とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
今回は
ぐだぐだ
戦闘なし
な感じです
ではどうぞ
ファミレス〝Joseph's〟のとある一角
ファミリーテーブルの席にて一つ奇妙なテーブルがあった
黒い布を被って、何やら微動だにしない変なテーブル
その正体は自分の友人たちである美琴らである
ちなみになんでそんな事になっているのかと言うと雰囲気を出したいかららしい
そんな雰囲気を出すために美琴、黒子、佐天、初春はテーブルに突っ伏してその上からは黒い布をかけて夜っぽい雰囲気を出しているのである
そんなテーブルの近くでアラタは佐天が持ってきたオカルト雑誌を読みながら彼女たちが話が終わるのを待っていた
そんな空間に一人混ざる勇気もないし、女子四人という状況に男子一人とはいかがなものか
しかし都市伝説にもいろいろあるようで、アラタはふむふむとひとり頷きながらその雑誌を読み進めていると
「―――てぇ、全然怖くないじゃんっ!!」
そんな声と共にぐわばぁ! と勢いよく美琴が立ち上がった
その反動で彼女らにかぶせられていた黒い布がふわりと浮かび上がる
「美琴ー。ほかの客に迷惑―――のばっ」
そんな布が注意を促そうとしたアラタの上にぱさ、と落ちる
その布から一瞬、フローラルな香りがした
◇
ある蒸し暑い夜の事
一人の男性が人気のない公園を通った時、一人の女の人に駅までの道のりを聞かれたんです
快くその男性が道を教えているとどこかうつろなその女性が、ふわぁ…と手を挙げて突然がばぁっと…
ブラウスを脱いだんです…
◇
会談の内容はまぁ要約するとそんな感じ
早い話道を聞かれたので教えていたらその女性がいきなり服を脱ぎだしたでござる、ということだ
「いやどういうことだ」
佐天から改めてその話を聞かされたアラタは怪訝な顔をした
どうしよう、全然怖くない
「せっかく雰囲気を作っても、そんな話ではね…」
苦笑いと共に黒子が携帯片手にそんな事を言う
対する佐天は雰囲気作りの為に持ってきていた先ほどの黒い布を折りたたみながら
「けど実際いたら怖くないですか? いきなり脱ぎだす都市伝説〝脱ぎ女〟!」
「怖くないっ」
だがしかし全力で美琴はバッサリと否定する
「てか、仮にそれが事実でもいたら変態じゃんか」
アラタの呟きに美琴はうんうんとうなずいた
確かにいたら怖いかもしれないがきっとそれは恐怖の怖さではないだろう
「じゃあじゃあ、こんなのはいかがですか?」
がさごそとカバンからノートパソコンを取り出してwebページを開くとテーブルの中央に置いてみんなに見えるように位置を調整する
そのページにはこう書かれていた
〝風力発電のプロペラが逆回転するとき、街に異変が起きる!?〟
〝夕方四時四十四分に学区をまたいではいけない、幻の虚数学区に迷い込む!?〟
〝使うだけで能力が上がる!?
…なんだろう、どれもありそうだがいまいちパッとしない
あからさまに嘘っぽいのである
「そんな下らないサイトを見るのはおよしなさいな」
案の定黒子からそんな言葉が放たれる
「だいたい都市伝説なんて非科学的な話。ここは天下の学園都市よ?」
美琴の言葉にアラタもわずかに同意する
そもそも能力の使用が当たり前になっているのがこの学園都市だ
だというのに噂だけの都市伝説はどうも信憑性に欠ける
そう思いながらアラタはテーブルに置いてある水をコクリと飲みながら耳を傾ける
「もお、ロマンがないなー」
「本当に起きた出来事が形を変えて形も変えて噂になることもあるんですから」
それでもやっぱり脱ぎ女なんていないと信じたい
「どんな能力も効かない能力を持つ男、とか! 学園都市ならではって感じじゃないですか!!」
「どんな能力も効かない…?」
そんな佐天の声が耳に入ったときアラタのこめかみがピクリと反応した
ものすごく知り合いにいるんですけど
つうかあいつ都市伝説にまでなってやがるのか
恐るべし
「そんな無茶苦茶な能力、あるわけないですわ」
しかしあくまでそれは都市伝説
当然黒子は信じるはずもなく笑いながら
「ねぇ? お姉様」
だがしかし美琴はその画面を食い入るように見つめていた
…まさか当麻と会ったことがあるのだろうか
「…どうした?」
アラタの言葉にようやくほか四人の視線に気づいた美琴は軽くコホンと咳払いして
「そ、そうね。そんなのいたら、一度、戦ってみたいわね。はは、はははは…」
乾いた笑いをする美琴に怪訝な顔をする黒子
空気を変えようと思ったアラタは佐天にこんな質問をした
「ところで、最近はどんなのが人気なんだ?」
「あっ。アラタさんも興味あります? さっきの奴とは別に、実はもう一つ今話題の奴があるんですよー。ね、初春」
「はい。ちょっと待ってくださいね…と」
佐天に促され初春はカタカタとノートパソコンのキーを叩き始める
待ってる間アラタはまた水を喉に流し始めた
心地よいくらいにキーの音が耳に聞こえ少ししてそれが止まった
「今話題の都市伝説はこれです! 〝仮面ライダー〟!!」
「ぶヴぁ!?」
「? アラタさん?」
盛大にむせてしまった
心配そうに見る初春に手で大丈夫と訴えるが内心ひやひやしていた
当然である
アラタも仮面ライダーなのだ
しかしその単語を初めて聞いた様子である美琴と黒子は頭に?を作り
「仮面ライダー…」
「ってなんですの?」
そう佐天に聞き返した
聞き返された佐天はよくぞ聞いてくれましたと言わんばかりに
「〝仮面ライダー〟ていうのは人知れずこの学園都市を守っているヒーローなんです! て、あ。白井さん信じてませんね!?」
「当たり前ですわよ。百歩譲って先ほどのは認めても、流石にそれは作り話にもほどがありますわ」
「なら! 初春、例の動画よ!」
「わかりましたー」
動画!? とアラタはまた穏やかじゃない気持ちになった
しかし大丈夫
最近は変な怪人も出てきてないしそれこそこの頃はガイアメモリを用いたドーパントを左翔太郎と共に退治、捕縛しているくらいしか…
「これですね、これは数日前…たしか、私たちが御坂さんのお部屋にお邪魔した日に起こった奴ですねー」
そう言ってまたテーブルの中央に置いて皆に見えるようにノートパソコンの画面を動かした
その画面には―――
今まさにマグマみたいな容姿の変な怪人と緑と黒のセンターマンのような人物、そしてそのセンターマンと一緒に戦っている二本の角が特徴的な赤い人物が戦っている姿があった
しかも結構画質良いし
「…これはまた…特撮か何かの撮影ではなくて?」
その動画を見た黒子が一般人なら当然の感想を口にした
正直な所不安ではあったが黒子がそういった感想をするならまぁ特に問題はないだろう
別に正体を隠していない翔太郎は問題ないがアラタは違う
友達に心配させたくないから正体を隠しているのだ
まぁ、しずれバレてしまうのだろうな、とはアラタも思っているのだが
「えー、結構リアルだと思いません? 特にここの炎なんか…」
佐天や初春がそんな会話してる中ただ一人美琴はふむぅ、と考え事をしていた
◇◇◇
「で、結局あいつはなんなのよ」
その日はそこでお開きとなった
とりあえずアラタも一度家、というか学生寮に帰ろうかと思った時美琴に捕まった
そして先ほどの台詞をきいたのである
「あいつって?」
「あいつは…あいつよ。ほら、どんな能力も効かない能力を持つ男!」
「あぁ、当麻の事か」
上条当麻
アラタと同じ学校に通っている同級生、そしてアラタの親友である
同じくクラスメイトの土御門元春、青髪ピアスと合わせて
「アラタだったら仲良いから、そいつの弱点くらい知ってるんじゃないかって思って」
「えぇ? なんで」
そもそもなんで当麻と美琴が接点なんて持ってるんだろうか
…いや、なんとなく想像できるので聞かないでおこう
「別に当麻に勝っても何にも自慢できないぞ。てか勝ってどうする?」
「それは…」
「理由がないなら戦うな。お前の力は、そんな事の為にあるんじゃないだろ」
そう言われて美琴は押し黙る
そういえば勝ってどうしたいのか、今思えば何も思いつかない
ここは学園都市、そんな能力もあってもおかしくはない
しかしそれはどうやったらそんな能力が生まれるのかはなはだ謎である
「それに当麻は良い奴だぜ、本当に。まあちょっとバカだけど…」
「…そんなはっきり言うものなの?」
案外バッサリぶった切るアラタに美琴は苦い顔をする
少し歩いてゲームセンターにでも寄ろうかなどと話し合っているときである
「あのー…目印かなんか、わかりませんか?」
何やら聞きなれた声が聞こえた
それは誰かの探し物を探しているような感じである
声の方へ向くとタイトスカートとYシャツを着こんだ女性と学生服を着たツンツン頭の少年の姿が見えた
その少年は先ほど話していた件の上条当麻である
「目印、かぁ。…目の前に横断歩道があった…」
「横断歩道じゃ、あんまり目印とは…」
「よお、当麻ー」
アラタが声をかけると上条は気づいて手を振り始めた
「おお、アラター。それと隣にいるのは…ビリビリかー」
「ビリビリ言うな! 御坂美琴! いい加減覚えろ!」
さっそくヒートした美琴をどうどう、と落ちつける
少しして落ち着いた美琴と共に二人は上条の元に歩いて行った
「で、どうしたんだ」
「いや、この人が車置いた駐車場、わかんなくなっちまったらしくてさ」
どういった理由だよ
心の中で思わず突っ込んでしまった
ていうか車の場所を忘れるって斬新すぎると思うんだが
「そうだ。押し付ける形になって悪いんだけど、探してやってくんないか? 俺行かないといけなくてさ」
「補習か?」
アラタがそう聞くと当麻は少し項垂れて「いや…」と否定し
「スーパーで卵の特売があってさ…貧乏な学生にはわかるだろう? アラタ」
「あぁ。逃せば死活問題だな」
学生寮に住む生徒はこういった特売はチャンスである
いくらお金を節約できるかでだいぶ変わってくるほどだ
「そんなわけで、後頼んだアラタ! ビリビリもっ!」
「だー!! あくまで言うか己はっ!!」
再びバチバチ雷を鳴らす美琴の頭に手を乗せて落ち着かせながら走って行く当麻を見送る
そういえば補習ってあったな…俺は大丈夫だっけ…アラタは軽く不安になりながらもその女性に向き直った
そして目を疑った
「えぇあっ!!?」
「ちょ・・・!? 何を、してるのでしょうか…!?」
美琴と二人して赤面しながらその女性に聞く
対して女性は手慣れた手つきでYシャツを軽く畳み右手にかけると
「炎天下の中歩き回ったからね。…汗びっしょりだ」
答えになってない
とりあえずこのままだと社会的に殺されかねないので美琴が服を着せてアラタが先導する
こういう時の連携は無駄のなかった動きだった
◇◇◇
「ここは涼しくていい気分だ…」
日陰のある自販機でその女性はジュースを買っている
美琴とアラタはその付近のテーブル付きベンチでその女性を待っていた
「…なんなの? あの人」
「俺に聞かれても」
まさかいきなり服を脱ぎだすとは誰が思ったことか
…脱ぎだす?
「…もしかして」
美琴と視線を合わせてJoseph's店内にて言われた事を思い出す
いきなり服を脱ぎだす都市伝説〝脱ぎ女〟
『いやないない』
全力速攻全否定
そうだ、たまたまだたまたま
そう結論づけて再び女性を待つ、とそこで美琴の携帯が鳴った
美琴はアラタに断ると形態の通話ボタンを押して耳に当てた
「もしもし」
<お姉様? 今どちらですか?>
「あぁ、黒子。今アラタ―――」
<まぁ、お兄様も一緒でしたの? これから初春たちとお茶しに行くのですけど、一緒にいかがです? もちろんお兄様も―――>
「いや…それが…今変な人と一緒でさ」
<…変な人?>
「うん…その、道端でいきなり服を脱ぎだして…」
<突然服を脱ぎだしたぁ!?>
携帯のスピーカーからそう驚く黒子の声が聞こえた
そしてその後に
<それって! きっと脱ぎ女ですよぉ!!>
<大丈夫ですか!? 御坂さぁん!>
何やら初春と佐天の声が遠くから聞こえてきた
<ちょ、おやめなさい貴女たち!!>
何やらがさがさと音が聞こえる
きっと佐天や初春が黒子に組み付いて携帯に声を入れようとしているのだろうか
<写メ! よかったら写メお願いします!>
いや、流石にそれは失礼ではなかろうか佐天よ
「あのねぇ…面白がって都市伝説につなげないでよ。ちょっと変わってるけど、普通の人―――」
「変わっているとは、私の事かな?」
「わぁ!?」
まだいないものと思っていた美琴はいらんことを口走ってしまった
すでにその女性は飲み物を購入し終え戻ってきていたのだ
美琴は慌てて携帯を切りその女性に視線を向けて
「いえ、そんな。見も知らぬ女性を捕まえて…ねぇ?」
「…俺に振るなよ」
そんなやり取りのなか女性はテーブルの上に飲み物を置いた
ちなみになぜか飲み物は美琴とアラタの所にも置かれていた
「…え?」
「その、これは…」
「付き合ってくれるお礼だ」
そう言って女性は小さい笑みを浮かべた
せっかくのご厚意を無下にするのは申し訳ないので
「いただきます」
「すみません」
そう言って美琴とアラタはいただくことにした
しかし缶に触れたとき、なぜだか熱さを感じ、思わず手を離す
一度顔を見合わせて改めて缶を持ってラベルを見てみるとそこにはスープカレーの文字が
「…なんでホット?」
「そしてスープカレー?」
二人してその疑問を口にする
いや、厚意に失礼とはわかってはいるのだが
そしてそんな疑問を聞き取ったのか、その女性は答えた
「暑い時には温かい飲み物の方がいいのだよ。それに、カレーのスパイスには疲労を回復する成分が含まれている」
理屈はわかる気がしないでもない
けど…
「…気分的には、冷たいものの方がいいなー…なんて…」
「こら、美琴。いくらなんでも失礼だろうが」
流石にこの言葉は駄目だろう、と感じたアラタは頭をペチ、と叩いた
美琴は小さく「ぁぅ」と呻くと頭を押さえる
「気分、か…若い娘さんや少年はそう言う選択をするのか…買いなおそう、なにが良い?」
「いいですいいです!!」
「お気持ちだけで結構です!」
流石にそこまでお手を煩わせるわけにもいかず、全力で女性を引き留める
「…すまないね。研究ばかりしているせいか、何事も理論的に考えてしまう癖がついてしまってね」
「研究者…てことは、学者さんなんですか?」
美琴の問いに女性はスープカレーを一口飲みながら
「大脳生理学。主にAIM拡散力場の研究をしているんだ」
AIM拡散力場
正式名称〝AN_INVOLUNTARY_MOVEMENT拡散力場〟
『AN_INVOLUNTARY_MOVEMENT』は『無自覚』ということであり、
能力者が無自覚に発してしまう微弱な力のフィールド全般を指す言葉
「もう授業でならったかな?」
「え、えぇ。一年の時に…」
美琴は言いながら手元のスープカレーに視線をやる
飲むかどうか迷っているのだろうか
「…確かそれって、機械を使わないと人間じゃ計測できない微弱な力だって…奴でしたっけ?」
そんな迷う美琴を尻目にアラタが女性に聞いてみる
その女性は妖艶に足を組み替えると少しだけ前に前に乗り出す
もともとその女性は美しい部類に入るので、その仕草だけでもこう、なんだろうか…
「…、」
ぎゅむ、と左足のつま先に痛みが走った
「いだっ」
それは美琴に踏まれたものだと気づくのに時間はかからなかった
視線だけ向けると美琴はふんっとそっぽを向き、意を決したようにスープカレーを飲みだす
「私はその力を応用する研究をしてるんだ」
その言葉に二人してほえー…と口を合わせる
世の中にはいろいろな研究をしている人がいる者だなぁ、と素直にそう思った
と、そんな時だ
「うわっ!!」
一人の子供が足を滑らせて女性のスカートにアイスクリームをぶちまけてしまったのだ
起き上がった子供はすぐ女性に向かって「ごめんなさい」と謝る
しかし女性は「気にしなくていい」と子供に言った後おもむろに立ち上がってスカートのジッパーを下げて―――
「だから脱ぐなって!!」
このまま何もなかったらまたこの女性はまた脱ぐところだった
というか正直目のやり場に困ってしまう
今もアラタは全力で美琴により首を左にさせられている
だはしかし、その女性は
「…え?」
さも自然に、不思議そうに返すのだった
◇◇◇
美琴がトイレにて彼女のスカートを乾かす間、アラタは外で待っていることにした
だがしかし待つと言ってもやる事はなく、暇をつぶすためには携帯のソーシャルゲームをかちかち進めるくらいしかない
こういったソーシャルゲームはやり始めのころは確かに面白いのだが先に進めていくと行動力的なものを消費して進めるのが面倒になってきてしまうのだ
まぁそれは単にアラタに忍耐がないからなのであるが
「…む。行動力が尽きた」
とたんまた暇になる
アプリか何かを落とすという手もあるが携帯(主にバッテリー)に優しくない
じゃあなにか携帯ゲーム機ということもあるがいかんせんお金がない
「…どうしようかなー」
と呟いて空を見上げる
空には自由気ままに動いている雲
そしてその向こうには真っ新な青空
雲みたいにゆっくり自由に生きていけたらと何度思ったことだろうか
そんな幻想的なこと言ったって何も変わるはずももなく
「さて…」
ひとしきり空を見上げたあと再び視線を前に向ける
視線の先にはボウルに豆腐を入れた変な同年代の少年が
「…」
正直言って知り合いである
それもよく知る知り合い
「…何してんの天道」
「…ん? なんだ鏡祢か。お前こそそんなところで何してる」
質問に質問を返すこの男は天道総司
名前の意味はなんでも〝天の道をいき、総てを司る〟という意味らしい
なんでもこの名前は先代から受け継いだ誇り高い名前らしく、本人もそういっている
「友達待ってるの。ちょっとした事情があってね。そっちは?」
「俺か。なに、外から取り寄せた上質の豆腐が今日ようやく届いたからな。上条や土御門に麻婆豆腐でもふるまってやろうと思ってな」
そう言いながらボウルをアラタの前に持ってくる
そのボウルの中にはとても美味しそうな豆腐がプリンのように揺れていた
その瑞々しい白さが食欲をそそる
「当然お前にも分けてやる。辛さはどのくらいがお好みだ?」
「マジで? じゃあ俺は辛口で頼むぜ」
「分かった。飛び切り辛くしてやる。あと、いつ見られてるか分からないから変身は気をつけろよ」
何気なく言ったその一言にう、とアラタは言葉が詰まる
どうでもいいが彼も都市伝説でいうところの仮面ライダーなのである
「それと、だ。鏡祢、お前は
「あの都市伝説のか? それがどうしたんだ」
そう言ったあと天道は真剣な表情に変える
キリ、と絞められた眼力はなかなか来るものがある
「それはな、どうやら実在するらしいんだ」
実在、する?
「どういうことだ?」
「言葉通りの意味だ。まぁあくまで
そう言って天道は左手を顎の下に持っていき
「何やら不穏な空気がする。…鏡祢、気をつけろ」
「わかった。サンキュー天道」
短く礼を言うと天道はフッと笑みを作ると
「礼はいらない。だがもし俺の力が必要になったら連絡しろ。力になる」
「あぁ。その時は頼りにしてんぜ」
そう言った後、軽く笑って天道は豆腐片手に学生寮の方へと歩いて行った
その堂々とたる背中姿は見習いたいほど気品にあふれていた
「なるべくは、借りたくないけどな…」
いくら頼りになるといえど天道は一般人である
そんな事を考えながらアラタは美琴とその女性が出てくるのを待った
◇
その数分後美琴らは出てきた
なんでか美琴の顔は朱かったが、今追求すると確実に電撃を放たれそうなのでやめておきました
◇
ほどなくして彼女の車は見つかった
意外にもセブンスミストの駐車場に普通に停めてあったのだ
「いろいろとありがとう。それじゃあ」
そう言い残して女性は車を走らせた
その後ろ姿を見送りながらアラタと美琴は手を振る
美琴は発進の際に
「お気をつけてー…」
なんて言葉を付け加えた
その車が見えなくなったところで美琴は手をおろし
「…てか、自分が停めた駐車場の場所わからなくなるってどうよ」
「…さぁ。あるんじゃないか?」
車を持っていないアラタらにはわからない事である
一応アラタはバイク所持者だが普段使用しないのでどうも同意できない
「つか、トイレの中で何話してたのさ」
「え? …っ!!?」
なんでかしらんがアラタの顔を見ると急にボン、と赤くなった
「どした? もしかして風邪か?」
もしそうだとしたら大変だ
科学の最先端都市であるこの学園都市ならすぐ治せるだろうがそれでも心配なのは心配である
アラタは美琴の前に移動してその額に手を置こうとして―――
「だだだ、大丈夫!! 大丈夫だから!! ほんと!」
全力で後ろに下がられました
「じゃ、じゃあ私帰るね! またねっ!」
そう言って美琴はたたたっ、と走り出した
…何か嫌われるようなことでもしただろうか
「…俺も帰るか」
考えても仕方ないのでとりあえずアラタも帰宅することにした
それはそれとして、なんだか今日はドッと疲れた気がする…
◇
恥ずかしくなって走って逃げてきてしまった
しかしあんな事言われた後は変に意識してしまう
そのあんな事、とは
・・・
それはトイレの中で女性のスカートを乾かしていた時のこと
「すまないね。手間をかけさせて」
一つの個室からそう声が聞こえた
現在彼女は下着姿のままトイレの個室内で待ってもらっている
まさか下着姿のまま外で待たせるわけにはいかない
「まぁ…乗りかかった船ですし…はい、どうぞ」
いい塩梅に乾いたのでそのスカートを個室の扉にかける
「ありがとう。ところで…」
そのスカートが個室の中に吸い込まれその女性の質問を投げかける声が聞こえた
「はい?」
「君たちは付き合っているのか?」
「え? 誰と」
「外で待っている少年だよ」
「…はい!?」
何を言ってるのかと耳を疑った
しかし女性は割と本気のようで
「なにやら出会ったときに仲良さげに歩いていたものだったから。…違うのかい?」
・・・
その時は「友達ですよ友達!」と言って逃れたがいざ改めて意識するとどうもやりにくい
鏡祢アラタは仲の良い男友達だ、そう、友達だ…
何度も自分に言い聞かせ深呼吸する
「…はぁ…今日は疲れた…」
平和なのは良い事だがこういったイベントは今日限りにしてもらいたいな、と思う美琴
だがしかし、今日も学園都市は平和なのである
◇◇◇
「…ん?」
帰り道を歩いている途中
何やら地面に膝をついて沈んでいる上条当麻を発見した
「…どうした」
「全滅だ…。貴重なタンパク源がっ…!」
その一言でだいたいわかった
恐らく長時間並んで手に入れた食品をクラッシュしてしまったのだろう
「…どんまい」
「いやぁ!! 変な慰め入れないで! 自分がとても惨めになるんですっ!」
ぶんぶんと頭を振りながら当麻は現実から目を背けようとする
しかしいくら振ったところでその現実は変わることもなく
「まあまあ。とりあえず帰ろうぜ。天道が麻婆豆腐作って待ってくれてるはずだから」
「…へ?」
説明中
「マジで!? 本当に麻婆豆腐が!?」
当麻のテンション急上昇
まあ今日の晩御飯が悲惨だった当麻からしてみてはそれは嬉しい誤算だったろう
おまけに麻婆豆腐
「おうよ。だからさっさと帰ろうぜ。豆腐が待ってるぞ」
「ああ!! 持つべき友は天道だな! アラタ!」
他の友人たちの事も忘れてあげるなよ
心の中でそう付け足すアラタだった
◇◇◇
「ただいまー…」
一人で問答してるうちにすっかり夜になってしまっていた
常盤台女子寮の自室に戻ってきてみると黒子はおらず、室内も暗いままだ
風紀委員の仕事か何かだろうか
「…はぁ…疲れた」
呟きながらいそいそとセーターを脱ぎ、シャツのボタンを一つずつ外していく
―――お姉様…
どこからか黒子の声が聞こえた
しかしその声色はなんでか低く、くぐもっている
「黒子? あんたどこに―――」
そう言いながらベッドの下を覗き込むとギラリと光る二つの眼
確認したその直後カサカサ! とまるであの黒光りするアレみたいにそれはこちらに近づいてきた
「わっ!?」
その不気味さに思わずしりもちをついてしまった
ほどなくしてそいつの正体がはっきりしてくる
「えぇ!? 黒子!?」
その正体は黒子だった
恰好こそ寝間着ではあるがそれ以前に彼女の頭に一番気になるものがある
それはなぜか下着
しかもどういう訳か美琴の下着を被っているのだ(お気に入りのゲコ太がプリントされてるヤツ)
「いきなり服を脱ぎだすなんてやはり脱ぎ女に呪われているのですね!さぁー! お姉様もお被りになって!!」
そう言って黒子はバッとまた別の下着を取り出した
恐らくそれは黒子の下着
「な…!? ちょ、どしたのあんた!?」
「脱ぎ女の呪いを解くためにはこうするしかないのです! 後日改めてお兄様にも! しかし今はっ!!」
黒子はカッ!! とどこぞの捜索隊よろしく目を見開いて美琴の頭にその下着を被せにかかった
「消えろー! 脱ぎ女ぁぁぁぁぁ!!」
「やめろっつーのぉぉぉぉぉ!!?」
一体どんなことがあったのか
というか解呪の方法なんてあるのか
そもそもなんで脱ぎ女になっていることになっているのか
様々な疑問を余所に美琴の絶叫が夜の女子寮に木霊した
◇◇◇
とある研究所の研究室
そこに一人の女性がパソコンの前に座っていた
「…あれが、噂の
カチカチ、とマウスをクリックする音が室内に響く
その部屋の中が無駄に静かだからか、そのクリックの音がはっきり聞こえた
「そして、仮面ライダー…か」
その女性は今日あった出来事を思い出すように呟く
「面白い子たちだったな…」
そしてまたクリックする音が響く
その女性の表情にはわずかばかりの笑顔が見えた