とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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十月中にもう一回更新したかったけど間に合わず
今回グダグダフルスロットルですのでご了承ください

次回は少し飛ぶかもしれない…




#65 それは確かに、緩やかに

一方通行(アクセラレータ)が見上げているのは教職員向けに建造されたマンションだ

 

外観だけ見れば学生寮もマンションもそうたいした違いはないのだが、サービス面に細かい違いがあり、それらが積み重なる事で個性となっている

なんだかんだといっても学生寮は子供を管理する建物だ

セキュリティ、という大義名分のもと結構遠慮の位置に監視カメラが配置されているののだが、このマンションにはある程度の配慮がなされているようだ

 

「何階?」

「十三階。停電とかなるとなると階段使うのしんどいじゃんよー」

 

浅倉にそう聞かれると黄泉川が笑いながら返答する

その隣でおー、と声を上げながら打ち止め(ラストオーダー)が建物を見上げている

打ち止め(ラストオーダー)は件の十三階を眺めようとしたが途中で太陽を見てしまい、くらくらとしてしまった

その小さい肩を付近にいる手塚が支えた

 

「一階二階に比べれば、襲撃される回数は減るんじゃないか」

「建物ごと吹っ飛ばされる場合は、上の階の方が被害でけェンだけどな」

「なんでそんなネガティブ思考なのさ」

 

手塚の言葉に反応した一方通行(アクセラレータ)を芝浦が言葉を発す

実際さすがにそこまでの襲撃はされたことはないのだが、仮にこれからそう言った襲撃が来ない、といいけれるわけでもない

 

「さぁて。ちょっと遅いけど昼食も食べないといけないし、早いとこ部屋に入るとするじゃんよ」

 

マンションの出入り口はガラスの自動ドアではあるが、耐爆仕様になっているのが分かる

カードを通すだけのロック機能も実際はカードを握る指先から指紋や生体電気信号パターンなどもデータもやり取りしているようだ

 

そんなこんなで一行はマンションの中へと入っていく

因みに小萌は別の用事があるとかでこの場にはいない

低振動のエレベーターに乗って特に浮遊感も覚えずに十三階までたどり着くとすぐそこのドアの前に黄泉川が立つ

どうやらそこが彼女の部屋みたいだ

 

「どぞー」

 

そう言って黄泉川がノブに手をかけて部屋を開ける

視界に入ってきたのは4LDK

どう考えても家族向けの、それも一生をかけてローンを払うような規模の部屋だ

…公務員の月給で何とかなるのだろうか

不自然なくらいピカピカに磨かれたフローラルのリビング、棚には酒瓶やグラスなどが飾られていて雑誌や新聞も専用のラックに収められているテレビやエアコンなどのリモコンはテーブルの片隅に置かれていた

おまけにソファの上のクッション一つ一つまで丁寧に位置取ってある

 

「すごいすごい、ホコリも全然ないかもってミサカミサカはソファにダイブしながら褒めてみたり!」

「…でも何だか綺麗すぎて想像と違うような気がするなー」

「そうだな。正直に言えば、もう少し散らかっているものかと思っていたが」

 

ソファに沈む打ち止め(ラストオーダー)の明るい声に反して、芝浦と手塚が言葉を発する

そんな言葉に黄泉川はあっはっは、と苦笑いをするばかりで何も答えない

笑う黄泉川に芳川は呆れたような声色で

 

「…貴女。また始末書を書かされたわね」

「―――。あ。あはは。なんのことじゃーん」

 

ギクリ、と黄泉川愛穂が身体を震わせる

ぎぎぎ、とロボットみたいに黄泉川は芳川の方へと首を向ける

 

「…どういう意味だ?」

 

浅倉の疑問に芳川が苦笑いと共に

 

「昔から問題起きると整理整頓を始める人間なのよ、彼女は。そのせいで何をどこに置いたかとか分からなくなることがよくあるの。気を付けておいて」

「それが次の仕事先を一緒に探してやってる恩人に対しての言葉じゃんかよー」

 

どうも芳川と黄泉は二人だけでの時に話すとき、若干砕けた感じになるようだ

子供っぽくなる、といえば分かり易いか

或いは、そこまで気の知れた仲なのか

 

「その癖が抜けてない、という事は台所も相変わらず、と見ていいのかしら」

「整頓の悪癖は認めるけどそっちを指摘されるのは癪じゃんよ。桔梗だって私の料理美味いって食べてたじゃんか」

「ええ、美味しかったわ。…その作り方を知った時は、流石に呆れを通り越して笑っちゃったけど」

 

何やら意味深なその言葉に顔を見合わせる一方通行(アクセラレータ)

そして黄泉川が「私だって日々進歩してんじゃん、その目で確かめてみー!」と言いながら芳川を引っ張って行ってしまったために、一行もそれに続く形でキッチンに行く

 

実験の協力、という名目通り黄泉川自宅のキッチンにはいろいろな調理器具が並んでいる

しかし黄泉川はそう言ったのをあまり使用していないようだ

放置されています、と言わんばかりの器具よりも目を引くのは四台五台と並んでいる電子炊飯器である

全て稼働している状態で

 

「―――一人一台ってか。フザケてンのか白米マニア」

「流石に一台は多すぎるっつうか何つうか…」

 

うんざりした様子で呟く一方通行(アクセラレータ)と若干引き気味の浅倉に黄泉川はまた笑いながら

 

「違う違う。ほら、炊飯器ってのは一個だけで煮る、蒸す、焼くってなんでもありじゃんよ? だからこっちのがパンを焼いてて、そっちのがシチュー煮込んでて、あっちのが白身魚焼いてんの」

 

…確かにこれは、真実を知らない方がよかったのかもしれない

その事実をもう知っている芳川は改めてため息をついて

 

「ナマケモノ」

「動物みたいな評価はやめてほしいじゃんよ。…ううん、そんなに悪いものかなぁ、これさえあればボタン一個で作ってくれるし、火使わないからうっかり寝ても問題ないスグレモノなのに…」

「極端すぎるのよ毎回毎回。足して二で割ったら反物質反応が起きるくらいにね」

「ちゃんと味と栄養と満腹感は得ているんだから問題ないじゃんよ。鍋とか色々揃えるのは面倒だし、何にでも使える万能の品があると嬉しいじゃんか」

「…貴方は一度、苦労して作る喜びを覚えた方がいいわ」

 

何手芳川は言うが、彼女の専攻は遺伝子分野で、なおかつ作っていたのは二万人弱のクローンだったりすると、あまり笑えないコメントだった

 

◇◇◇

 

シャットアウラはカフェにて昼食を終えたところだった

ナプキンで口元を拭くと改めて目の前の人物にお礼を言う

 

「…その、ありがとうございます。名護さん」

「気にすることはない。この程度、造作もないさ」

 

そう言いながら名護は食後に頼んでおいたコーヒーに口をつける

簡単に言うなら、昼食代は名護に奢ってもらった

自分としてはのんびりここで昼食を食べようかと思ったのだが、ばったりと名護と出会って、そのまま奢ってくれるという話になったのだ

もちろん最初は断ったのだが、頑なに頷いてくれず、シャットアウラが折れる形となった

 

「シャットアウラ君」

「! は、はい」

 

不意に言葉をかけられシャットアウラは身体を震わせた

思えばこうして名護と話すのは久しぶりだ

もっぱら最近は学校が慌ただしく、ゆっくり話すということは出来なかった

名護はコーヒーを皿に置くと

 

「―――学校は、どうだい?」

 

そう一言聞いてきた

彼の言葉に、シャットアウラは考える

 

学校は、どうか

 

最初はもちろん不安はあった

おまけに同じタイミングで鳴護アリサもあの高校に通うことになった、という事を聞かされてさらに微妙な気持ちになった

今まで戦場にいた自分を受け入れてくれるのか、そもそも自分に友人が出来るのか、今更自分が学校なんて…などなどいろいろな想いが交錯していた

 

しかしアリサは、昔の事など気にしない様子で自分と接してきてくれて、アラタや当麻がいるあのクラスは自分が抱いていた不安を払拭させてくれるほどに賑やかなクラスだった

まだ過ごした日数は浅いが…それでも、忘れかけていた何かを思い出させてくれるような毎日だ

 

「―――そう―――ですね。長らく感じた事のない感情を、思い出したのは…確かです」

 

偽らざる本心

その顔は、無意識にも笑みを作っていた

彼女の笑みを見て、同じように名護も笑みを浮かべる

 

「そうか。なら、何よりだ」

 

名護からその言葉を聞くともう一度シャットアウラは笑った

その時ふとピリリ、と彼女の携帯が鳴り響く

シャットアウラは名護に断りを入れて携帯を見る

どうやらメールが来たようだ

それを確かめるとシャットアウラは立ち上がって

 

「名護さん、すいません。アリサと約束していたのを忘れていました。…えと、それで代金は―――」

「大丈夫だ。払っておくと言ったでしょう? 早く友達の所へ行ってあげなさい」

 

名護の言葉を聞いてシャットアウラは頭を下げる

そしてそのままカバンを手に取りカフェを出口に小走りで移動していった

その背中を眺めながら、名護は改めて目の前に出されたコーヒーを口にする

ミルクや砂糖を入れたわけでもないのに、どこか甘い味がした

 

◇◇◇

 

美琴は持っていたヴァイオリンをクロークに預けると少し遅れてやってきたアラタを連れ、地下街へと歩いてきた

かつてはシェリーという魔術師と彼女の操るゴーレムによって結構な被害が出たのだが、今ではその破壊された爪痕は見られない

壊された柱や床は修復されて、喫茶店のウィンドウも真新しいものに取り換えられていた

取り換えられた、と言ってもパッと見の違いは分からず、よほど近くで凝視しない限りその違いは分からないだろう

これほど急いで工事が行われたのは、後ろに控えていた大覇星祭の影響もあった

開催する目的の九割かた学園都市のイメージアップを図ったものなのだから街が壊れてはお話にならないのだ

 

「…もうそろそろしたら、暖房に切り替わるな」

「そうね。だいたい二週間くらい先になるんじゃなかしら? …っと、あったあった。こっちよ、アラタ」

 

ここ、地下街は基本的にゲーセンやカラオケボックス、ライブハウスと言った騒音問題のありそうな娯楽施設が多くある

てっきりゲームセンターかどこかにいって暇を潰すのかなー、とは思ったがどうやら別にちゃんとした目的があったようだ

彼女がピシ、と指差したのは携帯電話サービス店だ

 

「アラタ、〝ハンディアンテナサービス〟って知ってる?」

「ハンディアンテナサービス?」

「うん。個人個人の携帯がアンテナ基地の代わりになるって言うサービス」

 

早い話、街中で携帯を持ち歩いている人みんながアンテナ代わりになるのだ

自分の近くにアンテナが無くても個人1、個人2…と言った具合にアンテナを中継していき最終的に個人Zの付近に本来のアンテナ基地があればそのまま通話が可能、というものだ

詳しく言えば複数の人間を伝い網目のようにルートを作っていくので、そう簡単に断線することもない

元々は震災下での地上の通信基地が全滅した場合、数少ない飛行船に設置型アンテナをつけて飛ばし、臨時の空中通信網を整備するために作られたものだ

メリットとしては大学側がテスト運用としての補助金を出すため、サービス料金がとってもお安くなる、という話も出ている

 

「私さ、それに登録してみようって思うのよ」

「そのサービスに? でも、このサービスって加入人数が少ないと意味ないんじゃないか?」

「だからそのサービスを普及するために加入するの。ペア契約にしちゃえばハンディアンテナだけじゃなくて、その他いろいろな通話料金も安くなるみたいだし」

「ペア契約?」

「うん。あらかじめ登録しておいた二人の間だけ、通話料やパケット代とかがかからないの。んで、今ペア契約をするとね」

「すると?」

「なんと、ラブリーミトンのゲコ太ストラップがもらえるの」

「ふーん。…うん?」

「即ゲット。…という訳で、一緒に契約して?」

 

どうやらストラップ目当てのようだ

相変わらずというかなんというか、アラタは苦笑いをしつつ

 

「いや、別にそれはいいんだけどさ。機種変とかとか必要なやつか?」

「あぁ、その事なら心配ないわ。ハンディアンテナは本体を変えるんじゃなくて、追加拡張チップ差し込むだけで問題ないみたいだし、機種変が必要ってことはないと思うわ。たぶん、アラタの携帯は弄んなくても大ジョブだと思うわよ?」

「ってことは、アドレスと番号だけでいい感じかな」

「それもそう…なんだけどね?」

 

美琴はカバンについているゲコ太ストラップを手で弄びつつ

 

「一緒に店にいったり、結構な数の書書類書いたり、割と待たされると思うから、さ。その辺の融通聞く人じゃないと、頼みにくいのよね。…流石に半日はかかんないだろうけど…」

 

なるほど、と頷きつつふとお店ののぼりに書かれてある文字を見て、ふと素朴な疑問を抱いた

僅かに首を傾げるアラタ見ると?を頭に浮かべ

 

「どうしたの?」

「いや、契約とかは特に問題ないんだけどな、これってカップルとかでやる奴じゃないのか? ほら、男女限定って書いてあるし」

 

カップル、という言葉を聞いて、思い出したように美琴は肩を震わせる

彼女はカバンを改めて両手に抱くように持ちながら

 

「だ、大丈夫よ。べべ、別に男女って書いてあるだけで、ここ、恋人とは書かれてないじゃないっ!? そうよ、うん、全然大丈夫、問題ないわっ!」

「み、美琴?」

「さ、い、行くわよアラタっ」

 

何でか若干頬が赤い美琴の後ろをアラタは怪訝な顔をしながらついていく

店内に入ると、いい感じな冷房が身体を包んでいく

送風ルートとか十分に設計しているのかどうかはよく分からないが、肌寒くないのに汗は引いてく、という説妙な加減なのだ

カウンターに座っていた女性は笑みと共に美琴に応対する

この人とペア契約したい、まだゲコ太ストラップは余ってますか、などと言ったやり取りの後、店員は書類を揃えながらこう言った

 

「書類作成に当たって、写真が必要なのですが、お持ちですか?」

「写真? それって、証明写真とかで、大丈夫ですか? あとサイズとかは…」

「いえいえ、そんなお固いのではなくてですね。このペア契約に当たって、〝この二人はペアである〟、という事を証明してほしいだけなんです。二人が写っているなら携帯とかでも大丈夫です。今ならペアの写真立て型の充電器をご用意するのでそちらにも使用させていただきます。あ、型式番号等は気にしないで大丈夫ですよ、四社とも共通の規格ですから」

「…え?」

「あら。そう言うのはあまりやられませんか? でしたらこの機会にぜひ。登録完了の二十分前に写真をお渡しくれれば構いませんので、待ち時間を利用していただけると助かります」

 

そんな訳でたくさんの書類にペンを走らせて二人は一度お店の外に出た

次は、件の写真撮影だ

 

アラタは普段使っているスライドタイプの携帯を取り出し

 

「ボックス探すのは手間かかるし、普通に携帯でいっか。美琴のは預けちゃってるし、流石にデジカメとかはないよな」

「う、うんっ、お願い…」

 

どこか上の空の様子の美琴にアラタは気づいていない

テキパキとカメラモードに切り替えると二人とも映るように少し遠くに手を動かしつつ

 

「さて、じゃあ撮るぜ…って、あの」

「な、なにっ!?」

 

若干裏返った声で返す美琴は何故だか少し遠くにいる

確かにツーショットかもしれないが、ペアかと問われると頷きづらい

 

「美琴、もちっと近づいてくんないと写真撮れないぞ」

「わ、分かってるわよ! その前に、ちょっと、心の準備させてっ」

 

そう言うと美琴はスー、ハーと大きく息をして自分を落ち着かせる

やがて意を決したようにアラタの隣に歩いていくとするり、とアラタの左腕に己の右腕を絡ませる

そしてそのまま彼の方に自分の頭を置いた

流石にここまで接近されるとは思っていなかったアラタは内心穏やかじゃない

気心知れていると言えど彼女は女の子だ

ここまで近くにいられるとドキドキしてしまう

 

「…よし、撮るぞ」

「オッケー、いつでもいいわよ」

 

言いながらアラタは携帯を持った手を操作し、シャッターを押す

ピロリン、と言ったそんな電子音声の後、先ほど撮った写真を表示させてみる

 

「―――うん、悪くないんじゃないか?」

「そうね、よく撮れてる」

 

互いの感想はそんなごく普通なものだった

映りも悪くなく、若干アラタの表情が微妙なものではあったが、特に気になるほどではない

恐らく誰が見てもパッと見はペアっぽいと思うだろう

 

「じゃあ残りの時間、地下街でも歩き回るか?」

「うん、適当に歩いて時間を潰しましょ」

 

とりあえずその写真を表示させたままスライドさせ携帯を閉じる

そのまま二人は特に目的を決めることなく、他愛ない事を話しながら地下街を歩いて行った

写真を撮るために組んでいたその腕は離してしまったが、そ、と彼の服の袖をきゅ、と握る

深い意味は特にない、しかし、今はこの時間を、大切にしたい、と心の中で思う―――

 

◇◇◇

 

学園都市ではない、どこか

 

黄色いワンピースのような服装をした女が、ある目的地へ向けて歩いている

頭には布の被り物をし、着脱可能な袖をつけたその恰好は、十分奇妙と言えるだろう

すでに大体の移動を終え、あとは徒歩での移動で十分辿り着く距離だ

 

目的地のある方角へと視線を動かす

こきり、こきりと首を動かしながら着実に目的地へと進んでいく

彼女の手には、現実には似つかわしくない、大きめな鈍器を携えて、彼女は歪にその口元を歪ませた




今回の気まぐれ紹介はお休み
ではまた次回
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