虚片~Aqua Moon~   作:蒼乃翼

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リズとアルゴのところを本格攻略前に入れときました


※2016年12月5日
アルゴが犬苦手設定を追加しました


3話 邂逅、開店

キリト達との自己紹介と夕飯を済ませたミヅキとデネブは宛がってもらった二階の部屋に入り、ミヅキはベッドに倒れこみ、デネブはその下で寝た。

(………フィリア、ちゃんと寝てんのか?あんなとこじゃショップもねぇからろくな食いモンないだろうし、今度何か買ってくか…、それにセルティってあいつ何食うんだ?そもそも口どこだよ………)

頭の中でそんなことを考えながら、しかし今日一日の戦闘や新しいエリア攻略の足掛かり、それに苦手な他のプレイヤーとのコミュニケーションの疲れが出てすぐにミヅキは熟睡した。

 

 

 

 

翌朝

「ん…」

ミヅキは日の出とともに起きた。デネブもそれにつられて起きた。

「おはようございます、ミヅ様」

「おぅ、おはようさん。さて…、当面のアイテム補充と武器の手入れが必要だな。姉御の店、今日には開店の筈だし、《ホロウ・エリア》の鉱石でも手土産にすっか」

ミヅキはデネブを連れて宿の裏手に回った。そこには古びた井戸があるくらいで、そこそこ広かった。

「ふっ…!」

ミヅキは全身の筋肉をほぐすように身体を動かし、槍を実体化させると素振りと型稽古をした。ゲームシステムやスキルには無い動作だが、ミヅキの動きは堂に入っていた。

一通りの稽古が済むと、すでに太陽は高く上がり、NPCの店なども開店しいた。

 

 

「ミヅ様」

デネブが鼻をひくつかせた。ミヅキが背後を振り返るとキリトが走ってきた。

「よぉ、何してんだ?」

「あ、あぁ…、ミヅキか。実はちょっと尾行されていてな…」

キリトはしきりに背後を気にしていた。

「デネブ、どうだ?」

デネブは先ほどより盛んに鼻をひくつかせると頷いた。

 

「はい、蓮の花の様な匂いがします、そこにいるのは分かっています!出てきなさい」

 

デネブが路地の曲がり角に向かって叫ぶと、一人の少女が出てきた。

 

 

「あ~ぁ、気付かれちゃった。すごいワンちゃんだね」

 

 

肩まで伸ばし先端が自然とカールした紫色の髪、肩と胸元がかなり露出した紫の系統色で統一したミニスカドレスの少女は2人と一匹の前に来るとにっこりと微笑んだ。

「こんにちは、ワンちゃん」

「こんにちは、お嬢さん。わたくし、こちらのミヅ様の僕でデネブと申します」

「キリト、お前の知り合いか?」

「…今まで会った事はないよな?」

「うん、初めましてだよ、アタシはストレア。よろしく」

「ミヅキだ」

「キリトだ…」

「うん、知ってる。キリトってば強くて有名人だもん。それで興味あって」

「あんたも相当できるみたいだけどな…、それこそ攻略組にいてもおかしくないくらい」

キリトは油断なくストレアを見定めていた。

「もぅ、なぁ~に?そんなに見つめちゃって」

「え…?」

ストレアがちょっと顔を赤らめ上目使いにキリトを見た。

「キリト、初対面の女をそんな視姦するような趣味があったのか…、確かに見るだけならハラスメントコードには引っ掛からないが………」

「雄…、もとい、一人の男児としてそれはどうかと…いえ、年齢を鑑みるにむしろそれが正常な反応なのでしょうな」

ミヅキとデネブは勝手に納得したように頷いていた。

「え?そうなの、だったら言ってよ、キリトってばカワイイんだから、えい!」

ストレアはかなり豊満な胸にキリトを押し付けた。

「うわっ!ちょっと!く…、くるしい!」

「いいじゃん!だってカワイイんだもん!こうしたくなっちゃうよ」

そんな光景をミヅキとデネブは唖然と見ていた。

「どんな理屈だよ…」

「すごいぐりぐりしていますな…」

「あ!ねぇねぇこれから時間ある?一緒にお茶でも飲みたいなー!」

「わかった!付き合うからまずは離してくれ!!」

 

 

 

 

キリトとストレア、それにミヅキとデネブも成り行きで近くのカフェのテラス席に座った。キリトはカフェオレ、ストレアはミルクティー、ミヅキはミルクの大瓶を一瓶、それに皿を別に貰い、半分程注いで足元に伏せていたデネブの前に置いた。

「ねえねえキリトそのカフェオレって美味しい?アタシのミルクティーちょっとあげるからそっち飲ませて」

「あ、ああ…どうぞ」

「思ってたより甘くておいしい!コーヒーとかってだいたい苦いじゃない?苦いのって嫌いなんだよね」

「だったら全部飲んでいいぞ」

「本当?それじゃいただきまーす」

そんなデートみたいなやり取りを見せ付けられていたミヅキは溜息を吐いた。

「はぁ~…、おい、いつまでこんなギャルゲーイベント続けんだよ」

「あ、ああそうだな、…回りくどいのは止めよう、単刀直入に訊く」

「うん?」

「俺に興味があるとか言っていたがどの程度俺のことを知っている?」

「どの程度?そうだなぁ…、結構前からキリトのことを見ていたよ」

「前ってどのくらい?」

「75層のボスを倒した時とか」

(75層のボス?《Skullreaper》か?それともヒースクリフのことか?どっちにしても、あの時こんなプレイヤーは確実にいなかったはずだ。だが…あれだけの《隠密》スキルを持っていれば誰も気付かずにあの場にいることも可能と言えば可能か。でもそうだとしても、何のためにそんなことを…、考えても始まらないか)

考えを巡らせているキリトに代わってミヅキも訊いた。

「ストレア…、お前は一体何者なんだ?」

「ん?それってアタシのことをもっと知りたいてこと?」

「あぁ、………キリト(コイツ)がな」

ミヅキは口に咥えていた黒文字を指で挟んで煙草のようにふー、と一息吐くとそれで隣に座るキリトを差した。

「キリトって結構積極的なんだね」

「え…?!おい変な意味にとるなよ。つーか変な風に言うなよミヅキ」

「でも質問はここまで!答えて欲しければまた今度デートしよう」

「え?おい!?」

「今日はありがと、キリト!また今度ね、約束だよ!ミヅキとデネブちゃんもまたね~~」

ストレアは手を振りながらカフェからさっさと立ち去った。

「………何なんだ、一体…」

(ストレア…気配を消してつけ回して来るなんて敵対意識のあるプレイヤーあと思ったけど…。でもそんな感じはまったくしない…、それが演技であるとでも到底思えない。だが実力は本物だろう。それも攻略組にいてもおかしくないほどの…。なんというか、普通のプレイヤーとは何かが違う…なんだ、この違和感…。今日の感じだと話を聞き出すには時間がかかりそうだけど、気長に構えるか)

 

 

 

「よォ、キー坊。それに、ミッチーもおひさ」

 

ストレアが立ち去った空席に座った、煤けたケープ被った女性プレイヤーは気さくに挨拶した。

「アルゴ!?」

「アル姉ぇ」

「おや?キー坊はミッチ―達とお知り合いだったカ?」

「いや、つい昨日知り合ったんだ。それより、アルゴも76層に来ていたんだな」

「ああ、75層の扉が開いてから攻略組が帰って来ないダロ?これは何かあったな、と思った訳ダヨ。キー坊がなかなか一人にならないカラ会うのが遅くなっちゃっタヨ」

「別に他のヤツがいる時でも構わないんじゃないか?」

「…まぁそうだけドナ」

「それよりアル姉ぇ、知ってんのか、ここに来たら下の層には…」

「ああ、戻れないんダロ?ナニ、元々この世界から抜け出せないのは変わらナイ。だったら、オレっちも前に進ムヨ」

「ああ、アルゴがまた情報を集めてくれるなら心強いよ」

キリトも頷いた。

「そうダロ?」

「あ、そうだ。アル姉ぇ、これを頼む」

ミヅキはアルゴに《ホロウ・エリア》でマッピングしたデータを提示した。

「これは…、マップデータだな、ありがたくいただクヨ、お代は…」

「俺好みの武器やクエストの情報を優先的に回してくれるだけで十分だよ。………あと、“俺のスキルに関する禁則事項”を守ってくれれば………」

ミヅキは最後の言葉はキリトにも聞こえないようにアルゴの耳元で囁いた。

「借りができるのはあんまり良くないんだけドナ…」

「借りだなんて思わなくてもいいって」

すると、それまでミヅキの足下でミルクを飲んでいたデネブがひょっこり出てきた。

「うォ!?いたのかおデブ!!」

「ミヅ様いる所、わたくしありです」

「あ、あぁ…、そうだったな………」

アルゴはあからさまにデネブから距離を取り始めた。

「そ…、それじゃここれから仕事行くンでそれじゃアなぁ~~~~!!」

アルゴは猛ダッシュで人込みへと去って行った。

「アルゴの奴、どうしたんだ?」

首を傾げるキリトにミヅキは笑って説明した。

「ネズミのアルゴとか言われて猫髭生やしてっけど、アル姉ぇって…、犬が苦手なんだよ」

「始めてわたくしと出会った時の驚きようと言ったら、AGIに補正でもかかったかと言わんばかりの速度で逃げて建物の屋根に飛び上がっておりましたな」

 

 

アルゴが立ち去るとキリトとミヅキとデネブは連れ添ってポーションなどのアイテム補充にショップを巡った。一通り買い終えたところに、ほぼ同時にフレンドメッセージが届いた。

「ん?リズからのメッセージ」

「俺のと同じだろうな、《リズベット武具店》新装開店だ」

 

 

 

 

ちょっと買い物してから向かうというミヅキとデネブと分かれたキリトは商店街通りのメインストリートの角に面した店舗の前で満足そうに頷くリズベットに声をかけた。

「立派な店構えだな、リズ」

「んふふ、そうでしょ?新装開店、《リズベット武具店》にようこそ!」

リズベットは接客スマイルとは違う、満面の笑みで上客(キリト)を迎えた。

 

 

中に入るとリズベットがストレージに保管していた手製の武器が並べられていた。

「いい店が見つかってよかったな」

「いい感じの店でしょ?ちょうどこの物件が残っていたのよ、前にみたいに水車がないのは残念だけどね。思えば、あの店でキリトの片手用直剣を作ったっけ。結局、あれより強い剣は作れなかったわ。《ダークリパルサー》暗闇を払うもの…だったわね」

「このアインクラッドにはまだ暗闇が残っている。だけど、残りの闇も払ってみせる、あの剣を作ってくれたリズのためにもな」

「な…、な…、なにカッコいいセリフ言ってるのよ!そんなこと他の子に言ったらアスナに怒られるわよ!」

「そうかな?それはそうとリズ、新装開店したことだし、何か一つ武器を作ってくれないか?」

「あたしが作ってあげてもいいんだけど…、ただし、条件があるの。あたしのスキル上げに付き合って欲しいのよ。ほら、事件のせいで上級鍛冶スキルがなくなっちゃったって言ったじゃない?だから、また上げ直さなきゃいけないのよ、それがないと、鍛冶屋としても半人前だし、それにキリトの剣も作れないし」

「そういやそうだったな、わかった、俺で良ければ付き合うよ」

「え?本当に?」

「自分で言って驚くなよ」

「あはは、ごめん…、キリト、攻略もあるし忙しいかなーって思ってらから」

「まぁ…確かに忙しいけどリズのために割ける時間くらいあるよ」

「あ、あたしのために…?」

リズベットはキリトの言葉に一瞬惚けた。

「剣を作ってくれるならそれくらいのことして当然だろ?」

「あー、えーと、そういう意味ね。まあとりあえずありがとうキリト。じゃあこれからは時々で良いからお店に寄ってもらえる?来てもらえたら、その時スキル上げに付き合ってもらうから」

「ああ、わかった。定期的に様子を見に来るよ」

「む、無理して来なくてもいいからね」

「来れる時に来るよ、リズ」

「うん、待ってるからね、キリト」

 

 

「ぅ~すっ!」

 

 

 

ラブコメ臭漂う空間に割って入ってきたのはミヅキだった。足元には何やら朱塗りの樽を背負ったデネブが付き従っていた。

「ミ、ミヅキ!?」

「お、買い物は済んだのか?」

「あぁ、ほれリズベットの姉御、新装開店おめでとさん」

ミヅキはそう言うとデネブの背中の角樽をリズベットに渡した。

「ありがと…、にしても古風ねぇ…」

「うちの爺さんが言っていた、祝い事、それも新築や新装開店にはこういうのが礼儀だってな」

「リズベット殿、おめでとうございます」

「あ~、うん、ミヅキもデネブもありがとう。ちょうどいいわ、あんたの槍貸しなさい。メンテナンスしてあげるから」

「ん」

「どうぞ」

ミヅキが槍をオブジェクト化し、デネブも背中の小太刀を差し出した。

 

「なぁ…、槍一本なら分かるが、その小太刀は何なんだ?」

 

「………」

キリトのもっともな疑問にミヅキは黙り込んだ。

「まぁまぁ、キリト。あんま他人の事に介入するのはマナー違反でしょ」

砥石に槍の穂先を当てて研ぎながらリズベットが助け舟を出した。

「そうだな、すまない」

「いや、いい…」

ミヅキはリズベットから研ぎ上がった槍を受け取るとストレージに納めた。

「そういえばミヅキのアイテムはノイズ化していなかったのか?」

「あぁ、一応全部チェックしたが問題なかった」

「おそらく通常の転移で76層に来たのではなく、一度《ホロウ・エリア》を経由したのでノイズ化を免れたのでしょう」

「そりゃ、運が良かったのか悪かったのか微妙なところね、はい、デネブのも終わりよ」

デネブは考察を述べると、リズベットから研ぎ上がった小太刀を受け取り、背中の鞘に器用に口で納めた。

「さて、それじゃ行こうか」

「はい、ミヅ様」

ミヅキは槍を左肩から柄が出る形に背負うと《リズベット武具店》から出た。

「なんかレアな鉱石とかイベントとかあったら真っ先にあたしに連絡しなさいよ」

リズベットも見送りに外に出て来た。

「おぅ」

「それでは行ってまいります」

 

 

 

そして、ミヅキとデネブは再び《ホロウ・エリア》の攻略へ乗り出した

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