とある魔術の禁書目録 ~変わらない笑顔で~   作:桐生 乱桐(アジフライ)

8 / 79
今回はだいぶ長くなってしまいました

…いえね、ライダー要素がないな、と思い付け足したらこんな長くなってしまったのです…

誤字とか脱字とかたぶんあると思います
見かけたらご報告を

それではどうぞ


#5 とある二人の新人研修

その日風紀委員一七七支部に顔を出すと妙な空気がその室内を包んでいた

何事か、と思いその空気の出所を探してみるとそれは真剣な表情で書類を読みふける初春からだと知る

 

なんだろう、今の彼女には近寄りたくない

近寄ったらナイフで突き刺されそうな感じである

 

軽く引きつった表情を作りながらアラタは席に座っている固法に近づいて

 

「…何があったんだよ」

 

単刀直入に理由を聞いてみた

理由を聞かれた固法は苦笑いを浮かべ

 

「白井さんと、ちょっとね」

 

「黒子と?」

 

普段あんなに仲が良いあの二人が今日に限って何かあったのか

 

疑問に思ったアラタは流石に初春本人に聞くと本当に殺されかねないので固法に聞くことにする

聞かれた固法は苦笑い交じりに今日起こった出来事を話し始めた

 

 

それはとある学校の監視カメラを増設する仕事に黒子と初春がついていた時だった

 

滞りなくカメラの増設が終わろうとしたその時、事件は起きた

 

車上荒らしである

 

黒子は車上荒らしを一人と断定し確保に行こうと動いたがそこで初春が意見した

 

応援が来るまで待機すべきだ、と

 

しかし黒子は聞かず確保に向かったのだが…

 

「案の定車ん中にもう一人犯人がいて、その二人組を取り逃がし…その際ちょっとした口論になった、と」

 

「まぁわかりやすく言うとそんな感じ」

 

事の顛末を聞かされたアラタはふむぅ、と腕を組んで椅子にもたれかかる

そして一言

 

「まぁその際に至っては黒子が悪いんじゃね?」

 

「貴方も同じ状況なら突っ込むでしょう。…まぁ貴方は立ち直りが早いからその時に全員とっ捕まえそうだけど」

 

否定できない

 

とりあえずごまかそうと先ほど固法が淹れてくれたコーヒーのカップを手に持って口に持っていったところで

 

「こんにちはー! 初春来てますかー?」

 

元気よく佐天が支部を訪れた

本来この一七七支部とは風紀委員しか入れないのだがその決まりは緩いのかたびたび佐天や美琴がやってきている

それでいいのか、という言葉はこの際なしの方向で

 

「また貴女…。ここはたまり場じゃないのよ?」

 

やれやれといった感じで固法が咎めるように口を出す

 

「はーいはーいわかってまーすっ」

 

それは絶対わかっていない人の返事だぞ佐天

そんなアラタの心の声をスルーしながら徐にカバンの中をがさがさとあさる

 

「けど今日はちゃんと理由がっと…。じゃーん! あたしの補習プリントーっ!」

 

カバンから取り出した紙を取り出して高らかに宣言する

ちなみにそう朗らかに宣言することではない

その声を聞いた固法はずるっと机の上で転ぶようなアクションをする

 

「初春に教えてもらおうと思って…」

 

「初春ならいまあそこに…」

 

きょろきょろと視線を動かす佐天に助け船を出すかのようにアラタが真剣に書類を呼んでいる初春に視線を向ける

初春を見つけた佐天はおぉ、と言ったように瞳を輝かせて彼女の下に歩み始める

 

「けど今はやめといたほうが…」

 

だがその忠告はもう遅かった

視線を向けたその先には初春のスカートを「うーいはっるぅ」と言いながら大きくばっさぁ、とまくり上げた

 

「なっ!」「ぶっ!」

 

今度はアラタと固法が驚いた

ていうかスキンシップのつもりなのだろうが現実問題セクハラで訴えられてもおかしくないレベルである

しかし今現在彼女の機嫌は悪い方にクライマックスであり、本来なら何らかのアクションをするであろう彼女も今回は目の前の書類に夢中であり、彼女のセクハラに見向きもしなかった

 

「…おっ、今日はクローバー? よーし、幸せの四葉クローバーはどこかなー…って…」

 

「…」

 

眼中になし

 

「…え、…と…ほ、ほらー、めくってるよー? 絶景だよー?」

 

「…、」

 

オールスルー

 

あまりにもノーリアクションな初春についに佐天の心はバッキバキに折れた

彼女は若干目に涙を溜めながら国法とアラタに泣きつく

 

「初春は…ぐす、どうしちゃったんですかぁ~…」

 

よよよ、と言う擬音が聞こえてくるかもしれないほどぐったりしてた

それに二人は苦笑いを交えつつ

 

「白井さんと…」

「色々な」

 

 

 

説明中

 

 

 

 

「そんなことがあったんですか?」

 

事情を聞いた佐天は固法が淹れてくれたココアを飲みながらそう聞き返す

 

「あぁ。そんなわけだから、少しそっとしてあげてくれ」

 

アラタの言葉に佐天は一人黙々とパソコンを操作している初春をちらりと見やる

今も彼女は相変わらず真剣な目つきで画面を食い入るように見つめている

普段の優しい初春は見せない、とても真面目な表情

 

「…」

 

佐天はそんな彼女をじっと見つめた後

 

「だったらもういっそのこと、風紀委員(ジャッジメント)辞めちゃえばいいのに」

 

「ぶっ!」「!? げほげほっ!!」

 

そんな佐天のぶっ飛んだ発言に盛大にアラタと国法はむせかえった

 

アラタは口元を手で拭いながら

 

「こらこら、無責任すぎんぞ今の発言」

 

「そうよ、風紀委員は、警備員に並ぶ学園都市の治安維持機関なのよ。勝手に放り出せたり出来る仕事仕事じゃないわ」

 

固法も同様にティッシュで口元を拭きながらアラタの言葉に付け足した

言われた佐天は少し納得していないような表情で

 

「…じゃあ、このままほっとくしかないんですか?」

 

友人としてはやはりほっとけないのだろう

相手は自分も知っている友達、ましてや仕事の同僚である

ケンカしたままでは仕事にも日常にも影響が出てしまう

当然ながらアラタとしてもそれは避けたい展開なのだが…

 

「ま、問題ないだろう。な」

「そうね…あの二人なら」

 

何やら意味深に呟く二人

そんな二人に何かを感じ取ったのか佐天は二人に詰め寄った

 

「あの二人、何かあるんですか?」

 

そう聞かれた二人は何かを思い出すように、そしてどこか遠い目をしながら

 

「聞きたい?」

「ちょっとした昔話だが」

 

◇◇◇

 

一方常盤台中学女子寮

 

その女子寮の美琴と黒子の部屋にて

 

白井黒子がパタパタと自分のベッドの上でバタ足のようにばたつかせていた

 

「うー…」

 

そんな音をBGMに美琴は自分の机の上で勉強に励んでいる

いくら常盤台と言えども予習は大事なのである

大事なのだが…

 

「うーー…」パタパタ

 

これである

事の顛末は先ほどアラタに電話した際にだいたい聞いた

だいたい聞いたのだがこればっかりは当人たちで何とかしてもらうほかない

しかし

 

「うーーー…」パタパタパタパタ

 

相も変わらずうじうじパタパタする我が後輩にいい加減美琴はキレた

 

「ああもう鬱陶しいっ! ったくもう! そんなに気になるならさっさと仲直りしてくればいいじゃないっ!!」

 

その言われた黒子は漸くパタパタする脚をやめて枕にうずめていた顔を上げる

 

「それは…」

 

「このままだと初春さん、あんたに愛想尽かしてほんとにコンビ解消しちゃうかもよ?」

 

美琴は相対するように自分のベッドに腰掛ける

相変わらず黒子はその場を寝たっきりで動かない

 

「…それくらいで終わるなら、所詮その程度の関係だったということですわ」

 

「またそんな強がりを…」

 

「強がってませんの!!」

 

はぁ、と美琴は内心でため息をついた

わりかし長い付き合いだからなんとなく彼女の性格はわかるがどうしてこんな黒子と普段おとなしい初春がどうしてコンビなんて組んでいるのだろうか

 

思い切って聞いてみるとようやく黒子は身体を起こし

 

「私だって…」

 

そこで少しの間をとった

俯いた彼女はやがて自分の昔を思い出すように

 

「私だって…最初はそんなつもりありませんでしたの。…あんなとろくて何もできない子…ですけれど―――」

 

◇◇◇◇◇◇

 

話は白井黒子が小学六年生だったころに遡る

 

その日の仕事はすべて終わり、当時担当だった固法は背後にいる黒子へと向き直る

 

「今日の巡回はこれでおしまい。なにか、質問とか気になったとことかある?」

 

黒子は自分の背で両指をいじりながら、たどたどしく聞いてみる

 

「では、一つお聞きしたいのですが…」

 

「なに?」

 

「風紀委員にもなって一年にもなるのに、なぜわたくしに任されるのは、裏方や雑用、先輩同伴のパトロールばかりですの!?」

 

固法にとって予想しやすい言葉が返ってきた

恐らく彼女は不満なのだ

確かに彼女は成績も優秀だし、仕事もきっちりこなす優等生だ

それを予見していた固法は少し笑み交じりで

 

「成績優秀な自分が半人前扱いされるのが不満?」

 

「そ、そういう訳ではありませんが…」

 

そう言いながら黒子は少し俯いた様子で

 

「お、おそらく私が小学生だからかと…」

 

そういう彼女の頬は真っ赤に染まっていた

固法はそんな黒子の頭をぽむ、と優しく手を置いて

 

「年齢だけが問題じゃないわ。あなたの場合、なまじポテンシャルが高いせいで全部一人で解決しそうとする嫌いがあるからね」

 

そう

彼女は確かに優秀だ

教えられた護身柔術を完ぺきに使いこなしているし、下手をすれば一人でも犯人を確保できてしまうだろう

だからこそだ

このまま行けば彼女は仲間を頼ろうとしない孤独な者へとなってしまう

だから

 

「もう少し周りの人間を頼るようにならないと危なっかしいのよ」

 

対して言われた黒子はやっぱりムスっ、とした表情を見せる

 

「ほら、そんな顔しないの!」

 

半ば強引にその場の空気を変えんと固法は明るい声を出す

 

「たくさん頑張ったご褒美に、なにか甘いもの奢ってあげる! お金下ろしてくるから、ちょっと待ってて」

 

そう言って固法は歩き出してしまった

そんな固法の背中を見る

 

…なんだろうか、うまくはぐらかされた気がする

そのたびに黒子は思うのだ

 

(…やっぱり子供扱いされてますの)

 

 

第七学区の第三支所

わかりやすく言うなら郵便局である

 

その郵便局にはATMも完備しており代金もその場で引き出せる新設設計だ

 

「…あれ、固法」

 

「あら、アラタも来てたの? 奇遇ね」

 

店内にはお客のほかに一人知人が先に来ていた

その知人は固法の友人で風紀委員としては後輩にあたる同僚、鏡祢アラタだった

 

「貴方もお金を引き出しに?」

 

「残念、俺は逆に預けに来たの。…まぁ意外に客が多くて待ってるんだけど」

 

そう言ってATMに並んでいる客足を見やる

今もATMの前にはぞろぞろと一般客が足を運び並び続けている

確かにこれは時間がかかりそうだ

 

「お前は? まぁ見ればわかるけど」

 

「えぇ。この子に甘いもの奢ってあげようって思ってね」

 

そう固法は今やってきた女の子と話し込んでいる黒子に視線をやった

 

「風紀委員も大変だなぁ」

 

「同じ支部所属のくせに何言ってんの」

 

軽く軽口を叩きあいながらアラタは背もたれのない共同ソファへと歩いて行った

相変わらずだなぁ、と短く息を吐きながら視線をATMに戻そうとして、

 

「…ん?」

 

妙な人物が視線に入ってきていた

妙、というのは恰好だけでなく、その仕草にある

 

「どうなさいましたの?」

 

固法の真剣な表情に気づいた黒子も彼女に歩み寄ってこちらを見上げていた

固法は自分の右人差し指を自分の口元に当て、静かに、というジェスチャーを伝えたあと視線をその人物へと向ける

 

「あの男」

 

固法の呟きと共に黒子がその人物に視線を向ける

その人物はニット帽に肩からバッグをかけた緑のジャージを着込んだ男

 

「局員の視線や、その配置、場所ばかりを気にしてる…」

 

そう言って固法は黒子の肩に触れ少し身をかがめる

 

「他人の所有物を勝手に〝視〟るのは気が引けるけど…」

 

そう呟きながら一度固法は瞼を閉じる

神経を研ぎ澄ませ、カッと開けて国法はその男の所有物を視る

 

彼女の能力は透視能力(クレアボイアンス)

内部が隠れて見えないものを解析したり、遠隔地を見たりできる能力の事で彼女のレベルは3である

持ち物程度なら完全に透視できるのだ

しかしその男の持ち物は今のところ変なものは見当たらない

 

「…妙なものは持っていないようね…。っ!?」

 

しかしいずれ彼女の表情が驚きに染まる

固法は黒子の耳にそっと自分の口を近づけるとその事実を伝えた

 

「右ポケットに拳銃…」

 

「!? 強盗ですの!?」

 

十中八九そうだろう

念のために固法は共同ソファに腰掛けているアラタに視線を向けてみた

アラタは固法の視線に気づくとわずかだが頷くのが見えた

どうやらアラタも気づいているようだ

 

なら

 

「局員に伝えてくるわ…。貴方は万が一に備えて、一般客の誘導準備を」

 

「! 逮捕しませんの!?」

 

「馬鹿な事考えちゃダメ。犯人確保は、警備員(アンチスキル)に任せなさい」

 

そう言うと固法は近くの局員に向けて歩き出し、事情を説明し始めた

それを黒子は眺めていた

…だが頭の中では納得していなかった

 

そんな悠長なことを…っ!

 

先に手を打たれたどうするのだ、それこそ一般人に危害を加えかねないのに…!

 

 

共同ソファに腰掛けていたアラタは件の男の動向を目で追っていた

恐らくあの鞄の中には人質として縛り上げるロープか何かの拘束具が入っているはずだ

 

(けど、アイツはこういったことをするのは多分今回が初めて…)

 

額から伝う汗でなんとなくわかる

慣れている奴はこういったとき思い切ってやるものだ

しかし未だに渋っているってことは、だ

 

(…たぶんこいつの失敗に合わせて動き出す…仲間がいるはずだ)

 

目の前の男はおそらくフェイク、囮だ

この男で成功すればそれはそれで問題はないだろうが失敗する可能性も加味しているハズ―――

 

 

 

っパァァァンッ!!

 

 

 

そう思考に埋没していると一発の拳銃の音に現実に引き戻される

 

(…先手を打たれたか)

 

「お、おかしな真似するなよ? おお、お客も、あんまり騒がないでくれよな…」

 

しかし明らかに焦っているし若干声が強張っている

確実に素人だ。…いや、強盗に素人もクソもないのだが

 

(けど、今固法が説明してるし…いざとなったら…)

 

だがその予想は実現することはなかった

 

(…なっ!?)

 

どういう訳か固法の後輩がその犯人に向かって駆け寄っていたのだ

 

 

(訓練どうりやれば…!!)

 

黒子は一直線に強盗犯に向かって接近しその勢いのまま強盗犯のつま先を思いっきり踏んづけた

 

「いっ!?」

 

今まで感じたことのない痛みをつま先に受けて悶絶する

その隙を逃さない

 

黒子は身体を回転させて左足全体を使って強盗犯の両足を引っ掛けて転倒させる

そしてトドメと言わんばかりに思いっきり強盗犯の肺をめがけて踏んづけた

 

「がっ、はぁ…!?」

 

その声を最後に強盗犯はガクッとなり気を失った

 

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

初めてだが上手くいった…!

なんだ、こんなものなのか…

 

「…簡単ではありませんの―――」

 

「きゃあぁっ!?」

 

また別の悲鳴

なんだ、と言わないばかりに黒子がその悲鳴の方へ目線を向ける

 

「ったくアホか…。何ガキにのされてんだよ。つかえねぇ」

 

先ほどの男とはまた別の男

分厚い茶色じみたジャンパーを着込んだ男が一人の女の子にナイフを突き出して人質に取っていたのだ

 

しかもその女の子は―――

 

「初春っ!!」

 

さっき自分と話していた友人の女の子、初春だった

 

「あれ、こいつ知り合いか。…ふぅん、こりゃ好都合」

 

そう言って男はにやりといやらしく笑むのだった

 

 

突きつけられたナイフに初春の表情が恐怖に引きつる

当然だ

目の前にナイフを突きつけられたら誰だって怖い

 

「おっと動くなよ。お前風紀委員だろ。風紀委員が人質見捨てるわけねぇよなぁ。ましてや自分の知り合いを」

 

「…くっ!」

 

その言葉に黒子の表情は苦いものに変わる

 

(…ったく…)

 

その場を見ていたアラタの表情も同様に変化する

流れが最悪な空気になってしまった

この状況をどうする、とアラタは考える

下手に動けばあの女の子が怪我をするのは確実だし、かといってこのまま強盗を逃す気になどならない

しかしチャンスでもある

相手は風紀委員を一人しかいないと思っている(と言っても警戒はしているが)

 

このまま一人だと思っていてくれればアラタも固法も動きやすいのだが―――

 

しかしまたしても予想外の事がおこってしまう

 

ジリリリリリリッ!! とけたたましい音と共に店内のシャッターが閉まっていく

こんな状況で警報など犯人を煽る以外のなにものでもない

その行動の意味が表すのは一つ

 

(お客様よりお金様の方が大事ってかよ…。くそったれ…!)

 

苛立ちを通り越してあきれる

やっぱり人間我が身が大事なようだ

 

総てのシャッターが閉まりきったあとまた警報と共に警備ロボットが起動する

警備ロボットはファンファンファン…という音をならせ続け、犯人の前に移動した

 

ちょうどその場所は犯人と黒子の間に位置する場所だ

 

「…ち、めんどくせぇ」

 

犯人は初春を片手で抱えながら右ポケットに手を突っ込んだ

この場所からでは見えないがわずかな仕草でなんとなくわかった

 

<ケイコクカンリョウ。ジッコウシマス>

 

そんな機械音と共に警備ロボットが車輪を展開させる

そして勢いをつけて警備ロボットが犯人めがけて突っ走った

そしてそれを追いかけて、黒子も走った

 

 

黒子はその警備ロボットのすぐ後ろを走る

警備ロボットが気を引いてくれれば、先ほどのように―――

 

「!?」

 

しかしその安易に予想は容易く砕かれた

何やらビキビキと砕けるような音と一緒に警備ロボットが動きを止めた

 

そして気が付いたときには自分は固法の腕の中にいたのだ

 

ボォン! と耳に聞こえる爆発音

それは警備ロボットが破壊された音と知るのに時間はかからなかった

 

「な…何が…!?」

 

訳もわからず視界が開けたとき、固法がずるり、と手をだらけさせる

思わず黒子は彼女を見た

 

「!? 先輩…!!」

 

瞬間彼女は絶句した

固法はボロボロで額からは血が流れている

先ほどの爆発で自分を庇ったせいで、彼女は怪我をしたのだ

 

「ど、どうして―――」

 

「おい」

 

聞こえたその言葉の方向に振り向いたときには犯人の蹴りが黒子の顔面を捉えていた

 

「あうっ!」と短い嗚咽と共に倒れこむ

 

「白井さんっ!!」

 

「おっと…」

 

思わず駆け寄ろうとした初春を犯人は手を掴んで制止させる

こいつは人質としては有用だ、手放すわけにはいかない

 

「やっぱ仲間がいたか。…あのバカみたいに俺もやれると思ったのかよ」

 

言葉と共に犯人は黒子の左足首を思いっきり踏みつけた

 

「っぐうぅ…!!?」

 

激しい痛みが黒子を襲う

小学六年、ましてや足首を成人男性に思い切り踏まれているのだ

その痛さは計り知れない

 

(…わたくしのせいですの…!)

 

その激しい痛みを感じながら黒子は悔いた

自分ならやれる

そう思って行動した自分自身の軽率な判断が初春も、固法も危険にさらしてしまった

なんて様だ…半人前以下だ

 

(…でも…!)

 

黒子は方向を変え、人質にされている初春へと手を伸ばす

 

が、今度はその手を思いっきり踏みつけられる

 

「ぐっううう!!?」

 

華奢な指が地面にたたき伏せられる

そのたびに初春が自分を心配する声が聞こえてくる

そうだ、こんなに自分を心配してくれる友人を、これ以上危険にさらすわけにはいかない

黒子は残った力を振り絞り残った右手で初春の足を掴んだ

 

これ以上涙に濡れた彼女を見るのはもう嫌だった

 

だから、必ず―――

 

「助けて見せますの…」

 

呟きと共に黒子は自分に宿った超能力を発動させた

瞬間、今さっき人質だった初春は〝消えた〟

 

「なっ!」

 

犯人の表情が驚きに変わった

―――ざまぁみやがれ、だ

 

そして犯人は理解した

 

空間転移(テレポート)だぁ!?」

 

その声が発せられると同時、先ほど外へ飛ばした初春が防犯シャッター―を叩く音が聞こえてきた

そして彼女の声も

 

 

〝白井さん!? 中にいるんですか!? どうして私だけ―――〟

 

 

シャッター越しに聞こえるその問いかけに黒子は答えない

答えたって聞こえないだろうし、大声を出してまで初春に答える気力がなかった

それに出来ることなら自分も一度外に出て体制を立て直したかった

だが今の黒子のレベルでは、自分を転移させることは出来なかったのだ

 

それに

 

「まだ…事件を解決していませんの…」

 

「…この、ガキっ…!」

 

 

バキィ、と防犯シャッターの中で誰かが蹴っ飛ばされた音が聞こえた

その誰か、とは考えるまでもなく白井黒子だ

先ほどから初春はシャッターをとめどなく叩くが反応は返ってこない

このままでは白井が大怪我を負ってしまう―――

 

「―――誰かっ!!」

 

初春は涙を流しながら辺りを歩く人に助けを求めた

自分ひとりじゃあどうしようもできないと悟ったから

 

「中に、強盗がっ!! 人が閉じ込められてて…!!」

 

必死に言葉を生み出して周囲を歩く人に呼びかける

だけどそれに耳を傾ける人は今のところいない

仮にそれが真実だとしても、好き好んで首を突っ込む輩などなかなかいない

 

「…?」

 

だけどその声を聞いた人物がいた

 

それは常盤台の制服に身を包んだ女の子―――

 

 

蹴っ飛ばされた黒子は共同ソファ近辺に吹っ飛ばされた

彼女は口元の血を拭いながら犯人を睨みつけた

警報が鳴ってしばらく経つ、人質を取られないよう時間を稼げば―――

 

「お前が何を考えてるか、当ててやろうか」

 

「…え?」

 

そんな思考は犯人の一言にかき消された

きょとんとする黒子を尻目に犯人は続ける

 

「警報が鳴ってだいぶ経った、人質を取られないように俺を足止めできれば、そっちの勝ち。…図星だろ?」

 

く、と黒子は表情を歪ませる

考えていたことのほぼすべてを看破された…だがそれがわかったところでこの犯人がこの場にいる以上、うまく立ち回れば―――

 

「だがな」

 

犯人は徐にビー玉サイズの鉄球を取り出して、それを防犯シャッター側へ放り投げた

投げられた鉄球は歩くようなスピードでゆったりと進み、防犯シャッターの前を隔てた強化ガラスへと突っ込み、その強化ガラスをぶち破った

 

しかし鉄球は止まらずに、その防犯シャッターをも貫いてそのシャッターに小さいながらも穴を開けた

 

「!?」

 

黒子の顔はまた一変する

先ほど警備ロボットを破壊したのはこの能力だったのか…

 

絶対等速(イコールスピード)

 

犯人は余裕を崩さず、また鉄球を取り出して、放り投げた

再び放られた鉄球は先ほどと同じ速度で突き進み、ガラスを砕き、シャッターに穴を開ける

二~三放り投げれた時には人ひとり分が通れるくらいの大穴が開いていた

 

「俺が投げたものは、能力を解除するか、それが壊れるまで何があっても進み続ける」

 

説明を終えた犯人は口元を歪ませて付け足した

 

「残念だったなぁ、目論見が外れてよ」

 

その穴をただ茫然と黒子は眺めていた

そんな黒子を一瞥し、犯人は時計を確認しちっ、と顔を歪ませた後、黒子に向かって声をかけた

 

「おい」

 

「っ!?」

 

黒子は警戒を崩さず、犯人を睨む

対して犯人は動揺することなく言葉を続ける

 

「お前の力で金を取り出せ。そうすれば全員解放してやる」

 

 

「お前の力で金を取り出せ、そうすれば全員解放してやる」

 

どこまでも腐ったヤツだ、と心の中でアラタは罵った

先ほども黒子が今自分が座っているソファ近辺まで来たとき思わず駈け出そうとしたほどだ

しかし、下手に動けば一般人を巻き込みかねない

完全な隙ができるまでは動けなかった

 

「いや、これからは俺と組まないか? 俺とお前が組めば無敵だぜ、なぁ、どうだ」

 

挙句にそんなことまで言いやがる

先ほどの男がゴミとわかれば小学生まで勧誘するのか、最近の強盗さんは

 

(…どうする。後輩)

 

 

思い起こせば最低の初仕事だった

勝手に突っ走って、先輩に怪我させて、お客を巻き込んで…

 

(でも…)

 

黒子は先ほど踏みつけられた左手を睨みつけて意を決したように立ち上がった

 

「そうですわね…」

 

そのまま立つ黒子の言葉に気をよくしたのか犯人はにやりと口角をつり上げた

 

しかし黒子が言った言葉は予想とは真逆の言葉だった

 

 

 

「絶対にお断りですの…!!」

 

 

 

そうはっきりと言ってやった

 

「あいにくと、郵便局なんか狙うチンケな強盗なんてタイプじゃありませんの…!!」

 

黒子はニィ、と不敵に笑みを作って

 

「もう心に決めてますの!!」

 

 

「もう心に決めてますの!!」

 

穴があけられた防犯シャッタ―の中から黒子の大声が聞こえてきた

 

思わず周囲に助けを求めていた初春も声の方を振り向いた

ボロボロになりながらも凛と立つ黒子の姿がその防犯シャッターの中にあった

 

「自分の信じた正義は、決して曲げない、と!!」

 

 

初めてだった

まさか小学六年にあんな啖呵が出るとは誰が思っただろうか

 

「…はは、良い後輩持ったな固法…」

 

これ以上、アラタが待つ理由はない

もうあの子に負担はかけたくはないのだ

 

そう思い立った彼はもう動き出していた

 

 

「そっかぁ…残念だぁ」

 

わざとらしく頭を掻きあげるように犯人は手をやった

その仕草が本当にわざとらしく、逆に清々しく思えるほど

 

(あの能力、威力はあっても速さはない…この足が、言うことを聞いてくれれば…ッ!)

 

だがこういう時に限って自分の足は言うことを聞いてくれない

 

「なら…、ここで死ねぇっ!!」

 

そう叫んだと同時、犯人は黒子に向かっていくつもの鉄球を投げつけた

 

「!?」

 

「一度に一つしか投げられないとは言ってないぞぉ!!」

 

完全に失念していた

このままでは―――

 

「え、うわぁっ!?」

 

その時だった

唐突にぐいと首根っこを引っ張られ自分の代わりに前に出る一人の男がいた

男は一瞬黒子を見て、グッと親指を立て唇を動かす

 

〝グッジョブ〟と

 

 

走り出す刹那、彼は外にいる人影を視認した

性別は女性、常盤台の制服を着込んでいるその女の子はこちらに向けて何かを打ち出す構えを取っている

 

一瞬、視線が合った

彼女の眼は語る

 

〝行きなさい〟と

 

その視線のメッセージを見たアラタは同じように視線で返す

 

〝分かった〟と

 

走り出す勢いを利用したアラタは一気に足を前に突き出し身をかがめ、スライディングキックを繰り出した

投げられた鉄球はすべて黒子に向けられたもので間隔は小さいものだったが、その鉄球がアラタはおろか、黒子にあたることはなかった

 

何故なら、先ほどの穴から唐突に放たれた雷にすべて焼き払われたからである

 

鉄球が焼き払われた以上、アラタの進行を妨げるものはいない

そのまま真っ直ぐ突き進んだ彼の両足は犯人の足に当たり、犯人はバランスを崩し前のめりに倒れこむ

 

「がっ!?」

 

だがそれだけで済むはずがなく、アラタはそのまま倒れこむ犯人の胸ぐらをわざわざ手を伸ばして掴んだ後その場で回って入れ替わるように犯人の背中を地面に叩きつけてその顔面に

 

「でぃやぁっ!!」

 

真っ直ぐに握った拳を叩きつけた

バキリ、と鈍い音を立て、犯人はみっともなくその場でだらりと気を失った

 

「…」

 

今も呆然とこちらを見る黒子に気づいたアラタは小さく笑みを浮かべると

 

「お疲れ」

 

そう気さくな笑みと共に親指を立てたのだった

 

 

警備員がやってきたのは事件が収束して数時間経った夕刻

 

犯人は連行され、固法も手当を受けている

 

仕方なく今回はアラタも警備員の仕事を手伝っているのだがぶっちゃけよくわからない

ソレでいいのか風紀委員、というツッコミはなしの方向で

 

とりあえず治療を終えた固法の隣にアラタは腰を下ろした

ふう、と短く息を吐く

 

「やっぱりすごいです。白井さんは」

 

共同ソファに腰掛け、初春の治療を受ける黒子たちの方からそんな声が漏れてきた

 

「本当に一人で解決しちゃうなんて…」

 

「最後は、持っていかれちゃいましたけどね」

 

苦笑い交じりに黒子は返した

それと同時にもう一つ、黒子はわからないことがあった

 

(鉄球を焼き払ったあの雷…あれは…)

 

実質、確保できたのはほぼあれのおかげと言っても過言でもない

 

「私、約束します」

 

「へ?」

 

思考にふけっていた黒子を呼び戻したのは初春のそんな一声

 

「己の信念従い、正しいと信じた行動をとるべし」

 

「…え」

 

「私も、自分も信じた正義は決して曲げません。何があってもへこたれず…きっと、白井さんみたいな風紀委員になります!」

 

あんなに怖い思いをさせてしまったのに、一途に彼女は自分を慕ってくれている…

その厚意が純粋に嬉しかった

 

今まで何でも一人でできると思っていた

だけどそれは間違いなんだってこの一件で見に染みた

 

だから

 

「…その約束、わたくしにもさせてくださいな」

 

「ふぇ?」

 

「…今日まで全部一人でできると思ってた。けど、それはとんだ思い違い…。ですから」

 

黒子は初春に向かって手を伸ばす

それは傷だらけの左手

 

「これからは二人で、一人前になってくださいます?」

 

差しのべられたその手を見て初春は笑顔になる

拒む理由なんてどこにもなかった

 

「はい」

 

きゅ、と彼女の手を優しく握り返す

それは何があってもへこたれず、互いに励ましあい、共に一人前になる

 

夕焼けに交わした、そんな約束―――

 

◇◇◇◇◇◇

 

 

「へぇ…。いい話じゃない」

 

黒子からの昔話を聞き終えた美琴は素直にそう口にした

そういった経緯があったからこそ、あの二人は見えない絆で結ばれているのだろう

 

「…」

 

しかし黒子はどういう訳か先ほどから黙ったまんまである

 

「…? どしたの?」

 

「い、いえべつに」

 

なんかものっそい狼狽えてるのだけど

それともなのか思い出したのだろうか?

 

冷や汗をだらだらと流す黒子

うん、きっとそうだ

なにかをたった今思い出したか、どうやって謝ろうか、などと考えているのだろう

 

そんな狼狽えている黒子の携帯が鳴りだした

慌てた様子で携帯を取り耳に当て応対する

 

「は、はい。白井ですの。…え? 初春が?」

 

電話の相手はアラタだった

 

<おう。例の車上荒らしの居場所を特定したっつって飛び出してった。あいつずっと探してたんだぜ?>

 

「…初春…」

 

<なぁ。お前はどうするんだ?>

 

アラタに問いかけられ、黒子は考える

事実といえど自分はその約束を一時的に忘れてしまったのだ

非はこちらにある、初春は許してくれるだろうか…

 

「己の信念に従い、正しいと信じた行動をとる、だっけ?」

 

悩む黒子に美琴の声が届いた

彼女は黒子の背中を押すように

 

「いいじゃん。それでぶつかり合って、それでも一緒に進んでいけるなら」

 

それが仲間

生きていく上で、楽しいこともある

しかし時に衝突するときもあるだろう

だけどそれもひっくるめて、初春はきっと黒子を受け入れてくれる

 

「…」

 

やがて黒子は何かを決意した表情を見せ、ベッドから飛び降りたと思ったらその場から空間転移をして姿を消した

 

空間転移を見届けた美琴はふぅ、と安堵の息を吐きながらベッドから立ち上がる

 

「やれやれ。せわしないなぁ」

 

だがこれはこれで、青春なのかもしれない

 

 

夕刻の道を初春は走り続ける

いろいろとパソコンを用いて今さっき車上荒らしのアジトを突き止めることに成功したのだ

このまま放っておけばまた彼らはまた繰り返すだろう

 

そんな初春の隣に

 

ヴォン、という音と共に黒子が現れた

スタッと地面に着地した黒子は同じ早さで初春の隣を並走する

 

少しの間沈黙が続き、地面を靴が蹴る音だけが耳に響く

しかしそのいつしか業を煮やした黒子が口を開いた

 

「な、なにをぐずぐずしてますのっ!」

 

その言葉にまた初春はむっとした表情で黒子を見る

だが黒子の頬は若干赤くしながら付け足した

 

「そんな事では、いつまで経っても二人で一人前になんてなれませんわよ!」

 

そう言ったあと黒子は恥ずかしさからペースを上げて初春を追い抜き彼女の前を走り出した

 

「…!」

 

覚えててくれた

 

もしかしたら思い出したのかもしれないけれど今となってはそれは些細なことだ

こみ上げる嬉しさを抑えながら、初春は黒子の後ろを追いかける

 

…だが普段運動が苦手な初春にとって黒子に追いつくのは至難の技で

 

「し、白井さん! ちょ、ちょっと早すぎませんかっ!?」

 

「ああもう! 先に行きますわよっ!!」

 

「ちょ、空間転移(テレポート)はなしですよぉっ!!」

 

そんな微笑ましい、とある日のコト―――

 

◇◇◇

 

時間は深夜に突き進む

 

住民のほとんどが寝静まったその道すがら、そこに一人奇妙な人影の姿があった

否、それは人影というにはとても異形な姿をしている

全身が金色で背に亀の甲羅のようなものを背負っている

時刻が深夜で助かった

日中であれば阿鼻叫喚に包まれていただろう

 

以降、彼を亀の化け物と呼称する

 

そんな亀の化け物の耳に、何かが走る音が聞こえた

 

バイクの音だ

きょろきょろ、とあたりを見回してみる

その音は次第に近づいていき、音も増してくる

 

やがて亀の化け物はそれを視界にとらえ、ここに来るのを待った

 

きぃ、とバイクを停めてそこから降りたのは一人の男

 

「…やっぱり怪人…。連絡の通りだ」

 

その男の名は立花眞人

この学園都市の警備員の一人だ

 

乗っていたバイク〝ガードチェイサー〟から無線を通じて声が聞こえる

 

<立花、聞こえるか>

 

「はい、影山さん」

 

<いいか、危険を感じたら迷わず逃げろ。わかったな>

 

「了解です!」

 

そう返答して無線は切れた

立花は一つ深呼吸して調子を整えるとバイクに積んであった一つのカバンのようなものに手を伸ばす

 

そのバッグは妙な形をしており、なにかのボディパーツを彷彿とさせ、人間の腕が通りそうな穴が二つ開いていた

眞人はその穴に両手を突っ込んでそれを自分の胸に持っていく

 

するとそのカバンから何かが起動し、それを眞人に装着させていく

次第にそれは彼の全身を包み、その場に青い戦士が現れた

 

名を、G3

 

それはこの学園都市で噂になっている仮面ライダーの一人、クウガをベースに作成されてはいるがほとんどがオリジナルの強化スーツだ

 

「装着完了、行動を開始します!」

 

G3はバイクに積んである一丁の突撃銃〝スコーピオン〟を左手に持ち、右手には腕全体を包み込むように装着された高周波ブレード〝デストロイヤー〟の二つの武器を準備し、亀の化け物に立ちふさがるように前に出た

 

初めてスーツを纏った緊張感に少し怯みそうになるが頭を振って恐怖を振り払うとその怪人の足元に向かってスコーピオンを発砲する

発砲と共に亀の怪人が動きだしこちらに向かって走り出した

 

「来た!」

 

接近する怪人に向かって再びスコーピオンを連射する

しかし効いてはいないのか構わず怪人はこちらに向かってきていた

 

「なら…!」

 

相手の接近に合わせて右手のデストロイヤーを突き出してタイミングを計る

 

視線を目の前に向けていたがゆえに

 

「シャアァァァッ!!」

 

背後からとびかかるもう一体に気づかなかった

 

「え!?」

 

飛び掛かったもう一体はG3を蹴りつけて大きく吹き飛ばす

蹴っ飛ばされたG3は地面に身体を滑らせながら身を悶えさせる

 

「もう一体!?」

 

改めてG3は怪人二体を睨んだ

金の亀の怪人と銀の亀の怪人、二人の凶悪な目がG3を見据えた

 

「流石に、これは不味いかな…」

 

よろよろ、と立ち上がりながらそれでも、と身体に言い聞かせる

ここで引けばこの学園都市にいる子供たちに被害が及ぶ

警備員(アンチスキル)として、そして何より大人としてそんなことはできない

それはこのG3を与えられた責任の放棄だ

 

「引けない、なにがあっても…!!」

 

そう決心し、二人の怪人に相対したその時だ

 

「はぁっ!」

 

自分の背後から何かが跳躍し、金の亀怪人めがけてキックを繰り出した

金の亀怪人はとっさに背を向けて亀の甲羅を盾にするように突き出す

一瞬その甲羅から何か障壁みたいなのが生まれた気がした

 

「何…?」

 

放たれた蹴りはその障壁に阻まれて怪人に届くことはなかった

ガシンっ、という音と共に蹴りを放った男は弾かれる

男は地面に着地しそのままG3の下に飛び退く

 

「あ、貴方は…!」

 

ようやくその男を視認できた時、G3は驚いた

それはこのスーツのベースになった存在、〝クウガ〟だったからだ

一方クウガはこちらを見ると短く一言

 

「片方、任せていいか?」

 

まるで気さく友人のような感じで彼は言う

彼とは今回が初めて会うはずなのだがなぜだろうか、そんな気がしない

まるでどこかで会っているような…

しかし今はそんな事を考える状況ではない

 

「…はい!」

 

力強く頷くとG3は改めて右手のデストロイヤーを構えなおす

 

同様にクウガもその辺に転がっていた鉄パイプを持ち

 

「超変身!」

 

と叫んだ

 

すると彼の身体が徐々に紫色の鎧を纏った姿に変わり、持っていた鉄パイプも剣先が伸びる両刃の剣へと変化した

 

「…行こう」

 

「えぇ!」

 

互いに頷きあって、G3とクウガは亀の怪人たちに向かって駆け出した

金の亀怪人はクウガが、銀の亀怪人にはG3がそれぞれ向かって走り出す

 

 

スコーピオンでの連射でけん制しつつ、G3は銀の亀怪人へと接近していき、一定の距離を保ちながら銃撃で怪人をけん制する

 

亀怪人はそれを止めようと拳打を繰り出してきた

数発喰らいながらもG3は怯まない

しかし不意に放たれたパンチが左手に持つスコーピオンが弾き飛ばされた

 

「っく!」

 

観念したG3は素手となった右手を用い、相手の攻撃をいなすことに集中する

こういった戦いは初めてだが、影山や矢車に鍛えられていたおかげか、相手の攻撃を見切るのは意外にも容易だった

 

「はぁ!」

 

デストロイヤーを起動させ、まず一度振る

しかし相手は大きく後ろに飛んでそれを回避する

 

勝負は次の一瞬

 

しばらく相手を睨みながらただ待つ

 

静寂が場を支配する

 

先に動いたのは亀の怪人のほうだ

 

「シャアァァァッ!!」

 

という雄叫びと共に銀の亀怪人がこちらに向かって接近してきた

そして繰り出されるパンチを左側に身体を動かすことで回避し、そのがら空きの身体に

 

「ハァァァァっ!!」

 

高周波全開にしたデストロイヤーで切り付けた

確かな手ごたえを感じる、後はこのまま―――

 

「斬り抜けるっ!!」

 

声と共にブン、と大きく動かされたデストロイヤーはザシュ、と銀の亀怪人を両断した

 

後方に広がる爆発を背に受けてG3は漸く肩の荷が下りたといわんばかりに手をだらりと下げた

 

「はぁ…はぁ…」

 

倒せた

人間である自分が、初めて化け物を…

 

「そうだ、彼は―――」

 

 

一方のクウガはあくまで余裕な態度を崩すことなく金の亀怪人の攻撃を手で容易くいなし、ゆっくりと歩いていく

ただ歩く、というだけなのにそれだけがただ怪人の恐怖を演出する

 

「悪いな。時間はかけていられない」

 

そう短く呟くと手に持った剣―――タイタンソードを静かに金の亀怪人へと突き出した

 

怪人の方もとっさに背を向けて甲羅で防ごうと試みるが先ほどの蹴りみたいにうまくはいかなかった

というかその剣はその防御ごと貫いて怪人の背中を貫き腹部に突き刺さる

 

「―――!!!!」

 

貫通するとは思わなかったのか、叫ぶ間もなく爆散する

 

「―――」

 

その戦いをG3はただ茫然と見ていた

そのあまりにも圧倒的なその姿にただ見惚れていた

 

(…強い…!)

 

もしこんな人が自分たちの、人類の敵になってしまったら

そう思ってしまうとゾッとする

 

「…ふぅ」

 

爆炎の中から出てきた彼は剣を払うように振るう

そしてその後にその剣を適当に放り投げた

クウガの手から離れた剣はまた元の鉄パイプに戻っていた

 

いつの間にかその姿も紫色の鎧の姿から駆け付けた時の赤い姿になっていた

 

「…」

 

戦いを終えたクウガはその場から踵を返しその場から歩き去ろうとする

 

「待ってください!」

 

その背中をG3が呼び止めた

呼び止められたクウガはゆっくりと振り返る

 

「…?」

 

頭の上には疑問符が浮かんでいるのが見えた

そんなクウガにG3は問いかける

 

「…貴方は、何者なんですか?」

 

問いかけられたクウガはその問いかけにうーん、と考える素振りを見せた後にこう答えた

 

「仮面ライダー」

 

「…仮面、ライダー?」

 

「そう。おせっかいが好きな仮面ライダーさ」

 

そう言い残してクウガはまた踵を返す

背中越しにクウガは右手だけ上げて手を振った

そんなクウガの背中を見ながら装着を解除しながら呟いた

 

「…仮面ライダークウガ…彼は一体…?」

 

何者なんだ、と

 




ちなみに今回のG3の装着はアイアンマンみたいなものだと思ってください

…最先端科学な学園都市だからできると思ったんです…

ではまた次回
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。