とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~ 作:桐生 乱桐(アジフライ)
同時刻
バタバタと人間が倒れていく
抵抗もなく、雑音も、鮮血も、悲鳴さえない
ただひたすらに人間の倒れていく
学園都市の治安を司る警備員(アンチスキル)達だ
倒れた彼らは指先一つ動かない
それとは別にカツン、という細々とした足音がした
ジャリジャリ、と金属が触れあう細かい音が聞こえる
女の服はワンピースの原型となったカートル
腰にはベルトなどの十五世紀前後のフランス市民の格好だ
顔にはピアスが至る所にまで穴が空けられている
そのピアスは顔が崩れる事を承知で実行されたものだ
女は一度立ち止まり周囲をクルリと見回し、足に転がっていた無線機を一つ、蹴り上げた
宙を舞う無線機を片手でキャッチしマイクへ口を近づける
そして囁くように言葉を紡いだ
「はっあーい、アレイスター」
ざざ、という雑音と一緒に返ってきたのは困惑する
しかし女は無視して続ける
「どうせアンタはこういう普通の回線にも割り込んでるって事でしょう。さっさとお相手してくれると嬉しいんだけどな」
ブツ、というスイッチが切り替わる音が聞こえた刹那、音質がクリアになった
<何の用だ>
「聞く気があるなら話しても良いって事なんだけど?」
<一応確認するが、その程度の挑発に乗るとでも思うか>
「そ。統括理事会の顔を三つほど潰したトコだけど、〝この程度〟では堪えない、か」
手の中でくるくると無線機を回す女の表情には軽い落胆の色があった
「統括理事会ってさ、確か十二人しかいない事なのよね」
<補充なら効くさ。いくらでもな>
「問題発言よねそれ。…まぁいいや、私の名はわかってる?」
<知らないな。賊については取り調べで聞く事にしている>
「神の右席」
サラリ、と息をするように
魔術サイド最大深部の名前を口にした
世界最大宗派ローマ正教の闇の闇の闇…、とてつもなく、かなり深い奥底の闇の果ての深淵に沈む一つの名前
知っているのは一握りの人物だけで、仮に知っていたとしても〝知るに相応しくない人物〟と判断された場合は即消される程に隠密性に満たされた単語
だがアレイスターはスラスラと答える
その感情に起伏はなく、ただ、淡々と
<おや。テログループにそのような名前はあったかな>
「ふぅん」
<もしその名を売る為の行為だとしたら、いささか無謀が過ぎたようだが>
「シラを切るならそれでもいいけど、今ココで命乞いしなかった事を後悔しないようにね」
<この街を甘く見ていないか>
「アラ。 自分の街の現状すら掴めていないなんて。報告機能にも支障が出てんの。失敬しっけー。私は自分が潰した敵兵の量を数えられないからなぁ。はは、オペレーターまでぶっ倒れてるのかナ」
<…、>
「行き過ぎたかな。まぁジキに十割全て倒れる事になるだろうけど。
<…ふ>
「?」
<その程度で学園都市の防衛網を砕けたと思っているなら本当におめでたいな。君は、〝この街の本当の形をまるで理解していない〟>
「へぇ?」
<隠し玉を持っていれのは君だけではないという事だ。最も、君はそれを知る前に倒れるかもしれないが>
「なんであれ、私は敵対する者は全て叩き潰す。これは私が生まれた頃からの決定事項だ」
二人は会話を交わしているように見えるが、実際は両者共にただ一方的に言葉をぶつけているだけだ
最後に女は自身の名を告げる
「私は〝前方のヴェント〟。二十億の中の最終兵器」
無線から多少口を離しながら
「この一晩で全て潰してあげる。アンタも、学園都市も、幻想殺しも、禁書目録も、そして古代の戦士、その全てをね」
そしてヴェントは握力だけで無線機を握りつぶした
……………
〝人間〟アレイスターは窓のないビルにいた
その中央に生命維持装置が鎮座していて、逆さまで彼は浮かんでいた
周囲に浮かぶモニターに移るのはエラー、の文字
どこを見てもエラー一色で埋まりきっている
「なかなかやるようだな」
コツコツとオーディンが腕を組みながら歩いてくる
「ものの数十分で学園都市の治安を司る
確かに学園都市は絶望的だ
だがしかし、それでも〝人間〟アレイスターの口元に浮かぶのはただ、笑みのみだ
「面白い」
彼は囁く
「最高に面白い。これだから人生は止められない。こちらもようやくアレを使う機会が現れたか。時期は早いが…、プランに縛られた現状では、イレギュラーこそ最大の娯楽」
その言葉にオーディンもくく、と笑みを浮かべながら無線を繋ぐ
闇に蠢く者達へ
「木原数多よ」
<こちら木原>
オーディンは告げる
「虚数学区・五行機関…。AIM拡散力場だ。多少早いが、ヒューズ=カザキリを用いて[奴ら]を潰す。手足はなくても構わない。逃走中の
<了解>
「随分と、楽しそうなことしてるじゃねぇか」
オーディンがそう指示を飛ばしている最中、彼の背後から言葉が聞こえた
その男は鈍色の妙な衣装に身を包み、かったるそうに首を動かした
「…君は」
アレイスターの顔を確認すると男は小さく笑んだ
その笑いは、獲物を見つけた獣のようだった
「体がなまって仕方ねぇからな。前々から目ぇつけてたやつと、戦りに行っていいかよ、アレイスターさん」
「いいだろう。好きに動くといい」
その言葉を聞くと更に男はその笑みを大きくさせた
「感謝するぜ」
「外までは私が送ろう」
短いの応対の後、オーディンがその男とともに、黄金の羽根とともに消え去った
彼らを見送った後、笑みと一緒にアレイスターは呟く
口元に、うっすらと笑みを浮かべながら
「さぁ。久方ぶりの楽しい楽しい、
◇◇◇
オーディンは男を地上へと送ると、再び羽根と共にその場からいなくなった
しかし男は特に消えた方向を見るわけでなく、じっと前だけを睨んでいる
男の目的は、己を満足させてくれる強者
だが、場所までは知らない
しかしこんな事件が起こっているのだ、戦いの起きているところへ行けば自ずと会えるだろう
「―――ちったぁ楽しませろよ?」
小さい声で呟きながらゆっくりと歩き出す
乾いた牙が求めている
己を震わす、強者を