っちゃったわね」

 

美琴と二人そんな事喋りながら窓の方をみたその時だった

 

「う、うう、ん…」

 

佐天の声だ

しばらく意識を失っていた彼女が回復したようだ

 

「あれ…わたし…」

 

自分の額に手を当てて調子を確認する佐天

そして彼女は声のする方向…つまり美琴たちへと視線をやる

 

「佐天さんっ」

 

初春が安堵に満ちた声を上げ

 

「あまり無理しないほう、が…」

 

美琴が続いて気遣うような言葉を言おうとしてどもった

正確には佐天以外の全員がどういうわけか笑いをこらえているのである

 

「…?」

 

その行動の意味が分からなかった彼女だがアラタから渡された手鏡を見て

 

「…えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

絶叫した

 

◇◇◇

 

なぜか

 

それは佐天の眉毛にある

昏倒させられた佐天はどういうわけか知らないが、自分の眉毛が思いっきり太くなっていたのだ

恐らくマジックで上から書かれたのだろう

ちなみに先ほどの婚后も恐らく同じ理由で眉にあたる部分を自身の扇子でかくしていたのだ

どんな眉毛か、というと両津〇吉みたいな眉毛といえばわかりやすいか

 

「な…ななっ…なぁ…」

 

先ほどからスーパー絶句タイムな佐天

というかがんばってシリアスに持ってきても被害がこれなので正直安心した感はある

最初固法に真面目な口調で言われた時は始めて髪の毛を引っ張ってやろうかと思ったほどである

 

「佐天さん…お気を確かに…。…ぷ、くくく…」

 

フォローになってない初春

ていうか笑ってんじゃん

 

「ショックだよね、そりゃあ…」

 

苦笑いと共に佐天を励ます美琴

というか彼女も言葉を探しているのだろう

 

「まぁ…その…なんだろうな」

 

実際言葉が見つからないアラタ

いや、どんな言葉をかければいいのだ

 

「せめて、これくらい前髪があったら隠せましたのに…」

 

笑み交じりで先ほどの女の子の画像を見ながら呟く黒子

 

「前髪?」

 

黒子の発言が気になったのか佐天は歩いてきてその画面を覗き込み、佐天の表情がまた変わる

驚愕の表情に

 

「こ、こいつだぁぁぁ!!」

 

佐天はそう叫びながら画面の指差し、プルプルと指を震わす

そしてその一言にその場の空気が一変する

 

「犯人を見たんですの!?」

 

黒子の問いかけに佐天は「はい!」と頷いて

 

「あの時、確かに見たんです。意識が薄れる中で、鏡を見たら、この女の子が…!」

 

なるほど、これではっきりした

 

「どうやら存在の認識を阻害できるのは、肉眼で見た者のみに限られるわけだな」

 

「どうりで被害者は一貫して見ていないって言っていたわけですわね」

 

黒子とアラタが二人呟く

これで確保にまた一つ歩を進めたわけだ

 

「…ふ、ふふふふふ…」

 

テーブルに手を当てて俯きながらプルプル震える佐天

その声色にはなんか怨念めいたものを感じる

そしてバッと顔を上げてビシッとまた画面の女の子を指差して

 

「この眉毛の恨みぃ…晴らさでおくべきかぁ!」

 

そう高らかに宣言した後に初春を見て

 

「やるよ! 初春!」

 

「…はい?」

 

◇◇◇

 

かたかたかたかた…と風紀委員室にパソコンのキーを打つ音が淡々と響く

そのキーを打ち込んでいるのは初春だ

彼女は現在四つの画面を同時に見ながら手元を見ずにただ情報を閲覧していく

これが彼女のスキルの一つ

正直スキルというべきか分からないがパソコンを使った情報、および電子戦に置いて彼女の右に出る者はいないだろう

 

「初春、上からの許可、取り付けましたわ」

 

「わかりましたー…と」

 

かちり、と彼女はエンターキーを押す

その直後四つのモニターに新たなウィンドウがいくつも表示され、そこにまた新たな映像が映し出された

それはこの〝学舎の園〟の監視カメラ

 

「〝学舎の園〟の監視カメラ、すべてに接続を終えました」

 

『おーっ!!』

 

その場の女子一同から感嘆の声が上がる

当然だがアラタも初春のその技量に改め驚いていた

ていうか学舎の園の監視カメラってゆうに二千を超えていたはずなのだが

 

「待ってろよぉ前髪女ぁ…必ず見つけ出してやるからなぁ…!!」

 

ぐわしっと握り拳を作りながら意気込むように佐天は呟いた

キーをたたく作業の傍ら、初春は佐天に言う

 

「約束のケーキ、忘れないでくださいよ?」

「三個でも四個でも好きなだけ食べてよしっ!」

「うわーい♪」

 

この会話からもわかるが初春はケーキに釣られました

食べれなかったからかはわからないが

 

「…多すぎるわね」

 

不意に美琴が画面に映ったいくつもの監視カメラの映像を見ながら呟いた

 

「? 何がだ? ケーキの数?」

 

「違いますわよお兄様。…初春、エリアEからHとJとNは無視ですわ」

「あ、はい」

 

黒子に指摘されたエリアをカットしていく

カットされたエリアは黒くなり、まだつないでいるエリアだけが光ったままだ

 

「あのあたりは常盤台から一番遠い場所…ですから常盤台(うち)の生徒はほとんど通りませんの」

 

流石常盤台に通う生徒

こういった情報は熟知しているようだ

やはり真面目な黒子は頼りになる

 

「じゃあ、人通りの多いところも後回しね」

 

そんな黒子に続くように美琴が付け足した

 

「なんでですか?」

 

怪訝な顔をした佐天に美琴は説明をする

 

「犯人の服装よ。学舎の園(ここ)じゃ目立ちすぎると思わない?」

 

「あっ…」

「確かに!」

 

初春と佐天がお互いの顔を見渡して言葉を紡いだ

確かに初春らがここ、学舎の園に来たときは多くの視線を受けていた気がする

そこでアラタがぽんと手を叩いて

 

「つまり、人通りのある所じゃ能力を発動したままで…疲れたらどこか人目のつかないところで身を潜めている…」

 

「ナイスアラタ」

 

と、いうことはだ

 

初春がそれまでの情報を頼りに犯人が潜みかつよく利用していそうなエリアを割り出す

 

◇◇◇

 

人気の少ない路地裏にて

 

また一人の常盤台中学の生徒が帰りの道へとついた

そんな生徒を狙う女の子が一人

 

彼女の名前は重福省帆

ざっくり言ってしまえば今回の事件の犯人だ

彼女はゆっくりとスカートのポケットから一つの獲物を取り出す

それはスタンガンだ

入手経路は不明だがそれでも最近は物騒だ、などと言えばわりかし携帯できてしまうほどのものだ

重福はまた自身の能力を発動させその生徒に歩み寄ろうと―――

 

 

「みぃつけた」

 

 

背後からの声にハッとした

急いで振り向くとそこには帽子を深くかぶった常盤台の制服を着込んだ女―――

よく見るとそれは昨日トイレで昏倒させた女だ

 

「私のかわいい眉毛のカタキ、きっちり取らせてもらうからね」

 

このままではまずい

そう判断した重福は認識阻害(ダミーチェック)を使い女の視界から自分の存在を消して逃亡を図った

 

「えっ!?」

 

その場にはただ走り去る足音が聞こえるのみ

 

「…ほんとに消えた」

<感心してる場合じゃないですよ! 追ってくださいっ!>

「っと、そうだった…」

 

 

先ほどのとはまた別の裏路地

そこの壁に鏡祢アラタは背中を預けてただ待っていた

 

「…、」

 

静かな路地に耳を澄ませただ待つ

少ししてたったったっ、と誰かが走ってくるような足音が耳に入ってきた

視線を向けるが何も映らない

 

「…ビンゴ」

 

その足音が自分の隣通るタイミングで足と思われる場所に自分の足をかける

ガッと確かな手ごたえを感じ、その直後自分の付近で一人の女の子がしりもちをついた状態でその場に現れた

それは先ほどパソコンに映った女の子と同じものだ

 

女の子が首を見上げるタイミングでアラタは自分の腕章を見せつける

 

風紀委員(ジャッジメント)だ。これ以上は無意味―――」

 

「ちっ!」

 

短く舌を打つと女の子は再び姿を消して反対方向に走り出した

 

「…ま、そりゃそうだわな」

 

黙って捕まる犯人などいまどきの探偵ドラマでさえやっていない

アラタは耳に就けた通信機に手を当てて向こうにいる初春に指示をを仰ぐ

 

「初春、ナビ頼んだ」

 

<はいはーい。その路地を出て左、三番街に入ってください>

 

 

<わかった>

 

アラタからの返事を聞くと初春は再び画面へと視線を向ける

画面に映っているのは必死に走っている重福省帆の姿が映っていた

 

<初春!>

 

佐天の声が聞こえた

初春はまた画面に目をやって重福の逃走経路をまた告げる

 

彼女の仕事はただ簡単

重福の逃走経路へ佐天や黒子、アラタを誘導し逃走経路を塞ぐことである

 

<初春! ナビをお願いしますの!>

 

「はーい」

 

 

(なんで…!?)

 

重福省帆は焦っていた

それは行き着く先々に先ほどの男や帽子を被った常盤台の女、さっきなんかは男とは別の風紀委員に妨害された

当然逆方向へ走って撒こうとしたがその道の先には風紀委員の男がいるし・じゃあまた別のルートをたどれば帽子の女が先回りしているし

 

(なんで!?)

 

どういうことだろう

こちらの逃走経路を知りもしないのに

まるで心を読まれているのかのような錯覚さえ覚える

 

「はぁ…はぁ…」

 

視覚阻害(ダミーチェック)に使い過ぎで身体に疲労が溜まってきた

さすがにここにはいないだろう…そんな考えを抱きながら重福は最後の望みとして公園に立ち寄った

 

「っはぁ…すぅ、はぁ…」

 

膝に手を置いて減ったスタミナを回復させる

よかった、ここには誰もいない―――

そう思った重福の幻想はいとも容易く砕かれた

 

キーコ、と誰かがブランコを扱ぐ音が聞こえた

その音にハッとして前方のブランコの遊具を見る

そこにはゆっくりとブランコを扱ぐ短髪の常盤台の女性

 

それと同時に背後からの足音が聞こえた

それは先ほど自分を追い回した黒子と佐天、そしてアラタだった

 

ブランコに乗った短髪の女性はこちらの存在を認識するとブランコを扱ぐのをやめて

 

「…鬼ごっこは、終わりよ」

 

小さい笑みと共に重複を見た

 

 

「…どうして!? なんで視覚阻害(ダミーチェック)が効かないの!?」

 

「さぁね」

 

そうそっけなく答えると美琴はブランコから降りて重福の下へと歩み寄る

まさか初春のサポートがあったなどというわけにもいかないし。そもそも言っても意味がないと思ったからだ

 

「くっ…! これだから常盤台の連中はぁ!!」

 

そう怒りの形相とともに重福はスカートのポケットからスタンガンを取り出した

佐天や婚后、その他常盤台の生徒を合計六人昏倒させたあのスタンガンである

 

その行動に佐天はハッとなるが黒子、アラタは動じずに事の成り行きを見守った

 

「うあぁぁぁぁ!!」

 

そんな叫び声と一緒に重複は一直線に走って美琴の胸部にそのスタンガンを押し付けた

バヂリっ、と電撃が迸る音が公園に響き渡る

その一撃に何かを確信した重福はにやり、と冷や汗交じりに笑いを浮かべた

 

 

当の美琴はまったく効いた様子なく普通に立っていた

 

「…え?」

 

バヂリ、バヂリと何度かスイッチを押し電気を流してみる

しかし結果は変わらず、美琴はケロッとしたままだ

 

「ざーんねん。私こういうの効かないんだよねー」

 

そう言いながら美琴は両手の人差し指を向き合わせる

そして先ほどのスタンガンのようにその指の間でバヂリ、と電気を迸らせた

 

「…えっと」

 

美琴の能力をようやく理解した重福

慌てる重福の視線を余所に、美琴は重福の二の腕に人差し指をちょん、と当てて

 

「きゃあ!?」

 

バヂリっ! と今まで彼女が常盤台の生徒にしてきたように電流を流し重複を気絶させた

 

「手加減はしたからね」

 

倒れた重福に向かって美琴は小さくそう言った

最も聞こえてるかはわからないが、まぁ問題ないだろう

 

「…初春。お疲れさん」

警備員(アンチスキル)に連絡しておいてくださいな」

 

<ふぁー…い>

 

背伸び交じりに欠伸も混じった声で初春はそう返事した

今までずっとパソコンの前にいてせわしなく指示をしていた彼女が恐らく一番疲れただろう

そのうちケーキでもおごってやるか、とそんな事を思うアラタだった

 

◇◇◇

 

とりあえず警備員が来るまで重複をベンチに寝かせ回復を待つ

しかし佐天の怒りは収まっていないようで妙に手をわきわきしながら油性マジックを取り出して

 

「ふふふふ…さぁて…」

 

その笑い方はもはや悪役のソレである

笑みと共にマジックのキャップをキュポンと抜きながら気絶している重福へとにじり寄る

 

「どんな眉毛に…」

 

そう言って重福の前髪に手をかけて

 

「してあげましょう―――。…か?」

 

掻き分けて眉毛を見て佐天が止まった

どういうわけか冷や汗交じりである

どういうことかと佐天の後ろにいたアラタは美琴、黒子と互いに顔を見渡して横からちらりと重福の額を見た

 

 

簡潔に言おう

正直言えば彼女の眉毛も普通の人よりも変だったのである

それでも確かに悪く言えば変かもしれないがよく言えば個性的とも取れる

 

「う…うん…」

 

そうこうしている内に重福が意識を取り戻した

そして佐天の手が自分の前髪にあるとわかったとき

 

「嫌! 見ないで!」

 

そう言って額を庇いながら視線を逸らす

流れる沈黙

どうコメントをすればいいのだろうか

 

「えっと…」

 

言葉に詰まった佐天が皆の空気を代表するかのように言葉を濁す

 

「おかしいでしょ…?」

 

今度こそ完全に言葉が見つからない

どうやら彼女にとって眉毛はコンプレックスのようだ

 

「笑いなさいよ! 笑えばいいわ…あの人みたいに…」

 

『あの人?』

 

言ってる意味が分からず皆そろってそんな言葉を口にした

 

 

春―――

 

―――私は麗らかな日差しの中で微睡んでいた

 

あれ、なんか語りだしたぞ

 

―――幸せな時間はいつまでも続くと、ただ無邪気に信じていた…

 

けど、幸せな時間は突然と終わりを告げた…―――

 

大切な人が、常盤台の女に奪われるまでは―――

 

「どうして!? そんなに常盤台の女が良いの!?」

 

「別に…そういう訳じゃ」

 

「じゃあなんで!?」

 

そう彼に聞くと、彼はこう言ったのだ

 

「だって…お前の眉毛…―――変」

 

私は泣いた…

悲しみと怒りの感情がふつふつと湧き上がってきた

 

私をあの男が憎い…

私から彼を奪った常盤台の女が憎い…!

 

そしてなにより―――

 

 

「この世の眉毛すべてが憎い!! だからぁ!!」

 

ぐわばぁっ!! と寝ていた態勢から起き上がり拳を握りしめながら言葉を続ける

 

「みんな面白い眉毛にしてやろうと思ったのよぉ!!」

 

逆恨みやないかい

そしてなぜそこまで眉毛にこだわるのだろうか

 

「なによ!? さぁ笑いなさいよ!!」

 

「えっ!?」

 

唐突に言われた故に佐天は言葉を用意していなかったので苦笑いのまま黙ってしまった

どうしよう、と頭の中で言葉を探しているそんな時

 

「…人によればその眉毛も個性的だと思うんだけどなぁ」

 

ぼそりと呟いたその言葉に佐天はこれだと言わんばかりに同意する

 

「う、うん! あたしはそれ好きだなぁ! ねぇアラタさん!!」

 

「へっ!? あ、あぁおう! なんだかとってもチャーミングだなぁおい!」

 

思わず乗ってしまった

しかし彼女をなだめるのはこれが最も効果的と思ったのでまぁ問題ないだろう、などと思っていたのだが

 

「…、」

 

ポォ…と重福の頬が赤く染まった

そして佐天、アラタと両方の顔を見てさらに顔を赤くする

 

『…えっ!?』

 

フラグが立った瞬間だった

よく目と目が合うー、なんていうが今回は眉毛をフォローしただけなのに

そんな二人を苦笑いしながらも佐天と美琴は見守っていた―――

 

◇◇◇

 

しばらくしたのち警備員のトラックが到着した

大人しくなった重福は警備員の人に誘導されるままそのトラックへと乗っていく

乗り込む直前、重福は振り向き

 

「あの…」

 

その言葉は佐天とアラタに向けられた言葉であるとすぐにわかった

なぜなら頬が赤かったから

 

「手紙、とか、書いてもいいですか?」

 

「…はい」

「おぉ…」

 

完全に態度が変わっている

佐天に至っては眉毛の恨みなどと言っていたのに

 

その返事が聞けたあとまた重福は頬を朱に染めたままトラックに乗っていった

彼女が乗ったトラックが走り去った後にふぅ、とアラタは息を吐く

 

「…そういえば、完全に姿を消してたな」

 

いろいろ公園での出来事が尾を引いているせいでうっかり忘れがちだが彼女は完璧にその気配を絶っていた

 

「そういえば、異能力者(レベル2)という話でしたのに…変ですわね?」

 

その疑問には黒子も同様に思っていたようで腕を組みながら言う

 

「…データバンクに誤りがあったとか?」

 

「や、流石にそれはないですわよお姉様…」

 

その時はそんな風に笑って流していたが、これが後に起こる大きな事件に繋がってるとは、この時誰も思っていなかった

 

ちなみに

 

佐天や他の被害者の眉毛に書かれたインクだが

何やら特殊に作成されたインクらしく一週間は絶対に落ちないんだとかなんとか

 

◇◇◇

 

んで一週間後

 

婚后光子は夕刻人通りの少ない路地を歩いていた

ちなみに一週間前にまんまと婚后が襲われた場所である

 

だがしかし今回もまた視線を感じるのだ

犯人は捕まったはずなのだが、なんだかその時に感じた視線とはまた違う視線

 

「…どなた!?」

 

思いっきりデジャブがするがそんなことは言っていられない

カバンからまた扇子を取り出し口元に当てながら周囲に視線を向ける

 

「…やっぱり気のせいなのでしょうか」

 

それでも注意深くまたゆっくりと後ろへと下がる

少しずつ足を後ろに動かしているうちに背中に誰かの気配を感じた

 

「貴女ですわね!!」

 

そう大きな声を出して勢いよく後ろを振り向いた

今度は先手を取った

前回のようなミスなど…

 

「…ハァ…!」

 

そこにいたのはカメレオンのような姿をした人型の化け物だった

口と思われる部分から舌のようなものがちろちろと動いている

その行動は先ほどまでの婚后の自信を打ち砕くのに十分すぎた

 

「ひっ…!」

 

身の毛のよだつ恐怖を初めて感じた

言いようのない恐ろしさが彼女の精神を蝕んでいく

気づいたら婚后はへにゃん、とその場にしりもちをついてしまった

思うように動かない

 

「こ、来ないでくださいっ…!」

 

それでもかろうじて動く両手を懸命に動かし化け物から距離を取ろうとするがいかんせんスピードが出ない

化け物はただ歩いているだけなのに

 

「シャーッ!!」

 

化け物が咆哮し声を上げる

たったそれだけの事なのに体が震えあがる

今ので完全に体から力が抜けてしまった

 

「だ…誰か…!!」

 

普段言わない言葉でさえ呟いてしまうほどに彼女は追い詰められていた

届かない声だとしてもすがらずにはいかなかった

だから彼女は叫ぶ

 

「誰かーーー!!」

 

そう叫んだ直後だった

 

自分の背後から足音が聞こえて、そして自分を飛び越えてあのカメレオンの化け物に蹴りを当てた

蹴られたカメレオンは大きく後ろにのけぞり態勢を崩す

 

「…今日は早い時間だなおい」

 

「…へ?」

 

突如目の前に現れたその男

そう言えばネットで見たことがあるような気がした

都市伝説で噂されている赤い仮面ライダーの姿だ

 

「おい、そんなとこに座ってないで早く逃げろ!」

 

「そ、そうしたいのはやまやまですけど…その…わたくし腰が抜けて…」

 

「ったく…仕方ない。速攻でケリつけるか…!」

 

そう呟くと赤いライダーはまっすぐ化け物に接近すると顔面に向かって拳を繰り出した

直線に突き出されたそのパンチは確実に化け物の左頬を捉え、ダメージを与える

しかしカメレオンも黙ってはいない

負けじと反撃と言わんばかりにパンチを繰り出すが手慣れた手つきでライダーはその拳を掴み、軽く遠心力をつけると思いっきり上空へと投げ飛ばした

 

「悪いな。こいつで終いだぁ!!」

 

そのまま落ちてくる化け物の腹部めがけて自分の拳を突き出した

突き出されたその拳は化け物の腹にぶち当たり、また上空へと打ち上げられて

 

「ガァァァァァ!!?」

 

そのまま浮いていく体制のまま、化け物は叫びながら空中で爆発した

 

「…ふう」

 

戦いを終えたライダーは軽くそんな息を吐いた

その仕草はまるで授業か何かを終えた直後のように

 

「じゃあ、さっさと帰れよ。あとこのことは秘密な」

 

「は…はいっ…」

 

ライダーはそう言いながら婚后の隣を通り過ぎると夕闇の路地へと入っていく

 

「あの!」

 

そんな後ろ姿を婚后は呼び止めた

どうしても聞きたいことがあったからだ

 

「あ、の…お名前は…」

 

その問いにライダーは少し考えたような素振りを見せた後こちらに向かって振り返り

 

「クウガ。仮面ライダークウガだ」

 

そう短く言い残すと今度こそ夕闇の路地へと消えていった

婚后はその背中が消えるまでずうっとクウガの背中を眺めていた

クウガの背が完全に消えてから、婚后は改めて名を呟く

 

「…クウガ…さん」

 

なぜだろう

彼とはまた、どこかで会えそうな…

そんな気がした

 

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