アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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少し出来が悪いかな? と自分で思っていますので、後で直すかもしれません。
あと、改行を少し多めにしてみました。



魔術戦・2

 フィオレは、己の礼装、接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)を起動し、泉と相対する。彼女の礼装の防御力は、かのエルメロイの姫君の、従者である水銀のメイドとほぼ同等の反応速度を持っており、かなりの堅牢さ誇っている。そこらの鎧だとか、盾といったようなものよりも、砦を身に纏ったとでもいうかのような、堅牢さを誇っていた。

 だというのに、フィオレは、彼女の目の前にいる泉を見ていると、脆い、砂山を身に包んでいるかのような錯覚を覚えた。

 同時に、カウレスもまた、戦闘向きの、厳選した、強力な使い魔だとか、霊といったものを用意してはいるが、その矛は、一度突けば、粉々に粉砕してしまいそうな、心細さを感じていた。

 

「さて」と泉は、そういった様子の彼らを見て、人差し指を立てて言う。「戦いの前に、一つ聞こうか。君達は、何故、この聖杯大戦で戦っている?」

「それは……」とカウレスは、少し考えて言った。「それは、俺たちがユグドミレニアの一族で、ダーニックから、戦う様に言われたからだ」

「そう。じゃあ、願いというには、無いのかな?」

「いいや、あるにはある。が」

「が?」と泉は聞き返す。

「カウレス」とフィオレは、礼装を操って構える。「お喋りはそのぐらいにしておきなさい。あれは、敵よ。そして、私達を殺そうとしている。カウレスは、自分が殺されるのは、嫌でしょう?だったら、言葉を交わさずに、戦いなさい」

「分かったよ」とカウレスは、使い魔や霊を召喚し、言う。「姉さん。……聞いての通りだ。時間稼ぎのつもりかは知らないが、もうお前と話すつもりはない!」

「そう」と泉は言う。「それは残念! それじゃあ、とっととケリを付けようか。と、その前に、もう一回聞こうか。

 君たちは、僕に敵対するのを諦めて、サーヴァントを令呪によって自害させ、聖杯大戦から、自らの意思で脱落するつもりはあるかい? もしも、そうなら、見逃してあげよう。生かしてあげよう。そうでないのならば、今、この場で殺してあげよう」

 

 兄妹の返答は、無言の攻撃だった。

 カウレスは、豹や獅子、それに虫といった獣の使い魔や、霊を泉へと差し向け、フィオレは、蜘蛛の脚のように、細長い、脚の一つの先端を、針に変えて、泉を攻撃する。

 

「そうかい」と泉は、それらを回避して言う。「それは残念。君達を生かす理由も無いし、それどころか、今、殺した方が、後々の利益に繋がる訳だから、油断しない為にも、僕の全力を持って殺してあげよう」

 

 泉は、兄妹の猛攻を回避しながら、詠唱を口ずさむ。

 

投影開始(トレース・オン)」その言葉を合図に、泉は、10、20節ばかりの、長い詠唱を唱えた。

 その間にも、兄妹の猛攻は続いていたが、彼はそれらを、回避、乃至、拳で迎え撃った。そして、詠唱が終割の頃になると、泉は最後の一句を唱えた。

 

月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)!」

 

 すると、泉の周囲を、木に巻きつく蔦だとか、とぐろを巻く蛇とでもいうかのように、細長い、腕程の太さの水銀が取り囲んだ。

 それこそは、あの、かつてのロードの1人であった、ケイネス・アーチボルトが操る、彼の技術と知識の集約でもある、まさに必殺の礼装だった。

 泉が命じると、水銀は、樹木の枝の様に、無数に広がり、フィオレとカウレスを、針のように尖った先端乃至、鞭の様にしなり、攻撃した。

 

「カウレス!下がっていなさい!」

 

 とフィオレは叫び、己の礼装の脚全てを、薄長く広げて、巨大な盾を、兄弟の前に作る。水銀は、それらの盾によって、攻撃を塞がれた。

 

「へえ」と泉は感心したように言う。「防ぐか。だったら、これならどうだい?……ああ、詠唱は省略させてもらうよ。長々と繰り返すのは面倒臭いからね。『repeat(命ずる)』!」

 

 すると、泉の背後、床に落ちている、彼の影から、無数の、赤い、怪しい光を放つ眼が現れた。それらの目の持ち主というのは、甲冑を覆ったかのような姿、鋭い牙を生やした顎といったものを持っている、自然界ではあり得ない、異形の虫達だった。

 その虫は、間桐の一族が操る虫と、全く同じものであった。

 

「さあ!」と泉は、フィオレとカウレスを指差して言う。「虫達よ! あいつらを食い尽くせ!」

 

 無数の、千や万といった数の虫達が、号令によって一斉に蠢く。羽を使って空を飛ぶものもいれば、凄まじい速度で、床を這う虫と、様々だった。ともかく、それらは、フィオレとカウレスの2人へと襲いかかった。

 カウレスは、使い魔と獣を、虫の群れへと放つが、それらは、あっという間に、虫達に、跡形もなく食い尽くされた。それを見たカウレスは、背筋が冷たくなった。

 次に、フィオレが、礼装を、うちわのように広げ、虫達の群れへと、床がひび割れるほどの力で、思いっきりと叩きつけた。

 叩きつけた虫達の殆どは潰れて、動かなくなったが、何匹かの虫は生き残り、そして、うちわに触れなかった虫達と一緒に、兄妹へと進撃する。

 

「クソ!」とカウレスは叫ぶ。「何とかならないのか……!」

 

 虫達は、兄妹2人へと襲いかかる。彼らは、必死に立ち向かうが、潰した傍から、泉の影から次々と虫が湧き上がり、彼らは、そのうち、虫は無限に存在するのではないだろうか? といった思いを抱き、闘争心が衰えていく。

 ただし、それはほんの一瞬の出来事であり、カウレスとフィオレは、燃え尽きていた闘争心を、再び激しく燃え上がらせ、兄妹は再び虫達及び、泉へと立ち向かう決心をする。

 カウレスは膝を叩き、服や装飾品のあちこちに仕込んであった、使い魔たちを全て召喚し、号令を送る。

 その瞬間、カウレスの腹を、人の腕程の太さの、先端が尖った水銀が貫いていた。カウレスが初めてそれを認識したのは、腹部に、痺れるような感覚を覚え、ふと見下ろした時だった。彼が、それを認識した瞬間、カウレスの腹から、全身を、激しい痛みが襲う。彼は、泡を吹きながら、白目を剥き、床の上に倒れ、痙攣しながら叫ぶ。血液が、さながら噴水のように激しく、腹から吹き出て、カウレスの周りの床を赤く染める。

 

「虫だけじゃあないよ?」と泉は、水銀を、触手のように、無数に分裂させながら言う。「油断大敵。コチラもお忘れなく! だけれども、時既に遅し、みたいだね。でもまぁ、せっかくだから、死体は虫の養分にでもしてあげるよ!」

「カウレス!」とフィオレは叫ぶ。

 

 彼女は、倒れたカウレスを守るように、カウレスを背後に置いて、虫の群れ及び泉へと立ち塞がる。彼女は、時々振り向き、カウレスの様子を見ていたが、彼の痙攣は既に収まり、血液は、既に全て体外に流出したのか、これ以上、彼の体から流れ出る事はなかった。

 

「彼の事が心配かい? でもまぁ、今は戦闘中だからね。君も、そんな、既に魂の抜けた、脂肪の塊よりも、自分の方を心配したほうがいいんじゃないかな?  

 ほら、魔術的に考えれば、回路を継承するのは君だからさ。一族を滅ぼさないためにも……ああ、もう無理だったかな? 君たちはここで死ぬんだし」

 

 泉は水銀を操作し、フィオレへと襲わせる。

 水銀は、蛇の様に細長くなり、鞭のようにしなりながら、フィオレへと攻撃しようとするが、彼女の礼装は、盾やへら、時には剣といったような、その場の状況にあった、様々な形状に変形し、それらを防ぐ。

 フィオレの操作する、蜘蛛の足を思わせるような形状の礼装と、蛇の様に、宙や地面を自在に這う水銀の攻防の合間を縫うように、異形の虫達が、フィオレへと襲いかかる。

 フィオレは、それらを魔術で跳ね飛ばし、泉の操る水銀から逃げるかのように、大きく後方へと飛び退く。

 

「何故」とフィオレは呟く。「あの水銀は、噂で聞いたあのケイネス・アーチボルトの使う魔術と良く似ている。それに、あの虫も、おじい様が60年前に戦ったという、マキリの魔術と同じもの?」

「ああ、その通り!」と泉は、彼女の呟きを、鋭い聴覚で捉え、両手を広げて言う。「何だったら、君のソレも真似てみようか?」

 

 と泉は、何節かの詠唱を唱えると、フィオレが今使っている、接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)と全く同じ礼装が、泉を纏うように現れる。

 その現象に、フィオレは思わず絶句した。

 

「さて」と泉は言う。「そろそろ詰みかな? ……城に放った使い魔の様子を見ると、他の、ダーニックとか、セレニケとかとの決着までまだ時間がかかりそうだし、せっかくだから冥土の土産替わりにでも、僕の魔術の事を教えてあげようかな?」

「そうですね」とフィオレは、今までよりも、より一層泉の事を強く警戒しながら言う。「是非ともお願いします」

「そうかい? 以外と素直に頼むんだね。ま、良いか。どうせ終わるんだしね」

 

 泉は一度あげた手を下ろし、水銀と虫に指令を送る。それを見たフィオレは、少しばかり警戒を緩めた。

 その指令というのは、次のように実行された。水銀は、樹木の枝のように広がり、ありとあらゆる方向からフィオレを攻撃し、虫達もまた同時に、ありとあらゆる方向から、彼女を攻撃する。

 彼女の接続強化型魔術礼装(ブロンズリンク・マニピュレーター)は主であるフィオレを守るべく、自動的に作動し、それらを迎え撃つ。

 しかし、その素早い反応で、自動的に行われた防御は、なんら意味を成さなかった。というのも、泉が行った攻撃は、先程までのそれよりも、圧倒的に手数が多く、フィオレの周囲を、水銀と虫が隙間なく壁を作り出していた。

 

「誰が教えると? 馬鹿だね! 魔術師ならさ、普通こっちの手の内を教える訳ないでしょう? さようなら! さようなら! バイバイ!」

 

 フィオレは、水銀と虫の壁を打ち破ろうと、実に様々な手法を考え、実行した。戦火の鉄槌(マルス)によって、魔力の光弾を放ったり、直接殴ったりとしたが、壁に穴が開くのはどれもほんの一瞬であり、とりわけ、いくつも重なり、頑丈なものとなっている水銀の壁は強固なものであった。

 泉は手を振りながら、水銀と虫に次の指令を送る。

 水銀と虫とが折り重なった、球体の壁の内部で、槍のように変形した水銀が、フィオレを串刺しにし、虫達は、彼女の肉体を食い散らかす。フィオレは、悲鳴をあげ、凄まじい恐怖の表情を浮かばせながら、その命を消滅させた。

 

「……ま、暇だから言うんだけれども」と泉はきびすを返しながら言う。「さっきの魔術は、僕の起源を使ったものだよ。というか、僕の名前も、切嗣と同じように起源から来ているんだけれどもね。

 泉の水面は、ありとあらゆるモノを、鏡のごとく映し出すでしょう? 僕の起源は『再現』。ありとあらゆる魔術を、面倒な手順ナシに、行使することができる。それが、例え他の一族の秘術だったとしてもね。──最も、そういう魔術を使うときに、僕の体はかなり強力なフィードバックを食らうんだけれども──僕の全身の骨には、それをより強力なものにする為に、呪文が刻んであるんだ。……ま、それでも、魔力が足りなければ使うことも出来ないんだけれどもね。

 でも、まだまだ魔力は残っているよ? ゴルドさん!」

 

 と泉は言い、隣の部屋に隠れ、これまでのあらましを覗いていたゴルドの方を振り向く。ゴルドは、すぐにその場から逃げようとしたが、除き穴から、水銀の雫が一筋ほど垂れているのを確認し、意を決して振り向く。その瞬間、水銀は、ゴルドと泉を隔てていた壁を、粉々に切り裂き、壁は崩れ落ちる。

 

「ふん!」とゴルドは、傲慢そうに笑いながら言う。「カウレスとフィオレを殺したぐらいで調子に乗るなよ? そもそも、儂には、令呪がある! これを使えば、今すぐセイバーを呼ぶことだってできるのだぞ?」

「その場合は、僕も令呪を使うさ」と泉は言う。「その場合はどうなるのかな? ま、それでも良いんだけれども、そんな隙を与えるわけないでしょう?」

 

 水銀はひとつの刃となって、ゴルドを切り裂くべく襲いかかる。しかし、ゴルドは、その斬撃を、錬金術によって硬化させた拳で殴り、跳ね返す。

 

「一体」とゴルドは呟く。「どうなるか見ていたが、こうなるんだったら、さっさと引くべきだったか。判断を誤った! 今となっては、逃げることも適わないだろう。

 ならばどうするべきか? 戦闘! 戦う! そうだ! この儂が、あのような、時計塔の見習い魔術師に敗北する訳がないだろう! フィオレとカウレスは、油断したから、敗北し、死亡したのだ!」

 

 彼は、膨れ上がった腹と、顎を揺らしながら、拳を構え、泉と対峙する。彼は、兄妹の敗因が油断だと結論付け、己は、一切の油断をせずに、刹那の一時すらも、全身の力、感覚を鈍らせる事をしなかった。

 

「へえ」と泉は言う。「それは間違っているよ? 彼らは、油断とかはしていなかった。単に、実力差がありすぎたんだろうね。ついでに言うと、君程度ならば、目を瞑って見下し、ふんぞり返って、慢心しまくっていても、楽勝で勝てるから……ま、今はそんな事はしないけれど。じゃあね!」

 

 刃となった水銀は、ゴルドの腹を切り裂く。

 彼は、床に崩れ落ち、痛みによってもんどり打ちながら、わめきたてる。泉は、彼を見下し、扉を開けて廊下へと出て行った。

 残されたゴルドは、治癒魔術や錬金術だとかを駆使し、生き延びようとしたが、傷口はあまりにも深く、大きく、それを塞ぐといった事は不可能だと悟り、同時に生き延びる事も不可能だと悟った。

 彼は、泉のことを怨みながらも、今までの人生といった物を振り返った。

 

「さて」と泉は廊下を歩きながら呟く。「これをこうも大っぴらに使ったんだ。下手をしたら、封印指定されるだろうね。だとしたら、この戦い、勝たなきゃいけなくなった訳だ。勝利の方程式は見えている……なんていう敗北フラグを呟くつもりは無いけれども、あえて言わせてもらおうか。

残る敵は、”黒”のアサシン。天草四郎時貞、獅子劫界離の”赤”の陣営達。そして、ルーラー、ジャンヌ・ダルク。ま、どうにかなるでしょ。準備も順調のようだし。──そろそろ召喚するかな?」

 

 

 




 泉君は、戦闘中は、テンションが上がるタイプ。そして、彼の魔術についての詳しい解説は、3話ぐらいあとで行う予定です。
 ついでに補足説明します。
repeat(命ずる)
 これはご存知、赤ザコさんの魔術。前に使った魔術の詠唱を、省略して発動することができるとかなんとか。この人の場合、詠唱に2秒かかる魔術(それでも、詠唱呪文はクソ長い)を、一言で済ますことができる。優秀な魔術師。空の境界を読んだのは、結構昔なのでうろ覚え。
 死因は、とある人物を、とある言葉で呼んだこと。

「え? 泉が前に使った魔術は、月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)じゃないの? だから、その場合虫を召喚する事は出来ないのでは?」とか言ってはいけない。



次回予告!
『聖女と殺人鬼』
『死霊魔術師と黒魔術師』


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