虚片~Aqua Moon~   作:蒼乃翼

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今回、ついにミヅキの真のスキルが発揮


6話 攻略、闇影の暴犬

迷いの森を進む四人と一匹と一頭

先頭は嗅覚で逸早く敵を察知できる大きな白犬デネブ、その横にはトラップなどの探知や解析解除に長けたトレジャーハンターフィリア、その後ろには索敵スキルの高いキリトがより広範囲を警戒し、そのすぐ横を首なしの漆黒馬セルティに跨った指揮能力のあるアスナ、一番後ろには槍を真横に担いだミヅキが背後を警戒していた。

「む、風の臭いが変わりました。出口が近いですぞ」

鼻を盛んにひくつかせたデネブについて行くと、ようやく『迷いの森』を抜け出た。

 

 

 

 

6話 攻略、闇影の暴犬

 

 

 

「ここは…、私も始めて来たかも」

一番《ホロウ・エリア》に詳しいフィリアも初めてのフィールドに少し途惑っていた。

「とりあえず、あの橋に行ってみねぇか?」

ミヅキが槍の穂先で指した大橋に四人と一匹と一頭の一団は、しかし先へは進めなかった。

「………ダメね、封印されているわ」

セルティから降りたアスナが橋の入口に触れると透明な壁が行く手を遮っていた。

「たぶんここは次のエリアへの入口、そうなると、このエリアである条件をクリアしないといけないわね…」

「ある条件?」

ミヅキの疑問にキリトが答えた。

「アインクラッドならフロアボス攻略、だな」

「なるほど…一番の強敵をぶっ倒せばいいんだな…!」

ミヅキは口に咥えた黒文字をピンと立ててにやりと笑った。

「ミヅ様、また凶暴な笑顔になっていますぞ」

デネブに指摘されミヅキは手で顔の表情を戻した。

「で、問題はそのボスがどこにいるかだが………」

「うん、一度管理区に戻ってこのエリアの確認をしてみよう。ほら、あそこに転移石がある」

 

 

 

 

管理区

フィリアは中央のコンソールのマップを操作しながら樹海エリアの攻略の鍵となりそうな場所を探していた。

「うん、たぶんここ」

フィリアが示した箇所をミヅキ達は覗き込んだ。

「《供物の神殿》…か」

「ここが本当にフロア…、というかエリアボスがいるならちゃんと事前に調査して対策を練りたいところだな」

「そうだね、でも今ここに来れるのは私達4人だけだし…」

キリトとアスナは不安そうにしているが、ミヅキは嬉々としていた。

「面白いじゃねぇか、戦いなんて事前に調べていても予想外の動きする敵なんてざらにいるんだ。それに、これだけの面子が揃ってんだ、大丈夫だろ」

「アンタってこういう時でも楽観的よね…」

「けど、確かにそうかもな」

「不安要素はあるけど、やってみる価値とそれだけの戦力はあるものね」

フィリア、キリト、アスナはミヅキに同調するように苦笑した。

「それじゃ、各自結晶アイテムやポーションの確認をして、五分後に出発します」

ミヅキは一団の輪から少し離れた位置でストレージを確認しつつ、足元に控えていた白犬デネブに話し掛けた。

「デネブ、場合によっては………抜くぞ」

「よろしいので?」

「ま、ここまで来てフィリア達(あいつら)に隠し事する必要もねぇだろ」

「かしこまりました」

デネブは頭を下げると背中の小太刀を背負い直した。

 

 

 

 

《供物の神殿》

「さて、供物になんのは、俺等か、それともここのボスか…」

神殿内の高レベルモンスターを堅実に倒しながらミヅキは武者震いしていた。

「トラップも仕掛けも何も無い………、小細工すら必要ないってことか…、やっぱりここがエリアボスってことみたい」

フィリアは経験則からこの先のモンスターの強さを計っていた。

「アスナは後方からの指示を頼むな」

「うん、でもキリト君のピンチにはすぐに駆けつけるからね」

キリトとアスナも心身ともに準備は万端だった。

そうして、ミヅキ、フィリア、キリト、アスナ、そしてデネブとセルティの四人と一匹と一頭の一団は最深部の大きな扉の前まで辿り着いた。

「それじゃ、陣形の最終確認ね。まず、前衛は一番体力があってリーチのあるミヅキ君」

「おぅ」

ミヅキは愛槍【影松(シャドー・パイン)】を旋回させると小脇に抱えた。

「ミヅキ君を壁にしつつアタッカーはキリト君」

「まかせろ」

キリトはエリュシデータを抜いた。

「フィリアとデネブは周囲を警戒しつつモンスターの行動パターンや範囲攻撃の予兆を計る。隙があれば状態異常の攻撃を積極的にね」

「了解よ」

「承知致しました」

フェイトは腰からソードブレイカーを抜き逆手に構えた。

「で、私はセルティの上から全体への指揮。いざとなれば私も攻撃に参加します」

馬上のアスナは腰から細剣ランベントライトを抜くと扉を真っ直ぐに差した。

「これより、《セルベンディスの樹海》のボス攻略を開始します」

アスナの号令と共にミヅキは扉を蹴り開けた。

 

 

 

 

《民が捧げられた祭事場》

 

中は廃れていて、その空気はねっとりとしていた。

「デネブ、どう?」

フィリアはデネブに訊く。

「いえ、まだ敵の臭いは………、っ後ろです!」

その言葉が発せられたのとほぼ同時に、セルティはアスナを乗せたまま前方に大きくジャンプした。ほんの数瞬前までセルティがいた所に大きな影があり、そこから巨大な獣が現れた。

 

《シャドウファンタズム》Lv105

影そのものが獣を象ったそれは、全身に鎖が巻きつき、四肢には杭、胴体と裂けた大きな口にもさらに大きな杭が刺さっていた。

 

ミヅキは左半身になり、槍を握った両手を頭上に挙げて穂先を下に向ける霞下段の構えを取った。

「全体の動きはさっきの指示通りに、ミヅキ君絶対に無茶はしないでね!」

アスナの指示にミヅキは口に咥えた黒文字をプッと吐き捨てて答えた。

まずはミヅキが槍のリーチと卓越した捌きでタゲを取りつつ、バトルスキルのウェポンバッシュで動きを止め、そこにキリトが大技を叩き込み、その隙をフィリアが側面から補う。デネブが警戒し、アスナも的確なタイミングで攻撃や後退の支持を出していた。

しかし、やはり《ホロウ・エリア》のエリアボス、一筋縄では攻略できなかった。

《シャドウファンタズム》の動きは鈍いと思いきや、かなり俊敏だった。

「っと…、」

ミヅキの槍の防衛ラインを飛び越えて後衛にまで抜かれることが度々あった。

「はぁっ!」

しかし、それをキリトが片手剣で弾き、フィリアが側面からの状態異常付与のソードスキルを喰らわせ、アスナはセルティの機動力で安全圏へと退避、そしてミヅキがまた防衛ラインを張った。

「…ミヅキ!足元」

フィリアの声にミヅキは大きく背後に跳んだ。《シャドウファンタズム》の周囲にはどろっとした影の水溜りが点々と現れた。

「これは…」

「ミヅキ君!それには注意して、たぶん状態異常起こすと思うから」

「おぅ!」

ミヅキはランダムで発生する【ダークアンドレイド】を躱しつつ、ソードスキル【リヴォ―ブ・アーツ】を発動、《シャドウファンタズム》に右上段蹴りを二連続、槍旋回斬り二連続を続けて喰らわせ、止めに右手一本での突きを喰らわせた。

「へっ、この調子なら…」

そのミヅキに無かって《シャドウファンタズム》の周囲で警戒していたデネブが叫んだ。

「ミヅ様!範囲攻撃が来ます!」

「皆、全力で後退して!」

フィリアの言葉にキリトもフィールドギリギリまで、アスナを乗せたセルティも十分な距離を取った。しかし・・・・・

「やべ…」

スキル後の硬直が解けていないミヅキだけは上方から降り注ぐ赤黒いオーラ【アビスゲート】の直撃を浴びてしまった。

「が…っ、」

ミヅキのHPゲージに出血を示す表示がされ、徐々に減っていった。

「フィリア!キリト君!フォローに回って」

「まかせて!」

「フィリア、5秒だけ頼む」

キリト君は左手でメニューウィンドを開き、素早く操作し、切り札を装備した。

「ちょっと…、そろそろこっちも………」

防御系のバトルスキルを重ねがけしてソードブレイカー一本で《シャドウファンタズム》の猛攻を防いでいたフィリアの体力ゲージも黄色に達していた。

「フィリア、スイッチ!」

「こんのっ!」

置き土産としてウェポンバッシュで《シャドウファンタズム》をスタンさせて下がったフィリアは代わりに突っ込んで行ったキリトを見て驚いた。

「剣が…、二本?!」

「うおおおぁっ!」

キリトの切り札、ユニークスキル二刀流を始めて見たフィリアはその速さに驚嘆した。

振り下ろされる爪を尋常では無い反応速度で躱し、掻い潜り、ソードスキル【エンドリボルバー】で胴体を深々と斬り裂いた。

「………げほ、」

キリトが《シャドウファンタズム》を引きつけている間にセルティとアスナにセーブされたミヅキはすぐさま止血結晶と回復結晶を使った。

「大丈夫?」

「あぁ…、アス姐ぇ、キリトのあれは………」

「二刀流。アインクラッドで一番の反応速度を持つプレイヤーだけが使えるユニークスキルよ」

「そうか…、あいつも…」

ミヅキの呟きは、しかし、《シャドウファンタズム》の咆哮に掻き消された。

キリトの二刀流によって体力ゲージはおよそ半分まで減っていた。

「気をつけて!何か変化が…」

アスナのことばが終る前に、《シャドウファンタズム》に身体に変化が起こった。

砕け散り、抜け落ちた鎖と杭によって封印されていた本来の姿が露わらになった。

「皆さん、範囲攻撃、来ますぞ!」

デネブの叫びと共に、通常状態では鎖と杭に抑えられていた顎がその全身に渡り大きく開かれた。

「…ッ、キリト!下がれ」

ミヅキの叫びが祭事場に響いた。キリトはこの中では1、2位を争うAGIを有しているが、それでも後退が間に合わず、闇影の暴犬の牙がキリトを襲った。

「ぐ、ぁ…!」

キリトのHPゲージが一気にレッドゾーン間近まで減り、防御力マイナス、出血、さらにスタンまで負ってしまった。

「セルティ、お願い、ギリギリまで近付いて!」

セルティはアスナの意を汲むと疾走した。

「ここ!」

アスナはセルティの背中から飛び上がるとランベントライトを構え、全身を目一杯伸ばした。

「はぁぁぁッ!」

細剣ソードスキル【シューティングスター】を発動させ、正しく一条の“閃光”となって

暴走状態となった《シャドウファンタズム》にその刃を突き立てた。

「フィリア!キリトを連れて下がれ、それと…」

ミヅキは《シャドウファンタズム》の丁度真後ろにいた相棒を呼んだ。

 

「デネブ、抜くぞ!」

 

「その言葉を待っておりました!」

 

デネブは背中に背負っていた小太刀を口で抜くと疾走した。

その間、アスナは全力でタゲを取っていた。

「ヤァァアッ!」

三箇所をほぼ同時に攻撃する高速刺突ソードスキル【パラレルスプラッシュ】で顎を下から突き上げ先ほどの【ケイオスファンググライダー】の発動を阻止していた。

そのアスナ目掛け、《シャドウファンタズム》が爪を振り上げた。

「アスナッ、危ない!」

果たして、キリトをセーブしたフィリアの絶叫は、轟音で掻き消された。

きょとんとするフィリアの目の前では悠々と小太刀を咥えたデネブがミヅキの下に走り寄って行った。

「ナイス、デネブ」

「あの程度の獣の前足が斬れずにミヅ様のお供はできませんので」

ミヅキはデネブから小太刀を受け取ると槍の穂先の反対側、石突の部分にその刀身を当てた。

 

「………抜刀!」

 

ミヅキが叫ぶと槍と小太刀が一体となり、新たな武器が握られていた。

「何…あれ…」

フィリアとポーションで回復中のキリトもその光景に唖然としていた。

「ミヅキ、それは…」

「ユニークスキル、【薙刀】」

「っ…!?」

「出現条件は知らんけど、槍スキル極めてしばらくしたらなんか出てきた。で、リズベットの姉御に無理言って造ってもらったのがこれだ」

ミヅキは周囲を斬るように【薙刀・静】を素早く鋭く旋回させた。

「槍のリーチに刀の威力、触れれば即出血の大サービスだ」

ミヅキは駆け戻ったセルティに跨るとその胴体を蹴った。

「行くぜ、セルティ」

それに応えるように、セルティは大きく前足を上げ嘶くと(実際には鳴き声は聞こえないが)、疾駆した。

「おおおおぉぉぉぉ~~~~!!!!」

《シャドウファンタズム》の周囲を走り周りながら騎乗から繰り出される斬撃は四肢を連続で斬り裂きHPゲージを残り2割まで減らした。

「すご…、」

ユニークスキルを立て続けに見たフィリアは呆然と立ち尽くしていた。

「【薙刀スキル】か…、」

「キリト君、大丈夫?」

後衛に戻ったアスナはキリトの安否を確認した。

「問題無い、体力も状態異常も治った」

キリトは双剣を杖代わりに立ち上がった。

「さて、まだミヅキだけで削るには残っているな」

「そうだね」

「少しは私らも、やりますか」

キリト、アスナ、フィリアは武器を構えると《シャドウファンタズム》に突っ込んで行った。

「ミヅキ、ラストアタックはお前にくれてやるから俺達に合わせろ!」

キリトはセルティに乗って疾走するミヅキに叫んだ。

「スターバースト…、ストリーム!!」

「パラレル…、スプラッシュドラゴン!」

「ユニコーン…、スクリュー!」

キリトの16連撃、アスナの9連撃、そしてフィリアの渾身の突きが《シャドウファンタズム》に直撃した。HPゲージはレッドゾーン、残り僅かだった。

「ぉぉおお!!」

走るセルティの上で薙刀を左脇に水平に構えたミヅキは《シャドウファンタズム》とすれ違い様それを横一文字に一閃させた。

「セルティ、跳べ!」

さらにジャンプしたセルティに合わせ胴体を斬り上げた。

「ふっ!」

空中でセルティから跳び上がり祭事場の中程まで上昇したミヅキは薙刀を両手で持つとその刃を真っ向に斬り降ろした。

「………朧月夜………」

ミヅキがソードスキル名を呟くと同時に、《シャドウファンタズム》のHPゲージは0になり、その黒い巨体は砕け散った。

 

 

 

 

《供物の神殿》から四人と一匹と一頭の一団が出てきた。

「て、手強いボスだったね…、キリト君」

「ああ、俺たちだけでよく倒せたな」

アスナとキリトは満身創痍だった。

「アスナ達が強いっていうのは知ってたけど、想像以上だったね」

「そうだな、急場のコンビネーションだったけど、俺等結構イイ感じだったな」

フィリア、ミヅキは各々戦いを評価し合っていた。ミヅキは【薙刀・静】を槍の【影松(シャドー・パイン)】に戻して肩に横にして担いでいた。

「うん…、そうだね、案外ミヅキとの相性がいいのかな」

「案外って、ひでぇな…」

ミヅキは新しい黒文字を咥えた。

「あはは、ごめん。じゃあ一旦管理区に戻ろうか」

「そうだな」

一団は転移石の方へ歩き出した。

 

(…なんだこの気配)

(…む、嫌な臭い)

 

しかし、キリトとデネブは足を止めた。

「しっ!」

「キリト君?」

「静にして下さい!」

「…デネブ?」

「どうしたの?」

アスナ、それにミヅキとフィリアは驚いたがすぐに物陰に隠れた。

「あれを見ろ」

キリトが指差す方をアスナ、フィリア、ミヅキはじっと見た。

「…どれ?」

「あ、あの奥?プレイヤーが何人かいるみたいだけど…!!!ねえミヅキ、あれってもしかして…」

「ああ、しかも多人数で一方的に一人を…このやり口………」

ミヅキは語気に怒りを込めて呟くと隣で怯えているセルティの胴体を撫ぜてやった。

「フィリア達はここで待ってろ」

「でも、危ないよっ!ちょっとキリト!」

ミヅキはフィリアの制止を聞かず飛び出した。

 

「おい、何してんだ!」

 

「…ッチ」

「ターゲットは片付いた、とっとと行くぞ」

二人のフード男はプレイヤーを倒すと森の奥へ逃げてしまった。攻撃されていたプレイヤーはポリゴン片となって消えてしまった。

「待ちやがれっ!…くそ、間に合わなかった…!」

「キリトが悪いんじゃない、どんなに急いでも間に合わなかったもの」

駆けつけたフィリアがミヅキの肩に手を置いて慰めた。

「………アスナ、今の亡くなったプレイヤーのステータス見たか?」

「………うん、状態異常…麻痺と出血が同時にかかっていた」

(バッドステータスで動きを封じてトドメを刺すこのやり口は…)

「どうした、キリト?」

「怖い顔しているよ」

「ミヅキ、フィリア、今日はもう引き上げよう」

「あ、あぁ…」

「…うん、そうだね」

 

 

 

 

エギルの店

エリアの封印解除は次の機会ということにして、フィリアとセルティと別れたミヅキ、キリト、アスナ、デネブは宿にアークソフィアに戻って来た。

「パパ、ママ、おかえりなさい!早かったですね」

「ん…?そうか、けっこう向こうにいたと思うけど」

「ただいまユイちゃん、いい子にしてた?」

「はい、お店が忙しそうだったのでエギルさんのお手伝いをしていました」

「えらいね、ユイちゃん」

アスナはユイの頭を撫でた。

「よっす、姉御、シリカ、リーファ、それに………」

ミヅキはテーブルで談笑していたリズベット、シリカ、リーファ、そして転移門広場で助けた短髪少女・・・シノンに声をかけた。

「もう体はいいのか?」

「えぇ、この世界のこと色々聞いたわ…」

「なんかね、医療用フルダイブシステムを使った治療の一環で病院からダイブしたのは覚えてるけど何でここに来たのかは分からないみたいなの」

リズベットが簡単にシノンの経緯を説明した。

「私と同じで一応SAO内でのプレイヤーとしてのステータスはあるみたいなの」

「それでシノンさん…」

シリカは横目でシノンを見た。

「このゲームをクリアしないと戻れないなら、私も攻略に参加するわ」

「は?」

そこにキリトとアスナも加わった。

「待て待て、この世界のルールは聞いたんだろ」

「攻略組プレイヤーならともかく、アクシデントで外から来たばかりの初心者だとここから上の階層は………」

果たして、ミヅキはシノンの決意に賛同した。

「いいんじゃね?今主だった攻略組も一部しかアークソフィア(ここ)に来てないなら、一人でも攻略組は多い方がいいだろ」

実質攻略組を取り仕切っているキリトとアスナは途惑った。

「けど…」

「シノンさん今のステータスは?」

「えっと…」

シノンは慣れない手つきでメニューウィンドを開いた。

「レベルは76」

「微妙ね…」

 

「あ、あの…!」

 

シリカが突然挙手した。

「私が、戦い方とか教えます」

「シリカ?」

「いつかキリトさんが教えてくれたように、今度は私がシノンさんを助ける番です」

キリトが迷っていると、リズベットも挙手した。

「しょ~がない、アタシも付き合ったげる」

「はいはい、私も」

「リズにリーファちゃんまで?!」

「大丈夫よ、アスナ。これでもマスターメイサーまで戦鎚スキル上げたんだから、あんたらレベルまでは行かないまでも、足手まといにならない程度には上げてみせるわ」

「私も別のゲームでは結構名の知られた剣士だったんだから、基本的な動きは教えられるわ。私もこっちの戦い方とか慣れときたいし」

「ありがとう、リズベットさん、シリカちゃん、リーファさん」

シノンは二人に頭を下げた。

「リズでいいわよ」

「そうです、もう仲間なんですから」

「頑張ろうね、シノン」

 

 

 

 

フィリアの歓迎会とミヅキ達の《ホロウ・エリア》エリアボス攻略のお祝いに夕食を何にしようか相談していると、鴨がネギを背負ってやってきた。

「はっはっはっは!みんな、聞いて驚けオレはついにやったぜぇ!」

「いったいなんの騒ぎだよクライン」

高笑いクラインにキリトが呆れながら訊いた。

「これが騒がずにいられますかってんだ。オレはついに念願のアイツを手に入れたんだ…」

「アイツ?…アイツって、誰だ?」

「フフフ…見て驚け?ええとストレージの…おお、あったあった!こいつだ。待ってろよ、今オブジェクト化するからな」

クラインはストレージから目当ての物をオブジェクト化してカウンターに乗せた。

「これは肉?ってことは食材か?」

「おいおいマジかよ、こいつは『フライングバッファローA5肉』!…S級食材じゃねぇか!」

カウンターでグラスを磨いていたエギルが食いついた。

「クライン、お前スゲー奴だったんだな」

「おう!もっと褒めてくれ!」

「えっ、なになに?S級食材ってなんの話?…もしかしてこの肉が?」

「間違いない…みたいね」

さらにリズベットとアスナも混ざってきた。

「うそー!そう言われて見るとなんだか美味しそうに見えてきた…」

「すごい大きいね、何人分くらいあるんだろう?」

「100人前から200人前くらいありそうです…」

リーファとシリカも興味津々だった。

「でもアイテムとしてはそれじゃ大き過ぎるかな、たぶん…10人前くらいじゃないか?ユイ、これってどのくらいレアな食材なんだ?」

「はいパパ、フライングバッファローがレアモンスターである上に『A5肉』のドロップ率はレア中のレアです。もしかしたらアインクラッド全体でのファーストドロップかもしれません」

「マジかよ!?つーことは本邦初公開ってヤツかぁ?へへっ、オレにもいよいよ運が向いてきたってところだな!いや、運だけじゃねぇな!素早く逃げ回るこいつを倒したこのオレの実力も相当なもんってことだよな。いやー、空を飛び回るこいつを倒すことがどれだけ難しかったか!まぁコツをつかんだオレにとっては今やそんなに難しいことでもないんだがな。まずこいつの出現ポイントを見極めてだな、身を潜められる場所を探すんだ。そしてヤツに見つからないようにジーッと待つ。もちろん、そう簡単にヤツが姿を現してくれるはずもねぇ」

「そんなことより、このお肉美味しいのかしら?」

「そんなことって…そりゃあんまりだぜ、シノン…」

「ということでさ、クライン、このお肉みんなにごちそうしてくれるんだよね?」

「ああもちろんだ。ただまあ流石に全部ってわけにはいかねぇ…」

「売るつもりがないなら料理方法を考えた方がいいぞ」

「そうですね、せっかくのS級食材なんですからおいしく食べたいですよね」

「きゅくぅ~」

「この店でみんなに振る舞うってんなら場所は貸すぜ、…あとは、そこにいるシェフ次第だ」

エギルは料理スキルコンプリートのアスナを見た。

「みんなで食べるならもちろん手伝うわよ」

「おーし、決めた。ケチくさいこと言わないで残さず全部食っちまおう」

「さっすがクライン、よっ太っ腹!!」

リズベットが囃し立てるとクラインは胸を張った。

「あったりめーよ」

「そうと決まれば手分けして準備に取り掛かりましょうか」

「きゅるるっ♪」

「ピナ?まだ食べちゃだーめ!ちゃんと料理してからじゃないと」

「きゅるるぅ…」

「材料は店にあるもので足りるだろう、肉が立派だからな、添え物程度で十分なはずだ…って、あーしまったな」

「どした?何か足りないものがあるなら買ってくるぞ」

「ミヅ様とわたしくしで行って参ります」

ミヅキとデネブが立候補した。

「すまないじゃあちょっと言ってきてもらえるか?肉料理に合う美味いドリンクがあるんだ。場所はだな…」

「でしたらわたしとシノンさんはテーブルメイクをしましょう!」

「そうね、ただ食べさせてもらうだけっていうのもよくないわね」

「俺は何をしようか?」

「アタシも何すればいい?」

「キリトとリズベットはクラインの相手をしてやれ、このでかい獲物を持ってきた今日の主役様だからな」

「おうそうだよ、なかなか苦労したんだぜ?何時間も現れれのをジッと待っててよぉ」

(やれやれ長い話になりそうだな…)

「おい二人とも、聞いてるのか?」

「はいはい、ちゃんと聞いてるわよ、それで?」

「それでよ、アイツが出てきた時に素早く飛び出てバーン!いや、今思い出しても会心だったな。その時ばかりはキリの字にも負けてなかったと思うぜ」

(まあエギルの言う通り、今日の主役だもんな、大人しく聞く役に徹するか…)

(あ~…、アスナ~、早くして~~)

 

 

 

 

「…そこでオレはすかざずヤツの背中に飛び乗った!そうして手にした剣でヤツの首をガッとな。振り落とされる可能性もあったがここで逃げたら男じゃねぇって必死に掴まって」

クラインの自慢話が延々と続いている中、ミヅキとデネブが戻って来た。

「戻ったぞ。飲み物各種、それにツマミになりそうなのも少し買って来たぞ」

「どこに置けばいいですか?そこの小さなテーブルでよろしいですかな?」

「ああそれでいい、…こっちも丁度料理が一通り出来上がったところだ」

エギルはニカっと笑うとカウンターの奥を親指で指した。

「…だ、そうだクライン、話の続きはまた今度だな」

「ちぇっ、ここからがまた盛り上がるとこなのによぉ…」

「そう言わない、アンタだってあのS級食材がどんな料理になったか気になるでしょ?」

「へへへ…、まあな!どれどれ?…おぉどいつもこいつもすごく美味そうだ、流石オレのA5肉!」

メインシェフのアスナが料理の説明をした。

「まずはなによりステーキでしょ、それとシチューも用意してみたわ。あとは、ローストビーフに牛のタタキ。せっかくだから肉の味を堪能できるメニューにしてみたの」

「しかしかなり大量に作ったなアスナ」

「元のお肉の量がすごかったもの。…でも、人数も多いからお腹いっぱいにはならないかも?」

「うぉぉ、すげー豪華だな、流石俺のA5肉…」

「はいはい、もう二度と食べられないかもしれない高級食材だもんね、ありがたくいただきます。あ、でもクライは相手を狩るコツをつかんだんだから、またいつでも手に入れられるんだっけ?」

リズベットは悪戯っぽい表情を浮かべた。

「ま、まあな!でもおめぇらは次いつ食えるかわからねぇだろ?今日のうちに腹いっぱい食っとけよ」

「ああ、ありがたくいただくよ。…でもクライン、こいつはお前の獲物だ、まずはお前が食べないことには…」

「オレ様がまたいつでも食えるから今日はお前らが腹いっぱい食えって」

「え?…クライン、お前本当にそれでいいのか?」

「おおともよ、いいに決まってるだろ、男に二言はねぇ!…………ただ、お前ら腹いっぱいになってもう食えねえっていうならその時はオレも食わせてもらうがな」

(まあみんなも鬼じゃない、適当なところで腹いっぱいだとか言ってクラインにも残してやればいいか)

「どの料理も美味しそうだなぁ、全部食べてみたいけど一口ずつ食べるとかダメかな?」

リーファは口に指を当てながら料理に目移りしていた。

「その方がみんなが楽しめるかもしれないわね、ねぇクライン、それでもいいかな?」

「好きにしてもらって構わないぜ、どうせならバイキング形式にしちまえ」

「やった!」

飲み物のグラスが全員に行き渡ったところで、アスナが音頭を取った。

「えっと、それじゃ私達の新しい仲間のシノンの歓迎、それに未開の《ホロウ・エリア》のエリアを今日一つ攻略したことを祝して、そして食材を提供してくれたクラインに感謝して、乾杯!」

 

「「「かんぱ~い!!!」」」

 

 

 

「どれもおいしいです!特にこのビーフシチュー、わたしのお気に入りです」

「あ、ユイちゃんお口のまわりにソースついちゃってるわよ」

「俺はやっぱりステーキだな、いかにも肉って感じの味がしてたまらない」

ユイ、アスナはビーフシチュー、キリトはステーキを堪能していた。

「私はこの…肉のタタキが好みね。タレがまたいい味出してる」

「リズベットさんタレを取ってください」

「あ、次あたしも~」

「そいつとローストビーフのタレにはこの肉から出た肉汁を使ったみたいだぜ。それと、シェフ謹製の醤油がな」

リズベット、シリカ、リーファ、エギルは牛のタタキに香草を巻いて頬張っていた。

「私はローストビーフが美味しいと思う」

「お、気が合うじゃねえか、オレもローストビーフだな、肉の味がよく出ている。それ、パンに挟んで食うとまた美味いぞ」

「ですな」

シノン、ミヅキ、デネブはローストビーフ、それに骨を食べて和気藹々としていた。

一通り料理を食べると、どれが一番美味しいかという話題になった。

「うーん、どれも美味しいけど…あたしはシチューに1票です!」

「うん、どれも美味しいって言うのは私も同じだな。ただ、今回のメニューの中ならシチューが一番かな?お野菜と合わせるとまた美味しくて…」

「あたしもシチューが一番美味しいと思う」

シリカ、アスナ、リーファはそれぞれシチューを推した。

「俺は…難しいな、でもそうだな肉の味がストレートに楽しめたってことでステーキが一番だな」

 

「…くそっ、ツバが止まらねぇぜ…」

 

そんな状況を一人グラス片手に空酒で眺めていたクラインがぼやいた。

「いやお前の肉なんだから見てないで食えばいいだろ…」

「うるせぇ!今回はお前らに腹いっぱい食わせてやるって決めたんだよ!だから腹いっぱい食え!」

「そこまで言うからにはこっちも遠慮しないけど…、本当にいいの?」

リズベットはローストビーフサンド片手に訊いた。

「おう!遠慮なんて無用だぜ」

「んじゃ、いったぁきや~す」

ミヅキは遠慮無く牛のタタキをまるでふぐ刺しのように何枚もまとめて頬張った。

 

 

 

 

クラインの言葉通り、全員遠慮無く、全ての食材に(とクラインにもほんの少し)感謝してほぼ食べ切ってしまった。

「まいった…美味すぎてつい手が止まらなくなった。気がつけば本当に腹いっぱいになるまで食べてたよ、S級食材恐るべし…!クライン、ごっそさん」

キリトは満腹になった腹を撫でながら感謝した。

「うーん、もう食べられない、お腹いっぱいだわ…」

「ママー、おなかがいっぱいでうごけません~」

「しばらくお肉はいいわ…、というか、この味を覚えてる間は他のお肉あんて食べられそうにないわね」

「ごちそうさまでした。もうお肉一切れも入る余地ないですよ」

「同じく~」

リズベット、ユイ、シリカ、リーファも満足そうな表情でお腹をさすっていた。

「…だそうだから、残ってるもの早く食っちまったほうがいいんじゃなねえか?」

ミヅキが黒文字で口をシーハーしながらクラインに唯一残ったステーキの皿を勧めた。

「…残ってるものっておめぇらよぉ…あんだけあった料理をほとんど食べ尽くすとか…」

「ステーキが一切れだけか、…まあよかったじゃねぇか、この肉を味わうならそいつに限るぜ」

「エギル、そりゃ慰めにもなりゃしねぇよ!」

「じゃあオレが食ってもいいか?」

「ダメに決まってんだろ、ったく、しっかり味わわないとな…それじゃ、いただきま…」

クラインは肉に手を伸ばした時、空腹に耐えかねた鳴き声が聞こえた。

 

 

「きゅる…」

 

 

「あ…食べるのに夢中でピナの分忘れちゃってた…ゴメンね、ピナも食べたかったよね…」

「きゅる~…」

ピナは瞳を潤ませながらクラインを見つめた。

「…おいやめろ…!そんな切なそうな目でオレを見るな…」

「………」

さらにシリカもそれに加わった。

「ってシリカまで!残ったのこの一切れだけなんだぞ!?オレが取ってきたS級食材なのに…」

「クラインよ、ここはオトコを見せる時じゃねぇか?漢をよ」

ミヅキがドリンクの瓶を傾けながら言った。

「………、ああ取れるさ!取ってやろうじゃねぇか!だからこの肉はくれてやるよっ!」

「きゅるるぅっ♪」

「クラインさん、ありがとうございます」

「ねぇクライン、手に入ったらいつでも声をかけてね。飛びっきりのフルコースをご馳走しちゃうから」

「ああ…その時は…よろしく頼むわ!」

引き攣った笑顔のクラインの空のグラスにミヅキは何も言わず瓶の中身を注いでやった。

「漢を上げたな、クラインの兄貴」

 

 

 

 

 

 

 

 




オリジナルユニークスキル
【薙刀スキル】
槍を極めて尚且つシステムスキルに頼らない扱いが最も卓越しているプレイヤーに与えられる
槍のリーチと刀の命中率・威力を併せ持つ
通常の攻撃だけで出血の状態異常が付与される

オリジナルソードスキル
薙刀
【朧月夜】:斬属性 3HIT
突き、切り上げ、切り下しの3連撃
(SAOロストソングの刀スキル)

細剣
【パラレルスプラッシュ】:突属性 3HIT
同じ箇所をほぼ同時に3連続で攻撃する
(電撃文庫FCの技)
【パラレルスプラッシュドラゴン】:突属性 9HIT
一定範囲9ヵ所を同時攻撃
(パラスプの上位スキル るろうに剣心の九頭龍閃)

短剣
【ユニコーンスクリュー】:突属性 1HIT
螺旋エネルギーを纏った突き
(仮面ライダーエターナルのユニコーンメモリのマキシマムドライブを参考)
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