とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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多分もう少しで大覇星祭編は終わり
グダグダだけど許して(懇願)

昭和対平成、見ました
個人的に昭和エンディングが好きです


#59 戦う理由

彼女の両親は、十字教徒だった

日曜日へと日付が変わる度に行っていた教会の年老いた神父は、いつも腰を折りまだ幼かった彼女の目線へと合わせていつも同じことを言っていた

 

―――人のためになる事をしなさい、と

 

それを言われるたびにためになる事ってなんだろう、と彼女は首をかしげた

当然、彼女はいろいろな人に親切を働いてきたつもりだ

空き缶を拾ったり、道案内をしたり、運んでほしいものがある、というものを届けたり

 

しかし、その行い全てが必ずしも、誰かのためになるとは限らない

 

その空き缶を拾ったことで、清掃ボランティアによって金子や施しを受けているホームレスの人々が拾う分がなくなり困っているとしたら

 

道を案内したその人が、無事到着したその家で家族に暴力を振るって、あげくに殺害してしまっていたら

 

運んでほしい、と頼まれたものの正体が箱を開けた瞬間に人を呪い殺すようなものだとしたら

 

彼女が望んでいなくても、誰かの役に立ちたいと思っていても悲劇は起きる

この世界には、悪意から生まれる善意があり、善意から生まれる悪意がある

人のためにと願ったのに、彼女の思惑とは別にそれはまた別の人を傷つけてしまう

その手で守りたかった人たちが、地獄の底でさまよう事となってしまう

 

難しいのは、裏目に出るか、出ないのか

最初からこの行動の結果が分かっていればそれを行わなければいい

成功するなら、それを実行すればいいだけの事

 

結局、彼女の考えていることは単純なわがままだ

彼女自身もそれは強く理解している

この考えは、要は賭け事

 

同じ色を百回選んでも、回転盤を転がる銀色の球がどの番号のポケットに落ちるかで、百回違う結末になる

必勝法などあるわけない

それが、現実というものだ

 

しかし、もしそのゲームに人の命がかかっているとしたら

何が何でも勝ってくださいと言われたら

 

どこに賭ける

その選択を決められる人などいるのか

 

心が傷ついた彼女は手を差し伸べるのが怖くて、そして差し延ばさなくても助けてと叫んだ人が傷ついてしまう

だから基準が欲しい、と彼女は思った

二度と迷わないで済むような、絶対的な基準

博打で言う必勝法、基準点一つあれば、いい

 

(―――誰でもいい、皇帝でも、帝王でも、呼び方なんてなんだっていい、誰のためにでも戦ってあげる)

 

心の中で、彼女は―――オリアナは思う

 

(ルールを…。お願いだから、ルールを決めてください。皆を幸せにして。価値観の祖語から生まれる悲劇なんてない―――そんな最高の必勝法に縛られた世界を―――)

 

思いはするが、口には出さず

理由なんて分かってる

誰かのため、なんて言っておきながら、結局はまた別の誰かを傷つけたのだから

 

◇◇◇

 

列車から出てまず目に入ったのはゴスロリの洋服を着た女の子だった

とりあえず目に入った時の感想は誰だ、こいつは、である

見覚えがない、こんな奴がオリアナと一緒にいたところを見てはいないし、情報にも引っかからなかった

目の前の女は―――

 

「―――お前、誰だ」

 

一行を代弁してその疑問を両儀式が口にした

それを聞くとゴスロリの女の子はフン、と笑いながら

 

「まあ当然の疑問よね。はっきり言ってしまうなら、私は敵よ。リドヴィアの協力者。私に課せられた依頼は―――貴方たちの足止め」

 

パチン、と彼女が指を鳴らすと彼女の後ろからマネキンみたいな人形が現れ、一直線に襲い掛かってきた

それに反応するように式は帯に隠してあるナイフを抜き放ちその人形の攻撃を受けとめた

 

「人形!?」

「橙子と似たようなタイプか!?」

 

当麻が驚き、アラタが口を開く

土御門やステイルが忌々しそうに舌を打ちながらそれぞれ構えようとしていると

 

「何やってんだ、さっさと行け」

 

ギリギリ、と人形と鍔迫り合いを繰り広げる式がそう言ってきた

彼女は人形を蹴り飛ばして距離を置き

 

「時間との勝負なんだろ。こいつはオレに任せてとっとと行けよ」

 

その言葉に何かを言いそうになった当麻を肩で制止し、アラタは式を見る

 

「―――無理すんなよ。何かあったら、俺が幹也さんに怒られるから」

「はっ。言ってくれるじゃん。…覚えておく」

 

そんなやり取りを交わし、アラタはステイル、土御門、シャットアウラ、そして当麻へと視線を合わせた

やがて静かに頷くと五人は駅の出口へと走って行く

式はてっきり相手が邪魔するのかと思ったがその予想は外れ、その女も一度人形を付近へと戻し体制を整えている

 

「…お前、オレたちの足止めが目的じゃないのかよ」

「無論それもそうですわ。でも、貴女という強敵の足を止めるだけでも、十分戦力の低下になると思いません? 両儀式さん?」

「―――お前」

 

最初から目的はどうやら分断だったようだ

式は面倒くさそうに息を一つ吐くと改めてナイフを握り直し

 

「―――いいぜ、来いよ」

 

言葉のあとで、式は跳んだ

 

 

第二十三学区、という場所は学生にはあまり馴染みのないところである

一度別件でこの学区にが来たことがあったがその時は状況が状況だけにあまり中を見ることはなかったのだが

 

「結構、広いな」

「そうだな。…正直、驚いている」

 

シャットアウラと二人、アラタは呟く

隣の当麻も口を開けたまま呆けている

そしてふと、アラタは後ろを見てみる

もちろんその道はさっき自分たちが来た道なのだが

外国の牧場みたいに少し丸みのある地平線が見える

しかしその色はアスファルトとコンクリの黒と灰色だ

どこまでも平らな平地を少し大きめなフェンスで区切られている

 

「…機密事項の塊と言えど一般空港までのバスは走ってるぜい。こっちには運転手がいるな、産業スパイが途中下車しないかを見張るためにな」

 

呟く土御門の言葉を飛行機の音が遮る

思わず頭上を見上げた

セスナ機のような大きさの飛行機が三機、横に並びゆっくりと空を迂回している

 

「ここの警備の基本は空、見張りだけじゃ警備範囲が広すぎるからにゃー」

「しかし、それでは目的地に着くのに時間が…」

「分かってるぜシャットん。アイツを使うんだ」

 

シャットん? という訳のわからない呟きを耳にしつつ四人は土御門が指差した上空を見上げた

するとまたゴウッ、と空気を叩く音が耳に響く

先ほどのセスナとは別のエンジンを四つ積んだ旅客機だ

旅客機はゆっくりと一般用の滑走路へと降下していく

 

「空中激突を避けるために、他の飛行機がやってきた場合は監視用の巡回ルートが変わる仕組みなんだぜい、んで、ここの空は結構混雑してる。あの旅客機の眺めながら上手く進めば監視の死角に潜り込める。目的の場所までは近いし、徒歩でもなんとかなるだろうにゃー」

 

 

現在、土御門の先導の元、当麻たちは灰色の平原を走っていた

時折土御門は授業中居眠りをしているみたいに体の芯がずれたように斜めに傾ぐときがある

傷を負っている状態であるにも関わらず、身体能力は高い

その証拠に少しでも気を抜くと置いて行かれそうになるほどだ

 

彼の先導に従い無数の飛行機が飛び交う真下を走る

隠れるものはないが、それでもオリアナらの姿は見えない

恐らくもうポイントに到着しているのだろう

走りながら当麻は携帯を取り出し、その画面に表示されている時間を確かめる現在時刻は五時四十分

 

―――タイムリミットはおおよそ二十分から、八十分

 

使徒十字が使われたら、音もなく学園都市は物理的に支配され、どんなに理不尽な圧迫を受けても誰も違和感を覚えない精神的な作用まで働かされる、という

焦りはするが、焦った所で時間の進み方は変わらない

進んでいくと広大な敷地を真横に区切るフェンスが見えてきた

恐らくその先がオリアナの待つ敷地だろう

フェンスの元まで一気に走る

おおよそ高さは二メートル、土御門がフェンスに手足をかけ、飛び越えようとした時だった

 

キラリ、と当麻の視界の端に何か光るものが見えた

それは金網の針金の間に挟まれた〝僅かに唾液に濡れた〟一枚の単語帳

 

「土―――」

 

当麻は思わず彼の名前を叫ぼうとする―――が、一歩遅く

 

ゴォ! とフェンス全体がオレンジ色に変色する

両手足をつけていた土御門の身体が跳ねる

慌てて手足を離しフェンスから距離を取るが

 

「っぐ! があっ!」

 

しゅう、と嫌な音が聞こえた

倒れる土御門を介抱するべくアラタが彼の近くに駆け寄った

彼の手足からはまるでお線香みたいにうっすらと煙が漂っていた

土御門の手足を攻めているのは火傷だ

近接戦闘を得意とする彼にとって手足の負傷は武器をへし折られたようなものだ

彼は強引に立ち上がろうとするが、意気に反して立つことすらもままならない

 

「行け…!」

 

ボロボロの手でもう片方の手を押さえつけ土御門は口を開いた

 

「ここで時間を取られても、仕方ない、そのページを破壊して、早く行け!」

「け、けど、お前はどうすんだよ!? そうだ、ステイル、お前の魔術で治せないのか!?」

「確かに火傷ならば可能だが―――あちらがそれを待つものか!」

 

当麻は言われ振り返る

フェンスの先に、二人の人影小さい滑走路を挟んだ向かいの建物の壁に、一人の女が寄りかかり、その隣に男が立っている

オリアナ・トムソン、そしてサトルと呼ばれる少年

オリアナは金属のリングで束ねられた単語帳を口に持っていき―――

 

「当麻!」

 

アラタが叫んだ

 

「あぁ!」

 

当麻はフェンスに挟まれてるページを殴り付ける

熱で赤くなっていたフェンスは一気に冷めて元に戻る

確認するでもなく、すかさず四人はそのフェンスに手足をかけて飛び越える

ここで先制されたら手足を負傷した土御門は回避することが出来ない、なら先にこちらが攻めるしかないのだ

 

飛び越えて着地したと同時、オリアナがページを噛み千切る

術式が発動し、彼女の身体が発光しオリアナはその場でくるりと回った

直後ドッ! という音が響き渡り彼女を中心として円を描くように空気が撹拌された

目に見えないハンマーが右回りに迂回するようにアスファルトをなぎ倒して当麻たちの元へ突っ込んでくる

咄嗟に右手を振るいその高圧の壁を見えないまま吹き飛ばしていく

数百メートル先でオリアナが苛立たしげに表情を変える

その直後、サトルが動き出した

ゆらりと身体を動かし、一直線にこちらに向かってくる

その襲撃にアラタが前に出て応戦した

繰り出されたその拳を受け止めて腹部を蹴りつけようと足を動かす

しかしその蹴りを躱すように素早く後ろへ飛んだ

そのまま数度かバク転を繰り返しオリアナの元へと舞い戻る

 

ステイルはルーンのカードを構え

当麻は右手を握り直して拳を作り

シャットアウラはベルトを巻きつけて

アラタは相手の出方を待つように身構え

オリアナは単語帳を弄び

サトルをポケットからデッキを取り出し

 

―――激突が始まる

タイムリミットは、おおよそ十分から、七十分―――

 

◇◇◇

 

「アラタが見当たらない?」

 

夕暮れ時の競技場で御坂美琴はそう聞き返した

常盤台の競技も一段落し次の競技までの待ち時間、アラタの応援にでも行こうという話になり食蜂と共に競技場にやってきた

そして同様に彼の応援に来た初春たちからそんな事を聞いたのだ

 

「そうなんですよ。…携帯にも繋がらないし、みのりちゃんに伺っても知らないって言うし…」

「競技にはたくさん人がいるから、見つけることが出来なかったぁ…、ていうのはぁ?」

「それは有り得ません。さっきの競技は団体競技、試合全部を見れば必ず見つけることが出来る筈なんです。それでも見つけることが出来なかったんです…」

 

どこか心配そうに呟く初春

一緒に来ていた黒子と佐天もやはり心配そうだ

 

「…もしかしたら、また何かに巻き込まれてるとか?」

「可能性は高いですわね。…せめてこの身が万全ならばよかったものを…」

 

悔しそうに黒子が呟く

彼女はある事件に置いて負傷してしまい現在は車いすに乗っている

最も空間移動は問題なく出来るのだが、それでも怪我の状態を考えるとアラタといても自分が足を引っ張ってしまうと考えてしまったのだろう

 

「…どうする御坂さん。…探しにぃ…行く?」

「…行きたいけど…私たちも競技とかがあるし…」

 

行きたいのに行けない

そんな感覚がもどかしい

彼はこういう時、よく自分たちに隠して心配をかけないようにしている

そして後でそれがバレて、すごく怒られる

 

「…はぁ、まったく。アイツったら…」

 

美琴は小さく息を吐いた

…そう言うのが逆に心配をかけるというのを、いつになったら覚えるのか

 

◇◇◇

 

吹寄制理の意識は不思議とはっきりとしていた

ロープみたいなもので縛られていたが妙に身体がだるいだけで、それ以外は特に何もなかった

変な事もされなかった

唯一されたことと言えば肩付近に変な紙を貼りつけられたことくらいだ

それが何を意味しているのか吹寄にはわからなかった

 

彼女は地面にぺたりと座らされ、近くには以前であった金髪の女の人と男性が立っていた

男性は、吹寄を連れ去った張本人だ

何となくウィンドウを眺めていたらそこから手が出てくるなど誰が考えるものか

 

「―――来る」

 

女の人がそう呟いたのが聞こえた

それに合わせて男性も頷いていたが、何が来るというのだろうか

そう思っていた吹寄は、ここに飛び込んできたその人たちを見て目を見開いた

 

何故ならその人たちの中に自分がとても見知った顔ぶれの姿があったから

 

(上条、当麻に鏡祢アラタ…!? その隣にいるのは、シャットアウラさん…?)

 

彼女は大覇星祭が始まる前日転校してきた女の子だ

本格的に登校するのは大覇星祭が終了してからだと聞いていたのだが

いや違う、問題はそこじゃない

 

どうしてこの人たちと彼らがここにいるのか、という事で

 

当麻やアラタと一緒にいる赤い髪の人は吹寄は知らないし、この金髪の女性だって少し話したくらいだ

一体何がどうなっているのだろう

声に出して名を呼ぼうとしたがどういう訳か声は出ない

いや、声は出てはいるが、聞こえない、という表現が正しいか

いずれにせよ、吹寄はこの状況が理解できない

自分でもよくわからない自問自答が、頭の中でぐるぐると回っていく―――

 

◇◇◇

 

「―――んふ」

 

オリアナは小さく笑った

その笑みを視界に入れながらゆっくりと、かつ迅速に距離を詰めていく

 

「どうやら追加の警備員(アンチスキル)や魔術師はくる気配はなさそうね。ギャラリーが多くても、それはそれで楽しそうだと思ったのだけれど」

 

薄く、薄く彼女は笑う

ニヤニヤと、本当に楽しそうに

 

「そして内一人はリタイヤ確定。…一番頭がキレると思ってたんだけど…。もしかするとあれかしら、仲間が罠にかからないように率先して自分が一番危険な位置を陣取っていた、という話なのかしら?」

 

愉快そうに呟きオリアナは単語帳の一枚を噛み破る

瞬間バギン、とガラスが砕けるような音が聞こえオリアナらを中心に飛び散った

その音の塊は若干の間を開けてやまびこみたいに跳ね返る

瞬間、全ての音が消失した

 

空には無数の旅客機が行き来している音が聞こえていたのにぷつんと糸が切れたように聞こえなくなる

辺りを見渡しつつステイルが叫んだ

 

「結界か! 物理、魔術を問わずあらゆる通信術式を遮断するタイプのものだな!」

 

ステイルの声に改めて気を引き締める

周囲を見渡そうとも考えたが、敵はすぐ目の前だ

確認を取るまでもなく、ステイルと当麻はオリアナへ、アラタとシャットアウラはサトルの方へと走り出す

 

対するサトルとオリアナも軽く互いの顔を見合わせそれぞれの敵に向かい動き出す

 

それぞれの距離はあっという間に縮まり―――激突する

 

 

突き出されたサトルの拳にアラタは受け止めながらも反撃を試みる

しかし放たれた蹴りは当たることなく空を切る

その隙を縫うようにシャットアウラがアラタの後ろから飛び上がり飛び蹴りを加えようとする

しかしその蹴りは軽く身を下げるだけで避けられた

だがその事は予想の範疇だったのか地面に着地したその途端に、相手の顔面を狙うようにハイキックを繰り出す

 

シャットアウラの繰り出された蹴りは容易く受け止められ逆にその足を掴まれてしまう

 

「なっ!? のわっ!」

 

そのまま両手で足を掴み、サトルはその場で回転する

流石に片足の状態ではバランスを保てずに身体は宙に浮きサトルはシャットアウラをアラタの方へと投げ飛ばした

突如として投げ飛ばされた彼女に驚きつつもアラタはどうにか受け止めて、彼女を隣に立たせた

 

「…すまない」

「気にすんな」

 

短いやり取りを交わしつつ、目の前の敵を見据える

そしてちらりと、横目で当麻たちの戦いを視界に収めた

状況は見ただけでは理解できないがステイルが倒れているところを見ると、劣勢、という事だけはなんとなくわかった

 

「相変わらず腰が砕けるのが早いわね。そんなのじゃお姉さんたちを満足させることなんてできないわよ?」

 

余裕たっぷりと言った様子でオリアナが口にする

 

「うる、さいっ…!」

 

当麻の声が聞こえた

彼は立ち上がり拳を握る

 

「お前たちは、ここで止める。使徒十字も使わせない、大覇星祭を台無しにするってんなら、必ずここで止めてやる」

「台無し、というのは酷いですね。イギリスの方から何を言われたかは知りませんが使徒十字は別に悪さをするという訳ではありません。あらゆる宗教が望むのは、人の幸せ。都合が良いように組み替える使徒十字は、魔術と科学の面倒な壁を取り払い、世界を幸せに導くかもしれませんよ?」

 

そんな事を呟きながらサトルは歩いて少し距離を取る

それを見ながらアラタとシャットアウラも歩き、一度当麻らの下に歩み寄り、アラタは口を開いた

 

「…確かにいいかもしれない。正直、魔術と科学の壁なんて俺には分からないけど、きっとそれは良い事なのかもしれない。けどな」

 

そこで言葉を区切る

アラタは己の拳を握り、それを前に突き出して

 

「正直に言って〝バランス〟とか、世界の〝支配権〟とかそんなこと俺たちにはどうでもいい!」

「あぁ! 俺たちにとって一番困るのは、今ここで、使徒十字が使うことだ。…それが何を意味するか、分かってるのか」

 

アラタの言葉に当麻が続く

当麻も同様に拳を握り、ただ一つの武器へと変えて

 

「もちろんよ。お姉さんたちが何のために頑張ってきたと思っているの。…そうね、言い方が悪かったかしら? 誰もが幸せになって誰もが自分が幸せになっていることに疑問を抱かない。そんな素敵な―――」

「そんな事を聞きたいんじゃねえよ」

 

怒りの感情が声に乗る

 

「話の軸はそこじゃあねぇんだよ! 困るっつってんのは大覇星祭がつぶれちまうからに決まってんだよ! 科学とか魔術とか、伝説とか霊装とか、つまんねぇ言葉で誤魔化すな! 正論吐いて殴っていいわけじゃねぇんだよ! そもそも、テメェらの理屈なんざ正論はおろか、暴論にもなってないんだよ!!」

 

犬歯をむき出しにして当麻が叫ぶ

その視線の先にいる敵に向かって

当麻に続けてアラタが言った

 

「確かに、俺たちの考えてることはアンタたちに比べれば小さい事だろう、だけど、この日の為に頑張ってきた人を俺は知ってる。今日という日を一生の思い出にするために必死に努力してきたんだ。いろんな人が来て、たくさんの人が参加したこの日を、アンタたちに邪魔されたくないんだよ!」

 

一人の女性がいた

みんなを気にかけて、今日という日を記念にするために頑張っていた女の子を知っている

その人の為にも、ここで大覇星祭を潰されるわけにはいかないのだ

 

「…小さな意見をありがとう。でもね、その程度の感情論でお姉さんたちが揺らぐと思う? その程度で揺らぐくらいなら最初から動いてなどいないわ。…だから、お姉さんたちはここで止まれない。君たちの願った通りには止まらないの」

 

 

「―――その言葉、アンタが傷つけた姫神さんの前で言ってみろ」

 

 

瞬間、オリアナが僅かに沈黙した

片方ではあるが確かに見た、引きつったその頬は、笑み以外を形作るのを

そんな彼女に当麻が付け加える

 

「結局、俺たちが言いたいのはそれなんだ。…これ以上何もしないんならなにもしねぇよ。使徒十字を持ってとっとと帰れ」

 

当麻は右の拳を構える

その上で

 

「けど、まだこの街で何かをしようってんなら。―――そんな幻想、ここで全部ぶち壊してやる」

 

当麻の瞳に意思が宿る

それはとても、強い光だ

 

「…サトルくん、二人任せていいかしら」

「愚問ですね。最初からそのつもりでしたよ」

 

肯定しながらサトルは虎のデッキを目の前に突き出す

すると彼の腰にVバックルが現れる

サトルは手を一度クロスさせ両手を腰に持っていき、デッキを持つ手をバックル付近に、片方の手を斜めに突き出した

 

「―――変身」

 

言葉と共にサトルはバックルにデッキを装填する

すると鏡の割れるような音と一緒にサトルに幾重もの影が重なりその姿をタイガへと形作った

 

「当麻、あんまり無茶はすんなよ」

「あぁ、お前もな」

 

アラタは当麻と短いやり取りを交わしつつスッと両手を腰に翳す

すると彼の腰にアークルと呼ばれるベルトが顕現される

また、今度は隣のシャットアウラにも視線をやり

 

「アウラ、準備はいいか」

「あぁ、問題ない。それと、お前も人の事言えないからな」

 

そんな言葉を貰いつつ、すでにベルトを巻きつけていた彼女はナックルを手に叩きつける

 

<レ・ディ・イ>

 

隣から聞こえる電子音声を聞きながらアラタは右手を左斜めに、左手をアークル右上部辺りに動かした

そしてその両手を開くように動かし―――シャットアウラはナックルを持った手を前に突き出して―――叫んだ

 

『変身!』

 

アラタは両手をアークルの左へと持っていき、シャットアウラはベルトにナックルを装着する

ギィン、と黒かったアマダムは赤い輝きを帯び、ナックルからは<フィ・スト・オン>と電子音声が流れた

 

アラタの身体がクウガへと姿を変え、黒いイクサの影がシャットアウラへと重なりブラックイクサとその身を変える

最後に、クウガの赤い複眼が発光し、同時にイクサの面が開き同じように赤い複眼が発光する

 

そして、それぞれの敵を見据える

 

上条当麻はオリアナ・トムソン

二人の仮面ライダーは、トラのライダー

 

何かをなすべく、或いは何かを守るべく

 

お互いは衝突する

 

 

何が、起こっているのだろう

不思議なことに、吹寄の姿は視認されておらずアラタや当麻らが気づいている様子はない

目の前で繰り広げられる舌戦を、吹寄制理は全く理解できなかった

語られるその言葉から、彼らがどんなに大覇星祭を成功させようとしていたのかは伝わった

…それなら、常日頃そのテンションを維持してほしい、と内心思ってしまったのは内緒ではあるが

 

ひとしきり舌戦が終わると何かを悟ったように女性が動いた

それに合わせるように隣の男性も前に出た

男性はスッと前に何かを突き出すような仕草の後で妙な動きをした

 

「―――変身」

 

瞬間、男性に何かが重なるようにどこからか影が飛んでいき、鏡の割れるような音と一緒にその男性の姿を変えた

 

後ろからその姿を見ると、白い背中しか見えない

今度はそれに応えるように、鏡祢アラタととシャットアウラが動き出す

アラタは女性の隣にいる男性と同じように妙なポーズを取り、シャットアウラは手に持った何かの機械を操作して、前に突き出した

 

『変身!』

 

同時に聞こえたその言葉

その直後、吹寄は目を見開いた

アラタとシャットアウラの姿が、変わっていく

都市伝説として、実しやかに噂されている仮面ライダーと呼ばれる姿に

 

(…嘘)

 

しかも、もう一人の赤い姿を吹寄は覚えている

いつの日か、自分を守ってくれたあの仮面ライダーの姿を




以前エンデュミオンの劇場版を書きました
近々DCと称して追記修正版を書こうかな、なんて考えてます
…書くかどうかは分からないので過度な期待はせずに

今回の気まぐれ紹介はお休み

ではでは
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