見極めの試練
《飢えた獣人達の闘技場》
ミヅキ、フィリア、そしてデネブとセルティの二人と一匹と一頭は森を歩きながら現場確認をしていた。
「フィリア、このフィールドは一体何なんだ?階層も表示されてねぇし…」
「ここは、《ホロウ・エリア》と呼ばれているらしいわ」
フィリアの言葉に眉をひそめるミヅキ。
「《ホロウ・エリア》ですか…?」
「アンタ達はどうやってここに来たのか覚えてる?」
「あぁ…、76層に転移したと思ったら、いきなりこのフィールドに転送されたんだ。」
口に咥えた黒文字をぴこぴこ上下させながらミヅキが話した状況にフィリアは頷いた。
「突然転送されたか…、だったら私とほとんど同じ、ただ違うのは……」
フィリアはミヅキの右手を見た。
「その手に浮かんでる紋様」
「フィリア殿にはないのですね」
デネブがフィリアの両手を見るが、右前腕を覆う手甲以外変わった物は無い。
「ええ、というか、ここでそんな紋様があるプレイヤーなんて見たこと無い」
「あン?ここにはフィリア以外にもプレイヤーがいんのか?」
「……えぇ、でも少しおかしなところがあるというか………」
フィリアは言葉を濁した。
「おかしいなところとは?」
「説明が難しいの、実際に会って確かめた方がいい」
「なら、そうすっか」
ミヅキは背伸びすると再びフィリアに訊いた。
「で、俺達は今向かってんのはどこなんだ?」
「ほら、あそこに見えるでしょ?」
フィリアが指差す先を見ると、森のさらに向こう、地平線上に巨大な球体があった。その下には光の根のようなものが半ば浸食するようにくっついていた。
「あぁ、あの中には入ったことがあんのか?」
「いいえ、入れないの。でも…、アンタがいれば入れる気がする」
フィリアが今度はミヅキの右手を指差す。
「その紋様と同じものが描かれていたから」
「コレが浮かんできたのはさっきの骸骨百足を倒したのがきっかけみてぇだったけど」
「でも、私には紋様が出なかった。アンタの取ってるスキルに関係があるんじゃない?」
「こんなことが起きるスキルなんざ聞いたことねぇよ」
(………いや、待てよ…)
ミヅキは“自分だけが持っているであろうあるスキル”を思い浮かべたが、今はそのことは伏せておこうと思い直し、誤魔化すように耳の穴をほじっていると、システムアナウンスが響いた。
『規定の時間に達しました。これより適正テストを開始します』
「い、いきなり何?」
「んだこのアナウンス、適正テストだぁ?
「フィリア殿、これは一体?」
「私に訊かれても困る!」
フィリアが大声で怒鳴るとセルティがびくっと身体を震わせた。
「あ、セルティごめん…」
「適正テスト……とか言ってたな」
「私も、確かにそう聞こえた」
「わたくしもです」
「何だか知らねぇけど、面白ぇじゃねぇか」
ミヅキは、にぃっと凶暴そうな笑みを浮かべた。
「ここを突破してテストに合格すりゃいいんだろ?」
「あんた…、こんな時によくそんな前向きになれるわね」
フィリアは呆れた。
「この状況でテストを回避できると思うか?」
それに、とミヅキは続ける。
「未知のフィールドってのはワクワクしちまうんだよ」
「…どうやら、お人好しじゃなくてバカの方だったみたい」
フィリアは俯くと「………私は、ずっと悩んでいたのに…………」と呟いた。
「なんか言ったか?フィリア殿」
「何でも…」
「とは言え、俺はこのエリアの情報をなんも持ってねぇ。フィリア、とりあえず周辺エリアで今まで戦った敵のデータをくれねぇか?全部」
「それと、状態異常やトラップ等の傾向も教えていただけるとありがたいのですが」
「わかったから!2人で一度に色々訊かないで、わかんなくなるから」
ホロウミッション
マッスルブルホーン 1体撃破
時間制限の無いミッションだったので、二人と一匹と一頭はマッピングをしながら周囲のモンスターを(主にミヅキが)手当たり次第倒しまくって行った。
黄色蜂のモンスター《イエローパルス》や灰色猪モンスター《デリシャスボア》程度はミヅキが一文字槍【影松(シャドー・パイン)】を振るうだけであっさりポリゴン片となって四散した。
そして、意外にもセルティが強いのだ。直線的な動きだが、この辺のモンスター程度のレベルなら、攻撃はかすりもしない。速度で翻弄し、背後から強烈な後ろ蹴りを喰らわせる。
「すご…」
フィリアはそのおこぼれを確実に倒しながら進んで行った。
「むむむ…、直接戦闘に関しては確かに………」
そんな新参者のセルティに嫉妬しているデネブだが、その嗅覚と聴覚による索敵能力はおそらく攻略組のプレイヤーにも匹敵する精度だった。おかげでずいぶんと攻略が楽だった。
そんな調子で攻略していると祭壇がある広場に出た。
「あ~…、ここじゃねぇみたいだな」
「一旦戻ってから………っ!」
フィリアはミヅキの袖を引っ張ると木陰にドンと押し付けた。デネブとセルティもそれにつられて隠れて身を低くした。
「お前…、そんなに俺を襲いたいのか?」
「バカ!あれを見て!」
顔を真っ赤にしたフィリアが指差した方を見ると、祭壇の前に赤い角の巨牛モンスターがいた。視点を向けてターゲットを決めるとレベルとネームが表示された。デネブが敵のステータスを確認した。
「NM(ネームドモンスター)ですな、《フォローシャスホーン》…レベルは…126!?」
「今は私が101、アンタが103、とてもじゃないけど敵わない。ここは確実に退いて…」
SAOはレベル制のMMO。故に、高い方には命中率やダメージにボーナスが付き、逆に低いとペナルティが付く。この場合、20以上も差があるので、ミヅキ達の攻撃はほとんど当たらず、攻撃は通常の2倍以上喰らってしまう。
ただ、ミヅキはこの理不尽さをものともしていないようで・・・・・・
「うし、セルティ、行くぞ」
「ちょっと!?」
「ミヅ様!?」
ウォーミングアップよろしく、肩を回しながら立ち上がったミヅキにフィリアとデネブはおもわず大声で呼び止めた。
「お前は防御系のバトルスキルかけてを後方から援護頼む。俺は…」
ミヅキは一定時間武器に必中効果を付与させるバトルスキル、【パーフェクションスタイル】を発動させ、セルティに跨ると一直線に突っ込んだ。
「もう!」
フィリアはバトルスキル【ディフェンスコール】を発動させ、自分の防御力を高めた。
「はぁっ!」
ミヅキは手綱無しで跨ったセルティの機動力で旋回し、撹乱、喰らえばHPゲージの半分は持っていかれそうな巨大な大剣の攻撃を掻い潜り・・・
「おぉっ!」
ミヅキは後ろに下がりながら旋回し、一瞬間を溜めると、一気に突き出し、ソードスキル【フェイタル・スラスト】を繰り出した。
追加の暗闇効果で、命中率は下がり、これで攻撃に関しては幾分か対等になった。
「フィリア!」
「はあぁっ!」
ミヅキの指示に応じて、フィリアは防御力を低下させる短剣ソードスキル【アーマー・ピアース】を発動させた。
「フィリア、一旦ターゲット頼む!」
「ちょ…、もぅ、こっち向きなさい!」
フィリアは戦術ソードスキル【バトルシャウト】を発動させ、《フォローシャスホーン》のヘイトを自分に向けた。
その隙にミヅキは祭壇の石像を、あろうことかよじ登っていった。
「セルティ!」
ミヅキの声に応じ、セルティは疾走し、《フォローシャスホーン》を撹乱、フィリアはその隙を付いて斬属性短剣ソードスキル【ラウンド・アクセル】を発動、胴体に深手を負わせると疾走するセルティに飛び乗り離脱した。
「おおおおお!!!」
ミヅキは石像の頭頂部からその鋭い穂先、バヨウシンを真下に向け飛び降りた。
「影縫い突き!」
松かさを模した鍔、ウノサカホからマツボックリのエフェクトを放ちながら【影松(シャドー・パイン)】は《フォローシャスホーン》の頭部に深々と刺さった。
‡‡
「いや~、中々の強敵だったな」
ミヅキは笑いながらポーションを飲んでいた。
「強敵過ぎよ!あんなのに挑むとか、バカなの?!アンタレベル制MMOに真っ向から逆らうとか…」
「申し訳ありません、フィリア殿。ミヅ様は毎度毎度このような無茶な戦闘ばかりで………」
フィリアは治癒結晶で減った体力を一気に回復させていた。
「はっはっは、まぁ俺も流石に1人じゃ挑んでなかったけどよ、お前とこいつがいるならなんとかなると思ってよ」
ミヅキはポーションの瓶を後ろに投げるとセルティの首筋を掻いてやった。セルティは嬉しそうに身体を震わせた。
「はぁ…、結局《フォローシャスホーン》倒した時に上がったレベルと勢いでそのまま《マッスルブルホーン》倒せたからいいけど……」
フィリアは溜息を吐きながら呟いた。
ミヅキとフィリアが座り込んでいるのは、『飢えた獣人たちの闘技場』の出口付近。
2人は《フォローシャスホーン》を倒すと、宝箱から両手斧【ダークサイズ】をゲットして、そのままセルティに相乗りしてステージを爆走、レベル差20を越えるNM(ネームドモンスター)の後だとずいぶん歯ごたえのない《マッスルブルホーン》をあっという間に倒したのだった。
『クリアを確認しました。承認フェイズを終了します』
システムアナウンスが響いた。
「お?承認…フェイズ?」
「また出た、このアナウンス」
「………」
ミヅキは黙り込んだ。その際、また眼鏡を押し上げる仕草をした。
「ねぇどうしたの?」
「んぁ、いや、スマン、ちょっと考えててな」
「何を?」
「《ホロウ・エリア》のことだよ。テストとか承認フェイズだとか気になる単語が出てきたじゃねえか」
「ふぅん、それで、何かわかった?」
「ん~…、いや、何と無くの考えはあるんだが、決め手に欠けててな、もう少し情報を集めてみないと」
黒文字を口に咥えて弄びながらミヅキは答えた。
「そう」
フィリアはちょっと頬を膨らませた。
「んだよ、不満そうな顔して」
「だって、私がずっと調べててもわからなかったのにさ、ここに来て数時間のアンタが謎を解いちゃったら…、悔しいに決まってるでしょ?」
「まだ解いた訳じゃねェよ」
ミヅキは金髪をガシガシと掻いた。
「あ~ぁ、これじゃトレジャーハンターの名が廃るわ」
「トレジャーハンター、ですか?」
デネブが訝しげに訊いた。
「まぁ、自称だけど。SAOには職業ってないし」
フィリアは左手で耳の辺りを触った。
「モンスターと戦ったり、クエストクリアしたりするより…、ダンジョンに潜ってお宝見つける方が私には向いてると思ってるから、それが…生き残るために重要なアイテムであること多いしね、だからトレジャーハンターになることにしたの」
「トラップ対策や探索スキルは伸ばしてんのか?」
「まぁ…ね、一応自分の身を守れるくらいには上げてるつもり」
「確かにな、お前の戦闘力はかなりのものだったな」
「はい、攻略組でも通用すると思いますよ」
ミヅキとデネブのストレートな感想にフィリアはちょっと照れた。
「そういうアンタは?パーティー組んでるの?」
「いんや、ずっとソロだ。誰かと組むのは煩わしくてな」
ミヅキは煙草のように黒文字を一旦右手で抓んで離すと、口からフーと息を吐いた。
「まぁ、お前を倣って言うなら《武芸者》だな」
「ぶ…、武芸者?」
「この世界を徹底的に楽しんでやろうと思ってな」
「へ~…」
そんな会話をしながら2人は立ち上がった。
「さーてと、ちょっと順番が変わったけど、この先に例の転送装置があるわ。ここを抜けると例の装置よ、行きましょう」
森を抜けると、逆三角推の転送装置があった
「あれよ」
「あの装置か」
「ほらこれ」
フィリアは転送装置表面の紋様を指差した。
「確かに、ミヅ様の紋様と同じですね…」
ミヅキは右手の甲に浮かんでいる紋様と見比べた。
「ね?見間違いじゃないでしょ?ここが球体の入り口だと思う。ねぇ、試してくれる?」
「おぅ…」
ミヅキは転送装置に右手を翳した。
「これでいいか?」
すると・・・、
「たぶん…ほら、紋様が光っている」
「どぉやらフィリアの考えが当たってたみたいだな。流石トレジャーハンター」
「私も球体の中に何があるのか知らないんだけど…、きっとこの先には《ホロウ・エリア》の秘密があると思うの」
「だな、見るからに怪しそうだし、俺もそう思うぜ」
「ねぇ、私も……、行っていい?」
フィリアは上目遣いでミヅキを見つめた。
「あぁ?たりめぇだろ」
「一緒に行きましょう、フィリア殿」
「…うん」
ぶっきらぼうで乱暴な言葉だが、フィリアは不思議とミヅキの言葉に安心感を覚えた。
転移の光が2人と1頭を包み込む時、フィリアはミヅキの緑色のセーターの袖をちょこっと抓んだ。
‡‡
転送された先は、巨大な円形の部屋だった。
壁には数字が波を打つように流れており、上部の空間には円グラフ、折れ線グラフ、PCの様にいくつものフォルダがまとめられたウィンドウが表示されていた。
「ビンゴ!やっぱりそうだった」
「はぁ~、ここが球体の中か」
「おそらくね」
「敵は…、いませんね」
デネブが鼻をひくひくさせながら確認した。
その時、フィリアは気付いた。
「!!ねぇ、ここって…《圏内》だね」
「マジかよ…、確かに《圏内》だが…、けどだったらガーディアンが……」
「来ていないみたい」
「どぉなってんだ?やっぱいつのもルールとは違ぇみたいだな」
「でもこれなら安心して調べられる」
「うし、手分けして探索だ」
ミヅキは部屋の中心から少し離れた所にある手に装置と同じ石質のコンソールを見つけた。
「あン?これは…」
適当に操作してみる。
「コンソールがある、何かのリストも…、…実装…エレメント?」
さらに操作すると色々わかってきた。
「…ここは管理区ってのか…、一体…」
≪アクセス顕現者を承認しました。管理区への転移オブジェクトを解放します≫
突如、画面にシステムメッセージが表示された。
【《ホロウ・エリア》に転移オブジェクトが出現しました】
「ここに来る時に使ったあの紋章オブジェクトが配置されたのか…」
「ねぇ!ちょっとこっちに来て!」
後ろからフィリアが呼んだ。コンソールの丁度反対側、床に埋め込まれた状態の石碑の前にフィリアは立っていた。
「どうした!?」
「これって、転移門…かも。ちょっと見た目が違うけど」
「間違いねぇな」
「よかったなですね、フィリア殿。これでここから出られますよ!」
「出られるか…、良かったね」
「どした、フィリア?あんま嬉しそうじゃねぇな」
「…そう見える?」
「……あ~っと、フィリアは一緒に行かねぇのか?」
「一緒には行かないから、アンタらは帰りなよ」
フィリアは俯きながら「だから…」と続ける
「ここでさよなら、アンタ達と一緒で結構楽しかった。」
「そっか…、わかった、とりあえず戻る。けど、アクティベートすりゃ大丈夫だろうし、またすぐこっちに来るぞ」
「………」
「俺はこの《ホロウ・エリア》に興味があんだ。
ミヅキはまるで子供のようにワクワクしながら言った。
「ここにはまだ謎が多い。あの《Skullreaper》ってのは恐らくフロアボスクラス、そんなんがフィールドを徘徊してんのも不思議だ。」
「はい、途中見かけたモンスターも特殊なものでした。本来ならどこからでも見えるはずの迷宮区塔が見当たらないのも不思議です」
「そう…、不思議だよね」
「それに、これだけ特殊な場所なら新しい武器やスキルが見つかってもおかしくねぇしな」
ミヅキは今日一番の笑顔でニィっと笑った。咥えた黒文字もテンションを表すようにピンと上を向いた。
「ふふっ…、その気持ち何と無くわかるかな。もし来ることがあったら私にメッセージを頂戴。ここに来るようにするから」
「この紋章が無くても管理区に出入りできんのか?」
ミヅキは右手の甲の紋様を見せた。
「へぇ、管理区?っていうんだ。試してみたけど一度開通したら通るだけはできるみたい」
「わかった。なら、来る時は連絡すっから」
「期待しないで待ってる」
「ハッ、またな。気ぃ付けろよ」
ミヅキはデネブとセルティと共に転移しようとしたが・・・
『システムエラーです。《ホロウ・エリア》からは転移できません』
「あン?セルティはこっからは転移できねぇのか?」
セルティは哀しそうに身体を項垂れさせた。デネブは密かにニヤっと笑った。
「あ~…、スマンがフィリア…、こっちにいる間セルティのこと頼めっか?」
「…うん、いいよ。アタシも1人よりは楽だし」
「つーことだ、セルティ、フィリアの側にいてやってくれ」
セルティはぶるると身体を震わせると、ミヅキ、次いでフィリアに擦りつけた。
「セルティ、ミヅ様のことはわたくしに任せなさい」
「うし」
改めて、槍を担ぎ直すとミヅキは転移門から転移した。
‡‡
ミヅキの姿が完全衣管理区から居なくなった。
「またな…、か」
フィリアは転移門を操作した。
「転移…」
しかし・・・・
『システムエラーです。《ホロウ・エリア》からは転移できません』
無機質なシステムアナウンスが鳴った。
「わたしって…、なんなんだろう…」
セルティはそんなフィリアの心境を察してそっと漆黒の身体を寄せた。
次回は全員集合&自己紹介