ドラゴンが飛んで行った塔の頂上を見上げたまま、ミヅキ達はしばし茫然としていた。
「塔の上に飛んでいったな…」
「おそらく、ここのエリアボスと思われます」
「それにしてもびっくり…」
「ピナ、大丈夫?」
「…きゅる」
ミヅキは口に咥えていた黒文字を煙草のような仕草で摘まんでふーと息を吐いた。
「さて…、とりあえず最終目標はあのドラゴンぶっ倒すってことだろうが、まずはここの封印を解かなきゃな」
ミヅキ達は一旦戻り、手近にあった洞窟へと入り、進んで行った。
8話 吟唱の少女
「いいかセルティ、ヤバイと判断したらフィリアとシリカを乗せて離脱しろよ」
ルートがいくつか分かれていたので、ミヅキ・デネブ組、フィリア・シリカ・ピナ・セルティ組に分かれて探索することになった。
《蟻兵達の坑道》を進むミヅキとデネブの前に一人の白いケープの女性プレイヤーが歩いていた。
「ん…、こんなダンジョンに一人…か、珍しいな」
「というか、珍しい装いですな」
前を歩く女性プレイヤーは、飾り羽が付いたとんがり帽子を被った吟遊詩人という言葉がぴったりの格好だった。ご丁寧に背中にはギターまで背負っていた。
「なぁアンタ…」
「はい?」
「ちょっと話を訊いてもいいか?」
「ええ大丈夫よ」
女性プレイヤーは被っていた帽子を脱いだ。その髪色は薄い茶色でミルクティーのようだった。顔立ちから鑑みるに、シリカよりは上だがまだ少女と言える年齢のようだ。
「アンタもアインクラッドからここに飛ばされてきたの?」
「アインクラッド?変な事言うわね、ここはアインクラッドじゃない」
「あ?いやまぁ、そうかここもアインクラッドか、あ~と…いや、そうじゃなくてだな…、元々はどこにいたとか?」
「元々…どこだったかしら、あちこち移動しているからどことは言えないわ」
少女は皮袋からカラフルなキャンディを出すとミヅキの足下のデネブを指差した。
「ねぇこの仔にあげてもいい?」
「あ…?あぁかまわんが」
「ほ~ら、わんちゃ~ん、飴だよ~」
少女はしゃがむとデネブの前に飴を差し出した。
「ありがたく頂戴しいたします、お嬢さん」
「わぉ、この仔喋れるんだ」
少女はデネブを一頻りモフると満足そうに立ち上がった。
「お礼に一曲、聴かせてあげるね」
「は…?」
呆けるミヅキの前で、少女はギター片手に歌いだした。雪と氷の国の王族の姉妹の物語を叙情的にしっとりと歌うメゾソプラノが周囲に響いた。デネブでさえも緩みきった腹ばい状態で聞き入っていた。
おおそ2分ほどの演奏が終ると少女は一礼した。
「そろそろ行くわ。それじゃあね」
「あ、おい…、一人は危ねぇ…ぞ、」
女性プレイヤーはミヅキの制止を聞かず奥へと進んで行った。
「なぁデネブ、今の奴どう思う?」
「はい、非常に素晴らしい歌声の持ち主でした」
「ちげーよ。何か会話が微妙に噛み合わなかったんだよ」
「そういえば…」
この時ミヅキのHPゲージにはバフ表示がされていた。が、それに気付かずミヅキとデネブは先に進んだ。
《思い人の手を引いた隧道》
「ミヅ様…」
デネブの言葉と同時にミヅキは岩場の影に隠れた。その視線は前方にいる複数人のフード被った男性プレイヤーを注視していた。
(アイツら、あんなところで何をしてるんだ。この間見かけたPKしていたクソ野郎どもに似ている気がするが…)
なにやら話し込んでいたフード連中は奥へと進みはじめた。
「移動しました…」
「…よし、デネブ感知できるギリギリの距離で追いかけるぞ」
「承知しました」
「片づけてきましたぜぇ、ヘッド」
フードの男達が立ち止まると、そこにはリーダー格と思しきポンチョを着た男が岩場に腰掛けていた。その男のカーソルの色は・・・
「オレンジ…」
「どうやらあのポンチョ男がPK集団のリーダーのようですな」
ミヅキとデネブは相手に気付かれないように小声で話していた。
「遅ぇじゃねぇか、何手間取ってやがったんだぁ?」
「いやー案外手強かったんスよ」
「言い訳はいいんだよぉ!次はしっかりやれよぉ?」
男達の声は離れているミヅキ達にも聞こえていた。
(…まさか)
ミヅキは男達のカーソルの色と話している内容、さらに先ほどまでの状況から最悪の結論を導き出した。
「くっ…、そがァッ!!」
ミヅキは槍を握ると走り出した。
「それで、NEXT TARGETは…んん?」
ポンチョ男は迫ってくるミヅキに目を向けた。
「丁度いい、とりあえずアイツだ」
「りょうか~い」「うぃっす」
フードの男が二人、短剣と曲刀を持ってミヅキを迎え撃とうとした。
「オラッ!」
短剣を槍の穂先で弾き、反す石突で鳩尾を突き、そのまま動きを止めることなく曲刀を屈んで躱すと右手一本で槍をぶん回し柄による強烈な打撃を土手っ腹に叩き込んだ。そのままミヅキは突っ込んでポンチョ男の脳天に槍を振り下ろした。
「はっは~、やるじゃねぇか」
ポンチョ男は中華包丁のような短剣を抜くとミヅキ渾身の槍をいとも容易く受け止めてしまった。
ポンチョ男は拮抗状態から中華包丁をくるりと回してミヅキの槍をいなすと横一文字にミヅキを切り裂いた。
「ぐ…」
咄嗟に背後に跳んだが、胸元には切り裂かれた痕がくっきりと残っていた。
「ふぅん?今ので出血のデバフはいったと思ったが…」
ポンチョ男はミヅキに与えたダメージに眉を顰めた。
「名残惜しいが、俺らには次のターゲットがあんだわ。また会うことがあれば、そん時ぁ、最っ高のpartyを楽しもうぜ」
ポンチョ男がそう言うと、岩陰から新手が現われた。
「…リーダー、ここは、俺が…」
男はエストックを抜いた。
「おぅ、任せたわ」
エストック男はミヅキに迫ると躊躇無く首目掛けて切っ先を突き出した。
「…てめぇはあん時の!」
槍でエストックを弾いたミヅキはフードの奥で光る無気味な赤い目見て、セルティの仲間を襲っていた集団で指揮を取っていた男のことを思い出した。
「………」
赤目の男は無言のまま武器の特性を活かした連続刺突を繰り出した。
「フンッ!」
ミヅキは槍を両手で持つと全ての攻撃を柄で受け止めて防いだ。
「…やるな…」
「うるせぇっ!てめぇらセルティの仲間や両親だけじゃ飽き足らず、女まで殺りやがったな」
「…なんの、ことだ…?」
「惚けんな!」
ミヅキの錨の槍が唸りを上げて赤目の男に迫った。
「…時間は、稼がせてもらった…」
そう言うと赤目の男は懐から瓶を取り出すと地面に落とした。
「ミヅ様!お下がりを!!」
デネブの声と同時にミヅキは大きく背後に跳んだ。瓶が落ちて砕け散ると、煙幕が立ち込めた。
煙幕が消えると、赤目男も、当然ポンチョ男も、ついでに短剣と曲刀の雑魚もいなくなっていた。
「っ…!」
ミヅキは追おうとした。
「ミヅ様!いけません、かの者達はただのプレイヤーとは違います!実力もミヅ様と同等以上、それにPK行為を躊躇い無く実行できるのですぞ。今ここで追ってもトラップ、待ち伏せ、闇討ちに遭うのが目に見えています。ここは疾く撤退するのが得策です」
デネブがミヅキの前で必死に制止した。
「くそがぁっ!!」
ミヅキは手近の岩を殴った。
「うわっ、びっくりした~」
すると、背後から先ほどの吟遊詩人の少女が現われた。
「は…?お前…無事だったのか?」
「無事?さっきあたなと別れてからはモンスターにも遭遇してないけど、どうかした?」
「………」
ミヅキはてっきり少女が先ほどの男達に殺られたとばかり思っていた。が、それは早とちりだったようだ。
「はぁ~…、いや、なんでもねぇ」
ミヅキはその場にへたり込んだ。
「あ、さっきのバフちゃんと効いてたね」
少女はミヅキのHPゲージを指差した。
「ん?」
ミヅキも指摘されるまで気付いていなかったが、自分のHPゲージにいつの間にか防御力と出血耐性のバフが付いていたのに気が付いた。
「まさか…、さっきの歌か?」
「そ、私のエクストラスキル【吟唱(チャント)】の効果」
「…マジか」
ミヅキは自分の【薙刀スキル】とキリトの【二刀流】以外のそれも直接戦闘用でないエクストラスキルを始めて見た。
「そうか…、さっきの戦闘は知らないうちにアンタに助けられていたのか」
冷静さを取り戻したミヅキは先ほどの戦闘で斬られた箇所を撫でた。
「ありがとうな、俺はミヅキだ」
「わたくしはミヅ様の忠実な僕デネブと申します」
「ご丁寧にどうも、私はユナ」
少女はそう名乗った。
「歌、バフも有り難かったけど、単純にいい歌だったよ」
「はい、聞き入ってしましました」
「ありがと、最高の褒め言葉だよ」
その時、フィリアからメッセージが入った。
「…と、攻略に役立ちそうな所を見つけたみたいだ。悪ぃなユナ、また歌を聴かせてくれ。できれば、今度は圏内でゆっくりとな」
「うん、いいよ」
「どうせなら皆様も誘って行きましょう」
「うん、聴いてくれる人がたくさんいるのはすごく嬉しいな」
そうして、ミヅキとユナは別れた。
また会える、この時のミヅキはそう思って疑わなかった。
しかし、それが叶ったのは・・・・・・・・・・
映画、本当に感動しました
札幌の映画館での松岡さん竹達さん伊藤さん監督さんの舞台挨拶も見ました
先日の電撃祭で話題になっていた蟹トーク、面白かったです