読みにくくて誰が話しているか分かりにくいかもしれません
76層 アークソフィア
転移門前
青白い光に包まれたミヅキとデネブはようやく本来の目的地に辿り着いた。
「ここが76層…、で、間違いねぇよな?」
「はい、おそらく…、たぶん」
ミヅキもデネブも疑心暗鬼になっていた。
「ここは誰か他のプレイヤーに訊くのが得策かと」
「あ~…、やっぱそうなるよな………」
ミヅキはあからさまに嫌そうな顔をした。
「ミヅ様、常日頃より言っておりますがコミュニケーションは大切ですぞ。例え一度きりの会話であっても…」
「あ~、わぁ~たわぁ~た、耳胼胝だっつーの、その話」
ミヅキは金髪をガシガシ掻きながら周囲を見回した。すると、丁度フィールドから戻って来たと思しき三人組が目に止まった。その中の一人、《血盟騎士団》の制服の女性プレイヤーに声をかけた。
「ちょっとスマン、訊きたい事がある」
「はい…なんでしょう?」
長い栗色の髪、容姿端麗で大人びているが、よく見るとまだ幼さ残る少女だった。
その隣の黒コート男はミヅキを警戒していたが、ミヅキは構わず訊いた。
「ここは76層か?」
「はい、76層アークソフィアですけど…」
「そっか、分かった。サンキューな」
ミヅキは礼を言うとデネブの下に戻って行った。
「何だったんだ、あの男………」
黒コートの男は訝しげに去って行くミヅキを見ていた。
「あ、白いワンちゃんだよ。あれってテイムモンスター?」
緑を基調としたのSAOでは珍しいファンタジー系の衣装を身に纏った、ミヅキとは対照的な柔らかな色合いの金髪ポニーテールの女子がデネブを指差した。
「間違いなく、ここは76層だ」
「これで一安心ですね」
「あぁ、まずは宿だな。流石に色々あって疲れた」
「わたくしもです」
転移門前から中央広場へ移動しようとしたデネブが、突如、鼻をひくつかせた。
「ミヅ様!空を」
ミヅキが見上げると、突如空が割れた。ポリゴン片と共に、その裂け目から一人の女性プレイヤーが落ちてきた。ここは圏内なので、落下してもHPゲージが減ることも何らかの損傷を負うこともないが・・・・・・、ミヅキは落下する少女目掛け走り出した。
「おいそこのお前!!」
「え?俺?」
ミヅキは黒コートの男に大声で命令した。
「頭ぁ下げろ!」
「は…?ぐぇ!」
ミヅキは立ったままの黒コートの男を踏み台に、一気に上方へジャンプした。
「~ょ、とっ!」
空中で少女をキャッチしたミヅキはそのまま転移門を囲むように巡らされた水路に着水した。
「ふぅ…」
ミヅキは受け止めた少女の顔を見た。ショートヘアに涼しげな目元、スラリとした肢体と相俟ってクールそうな印象を受けた。緑中心のパンツスタイルだが、腹部(ようするに臍)などが露出しているかなり軽装な装備だった。
「君!大丈夫?」
先ほど話を訊いた《血盟騎士団》の少女が駆け寄ってきた。
「あぁ、こいつは無事だ」
「君の方こそ、あんな無茶して…」
「問題ねぇよ、どうせ圏内だ。それより、こいつを診てくれねぇか?俺じゃハラスメントコードに引っ掛かっちまってるからよ」
ミヅキの目の前には先ほどからハラスメント行為を警告する表示が出ていた。水路から上がったミヅキは少女を近くのベンチに横たわらせた。《血盟騎士団》の少女は短髪少女を介抱した。そこに黒コートの男と金髪ポニテ少女も駆け寄ってきた。
「おいお前…」
「おぅ、さっきは悪かったな」
ミヅキは軽く謝った。黒コートの男は何か言い出そうとしたが・・・
「あ、気がついた?」
短髪少女が目を覚まし、タイミングを逃した。
「…ここは」
「大丈夫?」
「…あ、」
「私はアスナ。あなた空からいきなり落ちてきたのよ」
「え?落ちて…、」
短髪少女は頭を押さえた。
「ダメ、上手く思い出せない………」
「記憶喪失…?まさか」
《血盟騎士団》の少女、アスナは驚いた。
「でも今は色々と不安定な状況だからその影響かも………」
「不安定…?」
ミヅキはアスナの言葉に疑問を覚えた。
「うん、実は、えっと…」
「スマン、名乗り遅れた、ミヅキだ」
「アスナよ。ちょっと今の現場説明したいから私達の宿まで来て。この子のことも分かりそうな子にアテがあるから」
「あぁ」
アスナは短髪少女に肩を貸し、中央広場へ歩き出した。ミヅキとデネブもそれに付き従った。
「お兄ちゃん、私達忘れられてない?」
「………たぶん」
【エギルの店】
「ここが私達の拠点の宿。一階は食堂と酒場も兼ねたアイテムショップをやってるの。店主の人柄は保障するわ。ちょっとこの子を寝かせて来るから、待ってて」
アスナは二階に短髪少女を連れて上がって行った。
ミヅキは手近にあった席に座り、デネブはその下に伏せた。すると黒コートの男と金髪ポニテの少女が同席してきた。
「キリトだ」
「あたしはリーファ」
黒コートの男・・・キリトと、金髪ポニテの少女・・・リーファは名乗った。
「おう、俺はミヅキだ。よろしくリーファ」
「おいコラ、さっき人を足蹴にしたことへの謝罪は無しか」
「あァ?女助けるのに必要な些細な事をいつまで根に持ってんだ。女々しい奴だな…」
ミヅキは口に咥えていた黒文字を放すと指の間でくるくる回し始めた。
「ミヅ様!そのような言い方はいけません。例えあのような状況だったとは言え、男子の頭部を踏んだのです、きちんと謝罪すべきです」
デネブに諭され、ミヅキは渋々頭を下げた。
「………サッキハスマナカッタ…」
「はい、よろしい。ええと、キリト様、我が主は大変人見知りをするもので、謝罪の気持ちが足りていないと感じているのを重々承知でわたくしからもお詫び致します、どうか」
「………い、」
「………ぬ、が…」
キリトとリーファはデネブを指差し震えていた。
「「喋った~~!?!?」」
「犬が喋って何か悪いことでも?」
「いや、それはそうだが…」
「すごいね…SAOってモンスターが喋るんだ。あの、ミヅキさん…?この子撫でても良いですか?」
リーファはおずおずと尋ねた。
「あぁ、こいつがいいなら構わんぞ」
「えっと…」
「申し送れました、わたくし、ミヅ様の忠実な僕、デネブと申します」
「じゃあデネブ、失礼します…」
リーファはデネブの白いふわふわの毛並みを堪能した。
「ふゎ~、すご~い」
「ビーストテイマーか…」
「どうかしたか?」
「いや、知り合いにもテイマーがいてな、ちょうど今…」
キリトとミヅキが会話をしてるとウェイトレスのような服のピンク髪少女、露出度は少ないが動きやすい赤い服のツインテ少女、さらに白いワンピースの黒髪幼女と蒼い小竜が入ってきた。
「いい物件あってよかった~、頭金もギリギリ間に合ったしこれで《リズベット武具店》2号店オープンも間近よ」
「よかったですね」
「じゃあ今日はこの食材でお祝いですね」
「きゅくるぅ~」
「ああ、帰ってきたか、ミヅキ紹介す…」
「リズの姉御にシリカじゃねぇか」
「あ~、アンタ、ミヅキ!」
「それに、デネブ~」
「おや、これこれはリズベット殿にシリカ殿、それにピナも、お久し振りです」
「っ、なんだ、知り合いだったのか?」
キリトは驚いた。
「あぁ、姉御にゃ武器でかなり世話になってるし、シリカはテイマー仲間ってことで色々とクエストとか素材とか集めに行ったりしてんだ」
「ねぇデネブ、久々に…、いい?」
「はい、シリカ殿ならいつでも」
シリカはデネブの白い毛にダイブしてもふもふを堪能した。
降りてきたアスナが場を仕切る形で、主に新参者のミヅキのための各自の自己紹介が行なわれた。
「キリト、主にソロでやっている」
「《血盟騎士団》副団長のアスナよ。今は団長不在で一応攻略組の指揮を取らせてもらっています」
「はじめまして、ユイです」
「ミヅキ、武芸者だ」
「ミヅ様の僕、デネブと申します」
「い…、犬が………」
「はいはい、何か悪いことでも」
デネブに驚きを遮られたアスナから短髪少女の報告があった。
「あの子、シノンって言うらしいんだけど、それ以外は分からなかったの…」
「なぁユイ、プレイヤーがいきなり空から落ちてくるなんてことありえるのか?」
「いいえ、ありえません………、とは言い切れないのが現場です…」
「さっき転移門んとこで今は不安定だって言っていたよな?」
「あ、それあたしも実は詳しく知りたいかも」
「はい、わたしも76層以下に転移できなくなったくらいしか聞いていないので」
ミヅキ、リズベットとシリカもアスナに説明を求めた。
「うん、そうだね。まずは75層のフロアボス攻略から………」
アスナが語った壮絶な攻略に、3人(と一匹)はしばらく黙っていた。
「………《Skullreaper》か」
「一撃でHP全損って………」
「しかも、《血盟騎士団》の団長さんが…」
「諸悪の根源、茅場晶彦氏とは、驚きましたな………」
「それで、今はここが最前線にして最下層ってことになるの」
「しかも、影響はそれだけじゃなくて…」
キリトは隣のリーファを見た。
「実は、私…別のVRMMOのゲームをやっていたんだけどそこからいきなりこの世界に飛ばされちゃって………」
「アバタ―や衣装が微妙に異なるのはそういうことか」
「まぁ、リアルでそんな金髪いるわけないか。アタシやミヅキみたいに髪色弄りでもしない限り」
「そうですよね、そうでなかったら………そんなにおっぱい大きいわけ………ないですし………」
シリカの言葉は途中上手く聞き取れなかったが、ミヅキは金髪をガシガシ掻きながら胸中で呟いた。
(これ地毛なんだが………、今は言わなくていいか)
ミヅキは口に咥えていた黒文字をチッチッチと鳴らして納得したように頷いた。
「となると、あのエリアに俺が迷い込んだのもそれの影響ってことか」
「そう考えるのが妥当でしょうね」
今度はミヅキとデネブが説明を始めた。謎多き《ホロウ・エリア》について・・・・・・
「《Skullreaper》と2人だけで戦った?!」
「まぁ話聞く限り、どうやら《ホロウ・エリア》のはスペック低めに設定されてたと思うぞ。俺何撃か喰らってるし」
キリトの驚きをよそに、ミヅキはあっけらかんと答えた。
「でもそんなエリアがあったなんて…、ねぇユイちゃん、ユイちゃんなら何か分かる?」
アスナの問いにユイは頷いた。
「たしかにこのアインクラッドには様々な事情で一般のプレイヤーには公開されていないエリアがあります。でも、それはゲーム開始時に封鎖され誰もアクセスできないようになっています」
「つまり、一般プレイヤーはアクセスできないってこと?ユイちゃん」
「はい、しかし、今はカーディナルシステムが不安定になっているので、絶対とは言い切れません」
「そうなんだ…。ありがとう、ユイちゃん」
「いいえ、現在の可動状況などがわかればよいのですが………」
「ううん、今の説明で十分だよ、ユイちゃん」
「はい、お役に立ててうれしいです」
アスナはユイの頭を撫でた。
「未知のエリア………、ねぇ、ユイちゃん。そこって新しい素材アイテムとかあったりするのかな?」
「可能性はあると思います」
「ってことは、レア物鉱石もザックザクってことよね~…」
リズベットがニヤニヤしながら皮算用を始めた。
「そういえば俺のダークリパルサーもエリュシデータもノイズ化して性能ガタ落ちしてるんだよな…」
「私のランベントライトも…」
「え?そうなの」
リズベットは2人から武器を受け取ると《鑑定》スキルで剣先から柄までじっくり見た。
「あ~、手持ちの鉱石で修繕はできるけど、文字通り付け焼刃になるわね………」
「どうやら75層のボスエリアにいた攻略組は全員アイテム異常が起こっているらしいの」
「アスナの細剣にキリトの片手剣はアタシの中でも五指に入る最高傑作武器だからね…、そういえば、ミヅキ、アンタのは大丈夫?」
「む、そういえばそろそろ研ぎに出さないとは思っていたんだ」
ミヅキは槍をリズベットに渡した。
「ん~、確かに耐久度ギリギリね…、どうせまた自分より高レベルのモンスター相手に大立ち回りしたんでしょ」
「ったく、姉御の目利きには敵わねぇな」
「それもリズが造った武器なのか?」
「そう、これも五指に入る武器よ。アンタのダークリパルサー並みに苦労したのよ、辺鄙な森まで行ってマツボックリの形した鉱石から鍛錬して」
「お話中悪いけど、そろそろご飯にしない?ミヅキ君達も、一緒にどう?」
「ありがたい、なら、これを提供しよう」
ミヅキは《ホロウ・エリア》でゲットした上質なボア肉をアイテムストレージから出した。
「じゃあ、待っててね」
程無くして、アスナが大振りの鍋を全員の前に置いた。
「大人数だからお鍋仕立てにしてみたの」
「おぉ…」
ミヅキはNPCレストランじゃお目にかかれない見事な料理に驚いた。
「アスナは料理スキル完璧に極めてるのよ」
ミヅキの隣に座っているリズが教えてくれた。
「…う、美味い…しかもこれは………、醤油?!」
「そう、味覚再生エンジンに与えるパラメーターを解析した結果よ」
「本来は味噌仕立てのが猪肉の臭みを抑えてくれるが、醤油仕立ても中々…痛った!」
余計な一言を口走ったミヅキの足を足元で猪肉の焼いたのを食べていたデネブが踏んづけた。
「あはは…、ミヅキって結構ずばずば言うねぇ………」
アスナの表情は笑っていたが・・・・・、眼は笑っていなかった。
「す、スマン、アス姐ぇ」
「あすねぇ?」
ミヅキが思わず口走った言葉にアスナは首を傾げた。
「っ、つい現実での口癖が………姉貴の呼び方が…」
ミヅキは誤魔化すように口元を手で隠した。
「そういえばリズのことも姉御って呼んでたけど、ミヅキ君って実は年下?」
ミヅキは背もキリトより高く目元もきりっとしていたので、少なくともハイティーンくらいには見えるのだが・・・・・・
「あぁ、俺シリカと同い年だぞ」
「はぁっ!?」
シリカを除く全員が驚愕した。
「…そうなんです、しかも誕生日で細かく言ったら私より2ヶ月年下なんです…」
リズとは反対側のミヅキの隣に座っていたシリカが身を縮こませた。
「…………」
唖然としている一同を前に、ミヅキは旺盛な食欲を発揮していた。
「あ、ミヅ様、また椎茸を残していますね。椎茸を食べなさい」
「うっせ、椎茸だけは嫌いなんだよ」
全員集合と言いつつ、エギルとクライン出すの忘れた・・・・・
ま、いっか