アタランテが咬ませ犬的ポジジョンなのが納得がいかない!というよりペロペロしたい   作:天城黒猫

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大戦・開幕

「おお、始まった始まった!」

 

 泉がアーチャーを召喚してから数日が経ち、アパートの中で一日中ゴロゴロしたり、本を読んだりといった自堕落な生活を送っていた。

 アーチャー自身はそんなマスターを、どうにも本当に大丈夫なのだろうか。と思っていた。最高のマスターである、と担架を切ったのならば、それに相応しい行動を見せてもらいたいと思ったが、まだ戦いは始まっていないので泉について、どんな人物か決め込むのはまだ早計だと思ってる。

 

 

「アーチャー、始まったよ! 聖杯大戦の最初の戦いが!」

「そうか、それでどんな状況だ?」

「相手は黒のセイバー、こっちはランサーだね」

 

 水晶玉には、ある映像が映し出されていた。それは泉が放った使い魔を通じて映し出されているものだ。

 2つの巨大な力がぶつかり合っていた。黒のセイバーは剣を振るい、赤のランサーは槍を振るう。ただそれだけだというのに、剣と槍がぶつかりあうだけで、衝撃波が生まれ、クレーターが生まれ、岩が砕けた。──それは彼らが途轍もない力を持ったサーヴァントだという事を否応なく認められる光景であった。

 

「セイバーはジークフリート、ランサーはカルナ。ぶっちゃけ今日は決着が付きそうに無いから、これ以上見るのは無駄だね!」

「汝、敵──というよりは、あの2人の真名()を見破ったのか?」

 

 泉は何でもないように、水晶玉に写っていた2騎の真名()を言った。それにアーチャーは思わず問い詰める。

 聖杯戦争にて、サーヴァントの真名()は秘匿するという常識がある。何故ならば、黒のセイバー(ジークフリート)を例にすると、彼は悪竜を屠り、その時に竜の血を浴びて不死身となった。──だが、一箇所だけ竜の血を浴びなかった場所がある。それは背中。竜の血を浴びたとき、母胎樹の葉が背中に張り付いており、その場所だけ不死身とはなっていないのだ。

 ──真名()が知られたら、背中という弱点を集中的に狙われてしまうだろう。

 そういった事から、真名()は秘匿されるのだ。

 逆に言えば、相手の真名()を知るというのは、大きなアドバンテージとなる。

 

「まあね、というか触媒の流れとかを調べれば普通に判るよ」

「……そうか」

 

 泉は当たり前のことだ。と言わんばかりに言ったが、それは大嘘である。予め、前世において知っていたのだ。だが、そのことを説明すれば面倒くさいことになるだろう。と泉は考えたので、誤魔化した。

 アーチャーは泉がどこか嘘を言っていることを獣のカンに近いもので感じてっていたが、それを追求するほど野暮ではない。

 

「……それよりも、アーチャー。ちょっと一回だけ矢を放ってくれないかな? 弱めでいいから」

「良いのか? 恐らく赤側だと思うが」

「別に良いよ、もしもシロウだったら厄介だし、警告の意味も含めてね」

 

 アーチャーは了解した。と言い、弓矢をアパートの扉に向けて番えた。

 

 

 

「ここか」

「本当にここにいるのか? その悪ガキとやらは」

「多分な」

「多分ってなんだ多分って」

 

 獅子劫と、そのサーヴァントであるセイバーは、泉が居るであろうアパートの前にいる。彼らはロードⅡ世の依頼により、泉の“捕獲”をしに来ていた。

 獅子劫は、ロードの言葉を思い出していた。「良いか、決して油断はするな。ヤツはどんな魔術を使ってくるかは予想ができない。殺す気で行け」──と。

 だが、彼の言葉は言われるまでもない。獅子劫は油断をする気はないし、敵がどんな魔術を使ってくるか予想出来ないのは、よくある事だ。

 獅子劫は己の武器である銃を構えた。そしてアパートの扉を一気に開けた。

 

「──マスターッ!!」

「────ッ!!」

 

 セイバーが叫んだ。獅子劫を突き飛ばして、扉の向こうから飛んできた矢を掴んだ。

 

「テメエ、いきなりご挨拶だなァ? クソガキ」

 

 セイバーは、手に持った矢を握力でへし折り、もう片方の手で剣を部屋の中に居る少年と、そのサーヴァントに構える。振るうつもりはなく、ただの威嚇だ。

 

「いやあ、ごめんね。セイバーさん。もしかしたら敵かと思うじゃん? 用心のためだよ! うん!」

「白々しいな、わかってやっていただろう?」

「まぁまぁ、お二人さんともそこまでだ」

 

 泉と、セイバーの両者の空気が険悪になる。だが、2人の間に獅子劫が割って入り、セイバーは小さく舌打ちをして引き下がった。一方、泉は笑顔で二人を部屋の中に入るように誘導する。

 獅子劫とセイバーは部屋の中に入る。

 

「──川雪 泉、何故俺がここに来たのか判るな?」獅子劫は床に座り、泉に問いかける。

 大方の予想はつくけどね、と泉は前置きをし「先生からボクを捕まえるように言われたんでしょう?」

「ああ、正確には『聖杯大戦にて、協力して戦え』と言われている」

「そうなんだ。というか、よくここが分かったねぇ」

「まあな、というか真昼間から堂々と出かけているだろう? そこらの人に聞き込みをすれば直ぐにわかったさ、日本人は珍しいからな。というか、無用心過ぎないか? ここは既にルーマニア、敵の陣地だぞ?」

「大丈夫だって、そんな直ぐに敵も手出ししてこないし」

 

 そんな泉の発言に、獅子劫はため息を吐く。確かに白昼堂々と襲って来るとは思えないが、それでも少しばかりは用心をするべきだ。と泉に言う。

 

「ああ、はいはい。わかったよ、次からは気を付けますよーだ。じゃあ、今日のところは帰ってくれないかな? ボクもやることがあるし」

「そういう訳にはいかないな。ロードからはお前の四肢をもいででも捕まえろ、と伝えられている。判るな? この意味が」

「……先生からボクのことについて聞いているなら、知っているはずだ。ボクが他人の言葉に従うのが大嫌いなことを」

 

 座っていた獅子劫と泉は立ち上がった。獅子劫は持っている銃をいつでも引き抜けるように構えた。同時に、セイバーとアーチャーも、己のマスターが殺されては叶わないし、自身に攻撃されるわけにもいかずにそれぞれ剣と弓矢を構える。

 お互い、マスターとサーヴァント。それぞれ同じ場所に居るなら戦う──それは通常の聖杯戦争における話だ。これは聖杯大戦。赤と黒の陣営に分かれて戦う。

 獅子劫と泉は、同じ赤の陣営。戦うようなことはしない──。そう、()()()()()()()()()()()()()は。

 だが、今回はどうだろうか。

 

「ねえ、獅子GOさん。ボクとしてはほっといてほしいんだよね。用が済んだら合流するからさ」

「……今俺の名前のニュアンスが変だったが? まあいい。これは聖杯大戦だ、お遊びじゃあない。最悪死ぬような事もあるんだぞ? いいか、ロードⅡ世はお前のことを心配しているんだ」

「大丈夫だって、あと数日たったら合流するよ」

「そういうわけにも行かない。と言っている。今ここで同行してもらおうか」

「…………」

「…………」

 

 沈黙。お互い向かい合ったまま沈黙する。そして泉は指で鉄砲の形を作って獅子劫の額に突きつける。獅子劫も同時に銃を泉の額に突きつける。

 

「──頑固すぎる。依頼だからボクをそこまで縛ろうっていうの?」

「ああ、その通りだ」

 

 泉は何時でもガンドを放つ事ができる。獅子劫もまた銃の引き金を引くことができる。お互いのサーヴァントも、自身のマスター含め、攻撃範囲に居る。

 沈黙したまま向き合う。お互い動くことはない。お互いのスキを伺っている。

 

「…………ねえ、こういうシーンって絵柄はかっこいいんだけどさ、いつまでやっていればいいの? ボクもう腕が疲れてきたんだけれど?」

「だったら下ろせばいいだろう」

「そしたらそのスキにボクを捕まえるでしょ?」

「まあな」

「そっちの陣営に害を与えるような事はしないからさ」

「だったらその手を下ろせ」

 

 泉は心の中で小さく舌打ちをする。ここで捕まるわけにはいかない。せめてこの先赤のバーサーカーが敵と戦うまでは。

 獅子劫も舌打ちをする。少し迂闊だったか、と。このままではお互いにずっと硬直し続けるだけだ。そうなると、面倒くさい。

 “どうしたものか”とお互い考える。そんな状況で動いた人物がいた。

 

「ええい! 何時まで固まっているんだ! 取り敢えずとっ捕まえる!!」

 

 獅子劫のサーヴァント(セイバー)が、この状況に耐えられなく、苛立った声で泉に手を伸ばす。

「おおっと!」泉はセイバーの手を避けて、ガンドを一発獅子劫に向けて撃つ。獅子劫の魔獣の革によって作られた服は、ガンドを無効化した。だが、それでいい。泉にとっては一瞬のスキさえあれば────。

 これでお互いの硬直は完全に解けた。

 

「させるか!」と獅子劫とセイバーは泉に拳を振りかぶる。

 

光と衝撃よ(light and shock)!」

 

 泉にとって、コンマ5秒あれば十分、一工程(シングルアクション)程度の簡単な魔術を使うことはできる。短く、シンプルな詠唱を紡ぐ。そして閃光と衝撃が発生し、獅子劫の体は吹き飛んだ。セイバーは腕で光を遮り、鎧で衝撃に耐え、手を伸ばす。それでも一瞬のスキができた。「待て!」とセイバーは叫ぶが、泉はアーチャーに抱えられ、部屋を出て行った。

 流石に、足の速さには勝てないと悟ったのか、セイバーは追跡をしようとはしなかった。

 

「ッチ、逃げられたか。どうする? マスター、オレとしては追いかけてブン殴るのが最善かと思うが」

「いいや、追いかけるのは辞めよう。ヘタに追い詰めると本当に厄介なことになりそうだ。それにあいつは赤の陣営にとって不都合な事はしないと言っていた。黒の陣営にちょっかいを出して、ヤバくなったらこっちも手をだそう」

「そんなんでいいのかよ」

 

 セイバーの問いに獅子劫は頷き、渡された資料のある一文を思い出す。泉の使う魔術の内の一つだ。それを使われたら、厄介なことになる。最悪、泉自身が死ぬような事も──────。

 

 

 

「さて、暫くは野宿かな?」

 

 アーチャーに抱えられ、泉とアーチャーは森の中にいた。

 

「しかし、事前に念話で打ち合わせていたから咄嗟に行動できたはいいものの、アレで良かったのか?」

「勿論、ボクはこの聖杯大戦。勝ち抜くつもりさ、だからこの行動にも意味が有るのさ!」

「そうか、なら良いが。私としては願いが叶えば良い」

「うんうん! ボクは最高のマスターさ、生憎ともそれを証明できるのはまだ先だけど、予告をしよう! 次は赤のバーサーカーが単身、黒の陣営に突っ込むと!!」

「……どうだろうな、まあいい」

 

 アーチャーは霊体化し、何処かへと去っていった。恐らくは森の中に居る動物を仕留めに行ったのだろう。

 一人残された泉は呟く。

 

「なーんか、ここんところシリアスばっかだなぁ……蕁麻疹(じんましん)出そう……。まあもうすこし我慢するか、こっから先は既にボクの手のひらの上……なーんてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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